《いきいき学校生活》 『世界に目をひらく』

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    (もくじ)

 (1)戦争って、どういうことだろう
 (2)戦争の中の子ども時代
 (3)戦争がおこるしくみ
 (4)「冷戦」終結と地域紛争
 (5)「冷戦」の終わりから「地球の時代」へ
 (6)人類と地球の共生、北と南の共存
 (7)子どもを救うこと、地球を救うこと
 (8)希望の21世紀へ


 (1)戦争って、どういうことだろう

 自分の家や学校がなくなってしまったら、と、考えたことがありますか?

 「まさか、そんなことは、起こるはずがない」

 と、思っている人も多いかもしれません。しかし、これからこの本を読むうえで、大事なのが、この「もし・・」と考える力、「想像力」です。

 読みながら、「もし、自分の身に〇〇が起こったら、どうしよう」と考えてほしいのです。

 学校がなくなると、勉強しなくてもいいかもしれないので、ちょっとうれしいと思う人もいるかも知れません。でも、友だちといっしょに遊んだりできなくなるとしたら、どうでしょう。

 自分の家がなくなってしまうと、みんなが困ります。ご飯を食べたり、テレビを見たり、おふろに入ったり、夜になったら眠ったりする場所がなくなってしまったら、どうしたらいいでしょうか。

 夏のキャンプのように、家の外で食べたり、テントで眠ったりするのは気持ちがいいものですが、雨や雪が降ったら、どうしたらいいでしょう。眠る場所だけでなく、電気も水道も、暖房も止まってしまい、その上、食べるものがなくなったら、あるいは、お父さんやお母さんがいなくなってしまったら・・というようなことを、少しでも想像してみたことはありますか。

 この本でいっしょに考えていくのは、「世界」と「地球」のことについてです。その中で中心になるのが、「戦争と平和」の話と「貧困と環境」の話です。

 どちらも、これから21世紀をむかえるでとくに大切なことばかりですが、「第三世界」とか「発展途上国」と呼ばれている、みなさんがいままで、あまり聞いたことのないような地域が舞台です。

 日本語はもちろん通じませんし、みなさんが習っている英語だって通じないことが多いのです(英語は外国で役に立ちますが、決して「世界語」ではありません)。

 そのうえ、日本では当たり前だと思っていることが、逆に、ちっとも当たり前ではないことの方が多いのです。

 スイッチをいれれば電気がつく、蛇口(じゃぐち)をひねれば水が出るなど、日本では当たり前だと思っていることが、世界各地では、電気が通っていない、あるいは毎日何キロもはなれた井戸から、水の入った重いタンクを運んでこなければならない、そんな地域が多いのです。明かりを取るためのたきぎを集めたり、水をくんだりする役目は、あなたたちと同じくらいの年齢の少年、少女たちがになっていることも少なくありません。

 でも、世界のあちこちで、苦しんだり、喜んだりしているのは、同じ人間です。言葉や文化、肌や目、髪の毛の色などが違ってはいても、この本をいま読んでいるあなたたちと同じ人間です。

 日本も五〇年あまり前まで、戦争をしていました。『ちいちゃんのかげおくり』(あまんきみこ作)という、日本の戦争をふりかえった物語が、小学校の教科書にのっています。読んだことがある人もいるでしょう。

 幼いちいちゃんは戦争の中で、お父さんが兵隊にとられて戦死し、空襲で町が焼かれて逃げるときに、お母さん、お兄さんが行方不明になる。そして、ちいちゃんは防空壕の中でひとりぼっちになり、助けを待っているあいだに飢え死にしてしまう、という、戦争のむごさを書いた物語です。

 作家の小田実(おだまこと)さんの娘さん(三年生)も、学校で『ちいちゃんのかげおくり』を習っていました。小田さんの家は、兵庫県西宮市にありますが、ちょうど阪神大震災で大きな被害を受けてしまいます。小田さんはその当時のことを、こんなふうに書いています。

 この物語を先学期から私の娘の授業では読んでいて、先生から、戦争のことをおじいさんかだれか戦争を知っている人に聞いてきてください、その聞いた話を作文に書くように、という宿題が出ていました。私の娘も家で、戦争っていったいなんだろうという話をし、私は娘に、私が何度も体験した大阪の空襲のあとにそのうち連れて行ってやろう、そこで話をしてやろう、と言っていたのです。そう言っているうちに、大地震が起こった。

 始業式のあと、授業が再開されました。娘の担任の先生も、住居はつぶれたし、どこか怪我もされたのですが、その先生が『ちいちゃんのかげおくり』の国語の授業のとき、みんなは以前とちがって今は戦争のことがほんとうによくわかったでしょう、とおっしゃったそうです。この先生のことばにみんなはうなずいた。戦争ってなんぞやということが、子どもたちにも、この地震の体験でわかったのです。私自身も(・・)大地震が起こったとたんに、それ(戦争)が遠い過去ではなくて、非常に密接したもの、つい機能のことんもようによみがえって来ましたし、娘のほうはほうで、『ちいちゃんのかげおくり』をはじめて読んだときとはちがった気持ちで戦争のことを考えたり、生きるということはなんだろうとか、人が死ぬというのはどういうことかということを、地震をきっかけに考えはじめたようでした。

   (『「殺すな」と「共生」−−大震災とともに考える』岩波ジュニア新書)

 小田さんの娘さんやその同級生たちは地震を体験して、戦争についてよくわかるようになりました。子どもたちばかりか、小田さんや学校の先生も、戦争がどんなに大変で、残酷なことか、もういちど思い出すことができたのです。

 大地震と戦争は、人が死んだりけがをしたり、家や学校が被害を受けたり、よくにたところがあります。しかし、地震は自然災害ですから、人間の力で完全にふせぐことは難しい。一方、戦争は、人間(とくに国の指導者、政治家たち)がおこす災難ですから、みんながくい止めようと思えば、おこさずにすむことです。

 もうすぐ二一世紀ですが、世界では、戦争や貧困、環境破壊などの深刻な問題が、解決されずに今なお続いています。いや、ただ続いているだけではなく、どうやら悪化してきているようです。

 ここ十年間ほどだけを見ても、世界中では二百万人の子どもが殺され、四百から五百万人が障害を負っています。住む家を失なった子どもは一千二百万人、親を失った子どもは百万人以上・・(ユニセフ『世界子供白書』より)。

 戦争だけでなく、貧しいことなどが理由で、栄養失調で死んでいく子どもたち(五歳以下)が一日約四万人もいます。計算すると、一分あたり二十七人が、十分な食べ物がないなどの理由で、今この瞬間にも、死んでいるのです。(チルドレンズ・ライツ刊行委員会編『いま世界の子どもたちは』より)

 「〇〇百万人」と、数字にしてしまうと実感がわかなくなりますが、あなたの学校の全校生徒の数や、あなたが住んでいる県や町などの人口と比べてみて下さい。想像もできないほどたくさんの子どもたちが、今あなたたちがこの文章を読んでいる間にも、死んだり、病気になったり、住む家を追われたりしているのです。

 そんな悲しいことをなくすために、これ以上くりかえさないために、わたしたちはどうすればいいでしょうか。そのためには、戦争をなくし、貧困をなくし、世界と地球上のみんなが、あらそうことなく、平和に共存してゆかなければなりません。

 いったい、そんなことができるのでしょうか。どうすれば、戦争と貧困がなくなるのでしょうか。

 この本では、みなさんといっしょに、そのことを考えてみたいと思います。けっして簡単なことではありません。いま、この世界でおこっていることを、「もし自分にこんなことが起こったら」と考えながら、読みすすむことで、少しでも解決の方向に近づいていけるのではないかと思います。いや、思います、ではなくて、解決の方向に近づいてゆかなければならないのです。

 わたしたちの未来と、あなたたちの二一世紀のために。

(つづく)

 「世界に目をひらく」(岩崎書店 いきいき学校生活シリーズ第8巻。本体1600円)
 ここでは、とりあえず、目次と第1章のみ、紹介します。続きは、お近くの小中学校図書室でお読みください。
 小田実さんをはじめ、松井やよりさん、ユニセフ東京事務所ほか、本書で引用したり、参考にさせていただいたみなさまに感謝します。


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