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フレンドリーな国との出会い
大塚:フランスやドイツを日本人が旅行していても、なかなか普通のフランス人やドイツ人と話す機会には恵まれないですよね。 長束:そうなんです。それがちょうど勤めていた会社を辞めようかな、と思っていた頃です。秋には会社を辞めていましたから、今度はもっと大旅行をしようと思って、アテネを出発点にリスボンまで、ヨーロッパを突っ切ったわけです。途中マケドニア、ユーゴ、ボスニアそしてクロアチアの海岸までずっと回りました。 大塚:ユーゴがW杯行きを決めた秋のベオグラードでのハンガリー戦、僕も実はジェキッチ美穂さん(ボスニア・デルヴェンタ市在住。HP「ありきちのボスニア発」主宰)と一緒に見に行っていたんですが、長束さんもスタジアムにいたんですね。 長束:そうです。本当に偶然でしたね。でクロアチアもユーゴもめでたくW杯フランス大会出場を決めました。12月には帰国して、1月には今のHPが立ち上がっていました。大学でクイズ同好会をやっていたもので、最初はクイズ番組出演のウラ話とかが主でした。「クイズをやめてクロアチアに行こう」というタイトルだったんです。ただクロアチアに関する情報はとても少ないですよね、だからそれを整理して紹介したい、というのと、旅行記を発表しようという気持ちがあって、だんだんクロアチアのサイトになっていきました。W杯で日本と同じグループになったことから、春から夏にかけてアクセス数が爆発的に伸びました。
長束:客好き気質、って言うんでしょうか。珍しいのもあるでしょうけど、日本人に親切じゃないですか。「何だお前日本から来たのか、まあ一緒に一杯飲もうや」みたいなところ。 大塚:同感です。人間と人間の距離が先進国に比べてずっと近い感じですよね。でも最近は旧ユーゴどこへ行ってもまず「キネズ(中国人)!」でしょう。知り合い、友達になる人との出会いも、最初は「冷やかしの声」から、ってことはよくありますけれど。 長束:そうなんですよ。それと前回はザグレブの、特にサッカー関係の場所へ行くと「ミウラ!」ですからね。でも「オレは中国人じゃない」「オレはカズなんか嫌いだ」って言ってやると、それがきっかけでまた冷やかしの声を掛けて来た当人と友達になっちゃったり。 大塚:女性はどうですか?こちらでもクロアチアは美人が多い、ってよく言いますけど。 長束:よくクロアチア男性はクロアチア女性の美しさを自慢しますが、クロアチアの若い女性達はツンとしていて非常に冷たく感じます。日本でも天狗って言うじゃないですか。フヴァールでは12歳の男の子さえ「彼女たちはピノキオさ」と皮肉ってましたし、スプリットの友人からは「ごめんね、母さん。あなたも女性だが、クロアチアの女性は概して悪いんだよ」なんてジョークがあると聞いています。僕にはセルビア女性の方が優しくてチャーミングという印象があるのですが、セルビア出身の奥さんがいる大塚さんの意見は? 大塚:長束さんを冷やかすつもりが、こっちに矛先が向いてしまいましたね(笑)。セルビアの女性はクロアチアほどツンツンしてはいないという印象です。チャーミングならベオグラード、優しいのは田舎、かな。ただやっぱり日本人よりたくましくて強い、という感じはしますよ。義父の言うジョークで、「確かに夫は家庭のカシラ(頭)だが、妻は首なんだ。首が向きたい方に頭は向かなきゃならないだろう」っていうのがありました。ところで今回も大旅行だったそうですが、クロアチアはかなり回ったんですか? 長束:ええ、掲示板で突っ込んだ質問に困らないようにと思って(笑)、海岸のヴィスやフヴァールも行って来ました。コルチュラが良かったですね。 大塚:うわあ、僕も12年いるけどヴィスやフヴァールには行ったことがまだありません。コルチュラはあのマルコ=ポーロが生まれた島だという「伝説」があって、「生家」と称する家があるんですよね。89年、こちらに住み始めた年ですが、ドゥブロヴニクから高速船で行って、まずそれを見に行ったのを覚えています。 長束:僕も「生家」を見に行こうとしたんですが、まだシーズンではないのか閉まっていてラチが空きませんでした。 ウニは美味いんだぞ 大塚:クロアチアのベストタウンは?
大塚:僕は89年に最初に行ったあと、戦争を挟んで96年にユネスコ世界遺産を紹介するTV番組の仕事まで行っていなかったんですね。それで 久し振りにあの海を見たら、不謹慎かも知れないけど「ああ戦争があった間もこの海はこんな色をしていたんだろうなあ」なんてヘンな感慨にふけってしまいました。後で旧市街が攻撃される映像を見て本当に心が痛みました。あの町では岩場にロープを張って、町の青年たちが水球をやっているんですよ。でクラブチームかと思ったら、若者たちが自発的にやっているだけだ、と言うんですね。僕は「草水球」と名付けましたが、あまり日本人に言っても分かってもらえない(笑)。でもアトランタ五輪で金メダルを取る国は違うと思いました。スプリットも僕の好きな町ですね。ディオクレティアヌス宮、そして東の町外れの海辺を散歩しているだけで何かウキウキしてしまいます。
大塚:クロアチアだと、カルロヴァチュコ・ピーヴォ(カルロヴァッツ・ビール)が美味いでしょう?あとスロヴェニアのラシュコ、ボスニアではトゥズラ、バニャルーカ、モンテネグロのニクシッチ、セルビアではアパティンのピルスと、どこもビールは美味いのがあります。 長束:僕もカルロヴァッツが一番好きですね。ピルスはサッカーでレッドスター・ベオグラードがスポンサーにしていますね。あと話は変わりますが、海へ行くと岩場が多いんですが、ウニがごろごろ転がってますよね。 大塚:はあ? 長束:あれはもったいないですよ。ウニの味をクロアチアや旧ユーゴの人にも教えてあげたい(笑)。 大塚:ところで今回はちょっと恥をかく経験があったとか? 長束:いや実は、ヴィス島からフヴァール島経由でスプリットに帰るフェリーに乗ってフヴァールで降りようと思っていたんです。ところが僕の乗った日はフヴァールに寄らずにスプリット直行だったらしいんですね。それなら切符を売らなきゃいいのに、船が出てから僕だけがフヴァール行き、ということが発覚したわけです。それでも船員さんが僕だけのためにフヴァールに寄ってくれることに決めたらしいんですね。周囲のヴィスからの客はみんなスプリットに直行するつもりで、「何でフヴァールに寄るんじゃ?」と。バスの停留所と違って、フヴァールにいったん寄港したらスプリット着は1時間以上遅れますからね、フヴァールに行きたい気持ちはあるが、他のお客さんの気持ちもよく分かる。そんなわけで降りた時の後ろめたさが恥ずかしくて、岸のベンチで30分ほどヘコンでいました。。
ところでクロアチアの海が素晴らしい、というのはもう異論のないところだと思います。北の内陸部の方はどうですか? 長束:北は北で田舎の良さ、みたいのが感じられますよね。ザグレブから東に向かうと、だんだんユーゴというか、旧ユーゴの東側に近い風景になってきます。大塚さんが「便り」(第40回配信)で書いているザゴリエ地方というのは? 大塚:ザグレブから西、スロヴェニア国境までのことを言います。クムロヴェッツが自家用車でザグレブから1時間強の所ですが、もう相当山が深くなって、スラヴォニア地方の平原とは違う風景です。昔は貧しい田舎だった、というのを想像するのは難しくありませんし、方言もちょっとスロヴェニア語に近くなります。 長束:オシエクでも話を聞いたのですが、「ザグレブに比べてスラヴォニアは給料も年金も安いし、失業率も高い。昔はスロヴァキア辺りから買い出しに来る人々がいたのに、今は物価がどこよりも高くなって、冴えないよ」と言っていました。 大塚:まあ首都と比べたら落ちるでしょうねえ。でもスラヴォニア地域は基本的に農家ですからね。入ってくるカネは少なくても兼業農家が多くて、食うに困る、ということはないんじゃないでしょうか。北部はヴィンコフツィとかジャコヴォとか、可愛らしくてきれいな町はあるんですが、観光ポイントと言うには少し足りないのが残念ですね。
大塚:同感です。ホテルはバックパッカー向きの値段ではなくなってしまいましたが、海岸などには民泊もあるし、悪くなったと言われながらもまだまだ治安も悪くありませんよね。この対談は旧ユーゴ圏全般の旅バナシにしようと思っていたんですが、結局クロアチアばかりになってしまいました。でもクロアチアはやはり旧ユーゴ5カ国の中では一番観光ポイントが多い国ですから、読者の皆さんにはお許し頂きましょう。ただ他の旧ユーゴの国も、例えば外務省が危険勧告を出しているような地域を除けば、それなりに旅もしやすいし、最初に話したように地元の人たちと気軽に話せる、そんな所が多いと思います。いい旅と幸運な出会いは誰にもある所ですよね。 長束:そうですね。サイトを立ち上げた頃、そして今でもそうですが、クロアチアはついこの間まで戦争やっていた国、というイメージが強いでしょう。だけど旅をしてみると本当に美しい国だし、それだけじゃなくてフレンドリーな人々との面白い出会いがある所だということを、もっと多くの日本人に知ってほしいと思っています。 ハイドゥクは阪神だ 大塚:サッカーのディープな話は第2部でやろうと思っていますが、長束さんの持論は「スタジアムでお国柄が分かる」とのこととか?昨日はベオグラードのカップ戦決勝、パルティザン対レッドスター戦(ベオグラードダービー)に行ったんですね? 長束:そうです。今回は旧ユーゴの他にドイツでもサッカーを見ています。ドイツも地域主義の国ですから、地元の応援にそれぞれ盛り上がり方に違いがあって面白いんですが、旧ユーゴに比べるとサポーターのお行儀はまだいいですよね。それと外国人の僕が応援していても、「何だこいつは」という排他的な目で見られるような気がします。スロヴェニアもおとなしくて、おじさんの社交場という感じ。牧歌的とでも言うんでしょうか。
長束:ベオグラード・ダービー(パルティザン対レッドスター)、クロアチア・ダービー(ディナモ対ハイドゥク)は別格ですね。まずディナモ・ザグレブですが、BBBを中心にとにかくガラが悪い。ザグレブには戦争に行って戦死したBBBメンバー300人の慰霊碑というのがあるくらいで、愛国突撃集団、みたいなノリがあったんですが、今は単なる不良少年の集まりというか。ユーゴにしても、クロアチアにしても、サポーターと警官隊との衝突は日常茶飯事ですよね。オシエクでも、ディナモに前半で大差をつけられたのに怒ったオシエク・サポーターがハーフタイム中にスタジアムの外で警官と衝突していました。 大塚:へえ、オシエクなんて、失礼ながら田舎のノンビリしたチームかと思っていましたが、結構すごいんですね。ザグレブに話を戻すと、カズの「活躍」はやっぱり相当評判が悪かったんですか。長束さんがHPにも書いていたと思いましたが? 長束:いやあ、本当に活躍してくれれば話は別だったかも知れませんが、結果を残さなかった上に、日本のマスコミが大挙して押しかけたでしょう。「クロアチア人でいいFWが他にもいるのに、何で無理してあんな日本人を使うんだ」という批判があったと聞きます。 それ以来、BBBをはじめ、ザグレブのサッカーファンの中では日本人を冷やかな眼で見る人が増えたと思いますね。 大塚:ハイドゥク・スプリットのファンはトルツィダと言うんでしたっけ、あれは海岸地域の中心だから、反ザグレブの象徴みたいなところがありませんか?
大塚:ベオグラードを二分、というかヘタをするとユーゴを二分している感じですね。僕はレッドスター党なんですが、イェレナはパルティザン党で、昨日(パルティザンが1−0で勝ち)はケチョンケチョンにやっつけられました。野球で言うと巨人とヤクルトかな。地方へ行ってもこの2チームのどっちかを応援する人が多いです。選手の「出世コース」は、長束さんもよくご存知のように、地方で活躍してベオグラード2強のどちらかに買われ、やがて外国へ、というのが定着しています。 長束:あとクロアチアでもユーゴでも、相手の応援席を下ネタでやっつけるのが笑っちゃいますね。ヴィンコフツィのスタジアムでは隣に座った女の子も、平気で(?)女性器を意味する言葉とか、同性愛者の蔑称とか(大塚注:いずれも「弱虫」「意気地なし」の意味に転用)を連発して、相手を罵倒してました。 クロアチアに住もう!? 大塚:似たテーマを扱っているHP主宰者が実際に会って話す、というのは、なかなかありそうでないことだと思うんです。そこで第1部の最後のテーマとして、HPをやっていてこれが良かった、ここを直したい、みたいなことを・・・。 長束:まずHPを立ち上げた時、クロアチアについての情報の絶対量が不足していましたし、その少ない情報を交換する場としてうまく機能したと思いますね。マスコミ関係者から連絡があって、お互いに情報を提供し合ったこともありました。 大塚:長束さんの掲示板(BBS)は活発ですよね。それに質問に丁寧にレスポンスを出しているのに敬服しています。僕なんか忙しいのにかまけて「配信」を書きっぱなしで掲示板を長いこと放ってしまう、これはいけないかな。 長束:うん、ただ掲示板への質問や、メールで問い合わせをして来た人にきちんと調べて答えても、その後一言もお礼の返事がなかったりすることがあるのは不満ですね。
長束:それは僕もありますね。僕は作文が子どもの頃から苦手で、旅行記の長いヤツだけじゃなくて、ちょっとした短いページでも苦労して書く方なんですよ。だからそれに感想が来ると嬉しいし、逆にないと淋しいですね。 大塚:掲示板の「バトル状態」についてはどうですか?ウチもバトルまでは行かないけど、硬派なサイトだけに硬派な議論が白熱してしまうことはあるわけです。そういう時僕は一歩引いて傍観を決め込んでいますが、中には「大塚さんの掲示板はちょっと近寄りにくくって」という人もありました。 長束:ウチは最初サッカー関連と、サッカー以外のクロアチア一般の話題を一緒の掲示板で扱っていたんですが、サッカーの話題が多すぎて「一般」派の読者の方からやはり「近寄りにくい」という声が出てきました。それで今は2つの掲示板に分けているんです。 大塚:まあ掲示板は読者の方との貴重な情報・意見交換の場ですし、空爆中に面識のある方、ない方から「頑張れ」って書き込んで頂いたことが励ましになりました。幸い長束さんの掲示板も僕のもメチャメチャにされるようなことは今までありませんでしたよね。 長束:多少はバトル状態になるのはいいんですが、読者の方にも限度は守って頂きたいですよね。 大塚:ところで長束さんは一大決心をして、この秋からザグレブへ留学されるんですね。 長束:そうなんです。この際かじりかけたクロアチア語をしっかり勉強して、いずれはクロアチアに関わる仕事をしてみたいと考えています。最大の野望はJリーグにクロアチアリーグの選手を斡旋して、その通訳も自分でやっちゃうことですけど(笑)。今までは「片思い」していたクロアチアという国へHPという形でラブレターを送り続け、ようやく5年越しの愛が実って、今度は「嫁入り」するみたいなものかも知れません。あ、でも本当に大変なのは結婚してからか(一同大爆笑)。 大塚:「クロアチアに行こう!!」じゃなくて「クロアチアに住もう!!」だったりして。ボスニアのジェキッチ美穂さんと「現地三羽ガラス」でHPを続けられたら面白いですよね。 長束:まだ住む所のインターネット環境がどうなるかよく分からないんですが、今度は現地発の視点を交えて、HPを続けたいと思っています。 大塚:いやあ今日は結構長いこと話し込んでしまいましたね。本当に有難うございました。では第2部は場所をノヴィサドに変えて、旧ユーゴサッカー論議に移りましょう。 第2部 旧ユーゴサッカー讃 へリンク (対談:2001年5月上旬、出稿:2001年6月中旬) NK CROATIA(現ディナモ)のサイトから三浦知良の写真を提供して頂いたRoSoft d.o.o.に謝意を表します。画像の一部は2000年に「(旧)ユーゴ便り」の筆者が日本のテレビの取材に通訳として同行した際撮影したものですが、本ページへの掲載に当たっては、取材関係者から許諾を得ています。無断転載はかたくお断り致します。 |
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