「知ってる? これ、シャコバサボテンって言う名前なのに、もう一つ素敵な名前を持っているのよ」
 女はそう言って鉢植えを男の胸の上に置いた。サボテンの名で想像するサボテンとは、ちょっと違った。サボテンとは、もっとトゲトゲしいものではなかったか。女が男の胸に置いた鉢植えのそれは、トゲはあるにはあるが、と思った。そしてただの緑の肉厚の葉。
 女は鉢植えをローチェストの上に置くと、男の胸に落ちた土を払った。
「クリスマス・カクタスって名前があるの。クリスマスの頃に、綺麗な花を咲かせるの。花言葉は確か……」
 女が男の頬にうっすらと伸びてきた髭を触りながら考えていた。
「ああ、忘れちゃった」
 女は明るく笑うと男の唇を思いっきり吸った。
「ねえ、咲くまでここにいてもいい?」
 男は女の髪を掻き上げた。
「自分の部屋で咲かせばいい。俺は花なんかどうでもいい」
 女が男の胸に顔を埋めた。
「守ってくれるって言ったじゃない。自分の部屋になんか戻れないわ」
 男は大きく息を吐いた。
 いきなりこの部屋に飛び込んできた女。それを追ってきた男たち。自分を守るために、男は女を守ることになった。それはその時だけのはずだった。
「あの時だけの約束だ」
 そう言って男はまた女の髪を掻き上げた。女の指が男の肩から腕を撫で回す。
「ねえ、いさせて」



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