石谷家。
 宮と別れた石和は忠順の前にいた。すでに唐との話を温田重行から聞いていた忠順であった。
「石和、私は今回のことから手を引いたほうがいいと思っている」
 石和は忠順の言葉を驚くことなしに聞いていた。それは自分も同意見だった。
「殿、私も同じことを思っておりました」
 石和は言って、忠順の顔の複雑な表情に気づいた。
「もしや、双子の正体を知っていらっしゃるのではありませんか。どなたなのです、あの方たちは?」
 忠順は石和をジッと見て、そして目を逸らした。口を開きかけたが何も言わなかった。
「不思議でした。見た目は髪の長さだけが違うだけのそっくりな双子なのに、彼らは全く異なった性格の持ち主のようです。表と裏と、見える場所と見せない場所が、あれほどにはっきりと正反対な印象を受けたのは初めてです」
 忠順は石和に目を戻した。その時、廊下に近づく足音がして声がした。
「本多様からすぐにいらっしゃるようにと、駕籠がまいっておりますが」
 忠順は唇を噛み締めて、
「判った。すぐに用意する」
 と立ち上がった。石和は黙って退いた。忠順は迎えの駕籠に乗って、本多家に向かったのだった。



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