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opus introduction interview
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BTTB関連インタヴュー・ダイジェスト第2弾

教授「オペラを見に行ったんですよ。やっぱりね、僕の体質に合わなかったですね(笑)」

ニュース23 11/29(?日付間違ってるかも。 TBS系)
音楽活動に新しい動きがあり、アナウンスがてらに出演する時は、なぜかいつもニュース23。 決してニュース・ステーションじゃないんだな、これが。 筑紫哲也との親交が深いからだろう。もっとも現在流れてるニュース23のテーマ曲は、周知の通り、「共生」をテーマとして教授が作曲したものだ。 久米宏とやりとりする教授の姿はなかなか想像できない。

ピアノのしつらえられた別スタジオ(演奏会用ホールらしい)にスタンバッてる教授と筑紫哲也。 大きなニュースをキャスターが読み上げる度、そのホールに画面が切り替わり、筑紫がコメントする。たまに教授にもふって意見を求める。 教授、ちょっと照れながら、あたりさわりのない答え。 その日の教授は、あの金八ヘアー(笑)で、茶色のサングラスに茶色の皮のジャケットに身を包む。(茶色のって他に専門的なネーミングがあるんだろうけど、わからない(^^;;) まるでストイックなカブト虫といった趣(どんな趣じゃ)。 まずは、ピアノの生演奏から始った。 一曲目、BTTBより「intermezzo」さすがに戦メリではない。 演奏終了後、筑紫哲也が拍手を贈りながら画面上に登場、ふたりとも客席に腰を下ろして対談が始った。

筑紫「あの〜ニューヨークをベースにするというのは、仕事がしやすいんですか?」
坂本「オペラがあるんですけど、やっぱり実際、各(書く?)作業はニューヨークでやろうと思っています。」
筑紫BTTBのジャケットを手にとり
筑紫「これなんの頭文字かといいますとBack To The Basic、一番基本に戻ると?」
坂本「まあ、僕にとっての基本というのは、ピアノとピアノ音楽なんで、ピアノだけでやろうと。 なんか自分の10代に帰るっていうか、そういう感じですね。」
筑紫「坂本さんていえば、これまであやゆる前衛的な実験をずっとやってきた人ですよね?なんか先祖がえりみたいなそんな感じなんですかね?」
坂本「ま、かえるというよりかは、あの・・・・そうだな一歩後退二歩前進みたいな気もありますね(笑) とにかくね。今回はきちんと書く。あのね。ほら文章読本とか有名な小説家が書いてますね。谷崎とか三島とか・・・そういうような感じで自分にとっての文章読本みたいな感じでね、”てにをは”をきちんと書いて(笑)そうすると、やっぱりそれだけの響きはするのね。」
筑紫「このアルバムは、楽譜がついてるわけですね?」
坂本「ええ。きちんと書いたのが(笑)」
筑紫「そういうことをやってみて、見えてきたものは、発見みたいのは、いろいろあるんでしょ?」
坂本「自分の中ではありますけどね。来年やるオペラのいい予行演習になったかな、と。つまりオペラというのは一時間や二時間という必要な長さがあってね、膨大な音を書いていかなければならないわけで、ちょっとその準備体操みたいなところもありますね。」
筑紫「オペラというのは、歴史が古くて、ある意味古めかしい形式の音楽ですよね?それをあえてやろうというのはどういうことですか?」
坂本「う〜ん、それね、自分でもよくわからんないんですけども、10年くらい前からね、オペラという言葉のもたらす響き、情感というのか、そういうものに惹かれるようになってきて。ところが僕は筑紫さんと違ってね、あまりオペラを見たことがないし、実は従来のオペラを好きではないんです。オペラっていうのはOpus、つまり作品という意味の複数形なんですね。まだ容器として、入れ物として使えるんじゃないかなという気がしてますけど。」
筑紫「でも、坂本さんのことですから、今までみんな知っているオペラとは相当違うんでしょう?」
坂本「実はね。見もしないのに好きだ、嫌いだって言ってるのはいけないんで、先日ある古典的なイタリア・オペラを見に行ったんですよ。やっぱりね、僕の体質に合わなかったですね(笑)だから僕の体質でやるオペラは、古典オペラの側からみれば、あんなのオペラじゃないというものになるかもしれないですね。」
筑紫「じゃ、テーマとしては、細かいことは別としてどういうこと考えてる?」
坂本「これはちょっと大言壮語なんですが(苦笑)、来年やるということで20世紀の総括というひとつのテーマと、共に生きる、共生ね?このふたつの関係がどうなるかっていうのもあるんですが、そういうふたつの柱を立ててるんですね。」
筑紫「それは、頭の中ではぐじゃぐじゃ状態ですか、それとも輪郭があるんですか?」
坂本「これは小説でいえば長編小説でしょう?だからね、なんとなく書き始めるというわけにはいかないんで、ある程度のストラクチャーというか構成をね、考えなきゃいけない。それで、頭の中ではね、95%ぐらい整理された形で出来ました。」と教授、とても嬉しそうに破顔して笑う。
筑紫「モンゴルやいろんなところへ行って、随分今度は取材をしてますね?」
坂本「実際そこに行った映像を使うかというよりも、この間のモンゴルは、モンゴルの草原の風のにおいとかね、人々の生活を実際に見ることで、なにかインスピレーションを得ようということで・・・・・・・」
筑紫「話はつきないんですが、じゃあもう一回だけ弾いていただきたいということで(笑)」
教授「はい」と返事をして、ステージにあがる。2曲目は、「aqua」。1曲目の「intermezzo」もそうだったが、アルバムの中の演奏に比べるとテンポは心なしかゆっくりめに、淡々と丁寧に。強音も節度をもって、ばらつかない纏りのある演奏。ちょうどその日の教授の振る舞いのよう。「aqua」の後半部分も無闇に盛り上げたりしない。

教授はやっぱり神妙な顔だった。会話の流れの中で笑ってみせるが、次の瞬間忽ち表情から笑顔の余韻が消え、 口をきっと結んでちょと伏し目ぎみに真正面を向く。まるで、武芸者が正座してるみたいだ。教授は、もともとシャイな人なので、以前はトーク番組なんかにひっぱり出されると、すっかり照れて顔を下に向けてじーっと黙ってしまうことがある人ではあった。そして、”この沈黙はヤバイ”と傍からもわかるほど内心うろたえるという局面を、我々は何度もテレビ画面を通して目にしてきた。その度、「教授ガンバ!」などと声にならぬ声援を送ったファンも多いだろう(笑)僕もそのひとりだ。しかし、現在の教授にはその種の自意識的な焦りなど眼中にない。教授の内部には、まだ目にみえる形では表われていない途方もない何かが蔵されているのだ。それが常に教授に神妙さを強いるのかもしれない。今、教授は懐妊中なのだ。

イタリアの古典オペラが体質に合わないという教授の言葉には、なんだか救われるような気持ちだった(^^;; 僕はクラッシック・ファンでもある。CDの数は圧倒的にクラッシックが多い。それでも、イタリア・オペラだけは苦手だ。そいう日本人は多いのでは。舞台の上で太った女性が大きな声で延々とアリアなんかを歌うのにはどうしても馴染めない。壮大というよりも、うんざりするほどのオーバー・デコレーションとしか受け取ることができない。ところが、イタリア・オペラというのは、クラッシックの世界では非常に重要な位置をしめている。これを嫌うとモグリと言われかねない。いやヨーロッパでそんなことを口にしたら、確実にクラッシック・ファン失格と言われるだろう。それを、西欧古典音楽の最高の教育を受けた教授も苦手なのかと思ったら、ちょっと安心。他の人もそうでしょう?ワーグナーの楽劇はOKなんだけどな・・・・・ぶつぶつ・・・・

対談の中でオペラの構成に触れらているが、脚本についてもかなりの試行錯誤があったらしい。他誌での対談によれば、多少日本的なものにしようかという案もあって、三島や漱石や谷崎の長編小説を読みふけったとのこと。それはおそらく日本の現代作曲家の先輩が、しばしば日本文学の名作をテクストとして、日本文化を加味した独自の歌劇をつくろうという試みを繰り返してきたからかもしれない。しかし、やはり納得のいくものがなかったということだ。 ともかく「頭の中ではね、95%ぐらい整理された形で出来ました。」ということだから今からとても楽しみだ。でも、頭の中に入っちゃうんだねぇー、巨大な構造物が。どういう頭脳なんだろうねぇ。人間も長ずれば、頭の中に信じられないような構築力が備わるもんなんだねぇ。どういう感覚なのか味わってみたいものだよ、まったく。


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