「平和問題ゼミナール」
(旧)ユーゴ便り
Masahiko Otsuka Presents
-since 1998-
(Since 98/05/31)

最終更新 99/05/04 13:18

第18回配信<ユーゴ戦争便り・第5弾>
史上初のネット戦争


共和国広場では連日コンサートが続いているが、やや聴衆の出足が悪くなった(4月27日)
   皆さんは祝日をいかがお過ごしですか。ユーゴもこの時期は5月1日から3日までメーデー休暇なので、平和な時なら田舎に出かけたりする人も多いはずなのですが、何せ北大西洋条約機構(NATO)だけはゴールデンウィークがなさそうなので、今年は家でおとなしくしているしかなさそうです。私と同じように休日はインターネットでユーゴ情報を、と考えている奇特な(?)諸姉&諸兄のために、今回はまず空爆とネット、というテーマを簡単にまとめておきたいと思います。
   2年と少し前、日本で生まれて初めて自分のコンピューターを買ってユーゴに持ち帰った頃はまだインターネットと言っても「何だそれ?」という雰囲気が支配的でした。しかし当時と現在ではサーチエンジンなどでヒットする数が全然違いますし、私も利用しているユーゴ最大サーバーEUネットを中心的ネットとして、政党、公的機関や企業がホームページを持つのは半ば当然になりました。私は正確なデータは持っていませんが、これはこの2年でベオグラードを始め都市部ではネットが急速に普及したことを物語っているのではないかと思います。もともとパソコンの普及率はそれほど低くなかった上、地元の体制系情報が信用できず外国発のニュースを求める傾向があること、出稼ぎなどで外国にいる親戚や友人とのネットワークに好都合であることはネット成長の背景に挙げられるでしょう。平均収入に比して電話代、ネット契約料が高いこと、個人の情報発信に対する制限が厳しいことなどの問題があり、アメリカや日本のような先進国並みとは行きませんが、ユーゴも「ネット中進国」ぐらいには位置付けていいのではないでしょうか。    
   こうした状態の中で空爆が始まったわけです。テレビの取材に一段落を付けて3月30日久しぶりに自宅に帰り、まずメールをチェックしようとしたのですが全然EUネットにつながらず、その前にテレビを始め報道陣がどういう経験をしたかを見ていますからつい「すわネットも当局に止められたか」と慌てて日本のサーバーにトライしてしまいました(電話代!)。数日間Jと私でいろいろやってみたところ、情勢が情勢だけにネットの利用者が増え、回線が混雑しているのがつながりにくい原因らしいという結論に達しました。今でも早朝か私たちの生活リズムには合わない正午前後以外はなかなかアクセス出来ない状態です。  
   しかしこうしたユーザーレベルの話とは別に、NATO・アルバニア人・ユーゴ=セルビアはインターネットの世界でも激戦を繰り広げていることがやがて分かってきました。セルビア側では、ラジオ・ユーゴスラヴィアのホームページ(HP)が1日1万を越えるアクセスを記録したと言いますし、今まで聞いたことのなかった地方ネットからの発信が非常に多くなりました。アルバニア人系もユーゴ側ほどではありませんが、英語でフォローできるHPがかなり増えています。一方NATO米軍欧州方面司令部英国防省など各種国際機関、西側政府系サイトからコソヴォ関連だけで大変な量の情報が入ることは言うまでもありません。  
先月22日攻撃された国営セルビアテレビ(RTS)だがHPは健在(20日の社会党本部炎上を伝える写真)

   当事者はこうしたネットソースを、自らの立場を有利に出来るようプロパガンダ戦の格好の道具として利用しています。4月26日付英ガーディアン紙はこうした状況を「史上初のインターネット上での戦争」と位置付けています。91年湾岸戦争やスロヴェニア・クロアチア紛争の頃はまだインターネットはその存在さえ殆ど知られていませんでしたし、95年に終結したボスニア紛争では西側で反戦やボスニア難民救済の立場からネットが活用されましたが、これほど戦争当事者同士がネットを使って宣伝戦をやり合ったことは確かに今までありませんでした。  
   敵対サイトを破壊しようというハッカーの戦いも熾烈なようです。セルビア当局に近いプリシュティナ・メディアセンターのHPは一時的に親アルバニア的な内容に「化けて」しまっていました(現在はまた親セルビア的なものに戻っている)。先日はセルビア情報省のHP www.serbia-info.com に酷似したアドレス www.serbiainfo.com というページ(いわゆる「パラレルサイト」)から反セルビア的な内容が流されている、とヴチッチ共和国情報相がテレビでわざわざ注意を呼びかけました。現在後者の方は止め(られ)ているようです。もちろんセルビア人の方もNATOなど西側の有名サイトに対してハッキングを試みているとの情報がありますし、米CNNなどのメディアが「空爆続行の是非」「地上戦の是非」などの世論調査をネットでやろうとするとセルビア人が大挙して「反対」に投票してしまう、などのケースも報告されています。  
   こうした状況からユーゴ・EUネットは「世界のインターネットからユーゴだけ追放される危険がある」と、戦時ネチケット(ネット上のエチケット)を利用者に提案し、むやみに意見メールを不特定多数の人に出さないことや、敵スパイへの情報漏れに警戒してメールやHPの発信をすること、ユーゴ側の被害に関しても悪辣な言葉をなるべく使わないようにすることなどを呼びかけています。  
   セルビア反体制・中立の代表メディアラジオB92が空爆前夜の3月24日早朝に放送を当局によって止められたこと、その後も続けていたネットでの発信にもストップがかかったことなどはこの「(旧)ユーゴ便り」でも言及してきました。現在「B92復活を助けよう」という趣旨のサイトがあり、マティッチ主幹を始めとするスタッフが唯一ここをベースに活動しています。このサイトを日本語でも読めるようにしようというHP「HelpB92OSAKA,JAPAN」が最近大阪のグループを中心に誕生しました。「(旧)ユーゴ便り」とも相互リンクを張ることになりましたので皆さんもアクセスしてみてください。  
   このページもYahoo! JAPANの「トピックス・ユーゴ空爆」に登録され、今までにもまして多くの方に読んで頂けることになると思います。私も責任の大きさを感じていますが、前にも書いたように戦争ではセルビア当局、NATOはもちろん欧米大メディアも「大本営発表」の色が多かれ少なかれ付いてしまうものです。私自身もウソのない書き方をするように努めますが、大メディアでも、この「便り」のようなささやかな個人のページでも「100%の真実はない、真実はどこか中間にある」ものだと思って(疑って?)読んで下さると幸いです。
参考リンク

   Yahoo!などの代表的サーチエンジンで「KOSOVO」をサーチに掛けると1万件は楽にヒットしてしまうというこのご時世、個人ではとても全てのサイトをフォローするなどというのは不可能です。情報が足りないのではなく、多すぎる情報の中から自分のアタマで取捨選択しなければならないのだから大変な時代になったものですね。私も皆さんの参考サイトを教えて頂きたいほどですが、私なりに普段読んでいる一定数のサイトについてコメントしておくのも無駄ではないと思います。
   ●セルビア側、アルバニア側は当然セルビア語、アルバニア語が中心ですが、英語で読めるものも増えています。リンク集ではセルビアサイドではWARINFOBEOGRAD.COMのリンク集(LINKOVIのページ)が秀逸です(後者はかなり混雑しているようで、多くのミラーサイトを設定しています。ここに張ったリンクはミラーサイト一覧に入りますので選んでみて下さい)。アルバニアサイドではこのサイトが私の把握している限りでは一番「使える」リンク集です。セルビアサイドではもう一つ、カナダで一番激しい反NATOデモの行われているトロントが本拠の親セルビアサイトwww.net4sも充実しています。
   ●欧米メディアでは、速報性なら通信社、状況を簡潔にまとめた記事ではテレビ、詳細な分析は新聞社がやはり優れています。最近イギリスのメディアはNATOに批判的な内容のものが多く出てきており、例えば同じニュースを扱った内容でもBBCと米CNNを比較するとニュアンスの違いがはっきり現れることがあって興味深いですよ。新聞ではガーディアンがコソヴォ事情ではダントツに詳しいです。アメリカではCNNがまとまって読みやすいという点では一番ですが、かなり反セルビアの色がついている感は免れ得ません。新聞では政府に近いと言われるワシントンポストがNATO公式見解とはまた距離を置いた記事もあり面白いです。速報性に優れた有名通信社ではAPが分析記事では英ロイター電よりも充実しているようです。APはここで張ったリンクに現れるページで「WIRE」というロゴをクリックして下さい。私にとっては英語より読むのが楽なフランス語のメディアは今一つです。仏語の得意な方のためにAFPのコソヴォ特集にリンクを張っておきましょう。
   ●報道写真に興味のある方はこのページでも写真を借用したことのあるディジタルジャーナリストでコソヴォの特集が出ましたので見てみて下さい。またベルギーの仏語紙ル・ソワールにも現在「コソヴォ住民のドラマ52景」52 images du drame Kosovar という写真特集があります。トップページの左フレームにあるリンクボタンから入れます。
   ●日本のサイトではYahoo! JAPANのトピックスでかなり早く情報が日本語で入ります。朝日新聞のフラッシュのページも早いようです。非政府団体「難民を助ける会」のHPではわが平和問題ゼミナールでもお馴染みの横田暢之氏らの最新レポートが出ています。AARのほか、上記の日本語版「HelpB92」、空爆反対運動を進めている「Mirの会」、このページの「戦前」からの読者の皆さんにはお馴染みの「クロアチアへ行こう!!」にはこれからの配信では常時リンクを本文末尾に設定する予定です。ご活用下さい。
   (以上のリンクは入り方の分かりにくいAFPを除き全てトップページに張ってあります。)

「大は7ディナール、小は5ディナールよ」TARGETバッジ売りの女性(4月27日コンサート会場の共和国広場で)
   NATO50周年祝典明けの今週は先週に続きベオグラードも激しい空爆を受けました。相変わらず夜空襲警報が発令され、1時から3時頃に攻撃が集中し朝明るくなる頃に解除、というパターンが続いており、昼夜を問わず攻撃されている他の町に比べれば少なくとも昼は安心して過ごせるのですが。火曜27日、翌28日は軍事施設が集中的に再攻撃を受けました。木曜29日は今までで最大規模の空爆がありました。市中心部ミロシュ公通りの国防省(参謀本部)、連邦内務省(2度目)がやられた他、南部郊外のアヴァラ山の国営系テレビ中継塔(アヴァラ山のシンボル的な存在だった塔です)、ドナウ北岸の市営放送「スタジオB」中継塔が破壊された他、下町ヴラチャル地区にも3発が落ち(何を狙ったものかはNATO側もセルビア側も未発表ながら、1発はNATO側の発表からは誤爆と推測される)住宅が大破しました。1発は道路に当たったことから地下のライフラインに支障が出、市の一部で水と電話に影響が出ている模様です。  
   ヴラチャル地区、落下地点から数百メートルの所に住んでいる私たちの友人は「住宅地だから強い爆風が家まで吹いて来なかったのか、ガラスは割れなかったけれども、子どもがベッドから落ちた」と言っていました。また南部アヴァラ山の麓で生まれ育ったある女性(30代)は「テレビ塔があるからアヴァラだと思ってきたけど、塔がないとアヴァラらしく見えないわねえ」と実感のこもった感想。  
   私も攻撃から数時間後の金曜30日昼に中心部に出たのですが、ミロシュ公通りとベオグラード駅正面から伸びてこの通りに交わるネマーニャ通りは車両通行止め、内務省からはまだ煙が立ち上っていました。この目抜き通りは国防省、内務省に挟まれるようにして各国大使館が並んでいるのですが、アメリカ、ドイツ、カナダ大使館などは3月末一部暴徒によって投石を受けたり落書きを大書されています(第14回配信参照)。「ベオグラードの霞ヶ関・赤坂」はボロボロの建物だらけになってしまいました。なお先週社会党本部ビルやテレビ局が攻撃されたこともあって、消防・警察当局は爆発があればすぐ出動できる態勢を整えていました。ところが今回の国防省攻撃では第1弾が落ちて現場展開していた所に第2弾が落ちたため、消防士や警察官が重傷を負っています。
   これより前の4月27日正午ごろNATO軍はセルビア南部のスルドゥリッツァ(総人口2万7千、中心部約1万、約20%はブルガリア人)を攻撃、中心部で子ども11人を含む20人の市民が死亡、破損した住宅は約100軒にのぼりました(以上セルビア側のソースによる)。NATO側は翌28日の記者会見で市内の兵舎を狙った(米F16戦闘機から発射されたと見られる)レーザー誘導弾のうちの一発が約450メートル目標を外して市民の犠牲を招いたことを認めました。「これに先立つ攻撃で煙が立ち、誘導システムに狂いが生じた」ためだとしています(米CNNネット版による)。バンバン撃ち込んでおいて、煙のせいで誤爆しちゃいました、で通るのかなあ。それに、英ロバートソン防相は「NATOは市民の犠牲が出ないよう最大限の努力をしている。今までの4400件の攻撃の中でこうした不測の結果が発生した件数は僅かなもの(a tiny fraction)だ。いずれにしても目標の兵舎は破壊できた。多数のアルバニア人住民が難民になっている人道的危機に比べれば、空爆による市民の犠牲は相対的に小さなもの(is dwarfed)だ」と言っていますが、難民を大量に発生させている側だから、というので誤爆が正当化されるのはやはりどこか変だと私は思います。私にはこれが「難民を止めるための空爆」なのか、難民を発生させている空爆なのか今でもよく分かりません。
DU弾使用は認める
   前回書いたDU(劣化ウラン)弾の使用について、26日ワシントンでNATOフライターク広報官は「主に対戦車砲で今回のユーゴ攻撃でも使用している」ことを認めました。これを受ける形で翌27日セルビア共和国保険省は「コソヴォの一部で放射線量が上昇している」と発表しています。NATO側は放射能による危険はない、としていますが、湾岸戦争でも人体への影響が噂され、西側反戦団体などからブラックリストに挙げられている「疑惑の兵器」だけに今後問題になる可能性があります。対戦車砲以外にどのように使われているかはまだ明らかではありません。  
   一方パンチェヴォ周辺ですが、体制系週刊誌ニン(4月28日号)によれば酸性度の高い「黒い雨」が降り出したそうです。近くには独自の植生から環境保護区に指定されている地域もあり、人体だけでなく環境への今後の影響が懸念されています。ベオグラードでも最近は「野菜を買ったら調理する前に水に1時間は漬けておいた方がいい」という話が広まっています。またこの週末、市場では豚肉が1キロ20ディナール(約140円)と普段より安めに売られていました(メーデー連休では豚肉を食べる家庭が多いので、平時なら値上がりしてもおかしくない時期です)が、「パンチェヴォの豚じゃないか?」と疑われ、売れ行きが良くなかったようです。
 
   まだこの事件の余韻も覚めやらぬ翌28日から29日にかけての夜、今度はブルガリア国境に近い地域のレーダーを狙ったと思われる高速レーダー破壊ミサイル(HARM)が目標を大きく外れ、何と国境から50キロも離れた隣国ブルガリアの首都ソフィア郊外を誤爆、一般住宅を破壊し近隣住民は一時パニックに陥ったと言います。NATO側は「ユーゴ側が攻撃目標のレーダーを切ったため、目標を見失ったミサイルが大きく逸れた」と説明しました。また完全に確認できた情報ではありませんが、本稿執筆中の5月1日もコソヴォ北部ルジャネでバスが攻撃され乗客40人が死亡したほか、南部プリズレンでやはり市民の死傷者が出ていると国営タンユグ通信が伝えています。こうなると「国際紛争を平和的手段で、国際平和・安全・正義を危うくしないよう解決」する(北大西洋条約第1条)も何もあったものじゃないと思ってしまいます。第14回で書いたように、この空爆に意味があるのかどうか、これからも読者の皆さんと一緒に考えて行かなければならないと思います。  
   ちなみに地元報道によれば、スルドゥリッツァでは死者の半数以上が住宅の地下室にいたと言います。私とJ(Jの親戚一家4人が1階、私たち二人は2階に住んでいます)の自宅には半地下室があるのですが、本当に近くに「落ちた」場合はどうしようもないようですね。まだ自宅の半径1・5キロ以内には攻撃はありませんが、近くには小さな暖房プラント、警察署、水道局などがあります。
   これはどうでもいい話ですが、オルブライト米国務長官の父親はチェコスロヴァキアの外交官で、第2次大戦後チェコ、ユーゴが完全に共産主義化した時に亡命する直前まで在ユーゴ・チェコ大使館に勤めていたこと、長官自身がベオグラードで幼少時代を過ごしていることはユーゴでは有名な話です。私は空爆開始前にJに「オルブライトはベオグラードを愛してるんだよ、だから他のセルビアの町がやられてもここは大丈夫さ」なんて冗談を言っていたのですが、オルブライトは私たちの家から歩いて5分の所にある小学校に通っていたらしい、というのが近所の最近のもっぱらの話題です。真偽のほどは分かりませんが、「だからウチの辺りは安心なんだよ、オレの大先輩と言うには恥ずかしいけどね」と当の小学校出身のご近所。まあ冗談はともかく、他の町や地域で電気、電話、水が止まっているケースも続出していますので、私たちも他人事ではなく「より悪い事態」への気持ちの準備を固めています。  

5月分の配給券。ガソリンの配給限度は当初発表の月40リットルから20リットルに削減された
   ライラックの季節が終わり、マロニエが白い花を咲かせました。初夏というにはちょっとまだ涼しいのですが、空爆が始まった頃に比べるとずいぶん暖かくなりました。ベオグラードではガソリン・タバコの不足が深刻で、車が少ないのが目立つようになりました。今までは信号でしか渡れなかった大通りの途中を平気で渡れます。また「タバコがどこそこのキヨスクに来る」という噂が口コミで広まると、あっという間に大行列が出来ます(もちろん一人2個まで、などの販売制限を設けています)。地元製の洗剤がなくなり、コーラやコーヒーもなくなった店がそろそろ出てきました。そんなこともあって大きな市場では買い出し、買いだめ傾向が目立っています。ただ外貨を持っていても闇両替商がディナールを持っておらず(先週までは闇レート1独マルク=10ディナール程度)、まとまったマルクは銀行や郵便局などで公定レート(1マルク=6ディナール)で換えなければなりません。  
   連邦政府は新たに軍事接収が出来る施設の拡張を決めたほか、空爆のために職を失った工場・企業の従業員などのために給与所得・年金から一定率で援助を拠出することを雇用者に義務付けました。ユーゴ当局は「5週間での空爆による損害額は400億ドル(約4兆7千億円)と見積もりを発表。今までもミロシェヴィッチ政権の経済政策を批判してきた若手経済学者のM・ジンキッチ氏は「政治的にも経済的にも損害が出て困るのはミロシェヴィッチではなく一般市民だ」と言います(29日付APによる)。氏によれば既に空爆開始前から約100万人が失業していたが、空爆によりさらに50万人がレイオフ(強制休暇)になったとのことで、「NATOの攻撃は、ただでも経済に関しては無策の現政権にさらに口実を与えるだけだ」と指摘する学者もいるようです。第16回で書いたような「空爆止めろ=NATOけしからん」での感情的団結がまだ強いことは確かですが、一方では経済的に先行きが見えないことから来る疲労も、人々の間で感じられるようになっています。幼稚園の教諭だったある女性の友人は4月で契約の更新が出来ず、西側某国へ引っ越すことを考えています。またすぐに移動しないまでもパスポートを更新しようという人(大半はもちろん女性です)が多く、区役所は連日混雑しているという話も聞きました。  

「あの売店にタバコが来るらしい」口コミであっという間に行列ができた(4月27日共和国広場で)
   クリントン大統領は今週3万3千の増員による兵力増強を承認、英軍も地上戦に備えギリシアのセサロニキ経由で戦車など陸上兵力をマケドニアに移動しています。これを受けてNATOのクラーク欧州方面最高司令官は28日、「NATO側の要求が受け入れられない限り攻撃は続くが、これからの攻撃に比べれば今までの空爆はほんの一部に過ぎない」と強気の発言をしています。現在まだ地上戦突入は明言されておらず当分空爆が続く模様ですが、最悪のシナリオはまだ消えていないと言っていいでしょう。  
   しかし今週はこれと並行してチェルノムイルディン・露大統領特使の動きを中心に、調停外交も活発化してきました。同特使(30日にミロシェヴィッチとベオグラードで2度目の会談)やアナン国連事務総長の発言を見ていると、やはりユーゴ側がコソヴォへの外国軍のプレゼンスを認めるかどうかが空爆ストップへのポイントになっているようです。本稿執筆中の1日、ミロシェヴィッチ大統領はJ・ジャクソン師ら米非公式代表団と折衝、3月30日にユーゴ軍が拘束した3人の米兵捕虜釈放を決定しました。これも和平に対して一定の受け入れ準備があることを示すサインとして今後の展開が注目されています。  
この人に期待??

   日本からは小渕首相の訪米でコソヴォへの財政援助が大きな話題の一つになるだろうと言われています。またこれに先立ち高村外相がマケドニアのアルバニア人難民キャンプを訪問するなどしました。ロシアの提案で、ケルンサミット以前にG8でのコソヴォ特別会議が開かれるという可能性も(薄いとは言え)まだ消えていません。G8と言えばロシアと日本以外はいずれもNATO加盟国です。日本の立場がイヤでも注目されるでしょう。親日家の多いセルビアだからこそ今でもベオグラードに住んでいられる私ですが、NATOを持ち上げるようなことを日本政府が明言したりすると、あまり居心地がよくなくなってしまいますねえ・・・  
   AP電(1日)によればミロシェヴィッチ・ジャクソン会談の途中、ジャクソン師を中心に大統領と同席の両代表団全員が手を取り合って平和を祈ったそうです。普段なら笑ってしまう話ですが、今はナニ教の神様でもいいから空爆を止め、問題を解決する祈りになってくれるといいと思っています。残念ながら1日夜もベオグラードは39日連続の空襲警報が発令されましたが。

   ダルコという名前しか知らなかった。訃報を見て初めてストイメノフスキという姓だと分かった。その程度の知人のことで騒ぐのは失笑を買うだけかも知れません。しかし先月23日の国営セルビアテレビへの攻撃で国際部衛星電送担当技術者のダルコ・ストイメノフスキ(享年25才)が死んだという報に、私は少なからぬショックを受けました。空爆が始まって、各国テレビが殺到する電送室で常に落ち着いてコーディネートをしていたのは、私が愛煙家なのを知っていていつも自分のタバコをすすめてくれていたのはついこの間のことです。当初発表されたテレビ局の死者9人の中には私たちの知人はありませんでした。しかし数日経って瓦礫の中から発見された数人の中に彼の名前があったのでした。どうかこれがJや私の知人の中で最初で最後の悲しいケースであってほしい。今はそう思うばかりです。

(99年5月1日)

●常設リンク

HelpB92...OSAKA,JAPAN

「Mirの会」へのリンク

HelpB92を日本語で読むことができます 空爆作戦の即時停止を!

「AAR難民を助ける会」のサイトにリンク

「クロアチアに行こう!!」にリンク

非政府組織「難民を助ける会」です いつもお世話になっています

第14回「ベオグラード(非)中立宣言」    第15回「警戒、警戒!」
第16回「反NATOで『団結』」    第17回「エコロジーの相当ヤバい話」



追記:この配信の送稿直前の5月2日夜、ベオグラード南西方のセルビア最大の発電所オブレノヴァッツ火発AがNATO軍によって攻撃を受け、ベオグラードを含むセルビア北部とボスニア・セルビア人共和国北東部にわたる広域が停電しました。3日昼現在もベオグラードの大半の地域で電気、電話、水道に支障が出ています。このような状況ですので、今後今までのようなほぼ週1回の更新が出来るかどうか、また各配信の質を保てるかどうかは非常に不確かです。また関連情勢に変化がありましたら可能な限りこのサイトでお知らせしたいと思っていますが、不可抗力があることを悪しからずご了承下さい。

プロフィール> <最新レター> <バックナンバー> <(旧)ユーゴ大地図
落書き帳(掲示板)> <関連リンク集> <平和問題ゼミナール> <管理者のページ


当サイトは、リンクフリーです(事後でもいいので連絡ください! →管理者メール )。
必ずカバーページ(http://www.pluto.dti.ne.jp/~katu-jun/yugo/)にリンクをはってください。

CopyRight(C)1999,Masahiko Otsuka. All rights reserved.
Supported by Katsuyoshi Kawano & Kimura Peace Seminar
更新記録 大塚真彦プロフィール 最新のレター レターバックナンバー 旧ユーゴ大地図 落書き帳 関連リンク集 平和問題ゼミナール 管理者のページへ