東京都調布市 とみさわ歯科医院

歯周病の知識

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歯周病

活性酸素と歯周病

ザ・クインテッセンスvol.16 no.8 '97トレンド「歯周炎患者の末梢好中球の分子的挙動を探る」より

現在のところ歯周病は宿主対細菌の相互作用により発症するとの概念が一般的となっており、これに基づき治療は細菌因子、すなわちプラークを除去することが主体に行われている。しかしながら「難治性」「再発性」歯周炎といったことばからもうかがえるように、宿主因子の差により、その治療効果には個体差があることも事実である。近年こうした宿主因子に影響を及ぼすものとして、喫煙や食生活などの生活習慣、糖尿病などの全身疾患といった各種のリスクファクターが示唆され、歯周治療においてこうした因子の改善も考慮されつつある。ところがこれらのリスクファクターの相互関係や、それぞれがどのようなメカニズムで宿主因子に影響を与えているかは完全には解明されておらず、治療の決め手には至っていない。

近年、各種の全身疾患において活性酸素の果たす役割が、分子レベルで解明されつつある。たとえばアレルギーや炎症性疾患、癌、動脈硬化、糖尿病などの成人病において活性酸素は疾患の進行に重要な役を果たしていることがわかってきた。

現在のところ歯周疾患と活性酸素のかかわりについての研究はそれほど多くはないが、近年発表された論文で、興味深いものがあったので紹介したい。

歯周炎で好中球Fc-γレセプターの刺激により活性酸素、タンパク溶解酵素の産生は増加するのか

Increased release of free oxygen radicals from peripheral neutrophils in adult periodontaitis after Fc-γ-receptor stimulation

Journal of Clinical Periodontology1996;23:38-44

A.Gustafsson and B.Aaman

論文の要旨

成人歯周病患者14人を被検者とし、年齢及び性の一致した同人数の健全者を対照群として実験を行った。それぞれ末梢静脈血を採取し、好中球を分隔し検体とした。ガンマグロブリンでオプソニン化したStaphylococcus aureusを用いてそれぞれ好中球を活性化した。そしてそれらから放出される活性酸素を化学発光を用いて測定した。脱顆粒については特異的基質を用いてエラスターゼを、またELISA法を用いてラクトフェリンを定量した。

結果としては歯周病患者は対照群に比して化学発光量は顕著に大きく活性酸素が放出が多くなることが観察された。一方エラスターゼはわずかに多かったに過ぎず、ラクトフェリンには差は認められなかったが、エラスターゼ/ラクトフェリンの比でみてみると、歯周病患者のほうが顕著に大きかった。

その他に細胞膜表面の接着分子(CD11a,CD11b,CD15,CD16,CD3,Mel14)についてその発現度を調べたみたところ歯周病患者と健全者の間に差は認められなかった。ただしMel14についてだけは蛍光抗体で染められる好中球の比率が歯周病患者において小さかった。

結論として歯周病患者の好中球はFc-γレセプターの刺激により健全者の約2倍の活性酸素を放出しており、このことは歯周病患者においては好中球に由来する特異的な宿主反応が起こっていることを示唆するものである。

解説

この論文の著者 B.Aamanらは1984年に若年性歯周炎と活性酸素の関わりを示唆し、現在に至るまで歯周炎と多形核白血球の活性酸素やタンパク溶解酵素などとの係わりを研究している。これらの研究より歯周病患者(特に若年性歯周炎や早期発症型の歯周炎)においては、好中球がオプソニン化された細菌などで刺激を受けた場合、特異的に活性酸素の放出が増加し疾患の進行に影響を及ぼしていることが分かってきた。しかしながらそれが歯周病患者の細胞に特異的な反応なのかどうかは結論をみていない。

いずれにしてもその他の全身疾患の研究から類推されることだが、歯周病のリスクファクターとして挙げられているものの多くが活性酸素の発生とその消去系に影響を与えている可能性があり今後の研究が期待される。