「平和問題ゼミナール」
旧ユーゴ便り
Masahiko Otsuka Presents
-since 1998-
(Since 98/05/31)
   
最終更新 2005/12/03

第86回配信
遠き欧州への一歩


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10月4日EU緊急外相会議でのクロアチアの正式加盟交渉開始を発表する(左から)グラバル=キタロヴィッチ・ク外相、ストローEU議長国(英)外相、サナデル・ク首相(写真提供:ク共和国政府広報局)
    10月3日からルクセンブルクで行われていた欧州連合(EU)緊急外相会議は、凍結されていたクロアチアのEU加盟交渉を開始することで合意されました。この会議は加盟申請後19年間もの間、交渉が開始されていなかったトルコへの対応を巡ってマラソン討議となり、クロアチアについての結論が出されたのは4日未明でした。「わが国の新しい時代が今始まった。クロアチアは改革を進める意思と力がある。地域の安定と発展に向けて、EUとともに責任を担って行くことが出来るだろう」とサナデル首相は述べ、(この時点では形式的にではあるものの)交渉が開始されました。トルコのEU加盟交渉開始という「歴史的」なニュースの蔭で目立たなかったものの、クロアチアも旧ユーゴ圏全体に深い意義をもたらす大きな一歩をようやく踏み出したのです。
    読者の皆さんもご存知のように、昨年スロヴェニアなど新規10カ国が加盟し一気に東方拡大が実現したEUですが、今夏EUサミットでは憲法問題などで深刻な内部対立の存在が明らかになっていました。今回外相会議はトルコの加盟交渉開始を推す現議長国イギリスなど24カ国が、唯一反対する次期議長国オーストリアと対立。正確な会議の流れは不明ながら、91〜92年クロアチア独立実現の後見役を果たしたオーストリアが、フランスなど旧ユーゴ圏への拡大には慎重な諸国に対しクロアチアの加盟交渉開始を条件にトルコ問題で譲歩したのではないかとも伝えられています。
    トルコとともにクロアチア問題がこの会議で取り上げられることが確実と伝えられた8月中旬以降も、ここで加盟交渉開始が実現すると予想した人は、正直なところあまり多くはありませんでした。8月29日に日刊ヴェチェルニ・リスト紙が発表した国内世論調査は「年末までの加盟交渉開始はないと思う」の回答が54%、「あると思う」はわずか12%に過ぎませんでした。同時に加盟そのものへの「賛成」は39%、「反対」が45%で、国民のEUへの期待感にさえジリ貧傾向が見えていました。
    独立以降のクロアチア外交は、必ずしも国際的に能力を高く評価されていたわけではありません。
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クロアチアEU加盟交渉凍結の最大の要因はゴトヴィナ容疑者の未逮捕だった。現在も潜伏を続ける(写真提供:www.antegotovina.com)
しかし今回成功のカギとなったのは、次期EU議長国オーストリア、近隣加盟国など重要ポイントにターゲットを定めたサナデル首相とグラバル=キタロヴィッチ外相の方針だったように思われます。8月中旬からサナデル首相はシュッセル・オーストリア首相とザルツブルク、スプリットで短期間に2度にわたり会談。これに先立ち8月10日にザグレブを訪れたブセク・オ副首相は「トルコより先にクロアチアとの加盟交渉が始められるべきだ」、またプラスニク同外相も「クロアチアは南東欧発展の原動力だ」など好意的な発言を続けていました。9月に入りハンガリー、チェコなど昨年EU加盟組からの支持発言が出、さらには領海問題が深刻化しているスロヴェニアも支持を表明、外交での順風が吹き始めました。
    交渉開始無期限停止の最大の理由は、旧ユーゴ国際戦犯法廷(在オランダ・ハーグ)への協力が十分ではないことでした。95年の軍事進攻の主役A・ゴトヴィナ容疑者は依然行方をくらましたままです。しかし8月末、ギリシアでゴトヴィナ容疑者の潜伏を財政的に支持していると見られ、国際指名手配を受けていたクロアチア地下組織の有力者(自称ビジネスマン)、H・ペトラッチ容疑者が逮捕されました。当初ハーグ法廷のデルポンテ検事総長は「これではまだクロアチアの協力を十分とするには足りない」との意思を示していましたが、後に態度を変更(外交圧力とも伝えられています)。上記のEU緊急外相会談直前に「協力をしている」と正式に認め、これが加盟交渉開始への決定的な一押しとなった模様です。
    加盟交渉は最低2年がかかることは明らかにされていますが、では正式加盟はいつ実現するのか。3〜4年内か、5年以上がかかるのか。ウォッチャーの間では4年後の09年が現在有力視されていますが、サナデル首相ら政府首脳は慎重に明言を避けています。EU内部での来年の風向きも分からなくなってしまったことが一つにはありますし、それ以上にクロアチア自体の、EU水準に向けた改革がどの程度の速度で進むかに依存していることは間違いありません。もう少し国内の事情を詳しく見てみましょう。

    03年暮れのクロアチア総選挙では当時のラーチャン首相率いるク社民党(以下、社民党)の中道・中道左派連立政権が敗れ、戦争と民族主義をリードした故トゥジュマンのクロアチア民主連合(以下、HDZ)が政権に返り咲きました。
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司法・行政手続きの能率化は外資導入にも影響する。EU加盟に向けた国家改革の大宿題だ(写真はドゥブロヴニク地裁)
実際にはHDZが単独で政権を取るには至らず、中道・中道右派との連立により辛うじて多数を確保しているのが現実ですが、総選挙直後の右派再躍進かとの国際的懸念をよそに、サナデル首相らは「仇敵」セルビア人の人権問題改善やセルビア=モンテネグロとの良好な関係維持などソフト路線を進み続けています。ラーチャン前首相の社民党は政権奪回へ党内改革と、今秋の議会での厳しいHDZ批判を予告し最近の世論調査でも再伸張を示しています。しかし今回の加盟交渉開始で、しばらくサナデル政権の安泰は保証されたと筆者は見ています。

    最近のクロアチアでもっとも改革の必要が叫ばれているのは司法関連の能率向上と汚職腐敗の撤廃です。
    週刊ドゥブロヴァチュキ・ヴィエスニク紙10月29日付によれば、ドゥブロヴニク地裁で進行中の裁判は何と1万3000件で、相続問題での係争が10年近く続くのは半ば当然、最長では1966年の訴訟がまだ片付いていないのが現状です。シュカレ=オジュボルト法相は「司法行政のデジタル化を進めることが透明性を高め汚職の削減にもつながるし、例えば土地登記を巡る多くの係争の解決を早めるだろう」と、EU水準に向けてさらなる法改正とインターネットなどデジタル技術の利用増大を提唱しています(日刊ポスロヴニ・ドゥネヴニク紙10月28日付など)。
    
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オパティヤ海岸のホテル群は民営化方針の朝令暮改で混乱、経済「失策」を象徴する事件となった(写真提供:西井葉子氏)
諸分野で進められている国営企業の民営化も問題含みです。8月4日、政府は代表的海岸保養地オパティヤ市、ロヴラン市などのホテル15を所有する国営企業リブルニヤ・リヴィエラ・ホテルの株85%をDOMホールディング、SNホールディングの2社に売却すると発表しました。以前の制度で民営化が図られた際、2社はやはりリブルニヤ買収の有力候補でしたが制度の変更などで民営化そのものが宙に浮いてしまい、示談の結果、国は2社に対して損害賠償分などの負債を負うことになりました。これを今回売却で部分的に補填しようというのが政府の狙いでした。
    しかし2社はともにクロアチア観光でビジネス拡大に意欲を見せるドイツ/クロアチア(ヴコヴァル)の貴族エルツ伯18世ゲオルク氏が関与していることが広く知られていました。ゲオルク氏はサナデル首相のテニス仲間だという噂もある中、やや不透明な売却決定が突然下されたことに地元自治体(オパティヤ市政はHDZですが、リエーカ=プリモルスカ県からイストラ県は広く反HDZ地盤であることが知られています)が強く反応。従業員の抗議集会を県も支持する動きを見せるなど、騒動が大きくなりました。
    結局政府側が「民営化準備に不行届きがあった」ことを認め、同月17日付で売却を取り消しク民営化財団のオストヴィッチ理事長を解任して決着が付きました。エルツ伯は「抗戦」の意思を明らかにしていますが、首相以下政府が折れてしまった以上、当分リブルニヤ民営化は凍結されそうな見通しです。

    6月26日、クロアチアの高速道路のうち、工事の残っていたマーラ=カペラ山トンネルとヴルポリエ・ピロヴァッツ間33キロが開通しました。ついに首都ザグレブと海岸地方の中心都市スプリット間380キロが高速道で結ばれ、3時間半(普通車の通行料金157クーナ=約2900円)で行き来できるようになりました。
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南北の主要都市が高速で結ばれつつあり、観光と南北格差の縮小が期待される
既に一昨年にはザグレブ・リエーカ間、昨年はザダルまで、と段階的に開通が進んでいます。筆者のザグレブの知人コジネツさんも昨年会った折には「もうリエーカに近いクルク島やオパティヤ市の海水浴場は日帰り圏になりましたよ」と語っていましたが、さらに遠い中部ダルマツィア地方の海もずいぶん近くなったことになります。3年後にはスプリット・プローチェ間も開通予定で、クロアチアの海はドゥブロヴニク地方を除いてほぼ高速道路網で結ばれることになります。
    南北格差の縮小をめざすクロアチアにあって、この高速が海岸地方の発展に大きく寄与することも期待されています。しかし恩恵に浴するのは内陸部のクロアチア人だけではありません。ハンガリー、チェコ、ドイツ、オーストリアなど中欧のヴァカンス先としてクロアチア海岸は強い人気がありますし、航空料金は民間航空会社の発達でかなり下がってはいますが、多少距離があっても自家用車で南の海に行くのはこうした中欧圏の人々にとってはごく普通の選択です。
    高速建設は02年、失業が深刻な社会問題となっていたラーチャン前首相の時代に本格的に着手されたことを第57回配信で言及しています。当時は「ニューディール政策的な付け焼刃で、真の失業対策ではない」、その後は工事がやや遅れ「建設業の伸び悩みでクロアチア経済全体の伸びに影響」とも言われるなど、何かと批判の対象にされていました。それだけ開通の効果が期待されていたとも言えます。サナデル現政権になっても発展政策に大きな変更はなく、当初の予定通り今05年の観光シーズンに間に合う形となりました。
    既に高速バブルとでも呼ぶべき状況が生じている地区もあります。スプリットから約10キロ、高速の出入り口に近いドゥーゴ・ポリエ市(人口約2500)は、8年前に市に制定される前は「何もない」村でした。
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陽光降り注ぐフヴァ−ル島のみならず、今夏のクロアチア海岸観光は全域で絶好調だった(写真提供:長束恭行氏)
それがこの数年で郊外型ハイパーマーケットを初め各種37店舗・工場が林立するショッピング・ゾーンに成長、地域の中心都市であるスプリットから衣服・靴や家具を買いに来る客で賑わいを見せています。「地価と公共料金が安く、きちんとした都市計画があることが成功の秘訣。ほとんど失業知らずの状態だ」(ジェヴルニャ市長)。今後もさらに95店舗・工場などの建設が計画されており、同市はクロアチア商務・企業省から「今年最も成功した地区」と認定されました(この段落は日刊ヴェチェルニ・リスト紙7月29日付による)。

    高速で近くなった海岸の観光は今夏絶好調でした。8月末こそ悪天候のマイナス要因に見舞われましたが、7月の前年同期比で大きく伸び、例年同様ドイツ、チェコ、スロヴェニア、イタリアからの滞在客が8月中旬まで集中しました(第71回配信に海岸地方の観光客出身国内訳の表=02年があります)。やや不謹慎な言い方ながら、トルコ、エジプトなど他観光国のテロの危険性もクロアチアには「好影響」を及ぼしたところがあるかも知れません。1985年の記録(1010万人、延べ6700万泊)にこそ及ばないものの、クロアチア独立後最多となる昨年比2%増の960万人、延べ4800万泊が予想されています(ヴェチェルニ・リスト紙8月9日付)。
    日本人観光客も増加しています。ザグレブを本拠に国内外ツアーの観光スルーガイドとして活躍されている長束恭行さん(HP「クロアチアに行こう!!」主宰)からは少し辛口のコメントも頂きました。
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海岸部への日本人観光客は毎年2〜30%増。シーズンを過ぎた秋のドゥブロヴニクも毎日のようにアジアからの団体客が訪れていた

    「日本では愛知万博やテレビでクロアチアが特集されたこともあって、これまで毎年20〜30%のハイペースで伸びてきた日本人観光客数は、今年そして来年には飛躍的な伸びを記録するでしょう。ただ日本人団体を案内していると、快適さという点でクロアチアに不満を述べるお客さんも多いのは事実です。日本人客を満足させるホテルが少なく、またドゥブロヴニクで頻繁に起こるオーバーブッキングは深刻な問題です。またクロアチア人と日本人のリズムはまったく違いますから、レストランでの給仕の遅さや、ローカルガイドのマイペースな説明に苦情が出ることもあります。日本側で分単位で予定を組んでも、その通りに実行できる国ではまだありません。また国土は縦にも長いですから、バスによる移動時間の長さもあります。毎日200キロ以上の移動はザラ、一日10時間バスに乗ることもあります。これは詰め込み過ぎた旅程を組む日本の旅行社と、せっかちでワガママな日本人客にも問題があるわけですが」。
    独ミュンヘンのクロアチア系旅行代理店IDリーヴァ・トゥルスのオグニェノヴィッチ社長は、ヴェチェルニ・リスト紙(8月9日付)に対し「業界で黄金時代と言われた80年代は安さが看板だったが、現在のクロアチア観光は客の数よりも、一人当たりが現地で落とす外貨の額を増やす戦略に変わりつつある」と述べます。「単にダルマツィア料理というだけではダメになった。ダルマツィア料理を○○オリーブ油で食べさせる××さんの店で調理体験もさせるのが観光、という時代だ」。

    このように今夏の観光は好景気を記録したクロアチアですが、目を国全体の経済に転じて見ましょう。トゥジュマン民族主義政権時代の経済「無策」は、ラーチャン社民党の前政権でようやく改善の足がかりを作りました。
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政権からは独立を保ち、クーナのレート安定と低いインフレ率など通貨・物価政策で評価されるクロアチア中銀
当時の苦境については第57回配信で詳説しています。それから2年、再び政権に戻ったサナデル首相以下HDZ政府にとって、もともと経済政策は苦手な領域であることはウォッチャーの間では定説になっていますが、基本的には社民党政権の作った足場に乗りながら改革を続けています。しかし相変わらず不安だらけの千鳥足であることは変わりありません。
    最大の課題は対外債務です。世銀の内部基準では、対外債務が国民総生産(GNP)の80%を越えた国は重債務国として扱われますが、昨年末でクロアチアはこの数字が84%に当たります。これ以上債務を重ねては泥沼に陥ってしまうのは誰の目にも明らかで、政府が8月下旬に発表した中期計画でも「現在の国内総生産比82%強の対外債務は、08年までに78%に削減する」ことが目標として掲げられています。
    通貨クーナの安定と低いインフレ率(昨年年率2・1%)は評価できる点です。政権が変わると中銀人事も政策も影響を受けるセルビアなどとは異なり、社民党政権時代から継続して務めるロハティンスキ総裁以下、ク中銀は中立・透明性を保ちながら政府の思惑とは距離を置いた通貨・物価政策を進めている印象です。
    対外債務削減のため、中銀は商業銀行の外貨借り入れを抑制し、逆に対外債務を国内債務に切り替える諸政策を昨年以降実施しています。国が商業銀行からクーナを買って国債発行に、あるいは外貨を借りて債務返済に充てやすくする環境作りです。3月には約30億クーナ規模の国内市場向け国債発行が閣議決定され、主要債権国会議(ロンドン・クラブ)、同債権銀行会議(パリ・クラブ)などへの債務返済に充てられることになりました。しかしこうした緊縮外貨政策が続く限り大きな経済成長は見込めない、と各アナライザーは指摘しています。工業生産は今年第二四半期で前年同期比9%の成長を記録(過去4年で最高)しましたが、国内総生産(GDP)成長は年率で3%台後半にとどまる見通しです。
    輸出は少しずつ増加していますが、輸出の輸入カバー率は依然48%台にとどまっており、第57回配信の頃とほとんど変わっていません。昨年の輸出で注目された分野が造船(囲み記事参照)ですが、スプリット、リエーカなどの国営系造船会社はいずれも巨額の負債を抱え赤字経営を続けています。

世界第四の造船大国?

   造船関連資料を見て少し驚きました。
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「大国」を決めるランキングには建造隻数、トン数など様々な種類があると思われますが、どの数字を見ても米露英などが意外にも上位には姿を見せず、日韓中が世界市場の9割を占める圧倒的三強で、ドイツ、台湾、ポーランド、デンマーク、クロアチアなどが第2グループを形成しています。ク中銀によれば今年3月時点での総発注量(総トン数)では、クロアチアがアジア三強に続く第4位を占めました。しかし主要造船企業はすべて国営大企業の非能率を引きずったまま、業界の取引通貨であるドルの不安定もこうむりながら泥沼経営を続け、国の補助でやっと生き延びている状態だと言われています。スプリットのブロドスプリット社を訪れたヴケリッチ商務相は7月21日、「政府がわが国の重要輸出産業である造船を見捨てることはない」としながらも、09年までの独立採算を目標に、補助金体制の見直しと各企業のリストラに今秋以降着手する計画を明らかにしています。
   なおクロアチア最大のリエーカ港(写真)については、「リエーカ・ゲイトウェイ」計画という総合近代化プロジェクトが世銀の援助により進められており、その目玉の一つである新埠頭250メートル分の建設業者入札が11月に行われました。週刊ポスロヴニ・ティエドニク/business.hr 紙11月17日号によれば、日本の鹿島建設が合札者となった模様で、09年末までに総建設費3460万ドル(約38億円)をかけての開発が期待されています。


    財政赤字は今年第一四半期だけで52億クーナ、
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民営化の遅れが指摘されるクロアチアで、石油公社INA民営化進展は大いに結構な話のはずだが、財政赤字のカバーがその理由では困ったものだ
年末までに100億クーナに上ると予想されており、増加の一途をたどっています。前述のリブルニヤ・リヴィエラ・ホテルのように、朝令暮改の民営化失政のため遅れていた石油公社INA、クロアチア・テレコムなど国営大公社の民営化が、皮肉なことに苦しい台所事情から今後加速する可能性があります。年末までに予定されているクロアチア・テレコム株25%の売却額が7億ユーロ、INA株15%の上場当初価格は3億ユーロと見積もられており、今年の財政赤字はこれでカバーできるが、来年はまた来年の赤字に悩むことになるだろう、とヴィエスニク紙(7月14日付)は分析しています。
    失業率は23%を越えて前政権時代の最大の問題と言われました。02年にラーチャン前政権は新規大卒など一定層の新規雇用に対し奨励金を出す一方、中小企業の振興を図るなど、各省庁はもとより地方自治体、非政府系団体、マスコミなど国家全体での失業対策に乗り出しました。失業率は漸減、現在は17%(今年7月のク国家統計局速報値)に落ち着いています。しかし失業減少に一番効果を上げた要因は、職安の登録方法の変化など統計上の見せ掛けに過ぎない、と05年ク中銀年報は厳しく評価、本質的な雇用創出効果を疑問視しています。8月4日、政府は前政権から継続してきた奨励金システムなどの凍結を発表、従来の失業対策を見直すとしました。「2年半で失業対策費は8億クーナにも上り、失業者は減っていなければならないはずなのに、今年の補正予算で同対策費に6000万クーナ増を計上しなければならなくなった」(シュケル蔵相)。財政を圧迫するほどの失業対策費が無駄に使われていないか、効果を吟味した上で改めて具体策を検討したいというのが政府の本音です(CROBIZ8月12日)。

    と言うわけで悲観まではいかないものの、クロアチア経済の脆弱ぶりに嘆息せざるを得ないのは、3年前第57回配信の時の分析とあまり変わっていないというのが筆者の印象です。EU水準に向けた根本的改革という多くの宿題を抱え、クロアチアのEU加盟への道は、最初の一歩が踏み出されたばかりです。

(2005年12月上旬)


画像提供及び執筆協力を頂いた以下の各位に謝意を表します:クロアチア共和国政府広報局www.antegotovina.com西井葉子氏、長束恭行氏。また写真には筆者が2002年3月、同年10月、2003年8月、2005年10月に日本の報道企業の通訳等を務めた前後に撮影したものが含まれますが、本ページへの掲載に当たっては各取材関係者の承諾を得ています。画像・本文の無断転載はかたくお断りいたします。
Zahvaljujem se na suradnji: Ured za odnose s javnoscu Vlade RH, www.antegotovina.com, gdjica Y. Nishii, g. Y. Nagatsuka. Zabranjena je uporaba teksta i slika bez ovlastenja.


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