6.ヌプントムラウシ(1)


【戻る】  【目次】  【次へ】



○8月4日(水)

 5時起床。天候から考えて、放射冷却によりかなり冷え込むことが予されたが、果たしてシュラフカバーなしでは寝られないような夜だった。夜露がすごく、テントのタープが雨でも降ったみたいに濡れていた。
 でも今日はテントを張りっぱなしのまま出発するので、その濡れたテントを畳む必要もない。楽だ。
 インスタントラーメンを作るためにお湯を沸かしていると、きょう一緒に走る3人も起き出してきた。天気も良く、森の木々の上に輝く太陽から暖かな光が注がれていた。

望岳台  さて、まずはキャンプ場近くの展望台(望岳台とか言ったかな)目指しユートムラウシ林道を進む。それぞれが思い思いのペースで走り、程なく着いた展望台からは果てしなく広がる原生林とトムラウシ山が望める。ただ木々に遮られており視野はそんなに広くないが。
キタキツネ
 その後、いったんキャンプ場前の道まで下り、さらに曙橋経由でヌプントムラウシ温泉へと向かう。キャンプ場〜曙橋までのフラットダートに比べ、ヌプンへと向かう道は多少林道らしくなる。しかしテント類は置きっぱなしのためバイクにはパンク修理道具と飲料水のポリタンしか積んでおらず、背中のディパックにもタオル・カメラ・薬類のみといった軽装備なので、大したことはない。急な斜面の高い場所を通っているらしく、所々見晴らしの良いカーブがあったりする。当然ガードレールなぞないので、よそ見運転は禁物だ。

ヌプントムラウシ全景  ヌプントムラウシ温泉に着いてみて少しびっくり。
 噂には聞いていたが、立派な山小屋が出来ていて、トイレ・丸太橋などもバッチリあって、ファミリーでオートキャンプしてる人までいるではないか。
 ちなみに温泉は大きな丸太橋で川を渡った向こう側にある。湯は約4m四方の木枠で囲まれた湯船に張ってあり、すぐそばには脱衣所がある。源泉はこれまたすぐ近くにあり、白い湯気を吹き上げている穴を覗くと、お湯が勢い良く噴出しているのを観察することができる。

 それにしても、去年来たときは山小屋や丸太橋や脱衣所なんてなかった。草むらの中にあった湯船は、単に地面に穴を掘り石で囲っただけの簡単なもので、飛び交うアブを追い払いながら、苔の浮く汚いお湯に浸かったものだった。いやあ、整備されたんだなあ...
 でも、便利にはなったが、何かを失ったような気もする。近代設備は何もなくて、湧き出る温泉がそのまま川の近くの穴に溜まってて、そこに入る…みたいな、何ともいえない雰囲気が良かったのに。そのうち道が舗装されて宿まで出来てしまいそうだ。

 確かに町にとってみればその方が観光資源として有用だし、秘湯を求めるのは我々、一部のマニアだけかもしれない。また今日初めて行った人が、来年もっと観光化されるであろうヌプンを訪れれば幻滅するだろう。また去年よりもっと秘湯的な雰囲気がもっと昔にはあったかもしれない。
 便利になるようにと多くの人が望んでいるからヌプンみたいになるのであろうが、そればっかり追求していては今に北海道の自然はなくなってしまうのではないだろうか。
 不便なら自分が工夫すればいい。道が荒れていればオフロード車で行けばいい。熊が怖いならキャンプしなければいい。トイレがなければ穴掘って野グソすればいい。

 どうも北海道の観光地は見たところ、よりいろんな人でも行きやすいように自然を破壊するところらしい。(ただし例外もあるらしいが。)
 もちろん登山道だって立派な自然破壊である。自然が大切なら何もしないことが一番だ。ただそれでは遠くから眺めるだけである。実際に見てみないことには、その自然の素晴らしさを感じることはできないため、それを大切にしたいという気持ちも起きないだろう。それに、行ってみたい欲求がある以上、ある程度破壊されるのは仕方ないし、俺だってそうした所を見たり生活したりしている。
 しかし限度というか、この程度以上開発するのはよそうという線引きが必要だと思う。

 しばらく感慨にふけったあと、その無色透明の湯に浸かってみることにする。
 入ろうとしたが、お湯がかなり熱い。ちょっと、我慢できる程度ではない。
 しかしよく周りを調べてみると、湯船の外にバルブらしきものが二つあるのを発見した。どうやら片方が源泉からの熱湯で、他方がそのお湯を薄めるための冷たい沢の水らしい。水の方のバルブを開け、温度を下げる。便利だなあ。さっき思った余計なおせっかいを撤回したくなってしまう。

 適温になったところで、札幌のライダー、KLR岩波氏らと入る。いい湯だ。
 ただし、湯船内の水の出口周辺はぬるくて、お湯の出口周辺がやけに熱かったり、同じ場所でも上は熱いけど底の方は冷たかったりとか、なかなか楽しい露天風呂だ。皆で騒ぎながら入る。
 満足だ。唯一残念なのは札幌ライダーの奥さんが入らなかったことだけだなあ。

空を見上げて  その後、彼らとはここで別れる。二人は今から札幌まで帰るそうだ。日勝峠を越えて。
 二人を見送った後、KLR岩波氏とこのヌプン温泉の少し上流に行って、彼は釣り、俺は日記などを書いて過ごす。

 すばらくすると、彼が釣りから戻ってきた。魚の気配さえないという。
 でも天気は大快晴。俺は上半身ハダカだ。川のせせらぎを聞きながら、大自然の中たたずむ。北海道ツーリングで1日こんなにのんびりするなんて、なんというゼイタクか。それにこの天気! 走るのもいいが、こういうのもいい。




【戻る】  【目次】  【次へ】