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<建設現場の不当取引問題>

1. 立教の法学部卒業のある方(以下、元学生ですから「貴兄」と呼びます)から、私のホームページのゲストブック欄に以下のような書き込みがありました。

A氏より

 デフレ経済を実感しながら、毎日、頑張っております。

 最近、非常に多い例で是非、教えていただきたい事があります。

 K社の現場に納品し、請求先も初めはK社だったのが、突然K社より、「下請のA社に請求してくれ」と指示され、その後、下請・A社が倒産して支払いが滞った場合、K社に法的責任を求める事は不可能なのでしょうか?

 本当に「マル投げ」を法的に完全禁止(せめて公共事業だけでも)して欲しいものです。

2.契約関係は?

 ゲストブック欄にも書きましたが、法的には民法の試験問題にもなりそうなものですし、貴兄の会社とK社・A社との関係も分からないことも多いので、私にはここで正解を述べるような自信はありません。

一応の感想めいたものを書きましょう。

 そもそもK社と契約を締結する際に、書面できちんと債権者・債務者が明示されたのでしょうか。K社との間の契約書の中に、K社が債務者あるいは連帯保証しているなどが書かれてあれば、A社が倒産しても、K社に法的責任(債務の弁済)を請求することはもちろん可能です。

また、これとは異なり、貴兄の会社が下請のA社と契約を締結しただけで、法的にはK社とは関係が切れたのなら、A社が倒産してもK社に債務がありませんから、K社に支払いを請求することは難しいでしょう。

これらの契約がきちんとあればいいのですが、貴兄の会社としては、K社が仕事をくれるのですから、K社に対しK社が債務を負担するということを書面でくれとか煩いことは言えない立場なのではないかと推測します。建設業法が適用になる場合には、その違反を問えますが(同法19条は書面交付義務を定める)、そんなことをしたら、もうK社からは仕事をもらえないですよね。

独禁法上の「優越的地位の濫用」も、また下請代金遅延等防止法上の書面交付義務その他の規制も、本件のようにK社から不当な取引条件やその実施を強要された事業者(貴兄の会社)がこれを違法として抗議しても、K社に無視され、仮にこれを公取委に調査依頼したり裁判所に訴えたりすれば、K社との取引は終わりになり、かえって損害が広がるおそれが強いかもしれません。このことが、これらの法的ルールの実施を困難にしていることは周知の通りです。

3.ある知人より

 これをある知人に送って意見を求めたところ、以下のようなメールを頂きました。

 『突然K社から「下請のA社に請求してくれ」といわれたといいますが、この点が不可解です。いくら建設業界には「なれあい」が多いとはいえ、こんなことはあまりありません。

したがって、先生のいわれるようにK社の法的責任がどのようになっているのか不明です。照会会社の債権がA社に対するものであれば、民法上は先生の言われるようにいかんともしがたいということでしょう。』

4. 建設業法上の規制対象

なお、ご存じでしょうが、建設業法の適用対象は、「建設工事の完成を請け負う営業」に限られています(同法2条の定義)。内装工事や電気工事についても、それが請負工事であれば建設業法の対象となります。

 しかし、本件の場合、「納品」といっています。据え付け工事がなければ単なる物品納入契約とみなされ、本法の適用対象外となります。

5. 国土交通大臣による立替え払いの勧告

 前出の知人からのアドバイスによると、以下の制度があるとのことです。 

 仮に、K社が特定建設業者の許可業者であれば、建設業法41条3項の立替え払いの勧告を、国土交通大臣(実際には各地方整備局)に求めることができます。本件では、当初K社との契約関係を、K社が一方的にA社との契約関係に切り替えさせた経緯がありますから、立替え勧告の可能性は相当高いと思います。

 この件での相談は、関東地方整備局建政部建設産業課(048−601−3151)で受け付けているそうです。

 もっとも、この手を使うと、その業者とは一切付き合えなることは避けられないでしょう。緊急避難の手段です。これも、さきの2で述べた契約時の書面などと同じ性格のものですね。

(建設業を営む者及び建設業者団体に対する指導、助言及び勧告)

第41条3項

 特定建設業者が発注者から直接請け負つた建設工事の全部又は一部を施工している他の建設業を営む者が、当該建設工事の施工に関し他人に損害を加えた場合において、必要があると認めるときは、当該特定建設業者の許可をした建設大臣又は都道府県知事は、当該特定建設業者に対して、当該他人か受けた損害につき、適正と認められる金額を立替払することその他の適切な措置を講ずることを勧告することができる。

6. 問題の背景=「マル投げ」と内部告発 本件の問題の背景は、貴兄が書いているとおり、K社が落札者なのに、K社はその施行をA社に「マル投げ」し、そのA社から仕事をもらった貴兄の会社がA社の倒産のあおりを食った、ということなのでしょう。建設業法(22条)は、「一括下請負」の禁止を規定していますが、これに違反する事例もあるとききます。先に繰り返し述べたように、違法だ等と言ったら、これもK社からは仕事をもらえない結果になりますね。

告発者の秘密を守る法律を作るべきだという運動をしている方がおられますが、これは企業内部の労働者だけでなく、下請事業者など取引上の立場の弱い者も同様な保護を受けられるようにすべきでしょう。

参照、川田悦子衆院議員の運動などにつき「内部告発のすすめ ”警笛鳴らす人”に保護必要」東京新聞平成14年3月13日付け朝刊、雪印食品につき、投書欄「指示不服従も可能な体制を」朝日新聞平成14年2月5日付け朝刊、職場の賃金格差などを指摘した本を出した行員に対する、三和銀行の戒告を無効とした大阪地裁平成12年4月17日判決・日本経済新聞平成12年4月17日付け朝刊など。

あいかわらず、貴兄の力にはなりませんが、何とか正常な取引関係を作って欲しいものです。





 「刑事罰の量刑、裁判官、陪審制度など」 2001.11.25

1.夏樹静子『量刑』(光文社、2001年)

 ひき逃げ事件の犯人の背後にいる者が、裁判官を脅迫して、量刑を軽くするように工作する、という話。
全体に、よく調べて正確に書いているし、構成も凝ったもので、ミステリーものとしてなかなかのもの、という感じ。
個別の法的問題については以下の通り。

(1)「自白の任意性」250頁。

この箇所にとどまらず、あちこちに、どうも日本は今でも「自白は証拠の王様」という発想から逃れられていない、というのは私の偏見か。この小説も、自白に大きな比重を置いた捜査、審理が行われている。

これと比べて、例えば、パトリシア・コーンウエルの検死官シリーズは、主人公が検死官だから当然であるが、科学捜査に重点が置かれている。ひき逃げなど、もっとも科学捜査が進んでいるケースだというがーーー。

(2)188頁、解剖鑑定書が杜撰という批判に触れた箇所など、近年ようやく知られるようになった医療訴訟における鑑定書の困難さにつながるものであろう。
ここでは、警視庁の研究所ならふつう5万円のところ、弁護士から150万円という 高額な報酬をとったと出ている。この点でも、米国では、これは鑑定人の地位等でもっと高額になることもあるようで、多くの法廷小説にも出てくることである。
 なお、法律家の鑑定書も、ある高名な法学者は依頼人に応じた鑑定書を乱発して信用を失っている、などという噂がある。
 医療関係では、法律の世界より、古い世界のようで、ある診断を批判するような鑑定書は書きにくい、と言われており、こっちの方が問題の根は深いと言えようか。

(3)メールの発信先をプロバイダーに協力してもらうくだりは、法的な手続きがない点で疑問。509頁

プロバイダーに情報を開示させることは、「通信の秘密」を侵すことであるから、どのような要件、手続きで行うかが問題になっており、現行の刑訴法でうまく機能するかいくつか判決があり、論争がある。
さらに、それらをふまえて新しい立法の動きが現実化しつつあることは周知の通り(「特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律案」2001年10月法案国会上程)。

(4)566頁にある、量刑についての考え方については、刑罰の本質についての、「応報刑主義」ないし責任主義、すなわち刑事責任の本質は「非難」であり、「刑は、犯人の責任に応じて量定しなければならない」(改正刑法草案48条1項)という立場と、同条2項での「目的刑主義」「教育刑主義」の双方が今もって微妙にともに取り入れられている、というのは、私が刑法を習った30年前から変わっていないようである。

事柄の性質上からも、これもなかなか変わるわけにはいかない、結局、応報刑主義と目的刑主義の双方を勘案して量刑すべきということになるから、次に述べる「相場主義」にならざるを得ないという面がある、ということであろう。

(5)しかし、「量刑相場」、「相場主義」406頁、707頁は、上述の刑罰の本質についての原理・原則とは別に、裁判所内の秩序、内部統制のようなものが無言で効いているような状況が背後にあるのではないか?

 たしかに、裁判官は「独立してその職務を行い」(憲法76条3項)とあるが、もし裁判所内で評価が高くなることを目指すとなると、最高裁以下の公務員としての内部秩序を考慮せざるを得ないであろうし、この種のことは昔の「青法協問題」以来議論されていることであろう。

(6)夏樹静子『量刑』は、エンターテインメントの要素が強いが、裁判官を主人公にした点が面白い。

しかし、主人公である裁判官が「自分が間違った判決を出しても、控訴審で覆されるから」として、三審制に逃げるのではなく、裁判官を取り巻く官僚制のしばりの強さなど、もっと厳しい批判がほしかった。

 

2.高野和明『13階段』(講談社、2001年)

 本作は、第47回江戸川乱歩賞受賞作品。
 冤罪の疑いのある死刑囚を助けようと、27歳の仮出獄の若者と刑務官が奮戦するストーリー。
 なかなか読ませると感心した。

(1)71頁 量刑基準―――「強盗殺人の場合、被害者が1人ならまず死刑にはならない。無期懲役だ。ところが被害者が3人以上となれば、ほぼ間違いなく死刑判決が出る」

(2)152頁 「法律では、死刑囚の処遇は刑事被告人(確定判決を受けていない収容者)に準ずる。

 しかし、1963年の法務省通達で、ほとんどの死刑囚は外界との連絡を遮断され、隣房の者と口をきくことすらも許されない。」

 これは不可解。上記の「法律では」というのが、どれだけ明確に定められているものか?

168頁 「監獄法の条文を無視して、どうして法務省の通達が優先されているか。法務省も通達の改正を望んでいるが、政治家が動かないので、法律を変えることができない。それで仕方なく、あんな通達をだしたのではないか」

 法務省は、前記の「ほとんどの死刑囚は外界との連絡を遮断され、隣房の者と口をきくことすらも許されない。」という運用が望ましい、と考えているのであろう。

 政治家が動かないのは、世間の人気がなくなるから。

 日本人は、過半数が死刑賛成でも、それを口にする(実施する)人間を白い目で見る。これが分かっているので、政治家は死刑について明確な態度をとりたがらないのであろう(選挙で票にならないし)。

(3)182頁「誤判の可能性、妥当でない判決、全然機能していない救済措置の問題」

この点の指摘があり、これが著者の全体の背景にあることもあり、小説としては、1.で挙げた夏樹静子のものより、この高野和明『13階段』の方が数段上。熱い思いが伝わるし、問題を掘り下げている。

結局は、日本人が死刑の実態に目を背けているままであるから、誤判であれば当然、またそうでなくとも死刑の実施の際に、当人と刑務官の双方に、悲劇が起こる。

これを読むと、死刑廃止が最善という気持ちが強くなる。

 

3.ジョン・グリシャム(J.Grisham)『陪審評決』(The Runaway Jury, 1996)(新潮文庫、1999年)

  グリシャムのリーガル・サスペンスものは、デビュー作の『法律事務所』(TheFirm,1992)以来、いくつか読み続けていたが、5作目の『処刑室』(TheChamber,1994)あたりで飽きてきていた(と、言うよりこれだけが駄作だった)。

 しかし最近、本作と、次作の『路上の弁護士』(The Street Lawyer,1998)(新潮文庫、2001年)を続けて読んで、法による社会正義の実現というまっとうな理想を、米国の現実の中で実現しようという夢をしばらく見させてくれた、という思いがした。

(1)全体が、『陪審コンサルタント』という、巨額の報酬と費用を得て、陪審員を選ぶことから、裁判の最中、最後まで、陪審員に影響力を与える仕事師についてのもので、興味深い。

陪審制をとる以上、陪審コンサルタントという仕事が成立し、高額の報酬を得るというのも、必然性があるのであろう。

しかし、言うまでもなく人を操作するということは、どれだけ金と人手をかけても簡単なことではない。

また、陪審制度は、基本的に陪審員に白紙の状態から裁判の過程で得られた知見のみを基にして、自由な意思で判断してもらう、という理想によるものであり、これはこの理想が実現しうるという確信がないと成立しない。

そして、有能な『陪審コンサルタント』が巨額な費用をかけても、限界があるということを、著者は言いたかったのであろう。

(2)上28頁「選挙人登録名簿」

秘密ではなく、ハッカーから購入できる?

 今の司法制度改革において議論されているように陪審制をとる場合(ただし、ほぼ中途半端な「参審制」で固まったか?)、この「選挙人登録名簿」の管理の問題は、実際上は大きな論点であろう。

(3)上69頁「問題はタバコの中毒性であって、中毒者は自由意思で選択ができない状態になっています」。

これは最大の争点で、この主張は正しいであろう。

(4)上202頁、下418頁 タバコの広告が青少年をターゲットとしているか、あるいは結果的にそうであり、 中毒者を生み出しているか。

これも原告側の主張通りであり、広告制限が強化されつつあるのは当然であろう。

(5)下212頁 被告側は、巨大タバコ会社であるから、膨大な書類を裁判所に提出し、その対応で原告側は不利に追いやられるのも当然。

弁護士費用は、敗訴のリスクがある以上、かなり高額であることが必要であり、「濫訴の弊」という、いつも出てくる非難は、訴えられる恐怖から出てくるものに過ぎない。日本では、不法行為以外の場合、十分な弁護士費用が出ないので、提訴さえできない場合がある、という状況は疑問(司法扶助制度はあるが)。

(6)下330頁 タバコ会社側は、賠償金の限度額を法定し、特に懲罰的損害賠償を追い払うことを議会に働きかけている。

日本では、懲罰的損害賠償の制度はなく、民法は実損だけであり、たとえばPL法があるが、賠償金はたいしたことはない。

それでも、訴えられ賠償金を払わせられるという恐怖から逃れようという同じ目的は、株主代表訴訟、住民訴訟の制限に向かうことになる。もっとも、こっちの方は、かなり高額になる可能性があり、問題は異なる面も多いがーーー。

(7)夏樹静子『量刑』を呼んだ後に、この米国の小説を読むと、職業裁判官か陪審員か、という二者択一は、いずれも人間のなす業であり、誤判ないし妥当でない判決が生まれる可能性は否定できない。

 結局は、職業裁判官か陪審員のどちらを信じるかという昔からの難問にぶち当たるのであるが、これら2つの小説は、これら両者の人間性がよく出ていて、「結局はーー」ではなく、それを支え、あるいは補完する様々な制度と社会の方が大事とも思えてくる。例えば、夏樹静子『量刑』の場合は、主人公である裁判官だけでなく、その他の2人の裁判官の独立性、重要性、あるいは、さきにふれた陪審制度の場合の「選挙人登録名簿」と、そのあとの実際の陪審員を選ぶ手続き、などである。


 


「NHKのホームページを禁止・制限する主張に反対!」

 

 以下は、総務省「NHKの子会社の在り方等に関する論点整理についての意見募集」(平成13年10月18日 http://www.soumu.go.jp/comment/index.html)に応じて、提出した私の意見です。

「NHKによるホームページ・サービスについての意見」

 

 本論点整理、および「放送政策研究会」における議論は、現在の放送の実態、制度、政策等についての大変重要な問題につき、かなり包括的にとりあげ、かつ前記研究会の提出ペーパーや議事録等を拝見すると、説得的な意見や興味深い検討がなされているように思われます。

 本意見は、NHKのインターネット利用、特にホームページ(ウエッブ・サイト)について、主として、私の個人的な、視聴者・利用者としての立場から、その積極的な展開を期待し、民間マスメディア側からの、これを禁止または制限しようとする意見を批判するものです。

 本意見を述べる前提は、NHKと民間マスメディアの間の「ジャーナリズム上の競争」の高度化を促進し、同時に経済的競争の促進をも視野に入れるという立場であり、これを基に私の視聴者としての感想を前もってごく簡単に示しておきます。

 第一に、NHKの番組は、「民業圧迫」どころか、民間マスメディアではなかなか見られない、多くの良質な番組を提供していることは、おそらく多くの方々が認めていることでしょう。

 最近の例では、この夏の敗戦特集を民放各社と比べると、NHKはポツダム会談をめぐる4回ものの特集や、久世氏の演出になるドラマ、広島もののドキュメントなど多彩なプログラムを展開し、年々手抜きになってきている民放各社と比べ、明らかな姿勢の違いが見られました。

 もっとも、民放各社の番組の中にも、NHKと比べはるかに少ないスタッフと予算の中で良質な番組を制作しようという試みも僅かながら続けられており、これはたとえばローカル局のドキュメントが各種の賞を受賞していることなどに現れています。しかし、これは例外的な位置づけと言わざるをえないことは、これらの良質な番組を見る機会が少ないことからも明らかでしょう。

 また、私はNHKの中波ラジオとFMラジオもよく聞きますが、これも民放各社と明確な編集方針の違いが見られます。特に、FM周波数の割当ては近年大幅な増加があったにもかかわらず、民放各社の番組は類似性が強く、クラシック・ジャズその他のファンとしてはNHK/FMしか頼りにならない、という状況はほとんど変わっていません。

もっとも、そのNHK/FM自身が、クラシック・ジャズなどの少数者向けの番組を次第に減らしているのは残念なことです。

 第二に、報道についてはNHKニュースには、永田町・霞が関発のものをそのまま流しており、発表ジャーナリズムに堕しているではないか、政権に近づきすぎているという批判があり、私はこれに全面的に賛成というわけではありませんが、一部首肯せざるをえない点もあるようにも思われます。

 この点の詳論は差し控えますが、NHKにはこの種の批判があることにもっと耳を傾け、ジャーナリズムの批判精神を実証するような番組、たとえば「NHKスペシャル」や「クローズアップ現代」などに時折見られる辛口の内容を期待しているものです。

 第三は、前記研究会でも取り上げられてきた重要な制度論のテーマですが、NHKの巨大化論、特にそのチャンネル数が多すぎるのではないかという批判についても、更なる検討が要請されていると思われます。

特にNHK/BSが3チャンネルとなったことの適正さ、またBS受信料も、地上波と同様の負担金説が採られていて、視聴者の選択を狭めていることが「公正な競争」といえるかには、現状に至った経緯を考えればやむを得なかったといわざるを得ないとしても、これからの二元体制の構築という観点からは強い疑問を持っております(この点は、近く公刊される私の共編著で簡単にふれました)。

 

■ NHKのインターネット利用についての意見

1. NHKのホームページの目的

NHKのホームページは、少なくとも現状では、視聴者に対する番組補完サービスないしその充実のため、として性格付けるべきです。

たとえば、見たいときにニュースを見る、また、より詳しいデータがほしいというニーズに応え、また放送と異なり検索が可能であるというホームページの特性は重要です。

この点では、民放、新聞社などの民間事業者のホームページと同様の機能を果たしており、視聴者にとっては、情報入手の選択肢が増え、比較も可能になるという点でプラスであり、放送についての二元体制の考え方と調和すると思われます。

これを禁止または制限するということは、現に果たしつつある上述のような機能を無視することにつながり、視聴者としてはNHKに対し、むしろ更に一層の充実を求めたいと思います。

2.その規模、コスト、クロサブ(=内部相互補助)問題

NHKによるインターネットについての費用は、「追加コスト」incremental cost、ないし「増分コスト」の考え方か、「平均コスト」の考え方か?

3.6億円、0.05%という数字は、おそらく前者であり、上記の番組補完という目的からすれば、追加コストで算定すれば足りると考えられます。

ただし、その具体的な算定の仕方を公表すべきでしょう。

 このような透明性が確保されれば、受信料支払者・利用者の利便に供している実態からも、ある程度の追加コストは、不当なクロサブとは言えず、社会的に容認されると考えられます。

3.インターネット・サービスについての事業形態の選択

BBCは、本体と別会社の双方でインターネット・サービスを実施しているようです。

 別会社方式は、不当なクロサブによる「不公正な取引方法」を防止し、さらにそれを超えて当該別会社の事業からの利益を本体に還元することを可能にする仕組みであり、本来はこの方式も考慮すべきかもしれません。

しかし、別会社方式の場合は、本体からの情報提供料をどう算定するか等の「子会社等問題」に共通する難問が発生します。また、この別会社はバナー広告等も許容されるべきでしょうから、後述の民間マスメディアとの競合がより深刻な形で現れることになります。

別会社方式の方が上記のクロサブ防止という点では、制度上はすっきりするのですが、本業たる放送サービスの補完という性格からは矛盾し、NHKの場合は当面は本体で行うことを中心に検討すべきであると考えます。

4.「民業圧迫」、「イコール・フッティング」との批判について

(1)民放等のマスメディア企業との競争関係については、まず競争の一般論として、財源その他財政的基盤の違う事業者の間で、実質的な競争関係が生じることは、他の産業にもよくあることです。むしろ、全く平等の基盤に立つ事業者だけで競争関係が生じることの方が稀とも言えます。

 他の産業においても、競争関係にある事業者のうち、特定の事業者のみが優遇措置を受けている例もあります。航空事業における過去の日本航空(特殊法人であった)、都営バスと民営のバス(競合路線は少なくなっていますが、採算のとれる路線では少数例でしょうが、まだ残っているのではないでしょうか)、旅館業と企業等の福祉施設、等々。

さらに、狭い意味では競争の場としての「市場」(独禁法上の「一定の取引分野」)とはいえないかもしれませんが、実質的な競争関係にたつ、類似の事業間の競合の例として、旧国鉄と航空会社やマイカーとの間の競争が「イコール・フッティング」となっていないという議論が盛んに行われたことがあります。

 「イコール・フッティング」は理想としてはあり得ますが、実際には何が「イコール」かという点からして難しい問題であり、また、上述のように、異なる経営基盤の事業者が競い合うことは、むしろ一般に有益なこともあると考えられます。

(2) 翻って考えてみると、NHKの特権的地位だけが論議されますが、たとえば、民放は、これまで長い期間、一定の税法上の優遇措置を受けてきましたし、デジタル化でも僅かながら助成措置がとられることとなっています。また、再免許の仕組み・実態、電波入札制が放送についてはかなり明確に採用されないこととされていること、あるいはBSデジタルについて、いわゆる「系列参入」が認められたことなども、これまでの放送行政の運用上、既存の民放各社、あるいは民放ネットワークが一定の重みを持って考慮されていることの現れと評価することができるのではないでしょうか。

 なお、全国日刊新聞紙を発行する各社も、その社会的・文化的機能を評価されて、独禁法上、原則禁止になっている再販が許容され、末端価格における競争の圧力から免れることが許されており、経営の安定化をもたらしています。この点については、これを批判し、自由競争を主張する議論も有力に主張されながら、この社会的・文化的機能が強く主張され、現行法の適用除外が継続されている状況にあります。

(3)しかも、NHKと民放は、財源が違うからこそ、「ジャーナリズム上の競争」が期待されるというのが、二元体制の趣旨であることはいうまでもありません。

 また、一般に、私企業は、複数の商品・サービス間でクロサブをすることは自由であり、ホームページなどは当分赤字でも維持する場合が多いのですが、これは自由企業として許容されています。

 民間マスメディア事業者がホームページを充実させてきているのは、多様な経営的観点に基づくものでしょうが、その1つには本業(放送や新聞などの本業)にも良い影響を与えるだろうという戦略的意図があることは否定できないでしょう。

 NHKも、同様に視聴者の支持を増やし、本業である放送サービスを補完し充実させ、ひいては受信料支払いの意欲を高めるという意図と機能を持つ限り、民間マスメディア事業者と競って、インターネット利用の高度化を工夫して欲しいと思います。

(4)以上の議論は、インターネット利用のほとんどが「ブロードバンド」によることになり、放送とほとんど同様の画質やコスト、使い勝手になるとすれば、また別の考え方をとるべきことになるでしょう。

しかし現状では、放送とインターネット上のホームページが相当異なる機能、画質、コスト等である以上は、放送における併存体制に悪影響を与えることはなく、また、ホームページをめぐる競争(このような競争市場が成立しているかどうかは疑問もあるが)にも、悪影響を与えることはないといえます。

独禁法および経済学の一分野としての産業組織論においては、競争の成立する範囲を「市場」と定義しています。NHKの受信料を公的負担金と解することが放送制度上は行政解釈として確定しているようですが、これとは別に、前記の競争論の観点からは、NHKも民放もともに「放送市場」、あるいはより狭く「地上波放送市場」において競争しているという解釈が成り立つと考えられます。

ホームページも、それによって各事業者が経済的対価を継続的に得ている等の事情にあれば、放送市場と別個の独立した「市場」と観念することができますが、現状は一部の有料ホームページがある程度であり、NHKや民放・新聞等のマスメディアが「ホームページ市場」で競争しているとは、少なくとも競争論からは言い難く、民間者も含め、あくまで本業の補完・充実にとどまっていると思われます。

したがって、「民業圧迫」となっているという民間事業者の主張は、ホームページそれ自体についての競争ではなく、本体である放送市場あるいは新聞市場(まとめて「マスメディア市場」が成立しているとも解されます)における、NHKの競争力をおそれて、ブロードバンド時代を想定した予防策として主張しているとも考えられます。これは、競争促進の観点からは、二元体制を意図的に狭く解し、不当な競争制限を狙っているのではないかという推測も可能であるようにも思われます。

(5)なお、本論からは離れることを若干付言いたします。

 NHKなどの特殊法人等も含め、国・地方公共団体等の(広義の)公共団体には、積極的な情報公開が要請されており、その重要なツールがインターネット上のホームページの充実であることは周知の通りです。

これらの公共団体は、行政事務その他について重要な情報発信を行うに際し、これまで機関誌ないしいわゆる「外郭団体」や純粋の民間事業者による有料の情報提供事業を、たとえば「機関誌」類似のものとして利用することが多く行われてきました。

しかし、上記の情報公開の要請から、これらの公共団体がホームページ等によって直接情報を提供することが広まっており、これは国民にとって大変望ましい変化であると思われます。

しかし他面では、この傾向は、従来、これらの行政情報等の提供を行ってきた民間事業者の「民業」を圧迫していることになり、実際に従来からの情報提供を継続しているこれら民間事業者等の中には苦しい経営に陥りつつケースもあるようです。

しかし、前記のように、国民ないし利用者(NHKの場合は視聴者)にとっては、ホームページ等によって情報源から直接豊富な情報を提供されることは重要な利益であり、「知る権利」の充実であるという言い方もできましょう。少なくともこの局面では、「民業圧迫」という非難が当たらないことは言うまでもありません。

要するに、国・地方公共団体、特殊法人等によるホームページの充実は、情報公開の要請、「知る権利」の実現等の観点からも望ましいことであり、この新しい状況の中で、民間事業者はそれらの情報をどう加工し、あるいは解説等の付加価値をつけるか等について、新しい工夫を行うことにより、これら公共団体からの直接の情報提供と競争を行う方向に進むことが望まれるのです。

これらの多様な情報活動が行われることによって、国民ないし利用者は、国・地方公共団体、特殊法人等からの情報提供を鵜呑みにするのではなく、他の民間の情報源からの情報と見比べて選択・評価し直すということが可能になると思われます。

5.ホームページの制限

(1)「 放送された番組の二次利用、放送番組の関連情報の提供に当たっては、提供期間を当該放送番組の放送後、一定期間内とすることが必要ではないか。

(例)

・ 放送後1週間以内あるいは3カ月以内とする

・ シリーズものの放送番組は当該シリーズが終了するまでの間とする 」

 これは、前記の補完という考え方からは矛盾し、視聴者にとっては、このような制限はホームページの利用価値を意図的に低めることになり、不利益でしかありません。

 ホームページの最大の機能は、番組情報、番組関連情報を自ら探し出すこと、特にパソコンの魅力である「検索」機能を自由に享受できることです。さらに、過去にどのような事柄、事項等が放送され、言葉・用語が使われたかなど、ホームページに残されている情報の中から検索し発見できることは重要な利点です。
 なお、私の経験からも、ホームページに多くの情報を蓄積し、特に画像情報を入れようとすると、重くなって使い勝手が悪くなるので、何らかの工夫が必要になるでしょうが、これはNHKが多様な視聴者のニーズにどう応えるかという観点から考えるべきことであり、外部の者が制限するという筋とは異なります。

(2)「提供する情報の分野についても一定の範囲を設けることが必要ではないか

1. 「放送された番組の二次利用」については、当面、権利処理にあまりコストを要さない分野に限定するかどうか。

(例)

・ ニュース及び教育や福祉の分野とする

・ ドラマ、音楽、芸能分野は対象としない

・ 上記の規模及び態様の範囲内とし、分野は特に限定しない 」

 この制限も、上記の視聴者の利益から見れば疑問であり、最後の「分野は特に限定しない」という議論が妥当であると考えられます。

 コストについては、前記の通り、ある程度の制限があるべきでしょうが、ホームページに掲載することで権利処理にどれだけのコスト増があるのかは不明です。たとえば、ニュース素材などはコスト増はあまり考えられませんし、他方で、コスト増の懸念という点で、その対極になるであろうドラマについては、最初の段階での権利者との契約次第です。

 この権利処理の問題は、一般的に、「放送と通信の融合」が広範に見られるようになるデジタル化時代におけるマルチ利用のための権利処理について、民放も含め、インターネット時代に対応して抜本的に考えるべき問題であり、NHKのホームページのことだけに、この点を持ち出してくるのは違和感があります。

 ここでも本論と離れますが、権利処理については、NHKも含め放送事業者が、実際に番組を企画・制作する番組プロダクションに、多くの場合著作権を認めないという実務が、ブロードバンド時代のコンテンツ流通の最大の障害になっている、ということを指摘しておきたいと思います(これは既に各方面から、問題とされていることですが)。

 また、「ドラマ、音楽、芸能分野は対象としない」というのは、民間事業者との「番組分野棲み分け」論につながる問題ですが、二元体制とはこの分野の点も含め、刺激しあい、競い合うことも意味していたはずではないでしょうか。

 視聴者にとって、過去にどんな芸能が取り上げられ、あるいは過去のドラマでどのような問題が取り上げられたかなど、検索で知ることができれば有益です。逆に、この点からすれば、NHKに対し、情報検索の充実などを要望したいと思います。

 

(3)「放送番組の関連情報」については、当面、民間との競合が比較的少ない分野、あるいは公共性の高い分野に限定するかどうか。」

 これも上述の理由から、同じく反対。

 民間事業者との「番組分野棲み分け」論は、一般論としてはあり得る理屈なのでしょうが(前記のように私は反対)、その点を措くとしても、これをホームページの内容制限として具体的に実施するのは疑問です。

 また、実際にどう切り分けるのか、「公共性の高い分野」をどう判断するのかなどの疑問があります。近年のNHKのドラマには、司法問題、少年犯罪問題等を扱ったものが多く、さらにより広く、たとえば「報道の娯楽化」として非難されることもありますが、分野間のクロスオーバーはかなり以前から試みられ実施されつつあることでしょう。

 この「番組分野棲み分け」論を主張したのは、おそらく民間のマスメディアでしょうが、前述のように、民間マスメディア事業者には、NHKとすべての分野で競争し、NHKとは違った番組を作って、視聴者の選択に供しよう、という姿勢が望まれます。

6.「独立情報」

(1)以上の5で述べた、NHKのインターネット利用につき、「二次利用」、「関連情報」についての異論は少なく、問題は、「独立情報」であるという見方もあるようです。

 そこで、以下では、独立情報の利用を、放送される前の放送素材をいち早くインターネットで流すことや、放送されなかった放送素材を、新たに編集し直し「特別編」などの形でインターネットで提供することなどを意味するとして項を改めて検討することにします。これらは、「関連情報」に含まれるとも思われますが、この区別は編集の程度・仕方にもよることでしょう。

この他、独立情報の提供とは、NHKの本来事業と全く独立に、ニュース取材をしたり、映像番組を制作し、それらをインターネットで提供することであるという理解もあり得ますが、NHKはその種の事業を行う計画も意思もないとのことですので、この点は考慮から外します。以下、これを「純粋の独立情報」と呼ぶことがあります。

(2)議論の始点は、これまで述べてきたたことと同様に、受信料を支払う視聴者の利益であり、競争事業者(民間マスメディア)の競争上の利益は第二次的に考慮される、というのが、放送制度上妥当な考え方であると思われます。

(3)一方で、「独立情報」の利用を否定的に解する議論の根拠として以下の諸点が挙げられます。

受信料はなるべく安価であるべきであり、また受信料支払い拒否者もいること、更に基本的論点として、「公共放送」をなすべき特殊法人としての設立目的による制限、そして、民間マスメディアとの公正な競争を阻害しないか(ここは、「ジャーナリズム上の競争」ではなく、経済的競争が主たる問題)等。

(4)他方で、「独立情報」の利用を積極的推進すべきであるとする議論の根拠としては、第一に、NHKの本業(放送事業)から得られる資源、特に取材等によって得られた情報・コンテンツ、あるいはそれらの背景に有すべき各種の情報に関する企画・理解・整理・編集する能力は、インターネット等の他のメディアにも有効に活用されることが、受信料支払者,さらにより広くすべての者にとって利益になる、と説かれています。

民間マスメディアにおいても、企業集中、経営の多角化(ただし、本業以外のマスメディア事業、広義の情報提供業がその中心)等の動きが近年さかんですが、その理由も上記の資源等の有効利用にあるのでしょう。

第二に、「独立情報」をインターネットで流すコストは、上記の限定の下では(「純粋の独立情報」ではない)本業で用いられた放送素材等の活用ですから、追加コストで足ります。

第三に、このインターネット上のホームページでは、BBCの別会社によるインターネット事業のように、広告収入も許容し、無料とするか、あるいは有料できる部分は有料として、いずれにせよ、本業からのクロサブ(内部相互補助)なしに、むしろ収益をあげ、NHK本体に利益を還元できるかもしれません。そうであれば、視聴者・受信料支払者の不利益にはならないでしょうが、他方でリスクも負うことになるでしょう。

(5)上記の諸点を比較考量すると、視聴者としては、純粋の独立情報については別として、関連情報に含んでもいいような独立情報の活用をインターネットでも利用することには積極的であってよいようにも思えます。

しかし、前記(6(4)末尾)のような発展傾向が出てくることまで考えると、特に純粋の独立情報に近い利用形態については、数年後のブロードバンドの普及状況がどうなっているか等も含め、「論点整理」にあるように、NHKをめぐる基本的な論点と一体的に、慎重に検討しなければならず、本意見でも結論を出すことは差し控えざるを得ません。

また、インターネット利用には、ホームページ閲覧サービスの他に、視聴者との間のEメールでの情報交換等、ファイル転送サービス(FTP)等も含まれるのでしょうが、これらも「論点整理」ではふれられていず、ここでも割愛します。                ■■



「NTTフレッツアイサービスへの苦情について」

この問題は、この1ヶ月の間、多くの紛争が生じ(正確にはマスコミがキャッチしたことにより)、多くの報道がなされています。

今更とも思ったのですが、私が関係したこの件についてのクレームの顛末をなるべく客観的に掲載します。ただし、<1>のメールを受けて、私からNTTの知人(複数)に出したメールが行方不明でありません。たぶん、私自身のコメントなしで、こういう苦情がきていますが、事実関係はどうなんでしょう、という程度だったと記憶しています。

ここでこの問題を掲載するのは、NTTを攻撃する趣旨ではむろんなく、第一に、企業と消費者の間には、この種の紛争が不断におこるものであり、こうした議論を通じて議論しあうこと自体が大事だし、それを公開し記録しておくことも今後のためになる、と考えたからです。

 第二に、その際に、企業側の正式な対応は、社内で権限のある者(以下では<2>がそれに当たります)によってなされますが、企業には多くの意見お方がおられ、それらも掲載しました。

企業として意思統一を図り、正式な決定を公表することも重要でしょうが、社員がそれぞれ自分の意見を持ち、非公式にでもそれらを外部の者と(こそこそとではなく、オープンに)議論するのが通常のはずで、このことがむしろ各企業の自由で活発な雰囲気を作ると思います。

NTTは、以前NTT分割論議の中で社内で「言論統制」を敷いたと批判されたことがあり、これにも社内的には理由があると拝察していましたが、やはり「多事争論」の方が面白いし、正常な現象でしょう。
言うまでもなく、これはどの組織についても同様で、各企業、各省庁でも、また私の属する立教大学でも、多くの議論が対立し、それを外に出してまで明らかにすることが、むしろその組織を強くするのだと思います。

 第三に、上のような真面目なこととは別に、実は、このクレームを出したAさんのメールがおもしろくて、こんな元気で生きのいい方がおられるんだ、ということを読んでもらえれば、というのが本当の私の意図です。

 

<1> 00年10 月 4日 在日10年になる台湾出身のAさんより舟田あて

 こんにちは。お久しぶりです。
 お元気ですか。
 さて、ご覧になった件名の通り、私はここんとこNTTフレッツアイサービスの開通をめぐって、カスタマーサービスの方に対して激しく抗議しています。
 まず、事の始まりは8月15日前後に、電器屋さんでサービスの申し込みをしました。
 「いまフレッツアイの工事が大変込み合っていますので、すぐには利用していただけない状況」と言われて、まあ、待たされている人が沢山いますので、それはしょうがないことだと思い、承知しました。

 4日後、工事担当の方から連絡が来て、とりあえず、9月からISDNのサービスが始まって、10月からフレッツアイが利用できるようになるということでした。それで、フレッツアイが始まるまで、深夜11時から利用できるテレ放題で我慢。
 それで、9月からISDNだけのサービスが始まりました。工事担当の方の話によると、フレッツアイの工事は9月の20日から9月末の間に行われる予定だそうです。

 ところが、25日に過ぎても一向工事が開通する気配がなく、もちろん担当の方からの連絡も一切ありません。そこで、私のほうからフレッツアイのほうに電話をかけたのですが、電話が込み合っているので、通じませんでした。それで、116のほうに電話して、自分の用件を伝えて、自分が置かれている状況を説明し、それで、なんとかそちらにフレッツアイに対し、ファックスで連絡を取ることをしていただきました。

 それでも、フレッツアイの工事担当者からは連絡が一向来ませんでした。

 もちろん、フレッツアイのサービスが開始すると、私が今まで繋ぎとして利用しているテレ放題の利用が不要になりますが、テレ放題のサービスの料金には日割りがないので、もし、フレッツアイのサービスの開始が1日以降になりますと、その月私はフレッツアイだけではなく、テレ放題の料金も支払わなくてはならないことになるので、そういう事情を避けるべき、私はフレッツアイへの連絡を急いだのです。

 が、やっと連絡が取れたのは10月3日でした。工事日の予定について、問い合せた結果、10月の中旬になると、しかも、もちろん、テレ放題の料金も私負担になるという予想通りの返答が来ました。

 しかし、私はそれに対し大変不服です。

 まず、約束は10月1日からの開通なのに、開通日を遅らせたのはそっちの勝っての都合なのに、どうしてそういう責任を私に取らせるわけですか?
 これに対して、
フレッツアイ側は「そういった約束はした覚えがない。第一、今工事のほうが大変込み合っているので、ほかのみんなも待たされてるわけだから」と知らんぷり。

 私は「もしそういうふうに言われなければ私は9月の25日から何度も何度もそちらに連絡を試みようとしないし、10月からの開通を楽しみにしなかった。約束が違う。なんで予想外の出費をしなければならない?」

 フレッツアイ「そうしたら、テレ放題のサービスを先月締めにして、工事開始日までインターネットを使うのを我慢しろ」

 私「話がますますおかしい。私は10月1日からの終日インターネットが使えるサービスを期待しているから、このサービスを申し込んだのに、なんでそれまで使うのを我慢しなければならないわけ?」

 フレッツアイ「利用するのもいいんだけど、通常の電話料金はもちろん支払ってもらう」

 私「それじゃ、話にならない。下手にすりゃ、テレ放題の1800円よりも嵩むじゃない?」

 フレッツアイ「システムがそうなっているから、しょうがないことである」

 ふざけんなー!!と私が電話に向かって叫びました。

 

 このような汚いやりかたで立場の弱い消費者からお金を取り上げるじゃ、あくどい商法としかいいようがない。第一もうし工事が予定通り開通できないようだったら、あらかじめ私のほうに連絡をくれればよかったのに。またテレ放題使用のお客さんがフレッツアイへ移行する際の料金に対応した計算システムを設けるべきだ。

 天下のNTTはやくざ並の商売をしているとしかいいようがない。
 また、そのサービスしか選択肢のない消費者が可哀想。
 このようなひどい目に遭っているのはきっと私一人だけではない。
 別の選択肢のない私達は結局、このようなひどい会社のサービスを引き続きを選ばなければならない羽目になる。 
それを見透かしたような言い方をしたNTTフレッツアイは最低。

 また外人だから、日本語もろくに喋れないじゃないから文句は言ってこないんだろうと思って、それは大間違い。
 私はみんなにNTTフレッツアイの醜行を訴える。

 このことをほかの友達に話したら、フレッツアイの契約書にはNTTが認可以外のプロバイダーを使用すると別料金が加算されるとどこも書いていないのに、知らずに使ってたら、翌月の電話代が20万円になっていた。と大変ショックを受けたという。

 このようなお粗末な対応に泣き寝入りをする消費者が数知れず。
 私もどうしでもすっきりしない気分です。
 どうしたらいいでしょうか。(訴えに出たいんです。はっきりって)

<2> 私からNTTの知人に問い合わせた結果

舟田先生

初めてメールを送らせて頂きます。
私、NTT●●●セクションの●●と申します。
私が●●の責任者に確認した所、次のような経緯でし た。

・10月4日、郵政の消費者センターから弊社カスタマーサービス責任者にクレー ム情報が入りました。

・5日、カスタマーサービスよりA様へ電話で連絡、事実関係を再確認させていただきまし た。

・弊社の不備をお詫びし、10月11日にフレッツ・ISDNのサービス開始をお約 束すると共に、弊社の不手際だったことから10月分のテレホーダイ料金は頂かない こととしました。

未だ工事が完了していないことから、完全に解決している訳ではありませんが、A様 には、一応、ご了解をいただけていると考えています。

弊社が想定していたよりも遥かに多くのお客 様からフレッツ・ISDNのご注文を頂いていることから、設備が間に合わず、長い 間お待ちいただいているお客様には非常に申し訳なく思っております。

更に、弊社のA様への対応に大きな問題があったことを私からも深くお詫びする次第 です。
現在、このような問題の解消に向けて、設備増設だけでなく、受付から工事までの体 制とシステムの見直しを行っております。
これらは11月にはこれを完了しますので、状況は相当改善されると考えています。

A様にも宜しくお伝えください。
また、舟田先生にも、大変、ご心配、ご迷惑をお掛けし、申し訳ありませんでした。
今後とも宜しくお願い申し上げます。

<3>  私からの返事

 NTTの皆様にはご迷惑をおかけしました。
 フレッツ・ISDNの顧客対応について実態を知りたいという動機と、もちろん、NTTが顧客に真摯に対応してくれる立派な企業になって欲しいので、こういうメールを出したわけです。

 フレッツ・ISDNに関する貴社の状況等を適格に情報提供して、顧客に了解を得るように努力して欲しいものです。 ともあれ、有り難うございました。

<4>あるNTT・OBの若い方から(私のゼミのOB、在米留学中)

NTTへのクレームですが、私はもう部外者なので、なんともいえませんが、個人的な意見としては、訴えることは無謀だと思います。ことなく解決するためには、このメールを受け取ったいまNTTで現役で活躍している私の後輩の誰かが、支店に連絡して、116や料金担当に話し、解決することがお客様へのサービスではないでしょうか?

自分の担当じゃないから?!というひともいるかもしれませんが、サービス向上のため行動してみてください。あと、自分の周りでおなじことがおこってないか?おこらないようにどうすべきか?と話してみてはどうですか?

詳しい状況は先生の受け取ったメールからはわからないのですが、”日本で生じた”ことなので、NTTが悪いでしょう。

(アメリカやヨーロッパではよくある話。2週間だけでしょ?が現状です。)

しかし、NTTの人が9月中旬から下旬に絶対開通する!と言ったということは考えにくいですね。あと、電話をなんどもかけた!
ということですが、その事実を証明することはむづかしい。メールの返事が帰ってこない!!・・・ 電気屋で申し込んだ!

というのもNTTにとってはいい逃げ道でしょう。フレッツアイに電話をして、仮につながったとしても、同じことだったとおもいます。

あと、テレホーダイは日割りでない!と知っていたのなら、9月末でやめるべきだったでしょう。それとも、工事日を11月1日にしてもらって重複支払いを防ぐこともできるでしょう。フレッツアイはまだサービスをうけられない地域もあると思うので、まだ恵まれているほうだとおもいます。

NTTはいろんな方法でサービスを申し込むことができますが、窓口(116、WWW、メール、代理店、営業窓口、営業担当など)がおおすぎて、Checkがむづかしいのが現状です。CUSTOM等で統一されてるはずですが、今回はISDN、ネットワーク商品、割引商品といろいろからんでいるのでなおさらです。(ここを解決しなくてはいけないいんですが。。。)

しかし、こういうクレームが増えれば、NTTにとっては好都合な点もあるのです。再統合です。個人的な意見なんですが、NTTはやはり再統合を望んでいるでしょう。
NTTネットワーク完全解放(海外キャリア)、完全自由競争とひきかえに再統合をねらっているのではないでしょうか? ”分割してお客様のクレームが増えた。”はいい理由じゃないですか?

どうでしょう、先生。

長々と先生の”用件は簡潔に!”という言葉が聞こえてきそうです。もっともっといろんな意見はあるのですが、このへんにしておきます。

<5> NTTの若い社員より(これも私のゼミのOB)

言った言わないの水掛け論ならともかく、「電気屋で申し込んだ」ということにかんしては逃げ道にならないです。このような電気屋(我々は「パートナー店」とよんでおります)は、NTT東日本にとっては重要な販売チャネルとなっているのですから。実際、パートナー店からの売上げは、殊、ISDN関連商品については大きく依存しているはずです。(参考までに、千葉県北部のある主要都市の某営業支店営業部においては、売上げのうちの約7〜8割はパートナー店舗からの情報によるものだときいております)

このようなクレームを起こすことによって優良パートナー店舗をなくしてくのはNTT東日本の立場上、不都合なのは明らかでしょう。

まったくもって先生のおっしゃる通りだと思います。先生からのメールを見て、「こんなバカな顧客応対をする営業担当がいるのか」と、あきれてしまいました。さらに言うと、フレッツISDNのカスタマーサービスセンター(CSC)の対応が、あまりにも居丈高であることにもっとあきれました。お客様からのクレーム対応は、何度かやりましたが、お客様からまず言われることは、「こんな殿様商売だからNTTはダメなんだよ」「お前等はいつまでお役人のつもりでいやがるんだ」「サービス業ってのはお客様にサービスをするのが本分だろうが。なのに何をデカイ態度とってやがるんだ」等等です。実際、クレーム対応において、立場上、お客様の言い分を十全に飲めないという事態は生じえますが、それにしても先般のメールで承ったCSCの対処は社内から見てもひど過ぎます。本来なら、平身低頭で謝罪するのが当然でしょうね。(少なくとも私の支店の営業部ではこんなバカな応対はないと思います)それを、NTT分割のせいにするのはとんだお門違いとしか言いようがないです。

クレームを打つなら、116にするとよいでしょう。営業担当者やCSCの担当者名を明らかにして、「今後このようなことがあってはならない」などの強い口調でクレームを打つとよいと思います。

現在、自分はあまりクレームをつくっていないとは思うけど、私が担当したユーザーの中にも、こんな思いをしているユーザーさんはいらっしゃるのでしょうかねぇ…

  ただ、現在自分にできること、それは自分の周りのユーザーさんに満足してもらえるようなサービスの提案・提供をしていくことだと思っています。今回のメールで、とてもいい勉強をさせていただきました。

<6> 最初にクレームを出したAさんから

 舟田先生へ

 先生、元気にしていますか?

 さて、お陰様で、10月2日からの神聖たる戦いは今日をもってピリオドを打つことができました。 今日のお昼にフレッツアイのカスタマーサービスセンターの責任者からお詫びの電話が入りました。

 今までうってかわった態度で自分サイドのほうに不手際があった事実を認めました。 解決法としては、やはりテレ放題のサービスを9月締めにしますが、そのかわりフレッツアイのサービスが始まるまでの間の通信料金はNTT側負担となるという提案でした。

 連絡を受けた私は、おや?どういう風の吹き回しなの?と少々戸惑いを感じたものの、すなおにその条件を呑みました。

 この電話を受けるまで、私はずっと悩みました。

 なぜなら、実は昨日気持ちが高ぶったまま先生にメールを出した後(たぶんその時点での私の血圧はかなり高かっただろう)に、どうしても、この胸中のむかつきは下がらないので、そのまま武蔵野市にある消費者苦情センターに電話を掛け、訴えました。

 すると、「お気持ちは分かりますが、相手は天下のNTTですから、たとえ私たちがAさんのかわりに打って出ても何も変わらないでしょう。ほら、日本のマスコミってあまりNTTの悪口も言えないでしょうし、ましてAさん一個人の力なんてとても歯が立たないよ」と言われました。

 私「じゃ、私、泣き寝入りするしかないですか。」

 向こう「うん、たぶんそうなるでしょうね」
 が、そう言われれば言われるほど、そういう制度の不合理さを強く感じるわけですけど、どうしたらいいかと途方にくれました。

 胸中の溜飲が下がらないまま一夜を過ごし、裁判所に行って公判通訳を立ち会いました。真剣に民事訴訟を提起しようと考えました。でも相談した面々から、 「相手が悪すぎ。NTTですから、勝ちっこなんかないよ。たかがの1800円のテレ放題使用料じゃない。オレだったら、怒るけどやはり払うね」

 そう聞かされ、いささか日本人の不甲斐なさを感じさせられました。

 法律を知り尽くした、所謂日本社会のエリートでさえこうなんですから、いつまで経っても進歩しないのよ。アメリカだったらもうNTTは何回提訴されたか知らないよ。 そんな鬱憤な気持ちを抱いたまま昼となり、冒頭の電話が来たわけですから、もう、あれ?の連発です。

 いささか信じられない気分のままで自宅に帰り、メールをチェックしますと、先生からのメールが入っていました。 それで、多少事情が飲み込んだのです。

 テレ放題使用料は1800と大したお金ではないのですが(一回の定食代)、それに対して抗争に費やした心労、怒鳴ったエネルギー(調べの時に検事や警察達がよく使った小汚い言葉は今回とても役に立った?)等を考えますと、むしろ割に合わないのではないかという見方もあるでしょうし。けど、私は自分はいいことしたと思います。先生のおかげで円満(と言えるでしょう)にことを解決することができて本当によかったと思います。

 でも、私には先生がついていてそれでよかったのですが、ほかの一般の消費者の場合はどうなってるでしょうね。

<7> NTTのある知人より

フレッツISDNは私も利用していますが、対応は遅いといわざるを得ないですね(あの受付からサービス開始までの遅さは、残念ながら言い訳の余地がないです)。

ただし、これからは積滞から輻輳(正確には伝送容量)に苦情が移っていくような気がします。今も地域・時刻や利用プロバイダによっては、恐るべき低速サービスになっています。これも設備投資との競争なので、次第に改善されていくと思いますが...。

こういうことを情報提供して、顧客に了解を得るように努力して欲しいものです。

 

<8>NTT/OBの知人より

まだ、この程度の応対をNTT東の窓口でしているのかと思うと、私でも腹が立ちます。急転直下解決したのは、やはり大賀さんからの連絡で、現場の応対が変わったためでしょうか?「上」の方から、話を通すと応対がコロリと変わるのはお役所が一番だと言われますが、やはり、NTTもそうなのでしょうか。応対を変えるのなら、標準的な応対もそのようにすればよいように思えます。

お客さま応対の部門を外注して、お客さまのクレーム情報が社内に伝わらないケースが増えて来たように報じられています。三菱自動車のケースも、原因はもっと根本的なところにあると思いますが、応対を外注していることも一因でしょう。お客さまの声を経営、サービスの生かしていくことは、ネットワーク社会になっても変わらない、むしろ、一層経営上重要になってきているはずです。

独占でお客さまの声に対して真剣でないとすれば、今度の4区分の優先接続のなかで、市内や県内市外も各社がサービスをするので、NTT以外の選択肢を得たお客さまが、NTT東西以外を選択するのは当然のことではないでしょうか。

さらに、根本的には、NTTの経営トップの経営上の第一優先課題がNTT法とか、グループ経営とか、政策・規制問題であることです。トップがお客さまサービスの改善に関心が相対的に薄くならざるを得ないこと、また、そういう仕事をした人がトップ層にいないことも問題です。

(雪印などのケースも同じことでしょう。)

この一件のクレームは、結構根本的な問題を考えるにはよいクレームでした。外国で暮らしているご本人は、さぞ、不愉快な思いと、無力感を味わったことと思います。この件で、長いものには巻かれろ、的な反応もあったようですし、ご本人が、日本人と日本のビジネスに不信感を持つのではないか、また、孤立感をもつのではないかと心配です。

外国人がアメリカに暮らすと、アメリカの悪口をいうけれども、アメリカが好きになる。

外国人が、日本に暮らすと、日本がすっかり嫌になる、という傾向があります。アメリカはアメリカ人+アルファで人材を活用できるのに対して、この状態では、日本では日本人ーアルファの人材しか活用できなくなります。

若干の救いは、舟田先生の助言で、事態がこの件に関しては解決したことでしょうか。ただ、根本的には、何も変わらない可能性の方が強いでしょう。NTT東西の応対がお客さまに向いたものになるには、(競争圧力にも押されて)社内の発想、取組みを大改革しなければならないと思います。

この話をしていると、言いたいことが、次々を出てきて止まりませんので、この辺で終わりにします。私のとって、久しぶりの応対に関してのケーススタディでした。お知らせいただいてありがとうございました。

<9> NTTのある知人より

本件については、フレッツISDNの申し込みが、見込を遥かにオーバーし、現場の事務処理能力を、大きく超えてしまったということのようです。勿論、このような言い訳が通用するわけはないのは当然ですし、現場の担当者の対応の仕方もまずいと思いますが、あまり、うがった見方をするのは、如何かと思います。なお、ご本人へのお詫び等の対応をしたのは、舟田先生のメールがあったからではなく、その前に、現場で問題に気づき、現場の判断で行った事のようですので、その点も、素直に、ご理解いただければよいと思います。

NTTのしかるべき担当の方から、先生への返事があると思いますが、私の方からの、とりあえずの返事をさせて頂きました。

<10> クレームを出したAさんから

舟田先生へ

自分の書いた最初をメールをもう一度読み返しました。
たぶん普通の日本人は一生使うことがないだろうの過激な言葉をふんだんに使ったなといささか反省です。

自分読んでもちょっと可笑しいなあと思わず吹き出してしまったんですけど。またその時は、その対応のぞんざいさに対して怒り狂ったのと、大企業に対する不信感が沸き上がったのと、一個人の微小な力がとても歯が立たないむなしさなどから、性分のなく動揺してしまいました。

実は泣きながら、キーボードをパンパンパンとすごい力で叩いていましたよ。自分で読み返して、何を書いているのか分からないところもありました。(こんな程度の日本語文章しか書けないじゃ、通訳として失格だと今読み返して赤面だ)

先生よく理解してくださったね。

感心。感心。

<11> 舟田からAさんあて 「まだ終わりませんよ」

 貴方は本当に面白い方ですねぇ!!

 最初のメールもそうですが、これも思わず笑ってしまいました。
 ともあれ、泣き寝入りしないぞ、という「気概」には尊敬の念を新たにしましたよ。

 日本にも、こういう消費者がもっと増えないと、明るいオープンな社会は来ないよね(大げさかな)。 私も今、自転車置き場の件で、新宿区と警察にクレームをどうつけようか思案中。

 私の場合、NTTに知人が多くいますので、きちんとした話が通ったのですが、自転車ではもちろん皆無なので(その方が公正な戦いができるはずなのですが)、とっかかりが難しいし、何よりも、貴方が書いているように、エネルギーと気力が必要で、オジサンは最近、仕事に追われて疲れているから、弱気になっています。
 しかし、貴方には勇気づけられました。

 

<12> 舟田からこの件に関しEメールを交換した方々へ

(1)>あと、電話をなんどもかけた!

>>ということですが、その事実を証明することはむづかしい。メールの返事が帰ってこない!!・・・ 電気屋で申し込んだ!
>>というのもNTTにとってはいい逃げ道でしょう。

 これは少なくとも日本の事業実務では通用しません(裁判では別ですが)。
 日本は、その意味で、このようにクレームが正式に来たら、お客様の言うことが証明できない、というレベルの反論はしないのが通例です。

(2)>こういうクレームが増えれば、NTTにとっては好都合な点もあるのです。再統合です。個人的な意見なんですが、

>>NTTはやはり再統合を望んでいるでしょう。 NTTネットワーク完全解放(海外キャリア)、完全自由競>>争とひきかえに再統合をねらっているのではないでしょうか? ”分割してお客様のクレームが増えた。”はいい理由じゃないですか?

>>どうでしょう、先生。

 これも逆です。

 こういうクレームがくるというのは、独占にあぐらをかいているからだ、やはりもっと完全分割だ、という風に流れやすいと思います。だからこそ、顧客対応が重要だ、と思います。

 

(3) クレームを付けたAさんからの返事について。

 彼女のプライバシーを無断で侵害していますので、読み捨てて下さい。 しかし、ここに書かれていることには、消費者の権利問題にとって、重要な論点が含まれているように思います。 特に、地方自治体の消費者センターの機能低下は、最近よく新聞でも議論されている点ですね。

当事者間で、あるいは消費者センターでこの種の紛争を解決しないと、無益な裁判が増え、あるいは東芝のケースのように企業をあしざまに罵るホームページが人気を得てしまう、などの歪みが生じるのではないでしょうか。

<13> 別の若い友人より(10月29日付け)

ところで、私は、どういうわけかNTTとうまくいきません。あいかわらずの「お役所的応対」に、うんざりさせられてばかり。つい最近も、フレッツISDN(インターネットへの常時接続)の申し込みにあたって、電話をかけてきた担当者と言い合ってしまいました(サービス変更の説明がまったく要領を得ないうえに、工事の遅れについての説明があまりに高飛車だった)。先方がこちらを客だと思っていないので、何を言ってもすれ違いで、ものすごく疲れました。

毎回、何かサービス内容を変更するために連絡するたびに不愉快な思いをするので、こういう応対がNTTの企業体質を象徴しているのだろうと思っていました。しかし、自分はそんな経験をしたことはないという友人もいるので、もしかすると、私のところを管轄している---支店の問題なのかもしれません。

 




 
以下は、「立教経済人クラブ」の機関誌に掲載されたものです。転載を許可頂いた同紙の発行責任者である、すがた誠氏(立教大学法学部卒、練馬区議)に感謝申し上げます。

 

「情報公開は組織の内と外をつなぐ」

 1. 大学の説明責任

 先日、私の担当するゼミのメーリングリストの中である学生から、立教の法学部では試験について極めて厳しい規則があるのはどうしてか、という質問ないし苦情がきました。

私は、すぐ丁寧に法学部の試験システム等について説明した返信メールを出しましたが、その最後に、「学生が、大学・学部のルールや実施方法について疑問を持った場合に、それについて質問をし、その返答に納得できなければ自分の意見を大学・学部に提示し回答を要求することは、当然の権利行使です。  もっとも、多くの学生がまちまちに窓口にきて、この種の質問やクレームを次々とぶつけるのでは、事務に支障が生じます。したがって、本来は、クレーム処理窓口が必要なのでしょうね。これは私から教授会等に提案しましょう。」と書き加えました。

 大学も、何らかの意味で、学生(および保証人)に対し、各種の制度とその運用等について「説明責任」があり、これは会計・財務情報を中心とした情報提供(ディスクロージャー)だけで尽くされるものではありません。

大学の内部システムとして、公開された形態で前記のようなクレームに答え、正当と思われる主張であればそれを受け入れる等のコミュニケーションを図る仕組みを作り、これを運用することで、学生と大学との間の信頼関係を強め、より高度な相互作用を作り出すことができると思われます。

そして、大学の説明責任が、学生と大学の契約関係だけに基づくものではなく、学校法人として一定の特権と義務を課され、(減少しましたが)国庫補助を受け、受験生を集め、卒業生等から寄付を頂いている等々の社会的な重みを認められていることからも、これら多くの関係者、更に広く社会に対し、一定の説明責任を負っていると考えられます。逆に、説明責任を的確に果たすことで、関係者や社会に支持されることになるでしょう。

2.国・地方自治体・特殊法人の説明責任

地方自治体の多くは、かなり以前から「情報公開条例」を制定・実施してきました。国の行政機関に関しても、「情報公開法」がようやく昨年成立しましたし、公団・事業団等の「特殊法人等」についても、今年7月末に、「特殊法人情報公開検討委員会」の報告がまとまり、おそらく来年の国会に法案が提出されるでしょう。

これらの情報公開制度は、国・地方自治体等が民主主義に基づく統治を行う上で、主権者ないし構成員である国民・住民に対し「説明責任」を負っており、言い換えれば国民・住民には「知る権利」があることを認めたものと理解できます。

こうした情報公開制度は、一定の重要情報について一般的に公開する「情報提供」制度と、国民・住民が国・地方自治体等に特定の情報の開示を請求することを認める開示請求権制度から成り立っています。

これらは、例えば国・地方自治体等の不当な支出を追求する武器を与えたわけですが、より基本的には国・地方自治体等の各機関と国民・住民との間のコミュニケーションを可能にするという点を重視すべきでしょう。これによって、国・地方自治体等が「開かれた組織」となることが目指しているのです。

ですから、国・自治体等が開示請求に対し過度に防衛的な対応をとり、適正な事務の遂行に支障が生じる等の理由で開示請求を拒否することは、住民の不信感を増幅させるだけでしょう。

3.企業の説明責任

上述の情報公開制度は、国や地方自治体等の行政機関等を対象としたものですから、私人、例えば私立大学や企業には適用されませんが、社会的に重要な役割を担っている私人にも、機能的にはこれに近い運用が求められると思われます。大学については、前述の通りですし、私企業に関しても、例えば、三菱自動車のリコール隠しが社会的に避難を浴びたように、社会に広く商品・サービスを提供する企業には、それ相応の説明責任、情報開示義務が課せられるはずです。

もちろん、各企業は商法や証取法に基づいて、投資家に対する情報公開の義務が課せられていますが、ここではより広い観点からの情報公開の重要性を議論しているわけです。

消費者から商品に関し疑問ないしクレームがきた場合、一方で、「とりあえずお取り替えします」という類の対応では表面だけ取り繕うだけでは、消費者の疑問に答えたことにはなりませんし、他方で、東芝ホームページ事件に見られたように、クレーム常習者と決めつけ、頑なにはねつけることも、無用な摩擦を生むだけでしょう。

このところ、参天製薬、雪印乳業など、企業の「情報管理」体制が問われる事件が相次いでいますし、いわゆる千葉スズ問題も、水連がオリンピック選考の基準とその具体的な運用について十分な説明をしなかったことが問われたと見ることができるでしょう。

 企業は、多面的な活動をしていますから、これにかかわる多様な人々、消費者や取引の相手方等に、商品・サービスそれ自体やその他の諸活動について、的確な情報公開に努め、クレーム等に真摯に対応することが、当該企業の競争力、社会的信用を高めることになるでしょう。

 



 
以下は、「行政&ADP」10月号掲載されたものです。
  転載を許可していただいた(社)行政情報システム研究所にお礼申し上げます。

「通信インフラの設置・利用のあり方」

既に周知の通り、今年7月、政府は「事業通信技術(IT)戦略本部」を設置し、また郵政省も、電気通信審議会に、「IT革命を推進するための電気通信事業における競争政策の在り方について」という諮問をし、これから電気通信事業分野における「公正かつ有効な競争」の一層の進展を図る政策等について検討が行われることになります。

これは、いわゆるNTT再々編成の議論がからむ難問ですが、ここでは、その直後に公表された「地域アクセス網における実質競争の実現方策に関する研究会」報告書にふれておきましょう(これは郵政省のホームページに掲載されています)。

1985年の電気通信制度の改革後、NCCと呼ばれる第1種事業者が参入を果たし、長距離国際・移動等の通信分野においてはかなりの競争的地位を確保しつつありますが、地域通信分野では依然として東西NTTで92%超(売上高シェア。平成11年度決算による)を占めており、様々な制度的要因等によって、この分野への参入が困難であることが指摘されています。

そこで、前記の研究会では、昨年から半年余をかけて、地域通信市場(NTTの業務範囲とされている県内通信市場)のうち、特に参入が困難と言われている市内電話局とエンドユーザーを結ぶ回線(「足廻り回線」または「地域アクセス回線」と呼ばれています。)についての参入阻害要因について検討しました。

同報告書では、第一に、第1種事業者が自ら回線設置をなす場合(これは「自前設置」とも呼ばれています)、米国が主張するように特別の「線路敷設権」を制度化すべきであるとし、具体的には、特に道路・管路・電柱等の公平かつ円滑な利用のための制度改正等が提案されています。

私は、同研究会の座長として、研究会の場において、新規参入キャリア、NTT、電気事業連合会等から事情説明等をお聞きしましたが、NTTや電力会社が従来の公益事業制度の下で享受してきたインフラ特権をどのように競争的環境の中で変えていくか、という問題意識を共有する必要性を強く感じました。従来の方式は、特定の公益事業会社に、独占的に当該事業を行う特権と公益事業特権を与え、その反面で厳しい公益事業規制をするというものでした。しかし、これは現在、大きな変革を余儀なくされつつあり、それは、各公益事業それ自体についての自由化・競争導入だけにとどまらず、各事業のために設置・利用されている管路・電柱等の利用関係、道路法上の道路占用許可あるいは道路にかかわる様々な仕組みの変更をも要請しているように思われます。これは、上記の管路等を本業に支障のない範囲で新規参入者に開放すること、それを円滑に実施するための情報公開など、多岐にわたるでしょう。

 さらに広く言えば、上記の公益事業の場合以外にも、例えばJR各社、道路公団や、空港関係の公団・株式会社など、特定の事業体に、特定のインフラの建設・管理・運営を独占的に委ねる場合にも、一種のインフラ特権が生じるのであり、そこに設置される各種設備(例えば、電気通信ネットワーク)を当該事業体の自由な財産権の行使に委ねてよいか、という問題もあるように思われます。具体的には、JRの鉄道敷、高速道路などに設置される電気通信回線の「芯線」の保有は各通信事業者に開放し、しかし、保守管理については一元的に特定事業者もしくは共同事業体にアウトソースするなどの方法を採ることも考えられます。

第二に、1種事業と2種事業の区別によるしばりが、両者のネットワーク構築を阻害している場合があることから、第1種事業者が回線再販売をなすことを可能にする等の措置が提案されています。これによって、第一種事業者は、回線設置か再販かの選択肢が生じたわけですから、ネットワーク構築の柔軟性が増すことになります。もっとも、第1種事業者が回線再販売を受けるか、それとも第一で述ました「自前設置」をするかは、それぞれの料金またはコストいかんにかかわりますから、再販売を認めたことが直ちに第1種事業者のネットワーク構築の柔軟性を増すことにつながるかは今の時点では分かりません。

この具体的効果の点はともかくとして、このように制度的に回線再販売を解禁したことは、東西NTTという市場支配的な事業者のボトルネック独占の効果を弱める措置と位置付けることもできるでしょう。

またこの点は、将来的には、1種と2種の区別に代えて、あるいはこれと並んで市場支配的事業者だけに特別の規制をかける方式を導入するかという問題にもつながる可能性もあるのでしょう。ただし、1種・2種の区別は、上述の線路敷設権の扱いとも関係しますし(現在、第1種事業者には土地利用上の優遇措置があります)、「通信と放送の融合」や「ハード・ソフト分離」という大きな流れの中で検討する必要があるでしょう。

 このほか、今年の春頃から電気通信審議会で接続規制の一環として検討してきた、NTT局舎におけるコロケーション規制の推進のための制度改正もようやく進むこととなりました。これは、具体的にはADSL接続のための設備をNTT局舎に設置・管理・運用する際の公正なルール整備という問題です。

上の挙げた諸点は、NTT再々編成のような大問題に直接ふれるものではありませんが、こうした細かな制度整備の努力は、どの国でも、またどの公益事業でも共通に必要とされていて、細かい問題にしては実際上の影響力はかなり大きいものがあり得るようにも思われます。また、言うまでもありませんが、NTTをどう分割し、あるいはどう統合しようとも、地域通信市場における事実上の独占は少なくともしばらくは続くでしょうから、これらの諸点は、NTT再々編成のいかんにかかわらず取り組むべき課題であり、ただし、この課題の底流にはやはりNTT問題があるということも否定できないでしょう。



特殊法人等の情報公開制度の構築に向けて

 

今年7月、政府の行政改革推進本部「特殊法人情報公開委員会」の報告書「特殊法人等の情報公開制度の整備充実に関する意見」(以下、「意見」と略記)が公表された。この委員会の委員長は塩野宏氏、委員長代理を私がつとめた。

この意見は、特殊法人62,独立行政法人60,認可法人25,の計147法人について、前年度に制定された行政機関に対する情報公開法と同様の開示請求権制度を制定するべきことを提言している。

 なお、「行政改革推進本部」の「行政改革推進大綱」で、「2005年を目途に特殊法人を全廃」という報道もあり(日経8月4日付け夕刊)、個別の法人の特殊性を詳しく論じても、制度改正等ですぐ意味なくなってしまうということも予想される。

 しかし、国・地方自治体と私人の間に、何らかの意味で中間的な法人が設立され活動するというのは、どの国でも見られる必然的な現象であり、「特殊法人等」を広くとれば、今後もこの問題の重要性が減少することはないであろう。

以下、本意見の内容等について述べる。

 

1.経緯

平成11年成立した「行政機関の保有する情報の公開に関する法律」(以下「行政機関情報公開法」)は、「何人もーーー行政機関の長―――に対し、当該行政機関の保有する行政文書の開示を請求することができる」と規定する(同法3条)。

この行政機関情報公開法は、このように「行政機関」に限って開示請求権制度を創設したわけであるが、わが国の行政は行政機関だけではなく、いわゆる特殊法人等すべきであるということについては異論はない。

また実際上も、それらの情報公開が広く要請されていることは、(旧)動力炉・核燃料開発事業団(平成10年「核燃料サイクル開発機構」に組織替え)の事故に関する情報の不透明な対応、ないし「事故隠し」や、日本道路公団や日本下水道事業団等に関連し相次いだ談合事件(そのうちの多くは「官製談合」、「官主導談合」と非難された)などからも明らかである。

 

2.「特殊法人等」の意味

(1)狭義の特殊法人

特殊法人という用語は、広狭様々に用いられているが、現行法上はかなり狭い意味に用いられている。すなわち、総務庁設置法4条11号、行政機関情報公開法42条等は、「法律により直接に設立される法人又は特別の法律により特別の設立行為をもって設立すべきものとされる法人」と規定する(「狭義の特殊法人」)。

この狭義の特殊法人には、各種の公団・事業団・公庫・特殊銀行・金庫・特殊会社・共済組合・NHKなど、計78法人がある。

 

(2)独立行政法人

その後、平成11年成立の「中央省庁等改革関係法施行法」によって、「独立行政法人」の制度が法制化され、これに伴って前記の行政機関情報公開法42条に独立行政法人が追加された。

独立行政法人は、行政機関から切り出され独立の法人という形式をとって設立されたものであり、行政事務を実施する法人であることから、行政機関と同様に情報公開制度の対象とされるべきことは当然であると考えられる。

 

(3)認可法人

 認可法人は、「特別の法律に基づいて、数を限定して設立される法人であり、『特別の設立行為』によって設立されるものでなく、民間等の関係者が発起人となって自主的に設立されるものであるが、その設立につき又は設立の際の定款等につき主務大臣の認可にかからしめているもの」と定義されている。

これには、日本下水道事業団、日本赤十字社、日本銀行、各種共済組合など、計84法人がある。

なお、狭義の特殊法人と認可法人には、上記のほか、農林中金など「民間化された特殊法人・認可法人」が、計20法人ある。

 

(4)指定法人

 これに対し、指定法人には、そのような設立に際にしての政府の関与はなく、総務庁の実務(行政監察局調査)においては、「主務大臣又は国の機関としての都道府県知事等(以下、「主務官庁」という。)が、個別の法令等(通達等を含む。)

に基づき、法人や事業を指定(認定、登録等の用例のものを含む。)して、特定の法人に事務の委託を行う、若しくは法人が行う特定の事業を行政上必須の要件として位置づける場合における当該法人(以上、行政委託型法人)、又は特定の公共的事務を行うことに法律上の権威を与えたりする場合における当該法人」と定義されている。

 

認可法人と指定法人は、ともに民間による設立である点で、前述の「狭義の特殊法人」とは異なるが、いずれも特定の法人に行政事務または公共的事務を行わしめる場合の当該法人であるから、広義の政府の諸活動ないし行政事務を担う法人が含まれている。

 

(5)その他の公益法人・株式会社等

 法人の設立に関する規定や、上記の「指定」等に関する指定もないが、公益法人や私企業の中には、政府出資その他の資金的支援を受けて、または、政府から特定の業務を独占的に又は継続的に受託して、行政事務又は公共的な業務(この区別が問題であることについては後述)を行っている法人もあり、これらも検討の対象にすべきであるとの意見もある。これらの法人は通常、「外郭団体」と呼ばれているものを含むのであろう。

 

3.本意見のポイント

(1)本意見では、対象法人を、情報公開制度固有の理念に基づき、政府の説明責任が行政機関と同様に及ぶべき、特別の組織的及び経営上の特徴を有する法人と捉えた。

「意見」第2の説明文にある「国民に対し、政府の諸活動についての説明責務を自ら有する法人を特殊法人等情報公開法における対象法人とする」とは、この意味である。

 

(2)より明確で具体的な基準として、

(A)特殊法人、独立行政法人又は認可法人であって、「理事長等を大臣等が任命」又は「政府が出資できることとされているもの」。これで計56法人。

(B)この基準では適切な判断が導くことができない、公営競技関係法人、特殊会社、共済組合等、NHK、日銀の各法人については、個別に判断。

 

(3)不開示情報、第三者保護、救済制度、情報提供等については、基本的には、行政機関情報公開法の仕組みと同様。

ただし、情報提供を「開示請求権制度に並ぶものとして明確に位置づけ、そこで提供されるべき情報を明示し、「随時、状況に応じて適切な情報を提供するよう努めること」等と具体的に述べられている点が特色。

 

4.私のコメントないし意見

(1) 対象法人

 本意見は、開示請求権を受けるべき法人の範囲について、法人が「行政主体」であるものに限る等の「組織論的アプローチ」をとらず、「情報公開制度に固有のアプローチ」から、以下の具体的基準をたてた。
「ただし、本意見は、「組織論的アプローチ」から対象法人をとらえ、具体的基準もこれに従ったものという理解も可能であろう」

(A) 理事長等が任命制になっている法人あるいは出資規定がある法人(56法人)。

(B) しかし、公営競技関係法人、特殊会社、共済組合等、NHK、日銀の各法人については、これだけでは適切な判断が導くことができないので、これらの法人については個別に判断することとし、その結果、公営競技関係法人(5法人)と関西空港株式会社(ただし、建設業務にかかる文書に限る)のみを入れることとした。

 この点についての詳細は、私の論文「特殊法人等の情報公開制度」(塩野先生古希記念論文集に掲載予定)を参照。

(2)諸外国の例

大陸法系のドイツ・フランスは「公法人」概念が明確であり、そこで制定されている情報公開法も開示請求権の対象を、国・地方公共団体のほか、「公法人」が対象となっている。

これにプラスして、「公役務の管理の任を負う法人」(フランス)又は「公法上の事務を遂行し、かつ行政上の監督に服している自然人又は私法上の法人」(ドイツ環境情報法)(いずれも私法人)も対象となり、これは、日本の「指定法人」に近い概念である。

米国については、何らかの意味でgovernmentに関連している法人を対象とし、本意見のとった組織的、作用的要素を総合して判断、という立場に近い。ただし、ここでは対象法人を具体的に列挙せず、個別具体的に判断され、結局は裁判において決定される、という違いがある。

(3)その他

第一に、理論的には、指定法人等も対象法人にすべきである。

第二に、特殊法人等の自主性尊重の趣旨から、「第三者」には、国と地方公共団体も該当するとすべきだった。

第三に、救済制度について審査会への不服申立とそれによる「裁決」、そして、不開示の裁定があれば、裁定を争うという方法もあり得た。

第四に、対象外とされた特殊法人等についても、自主的な情報公開の仕組み(情報提供のみならず、開示請求に応じ、その判断を第三者機関に委ねる等)を推進することが望ましい。

ホームページの充実などが提案されているが、法人からの一方的な情報提供だけでは、当該法人の宣伝になりがちであり、各法人に不都合な情報、不利益情報も含め、一定の重要な情報を提供すべき義務を規定し、かつ、開示請求に適切に対応する仕組みを構築するよう努力すべきである。



「セールス電話は迷惑」続編ーーーNTTから返事を頂きました

 <セールス電話は迷惑>では、<4>まで掲載してあるので、以下時間をおって、メールでのやり取りを並べます。<7>がNTTからの返事です。

 <5> E.M.より

NTTでは「迷惑電話お断りサービス」という名で、迷惑電話を受けた場合、これを切った直ぐ後に登録をすればその番号からかけた電話は今後つながらないようにする事が出来るサービスを提供しています。ただこれは先生のおっしゃる通り、特定の人が何百回もかけて来る場合には有効であっても、不特定多数の「電話をかけることが仕事」の人にはあまり効果がないような気がします。

 実際、導入を検討した事がありますが、6件の登録で月極め600円、30件の登録で700円、という値段です。30件くらいで設定しておけば良いかしら、と思ったのですが、考えてみれば相手は「電話をかけることが仕事」の会社です、電話回線はそれこそ数十本持っているでしょう、こんな会社を相手に30件の登録では現実に則しませんし、仮に「ビンゴ」とばかり、以前かけてきたセールスマンが、以前使った同じ回線を使ってわが会社にかけてきて「おつなぎできません」とメッセージを受けたとしても、単純に回線を代えてダイヤルすればすぐにつながり、妙に反感を持たれて無言電話などされるのではないかと心配してしまいます。コストがかかる割にはあまり効果がない、そんな気がします。

個人宅だと「迷惑です、かけないで!」で、済む部分が、会社名を名乗っている以上は企業イメージ(というほどたいした会社ではありませんが)一応丁寧に対応する事が求められるので面倒さが増します。

 

<6>舟田よりNTTの知人へ

 以前、発信者番号表示について議論しましたが、私がネガティブ・オプション方式(意思表示がない限り、発信者番号が相手方に表示される方式)に賛成したのは、迷惑電話の撃退の効果を期待したからでしたが、上のような料金等の事情なら、あまり意味ないですね。

 なお、E.M.さんとのこの問題についてのやり取りは、私のホームページにアップしてあります。

  E.M.さん、勝手に貴女からのメールをNTTの方に転送してごめんね。 でも、事情は上に述べたようなことだからです。

<7> NTT東日本の担当者から

平成12年5月18日

舟田先生

東日本電信電話株式会社 営業部 ●● ●●

「迷惑電話おことわりサービス」に関するご要望への回答について

 拝啓、時下益々ご清栄のこととお慶び申し上げます。
平素は、弊社の電気通信事業に格別のご高配を賜り厚く御礼申し上げます。
また、これまで電気通信サービスの提供にあたって御指導・御鞭撻をいただき、まことにありがとうございます。

先日、頂戴しました迷惑電話おことわりサービス関連のご要望につき、下記の通りご回答申し上げます。

これまで、電話の匿名性がセールス電話をはじめとした迷惑電話の多発や発信者のマナーの低下を引き起こし、着信者のプライバシーが侵害されているという声が、弊社に多数寄せられてきました。社会的にも、電話勧誘販売の定義やクーリングオフを定めた訪問販売法が施行・改ウされ、また、セールス電話を受けたくない旨を通信販売会社等に通知するサービス(TPS:テレフォン・プリファレンス・サービス)が業界団体を中心にして検討される等、様々な取組が行われているところです。弊社ではこのような社会的要請を背景に、平成6年に「迷惑電話おことわりサービス」を、平成10年に電話をかけてきた方の電話番号が電話に出る前に分かるサービス「ナンバム・ディスプレイ」と、電話番号が非通知の場合に電話番号を通知しておかけ直していただくよう音声で応答するサービス「ナンバー・リクエスト」をそれぞれ提供するこニにより、着信者のプライバシー保護に取り組んでまいりました。

しかし、電話社会全体における発信者と着信者のバランスを考慮すると、「迷惑電話おことわりサービス」を電話の基本機能として提供し、全てのお客様が無料で利用可能とした場合、迷惑電話の被害を受けている方にとっては非常に有意義となりますが、迷惑電話をかけていない普通の着信を故意に拒否するような運用事象が増加する等、発信者が著しく不利となってしまう恐れがあります。このため、「迷惑電話おことわりサービス」は電話の基本機能とはせずに付加サービスとし、ご利用料金についても他の付加サービスと同様、サービスの提供にあたって要した費用を、サービスを実際にご利用になる方にご負担いただくこととしておりますので、ご理解の程、よろしくお願いいたします。

また、ご要望されている、登録できる電話番号の数に上限を設けないことについては、登録できる電話番号数の増加に応じて新たな設備投資が必要となり、結果的にはご負担いただく利用料金の高額化につながってしまいます。現在の登録数については、実際にサービスをご利用さ黷トいるお客様にアンケート調査を実施し、ほとんどのお客様にご満足いただける登録数で、かつ利用料金のご負担も最小となるよう登録数を決定した次第です。ただし、弊社としても、最近の迷惑電話の状況を踏まえ、再度、登録数及びご利用料金の見直しを視野に入れた検討を行いたいと存じますので、ご理解の程、よろしくお願いいたします。

最後に、メールでご要望をいただいたE.M様のように、会社の電話に迷惑電話がかかってくる場合、電話番号が非通知であっても、企業イメージを考慮すると一律に着信拒否することは困難かと存じますので、既にご存知かもしれませんが、対処策をご紹介させていただきます。

このような場合、「ナンバー・ディスプレイ」と電話機の留守番機能等を組み合わせてご利用されるのが有効かと存じます。この方法は、弊社をはじめ、他の電話機メムカーから発売されている電話機の留守番機能等と「ナンバー・ディスプレイ」を組み合わせてご利用になることノより、通知された情報(電話番号または非通知)に応じた対応方法を選択するというものです。例えば、電話番号が非通知の場合は留守番機能のメッセージで対応し、相手を確かめたうえで、電話に出るかどうかや、出る場合の応対方法を決めることが出来ます。この他にも、お得意様の電話番号を登録し、お得意様とそれ以外の方で呼び出すベルの音を切り分けること等も可能ですので、ご検討いただければ幸いです。

なお、「ナンバー・ディスプレイ」のご契約者から、「電話番号が表示されても電話番号だけでは誰だかわからないので、会社名または氏名を通知してほしい」との声も寄せられております。このような現状を踏まえ、弊社では「会社名または氏名の通知を行うサービス」についてA提供の必要性を検討しているところですので、申し添えさせていただきます。

今後とも、弊社の電気通信事業やサービスに関するご意見・ご要望を賜りますよう、よろしくお願い申し上げます。

敬具

東日本電信電話株式会社 ●● ●●

 

<8>E.M.より

舟田先生、こんにちは。

 NTTの方からの回答を転送して頂いて有難うございました。
正直言って「まぁ、こんな回答だろうな」という予想の範疇は越えないメールでしたので、敢えて言えば「あまり感動はしない」お返事ですね。(意地悪でしょうか)

 教えていただいたアドバイスはお金と暇が有れば試してみる価値はあるカモしれないとも思いますが、やはり我々をはじめ、セールス電話に辟易しているごく一般の会社の方々の現実には則していない(問題解決の為に変わらなければならないのかもしれないのか?とも思いますが)というのが実感です。

着信拒否の全ての電話が留守番電話につながれることになると、お客様で「あぁ面倒だから切ってしまえ」という方がいる場合(こういう方が多いですが)には、商売としてはあまり成り立ちません。

良くかかってくるお得意先(お得意先も大会社なので1件で50を超える回線があります)がたまたま個人の携帯でお電話くださり、そのお電話が非通知だったので留守番電話に回された場合、ずっと声を待って確認して応答した時の言い訳にはかなり苦しいものがあります。「セールス電話が多いので」や「非通知だったので」というのは個人宅では良いですが、まさか「人手が無くて留守番電話になりました」ともいえず。。。会社の信用に関わります。。。

また、
>しかし、電話社会全体における発信者と着信者のバランスを考慮すると、「迷惑電話おことわりサービス」を電話の基本機能として提供し、全てのお客様が無料で利用可能とした場合、迷惑電話の被害を受けている方にとっては非常に有意義となりますが、迷惑電話をかけていない普通の着信を故意に拒否するような運用事象が増加する等、発信者が著しく不利となってしまう恐れがあります。

 との事ですが、バランスという意味では「迷惑電話をかける業者は少なく」、「普通に電話を発信する人が多い」というのはわかりきっていることで、迷惑でない電話はそのまま着信し、迷惑電話の際には着信する側が「この人からかかってきた営業の電話は迷惑である」と登録できるシステムは、決して普通に電話を掛けてくる人全てを排除するものではないので、著しく不利、と言いきる根拠に少々疑問を持ちます。

また、件数に限界があることについても、現在の登録件数は、NTT側の業務の可能不可能から算出された数字であり、以前お話した通り、数十回線を持つ「電話セールスが仕事」であるところから電話を受ける身としては全く意味をなさない数字です。

 例えばお金を払ってこのサービスを受けようと(百歩譲って?)しても、30件しか登録できないのでは効果が無く、お金を払う意味がありません。

NTTの側で今後ナンバーディスプレイで社名などがわかるサービスが技術上可能になるのであれば、例えば、Aというセールス会社から電話がかかってきた時に、迷惑電話お断りサービスを頼んでいれば簡単な操作で登録することにより、相手が電話を掛けてきた回線だけでなく、同場所にあるA会社からの電話全てが着信拒否できる、などであれば電話を掛けてくる「特定の」「複数回線を持つ」業者には対抗できるのですが、いかがでしょうか?これであれば、ご提案頂いた「留守番電話とナンバーディスプレイの併用」よりはるかに簡単で、恐れることなく電話に応対することが出来ます。

おまけです。

 ゴールデンウィーク中に、住宅関連会社からセールスの電話がかかってきました。電話を実際に掛けているのは学生と思しき女性でした。電話がかかってきた時点で、こういう電話は迷惑であること、2度とかけないで欲しいこと(リストから削除してもらいたい)を相手に伝えて切ったのですが、30分後にまた掛かってきたのです。

 同一人物かどうかはわかりませんが、先ほどもう掛けないでと言ったのに、と考えていると思いつくことがありました。それは私と主人は同じ立教大学の同じ体育会のクラブに属しており、このクラブのOB会の名簿を見てかけてきているという推察です。私と主人は8年はなれているので、30分間で我々の間の8年分にかけまくり、同じ家にもう一度電話することになったようです。(そのあとクラブの友人に電話すると案の定、かかってきていました。。。)

 どうやってこの番号を調べたか、と聞くと「電話帳に載っている」というので「我が家は電話番号は公開していない」と答えると、「え、でもここに有る番号に掛けろと言われているので」とおっしゃるので、それではそちらの電話番号と責任者の方のお名前を、と聞いて彼女には「こうやって自分の個人情報が一人歩きしていくと言うことの恐怖」のさわりくらいを話し(神妙に聞いていましたが)電話を切りました。

その後、主人がこの会社に電話をし、掛けてもらいたくない旨などを伝えていましたが、電話を切ってからこう言っていました。

「電話の向こうの部長サン、『家にいるとお墓はいかがですかと電話がかかってきていやです、私も、』なんて言ってるから『人にされて嫌なことはしない方が良いですよ』と答えておいた」だそうです。そして、実際にそれだけお金を投入して電話を掛けても成果は殆ど無く、「何件反応があった?」とこれから聞くのが怖くてたまらない、とも言っていたそうです。。。

 そしてOB会の電話番号欄には、会社のファックスの専用回線の番号を書くことにしました。本当に用がある人は、手紙でもファックスでも連絡してきますからね。

セールスの人はあの「ぴーひゃらららら」の音におどろいていただきたい、というちょっとしたいたずら心も入ってますが。。。

うちのOB会で名簿を売った人がいると思うと、腹立たしく、限定された人々の間であるからと公開した電話番号が一人歩きしていくことにやはり脅威を覚えました。

<9> 舟田よりE.M.へ

 貴方からのメール、またNTTの方に転送しましょうね。

 こういうことはしつこくやった方がいいですよ。

なお、NTTは加入電話に限れば言うまでもなく独占(地域通信市場で93%)ということもあり、今すぐに発信者番号表示の制度、それに関する料金制度を変える気はないでしょう。

他の地域通信キャリア、「東京電話」とか、KDD、日本テレコムなどは、どういう約款を作っているのでしょうね? あるいは、米国の場合はどうなのでしょうか?

 

<10>E.M.より舟田へ

こんなことは言えませんが、なぜかNTTよりのご返答に「お役所っぽさ」を感じてしまったのですが、それは私のNTTに対する先入観からだけではないと思います。

あまりにも「無難」な答えに「あ、なんだか官僚と話している様だ」と感じました(^^;)

 NTTの方とのお話しなので、わたくし個人としての「迷惑電話お断りサービス」への提案です。

1.できれば電話を「拒否する自由」があればと思います。大げさな言い方ですが、上記サービスは、基本料金の中に含め、何件でもただで着信拒否が出来ればと思います。電話をかける自由があるなら、着信拒否する自由が合っても良いのではないでしょうか。わざわざ工事費に2000円、毎月600円もはらって、いやな人からの電話を避けなければならないと言うのは後ろ向きに電話社会に向いているような気がします。

2.それが無理なら、登録できる電話番号の件数に上限を設けず、何件でも600円、などの案はいかがでしょうか。

キャッチホン、ボイスワープなどと違って、ナンバーディスプレイや着信拒否のサービスの利用者は「くだらない電話を取りたくない、電話に煩わされたくない」というスタンスに立っているものなので、もうちょっと安くても良いのではと思ます。

キャッチホンなどの場合は、「こういう良いサービスがあるんだからお金を払っても良いや」と思えますが、いたずら電話などの場合は「こういう電話を除外する方法を電話会社は講じるべきである」と考えます。

もちろんコストがかかることも承知していますが、毎度毎度手をかえ、品を変えやってくるセールス電話のおかげで、実際業務が滞ることはしばしばです。

(NTTの販売会社が『NTTですが、電話のご利用状況についてお聞きします』と、まるで現行調査のようなふりをしてかけてきて、実はISDNの売込みだったりすることも日常茶飯事。思わず「それを言わなければならない義務がありますか?あなたNTTといっているけれど、販売会社なんでしょ?本当にNTTなら利用状況は自分で調べてください」と強くでると、鼓膜が破れるほどの音で「がっちゃり」と切られます。。。)

ま、一利用者のたわ言ですが、現在の迷惑電話お断りサービスでは少なくともうちの会社のような場合には全然対応できません。。。。

 

<11> 舟田から立教のナンバー・ディスプレイについて

最近、私の勤務先である立教大学の事務から、以下の通知が来ました。

勤務員各位

 最近携帯電話の普及などにより、電話番号が相手方に表示されることが多くなってきました。以前にも問題になったことですが、立教大学の電話は一部の直通回線の電話を除き、pbxという方式を採用しているため、発信した電話は空いている回線(番号)を自由に選択して出て行きます。このため相手方に表示される電話番号は、実際に発信した電話の番号とは異なったものとなってしまいます。携帯電話などの場合、着信した電話番号を簡単にリダイアルできるため、着信した電話に応えようとして発信先と異なった部署へ電話をかけてしまうというトラブルが現実に起こっています。こうした状況に対処するためには、電話交換機を全く新しいものに換えるか、pbxで発信した電話番号を相手方の電話機に表示させなくする(非通知)といった方策が考えられますが、前者については数千万単位の費用がかかること、後者については相手方に拒否されてしまうことの是非などがあり、現在この問題にどのように対処するかを検討中です。

 そこで、当面の対処法として以下のことをお願いします。

 (1)発信者は伝言内容に加えて必ず自分の電話番号を相手方に告げる。(その際に表示されている電話番号は正しいものではないことも合わせて伝えるとなお正確になります。)

 (2)一方リダイアルされた間違い電話に対しては、相手方に落ち度があるわけではありませんので、相手方の望んでいる番号へ転送するか、その番号を教える。

いろいろとお手数をかけますが、少しでもトラブルを防止するために、勤務員の皆様のご協力をよろしくお願いいたします。

                                    総務部庶務課

 

 この問題は、かなり以前から米国で訴訟が頻発し(Caller ID=Ientificationと呼ばれる)、それをふまえてわが国でも多くの議論の末、NTTが郵政省の認可を得て、ネガティブ・オプション方式(否と明示しない限り、発信者番号通知がなされる)で実施されたもの。

 多くの消費者運動家からは、米国での訴訟経験をふまえ、厳しい批判が寄せられていました。すなわち、電話番号は個人のプライバシーに当たるのに、この方式で本人が十分事情を認識しないうちに、自分の電話番号が流出し、しかもその受益者は多くの場合、通信販売業者などの企業であることが、その理由でした。

 私は、電気通信審議会の委員として、NTTの申請を可とする答申に賛成しましたが、その理由は、この発信者番号通知が、迷惑電話で困っている多くの人々にとって、防御の手段を与えることにあるからでした。しかし、同時に、上記の批判にも正当な点が含まれていることから、早急に民間人に対する個人情報保護法を制定し、個人の電話番号を密かに収集・蓄積・目的外利用することを厳しく規制すべきである、との付帯意見をつけました。

 しかし、その後の個人情報保護法制定に向けた歩みは、ご承知のように、遅々たるもので、しかも現在提案されているのは、「基本法」に過ぎず、その実効性は、個別の事業ごとの法制定を待たなくてはならないというものです。

 以上を前提とすると、下に引用した立教のこの問題に対する対応には疑問があります。すなわち、「pbxで発信した電話番号を相手方の電話機に表示させなくする(非通知)」方法の方が妥当ではないでしょうかか?

1.そもそも、発信者番号をすべて自動的に通知するシステムとするメリットがあるのか?

 この発信者番号通知は、迷惑電話で困っている人に発信者番号表示をした者だけに応答することを可能にする。

 しかし、これは、システムとしては非通知にして、個別に通知にすることも可能。

2.発信者番号通知のデメリット

 具体的な発信者(大学の電話を使って電話する人)が、自覚なしに当該電話番号が通知されてしまうが、発信者番号は、プライバシー(知られたくないことが保障されること、又は自己情報コントロール権)としての性格を持ちうる。

 すなわち、当該個人が、当該電話を使って相手方(受信者)と通話したという事実は、個人情報であり、それをコントロールしたいということもあり得る。しかし、相手方は、その個人情報を発信者の承諾なしに取得するわけであり、これを許容する理由はないと思われる。

なお、発信者番号通知にもっとも積極的なのは、個人情報を取得することでビジネスを展開することを目的とする企業であり、これはもちろん通信販売業に限られず、すべての個人向けのビジネスを展開する企業について当てはまる。

このメールを立教の総務部庶務課に送ったのですが、ご返事は頂いていません。確かに、この問題はかなり複雑な事情もあり、意見の相違もあり、簡単には解決しないでしょうね。

以上のやりとりの記録が、その解決への一助となればとも思いますがーーー。





「NTT再々編成の視点」

日経新聞平成12年7月1日付け朝刊「NTT再々編成の視点」(藤井良広)は、明確な論旨で感心しましたし、いくつかの重要な論点も提示されているように思われます。

1. 接続料の問題とNTT再々編成を切り離して論じる、という俗論を排しているように読めること。やはり両者は、関連していることは事実でしょう。

ただし、行政の実務としては、両者を切り離さないと進まないというのも当然。逆に、後者(NTT再々編成)と引き替えに、接続料を安くするなどというのは、スジ論としても、またその含意(NTTに有利な再々編成をすれば、接続料の水準では妥協するという含み)も最悪。

2. 米国でも、定額費用分は地域会社の負担とし、長距離会社は、これにより引き下げられた接続料部分を通信料引き下げに回すと決めたことを紹介し、これと同様の制度改正をするかどうかは、利用者への「説明責任を果たせるかにかかってくる」と述べる。

 これは、接続事業者(長距離会社等)への「厳正な監視」へとつながるが、制度論としては、無理スジ。電気通信事業法では、第一種事業者への業務改善命令を使う外はないであろうが、一度も発動されたことのないこの命令制度を活用しようというのでしょうか。

東西NTT以外の長距離会社等は、激しい競争環境の中にあることを前提とすれば、基本的には各社の自由な経営に委ねることが最善でしょう。そこで、接続料の引き下げによる超過利潤を享受するという事態が生じれば、それは競争が十分有効に機能していないからでしょう。

米国では、この長距離通信分野で、AT&Tなどの寡占企業がかなりの力を持っていることを示しているようにも思われます。ワールドコムとスプリントの合併が、独禁法の観点から阻止されたことも、このことの傍証となるのでしょう。

この点の制度としては、記事にある「説明責任」という漠然とした概念にとどめ、あとは接続事業者のディスクロージャーを進め、またこの分野での競争の促進を図ることが重要であって、具体的には、競争を減殺するような合併その他の「協調的」な寡占化の阻止等の観点を保持することではないでしょうか。

3.この記事では、「NTTの機能、設備に基づく現行の区分けは、音声通信、一国市場を前提とした前時代的な遺物」と断じ、「市場支配力規制」への切り替えを提案している点が肝要です。

ただし、「NTTの機能、設備に基づく現行の区分け」は、接続規制のためにはなお必要ですし、設備規制は技術基準以外にも、何らかの形で残すべきことは、後述の4でもその一端を示します。しかし、ここでは一種・二種という区分けの廃止を主張していると推測され、これは十分理由があるということは、既に多くの方々が主張していることで、問題はその具体的な中身です。

例えば、後述の「地域アクセス研」では、一種・二種という区分けを部分的に緩和し、各キャリアの効率的な設備設置・賃貸・再販等を自由化することが議論されていますが、この区分け自体を全廃するという議論も十分あり得ると思います。

その場合でも、単純な「市場支配力規制」なら、独禁法が適用されるので、これ以外の規制が必要か、それはどのような規制かを論じないと意味がないでしょう。

この点について、この記事では、「各分野を独占的に支配する事業者は、自分の事情を競争的に保っているかどうかで、他市場への進出の是非を判断される」とあり、「実質独占のままーーーNTTの業務拡大を目指すNTT法改正なら国際的な潮流に合わない」と述べられています。

これ自体は正論ですが、何ら目新しい主張ではありません。

しかし、これに続けて、「ライバル業者に公平な参入条件を確保していれば、業務拡大が可能になる」とあるのを見ると、「実質独占」と「ライバル業者に公平な参入条件を確保」とがイコールか、という疑問が出ます。

多くの自由産業は、「公平な参入条件」がありながら「実質独占」になることもよく見られる現象です(だから独禁法が必要なのです)。

それとも、ここでは現行の接続規制がまだ実質的には「公平な参入条件」を保障していない、という主張なのかもしれません。しかし、DDI社長の「現行の(NTT)持ち株会社は機能していない。地域会社間の競争も進んでいない」という批判を引用していることろからは、接続規制ではなく、NTT持ち株会社という仕組み自体が、「公平な参入条件」ではない、という主張なのかもしれません。

そして、おそらくこれら2点(接続規制とNTT持株会社という仕組み)を変えないと、適正な「市場支配力規制」にはならない、ということが正しい視点だと思われます。

4. 私には、これら2点について、明確で具体的な主張を提示するだけの考えはまだまとまっていません。しかし、接続規制をさらに改善すべき点として、ここでは次の2点を挙げることができます。

第1点は、現在進行中の「地域アクセス網における実質競争の実現方策に関する研究会」で取り上げている、1種事業と2種事業の区別によるしばりを緩和することによる「ネットワークの柔軟性の確保」と、道路・管路・電柱等の公平な利用のための制度改正です。

第2点は、電気通信審議会で接続規制の一環として取り上げている、NTT局舎におけるコロケーション規制の推進のための制度改正です。

前者は、NTTや電力会社が旧来の公益事業制度の下で享受してきたインフラ特権をどのように競争的環境の中で変えていくか、という問題ですし、後者も同様の観点から、具体的にはADSL接続のための設備をNTT局舎に設置・管理・運用する際の公正なルール整備という問題です(いずれも、郵政省のホームページに議論・検討の状況が掲載されています)。

このような細かな制度整備の努力は、どの国でも、またどの公益事業でも共通に必要とされていて、細かい問題にしては具体的な影響力はかなり大きいと言えるのではないでしょうか。

5.NTT持株会社という仕組みについては、平成2年と平成7年の2回にわたる「再編成」の議論で消耗した経験を持つ私としては、党利党略だけから見る卑小な「永田町政治」に振り回されるだけにならないように、と祈るのみです。もちろん、これは今後の日本の産業全体の発展にもかかわることですから、優れて政治的な課題であることは言うまでもありません。

ここまで書いたあと、7月5日付けの日本経済新聞朝刊のトップ記事は、「競争促進へNTT法改正 完全分離・分割も」でびっくりしました。これがどれだけ精確な記事かは分かりませんが、これまで述べてきたように、NTTの仕組みの議論は、1種と2種の区別も含め、電気通信事業法の改正も伴わざるを得ない大きな問題です。どの国でも、既存のキャリアと新規参入キャリアを競争的環境の中でどう位置づけるかは、常に議論されていることであり、日本でもこれから、一方で、先の4で挙げたような細かい論点も含め、冷静で地道な、他方で、しかしもちろん中長期的な、大きな政策的視野の下での大胆な検討が望まれます。




「官製談合」と独禁法

2000.9.10 追記

このほど、さきに掲げた「『官製談合』と独禁法」に若干の修正等を加え 、論文としてまとめました。立教法学56号99頁以下(有斐閣、200 0年8月)。
 ところで、このホームページに掲載した内容について、下記のメールにより間違いをご教示頂きましたが、論文の印刷までに間に合いませんでしたので、ここで修正させていただきます。(なお、この方にご迷惑にならないよう、申し添えますが、この方は建設省に勤務されている方ではありません)。

 こういうご指摘は大変有り難く、皆様にも何か気がつかれました点につ いては宜しくご教示いただければ幸いです。

> ご指摘いただいたメール(一部)

 先生の『「官製談合」と独禁法』は、大変示唆に富み、私自身本当に参考になりました。

 現在、例の「公共事業契約法(仮称)」の法案づくりでタコ部屋に入っ ている建設業課入札制度企画指導室の面々にもご披露するつもりです。もっとも、法案の行方は未だ五里霧中といったところだそうです。

 ところで、HPを読んでいて私なりに気が付いたところがありましたので、参考までにお知らせします。

 HP13頁に 3.ケースCの(1)で、「だだし、WTOの新「政府調達協定」は、一般競争入札によるべき契約の基準額を定めているが、」とありますが、 政府調達協定で定めているのは、国際入札に付すべき基準額だけで、この基準額以上を一般競争入札で行うのは、平成6年1月18日の閣議了解された「公共工事の入札・契約手続の改善に関する行動計画」です。したがって、都道府県、政令指定としては一般競争入札方式は勧奨されるにとどまっています(この点も例の公共事業契約法制定必要性の一つといわれています。)。


はじめに

最近、談合に発注者である国・地方公共団体(具体的には、その職員)が関与していたという、いわゆる「官製談合」の疑いがかけられている事件が続き、それへの法的ないし行政上の対応のあり方が問題となっている。

本小論は、主としてこの「官製談合」について検討するものであるが、参考となる文献や判例等の資料を集める等の準備作業も不十分であり、また、私自身の考えもまだ十分まとまっていない。しかし、今の段階で、国・地方公共団体が談合に関与する形態を分類・整理することが重要であると考えたこと(下記の二)、また、談合の予防策としてどのような制度ないし政策があるかを概観し、その中でも特に情報公開が実際には談合ないし発注者と受注者の不当な癒着を防ぐ武器になりうるということを明らかにするため(下記の三)、ここに掲載することとした。

今後、資料等や考えが不十分な点等を補充あるいは訂正して、議論を深めていきたいと考えている。これからこの問題についての解釈のあり方、あるいは法改正や制裁の強化等の議論がなされることを期待したい。

 なお、本小論は、数ヶ月先に立教の紀要「立教法学」に掲載予定。

一.いわゆる「官製談合」ないし「官主導談合」

(1)公共工事の談合が、独禁法違反であることは言うまでもないが、これは受注者を含め、入札に参加する事業者が、会計法・地方自治法等によって制度上予定されている競争を避けて談合によって落札者、落札価格を決めることを違法とするものである。

しかし、この談合には、受注者側である事業者だけではなく、発注者である国・地方自治体・その他の特殊法人(公団・事業団等々)が関与しているケースも多く、最近のケースでも、郵政省区分機事件(注1)、防衛庁石油製品談合事件(注2)では、発注者である国(郵政省・防衛庁)が組織的にかかわっていたのではないかという論点が、公取委の審判手続あるいは刑事裁判の公判手続において提示されるようである。

さらに、今年5月には、北海道庁発注の農業土木事業をめぐる入札談合事件で、公取委は建設業者など297社に対し勧告を出したが、ここでは道庁が毎年、事業者ごとの年間受注目標額を設定する「割り付け表」を作成し、これを道庁職員から事業者団体に渡し、談合がなされていた模様である(注3)。

(2)事業者による談合に発注者が協力あるいは指示等の関与をなすことは、会計法・地方自治法の定める「競争入札」の要請に反するとともに、独禁法、刑法(96条の3第1項・第2項)等に反し、また民事責任を追及すべき場合もある。

 以下では、主として独禁法上の解釈論を試みるが、本来は同法の改正をして談合に関与した行政担当者が独禁法違反になることを明示し、あるいはそれへの制裁を強化すべきか否か、また、独禁法以外にどのような法の適用がなされるべきか、さらに現行法では不十分とすれば法改正が必要か、さらには、法による規制以外に行政改革の一環として、談合関与を防ぐような行政内部の規律ないし行政運営システムを構築できないか等々についても検討すべきであろう。

 しかし、独禁法の問題だけを取り上げても、行政担当者に対する法の解釈・適用のあり方については、従来詳しく論じられてこなかった点であるし、また、法改正の是非についてはほとんど論じられてこなかったこともあり(注4)、本小論では主として、独禁法の解釈に若干の政策論を加えて論じるにとどまる。

二.独禁法の解釈問題

第一に、談合を巡る独禁法の解釈・運用において、国・地方自治体等の責任はどう問われるべきか。

これは、以下の3つのケースに分けて考えることができるであろう。

1.ケースAムムム「規制行政」の場合

(1)まず第一に、ケースAとして、国・地方自治体等が、私人に対する「規制行政」の一環として談合にかかわる場合を考えよう。
これについては、石油カルテル刑事事件を具体例として検討することにする。本件は、精確には入札談合の事例ではなく、純粋の価格カルテルの事例であるが、行政担当者が石油価格の値上げに深くかかわっていたことから、参考例として挙げることにする。

なお、ここでは後述のように、作用法上の法的な根拠なく行政指導がなされたのであるが、正式の行政処分、例えば道路運送法における料金認可に関し、認可行政庁から事業者に対し、事業者間でカルテルを結んで一本化してから申請してくるようにとの行政指導がなされたこともある。

右記の石油カルテル刑事事件とは、昭和48年のいわゆる石油危機の際、原油の大幅値上げ通告を受けて、石油元売各社がその値上がり分を価格に上乗せしようと値上げを計画し、事前に通産省に相談し、それを受けて値上げカルテルを結び実行したという事件である。

その際、通産省の担当官は、原油値上がり分のうち1バーレル当たり10セントを業界に負担させるとの指導その他を行うことで本件カルテルに関与したが、公取委はそれらの者を告発することはせず、したがって起訴もなされず、その責任は不問に付された。

ここで最高裁判所は、元売各社の価格カルテルを独禁法3条の「不当な取引制限」に当たるとして有罪とする一方、通産省の担当官による行政指導は値上げ価格の上限の指示のみであり、カルテルを指示したものではなかったと認定し、違法なものではなかったと判示した(昭和59年2月24日判決・民集38巻4号1287頁)。

この事実認定に対しては批判もあるが、それはともかくとして、仮に、行政担当者が事業者に対し、例えばいくらの値上げをいつすべきである等を内容とする行政指導をしたとすれば、これは本稿冒頭で述べた「官製談合」と同様の問題となるであろう。以下、この仮の例を念頭に考える。

(2)独禁法の規制対象(名宛人)は、原則として「事業者」である(本件のカルテルの場合については、同法3条、2条5項参照)。ここで「事業者」とは、「商業、工業、金融業その他の事業を行う者をいう」(同法2条2項)とあり、その意味は、「なんらかの経済的利益の供給に対応して反対給付を反復継続して受ける経済活動を行う者」であって、その主体の法的性格は問わないとされている(注5)。

この事業者には、広く経済主体たり得るすべての法主体が含まれるのであり、例えば、国・地方公共団体・特殊法人(公的法主体)であるか、あるいは私人(私的法主体)であるかを問わず、また、私人の中でも、自然人(すなわち個人事業者)であると、株式会社、公益法人、協同組合、等の法的に多様な組織形態をとる法人であるかを問わない、ということであると解される。

ところが、右記の行政指導をしたとされるのは、具体的には当該行政担当者(自然人としての公務員)、あるいは右術のように仮に石油に関する行政事務が法的に行われたとすれば、その権限行使の主体は一般には通商産業大臣となる。これら行政担当者あるいは通商産業大臣は、いうまでもなく右記の定義に示される「事業者」には当たらず、独禁法違反に問うことはできないと解される。

ただし、右記の「事業者」性から独禁法の適用を否定する解釈方法と異なり、以下のような考え方も可能であろう。すなわち、「事業者」か否かは個々の行為ごとに判断するのではなく、その主体が行うのが事業か否かという観点から一般的に解釈すべきであるとし、これによれば、第一に、例えば右記の例のように「国」の行為であれば、後記のように国は現業部門において事業を行っているから「事業者」に当たるとすべきであり、第二に、ただし、この例で言えば、当該行為(カルテルの指示等)は、カルテル(「不当な取引制限」)の要件である「相互拘束・共同遂行」に当たらないから、結局、独禁法違反にはならない、という解釈もあり得るように思われる。

(3)以上は独禁法違反か否かという論点であるが、次に、元売会社が独禁法違反行為をなし、それに行政担当者が加担していた場合、その刑法上の責任は行政担当者まで及ぶものであろうか。

この点については、独禁法違反行為の罰則を定める同法89条以下の諸規定は、行為者たる「事業者」を対象とするが、同法95条には、事業者のみならず、当該事業者が法人である場合等につき、当該法人や法人の従業員等に対しても罰則規定を適用すると定める、いわゆる「両罰規定」が定められている。

しかし、この95条にも、右記の例で言えば、石油行政にかかわった行政担当者あるいは通商産業大臣を処罰の対象とすべき直接の該当規定はなく、その解釈としても、行政担当者等は独禁法違反行為者としての「身分」を欠くから、これらの者を独禁法違反の当事者(「共同正犯」)にはなし得ないと解されるが、これには異論もあるようであり、また、「身分なき者の加功」の問題は生じ得ると解する可能性はあるようと考えられる(注6)。

(4)これまで検討してきたのは、通産省が、その所管事務である石油行政について(これ自体は通産省設置法に明記されている)、あるいは石油業法を背景として、行政指導という形で行政事務を行い、それが独禁法違反行為にかかわる場合、当該担当公務員等の独禁法上の法的責任いかんという法律問題である。

ただし、本事件当時、多くの議論がなされたように、通産省設置法は、行政組織法の性格を有するのであって、個別の行政行為の行政作用法上の問題にかかわるものではないと解されるのが一般である。また、石油業法は、この意味での作用法ではあるが、同法には、このような行政指導をなすべきこと等に関する規定はなく、仮に上限価格を定めるべきであるという政策的判断があるのであれば、同法15条1項に基づいて、石油精製業者又は石油輸入業者の石油製品の販売価格の標準価格を定めるべきではなかったか、という主張は説得的である。石油業法所定の行為をなさずに、行政指導を秘密裏に行うことが、行政担当官の行為として適正なものであったか、という問題は確かにあろう。

(5)この点は、ここではおくこととし、右記の仮設例は、国・地方自治体等が、私人に対する「規制行政」の一環として談合にかかわる場合として整理することができよう。ここで、「規制行政」とは、作用法上の概念であり、国・地方自治体が、特定の政策目的のために、私人に対し、その自由を制限し、あるいは逆に一定の保護・助成を与えることによって、経済・社会を特定の方向に向かわせようとする行政である。

ドイツの競争制限禁止法(GWB)においても、事業者概念に関し、市場に現れる経済主体のうち、消費者(私的消費)、労働者(従属労働)、行政機関(高権作用 Hoheitliches Handeln)は、GWBの適用対象から除かれている。

このケースAは、行政担当官が右記の「規制行政」の一環として独禁法違反の価格カルテルを指示した場合であり、これはドイツ法における高権作用に当たる行為を行った場合に相当すると考えられる。

この場合に、日本でも当該行政担当官の行為に独禁法を直接適用するのは妥当ではなく、前述のように、事業者の独禁法違反行為を幇助した行為として刑事罰上の問題になるにとどまると一応解しておく(幇助犯にとどまらず、「共同正犯」となるという解釈も成立するかどうかはここでは検討しない)。 

もちろん、独禁法違反の点は前述の通りとしても、具体的な事情によっては、刑法(贈収賄など)、公務員法、会計法・地方自治法など、行政庁・公務員を規律する法とその運用の問題はあり得る(このことは、次のケースB・C・Dでも同じ)。

 

2.ケースB―――国・地方公共団体等が自ら経済的事業を行う場合

(1)ところで、前述の郵便番号自動区分機事件において問題になっている国の談合加担行為は、右記のような行政事務ではなく、現業官庁と呼ばれるように、国・地方公共団体等が自ら経済的事業を行っている場合、その事業のために用いる物資(サービスも含む)調達、あるいは公共工事等を民間企業に委ねる際に、民間業者の談合を黙認ないし促進する場合である。

 このような例は、地方公共団体・特殊法人等においては多様に見られ、例えば上下水道等の供給事業や、後述の食肉処理市場や青果市場等の公営市場の設置・運営事業の場合は、対価を得て事業を行うのであるから、右の郵便事業と同様に経済的事業であり、これを行う国・地方公共団体等は独禁法上の「事業者」であると解される。

これらのケースでは、国・地方公共団体・特殊法人等が当該事業を行う目的自体は公的なもの(例えば、国民に低廉で平等なコミュニケーションを保証するとか、住民に快適な生活手段を供給し、あわせて衛生・環境に配慮すること等々)であるが、その遂行のために経済的事業という形態を採用したのであって、その点では民間事業者と同様の立場に立ち、事業主体である国・地方公共団体等は、国法上の特別な法的地位、特に前述の「規制行政」を行う立場、あるいはドイツ法における「高権作用」の遂行を行う立場にあるわけではない。

したがって、これらの事業を行う国・地方公共団体等は、右記のように独禁法上の「事業者」に該当し、それらが入札談合にかかわる場合は、取引の両当事者の共同行為ととらえる「縦のカルテル」の当事者、あるいは不公正な取引方法の行為者になることもあり得る。

前者の「縦のカルテル」については、従来の判例はこれを否定してきたが、学説上は、カルテルを横の競争事業者間の共同行為に限るのは狭きに失するということから、以前から有力な考え方であり、近年の判決でもこれに近い解釈を示した事例も現れている(注7)。

これに対し、東京都の都営芝浦と畜場事件は、後者の不公正な取引方法の事例であって、最高裁判決は、当該と畜場を営む東京都が独禁法上の「事業者」に該当し、独禁法違反に当たることがあり得るとした(注8)。これは学説上も異論のないところであり、諸外国の独禁法においても、同様の解釈・運用がなされている。

 

3.ケースC―――国・地方公共団体等による資材等の「調達」の場合

(1)ケースCとして、国・地方公共団体等が諸々の行政事務を行うために、物資(サービスも含む)を調達し、あるいは国の省庁や県庁等の建物を建設する公共工事等を民間企業に委ねる場合をあげることができる。国・地方公共団体等の財産は、普通財産と行政財産とに区別され、さらに後者の行政財産は、公用財産と公共用財産に分かれるが、このケースCは普通財産と公用財産(例えば、省庁や県庁等の建物)の調達・工事等に当たると理解してよいであろう(注9)。

これは、ケースAの場合のように、私人の経済的・社会的行為に対し、それとは異なる立場から特定の政策目的、右記の例で言えば、わが国における石油の安定的供給の確保等のために行政的に関与する(この場合は具体的には、行政指導を行う)場合とは異なるし、また、ケースBと異なり、国・地方公共団体等が自ら経済的事業を行うのでもない。

このケースCは、いわゆる「調達」(procurement)の典型例である。ただし、WTOの新「政府調達協定」は、一般競争入札によるべき契約の基準額を定めているが、この場合の「調達」には、前述のような分類に基づくものではなく、広く国・地方公共団体等が契約をなす場合を対象としている。

(2)具体的事例としては、例えば、ゴミ処理施設それ自体の設置工事についての大企業(三菱重工業、日立造船など5社)による談合事件につき、平成11年8月13日に勧告が出され、現在審判中である。この場合、ゴミ処理サービスは地方公共団体の行政事務に当たるが、このゴミ処理サービス自体が問題になったのではなく、この事務を遂行するための施設の建設等について独禁法違反行為がなされたわけである。なお、この事件が官製談合であるとの主張はないので、これも仮設例である。

この場合において、国・地方公共団体等は、基本的には、私人と同様に、通常の私契約の当事者という立場における購買者・注文者(発注者)であり、市場原理に則って、もっとも低価格で良質な資材・物資・役務を供給する事業者を適正かつ公正に選定することが要請されると考えられる。したがって、これらの場合でも、国・地方公共団体等と私企業との関係には、原則として独禁法がそのまま適用されると解してよいであろう。すなわち、このケースCの独禁法適用については、前述のケースBと同様の法律関係になると考えられる。

ただし、この場合でも、地元企業の育成等の政策的観点を加えることは許されないか、という問題があり、これは次のケースDと共通するので、そこで検討する。なお、前述のWTOの新「政府調達協定」は、この種の政策的観点を加えることを明確に禁じており、これは広く政府調達において競争原理を貫徹すべきであるという立場を鮮明に示したものといえよう。

4.ケースDムムムある公共工事をなすこと自体が行政事務である場合

(1)前述の公有財産の区別でいえば、公共用財産の設置・維持・管理・保守等をなすことは、行政事務であり、これを国・地方公共団体が自ら、あるいは民間業者に委託して行う場合の談合も多く見られる。

道路、港湾、空港等の社会基盤施設(インフラストラクチャー)は、それぞれの法律に基づいて、国・地方公共団体等が新設・改築・維持等、あるいは運営それ自体の業務を行うことになっている(例えば、国道について道路法12条以下参照)。

これらは、行政法上は「公物」と概念構成され、国有財産法上は、「公共用財産」(同法3条2項2号)に当たる。法律上、例えば建設大臣が管理者となっていても、それを実施する場合には、民間業者に入札で委託・請負等の形式で行わせることが多いことは言うまでもない。

さらに、これらの公物管理等の例とは別に、冒頭で紹介した北海道庁発注の農業土木事業の遂行も、このケースDに当たるのであろう。また、千葉市発注のダイオキシン類測定分析業務委託の入札において談合が行われ、勧告審決が下された(平成11年5月25日)。これは、ごみ焼却施設についてのダイオキシン類測定分析業務であり、これ自体は市の行政事務に当たる。

 特殊法人の多くは、この種の行政事務(この種の業務は、「公共工事」とも呼ばれる)をなすことが主たる業務であることも多く、例えば、平成11年7月12日、住宅・都市整備公団発注の塗装工事について勧告審決が出されたが、同公団が住宅等を建設する事業はこの類型に当たる。この例でも、公団の職員が同公団の子会社に入札情報をあらかじめ提供し、この子会社は4割の受注を優先的に得ていた。

このように同公団が塗装業者の談合に関与していた疑いがあるので、右記審決でも一般論としてではあるが、「発注者と入札参加者の癒着」などにつき、厳正な対応を採るべきことが指摘されている(注10)。

ドイツの競争制限法の事例で、連邦カルテル庁が、ベルリン州を市場支配的事業者と認定し(同分野で70%以上のシェア)、同州の発注する道路建設工事につき、同州の協定賃金水準を下回る低賃金雇用を行わないとの誓約書を提出することを入札資格に加えたことを、賃金の低い旧東独地区等の事業者を排除する差別的取り扱いとの審決を出し、ベルリン高裁もこれを支持した(ある研究会における鈴木孝之氏の報告による)。

(2)右記の事例で、ベルリン州が低賃金雇用を行わないとの誓約書を提出すべきことを入札資格としたのは、最低賃金法(あるいは政策)の実施あるいは遂行という目的のためなのであろう。仮に旧東独地区との賃金格差という特殊事情がなければ、それ自体としては妥当なものと評価され、さらには独禁法上の不当な差別的取り扱いには当たらないと解される余地はあるようにも思われる。

同様に様々な社会政策的な観点から、各種の入札資格を定めることは、わが国でも古くからよく見られることである。例えば、入札資格として、入札を実施する地方公共団体の区域内に事業所を有する者に限ること、税の納付状況等、さらには、いわゆる「グリーン調達」、地価の抑制を目的として、公有地の売却の際に上限価格を設定すること等の例がある(注11)。

一般的に言えば、国・地方公共団体等は必ず市場原理に則った取引をすべきである、ということを示す法律上の規定はなく、また独禁法の解釈からも、このような要請が直ちに導かれることはないと解される。すなわち、特定の政策・行政目的等の考慮を加えた取引条件を設定し、あるいは入札資格にそれらの考慮に基づく条件を加えることも、その手法と場合によっては許されるように思われる。

特に、最初の事業所所在地制限は、地元企業に優先枠(あるいはJVの要件を課す)等の配慮をすることによって地元産業の育成をはかろうとするものであり、同様のことは広く優先的に地方自治体が地元産業の商品を購買する等、よく見られるとおりである。なお、前述のWTOの新「政府調達協定」が適用される一定額以上の調達の場合には、事業所所在地制限はこれにふれ、設けることができないことになる。

特に、最初の事業所所在地制限は、地元企業に優先枠(あるいはJVの要件を課す)等の配慮をすることによって地元産業の育成をはかろうとするものであり、同様のことは広く優先的に地方自治体が地元産業の商品を購買する等、よく見られるとおりである。なお、前述のように、WTOの新「政府調達協定」が適用される一定額以上の調達の場合には、事業所所在地制限はこれにふれるので、設けることができない。

この点については従来から、地元産業の育成・助長、長期安定的供給の確保という観点から、また個々の調達が選定された事業者の技術・人材等の向上をもたらし、長期的に見ると、結局は当該国・地方公共団体等の利益にもなるという観点から、法律上は、「一般競争入札」が原則とされているのにもかかわらず、「指名競争入札」、あるいは「制限付一般競争入札」という手法が採用されてきた、とも主張されている。

公取委が出した、「行きすぎた地域要件の設定及び過度の分割発注について(要請)」(平成11年12月27日)も、地域要件や分割発注それ自体についての否定的な評価ではなく、その具体的な妥当性、特に談合につながるような運用の仕方についての再検討を要請したものと理解される。

(3)しかし、現実には、これまで多くの公共工事ないし調達に関し談合が摘発されてきている以上をふまえるならば、「指名競争入札」の方が談合がやりやすいから多用されてきたのではないか、という指摘が正鵠を得ている場合が少なくないのではないであろうか。

 このような実態論はともあれ、このケースDについても、ケースB・Cと同様に、事業者間で談合がなされ、それに発注者が関与していた場合には、発注者に対しても独禁法が適用になると解してよいであろう。ケースDは、当該公共工事をなすこと自体が、行政事務である場合であるが、それは経済的事業として行われているのであり、この点でケースAとは異なるからである。

 これは独禁法の解釈論であり、前述のように、実際の入札資格の設定等において、競争原理と異なる条件を加えること自体は、独禁法によって禁止されているわけではない。しかし、このような競争原理が要請される局面とそれ以外の政策的配慮に基づく入札実施方法ないし制度の調整が必要であり、今後は、前述のような国・地方公共団体等と民間業者との関わり方の類型ごとに、入札実施方法ないし制度について、より綿密な取引手法、取引条件の定め方等について、検討が要請されるように思われる。これらには多岐にわたる論点があろうが、以下、簡単に、重要と思われる論点をあげておく。

 

三.発注者側の規律と談合規制の強化

1.入札方式の改善

 入札方式ないし入札制度の改善については、建設省・中央建設審議会の平成5年12月・平成10年2月の建議等で、一般競争入札の導入、入札の透明性の確保が提言され、その後も建設省においては改善策の検討が続けられている。

 また、公取委も、昭和59年に建設業ガイドライン、その改訂版として、平成6年に入札ガイドラインを公表している。さらに、平成11年6月28日「競争政策の観点からみた地方公共団体による規制・入札等について」等を公表している。

特に、前者の建設省による入札方式の見直しの検討と改善策は、一般競争入札参加資格の緩和、公共工事の前払金保証事業に関する規制緩和、共同企業体、上請け・丸投げ、総合評価方式、入札辞退の自由の明文化、指名審査委員会の設置、公共工事に係る経営事項審査の見直し、低入札価格調査制度とその結果公表、等々多岐にわたっている。

 私事にわたるが、昭和57年、静岡建設業協会事件が表面化し、談合が社会問題化した最初の頃、私は中央建設審議会の下部委員会の臨時委員として検討にかかわったが、その頃の議論と比べると、右記のように対策は多岐にわたっており、内容も一般競争入札の推進、情報公開の点など、隔世の感がある(注12)。しかし、改善策の中にも、地方公共団体(殊に市町村レベルで)などでは未だに実施されていない点も多い(注13)。

 現在の改善されつつある入札制度についても、個々の商品・工事の特殊性から、さらに改善・工夫すべき点も多いであろうし、この方向が更に前進することが望まれる。前述の静岡建設業協会事件を契機として談合が大きな社会問題となった頃は、受注者サイドのみならず発注者サイドにおいても談合やむなしとの議論があったこと等から、その種の努力さえなかったのである。

2.入札情報の公開

(1)落札価格・予定価格等の事前又は事後公表、発注標準等の公表なども、少なくとも間接的には、入札談合を防止する方向に機能すると考えられる。

 この点も、当初は全く議論が進まなかったが、まず、落札価格の事後公表が決定(建設省「工事及び建設コンサルタント業務等に係る入札結果等の公表について」(平成6年3月30日、建設省厚発第108号)、次に、予定価格も、平成10年2月4日の中建審の建議、これを受けて、同年4月1日に建設省及び自治省から都道府県知事宛ての「地方公共団体の公共工事に係る入札・契約手続及びその運用の更なる改善の推進について」で初めて事後公表すべきものとされた。

(2) このような流れの中で、注目すべき判決として、津地裁平成10年6月11日判決(注14)は、三重県発注の公共工事の予定価格、設計金額、最低制限価格などを非公開としたのは県の情報公開条例違反であるとした訴えに対し、「事後公表してもーー支障が生じるとは認められない」、また、「入札制度が適正に機能しているかを検証でき、談合の事前予防効果も期待できる」として、これらの情報公開を命じた。

 さらに、入札の事後に、すべての応札者の応札価格の公開によって、不自然な入札・落札価格を知ることができ、ここでも談合の事前予防効果が期待できる。

 米国では、応札者が事前にESTIMATE を出し、事後には、発注者がインターネットで入札に関する情報公開をし、落札価格の内訳まで出すので、他の業者はどこをコストダウンすべきかまで研究でき、次の入札までに研究し備えることができるとのことである。

(3)予定価格の事前公表については、現在、議論・検討されているが、これについては、談合促進に働くとも、また逆に談合予防に働くとも考えられることから、決着がついていない状況にある。

 事前公表を主張する議論は、これにより、不自然な落札価格を摘発できる可能性があり、したがって談合予防効果がある。また、右記のように、予定価格の中で、業者はコストダウンに努力することができるはずである、とも説かれる。

 これに反対する議論としては、予定価格の事前公表によって、その公表された予定価格に張り付く落札価格となり、高止まりしてしまう、と説く。

たしかに、今日でも多くの入札が現実に談合によって行われているという認識を前提とすれば、予定価格の事前公表は落札価格の高止まりを招くだけである。しかし、だから予定価格の事前公開は談合を助長ないし容易にするとは言えない(談合があることが前提なのだから)。

しかし、競争があると仮定すれば、予定価格を事前公開しても、高止まりになるとは限らない。各事業者は、それぞれ工夫してなるべく公表された予定価格より低い価格で入札しようと努力するであろう。

むしろ、現在のように、入札に参加しようとする事業者が、予定価格を発注者から聞きだそうと探る営業努力が不要になり、平等の情報の条件で入札が行われることになる。

また、ここで議論している公共工事とは異なり、民需では、発注者から「これしか予算がない」、「これでやって欲しいが」と事前に言うことなどよくあることであり、これを前提に相見積もりが実施されている。

もっとも、公共工事では、発注者が独自にコストを積算し、それ以上は高すぎると判断する機能と能力(があると言われている)を持ち、これを前提にして、予定価格は単なる予算の上限ではなく、これを超える入札価格が無効となるのであり、この点は民需と異なる。

 しかし、積算標準は公開されているから、それに基づく予定価格を事前に公開してよいし、事業者であれば、かなりの精度で予定価格を推測できるとのことである。もっとも、だからこそ、落札価格が予定価格のごく近くまで接近するのであって、これは談合及び予定価格を事前に知ったからではない、という説明もなされている。

例えば、ある新聞報道によれば、建設省調査では、公共工事の落札価格は、平均して予定価格ぎりぎりの95.4%であるという。情報公開オンブズマンとして活動してる者からは、これは「談合」の結果であるとの主張がなされ、これに対し、発注者側(島根県土木課)からは、積算単価も公表しており、予定価格を推測することは可能だとのコメントがある(注15)。

 この点はともかく、実際に落札したい事業者であれば、真剣に積算標準等々を研究し、さらに公表される予定価格からどれだけ下げることができるかを検討し、そうした企業努力こそが競争を進めるはずであると考えられる。

(4)なお、談合問題と並んで議論されてきた出血受注(赤字での落札)は、根深い問題であり、ここでそのすべてを論じることはできないが、このおそれがあるから談合も黙認すべきである、あるいは情報公開の推進は赤字受注を増加させるとは言えないと思われる(注16)。

3.発注者のコスト削減のインセンティブの付与

 しかし、入札制度の改善の方向が漸進的に進むとしても、根本的に、発注者たる公団や地方公共団体と事業者側の不透明な関係がある限り、談合はなくならない。

入札において競争を真に機能させ、安い落札を採用するというインセンティブが、行政担当者(発注者)にはなく、逆に、予算消化等の要請は確かにかかっている等々の問題があると思われる。したがって、この問題に関する独禁法以外の法的統制のあり方として、第一に、発注者に、コスト削減のインセンティブを付与するシステムを構築する必要があると思われるのである。

例えば、総務庁などで検討が続けられている行政評価の手法と制度の確立が重要であろう。この種の質的評価のシステムがないと、少なくとも行政(購買等)担当者のレベルでは、コスト削減のインセンティブが働かない(注17)。

四.談合行為者に対する入札制度内の制裁

(1)地方自治体等の発注者のチェック体制、責任追及の甘さも指摘されることが多い。

入札制度内の制裁として、指名停止が一般に用いられているが、これによって制裁を受けた事業者に実際に損害が出ないように命じられているとの指摘も多くなされている。右記のゴミ処理施設談合でも、当該5社を含めた指名をせざるを得ない模様であるとの報道もある(注18)。

他方で、発注者も、談合摘発後に、競争が実際に行われ、結局不調に終わるような事態が生じても困るとも言われ、実際に不調が増加したとの報道もあるが、そうであれば予定価格が不当に低すぎるということではなかろうか(この点も詳細は割愛)。

(2)各方面からの主張として、例えば、契約条項における工夫として、落札者との契約に違約金条項を盛り込み、契約金額の何%かを徴収すると明示しておけば、ある程度の抑止力になると思われる。

5.独禁法違反行為の摘発・制裁の強化

(1)独禁法違反が摘発した後は、落札価格が数割程度も下がるのが通例であるという。そこでは、公取委及び周囲の厳しい目が光っているから、新しい競争のあり方への模索が始まっていると評価できよう。

したがって、地道に独禁法を適用することが結局は肝要なことであるといえよう。

 発注者の責任を、本小論の冒頭で示した刑事罰でこれまで以上に厳しく追及すべきであるという主張は、議論の筋としてはもっともであるが、これは現在の公取委と検察局との関係、役割分担の見直しが必須であり、ここでは検討を割愛する。

さらに、前述の独禁法改正の是非等についても、ここでは検討できなかった。独禁法の基本から言えば、事業者の行為を規律するのが独禁法の本来の役割であり、これに加担した公務員の規律は、公務員法等の問題である、という整理ができるが、これも現実の実効性等の観点からより慎重な検討が求められる事柄であろう。

(3)制裁の強化という方向では、右記の刑事罰以外にも、例えば、官製談合でなく、「天の声」を出していないなら、損害賠償をするのが通例になるべきであるとの主張があり、実際に、大阪府の殺菌剤談合事件では、大阪府・大阪市がメーカー10社に対し適正価格との差額を返還請求する訴訟を起こしている。

 また、このように発注者が損害を取り戻す努力をしないのは違法であるとして、住民訴訟も提起されている(注19)。

 受注者側では、下水道事業団事件に関し株主代表訴訟が提起され、日立の元専務が1億円返還する和解が成立したという。談合では初めて、株主代表訴訟が実を結んだ事件である(注20)。

(注1)

郵便番号自動読取区分機類入札参加業者2社に対する勧告等・公取委平成10年11月12日。株式会社東芝・日本電気株式会社の2社は応諾を拒否し、現在審判中。

 なお、この勧告等には、「郵政省に対する要請について」と題する以下のような文章が付されている。

「郵政省に対し,2社が,それぞれ,平成7年度以降,同省が一般競争入札の方法により発注する区分機類について,同省郵務局職員から,入札執行前に,同省の購入計画に係る区分機類の機種別台数,配備先郵便局等に関する情報の提示を受け,これらの情報の提示を受けることを前提として,本件違反行為を行っていた事実が認められたことから,今後,本件と同様の違反行為が再び行われることがないよう,入札に係る情報管理等について検討するよう要請した。」

(注2)

防衛庁調達実施本部発注の石油製品の納入業者(12社)に対する勧告等・公取委平成11年11月17日。本件は、同年10月14日に告発がなされ、11社(12社のうち1社は合併により消滅)とその担当者9人が起訴され、現在東京高裁で審理中(第1回公判は6月2日)。

 この勧告でも、「なお,公正取引委員会は,調達実施本部に対し,今後,監督体制の見直し及び入札に係る情報の管理についての徹底を図る等の再発防止措置を始めとして,入札における公正かつ自由な競争を確保し,入札制度の適切な運用を行うための改善措置を講じること等を要請した。」、また、「調達実施本部の職員が,事実上,新たな入札における予定価格を指名業者に伝達する等の入札における公正かつ自由な競争を阻害する行為を行っていた事実が認められたので,調達実施本部に対し,監督体制の見直し及び入札に係る情報の管理についての徹底を図る等の再発防止措置を始めとして,入札における公正かつ自由な競争を確保し,入札制度の適切な運用を行うための改善措置を講じ,その趣旨及び内容について関係職員に周知徹底すること等を要請した。」との文章が付されている。

(注3)

北海道上川支庁発注の農業土木工事の施工業者等に対する勧告等・公取委平成12年5月15日。本件については、「公取委 談合『道庁が助長』認定」朝日新聞5月12日付け朝刊、「道庁『官製談合』 問えぬ発注者の責任、独禁法に限界」読売新聞同年5月16日付け朝刊、「道庁の『官製談合』 改善要請どまり、公取委、法改正に慎重」日本経済新聞5月17日付け朝刊等、多くの記事がある。

(注4)

 法改正について、公取委でもまだ明確な方向は固まっていないようであり、これは前注掲記の北海道庁の関与した談合事件に関する、以下の新聞記事に見られる見解のニュアンスの違いからも読みとれる。

「公正取引委員会の塩田薫範事務総長は十七日の記者会見で、談合を事実上主導していた北海道庁への処置を法的拘束力のない改善要請にとどめたことについて、「もっと強い対応を求める議論があるのは承知しているが、独占禁止法には発注官庁への行政処分規定がなく現状では難しい」と述べた。「官製談合」の取り締まりに向け独禁法の強化を求める声があることに関しても、「市場の競争促進に向け事業者側が守るべきルールを規定する法律で、発注者への処分を制度的に作るのは難しい」と否定的な見方を示した。
 公取委によると、北海道庁はOBの天下り受け入れ件数などを考慮して、業者ごとに農業土木工事の受注目標件数を設定するなどしていた。こうした「官製談合」への監視役をだれが担うかについて、塩田事務総長は「行政機関や自治体が会計法令を順守しているかをチェックする機関は(公取委とは)別にある」と指摘。明言を避けたが、本来は会計検査院などの役割だとする考えを示唆した。
 塩田事務総長は独禁法に基づく行政処分以外の手段として、受注事業者の共犯として刑事告発すれば発注官庁関係者を処分できる可能性があるとしたが、公取委は告発を見送っている。」(日本経済新聞本年5月18日付け朝刊)。
「公正取引委員会の根来泰周委員長は二十九日、日本経済新聞記者のインタビューに応じ、北海道庁発注の農業土木工事を巡る「官製談合」事件で道庁職員の刑事告発が見送られるなど、公取委の責任追及の“甘さ”が指摘されたことに関して「今後は発注者の責任を問うため、独占禁止法の見直しを進める必要がある」との見解を明らかにした。
 公取委が過去最多の二百九十七社に排除勧告を出した道庁の談合事件では、道庁の内部調査で発注側である道庁職員の関与が明らかになっていたが、刑事告発は見送られ、道に対する再発防止の要請にとどまった。
 これについて、根来委員長は「公取委内部でも発注者の処分が手ぬるいと感じているが、市場ルールの改善を目的とした現行の独禁法では限界がある」と指摘した。
 また、刑事告発に踏み切っても「行政の末端にいる担当者が処分されるだけで、現行法では談合に関与した官公庁の構造的な責任を問うことはできない」と強調。
その上で、「規制緩和が進み、経済の構造改革や司法改革が確立すれば、独禁法自体を見直す必要が出てくる」として、公取委でも「(官製談合での)発注者責任について研究していく」と話した」(日本経済新聞本年5月30日付け朝刊)。

(注5)都営芝浦と畜場事件・最判平成元年12月14日民集43巻12号2078頁。これについては、例えば根岸・舟田『独占禁止法概説』(有斐閣、2000年)39頁参照。

(注6)舟田「石油カルテル刑事事件の最高裁判決について」商事法務研究1004号552頁以下、555頁(1984年)参照。

ここでは、行政担当者等は独禁法違反行為者としての「身分」を欠くから、これらの者を独禁法違反の当事者(「共同正犯」)にはなし得ないと解されると述べたが、岡田「入札談合に対する不当な取引制限罪の適用」ジュリスト1110号231頁(1997年)は、刑法65条1項によって非身分者の「共同正犯」も成立すると説く。

この点は、従来あまり論じられてこなかった問題であり、例えば、西田典之「独占禁止法と刑事罰」・『現代社会と刑事法』岩波講座・現代の法6(1998年)189頁以下、205頁では、従業員には独禁法3条所定の「事業者」という身分が欠けるため、同法89条は適用されず、同法95条の両罰規定によって初めて処罰され得る、という説明はあるが、発注者の責任についての言及はない。

(注7)シール談合刑事事件・東京高裁判決平成5年12月14日高刑46巻3号322頁。これについては、根岸・舟田『独占禁止法概説』(前注4)134頁以下参照。

(注8)最高裁判決平成元年12月14日・民集43巻12号2078頁。ただし、本件の具体的事案としては、都の行為は独禁法上の「不公正な取引方法」(不当廉売)に当たらないと判示されている。

(注9)塩野宏『行政法・』(有斐閣、1995年)243頁以下、251頁以下参照。地方自治法における行政財産と普通財産の区別、それを第三セクターに委ねる場合等の問題については、碓氷光明『自治体財政・財務法』(学陽書房、1995年)329頁以下、同『要説 自治体財政・財務法』(学陽書房、1999年)241頁以下等参照。

(注10)伊地知淳・齋藤誠誉「住宅・都市整備公団発注の塗装工事の入札参加業者による独占禁止法違反事件」公正取引591号79頁(2000年)参照

(注11)碓氷(前注9)『要説 自治体財政・財務法』219頁以下参照。

(注12)同事件は、公取委・勧告審決昭和57年9月8日で一応の決着をみたが、当時の建設業内外では、不当低価格入札や粗悪工事の防止のため談合やむなしとの意見が、圧倒的であり、談合が独禁法違反になるのであれば、独禁法の適用除外制度を新設すべきであるとの動きもあった。そうした意見とのやりとりの中で書いたのが、舟田・「公共工事に関する独禁法の適用除外の可否」全建ジャーナル21巻10号8頁以下(1982年)、及び「談合入札」法学教室19号90頁以下(1982年)である。

(注13)最近のものとして、建設省建設経済局長・自治省行政局長から各都道府県知事宛の「地方公共団体の入札・契約手続及びその運用のさらなる改善の推進について」(平成11年1月18日)、及びその基礎となる実態調査「地方公共団体の入札・契約手続に関する実態調査について」(平成11年1月19日)を参照。

(注14)日本経済新聞平成10年6月11日付け夕刊による。なお、横浜市の下水道設備工事の設計単価等の情報公開を求める訴訟において、一審の横浜地裁(平成9年7月16日・判タ969号151頁)は、これらを公開すれば予定価格を推測させ、談合を行う誘因を与えるとして請求棄却。しかし、控訴審判決(東京高裁平成11年3月31日判決・判時1678号66頁)は、談合組織が存在するという客観的根拠があり、予定価格の事後公表によって予定価格自体につき、広く一般の批判にさらして以後の査定を適切なものとすることを目指し、併せて談合を牽制することが入札制度の健全化に資するのであり、契約締結事務に著しい支障を生じるおそれがあったとは認めがたいとして、原告の控訴を容認、非公開決定を取り消した(この点は、岡田外司博氏のご教示による)。

(注15)朝日新聞平成11年1月13日付け朝刊

(注16)これは古くて新しい問題であるが、さし当たり、舟田・前注11「談合入札」法学教室19号90頁以下、及び根岸・舟田『独占禁止法概説』(前注4)214頁以下参照。

(注17)この点については、舟田(発言)・座談会「最近の独占禁止法違反事件をめぐって」公正取引596号(2000年、近刊)を参照。

(注18)日本経済新聞平成11年10月27日付け朝刊参照。

(注19)この点についても、岡田外司博氏から貴重な資料とご教示を頂いたが、その詳細はここでは割愛する。

(注20)日本経済新聞平成11年2月21日付け朝刊参照。

 

 


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セールス電話は迷惑!(寄せられたご意見を掲載!)

<1> くだらない電話対応で日が暮れて

Date: 04.24 4:09 PM
From: E.M
To: 舟田 正之
舟田先生、ご無沙汰しています。最近はまめにHPが更新されているようで、拝見させて頂いています。先生の「個人情報保護法をめぐる二つの小話」と題された個人情報についてのご意見には「その通りだ」とうなづいたり、ことに先生がセールスの電話をかけてきた相手を「いじめ」ようと思ったのが「講義になってしまった」ところなどは笑いながら読んでおりました。

 私の会社でも、社長宛てのいわゆる営業の電話が大変多く本当に困っています。

1日に受ける電話の半数以上が「不愉快な態度」のセールスで、かつこの方々は見込みが無いとおもうやいなや「ばーか」などと捨て台詞を残して「がっちゃん」と切り、数ヶ月後にまたかけてくるというエンドレスの戦いです。最近はこちらも丁寧に「それではそちらのお電話番号と会社名を、社長のほうより折り返しお電話いたします(電話などするつもりもないが)」と先にお名前を頂戴し、不愉快な態度を取られない様予防線を張ったりしていますが、これも本業を離れた無意味な戦いに変わりはありません。

更にはこの態度が気に入らないと無言電話を何度もかけられたりするので更に神経が磨り減ります。会社ですので電話番号や社長の名前が公表されているので致し方ないのかもしれないのですが、いくらかを投資してナンバーディスプレイにかえたとて、会社の電話ですので非通知の電話を着信拒否する、ということも出来ず、大変難儀を強いられています。

封書で来るダイレクトメールは「受取拒否」と書いて返送することによりかなり減少しました。電話(ファックス、E-mail)では同じ様なことが出来ないものでしょうか。。。

 会社以外で迷惑しているのが幼稚園名簿の流出です。昨年子供が幼稚園に上がるや否や、子供と保護者名に書かれている夫宛ての「お受験用塾」のダイレクトメールがどっさり届くようになりました。(中略)

法案の成立ももちろんですが、個人情報の管理や営業活動(ことに電話での営業活動)へのモラルの高まりが必要なのかと思ったりしながら、まさに今、セールス電話の応対をしております。あ〜、あったまくるぅ〜!

 個人経営の方は多かれ少なかれ、この種のセールス電話があるようですね。個人名のみを名乗って「社長の個人的な友人」を装う例も多く、意地悪な私は「どちらの山田さまでしょうか?え?田町の山田様、はぁ、社長にその様な親しい友人はおりませんの失礼致します、はい、」と身内だからこそ分かる判断でにこにこしながら畳み掛けるように切ってしまいますが、同じ人がまたかけてくることも多いのです。

 そして「こっちだって商売でやってんだ」、「電話をつながないのはそっちの勝手だ、後で困るだろう」と開き直られたりします。みんながいいます、「こういうのを法律で規制できないものか」と。
取り止めの無い話となりました。またお便りいたします。

<2> 舟田より

 E.Mさんのメールにある売り込み電話への対応は、米国でも古くから議論されています。
 今は、Eメールでのお邪魔虫をどうするか、そういうソフトはないか、という話のようです。

 ところで、法律では、「業務妨害」(刑法233条)ととらえる可能性はあるでしょうが、その規制のコストの方が大きいでしょうね。

 最近、痴漢と間違われて裁判で戦って、2年後に勝ったオジサンの談話が新聞に載っていました。

 「今度、同じような目にあったら、おとなしく謝って許してもらいます」。 それほど、えん罪、警察の誤りを正すのは大変なのでしょうね。
 立場は逆ですが、業務妨害として正式な法的制裁を課すのは、これも大変でしょう。

 そこで、刑法ではなく、特別法でというアイデアもあるでしょうが、ここでも制裁を厳しく課すとすると、同じような厳格な立証が要求され、やはり大変でしょうね。

 本来は、業界の自主規制の方が、コストが安くできるでしょうが、これは実効性があるかしら?  悲観的なことばかり書きましたが、良いアイデアがあればお願い。

 

<3> E.Mより

そんな,,,先生。。。先生みたいな専門の方からの投げかけとはいえ、、たかが「うに屋」の私がそんな起死回生の良い策を見つけるわけ無いじゃあないですか。。。私は「オモシロ話」ばかりになってしまいますが、お許しください。

 自宅にもセールスの電話が多く、年末に妹がNYから来た際に家から国際電話をかけたためか、数ヶ月ごの今「国際電話をかける家」リストに登録されたらしく、0041、0061、001と国際電話会社から電話がかかってきます。大体かかってくるのが夜の7時過ぎなので、家でくつろいでいる時間であったりして、「ったく、この忙しい時間に」と怒り心頭です。

 通信販売で化粧品を買えばアンケートと称して電話が、夜の9時半などというとんでもない時間にかかってきます。情報の流出も問題ですが、その電話をかける人の「かけ方」に常識がないと思います。

 先日このようなセールス電話についておしとやかなEさん(旧姓Nishi-サン)と話す機会がありましたが、彼女はセールスの電話にもこんこんと話を聞き、丁寧に応対しているそうです。さすがだと思いました。私には出来ません。

 私は自分の立場を主張してしまうので「今、家族で食事中ですので(夕食時間帯に電話してくるほうがおかしい)遠慮してください」というと「それではまたかけなおします」と言うので「いえ、迷惑ですからかけないでください」とハッキリ言ってしまいます。修行が足りないでしょうか。でも自分たちの時間を楽しんでいるところに割って入ってくる電話の暴力に気付いていないと私は息巻いておりまして。。。

 また、例えば着物を買う、洋服を買うなどすると、メンバーズカード発行、などということで電話番号をかかされるときがあるのですが、私はファックスの番号や会社の番号、またどうしても自宅を、と言われた場合にはどうして必要があるのかを細かく聞き(銀行の預金口座を開くわけではないのですから、電話番号を書く必要はないと思っています)「セールスのお知らせなどの電話は一切しないでもらいたい」と意思表示をしておきます。

 心当たりが有る方面からの電話の場合、受け手がハッキリ意思表示をすればこういう業種の方々には先生のおっしゃる「自主規制」の論理は働くと思われますが、「先物取引」だとか「手形割引」だとか「リース割引」などのお電話は電話をかけること自体がビジネスになっているというかセールスマンの場合は「1日 200件がノルマ」になっていますので自主規制は会社自体の存続にかかわる可能性もあるので無理ないのでしょうね。

NTTのナンバーお断りサービスで「****-****」からの電話は着信しない、ということが可能ですが、セールスの電話を断るために会社中の電話をナンバーディスプレイにするわけにもいかず、またお客様の中では番号非通知でかけてこられる方もいますのでこれを断るわけにも行きませんし、もっとソフトの面で(E-mailでも同様のことが言えます)進歩するとまた違った良い方法が生まれるのかもしれません(でもそこをまたクリアしてかかってくる電話もありますのでいたちごっこでしょうか)

やはり名案ならず、迷案になりました。

<4> 舟田より

 私は、ちょっと聞いてセールスとわかると、「この種の売り込みの電話はしないで下さい」、と強い口調で言ってすぐ一方的に切りますよ。



個人情報保護法をめぐる2つの小話

1.ある法律系の学会の事務局あて

 私は以前から、当学会で名簿を作成し(これは事務上、必要不可欠)、配布することに疑問を持っております。

 個人情報保護法が、民間においても実効性を持って立法されたときは、学会員相互の連絡に便宜であることは言うまでもありません。しかし、同法が今だ立法化されておらず、またその実効性に疑問がある以上、この種の名簿はやめるべきだと考えています。

 具体的には、接触のない会社からセールス等の電話が、自宅と大学の両方にときどきかかってきて、しかも不愉快な対応がなされるときがあります。しかし、この種の問題の真の危険性は、本人の知らないところで、個人情報が収集・整理され、売買等の取引が行われているのではないか、という点にあります。

 かなり以前から、「名簿屋」なる企業が存在し、1件いくらで取引がおこなわれていることはご承知の通りです。

 なお、全くの私的団体が名簿を配布を取り決めることは、全員の同意があれば、問題ないでしょう。しかし、当学会は、公的団体であり、かなり参加者も多くなっていることを考慮すべきであると思います。

 なお、私が理事を務めている経済法学会では、かなり以前に上のような考慮から、配布を廃止しております。

 蛇足ですが、私も別のルートで(例えば、ホームページ等)、これらを公開あるいは提出していることがありますが、ここでは当学会の名簿を通じた不当な個人情報の流出を問題にしており、両者は矛盾するものではありません。

2.ゼミの学生とのメーリングリストでのやりとり

2−1 ゼミ生より

何で何で何で????

「何で俺の携帯の番号知ってるの?」先生に質問です。

極めて個人的な情報(例えば携帯の番号等)は何処から流出していると考えられますかね?

気をつけるポイントが解れば、今後個人情報を守る上でとても参考になると思うのですが・・・。

今日携帯電話にビジネス系予備校から勧誘の電話がかかってきました。内容は今度開催する説明会に来て欲しいといったものだったのですが興味無かったので話の途中で断りました。その後に何で携帯の番号を知っているのかを問い詰めると同時に、一部の限られた人しか知らない番号を知っている事が問題だ!と怒ったら、「別にうちは悪い事していない」の一点張り。しかも、「説明会に来たら教える」や、「あなたが最後まで話を聞いていたらちゃんと教えたのに」と暖簾に腕押し状態。

家の電話に勧誘の電話が架かってくるのはわかるんですよ。電話帳にも載っていますし。でも、携帯の番号は実に個人的な情報で、友人、知人とあと考えられるとしたら「リクルート(リクナビ登録の際)」か「エントリーした企業(一部マスコミと自動車メーカーと商社)」か「クレジットカード会社」ぐらいなもんなんですよね。

いずれにしろ、就職予備校みたいな所には全く関係が無いはずなんですが・・・。リクルートですかね?やはり、この情報化社会で個人情報を守り通すことは極めて困難な事なのでしょうか?自分では、特に携帯の番号はしっかりと管理していたはずなんですが。驚きです。

 

2−2 上のメールへの舟田からの返事

 一番多いのは、懸賞などの応募葉書に書いた個人情報が横流しされているケースではないでしょうか。

 もっとも、あのNTTや複数の携帯電話会社の社員も、契約者の個人情報を横流ししていたくらいですから、少なくとも日本では、この種のことは蔓延しているのでしょうね。

 なお、僕は勧誘の電話が来たら、少し時間に余裕があるときは、「貴方の会社はどうして私の電話番号を知ったのか」といじめようとしたこともありますが、反応はいまいちで、質問の背景さえ分からないのが多いから「いじめ」にならずに、講義をしなけれなならなくて面倒になって止めています。

 今、法案が検討中の「個人情報保護法」(先進国の中で、日本だけが、この種の法律がないのですよ!)も、単なる基本法ではなく実体法として整備し、かつ罰則付の厳しい規制にしないと意味ないのですが、どうも一般論だけで、個別の業種ごとの規制に委ねる方向のようで、どれだけ実効性のある規制になるか、引き延ばしにあうのではないか、不安がありますね。

なお、この種の特別法がなくても、個人情報の横流しは民法上の不法行為に当たり、あるいは刑法に触れる場合もあるのは、みんな知ってますよね。


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航空業における新規参入(特に、エア・ドウーについて)

 

1. 公取委の「国内航空旅客運送分野における大手3社と新規2社の競争の状況について」(平成一一年一二月一四日)に全面的に賛成します。

 単に、独禁法に違反するか否か、という法律論ではなく、競争を促進するために、具体的にどうすべきだ、という点にまで踏み込んだ指摘をするというのは、これまでの公取委のガイドライン等では、ほとんど見られなかったこと。

 所管省庁に遠慮するだけでなく、むしろ提案し、あるいは批判することで、悪名高い「縦割り行政」の幣をうち破ることができるでしょう。なお、行政の各機関が行政の対象を分担すること自体は、効率的行政のため必然です。問題は、それが各省庁の権益確保につながり、相互に領域を侵さないなどの行動様式を生むことでしょう。

 

2.フジテレビ1月30日『FNSドキュメンタリー大賞が見つめた90年代の日本』。受賞作はそれぞれ面白いが、特に、大賞を受賞した北海道文化放送「高度1万メートルの挑戦」は、全くの素人がエア・ドウーの設立から就航までの苦しい戦いを描く秀作。

 北海道の大手養鶏家である浜田氏が日航OBらとともに、資金・認可獲得などに苦しむ様子、草の根運動と同様に、北海道の人々から1口5万円で株主になってもらう話は、今はやりのベンチャ−・ビジネスとは異なる1面を描いて興味深い。札幌・東京間が5万円近いというのは、世界的に見ても異常な高さであり、北海道の人々に不当な出費を強いていると憤慨する様子、拓銀破産など経済的に苦しさが増す北海道に1つでも明るい方向を示そうと多くの方々が、説明会に出て出資しますなどと発言する様子。

 航空産業は、「埋没費用」がないから、ヒット・エンド・ランが可能、したがって競争に適する、という経済学の理論と、ここに描かれている新規参入のための膨大な投資、多くの人の数年間にわたる苦労などは、どうもそぐわない。この新規参入が仮に失敗し、撤退せざるをえなくなったとき、その打撃は(特に北海道の人々にとって)広範かつ深刻なものになるであろう。

 飛行機1機をリース契約し、毎月数億円が消えてゆき、自己資金が底をつきだす中で、なかなか認可の申請をする事ができない様子(本来は申請は自由で、それが不十分なら申請却下になるだけだが、日本では申請を受理しない、という運用が横行している、これだと、不受理は行政処分ではないから、裁判は争う方法がなく、ひたすら受理をお願いする他はない。もちろん、法的には不受理は違法である)。

 運輸省が申請をようやく受け取ったとき、申請側が有り難うございますと頭を下げ、運輸省側は「北海道の厳しい経済に配慮してーー」などと恩着せがましいいい方で受理した様子。これらは、最大の参入障壁が、規制自体にあることを仄めかしている。正面から運輸省を攻撃するとエア・ドウーに迷惑がかかることをおそれたのであろうが、運輸省係官の「札幌・東京間などの特定路線だけに参入することは、ユニバーサル・サービス維持を困難にする」との発言は、これまですべての公益事業の競争導入を阻止する論理として用いられてきたものだなぁ、と昔のことをいろいろ思い出した。

就航してユーザーを獲得し始めると、既存のエアライン各社がすぐに対抗値下げを打ち出し、社の存続が危ぶまれるところで、終わり。

最後に、浜田氏が「料金値下げは我々が競争したからだ、ということを忘れないで欲しい」と言う場面は、競争の保護と競争者の保護が、抽象的な独禁法理論の説くようには峻別できないことをも示唆している。




『買ってはいけない』について

(1)『買ってはいけない』に関しては、100万部以上売れていることもあって、文芸春秋、サンデー毎日、朝日新聞の天声人語など、議論が出ているようですね。

 本書の功績は、まさにこのように、多様な観点からの商品の安全性・適正性、あるいは広告・宣伝の妥当性・偏りの有無に関する議論を喚起したことにあるでしょう。

 商品に関する議論ないし情報が、明らかにメーカー発信あるいはメーカーよりのものに偏っていて、消費者の立場からの発信がほとんどなくなっていることは、今日の日本の貧しさを表現していると思われます。商品情報の多くは、メーカーからの広告・宣伝であり、本来は消費者の立場からの評価が期待されるメディア(テレビ、新聞、雑誌等)の商品情報・紹介でも、ほとんどはメーカーからの情報に頼ったものであり、その証拠に、個別の商品をほめることが多く、厳しく批判したものが少ないことは残念です。

(2) 商品の安全性については、後続の『週刊金曜日』で若干の議論の進展が見られているようですが、基本は、原材料・製造工程等について、リスクが高いものがあり、あるいはその疑いがある場合は当然あるということでしょう。ですから、それをある程度は知った上で、「安いから」あるいは「旨いから」、「よく汚れが落ちるから」という機能面で、リスクを引き受けて消費する、というのであれば、これも「消費者の選択」としてあり得るでしょう。

 もちろん、これと異なって、よりリスクの少ない商品を、なかなか手に入らない中で若干の手間をかけて探し回って買う消費者、あるいは、ちょっと高くても、あるいは汚れの落ちが悪くても我慢して買う消費者も、これからは増えるでしょう。

例えば、数年前からの「自然食品」ブームも、一時的な現象では終わらないと思います。

 企業の方も、『買ってはいけない』は「ためにする議論」だから相手にしない、と無視するのではなく、きちんとデータを出して反論し、消費者には、自分が提案する商品は、精確にこういう成分・効能等であり、欠点も長所もあるが総合的に見て買うに値するのではないか、と訴えてはいかがでしょうか。

(3)なお、『買ってはいけない』には科学的検証がない等の批判があり、この筆者達は直接商品テストや実験等をしてないようですので、これは当たっているでしょう。しかし、『暮らしの手帖』が昔から続けていた商品テストを廃したという記事の中で、商品テスト、特に成分分析等の立ち入ったテスト・分析・検証は、かなり専門的な知識と装置等が必要であり、その結果の分析・評価等も意見が分かれる場合が多く、小資本と乏しいスタッフでは企業の技術研究水準に対抗して維持することは最早できない、という事情があるようです(この辺は、僕も詳しくは分かりません)。

 米国などでも、ラルフ・ネーダーのグループやコンシューマー・レポートなどが独自の商品テストをしているようですが、日本では、「国民生活センター」(特殊法人)や各地方自治体の消費者センター等が、消費者被害や不当表示の規制だけではなく、もっと予算とスタッフを充実させて、企業とは独立した立場からの商品情報を消費者に届けるようになって欲しいものです。

(4)以下は、ゼミの学生とのメール交換の中での文章です。

「きっと一番大切なことはの『買ってはいけない』のような本が売れることによってメーカーに対し「消費者をなめんなよ!」とアピールすることなのではないかとマックを食べつつ思いました。僕はマックもコーラも山パン(山崎パン)もやめないですよ。みなさんどうお考えですか?」(3年 清水)

 清水君、前半の文章には賛成。ところで、マックや山崎パンよりは、町の小さなパン屋さんで作られたパンの方が、信用できるのではないですか。そのパン屋さんといろいろ話をして、原材料まで教えてくれるならもっといいでしょうね。一般に、食べ物は、小さな生産者・供給者のうちが旨さも品質も確かで、大企業に成長すると(あるいは最初から企業経営の観点だけから始まった)場合、消費者との距離が大きく、利潤第一になりがちと言えるのではないでしょうか。支店を出すようになって、品質が落ちた食べ物屋(レストランなど)の例はいくつもありますね。

 コーラは昔から、その原材料について「企業秘密」であるとして、詳しい表示を拒んでいますが、それなら単純なミネラル・ウォーターや、野菜・果物100%のジュースの方が安心ではないですか?

(5) 洗剤・石鹸等のトイレタリー商品に関しては、かなり以前から消費者組織・運動の側からの批判があり、私も「今月のお気に入り」で、小澤王春『洗顔フォームは捨てなさい』(経済界、1997年)、同『髪は石けんで洗いなさい』(経済界、1996年)を紹介したことがあります。最近私が目にしたものには、日経新聞夕刊連載「赤星たみこ エコロなココロ」や、「編集長インタビュー シャボン玉石けん社長森田光徳さん 赤字でも無添加の良さを信じ続けました」朝日新聞99年8月28日付け朝刊などがあります。

(6) もっとも、こう書いてくると、私はいかにも「賢い消費者」であると主張しているようですが、もちろんそんなことはありませんよ。これがいか、あれがいいか、うろうろ、いろいろ試して、でもよく分からないということが多いですねぇ。

例えば、私は一人暮らしなので、クレラップ、サランラップなどラップ製品の大量消費者で、果物でも何でも少し囓って残りをラップしつつ、これはダイオキシンを発生させる廃棄物を一人で作り出しているなぁーーと気にしていました。

前記の「赤星たみこ」さんの連載で、「ラップは洗って何回でも使おう」とあったので、「ヒェー、細かいな! しかしやむを得ないか」と励行していたところ、そのあと、「ラップではなく蓋をすれば十分」、とあったので、蓋になる食器はどれがいいか、といろいろ試していました。ところが、『買ってはいけない』には、ラップの原料には2種類あり、「ワンラップ」(エヌビーフィルム社製)は使い勝手は多少悪いが、「環境への影響や安全性、価格などの面で総合的に判断すれば、ポリエチレン製のフィルムの方が数段優れているとのこと。これも鵜呑みにはしない方がいいでしょうが、サランラップを製造している旭化成工業は是非これを反論して、私たちが判断できるようにして欲しいですね。

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「信書の独占」とヤマト運輸による地域振興券の輸送

1.経緯

 10月14日、15日付け日経新聞は、地域振興券やクレジットカードなどをヤマト運輸が取り扱うことを郵政省が禁止する措置をとったことを独禁法の「不当な取引妨害」に当たるとして、公取委に調査申請(独禁法45条)したことを報じた(朝日新聞等も15日付けで追っかけ記事を掲載)。

15日、ある記者の取材を受け、以下のコメントを用意したが、これでは長すぎるのか、あるいはコメントとして面白みがないからか(おそらく両方でしょうね)、結局、没となった。

(1)郵便法5条が「国家独占」を規定している「信書」を、「ある人から他の特定人に宛てたメッセージ」と狭く解し、地域振興券などはこれに当たらないとすることも可能である。

(2)しかし、「信書の独占」制度の趣旨は、全国一律料金、ナショナル・ミニマムの維持という目的によっており、その妥当性の検証なしに、上記の狭い解釈を直ちにとることはできない。

(3)郵政省の公権解釈で、地域振興券などが「信書」に当たるという解釈をしても、公取委はこれと異なる解釈をする権限をもつ。

 

2.問題点のまとめ

この問題には、国が独占的に提供している、公共的性格を有するサービスを、民営化し競争に委ねるべきか、また、規制行政庁と公取委との関係などの興味深い論点が含まれているので、前記のコメントを若干ふくらました形でまとめてみよう(以下は取材当日、記者に送ったメモに若干の補足をしたもの)。

(1)国の郵便事業における「事業者」性

 「事業者」かどうかという問題と、当該事業が法的独占となっているかどうかとは別問題、というのが通説的考え方である。

お年玉年賀葉書事件についての稗貫解説(独禁法審決・判例百選)は、大阪高裁判決にひきづられて、独占なら事業者ではない、という論理のようにも見えるが疑問である(ただし、稗貫解説には国の「事業者性を前提としたうえで」という文章もある)。大阪高裁判決は、競争関係があるから、国も独禁法の適用を受ける「事業者」に該当する、という論理のようであるが、競争関係があるかどうかということと「事業者」に当たるかどうかは別問題である。

例えば、独占事業者による優越的地位の濫用が独禁法違反に当たることは従来から説かれていたことである。旧電電公社(現NTT各社)などの購買力は具体的に問題になってきたことであり、これは諸外国でも同種の事業体のバイイング・パワーの濫用として古くから議論がある。

上記の考え方によると、「事業」とは「なんらかの経済的利益の供給に対応して反対給付を継続して受ける経済活動」であるから、郵便事業における国は「事業者」に当た当たり、全面的に独禁法の適用を受ける。

(2)「信書」の解釈権限

 郵便法5条の「信書」の意義については、広狭様々に解しうる。

 郵政省の公権解釈で、地域振興券などが「信書」に当たるという解釈をしても、公取委がこれと異なる解釈をする権限はある。公取委は、政府から独立して職権を行使する委員会であり、また、公取委・郵政省いずれの解釈の妥当性も、最終的には裁判所が判断すべきものだからである。

 なお、この種の公取委と所轄行政庁の権限が重複するような場合には、「通知」、「同意」、「協議」その他の規定がおかれることもあるが、本問題については存在しない。また、米国のprimary jurisdiction(第一次管轄権。これは裁判所と行政機関の判断権限の調整の理論であるが、差し当たり、根岸哲『規制産業の経済法研究」(成文堂、1984年)126頁以下参照)のような制度も、わが国ではとられていない。ただし、両者の間で事実上の連絡・情報交換はなされることが望ましい。

(3)独禁法違反

仮に、地域振興券などが「信書」に当たらないという解釈をとれば、今回の事例では、独禁法における不公正な取引方法に該当すると判断される可能性が高いように思われる。

 

3.補足

上のまとめを以下補足する。

(1)「信書」の独占

信書の意義を解釈によって確定する際には、第一に、法的安定性の観点から、立法意思は何であったか、また、立法後採られてきた従来の解釈・運用の実際をも見る必要がある。郵政省の公権解釈は、信書をかなり広義に解しており、これは今日に至るまでほぼ維持されている。差し当たり、来生新「電報の法的独占と競争」横浜国際経済法学7巻2号76頁以下参照。

 第二に、上の点が、実態の変化の中で正当に維持されるべきかどうか。実態の変化はどのようなものか。

実態上の変化については周知の通り、郵便サービスに代わって、FAXやEメール等の電子的手段が急速に伸びている。平成10年度の郵便事業が大幅赤字であったのも、これによる面があるのであろう。

一方で、郵便事業において、信書の独占から得た利益を郵便小包の基盤整備に当てることには公正競争の観点から問題視されるとの指摘がある。他方で、民間宅配業者は宅配便で得た利益を「メール便」の体制作りに投入し、郵便事業への参入への基盤整備を図っているようである(以上は、井出秀樹「郵便事業の新たな取り組み」郵政研究所月報99年10月号2頁による)。

数年前の添え状を巡る議論(貨物に添付する無封の添え状は信書独占を侵すものとはしないとの整理がなされた)、その他一般的な運送技術・経営に関する近年の進展からは、「信書」は個人間の「メッセージ」に限るという狭い解釈も成り立つ余地がある。

第三に、「信書の独占」制度の趣旨は何であったかという点から、目的論的解釈をする必要がある。この点は、郵便制度の独占が、全国一律料金、ナショナル・ミニマムの維持という目的によっていることは周知の通りである。これについては、来生新「郵便の国家独占と競争」横浜国際経済法学1巻1号125頁以下、井筒郁夫「信書独占の合理性ムムム経済学的視点から」郵政研究所月報97年2月16頁以下などがある。

特に、来生論文は啓発的な内容を含んでおり、ナショナル・ミニマムの維持という目的を維持するためには、郵便事業全体の効率性の検証が必要であり、これと並行してアクセス・チャ−ジ方式(電気通信制度との対比で言うと、ユニバーサル・サービスの維持のために日米等で検討されている「ユニバーサル・サービス基金」制度)まで検討すべきかもしれない、とする。この点は、ナショナル・ミニマムが直ちに全国一律料金なのか、若干のコストに見合った料金も許されるのかなどを、民間事業者の料金体系との比較もふまえつつ、検討する必要があろう。

結局、私としては今の時点では、ヤマト運輸の行為が信書の独占に触れるか否かについて確定的な意見を述べることはできなかった訳である。

(2)公取委の解釈権限

「信書」の解釈をする際に、公取委は郵政省の解釈に拘束されるか?

これを肯定するためには、明確な根拠規定が必要であり、それがない以上、公取委は独立行政委員会として、独禁法の解釈の前提となる「信書」を独立して解釈する権限があると解される。

これに類似の事例は見あたらないようである。やや近い例として大阪バス協会事件があるが、これは、認可料金の規制の意味、範囲がはっきりしていた事例である。

しかし、規制の根拠規定が不確定概念あるいは(「信書」のように)一義的に内容が決まり難い概念を用いた規定ぶりになっており、その解釈として、一定の行為が禁止されている、または行政庁が命令するという場合、独禁法違反行為かどうかを判断するための前提である規制の解釈の妥当性は公取委が解釈する他はない。

(3)刑罰規定の意味・機能

ヤマト運輸側は解釈の違いを主張してきたが、これに対し、郵政省が「信書」に当たるものを輸送するのは郵便法に違反するから、場合によっては同法上の刑事罰が課されると警告したとのことである。

ヤマト運輸側は、これは一種の恫喝の実質を持つと批判。「ヤマトと取引をすると刑事罰になると、自治体などに圧力をかけたのは、それだけで独禁法違反だ」との主張があるが、これは無理であろう。出発点は、郵便法違反かどうかであり、仮に違反とすれば、その趣旨を告げて違反行為には刑事罰が課されるという制度の説明をしたわけあり、これが独禁法違反となるにはよほどの「不当性」を立証しなければならないであろう。

ところで、この種の事業規制に刑事罰をつけているのは、立法時には明らかな犯罪行為を念頭に置いていたのであろうが、現在の状況下では、刑事罰の峻厳性・謙抑性を念頭に置くと時代錯誤ではないか。立法論としては刑事罰は削除すべきであろう。

 大阪バス協会事件でも、刑罰がついているから、規制を守ろうとするカルテルはいい、との議論があった。刑事罰にあまりに重要視するのはいかがか?

(4)年賀状不当廉売事件

なお、お年玉年賀葉書事件については、最判平成10年12月18日で、原審判決を認容する判決が出ている。

その高裁判決(大阪高裁平成6年10月14日判決、独禁法審決・判例百選6頁・稗貫解説)は、「国が独占的に行う郵便の業務とは、信書及びその他の一定の物件の送達とこれに付随する郵便切手類の発行・販売を指すものであり、郵政省便はがきの発行・販売は、郵便の業務と関連するものの、郵政省の業務そのものには含まれず、国の独占に属するものではない」としたものである。

したがって、「信書」とは何かにはふれていず、本件の参考となるものではない。

              
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「適正な電力取引についての指針(案)」について

 本年10月末に、資源エネルギー庁における電気事業審議会基本政策部会・合同小委員会で、「適正な電力取引についての指針(案)」(= 電力取引ガイドライン(案))が提出され、パブリック・コメントに付すことになりました。

その内容は、適正取引ワーキング・グループで十分議論されたもののようで、妥当な内容であると思われます(ただし、この議事要旨はあまりに簡略で分かりにくいものです。次回からはなるべく詳細にお願いします)。

しかし、独禁法上、問題があるとされる行為と電気事業法の変更命令を受けるおそれがある行為の振り分けについては、以下述べるように異論があります。このことは、先日(10月20日)開かれた電気事業審議会基本政策部会・合同小委で、意見を述べ、事務局からその返答がありましたが、納得できるものではないと考え、アップする次第です。

(1)以下、私の議論を整理して再論します。

 指針案では、例えば、最終保障約款や託送について不当に高い料金などが提示された場合は、電気事業法上の変更命令が出されるとあるが、独禁法上、どのようになるかが示されていない。これらについて取り上げたケースについて電気事業法上の問題だけが明示され、独禁法上も同時に違法となる可能性があると言うことは、やはり明記すべきではないか。

事業法上の規定に従って届出された料金や認可を受けた料金も、独禁法上の規定の要件に当たる場合には同法を適用できるというのはほぼ異論のない点である。すなわち、電気事業法違反の行為であっても、同時に独禁法にも違反する場合には、両方の法律が重複適用されると解される。

電気事業法と独禁法は、目的・観点・要件・サンクション等の点で相違があり、電気事業法だけで対応することは競争秩序の観点からも、また被害者の救済の観点からも問題である。

指針とは、法律の素人にも分かりやすく、違法行為の事前防止のためであるから、例えば最終保障約款や託送については電気事業法だけが問題なのだ、と受け取られることは不適当であろう。

(2)これに対するエネ庁の担当者の回答は、「先生とは実態認識が違うようで、私どもは先生のご主張は当然であるから、あえて書く必要はないと判断しました。

最終保障約款や託送については、電気事業法上明文で規定があるので、それを書いたまでです。」というもの。(あとで、議事要旨がホームページ等に公表されるでしょうから、それをご覧下さい)

 この日は、ここで問題にしている適正取引ワーキング・グループの案のほか、5つの案をまとめて承認することになっていて、時間がないこと、また、既にきちんとした小冊子が印刷されていて、これを今日の段階で訂正するよう要求するのは無理と判断して、それ以上の発言は差し控えた。

 このやりとりにおいて、通産省の会議の場で、上記の回答のように、電気事業法上の規制がある行為に対しても、独禁法が重複適用される、ということが明言されたということに意義があるのかもしれない。

(3)しかし、この回答にある「実態認識」は広く世間に通用するものであろうか。そうであれば、独禁法と個別事業法との関係を世間の方々がよく理解しているわけで、大変結構なことであるが、どうもそのようには思われない。

 電力会社の方からも、電気事業法で問題なしとされた行為も独禁法違反になるのですか? という類の質問をこれまでしばしば受けたことがある。まして、これから新規参入しようとする者や自由化部門に当たる大口需要家は、電気事業法を初めて勉強するわけであるから、同法と独禁法との関係を正確に理解できるであろうか。もともと、この指針(ガイドライン)は、競争導入に当たって電力会社が両法に違反することによって、新規参入者や需要家が不当に不利益を被らないようにすることを未然に防止するために策定されるのあるから、これらの者に両法を正確に理解してもらえるような書きぶりでなければならないであろう。

 この観点から、前記のエネ庁担当者の回答にある「実態認識」が広く世間に通用するものとは考えられない理由、裏返して言えば、電気事業法と独禁法が重複適用の可能性があることを明記すべき理由を述べる。

(4)第一に、独禁法21条で、電気事業などの自然独占産業については適用除外するとの規定がまだ残っている。託送を行うための送電ネットワークは自然独占であって(なお、これは経済学上も依然として有力な考え方とのこと)、これに関する「その事業に固有な」行為は独禁法の適用除外になる、というのが、同条の素直な読み方であろう。

 もちろん、公取委の規制緩和に関する研究会報告(平成9年)では、これを否定しているが、なぜなのか、またどの範囲で独禁法が適用になるのかは、普通の方にはかなり難解であろう。

 第二に、独禁法はすべての産業に適用される一般法であるのに対し、電気事業法は電気事業に限って適用される特別法であるから、両法が同時に適用される可能性のある場合には、特別法である電気事業法が優先適用され独禁法の適用は排除される、という理解もあり得る。もちろん、これも誤りであるが(一般法・特別法の枠組みと「適用除外」との混同)、これも普通の方には難解ではないか?

 立法の経緯からも、「自由化部門」に関する電気事業法改正において、競争原理の導入を趣旨とするのであるから新たに独禁法の適用除外規定をあえて規定しなかったと理解される。したがって、電気事業法の規定があっても独禁法が適用されるのは当然であるが、これは明白な解釈である、と言えるのであろうか。このこと自体は正しい認識・解釈であるが、前記のように独禁法21条があり、一般法・特別法の枠組みとこれまでの電気事業に関する規制の実態(すなわち、公取委が独禁法を適用した前例はなく、もっぱら電気事業法だけが適用されてきた)がある以上、素人には分かり難いであろう。

 第三に、このように1つの行為に複数の行政庁の権限が及ぶ場合、立法技術としては様々な手法がある。これは古くは畠山武道氏の論文で詳細に論じられたように、各国で頭を悩ましていることで、例えば他の行政庁に「通知」する手続とか、「同意」、「協議」などの立法例がある。米国のprimary jurisdictionのような議論を行政庁間でも通用するか、という議論もあり得るのかもしれない。

 今回の電気事業法改正では、この種の調整手続は全く取られていない。これは、とりもなおさず、法的には通産大臣と公取委が、対象となる行為に対しそれぞれ別個に電気事業法と独禁法を適用することを意味している。このことと「共同」ガイドラインとの関係はわかりにくいように思える。

(5)この指針についての合同小委における議論の最後に、座長の植草先生は、「これまで私どもは、縦割り行政のために、同じことを2つ、3つの行政庁に重ねて説明したり尋ねたりしなければならなかった。この通産省と公取委の合同ガイドラインの策定によって、この種の縦割り行政の幣が打破されたことの意義は大きい」と述べられた(これも正確には、議事要旨を参照)。

 前記のように両法の重複適用があるとすれば、この発言もミスリーディングであり、例えば最終保障約款や託送について、電気事業法によって変更命令が出されることも、また公取委が独禁法違反の審決を出すこともあり得るから、事業者(主として電力会社)は、やはり両法に目配りする必要がある。これは共同ガイドラインが策定されたかどうかとは無関係である。

 なお、このように私人の1つの行為が複数の法律に該当することがあり得るのは、よくあることで、例として適当かどうかは自信がないが、1つの交通事故を起こした場合に、道交法と民法、場合によってはさらに刑法が適用されることは分かりやすい例であろう。

(6)今日の会議のあと、ある方が私に、「今回のガイドライン案は、結局、自由化部門の中で、通産省と公取委がそれぞれ自分の領域を分け合った、ということでしょうか?」と耳打ちされました。なるほど、この案の形を見ると、問題となる行為は独禁法か電気事業法かのいずれかに違反するおそれがあると仕分けされていて、両法に同時に違反するおそれがある、という記述がありません。

 しかし繰り返しになるが、理論的には両法が適用される可能性はあるわけで、特に被害を受けた者はどちらで救済を求めるか、両方できるかを検討する必要がある。このことを明確にしておくべきだというのが私の主張であったが、そんなことは当然だから書かなかったのだということが明らかになった、という点に意義があると言えるのであろうか。少なくとも、通産省と公取委の「痛み分け」、「分野調整」という理解は誤りであるし、事実にも反すると思われる。

 ただし、実際の事件の取り上げ方の際に、通産省と公取委が情報を交換し合って、例えば、通産省が料金変更命令を出し、それで独禁法違反が解消するなら、公取委として措置を執らないということは場合によっては認められるであろう(独禁法48条の「できる」という文言、49条の「公共の利益」等の解釈による。これも議論がないわけではないが省略)。逆に、独禁法違反の審決が下され、排除措置が実行された場合に、電気事業法上の命令を出す必要がなくなるという事態もあり得るであろう。

 もっとも、通産省が料金変更命令を出さなかった場合には、公取委として独自に法の適用を考えるということになるべきであり、通産省が命令を出さないから公取委も措置をとるのは遠慮しておこうというような、変な共同行為はあってはならない。

 


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