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そして数日後。
朝熊と倭は東京に出て以来、ずっと同じホテルを本拠地にしていた。最上階に近い広めのツインルームに二人はいた。カーテンを開けると、夜は星くずが煌めくように街の明かりが目に映る。簡単なキッチンがついているので、朝熊はたまに調理をするのだ。
「しかし、本当に布城崇は透明の勾玉の持ち主なんだろうか」
倭が紅茶を飲み干して言った。そのカップに朝熊が新しい紅茶を注ぐ。
「朝熊、お前はどう思う?」
「そうだな、一番の候補者、というところだな」
「その根拠は?」
朝熊が自分の紅茶にミルクを注ぎながら、
「まず、出雲が我らに接触したこと。東京に来て、出雲の一族以外に我らが接触したのは、朝霞を除けば崇だけだ。朝霞が透明の方であることは絶対にあり得ないのだから、残る選択肢は一つしかない。そしてもう一つ、出雲とは違う人の目があった」
と言った。倭がカップに伸ばした手を思わず止めた。
「それが、もしかしたら、奈半利?」
朝熊は頷いて、
「そうではないか、と思う」
と付け加えた。倭がいきなり嬉しそうに笑った。
「ついに、奈半利が出てきたのか。このままのうのうと待ち続けなければならないと思うと、気が滅入っていたところだ」
「倭、気が急くのか。そうか、伊勢に早く帰りたいんだな。まだまだ子供だなあ」
茶化すように朝熊に言われて、倭はムッとした。図星なだけに余計腹がたつ。言い返したらますますバカにされそうで、倭は黙って紅茶を飲んだ。朝熊が微笑んで、倭を見つめていた。
「朝熊、美味しいよ」
そう言って、倭はそっぽを向いた。ティサーバーを買ってきてからというもの、毎日のように紅茶を飲まされている倭であった。最初はとても飲める代物ではない、と言っていたのだが、朝熊が上達したのか、あるいは、倭の舌が朝熊の味に慣らされたのか、ともかくも、飲める代物になったことだけは確かであった。
「本気で、朝霞と勝負をしようかな」
冗談めかして朝熊が呟いた。倭が呆れたように朝熊を見たが、
「この一件が終わったら、私が審判をしよう」
と言ってしまった。
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