「朝熊、奴をどう思う?」
 ポニーテールにした髪を解きながら、倭は言った。ホテルに帰っての、部屋での第一声であった。朝熊は包みを開けてその中身を見ていた。そこから目を倭に向ける。倭は解いたリボンをベッドの上に投げ出した。
「頓原と名乗った奴のことか」
 そう言って朝熊は、再び包みに目を戻した。
「他に誰がいる」
 倭が朝熊の手から包みを取り上げた。そして中身を出す。ティサーバーであった。倭が呆れたように朝熊を見た。
「朝熊、朝霞と勝負でもしたいのか」
 朝熊は何も言わずに、倭の手からティサーバーを取り返すと机の上に置いた。
「出雲五真将は、いつも5人とは限らない。但し、今は5人揃っているようだ。みな、若い。一番上で私より2歳上だ。それで、出雲五真将と名乗っているのだから、おそらくみな、手練の者だろう。頓原もその一人と考えても間違いではあるまい。17歳は確かに若いが、倭より1歳下でしかない。年齢と《力》が比例するものでないことは、伊勢でも言えることだろう。それに、冗談でも倭に向けた《力》は強いものだった。おそらく、出雲五真将のうちでも、一、二を争う《力》の持ち主だと思う」
「ふうん。でも何故、私たちの前に姿を現したんだ」
 倭は朝熊が紅茶の準備をしているのを見つめながら言った。
「たぶん、私たちの正体を探るためだと思う」
 朝熊はきっかり時間を測ると、カップに紅茶を注いだ。
「でも、そうだとしたら、目的を全く果たしていないじゃないか。自分の正体はばらして、なんて、まるっきり反対のことをしてる」
「そうだな」
 朝熊はそう言って、倭の前にカップを差し出した。
(あるいは、頓原もそのつもりではなく、喋ってしまったのかもな)
 朝熊はそんな風に思って、倭を見つめていた。倭は紅茶を一口飲む。朝熊はただ倭を見つめていた。
 美少女、という名にふさわしい容貌であった。いつもは、ポニーテールにしている髪は今は下ろして、長い髪が倭の動きにつれて揺れる。朝熊は、安芸から頼まれたからだけでなく、自分の意思で倭を守り続けようと誓っていた。誰よりも近くにいて、誰よりも倭のことがよく判っているつもりであった。
 倭は18歳、結婚する年齢としては早過ぎはしなかった。倭は王族であるから、それに連なった男性と結婚するだろう。だが朝熊はそれでも、倭を守り続けようと思っていた。朝熊が倭の元を去るのは、自分が死ぬか、あるいは、倭が死ぬか。だが、倭が死んだとしたら、朝熊とて生き続けるわけにはいかなかった。自分の一生は倭とともにあるのだと、朝熊はずっと思っていた。倭を守って、倭のために生きていくのが、朝熊の生き方なのだ。
(何があろうとも……)
 朝熊は心の中で呟いた。それが自分の宿命だと、朝熊は確信していた。だが、朝熊の宿命がもっと違うものだったことには、まだ気づいていない。
 誰もが、自分の希望する運命を予知するのだ。そして、朝熊とて同じであった。少なくとも今のところは……。


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