2.始まりは、雨。


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○8月1日(日)

 3時に起床。洗顔していると 間もなく到着する旨の船内アナウンスがあった。外はまだ真っ暗だが、町の明りだろうか、陸地と思われる方向の所々から光が見える。
 着替えて船首にあるサロンに出て 窓越しに外をみるが、まだ午前4時前、外は真っ暗だ。しかしデッキでは着々と接岸のための準備が進んでいるらしい。小樽港の輪郭が見え、フェリー埠頭のコンクリートが見えてきた。空がなんとなく薄明るく見える。晴れてるのか、雲っているのかわからない。フェリーが岸に近づく。

 水溜まりに雨の波紋が見えた! その瞬間、絶望的な気分にさせられた。
 快晴で、朝日の輝きの中走り出したかった。しかし雨とは... これ以上の不幸はないという気分でオートバイの下船を待つ。車両デッキに降り、床におろしてあったバイクの荷物を再びくくりつけ、雨具を着込み、ゴアテックス製のアンダーソックスを出し、履く。周囲に窓のないこの車両デッキからは外の様子を伺い知ることはできないが、フェリーは岸壁に固定され、自動車やバイクが上陸するためのスロープと接続するための作業が進んでいるはずだ。

 その作業が終了したのか、最初に下船する4輪車の列がゆっくりと動き出した。我々ライダー達も、誰かれともなくエンジンを掛けはじめる。いよいよ、再び夢の大陸を走ることができる。
 俺は、薄暗い外の世界へと向い、バイクを進ませていった。

 外に出るとやはり小雨。暗い気分の中、それでも内地とはまるっきり違う雰囲気の中、走り出す。一緒にフェリーでスタートしたライダーと信号待ちで一言二言話す。
 そのまま国道で北上し、4,50kmも走っただろうか、小樽のある石狩湾から内陸方向に入った所にある当別町へさしかかる。午前6時、気温は10℃少々しかない。道路沿いのセブンイレブンでやきそば+コーヒーの朝食を摂る。コーヒーはなんとホットだ。まさかこの季節にホットコーヒーを飲むことになろうとは。(いやその前に、この季節ホットコーヒーを売っていることじたい北海道的だとは思うけど)

 そのまま国道を北へ走り、滝川市を目指す。いつの間にか雨は衰えてきている。
 ふと前を見ると、厚く低く垂れ込めた雲の向うに晴れ間というか、明るい空が見えた。どうやら内陸方面は晴れているらしい。一気にそこを目指して走る! そして雨は次第に小降りになり、そしてついに止み、道路が乾いてゆく。この感動、バイクで走っているからこそ味わえる至福の瞬間だ。

千望峠  午前7時過ぎ、滝川市から国道38号に入る。途中でガソリンを入れ、8時10分に芦別→美馬牛へ至るダート(道道509号)を走る。上富良野へと続く道、千望峠での眺めは素晴らしい。森を抜け走っているとパッと視界が開け、広大な田園風景が広がる。広く快適な舗装道路がゆるやかなカーブを描きながらその中へと下っている。そして俺はこの雄大な景色の中へと進んでいった。

 1年ぶりの上富良野、ラベンダーはその花の季節を終え、美瑛へと続く国道からはあの鮮やかな紫色を望むことはあまりできなかったが、お約束の観光名所拓真館に寄った時に、その姿を見ることができた。

白金温泉  次に、初日だしたまには贅沢な風呂もいいかということで白金温泉ホテルの露天風呂へ1000円も払って入ってみる。嬉しいことにこの露天風呂は混浴であり、たまたま居合せた女性とご一緒できたのだった。湯は茶色で、舐めてみると鉄っぽい味がする。やっぱり温泉はこのくらいの色がついてなきゃ。
 ここでゆっくりした後は、美瑛市街でガソリン補給+夕飯の買い出しだ。
 昼過ぎには本日の宿泊地、「かしわ園」キャンプ場に着く。

かしわ園のキャンプサイト
 広々とした林間のサイトにテントを張る。他にも何張りかのテントがあり、洗濯物の干され方や食器等の状態から、その住人たちがすでにここで連泊を重ねていることは容易に想像できた。人がいるようなので、挨拶かたがた旅の話をしに向かう。

 同じツーリングライダー同志、すぐに打ち解け、旅の話に花が咲く。ただ、独特の雰囲気が感じられるキャンプ場常連の人達とは、最初はとても話しづらい感じがある。コツは向こうが一人になって、さびしそうにしてる時がいいと、その人も言っていた。彼は去年、会社を9ヶ月でやめてプー太郎になり、大阪から九州、四国とまわりここまできてハマったそうだ。

 そのCBR400氏から美瑛町内の風呂の場所を教わったりした。今、他の多くの常連は青森・ねぶた祭りのため内地へと南下しているそうだが、そう言う彼もそろそろ行くと言っていた。
 そんな話をしている時、「キィーッ、ドン」 という、まさに字に書いたそのまんまの音がし、しばらくして救急車の音がして近くで止まった。
 これは見に行かなくてはと、二人で俺のセローに乗り、飛ばす。ちょうどキャンプ場の裏手にある学校近くの交差点での交通事故だった。2台の車が出会い頭に衝突したらしく、ガラスの破片が散乱している。

 警察による現場検証を見ながら、目撃の老夫婦らと事故の原因・背景・怖さなどについての話をする。この辺は事故が多いらしい。やはり、景色に見とれての一時停止無視が多いようだ。車と車の事故ならともかく、バイクと車の衝突事故ではどちらの被害が大きいかは考えるまでもない。ライダーである我々は、常に周囲に気を配って走らなければならないのだと再認識させられた。

かしわ園の駐車場  夕方、次々とライダーがやってくる。その中で、近くにテントを張った大阪のジェベル250黒部氏、SR氏と夕食のジンギスカンを囲む。ソーセージなどもつまみに酒盛り。木立の間から見える夕日が美瑛の丘に消えてゆき、小麦の穂がオレンジ色に染まる。丘のまち、美瑛の美しさは評判以上だと思う。

 その夜は飲み、語り、夜のセブンスターの木を見に行ったり(ただし徒歩のため片道40分くらいかかったが。かなり疲れる。)と、楽しい北海道初日の夜を過ごした。

 [本日の走行:265km, 消費ビール:1.5L]




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