事例09

験前に教授と話をし、了解を受けていたテーマとは異なるテーマを強くすすめられ、自分の興味ではない研究をはじめた。ただし、そのテーマに詳しい教員がいなかったため、研究は難航し、そもそもの前任者の追試も再現しなかった。様々な測定法を試みてもデータはでず、そもそものテーマからしてだめなのではないか、という意見をいうも「がんばれ」という言葉以外かえってこない。結局他の研究グループの仕事によって、テーマに用いている測定系では測定は不可能であるという結果が出た。


解決:
 結局、最後の一年で、受験時の約束だったテーマで新しいデータを出し、ぎりぎりで学位を取得できたが、就職活動等の時間もとれず、また、論文数も少ないため、その後の進路に苦心している。



 本人による分析

問題点

(1)受験の前に教授の許可を得るというシステムが正常に機能していない
事前に話し合っていたのにもかかわらず、入った後で全く違うテーマとなったこと

(2)早く偉くなりすぎたスタッフ
博士課程終了後、そのままスタッフとして残り、また実験の前線から離れてひさしいまま助教授となってしまう。これは、学生が現場で実験をする際の問題点や悩みを理解しづらくさせている。

(3)イエスマンなスタッフ
自分にのやりたいこと、受験に際して教授の了解を得たことがあるのにもかかわらず、おしつけのテーマを与えられ、試みた結果それがどうもうまくいきそうもないものであることがわかってきた時、ある教員は「自分のやりたいテーマと心中する気か」と言い、また、他の教員はそのテーマではどうにもならない、という状況にもかかわらず、「教授は今のテーマで学位を取らせたがっている」と言う。学生の言葉に耳をかたむけるという姿勢が希薄だった。

(4)学位の審査の主査の問題
この学部では通常、学位論文の主査が指導教官なので、学生が逆らうことが非常に困難な状態にある。この場合、そのテーマでは結果がでないということをちんと把握できていたのは学生本人だけだったため、学位となりうる結果のでるテーマにうつるまでに三年を使ってしまった。

助かった点

(1)他に相談できる人がいた
修士の時の指導教官と連絡をとることで、本来やりたかったテーマについての情報収集や、テーマを変更した際のための準備をすすめることができた。

(2)誰か頼らなくても測定できる技術を修士で身につけていた
修士の時の仕事によって、測定技術がきちんと身に付いていた。また、そこから、オリジナルな仕事をすすめることができる状態であった。

(3)周囲の人達には悪意がなかった
テーマの判断こそ、フォローできなかったとはいえ、研究室の人達は相談にはのってくれた上、最終的なテーマでは教授も必要な装置の購入を快諾してくれた。



 結局、テーマの設定に際して、学生と教員との意見のすりあわせがきちんとできなかったこと、また、テーマがスタートした後も、そのテーマ自体の持つ問題に教員がなかなか理解をしめさなかったことなどが災いした例といえる。学生にとっての貴重な時間や、研究室の予算等が本来ならばはらわずともよかったはずの分まで浪費されてしまった。