◆◆◆
ゴォーと木々が鳴っていた。春の嵐であった。
山桜がその花びらを風に散らしている。そのかたわらに白いワンピースを着た女が立っていた。
「きっと、あなたの恨みは晴らしますわ。この私が、波豆を受け継いだ、この私が……」
女の長い髪が風に吹かれて、扇のように拡がった。手に持っていたつばの広い帽子をかぶる。
「きっと、当麻も邑楽も、その記憶を受け継がせてはいないでしょう。波豆だけがすべてを受け継ぎました。でも、それだからといって、当麻や邑楽の罪が消えたわけではありません。待っていてください。本当に楽しみです。私が歴史を新しくするのですから。9代波豆の亡き後、四百年の時を隔てて目覚めた、10代波豆のこの私が……」
女は風に身を任せながら、高い笑い声を響かせた。その優しげな顔立ちからすると、想像すら出来ない、魔的な笑いであった。
春の嵐は、ずっと吹き続けていた。
←戻る・続く→