系図



 彼らにとって、出会った回数など関係なかったのだ。ただ、彼らが互いに出会った、ということが、彼らにとって意味があったのではないだろうか。いや、それは彼ら自身に聞かないと判らない。彼らは語ってはくれないだろうが、彼らの物語を紡ぐことによって、それは見えてくるかもしれない。

 四郎にとって、彼の最初の印象は、その冷たい面持ち、そしてその整った顔立ちに暗くのしかかるような陰、それであった。最初に彼に会った時、四郎は、彼に深く関わるとは思っていなかった。だから、彼を知ろうとは思わなかった。だが、彼の表に見える姿と、その内に秘められた彼の本性に気づくのは、それほどの時間を必要とはしなかった。そして、確かに彼と出会ったのは、ほんの数回にしか過ぎなかったのだ。
 伝十郎にとって、彼の最初の印象は、裕福で親から愛されて育ったようなお坊ちゃま然とした奴、そしてそれを自分には必要ないのだと思っている傲慢さ、それであった。伝十郎は彼に関わるつもりはなかった。だが、皮肉にもそれは伝十郎を巻き込んでいった。そして、自分には必要ないと思っていた、友、と認めることが出来た唯一の人物として存在することになったのだ。それが、伝十郎にさらなる心の傷を負わすことになるとは、彼が想像出来たはずはない。
 ほんの数年のことであった。彼ら、二人がお互いを認知して、そして一人が永久にこの世を去るまで。

 一人は、回りから期待され、兄がいたにも関わらず、親の跡目を継がされかけた。だから、この江戸から去った。
 一人は、幼くして親を殺され、その親殺しの罪を着せられて、その理由も判らぬまま、他人の手で育てられるため江戸を去った。

 早瀬伝十郎と槇原四郎が出会ったのは、秋。

 そして、この物語も秋に始まるのだ。



続く→