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 そして、彼らが目を覚ましたのは、翌朝早くであった。頓原がまずしたのは、宍道に報告することであった。昨日は頓原からもそれをすることが出来ず、宍道からもそれがなかった。お互いに、通信出来るだけの《力》を残していなかったのだ。頓原が白緑の球体を目の前に浮かべる。
「宍道」
 それに向かって頓原が呼び掛けた。宍道の姿がすぐに現れた。
「俺たちは今、県境近くのイチョウの木の側にいる。夜半の戦いで、仁多と斐川が殺られた」
 頓原は無表情を装ってそう報告した。宍道が一つ吐息を落とした。
「五真将が三人になってしまって、俺はすまないと思っている。だけど宍道、こんな無様な報告はもうしないぞ。思うけど、奈半利の手駒はそう多くない。だから、宍道は行縢神社で後方担当になってくれ。俺たちのために」
 宍道は頓原を見つめた。その表情は何もない。だが、頓原が一晩中自分を責め続けていたことを宍道は気づいていた。
「判った。お前の言う通りにしよう。頓原、伊勢の朝熊と倭が今一緒にいる。それを報告しておこう。彼らも奈半利と戦い、だが、二人とも無事だ」
 頓原は頷いた。朝熊たちが来てくれたら、やはり心強い。
「頓原、五真将はいつでも五人だぞ。私と三刀屋がいることを忘れるな」
 宍道が少しだけ笑って言った。頓原の口元が少し綻びた。
「宍道、三刀屋は入れてやってもいいが、お前は駄目だ。お前は王だから。だが、五真将は五人いるぞ」
 頓原の言葉に宍道は首を傾げた。
「俺には二人分の《力》があるからな」
 そう言って頓原はニッと笑った。宍道が心の中でホッとして笑う。頓原はこうでなければならない。
「では、任せたぞ」
 宍道は頷いた。頓原も頷く。頓原の前から宍道の姿が消えた。頓原は白緑の球体を消した。
「船通、八雲」
 頓原が二人を見つめた。
「もう二度とあんな無様な真似はしない。俺は絶対に。そして船通、八雲……だから、期待しているぞ」
 船通が驚いた顔で頓原を見つめる。今まで決して口に出さなかった言葉を、頓原は言ったではないか。朝霞に対して『期待している』と克雅に伝言を頼んだのは、その言葉を言えたのはたぶん、本人に直接ではなかったからだ。頓原は、それを面と向かって言うような性格ではない。だから、船通の驚きはもっともなのだ。
「ま、俺の足を引っ張らない程度にな」
 そう言って頓原はニッと笑う。船通がフッと笑った。自分が頓原より大人であると思っていたわけではない。ただ、船通は思った。
(頓原は成長しましたね)
 と。
「結界と癒しは俺に任せてよ。二人を守ることなんて、俺にはたやすいことだよ」
 八雲が自信満々な笑顔を浮かべて言った。頓原がポンポンッとその頭を叩く。
「お前の結界はほれぼれするほど堅固だよ、八雲。船通も腕が上がったようだし……」
 頓原はそう言いながら、二人に背を向けた。その表情を二人から隠すように。
(慣れない言葉は使うもんじゃないなー。背中がゾクゾクするよ)
 頓原の頬に照れが浮かんでいた。
「さあ、行こうか」
 頓原の号令とともに三人は歩き始めた。


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