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河川上流中流の土砂流下と堆積の規則性を考える



第16章
  コンクリート護岸と砂防堰堤の未来

2016年7月21日一部訂正
2016年 9月30日
 第16章「コンクリート護岸と砂防堰堤の未来」を新たに掲載しました。

まえがき
 この章は、河川の上流や中流に数多く設置されているコンクリート護岸の未来について、そして同じく数多く設置されている砂防堰堤の未来について考察したものです。

 この章に至るまでの幾つかの文章をお読みにならないでこの章をご覧になった場合には、この章の内容は唐突である、或いはその理解が困難であるかも知れません。 この章での記述は、この章に至る幾つかの文章で繰り広げた「河川上流中流の土砂流下の規則性」の考え方に基づいて、コンクリート護岸と砂防堰堤を考えたものです。
 もし、この章での記述の理解が困難である或いは唐突であるとお考えでしたら、 まず先に、この章に至るまでの幾つかの文章をお読み頂き、それらの記述が現実の河川の状況に合致しているかについて、 ご確認下さったうえで反論或いはお問い合わせを頂けますようお願い致します。

 この章に至るまでの文章では「河川上流や中流の土砂流下の規則性」に関する説明と共に、 コンクリート護岸と砂防堰堤が河川に引き起こしている幾つかの現象についても説明していますが、 それらの構造物自体の未来の問題については詳しく記述しませんでした。
 この章では、コンクリート護岸と砂防堰堤の未来について、より深く考え詳しく説明しました。
 河川上流や中流の土砂流下の規則性に関する説明は、
「第11章 土石流の跡を考える
及び、その他において詳細に記述しています。 参考にして頂ければ幸いです。



コンクリー護岸の未来

河川上流から失われた大きな石や岩
 河川の上流域を車で移動している時に、ひときわ大きな石や岩が特定の狭い区間の河川敷に幾つも集積している光景を何度か見たことがあります。

 私は渓流釣りを趣味としていますから、釣り歩いた各地の渓流で、或いは釣り場ではない場所の渓流でも、その河川敷の様子を観察する機会が多くありました。 その経験から言って、それらの大きな石や岩の集積具合やその大きさは全く不可解なものでした。
 それらの石や岩の大きさが、自動車ほどであったことも幾度かあります。 そのような時には、水量の少ない場所であるのに、どうしてそんなにも大きな石や岩が特定の場所に多く集積しているのだろうと考えたものです。

 それらの大きな石や岩は、その全体が全くのむき出しになっている事が多く、普通の河川敷で見るようにその他の土砂に埋まっていることは少ないのです。 幾つもの大きな石や岩が狭い区間の岸辺に集中してむき出しのまま並んでいるのです。
 普通の渓流であればそのように大きな石や岩が特定の場所に集中している事は多くはありません。 それに、大きな石や岩であっても幾つもの石や岩と一緒になってそれらと隣り合って埋まっている事が多いのです。
 また、大きな石や岩の集積が、以前にその場所を訪れた時には見ることの無かった光景であった事も何回かありました。
 以前は、そのような光景を見た後であっても、それらの現象が何ゆえに生じているかを思い描く事も出来ませんでした。 私が、河川上流や中流の土砂流下の規則性について系統的に考えるようになったのは、そのような光景を幾度も見続けた後の事です。

 前述の光景は、それらの大きな石や岩がもとあった場所にコンクリート護岸が建設された結果です。 大きな石や岩が集積していたのは、コンクリート護岸が途切れた場所や、流れの傾斜が穏やかになったり河川敷が広がったりしている場所でした。 それらの現象は、河川上流で両岸が岸壁になっている場所で発生している現象と同じです
 コンクリート護岸の建設直後にはそのような現象が発生しなくても、何度かの増水や大きな増水があれば、どんな渓流であっても同様の現象が発生します。 両岸のコンクリート護岸が途切れた場所に、これ見よがしに、周囲にある石や岩よりも大きな石や岩が集積している光景は珍しくありませんでした。 それらのひときわ大きな石や岩或いは大きな石や岩は、何年かの後にその場所を訪れた時には姿を消していることがほとんどでした。 
 消失したそれらの石や岩は、業者さんが役所の指示によってどこかに持ち出したのであり、或いは指示が無くてもどこかに持ち出したのです。 その他の石や岩から分離された状態であれば、いかに大きな石や岩であっても現代の重機の力を持って容易に持ち出すことが出来るでしょう。 確かめたことはありませんが、それらの石や岩は決して安くはない金額と交換にどこかの都市に運び出されたのだと思います。

 ひときわ大きな石や岩或いは大きな石や岩を持ち出した業者さんは、それらの石や岩のほとんどが、 何百年から何千年或いはそれ以上の年月が経過したことによって、それらの河川上流に堆積したものであった事を承知していたのでしょうか
 石や岩の持ち出しを指示した、或いはその持ち出しを見逃していた役所の人々は、 それらの石や岩と同じような大きさの幾つもの石や岩が再び同じ場所に同じように堆積するのには、 何百年から何千年、もしかするとそれ以上の歳月が必要である事を理解していたのでしょうか。

コンクリート護岸の耐用年数
 大きな石や岩を下流へと流し出したコンクリート護岸の耐用年数はどれほどでしょう。 鉄筋コンクリートの建物ほどの耐用年数を持ち合わしているとは思えません。多分、長くて50〜60年ほどではないでしょうか。 もしかすると、それより短いのかも知れません。 
 関係者であれば承知していると思いますが、コンクリート護岸はその一か所でも破壊されれば、 そこに連なったコンクリート面の連続も次々に剥ぎ取られ破壊されてしまうことが多いのです。 おそらく、耐用年数に至るほど長い年数が経過しないうちに破壊されるコンクリート護岸が多いのではないでしょうか。
 コンクリート護岸が破壊されれば、土手を形成していた大量の土砂が下流に流れます。流路は変遷してさらに大量の土砂を侵食します。 道路や山腹が崩壊する事も多くあるでしょう。
 しかし、もともとあった大きな石や岩は既にありません。大きな石や岩によって多くの土砂がその流下を妨げられることもありません。 短い期間の間に大量の土砂が護岸の破片と共に中流へと流れて行くことでしょう。

 コンクリート護岸の破壊に対応するのには、その補修や再建設しかありません。 実際、建設されてそれほど長い年月を経ないコンクリート護岸を補修する工事は各地で行われています。 場合によっては、同じ個所を毎年のように補修あるいは再建設していることもあります。
 コンクリート護岸の機能を維持しようとするなら、何年か何十年ごとにそれらを改修し、また新たな建設を行わなければなりません  

上流中流には不必要だった長々と続くコンクリート護岸
 上流や中流部にコンクリート護岸を建設しなかったならば、それらの護岸の改修や新たな建設は不必要だったのではないでしょうか。

 大きな石や岩は自然の石組を形成して、或いはそれを形成しなくても、水の流れから陸地側の浸食を防いでいました。 それらの大きな石や岩は、流下する土砂によって少しづつ摩耗して長い年月を掛けてゆっくりと下流に移動して行くのです。
 ですから、大きな石や岩があることによって、それらの石や岩よりも大量にある小さな土砂が短期間で流失することが防がれていたのです。
 上流から大きな石や岩が失われることによって、自然の渓流が持っていた治水的効果は失われ或いは減じてしまいました。 コンクリート護岸より下流の流れでは、急激な増水と急激な減水が生じるようになっています。

 上流であれば、長い年月の間には土砂崩れがあり土石流もある事でしょう。自然状態の上流であれば、大きな石や岩は時々少しづつ補給されることでしょう。 河川における大きな石や岩のこのような変遷は、これから先も何百年何千年と続いて行くはずです。
 つまり、コンクリート護岸を建設しなければ、人の手をそれほど加えることがなくても、河川上流の岸辺の維持は容易なことであり、 短期間で自然の成り行き以上に大量の土砂を流下させることは無かったはずです。急激な増水と急激な減水を生じさせることも無かったはずです。
 言い換えると、不必要な人力と不必要な費用を掛けることなくても上流の継続的な治水は可能だったはずです。

 もちろん、全ての河川の上流中流の岸辺がそのようであると言うつもりはありません。緊急にどうしてもコンクリート護岸を建設しなければならない場所があった事でしょう。 でも、現在の各地に見られるように、長々と続くコンクリート護岸を多くの河川の上流中流に建設する必要はなかったはずです。 
 現状では、自然の営みに比べて極めて短い期間の間に、コンクリート護岸の改修と建設を頻繁に続けなければ、河川上流中流の治水は破たんしてしまうのです。 これが現在の河川上流中流の治水工事の有様です。 

 上流や中流にコンクリート護岸を建設した人々は、それら現状のような維持方法が遠い未来に向かって可能だと考えているのでしょうか。 それらの費用を負担するのは誰でしょう。日本の国土に住む人々がそれらの費用を未来永劫に負担し続けることが可能であると考えているのでしょうか。 さらに言えば、コンクリート護岸の建設によって失われた自然環境や生息していた様々な動植物をどのようにして取り戻すと言うのでしょう。
 これらの事を考えれば、上流中流部でのコンクリート護岸の建設は全くの不合理であることは誰の目にも明らかです。 何故ゆえにそのような選択が続けられて来たのでしょうか。

 前述した業者さんや役所の皆様、或いは治水に関わる研究者の皆様はこれらの問題をどのように考えているのでしょうか。 河川の治水に関わる事を職業としている皆さまは、この問題をどのように解決しようとしているのでしょうか。 
 上からの指示によって業務をしたのに過ぎないなどと言う言い訳は通用しません。 誰よりも多く直接に川に接し、誰よりも多く実際の川を観察し、川に関する多くの事実を承知してきた人々が、 コンクリート護岸の失敗に気が付か無かったことはあり得ないことです。 

 ほとんどのコンクリート護岸の場合で、それらの建設場所やその規模を決定しているのは、現場に近い役所の人々です。 また、現実の現場の状況を誰よりも詳しく説明出来るのは地元の業者さんではないでしょうか。
 祖先から地元に住み続けている人々が運営している業者さんは、美しい山河を荒廃させる事業を何ゆえに受注したのでしょう。 子々孫々が引き続き暮らして行くことが出来る郷土の山河を、極めて長期間に亘り破壊し続ける工事を、何時まで続けるのでしょうか。

 コンクリート護岸が上流中流部で盛んに建設されるようになってから、既に40〜50年が経過していると思います。 その間、前述の大きな石や岩の流下現象やそれに続く治水上の不都合な現象は各地で見ることが出来たはずです。 さらに、役所の皆さまが全国的な組織に属している事からすれば、それらの事実の共有は容易だったはずです。
 それらの人々は、40〜50年に亘る失敗を何故に見過ごしてきたのでしょう。 或いは、それらの失敗を承知しながらコンクリート護岸の建設を継続し増設してきたのでしょうか。全く不可解なことです。

コンクリート護岸に代わる新しい工事方法
 私は、上流中流のコンクリート護岸の間違いを修正する方法を幾つか考えています。 その方法は、失われた大きな石や岩を取り戻すことが出来ないまでも、それらが持っていた機能の一部を取り戻そうとするものです。
 その方法によれば、大きな石や岩が無くなってしまった後であっても、流水や土砂によるコンクリート護岸の破壊を防ぎます。 同時に、長い時間を掛けて少しづつ元の自然の岸辺を取り戻すことも可能になります。それらの方法は対応が早ければ早い程その効果も大きいのです。 そして、技術的に容易であり費用も少なくてすむ方法です。
 また、その方法は、コンクリート護岸の無い場所であっても、岸辺を侵食から守る自然の状態を人工的に造成することを可能にする方法でもあります。 ですから、破壊されたコンクリート護岸の跡であっても、元あった姿に近い自然の岸辺を長い時間を掛けて取り戻すことが可能です。

 その方法は「河川上流中流と海岸を回復させるための新たな工事方法 」 に記述していますので参考にして頂くことが出来ると思います。
 失敗に対する改善方法は私が考案した方法以外にもある事でしょう。 ぜひ、その方法も多くの皆様に考えて頂きたいのです。そして、早急に解決方法を示して実行して頂きたいと願っています。 早急にそれらに対応しなければ、数百年からそれ以上に亘る国土破壊は取り返しのつかないまま拡大するばかりです。

上端が連続して水平な砂防堰堤の未来

砂防堰堤の破損
 上流や中流のコンクリート護岸がほとんど失敗であったと同じように、上端が連続して水平な砂防堰堤もまた、その多くがほとんど失敗でした。 ここで論じるのは、上端が連続して水平な砂防堰堤の機能とその耐用年数に関わる事柄です。

 上端が連続して水平な砂防堰堤では、その破壊或いは破損の状況には以下の三つの場合が考えられます。
 第一に、堰堤の下流端の基礎部分が破損する場合。
 第二に、堰堤の上端から基礎部分に向かって、堰堤の一部分が次第に磨滅破損する場合。
 第三に、堰堤の全て或いはそのほとんどが一気に崩壊する場合。

砂防堰堤の破損、第一の場合
 「新13章 河川の上流と中流の土砂流下現象及びその規則性(1) 」で記述しているように、 砂防堰堤の下流側は年月の経過と共にその川床が侵食されていくのが普通です。
 下流側の川床が次第に掘れていくのをそのまま放置すれば、 砂防堰堤の基礎部分が侵食されて穴が開いてしまったり、場合によっては砂防堰堤の全体が崩壊してしまうかもしれません。 これらの現象はほとんどの場合で、砂防堰堤自体の耐用年数に至る前に発生していると考えられます。 
 そのような事態を防ぐために、砂防堰堤の下流側の基礎部分に数多くのコンクリートブロックを設置する工事が多く行われています。 また、砂防堰堤の下流端の基礎部分の河床全体をあらかじめコンクリー ト敷きにする方法が採用されることもあります。 この場合でも、敷設したコンクリート床の下流端に段差が生じるようになります。 
 これらの方法は砂防堰堤とは呼ばれない堰堤や堰堤状の構造物でも良く見られる工事方法です。

 砂防堰堤を設置した場所ごとに、そのような状況に至るまでの年月は違う事でしょう。 でも、ほとんどの上流中流の砂防堰堤でそのような状況が発生するのだと思います。 これらは、上端が連続して水平な堰堤の下流側であればそれを避けることが出来ない現象だと思います。 
 コンクリートブロックを多数設置したとしても、下流側の川床が低下する現象の進行を防ぐことは出来ませんから、 設置したコンクリートブロックの下流側にさらに多くのコンクリートブロックを設置することになります。このような工事の例も全国各地でよく見ることです。

 コンクリートブロックを多数設置することによって、砂防堰堤の崩壊をとりあえず防ぐことが出来ます。 でも、そのおおもとの原因は、そのような事が発生する場所への間違えた構造の砂防堰堤を建設したことにあるのです。 上端が連続して水平な砂防堰堤の構造を変更しない限り、或いはその規模を変更しない限り上述の現象は発生し続けることでしょう。 

砂防堰堤の破損、第二の場合
 堰堤の上端が、流下する土砂によって次第に磨滅或いは損傷する現象はありふれた光景です。 そのほとんどの場合で、磨滅は上端全体に及んでいるものの、磨滅の程度は僅かであり、堰堤全体の損壊にまで発展する可能性は考え難いのです。 また、堰堤の上端の磨滅を防ぐために、上端に厚い鉄板を被せている場合もあります。 

 しかし、堰堤上端の一部箇所がひどく侵食されている場合もあります。 これは、堰堤上端の特定箇所のみが著しく磨滅破損して、堰堤の一部が縦に深く破損している場合です。 そのような例はそれほど多くはないと考えていますが、たまたま、私が時々訪れる渓流にそのような堰堤があります。 
 私は、その堰堤を10年以上に亘って観察しています。その堰堤は幅が約20m位、下流側水面からの高さは5〜6m位です。 著しく掘れている場所は中央ではなく堰堤右岸の岩盤の近くで、その幅は堰堤上端ではV字型に4m位侵食され、 やや斜めに切れ込んだ開口部の下端の幅は60cm位にほぼ水平であり、その切れ込みの深さは水面からの高さのおおよそ半分にまで及んでいます。 
 また、その堰堤は上流にある貯水式ダムの放流の影響が大きく、その滝壺は堰堤左右の基部まで、そしてその奥行も10m以上に広がっています。 

 その堰堤を初めて見た当時から比べると、堰堤の上端部のV字型の損傷や高さの半ばまで切れ込んだ開口部の姿は大分拡大している様子です。 でも、一見した印象は現在とそれほど違いませんでした。
 当時のその破損は、厚みのある堰堤の躯体の下流側の前面のみがその形状に破損しているのであり、 堰堤を通過する水は、堰堤本来の高さより僅かに低くなっている堰堤上端の破損個所を乗り越えて躯体の断面を斜めに落下していました。

 しかし、現在の開口部は、その破損は躯体の厚さの全てに及び、下流側から堰堤上流側の水面がすこし覗ける状態にまでなっています。 また、切れ込みの最下部は堰堤の躯体の内側にまで入り込んで、流れ落ちる水は堰堤の躯体の前面ではなく、その内側で水しぶきを上げています。

堰堤上端の一部が、縦に大きく破損した砂防堰堤
(画像をクリックすると大きく表示されます)

左:2005年の砂防堰堤          右:2016年の砂防堰堤

 私の知る限りでは、砂防堰堤の上端がここまで著しく損壊している例は多くはないと思います。 ただ、この堰堤は、たまたま私の行動範囲内にあったのに過ぎないと考えられます。 
 では、この堰堤に対してどのような改修を行う必要があるのかと言うと、何らかの改修を行う必要は全く無いのです。 この堰堤の状況は、堰堤の改良方法として私が提案している方法を、自然自らそれを示している状況であると考えられます。

 砂防堰堤上端が水平であり、その高さが必要以上に高く建設されているために、堰堤の上流側の河川敷から大きな石や岩が無くなり、 それに代わって、大量の小さな石や岩によるゆるやかな流れの広い河川敷が形成されることが、砂防堰堤が生じさせる幾つかの不都合の原因です。
 ですから、砂防堰堤であってもそれらの状況を発生させない堰堤であったならば、河川全体の治水状況を悪化させることは無いと考えられます。
 所謂スリット型の堰堤はこの要請に応えられる形状であると考えています。 但し、現在までに建設された多くのスリット型の堰堤の場合ではスリットの幅が少し狭すぎる場合が多いように思えます。 また、スリットの幅が上端でも下端でも同じである場合が多い事にも疑問を感じています。

 上に記述した、部分的破損を上端から縦に生じさせた堰堤では、10年ほどの年月の経過と共に、そのスリットの高さを徐々に減じてきたのです。 このことは、堰堤より上流に堆積していた大量の土砂を年月の経過とともに少しづつ下流側に流下させ、 同時に、流れの傾斜を少しづつ取戻し、堰堤上流側に大きな石や岩による河川敷を徐々に形成しているのだと考えられます。  
 ただし、上述した現実の堰堤にはもっと大きな問題が存在しています。 
 その堰堤の上流数百mにある発電用の貯水ダムから、河川上流中流の土砂流下の規則性を無視した無法な放流が繰返されています。 その出鱈目な放流方法を改善しない限り、上記の堰堤を含む下流部の治水状況が改善されることはないでしょう。

砂防堰堤の破損、第三の場合
 河川の上流や中流に建設された砂防堰堤の耐用年数は、コンクリート護岸よりも長いと考えられます。
 でも、それらが100年を大きく超過してその機能を発揮し続けるとは考えられません。 砂防堰堤の補強工事が行われることもあるようですが、それによって耐用年数が200年も300年にもなることはないでしょう。 継続する自然界の営みの長さに比べれば、補強工事によって得られる効果は無いのに等しいのです。

 以前砂防堰堤が設置されていた跡と思われる場所を何か所か見たことがあります。 そこに、堰堤の躯体の一部が破片となって取り残されていることが無ければ、むかし堰堤が建設されていた事を知る事は出来ませんでした。 それらの場所では、両岸にあるはずの自然の山肌との接続部分がどこにあったのかを正確に窺い知る事は出来ません。
 つまり、堰堤の躯体だけでなく両岸の基礎工事部分も根こそぎ破壊されているのです。 それらの堰堤の跡では、砂防堰堤があったはずだと思われる場所も、その上流も下流も区別できない河川敷が広がっているだけです。
 その堰堤の跡から考えられるのは、それらの砂防堰堤が破壊されたときには、堰堤全体がいちどきに破壊されていたのだと言うことです。 堰堤の一部や中央部が水流や土石によって突破されて、残された両岸の構造がその後次第に破壊されていた可能性は少ないのではないでしょうか。

 砂防堰堤に上流側から加えられる圧力は相当なものなのでしょう。特に、規模の大きな増水の時に加えられる圧力はとんでもなく大きい事でしょう。 上流側に堆積した大量の土砂の圧力と、それらの土砂の間に多くある水の圧力に加えて、増加した水流の圧力も生じます。 これらの圧力によって砂防堰堤はいちどきに破壊されることが多いのではないでしょうか。
 堰堤の躯体の厚みはどこでもほぼ同じであり、それらの部分ごとの強度の違いはほとんど無い事でしょうから、 躯体が圧力に負けてしまう時には、特定箇所ではなく躯体の全体が崩壊する可能性が大きいのではないかと考えています。

 そのようにして砂防堰堤が破壊されれば、大量の土砂が一気に下流に向かって流れ出します。 大量の土砂が水流と一緒にいちどきに流下するのですから、これは土石流そのものです。つまり、この場合の砂防堰堤の破壊では土石流が発生します。 規模の大きな増水ではなく上流から土石流がやってきた場合でも、同様のことが発生する可能性があります。
 もちろん、これらの状況を引き起こすのは、耐用年数が過ぎた或いはそれに近づいた砂防堰堤の場合や手抜き工事や、設計上の過ちがあった場合に限られるでしょう。 

 いかに強化された砂防堰堤であっても、いつかはその耐用年数が訪れます。そして、その時にはその堰堤が一気に崩壊して土石流を発生させる可能性が大きいのです。 土石流などの発生を防ぐために建設された砂防堰堤は、その役割の最後には自らが土石流の原因となる可能性が大きいのです。
 このような砂防堰堤の建設は、その目的とは矛盾しているのではないでしょうか。

 しかも、破壊されていない現実の砂防堰堤は、急激な増水と急激な減水を生じさせています。 また、小規規模な増水であったとしても、小さな土砂を容易に流下させ続けます。 さらには、砂防堰堤の下流側の河床を侵食させます。これらの現象がその砂防堰堤の下流の治水に不都合であることは言うまでもありません。 
 これらの事を考えると、上端が連続して水平な砂防堰堤の建設には合理性が全く無いと言えるのではないでしょうか。

スリット型堰堤について 
 上述したように、砂防堰堤上端が連続して水平な砂防堰堤の欠陥は、堰堤の上流側の河川敷から大きな石や岩が無くなり、 それに代わって、大量の小さな石や岩が堆積した穏やかな流れの広い河川敷が形成されることです。
 ですから、これからの砂防堰堤に望まれるのは、 そのような状況を発生させない砂防堰堤であり、同時に土石流や土砂崩れによる大量の土砂のいちどきの流下を防ぐ砂防堰堤であると考えられます。

 堰堤の中央部にスリットを設置した砂防堰堤であれば、それらの不都合が生じ難いと考えられます。 スリットのある砂防堰堤であれば、流水にたいしても、また土砂に対しても遊水地的役割を果たすことが出来ると考えられます。 また、上端が連続して水平な砂防堰堤であっても、スリット型の堰堤に改造する事は十分に可能であると考えています。
 ただし、そのスリットは上流から流下する大きな石や岩をも流下させるだけの幅が必要です。 また、砂防堰堤の機能を長期間に亘って確保するために、スリットを堰堤の上端に至るほど大きくするべきであることも考えています。

 ここでの記述は、上端が連続して水平である砂防堰堤より、スリット型の方が砂防堰堤の機能として優れているとの考えを示したのに過ぎません。 上流や中流に砂防堰堤が必要であるから、これからもスリット型の砂防堰堤を多く建設すべきであるとの考えは全く持っていません。
 河川上流中流の長期間に亘る土砂収支を考えた時に、それらの区域に砂防堰堤を設置すること自体がその建設費用に見合わない無駄な治水事業であると考えているのです。 
 長期間に亘る上流中流の治水を考えた時、もっと効果的で容易で安価な治水方法があります。それは山地や上流の森林や林のより良い保全管理です。 これこそが、もっとも優れた治水方法です。

 砂防堰堤から大きな石や岩が下流側に流下することは、下流側の治水に困難をもたらすとの考えがあるようですが、その考え方には賛成できません。
 砂防堰堤を通過して流下する大きな石や岩は、何処までも下流に向かって流下していくのではありません。 流下する大きな石や岩は、それらの石や岩がそれ以上に流下するすることが出来ない場所にまで流下するのに過ぎません。

 大きな石や岩は、それが大きければ大きいほど流れ下る距離が短いのです。 ですから、大きな石や岩であれば、それらが流れ下って至る場所は上流域から中流域の何処かになることでしょう。 河川の上流部にある石や岩の大きさが大きく、中流に至るほど石や岩の大きさが小さくなる現象はそれらの事の確かな証拠です。
 それ以上は流下することが出来ない場所は、多くの場合で流れの岸辺です。 それら岸辺にある大きな石や岩は、通常の増水になればその陸地側の土砂の侵食を防せぐ役割を果たしています。

 河川の上流部に上端が水平な砂防堰堤が数多く建設されるようになってから、既に40〜50年が経過しています。 ですから、これから40〜50年が経過すれば、多くの砂防堰堤が自然に破壊されて多くの土石流を引き起こす事になるのでしょう。
 河川上流の治水に関わる事を職業としている皆さんはこの問題をどのように解決するのでしょうか。 コンクリート護岸の場合で説明したように、上からの指示があったから砂防堰堤を建設したとの言い訳は通用しません。 建設されたほとんどの砂防堰堤の建設場所やその構造やその規模を決定しているのは 、建設箇所に最も近い場所にある役所の皆さんです。 そして、その建設に直接関わっていたのは地元の業者さんです。
 それらの人々は、砂防堰堤の建設によって多くの治水的不都合が生じている事に気が付かなかったのでしょうか。 また、それらの砂防堰堤が、将来土石流を引き起こす可能性があることを想像することが出来なかったのでしょうか。全く不可解なことです。

 砂防堰堤の機能と作用に関連する、河川上流中流の土砂流下の規則性については、「河川上流中流の土砂流下と堆積の規則性を考える」「第3章」に詳しく説明しています。 また、上端が連続して水平な砂防堰堤の具体的な改造方法については 「河川上流中流と海岸を回復させるための新たな工事方法」に詳しく記述しています。

 ここで説明したのは常に流水がある河川に設置された砂防堰堤についてですが、 「河川上流中流と海岸を回復させるための新たな工事方法」では、降雨時にのみ流水が生じる谷間の砂防堰堤 (すみません、そうは呼ばないのかも知れませんが)についても今までにない考え方を記述しています。以上、参考にして頂ければ嬉しく思います。

不審なうわさ 
 砂防堰堤の場合では、漠然と不審に感じている事柄があります。
 砂防堰堤を建設しその管理を行っているはずの各地の役所は、それぞれの管轄範囲にある砂防堰堤の数を把握していないとのうわさがあるのです。 曰く、多く作りすぎたので数さえ勘定できなくなったと言うのです。本当でしょうか。
 私が釣りの時に観察した砂防堰堤は数多くあります。河川上流中流に建設されている砂防堰堤の数は信じられない位に多いと言っても良いかもしれません。
 人が入る事が無い沢だと思っていた支流や沢の上流に砂防堰堤が建設されていることは珍しくありません。 人里近くの本流や支流にそれらが数多く建設されている事は言うまでもありません。おそらく、日本全国の河川の上流であったならばそれらが無い河川はほとんどないことでしょう。

 人が入る事が困難な支流であっても、或いは誰でもが容易にその存在を知る事が出来る大きな流れであっても、それらの砂防堰堤の観察や維持管理は必要なことだと思うのです。 それらの砂防堰堤はそれが損壊しない限り、それぞれの場所でその機能を発揮し続けているのです。 ですから、それらが幾つかの世代にまたがって存在したとしても、それが存在し続ける限りその観察と維持管理は必要なことでしょう。
 税金を使って建造物を作ったけれど、それっきり作りっぱなしなどと言うことは考えられません。 それらを建造したことによる効果を観察しない事があるのでしょうか。上述したような破損が生じる事もあります。 ましてや、それらが最終的に土石流を引き起こす可能性を持っている事を考えるならば、それらの観察や維持管理はどうしても必要なことです。

 例えば、日本中には数えきれないほど数多くの工場があります。それらの工場の工場長はその工場にある機械設備の全てを把握していることでしょう。 それらが何時設置され、どのような機能を持ち、どのような修理が成され、次の定期点検が何時であるかについて等、 多くの工場長がいつでもすぐに口頭で答えることが出来ることでしょう。
 工場が大きくて直ぐに答えられなくても、書類を調べればそれを容易に答えられる状態であることは間違いがありません。 工場の機械設備とそれに携わる従業員が新たな価値を生み利益を創出しているのですから当然のことです。
 仮に、それらの工場長の交代があったとしても、上述の事柄は間違いなく引き継がれています。 そして、新たな工場長は、それらの引き継ぎ事項に間違いがないかを確認することでしょう。
 それらを確認しなかった場合とか、前任の工場長の書類の記載に間違いがあった場合には、それらの工場長や責任者は、更迭されたり馘首されたりするのではないでしょうか。 それぞれの企業の利益の源泉はそれらの工場にあるのです。それらの処置は当然のことでしょう。

 河川の治水を管轄する各地の役所においても、それらの事情は同じではないでしょうか。また、砂防堰堤の場合の維持管理は工場のそれに比べて容易だと考えられます。
 砂防堰堤は一度建設されれば、それが移動してしまう事はありません。 工場の場合では、機械設備が新たに更新されたり、機能が全く異なった新たな機械設備に変更されることも珍しくありません。 その時々の工場長は、どの機械が破棄されてどの機械が新たに設置されたのかも常に把握していなければなりません。
 砂防堰堤の場合では、一度設置されれば、それが全く破壊されない限り設置した場所に存在し続けています。引き継ぎも容易なはずです。
 工場の場合では、ほとんどの機械設備はほぼ毎日その稼働状況を把握して不具合が発生しないことを確認し続ける必要があります。 砂防堰堤の場合では、毎日それを観察する必要はありません。年に数度、規模の大きな増水があった後などにその状況を確認すれば良いはずです。

 これらの事を考えると、河川の治水を担当する各地の役所が、過去に建設した砂防堰堤の数を把握していない事など有り得ない話です。
 もし、砂防堰堤の数が把握出来ていないとしたら、砂防堰堤がどこにどれだけあるかを承知していない事になります。 それは、個々の砂防堰堤の状況が全く把握出来ていないことです。もちろん、その砂防堰堤の上流の変化もその下流の状況も全く分かりません。 河川の状況を改善する事を目的に建設したそれぞれの砂防堰堤が、どれほど役に立っているのか、或いは機能していないかについて全く把握していない事になります。

 それらの役所は国民の税金によって運営され、砂防堰堤も税金によって建設されているのです。
 日本全国に数多くある河川の治水を担当する役所が、そのような状況にある事は考えられない事ですが、 時折そのようなうわさを耳にすることからすれば、根も葉もないうわさであるとも思えません。 どこかの役所はそのような状況にあるのかもしれません。
 そうであるならば、もちろん、それらの役所には河川の治水に携わる能力がないことになります。税金を無駄使いしているだけの役所であることになります。 優秀な人々が集まっているはずの役所がそのような役立たずの状態であるとは考えにくい事です。 ですから、それらの役所の皆さんには、ぜひ詳細な情報公開によってそれらの不信感を一掃して欲しいものです。
 私や釣り人の漠然とした不審感が只の杞憂である事を願っています。

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