黒い長身の影が一つ。
 少し離れた場所に、小柄の蹲っている影が一つ。
 月の光も届かない路地の中で、遠くの街灯がそれをぼんやりと表していた。

「思えば俺とお前はいいコンビなのかもしれないな」
 敦司(あつし)の京介(きょうすけ)と二人きりの時の口調は普段とかけ離れてぞんざいだ。
 対する京介のほうも恐らく他の二人は想像もつかないような物言いをするので、お互い様と言えないこともない。
「誰がコンビやねん」
 黙っていれば絶世の美少年という名は京介のためにあるようなものなのだが、口を開けば罵詈雑言の類がこれでもかというほど出てくる。
 それでも、今は抑えているらしく、そのまま京介は口を噤んでしまった。
「お前が構わないんだったら別にそのままでもいいぜ。そいつは妙な力なんかないし、そのままでいても他の人に実害はない。お前の体がちょっとだけ重いぐらいだな。ほんの僅かの力を持っている術師でも充分祓えるさ。俺の力を使うほどのものじゃないもんな」
 敦司はそう言ってくるりと背を向けたが、その後ろで一つに縛った髪をぐいと引っ張られた。
「って、痛いじゃねーか」
 てっきり京介が引っ張ったのだと思ったのだが、さにあらず、敦司の髪の毛を銜えているのは白竜であった。
 敦司はぐいぐいと自分の髪の毛を引っ張る白竜に、
「判ったよ、竜ちゃん」
 と仕方なさそうに言い、京介につかつかと近づくと、ポンとその頭を叩いた。
「全く、お前はこいつを気に入ってるからな」
 ピーと鳴きながら京介の肩に留まり、その髪を嬉しそうに啄んでいる白竜を見ながら、溜息混じりに敦司は呟いた。
 まあ、仕方があるまい、と敦司は思う。
 白竜(竜だろうと思われるその形状と色でそう呼んでいるが、本当に竜なのかは謎)は、普通の人間には見えないのだ。
 だから、白竜は久々に敦司以外に自分を認めてくれる京介を気に入ってしまったのだ。
 京介が白竜にはその笑みを向けるのも原因の一つには違いない。
 傍目には白竜が一方的にじゃれているだけなのだが、敦司には白竜といる時の京介が、柔らかいオーラを放っていることが判る。
(まあ、いいけどさ)
 取りあえず店に戻らねば、和哉(かずや)がブツクサと文句を言うだろうことが判るので、京介たちはそのままに、敦司は戻り始めた。


 そして、時は少し戻る。



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