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暗闇であった。そこが、外なのか、それとも屋敷の中なのか……。
ふと、何かの気配が動いた。僅かに衣擦れの音が響いていた。そこはどうやら部屋の中らしい。
「それは、北から来る」
しゃがれた声がその部屋に響きわたった。
「確かか」
違う声が鋭く言った。
「北から来る。ここへ、東京へ」
カチッと音がして、スタンドがボウッと淡い光を広げた。その光を見つめている二人の老人が浮かび上がってきた。
「倒さねばならぬ。それとも、お主らが消滅するか」
最初のしゃがれた声が老婆の姿で言った。
「何者じゃ、綾歌」
もう一人は鋭い眼光の老人であった。綾歌と呼ばれた老婆は、うむむと首を振った。
「それが……判らぬ。ただ、二人ともたぐいまれな美男美女じゃ。20歳前後のな」
綾歌はそう言って閉じていた目を開いた。だが、そこに存在するはずの眼球はない。ぽっかりと闇が横たわっていた。
「勝てるか」
老人が笑いながら言った。それを否定されるはずもない、という自信の表れであった。
「それも判らぬな。だが、当麻が永劫のものであるためには勝たねばならぬ。のう、粃殿」
綾歌が目を閉じて呟いた。綾歌の言葉に粃がその笑いを凍らせた。
「すべて諸見のせいじゃ。あやつさえ、わしの跡を継いで当麻13代になっておれば……。すべて上手くいっておったのに……。このようなことに気を病むこともなかった」
粃がぐっと拳を握った。
「粃殿、20年も前の話を蒸し返しても始まらまい。いまさら何を言っても詮なきこと。今考えるのは、未来のことじゃよ」
綾歌がスタンドにそっと手を触れた。淡い光が徐々に消えていった。
「諸見さえ……」
その呟きが闇の中でもう一度響いた。
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