5.大雪の懐、トムラウシ


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○8月3日(火)

 4時起床。そういえば、この旅の途中にまたひとつ歳をとってしまうことに気が付いた。
 少し暗くなってしまうが、空は今日も晴れている。
 よーし、根が生えないうちにかしわ園を離れよう。それにしてもここは本当に居心地が良い。

 朝食をとり、後ろ髪を引かれる思いで撤収したあと、6時前 朝もやの中出発する。
 美瑛から国道237号で南下する。ところが富良野に近づくにつれ空は曇りはじめ、上空の雲が厚くなってくる。やがて霧がゴーグルを濡らし始める。空が暗くなると、気分まで沈んでしまう。

メロン売店にて  富良野 市街で国道38号へ入ると、その先の南の空には低い雲がたちこめていた。路肩にバイクを止めて雨具を着る。雨こそ降ってないが、この先降ってきそうだからだ。

 途中、知人にメロンを送るために店へ。ここで店の人といろいろ話す。その中、自分ではメロンはなかなか食べられませんね…みたいな話題のとき、なんとメロンを半分に切って食べさせてくれるではないか。そしてこれがとても甘くて美味いのなんの。
 実はそれまで、メロンなんて高い割に美味いもんじゃないと思っていた。しかし、その考えは改めた方が良さそうだ。そして、旅人にここまで優しくしてくれる北海道の人に、感謝する。

 その後メロンの木も見せてもらった。ビニールに包まれていたが、地面の上にあるその実は小さいスイカのようだった。カボチャともいえる。俺はてっきり、メロンというものは林檎や葡萄みたいに高い場所に実ると思っていたので(無知な俺…)、少し意外だった。
 メロン作りには天気が良く、昼と夜、夏と冬の気温差が大きい方がいいのだそうだ。だとすると冬の寒さは保証付、そして夏は湿度は少ないものの気温自体は東京に匹敵するくらい暑いここ富良野は絶好の場所だ。 ところで、メロンの木(草?)は1年性で、収穫したらまた再度タネを蒔くそうだ。タネは専門の業者から買っていて、メロンの果実から採ったタネではまともに育つかは「保証できない」らしい。

 そこを後にすると、南富良野町へ。
 ここは美瑛のような美しい景色が広がる。空が晴れてきて、明るくなってきた。雨具を脱ぐ。
 そして、ゆるやかな登りが続く狩勝峠へ。苦しそうにエンジンを喘がせるセローと共に登ってゆくと、峠へは意外にあっけなく着いた。十勝平野が眼前に広がる。
 そのまま下り、サホロスキー場を過ぎ、新得で道道35号へと左折。時刻は9時。この道は以前は道道だったはずだが、274号という国道になっていた。しばらく行くと、やがて北海道らしい、気の遠くなるようなストレートが出現する。
道の上で  東瓜幕を過ぎ、途中で左折し、西上音更方面へ。突き当たり(豊岡)を右折。ここもいかにもといった感じのストレート。行き交う車も少ないので、タイミングを見計らって道の真ん中で写真を撮る。これ、前々からやってみたかったのだ。
 満足すると、だんだん腹が減ってきた。そこでナイタイ高原にある牧場を目指す。
ナイタイ牧場  牧場の敷地内にある、結構長い環状道路を走りながら周囲を見回すと、当たり前だが牛や馬が方々に見られる。
 10時30分、少し早いがレストハウスでジンギスカン+ライス+ポテトフライ+牛乳という、ゴージャスな昼食を摂る。肉が少ないのがいま一つだったが、見晴らしのよい、観光地だ。

トムラウシ周辺地図  来た道を戻り、新得町 屈足でガソリンを4Lの予備タンクに満たし、バイクのタンクも一杯にする。そして夕食と酒の買い出しを済ませる。
 これからいよいよトムラウシへ温泉へと向かう全長50km近い林道、パンケニコロベツ林道へと向かうのだ。

 去年走った時は道道から林道へと入る道を間違え、違う林道(そこは「ペ」ンケニコロベツ林道と言うらしい)へと入ってしまったので、今年は注意して入口を探さなくてはならない。とはいえ結局、途中でこの二つの林道は合流するため、行き着く先は一緒なのだが。
 目指す「パ」ンケニの方へは道道沿いにある新得の変電所のすぐ脇を左折するのが正しいらしい。

パンケニコロベツ林道  その脇道に入ってゆくとすぐに砂利敷きの林道へと変わり、しばらくは川沿いに道は伸びる。右へ左へとカーブしながら果てしなく林道は続く。木を倒し、山を削り、小川を埋めてこの道は造られているはずなのだが、ここを通る俺にとっては周りは大自然そのものに感じられた。
 時折、競うように生い茂る木々の葉の間から、大雪の巨大な山々が見え隠れし、その懐深くどんどん入ってゆく。

 途中、二人のライダーと出会う。
 その一人、札幌から来たKLX氏は一緒に走っていた奥さんとはぐれたらしく、彼女を探している途中だった。見つけた時の手筈を申し合わせ、一緒にそこで出会ったもう一人のライダー、バハ氏と先へ進む。やがて、「ペ」ンケニコロベツ林道と合流するT字路を少し過ぎた辺りで、すごい一直線のダート部に出る。
 道が真っ直ぐ大雪山へと向っている。ちょっと一息入れて写真を撮る。ここでしか味わえない、雄大な景色の林道だ。

 あとは一気に走りぬけ(ここのダートはジャリも浅く、走りやすい。時速60キロ台で走れる)、曙橋へ。 この曙橋というのは、新得からトムラウシ方面へと伸びている道道と、俺の走ってきたパンケニコロベツ林道、そしてヌプントムラウシ温泉へと向かう林道の合流点だ。通常、新得からここまでは道幅も広く、舗装されている道道を使うのだが、俺みたいな物好きはわざわざ遠回りの林道を走ってここへ向かうわけなのだ。

 ここでバハ氏と別れ、トムラウシ自然休養林野営場へと向かう。そうそう、奥さんとはぐれた札幌のKLX氏とはこの曙橋の前で再会し、彼女がトムラウシへと向かったことが分かったと話していた。きっと彼が先に行ってしまっているものだと思って先を急いで行ったのに違いない。俺も安心した。
 キャンプ場には15時着。

東大雪荘  一般的に見ればとんでもない山奥にあるトムラウシ温泉、ここには唯一の人口建造物というか宿泊施設として、国民宿舎が一軒ある。ここでは少し高いがビールも買えるし、タバコ、菓子類といった嗜好品も揃う。温泉の入浴料も220円(注:当時)と安いのだ。
 周りにいた人とその、国民宿舎「東大雪荘」の温泉へ入りにゆく。とても広い風呂だ。ただ、外にある露天風呂は熱くて入れなかったが。
 戻って来ると、早速焚火の用意に取り掛かる。何はともあれ、俺はそれが禁止されていない限り、キャンプ場に行くとまず焚き火をしなくては気が済まない。その点ここは薪が無尽蔵に用意されているのが嬉しい。おまけにサイトのすぐ裏には小川があり、ここでビールも冷やせるというオマケ付き。何という「至れり尽くせり」なキャンプ場であろうか。
 そしてこんな山奥だから、周りはすべて大森林、大自然である。巨大な4輪駆動車で乗付け、車のエンジンを掛けっぱなしにして、イカ釣り漁船のようにランタンを光らせまくり、犬や発電機や食べきれない程の食材を持ち込み、タープのポールに吊下げたラジカセから雑音を発し、大量のゴミを出すような人種はここにはいない。
 本当のキャンプツーリングの良さを、ここでは味わうことができる。明日は連泊してゆっくりする予定だ。

 大宮のKLR岩波氏、ここで合流できた札幌のKLX氏の夫婦、流山のXLR氏らと焚火を囲んで語り合う。
 俺の今晩のメニューはモヤシ肉炒め+焼きジャガイモ+ご飯。それぞれが自作の夕食を持ち合って食う。薪のはじけるパチパチという音。夜は音もなく更けてゆく。今までの経路、これからの予定などを話す。

 22時ごろ眠くてたまらなくなったので、一足先に寝させてもらう。明日は札幌の夫婦とKLR岩波氏と、ヌプントムラウシ方面へと行く予定。
 冷え込みそうなので、シュラフカバーを使う。
 夜空は満月。夜露で湿っぽい。

 [本日走行:325km, 消費ビール1.35L]




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