物部はギリリと歯を鳴らして紅の球体を握り潰した。五真将に立ち向かわせた御荘と松前が殺られてしまったのだ。五真将も仁多と斐川を失ったとはいえ、まだ、三人も残っている。数が足りない。それが物部にとって一番のネックであった。最初からそれは判っていた。奈半利だけで、他の三つの一族を相手にするのだ。それを知っていながら、奈半利は始めた。布城崇という一人の人物が出てきたから。彼を手にしたら、他を圧倒出来る《力》を持てるから。だから始めた。魚梁瀬と物部が同時に思いつき、それを行うことに決めた。何故、それを知ったのか。それを物部は忘れていた。いったいどうして、布城崇のことを知ったのか。彼のことを知ったのは、何故なのか。そのことと、それを考え直すことを、物部は失念していた。わざとではない。たぶん、そうさせられていたのだ。
 室戸の報告で、双海が傷を負ったことも知らされていた。奈半利に残された駒は、自分も含めて、五人。確かに他にも奈半利の一族はたくさんいるが、使える者はそれだけなのだ。
「だが、布城崇は私の手の内だ。誰も彼を殺そうとはしないだろう」
 物部は唇を歪めて呟いた。いざとなれば、もちろんそんなことはあり得ないが、崇を楯にすることも考えている。奈半利が滅ぶ時、他の一族も滅びるのだ。そうでなくてはならないのだ。奈半利だけが滅びることなどあるはずはない。
 物部は翌日の(もはや今日だが)配置を考えていた。自分は崇とともにここを動けない。遙が来るのは火曜日。あと一日だ。八坂、八浜を出雲に当て、双海、室戸を伊勢に当てようか、と物部は考えた。双海はそれ以外の方法を、きっと拒むだろう。物部は双海が恐ろしかった。すべてにおいて冷酷な感情を、双海は持っていた。自分の兄弟といえど。おそらく、自分に対してもそれは同じであろう。双海は冷静に、冷淡に、すべてを判断している。それから外れると、双海の中では処分されるのだ。それを最終的に行うのは王である自分だが、最初に行うのは双海の心の中なのだ。それを物部は知っていた。王であることにふさわしいのだ、双海は。それも物部は知っていた。だから、双海は時にやんわりと自分を抑える。その抑え具合が憎たらしいほど巧い。物部の心に引っ掛かりを残さないように。
 物部は二つの紅色の球体を目の前に浮かべた。一つは出雲、一つは遙たちであった。頓原たちはさきほど物部が御荘たちを飛ばした県境を超えたところにあるイチョウの木の側にいた。樹齢の長いイチョウであった。その《気》を自分に取り入れることによって、《力》を取り戻すことが出来る。彼らはそれを拒まない。善にも悪にも、どちらにも使うことを許すのだ。彼らを直接攻撃しないかぎり、彼らはいつも屋根を与えてくれるのだ。もう一つ遙たちは尾鈴山近くの旅館に宿泊していた。物部は首を振って紅色の球体を消す。そして、すべての明かりも消した。


←戻る続く→