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第8回配信 空爆騒動のあとさき
NATOのユーゴ空爆(?)騒動で忙しくしていました。一部の方にはご心配もおかけしたようですが、日本のテレビの取材通訳を務めたりしながら何とか元気にやっています。で今回はわが町ベオグラードの近況を中心に書きますが、この空爆の話の背景になっているコソヴォ紛争に関しては前回のレターで少し詳しく書きましたので、併せてお読みいただけると幸いです。 おそらく皆さんもご存知だと思いますが、コソヴォ紛争が長引きなかなか政治交渉が始まらない中、業を煮やした欧米が北大西洋条約機構(NATO)によりセルビア警察・ユーゴ軍の施設をミサイル・空軍兵力によって破壊する形の介入を示唆したのが事の始まりでした。地元紙が「アルバニア人のいるコソヴォではなく、主要軍事施設(対空兵力やレーダー施設)のあるベオグラードなどセルビア本国が空爆対象」と書いてからが大変でした。9月末ごろのこちらのチャットで専らの話題は空爆、気の早い知人の中にはパニック状態に陥る人々も出てきました。「まだNATOもすぐ動ける状態じゃないし、政治的にまたミロシェヴィッチ・ユーゴ大統領がグタグタ長引かせているだけだよ」と言っても、「でもCNNやBBCのインターネットサイトでは軍事介入へ、なんて書いてるわよ・・・」。
ところが10月第2週に入るとどうも状況がシャレでは済まなくなってきました。公共施設や国営企業では空爆時のための緊急避難や備蓄についての行政指令が出るし、市民レベルでも買いだめに走る人が出てきました。欧米諸国に続いて日本の外務省も退避勧告を発令。アメリカはボスニア和平の立役者ホルブルック次期国連大使を特使として派遣、NATO出撃に青信号の出る中、ミロシェヴィッチ・ホルブルックの土壇場での会談が連日深夜まで続き、13日の合意に至って何とか空爆が回避されたわけです。 私はボスニアの戦争の時にも大使館から退避勧告を受けて従わなかった「前科者」ですが、また居残ってしまいました。退避勧告は行政指導で法的拘束力はありませんので何か特別悪いことをしているという思いはありませんが、逆に危険を承知で勇敢なことをやっているという変なヒロイズムにひたるつもりも、このページで宣伝するつもりもありません。もし外務省か在ユ日本大使館の方がこのページを読まれたら悪く取らないで下さいね。
13日のホルブルック・ミロシェヴィッチ合意の結論は詳細までは分かっていませんが、ホルブルックの記者会見やその後の動きを総合するとおよそ以下の通りです。
結局これはミロシェヴィッチの政治的敗北ではないか。この春には「コソヴォでの外国監視団の展開を認めるか」という国民投票(結果は否決)までやってコソヴォで強硬な政策を推し進めてきたのですから。今後は監視団の展開下でセルビア警察もユーゴ軍も滅茶苦茶なことはできませんし、何よりコソヴォの広範な自治権か独立がかかった政治交渉を始めなければなりません。
この騒動の最中、セルビア・ユーゴ両議会で非常時の情報体制に関する政令が可決されました。うかつにも私も事の重大さに気がついたのは上の合意があった後だったのですが、今はこの空爆騒動のとばっちりが大きな問題になっています。
ラジオ自由ヨーロッパ、英BBC、ドイチュ・ヴェッレ(ドイツの声)など、冷戦時代に反共プロパガンダを目的として西側メディアが東欧諸国の言語で流していた短波放送が今でも健在なことは前にもこのページで書きましたが、これを短波ラジオを持っていない人のためにいくつかのFMラジオ局(主に中立系)が番組として流していました。まずこの番組の放送が禁止され、続いて体制に批判的なラジオ局が閉鎖処分、さらに代表的な日刊紙「ナーシャ・ボルバ」、「ダナス」、「ドゥネヴニ(日刊)テレグラフ」などが相次いで発禁となりました。一昨年、昨年の反体制デモで頑張ったラジオB92や週刊誌「ヴレーメ」はまだ健在ですが、これでは日刊紙に関しては全部翼賛体制です。 私も慌てて問題の政令(のちに法律としてセルビア議会を通過)を読んでみました。 NATOによる武力攻撃の脅威が続く条件下での特別対策
NATOの脅威が続く間、という条件がついて、しかも一時禁止となっているところがミソで、また国際的な圧力が高まれば撤回できるようにはなっていますが、それにしても日本の戦時中の情報統制と変わらないではありませんか。ウォッチャーの間では、この統制はミロシェヴィッチの西側への譲歩、政治的敗北を知らせない(一般市民に意識させない)がための操作だという見方が一般的です。
私自身は外国人、そして報道関係者という立場ですから、空爆があればあったで、特別な憤りも「ざまあみろ」の感情もなしに仕事を続けたと思うのですが、私の周囲の友人たちにとっては違う問題だということが今回は特に感じられました。NATOの力は強大ですが、空爆やミサイル攻撃が必ずしも正確なものではないことはボスニアでも実証されていますし、ベオグラードの近くにも軍事施設があるのですから友人の家族や親戚に誤爆の被害が及ぶかもしれません。またミロシェヴィッチのシンパでなくても、自分の家族が徴兵で兵舎にいる人もいるでしょう。その意味では、友人に囲まれてベオグラードで暮らしている私個人にとっても、空爆が一応回避(まだNATOの最後通告は有効ですが)されたのは良かったと言えます。
カリカチュア(諷刺漫画)の権利は作者プレドラグ・コラクシッチ=コラックス氏に属します。無断転載はご遠慮下さい。転載ご希望の方は本人宛てにメール(英語かセルビア語)をお願いします。掲載を許可いただいたコラックス氏に謝意を表します。
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