「砦を見てきたって?」
昼食時にファロンはシェイから請われて長い旅の話をしていた。無論、最後のほうにはあの無残なまでに焼け落ちた砦にも触れ、それが意外であったかのように砦の主であったビクトールが驚いて言う。
「うん。無残なほどに焼け落ちていたね。…まるで爆発したみたい。」
「まるで、じゃなくって本当に爆破したんだけどさ。」
フリックの言葉にファロンがきょとんとする。
「そこまで戦況は悪かったんだ?」
「まぁな。危うくルカと一騎打ちになりそうだったし。いくら俺たちでもあいつと一騎打ちしようなんて思わないさ。」
腕に覚えの腐れ縁コンビでもさすがにあのルカには太刀打ちできないだろう。それは良い判断だとファロンはそっと胸をなでおろす。
「…ルカ皇王っていえば、ハイランドでは国葬が盛大に行われていたよ。…国民も随分と不安がっていた。アガレス皇王、ルカ皇王と、皇王が二人続いて亡くなったんじゃハイランドは負けるんじゃないかって。」
その情報は誰も聞いたことがなく、シュウはちらりとファロンに視線を向ける。
「そんな噂が?」
「うん。だからここのところハイランド軍は大人しいでしょう?血のつながりのないジョウイ・ブライトをなんとか皇王につけて、国民の不安を払拭したいところだけど世論操作が思うように上手く行かなくて。レオンは彼を英雄に仕立てたいところだけどそれもどうやら難しいようで、とうとううちに使者が来たってさっき連絡を受けたよ。」
「使者って…?」
尋ねるシェイにファロンはうん、とうなづいてから話し出す。
「私の再来…に仕立て上げたいらしい。若い指導者っていうだけじゃシェイの方が若いから英雄としての決め手がなくって、決定打として私を担ぎ出したかったみたい。昨日、トランの自宅にハイランドからの使者が来たって。」
ファロンの言葉にクラウスとシュウが瞠目する。
「それは…。」
「カスミちゃんが教えてくれたよ。クレオ…あ、うちの留守を預かっている私の姉代わりのような人がカスミちゃんかシーナ、もしくは私本人に知らせて欲しいと伝令を出してくれた。」
「差し支えなければ内容を聞かせていただきたいものだが。」
シュウの言葉にファロンはうんと頷いた。
「内容は、是非、久しぶりに会って旧交を温めたいって。書状の贈り主はレオンなんだけどさ。」
「ファロンさんっ、どうするんですかっ!?」
アップルの言葉にくす、とシェイが笑う。
「その話をここでしていること自体、ファロンは行かないってことでしょう?」
シェイの言葉にファロンが苦笑する。
「あっちには知人がいないし。それに、レオンだから、下手すれば軟禁して噂に利用して挙句、レパントに義勇軍を引くように交渉するネタにされるかもしれないから。」
ファロンの言葉にひっそりと苦笑するのはシーナ。
「で、どう見ます?明日?あさって?」
ファロンの言葉に、クラウスもシュウも頷いて。
「明日、と私はみますが。」
クラウスの言葉にシュウもわずかな頷きで同意を表してから続ける。
「一緒に、行って頂いてよろしいですかな?」
「無論。」
答えたファロンに回りは理解できないといったふうに首を傾げる。
「明日、おそらく本物のファロン・マクドールがここにいるかどうか調査隊が来るだろうって話。」
ファロンの言葉に他の者達が首を傾げる。
「調査隊?」
「このシーアン城内にはハイランドのスパイが紛れてて、そいつは今朝のお稽古を見て慌てて報告に跳んで行ってるんだ。本物のトランの英雄か確認に来るのはおそらくほんの数人、腕の立つ人間を軍に紛れ込ませて訓練に参加させる、と思ってるけどどうでしょう?」
シュウもクラウスも揃って頷く。
「トランの英雄となれば比類なき強さを誇り、今朝のデモンストレーションでは我がデュナン軍の中心メンバーとも言える3人をいとも簡単に打ち倒した。そのトランの英雄がシーアン城の人間の前で自分の力を全てを出して尽力すると言ったんだ。ハイランドが脅威に思い、本物かどうか確認したがるのも無理はない。」
シュウの言葉にフリックもビクトールも信じられない表情でファロンを見る。
「じゃあ、今朝のはわざとか?」
ビクトールの問いにファロンは悪戯っぽく笑う。
「ま、ね。…デュナン軍の人で、私が打ち倒しても文句を言わない人って言えば二人だけしかいないしね。」
「ファロン〜っ!」
怒りかけるビクトールの声は全然聞いていないで、にこ、と先ほどの微笑を浮かべる。
「あ。でも、勝手に旅に出ちゃったのはほんとに怒ってるから。」
「〜〜〜っ!」
そう言って楽しげに笑うトランの英雄にはやはり勝てなくて。
「明日、早朝に元の砦の辺りに行って、できれば派手にやってください。メンバーは…シェイ殿、ファロン殿、マイクロトフ殿、カミュー殿…。それから…足手まといになるかとは思いますが、どうぞビクトールとフリックでも連れて行ってください。」
「〜〜〜っっっ!!!!」
シュウがさらりとそんなことを言うと、サロン中は笑い声が響く。
「じゃあ、遠慮なくお借りします。3年分の恨み、そこで働いてもらって帳消しにでもいたしましょう。」
ファロンも済ました顔で答えるから、さらにみんな笑い転げて。
肴にされた二人はと言うと、一人はそれも仕方がないと苦笑しながら側にいることの幸せを噛みしめながら若干明るくなった性格を喜び、もう一人は天才軍師に隠れて分かりにくかったけれど明らかにそこらの軍師よりはよっぽど策士的な性格の一端を垣間見てやはりファロンはファロンだったかと腰に刷いた相棒が言った言葉を思い出し、これから起こる騒動を予感して密かに頭痛を覚えたのだった。
END
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