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河川上流中流と海岸を回復させるための新たな工事方法

>(7)「貯水式ダムの放流方法の改善」


河川上流中流と海岸を回復させるための新たな工事方法








2019年8月1日一部変更、2016年3月17日掲載

(7)「貯水式ダムの放流方法の改善」

 ここでは、貯水式ダムの放流方法をどのように改善するかを記述しています。
 第15章「貯水式ダムの放流を考える」でダムの放流方法が間違えている事を指摘しましたが、その改善方法について詳しく記述することはありませんでした。 ここでは、どうしたらそれを改善出来るのか、或いは何故間違えているのかを補足的に説明しています。
 ここで論述しているのは、治水をその目的に掲げる河川上流の貯水式のダムについてですが、 上流域ではない場所の貯水式ダムにおいても参考にして頂ける事柄があると思います。

 「貯水式ダムの放流方法の改善」では新たな工事方法を提案していませんが 「河川上流中流と海岸を回復させるための新たな工事方法」と主旨を同じくしているので、ここに記述することにしました。
 貯水式ダムの放流方法の改善には、新たな工事を施工する必要はほとんど無いと考えています。 ただ、放流に関する考え方を改めてダムの運営方法や設備や装置の操作方法を変更する必要があると考えられるので、 そのための施設や装置の改善が必要になることがあるかもしれません。
 なお、以下の記述をお読みになる前に、「河川上流中流の土砂流下と堆積の規則性を考える 」の第5章と第15章「貯水式ダムの放流を考える」をお読み頂けるようお願い致します。 そうでなければ、それぞれの改善方法の意図するところが解らないでしょう。

貯水式ダムの放流方法の改善
 貯水式ダムの放流方法が間違えていることによって、上流と中流の河川が自然に持っているはずの治水的効果を失い、ダムより下流の治水に悪影響を与えています。 しかも、その影響は、放流時のいっときだけでなく、時間の経過と共に累積して増大しています。 その結果として、河川上流から海岸に至る様々な荒廃が生じていると考えられます。

 貯水式ダムの放流方法が間違えている事によって、貯水式ダムの下流には好ましくない状況が発生しています。以下の間違った放流方法が河川荒廃の原因だと考えられます。
 第一は、現在の貯水式ダムの放流ではその単位時間当たりの流下水量が必要以上に多くなっています。
 第二は、貯水式ダムの急激な放流がその下流に不必要な土石流を発生させています。
 第三は、現在の貯水式ダムの放流は急激に終了しています。
 三つの好ましくない状況は、いずれも貯水式ダムの放流に伴う過程が急激であるために生じています。 放流についての考え方を改め実際の放流方法を改善すれば、問題の多くは解決できるはずだと考えられます。

(第一の問題)貯水式ダムの放流では単位時間当たりの流下量が多くなりすぎています
(イ)貯水式ダムの放流と「自然の敷石」「自然の石組」
 「自然の敷石」や「自然の石組」を破壊するのは大量の水の流下です。 それぞれの場所で、その時々に流れる水の量が多ければ多いほど「自然の敷石」や「自然の石組」を破壊しやすく、 その流下水量が多い時間が長ければ長いほど多くの土砂をより下流に向けて流下させます。
 言い換えると、流れのそれぞれの場所での水位が高ければ高いほど「自然の敷石」や「自然の石組」が多く破壊され、 それぞれの場所の水位が高い時間が長いほど土砂はより下流に流下するのです。

 これらを貯水式ダムの放流に即して言えば、秒あたりの放流水量が多いほど「自然の敷石」と「自然の石組」を破壊しやすく、 放流水量が多い時間が長いほど「自然の敷石」と「自然の石組」破壊の影響が大きくなると言えます。
 全ての貯水式ダムの全ての放流の機会に、上述のような残念な状況が発生しているとは考えていません。でも、多くのダムで残念な状況が頻繁に発生していると考えています。

(ロ)平水と呼ばれる標準的水量
 「自然の敷石」や「自然の石組」は、ある特定の水量以上になった時から急速に破壊されるようになります。 この場合の特定の水量とは、平水と言われる標準的な水量を基準に考えると分かりやすいと思います。

 河川では、それぞれの場所の上流地域に急な降雨があった時でも、流下する水量が急速に増加することはそれほど多くはありません。 また、降雨が急に止んでも、急速に減水することも多くはありません。
 上流には多くの林や森林があるので、それらが河川の水の流下状況を穏やかにしています。 上流に豊かな森林がある河川ほど、急激な増水が少なくまた渇水期にも水が枯れることが少ないのです。上流に森林がある事によって、河川上流の水量はその変動の幅が少なくなっています。
 平水とはそれぞれの河川が普段流下させている平均的な水量の事を指します。その量は河川ごとに異なり、 また季節ごとにも異なります。平均的な水量ですから、この量の水量が平水であると特定の数値を示すことは困難です。おおよその水量を表す言葉に過ぎません。

 河川の上流中流でその水量が平水である時には、流れに濁りが無く透明であることが多いのです。 その訳は第15章や第13章、第14章でも詳しく記述しています。それらの説明を別の見方で表現すると以下のようになります。
 河川上流中流の流れが透明である事が多いのは、平水である時間が長くて、その時に流せる事の出来る土砂はそのほとんどが流下してしまうので、 平水時には土砂が流下することが少なくなっていることによります。

(ハ)単位時間当たりの流下量を減らすダムの放流方法
 これらのことから言えるのは、貯水式ダムの放流時には、ダム下流の流れが平水の流れになる水量を放流すれば良いことになります。 このようにすれば、不必要に土砂が流下することがありませんから問題が発生することが少ないのです。放流水量が平水より少なければなおさら良いでしょう。
 貯水式ダムでは、その放流水量の総量を事前に決定してゲートの操作を行っている事が多いと考えられます。 ですから、決まった放流総水量があれば、それを今までより時間を掛けて放流することになるでしょう。

 貯水式ダムの下流では通常時の水量は極端に少ないか全く無かったりするのが普通です。そのような状況で、平水とする水量をどのように決めるべきでしょうか。 これは難しいことではありません。ダムの建設以前にダムの下流側で普通に流下していた水量を平水とすれば良いと考えられるのです。
 河川がそれぞれの山地を侵食して谷や沢を作り現在のような姿になるまでには、長い長い年月が必要でした。 長い年月の間には気候の変動があり降雨量が変動したことがあったかもしれません。 でも、十年二十年の単位で考えれば、降雨量が極端に変動することはそれほど無いはずだと考えられます。
 また、山地がある程度侵食された後であれば、それぞれの河川の流域面積が変わることはほとんど無いのです。

 それぞれの河川でおおよその降雨量が定まれば平水時の水量もほぼ定まります。ただし、これは河川上流部にある森林の量と量とによって異なるでしょう。 豊かな森林であれば流水量の変動の幅は少なく、貧弱な森林であったりハゲ山があったりすれば変動の幅は大きくなります。
 平水時の水量によって、河川や河川敷に存在し続ける石や岩の大きさもその量もほぼ定まります。

 水流によって土砂が流下して行ったとしても、上流では小さな砂から大きな石や岩まで土砂の供給が絶えることなく続いています。
 水量が多い河川ほど大きな石や岩の大きさが大きく、小さな流れの河川ほど大きな石や岩の大きさが小さいのが普通です。 簡単に言えば、河川にはそれぞれの水量にふさわしい大きさの石や岩があり、またその量もそれぞれの水量にふさわしい量であると考えられます。
 人間が貯水式ダムを建設したとしても、長い長い年月を考えればダムが存続しているのはごく短い期間に過ぎません。 現在あるダムもいずれかは撤去しなければならないでしょう。 その時に、貯水式ダムが無かった時と同じ水量に相応しい石や岩とその量があれば、ダムの解体時の困難は確実に減少しているはずです。

 貯水式ダムによる不自然な放流が長く続いた河川があるかもしれません。或いは河川敷にあった石や岩を外部へ持ち出してしまった河川があるかもしれません。 そのような河川では、本来あるべきはずの大きさの石や岩が失われていたり、石や岩の全体的数量が減少しているかもしれません。 そのような場合に放流する水量は、以前の平水よりも少なくしなければならないでしょう。そうしなければ、不必要な土砂の流下がさらに続くことになってしまいます。
 河川の上流では、人には気付かれないような小規模な土砂崩れが多く発生しています。もちろん、大きな土砂崩れもあります。 それらによって、大きな石や岩の量がダム以前の姿に戻るまでは、平水よりも少ない放流を続ける必要があります。

(ニ)止むを得ず、多くの水量を放流しなければならない時
 通常の降雨による放流の時には、決まった放流総水量を今までより時間を掛けて放流すれば良いのです。 でも、集中豪雨などにより、急遽、大量の水を放流しなければならない機会が発生するかもしれません。
 貯水式ダムがない自然状態であっても、規模の大きな増水は、十年に一度とか十数年に一度程度の少ない頻度で発生しています。 大量の水量を急ぎ放流しなければならない時には、同じように考えても良いのではないでしょうか。 でも、そのような緊急の大量放流の機会は少なければ少ないほど良いことは言うまでもありません。 そうでなければ、治水を目的に貯水式ダムを建設した意味が無くなってしまいます。 そのような機会には、人工的なダムであるからこそ出来る流下水量の制御機能を最大限に利用すべきです。

 いちどきに流下する水量が多ければ多いほど「自然の敷石」や「自然の石組」を破壊する可能性が多くなります。 ですから、緊急時であっても、秒あたりの放流水量を可能な限り減らすことが最も重要です。もちろんそのぶん全体の放流時間が長くなります。 でも、これも問題はありません。かえって好都合な状況だと言えます。
 放流水量が最も多い状態で放流する時間は短ければ短いほど良いのですが、かといって、放流水量をあまりに急激に減少させるのも考えものです。 放流水量が最も多い状態からあまりに急激に水量を減少させてしまえば、土石流の時の水量減少状況に近づいてしまいます。 なるべくゆっくりと、なおかつ速やかに減少させるべきです。これには自然時の水量減少を参考にすれば良いでしょう。

 放流水量が平水時の水量に近づいてからは、よりゆっくりと水量を減少させていきます。 河川の上流中流では降雨による自然の増水があった時に、その水量は平水時に近づくほどその減少の速度が遅くなっています。 直ぐに全くの平水にまで戻ることはありません。自然の河川での水量は平水時やそれに前後する量の水量であることが多いのです。 そして、そのことによって「自然の敷石」や「自然の石組」が巧みに形成されています。
 放流水量が平水時の水量と同じであるか、それに近しい時間が長ければ長いほど「自然の敷石」や「自然の石組」がより良く形成されます。 そして、ゆっくりと減水していくほどその効果も大きいと言えます。
 流下水量が平水時の水量よりも少なくなってからも、その減少の速度をゆっくりにします。 やがて、放流を止めます。これらの減水過程は、ダム建設以前の自然の減水状況を参照すれば良いのです。

 貯水式ダムの建設以前にあった増水時の減水過程よりも、ダムによる放流量の減少の程度が穏やかであれば、そのダムはダムとしての治水効果が大きいと言えます。 その時には、上流にある山地や森林による治水効果を上回る効果をダムが成し遂げていることになります。
 逆に、ダム以前にあった増水時の減水過程よりも、ダムによる放流量の減少過程の進行が早ければ、そのダムはダムとしての治水効果を生じさせていないことになります。
 貯水式ダムの工事においては、その建設以前に詳細な調査が行われています。ダム以前の資料は容易に入手出来ると思います。

 ここまでに記述した放流方法の改善で全ての問題が解決するのかと言うと、そうではありません。 貯水式ダムによる放流がその下流に不必要な土石流を発生させています。この問題も解決する必要があ ります。

(第二の問題)貯水式ダムの急激な放流がその下流に不必要な土石流を発生させています
(イ)特別な土石流の発生を防ぐ方法
 第11章「土石流の跡を考える」の後半で説明した特別な土石流を防ぐ方法を詳細に示すのは困難です。 放流初期における増水過程の進行を出来るだけ遅くするべきであると言うしかありません。
 実際の放流において放流初期の増水がどのように進行しているのか、或いはそれがどのような基準を基に実行されているのかも、私は全く承知していないからです。
 この問題の解決は、現実のそれぞれの貯水式ダムの運営に関わる皆様の実践的努力を待つしかないと思います。 でも、解決のための基本的な考え方は明らかに出来ると思います。また、新たな提案も出来ると思います。

 第15章「貯水式ダムの放流を考える」に記述しましたように、ダムによる放流の水量増加過程が早いほど土石流は発生し易いのです。 しかも、その初期の水量の増加量が多いほどその可能性が大きくなるのです。
 ですから、土石流発生の可能性を大きくしている放流初期の状況を変更することが、最も重要でまた容易な方法だと考えられます。

 今までの放流方法において、その放流開始時期をどのようにして決定していたのかは全く承知していません。 でも、過去の様々な情報からは、実際の降雨が生じた時間に近接した時期に放流が開始されていると思われます。その開始時期を早くすることが肝要だと考えます。
 例えば、翌日にある程度以上の降雨が予想されるようでしたら、その前日から放流を開始することが出来るでしょう。 但し、その時間当たりの放流水量はごく少ない量のままに維持します。そして、実際の降雨量に応じてその放流水量を増減させます。
 実際の降雨量が多ければその放流量を少しずつ増加させます。その降雨量がそれほどでなければ、放流水量は少ないままにします。 あるいは、降雨量が予想より少なければ放流は中止します。これらの方法は、現在の設備のままであっても充分に可能な方法だと思います。

 どれだけの放流水量が土石流を発生させるのかを、数値的に解明する必要があることは誰でもが思いつくことでしょう。 でも、それを解明するのには極めて長期間の調査研究が必要だと考えられます。しかもそれは、様々に条件が異なるそれぞれのダムに応じたものでなければならないのです。
 貯水式ダムの下流で特別な土石流が発生している事は、今まで誰も指摘していなかったのです。 また、大きさの異なる様々な土砂の流下と水量との関係を明らかにする研究も誰も成し遂げてはいないのです。 いつ明らかになるのか分からない研究を待っているうちに河川の荒廃状況をさらに悪化させてはなりません。 とにかく、それらが解らないままでも河川の荒廃が進行する状況を少しでも押しとどめる必要があると考えます。

 貯水式ダムの放流過程の変更は容易な作業ではないかもしれません。 でも、それを成し遂げなければ、貯水式ダム下流の治水や環境に関わる様々な問題を解決することが出来ません。
 それに、多くのダムでは降雨量と貯水水量に関する多くのデーターが蓄積されているはずです。 それらの資料を応用して、それぞれのダムごとに最適である様々な方法を見出すことは可能なはずです。 それが出来ないようであれば、ダムの管理者あるいは研究者としての価値はありません。

(第三の問題)現在の貯水式ダムの放流は急激に終了しています
(イ)貯水式ダムの放流の中止方法
 これまで説明してきたように、貯水式ダムの放流が治水状況を悪化させているのは、その放流方法がそれらの河川の土砂流下の問題を全く考慮してこなかったからです。 ですから、私は、貯水式ダムの放流方法に土砂の流下問題を反映させるべきであると主張しています。
 第15章に記述したように、現在の貯水式ダムの放流はあまりにも急激に終了しています。 これを改善しない限り、貯水式ダムより下流の治水状況も生物の生息環境も改善されることはありません。
 でも、貯水式ダムの放流の中止方法を考えるのは、困難な課題であると言えます。その基準となるような河川はどこにもありません。 ある程度以上の流下水量がある河川で、その流下水量が突然に無くなってしまうことなど自然状態では有り得ないことです。でも、参考にするべき事象はあると考えられます 。

 流下する河川水の濁りの状況は、水が流れている場所とそれより上流の土砂の流下状況を反映しています。 貯水式ダムより下流に流れる水が濁っているかどうかは、その河川の土砂の流下状況を示す指標であると考えられます。
 その流れに濁りが無いことは、その水量において土砂が流下していないことを表しています。 ですから、貯水式ダムの放流中止は、その流れから濁りが無くなった時点以降にすれば良いことになります。 そうすれば、貯水式ダムの放流が土砂流下状況に悪い影響を与えることは無いはずです。但し、流れのどの場所を基準にするかが重要な問題になります。
 貯水式ダムからの放流地点を基準にしたのでは、それより下流部での土砂流下状況を改善させることはできません。 放流地点より下流にある比較的大きな支流との合流地点をその基準地点に考えるのが良い方法だと考えています。

 河川の上流や中流では、規模の大きな増水があった時でも、その本流よりもその支流のほうが濁りの解消が速いのが普通です。 ですから、その合流地点での判断はそれより下流の土砂流下状況にも反映させることが出来ると考えられるのではないでしょうか。 つまり、貯水式ダムの放流による流下水の濁りが下流で合流する支流の流れよりも透明であれば、貯水式ダムの放流は中止して良いことになると思います。

 濁りの問題が解消すれば直ぐに放流を全く中止して良いのかと言えば、そうではありません。次に考えることは貯水式ダムよりも下流部に生息する生物への影響問題です。
 既に(第一の問題)(第二の問題)で記述したように、貯水式ダムの放流ではその放流水量を少しづつ減少させているはずですから、 その流れから濁りが解消している段階であれば、 その水量も平水と同じか、それよりも少なくなっている事が多いのではないかと考えられます。
 後は、それまでと同様に少しづつ放流水量を減少させていけば良いと思われます。

 河川の流れの土砂流下状況を、水の濁り具合によって判断出来るという考えかたは、森林に恵まれた日本だからこそ可能な方法だと言えるのではないでしょうか。 上流であっても茶色く濁った流れしか見ることができない河川は、世界中には多くある事でしょう。日本が自然に恵まれた国土を持つ国である事を思わざるを得ません。

(ロ)治水を目的としている貯水式ダム
 ここまでの記述で、もしかすると、貯水式ダムの放流水の濁りが無くなってから放流を中止することは不可能であると考える人がいるかもしれません。 でも、そのように考える人は二つの事柄で考え違いをしていると言えます。

 第一、日本では貯水式ダムのほとんどがその目的として治水を挙げているはずです。 貯水式ダムがダムによる治水を目的としている以上、治水状況を悪化させる放流は今直ぐにでも中止しなければならないはずです。
 実際、貯水式ダムの放流方法が間違えているために、ダムより下流の治水状況と環境問題が年を重ねるごとに悪化している事は誰の目にも明らかなのです。 このことは、貯水式ダムに関わる全ての皆様の課題であることは明白です。

 第二、放流方法を改革することの可能性に疑問を抱いているのではないでしょうか。 特に、放流水の濁りの問題はそれぞれの状況によっては困難なことに思えるかもしれません。でも、それは思い違いです。
 現在の上流や中流で行われている様々な河川工事自体が既に多くの間違いをしているのです。 そのことによって河川の上流でも中流でも、本来あるはずの状況以上に土砂が流下しているのです。 それによって、貯水式ダムにもまた、本来あるはず以上に濁った河川水が流入しているのです。 また、上流部の貯水式ダムの間違えた操作方法によって濁った河川水が流れ込む貯水式ダムの例も多くあると考えられます。

 貯水式ダムの放流水の濁りの問題を始めとする様々な治水問題は、それぞれのダムだけが引き起こしている問題ではありません。 ですから、河川の治水問題の全ての責任が貯水式ダムにあるとは考えてはいません。その他の多くの関係省の努力が必要であることは言うまでもありません。
 しかし、貯水式ダムがある河川では、ダムが下流部へと及ぼす影響は、その他の何れの事柄の影響よりも大きいのです。

 貯水式ダムの放流方法の改革は、ただそれぞれのダムの関係者が努力するだけでは実現できない事柄です。 とは言え、それぞれのダムの関係者がその先頭に立って改革を進めないことには、それらが実現されることはあり得ないのではないでしょうか。

(第四の問題)貯水式ダムに付属する取水堰について、それぞれのダムの連携について
(イ)貯水式ダムに付属する取水堰について
 上述(第一の問題)(第二の問題)(第三の問題)では貯水式ダムの放流方法の改善を具体的に提案しました。 ここでは、それに加えて上流の貯水式ダムに付属している取水堰の問題について記述します。
 上述したダムの放流方法の変更は、貯水式ダムに付随して建設されている取水堰にも適用しなければなりません。
 上述の(第一の問題)(ハ)では「水量が多い河川ほど大きな石や岩の大きさが大きく、小さな流れの河川ほど大きな石や岩の大きさが小さいのが普通です。 簡単に言えば、河川にはそれぞれの水量にふさわしい大きさの石や岩があり、またその量もそれぞれの水量にふさわしい量であると考えられます。」 と記述しています。このことが問題なのです。

 私は、石や岩の多い上流中流での土砂の流下に関わる一連の論述において、「大きい石や岩」あるいは 「小さな土砂」などの言葉を頻繁に使用しています。 それらの表現は、いずれもそれぞれの場所での土砂の大きさを表していますが、それぞれの絶対的大きさを表すものではありません。 それらの記述のほとんどの箇所で、それらの表現はそれぞれの場所での土砂の相対的大きさを表わしています。

 石や岩の多い上流や中流で土砂の流下に関わる法則的現象は幾つかありますが、それらは、上流や中流のそれぞれの場所においてほとんど共通しているものです。
 石や岩の多い上流や中流では、それぞれの場所ごとにその水量や水勢が異なっています。 ですから、それによって移動流下する石や岩の大きさもそれぞれの場所ごとに異なります。
 それらの土砂の絶対的な大きさに注目すれば、それぞれの場所で発生している現象はそれぞれに異なっていることになります。 したがって、数多くの現象を個別に理解しなければならないことになります。
 しかし、土砂の絶対的大きさではなく、それぞれの場所での相対的大きさに注目すれば、石や岩の多い上流や中流での土砂の流下の現象は解り易いものになります。 そして、それらの現象がいずれの場所であっても共通している法則によるものである事も明らかになります。

 仮に、様々な現象をそれぞれの場所の土砂の絶対的大きさにのみ基づいて記述したら、それはその河川のその場所のその時の状況に限って説明している事になってしまいます。 つまり、それは普遍性を欠いた記述になってしまいます。
 例えば、石や岩の多い河川の上流や中流に出来る淵の場合を考えると、それらの事は容易に理解できると思います。
 淵は、規模の大きな増水の時にでも移動しない大きな石や岩の場所に出来ますが、上流部に至るほどにその数は多くなります。 逆に、中流に近づくほどその数が少なくなって、河川の曲がり角に限って出来るのが普通になります。 これは、上流に至るほど水量が減少するので規模の大きな増水であっても移動しない石や岩の数が多くなるからです。 幾つもの支流を集める中流では水量が多くなるので、どのような状況でも移動しない屈曲部の岸壁だけが淵を形成するのです。

 つまり、幾つもの支流を集めた水量の多い本流でも水量が少ない支流であっても、発生している現象は同じなのです。 それぞれの場所ごとに水量が異なるので、それぞれの場所ごとに現象を引き起こしている石や岩の大きさが異なっているのに過ぎないのです。 ですから、水量が多い本流の貯水式ダムの放流の場合でも、水量が少ない支流の取水堰の放流でも同じ現象が発生しています。

 上流の貯水式ダムの周囲の支流に設置された取水堰においても、その放流がその河川を荒廃させています。
 実際、私の知る限りにおいて、それら上流部に取水堰が設置された支流の多くは極めて荒廃しています。 貯水式ダムの本体がある本流よりも、取水堰がある支流の方がより荒廃していると言えるかもしれません。それらの中にはもはや渓流とは言えない有様の場所さえ多くあります。
 取水堰の間違えた操作によって大量の土砂をその下流部に流下させるので、幾つもの砂防堰堤が設置されているのは普通のことです。 そのことによってその支流はさらに荒廃の程度を増加させています。
 貯水式ダム本体の機能を確保することが最優先とされているそれらの河川の取水堰の下流側では、魚類を始めとして多くの生物が絶滅していることも珍しくありません。 釣り人さえ訪れることが無くなったそれらの渓流に治水的機能は全く望めません。 それらは工場地帯にある汚水の排出路と同じでしょう。 工業地帯のそれと異なるのは水質が汚れていないことだけです。

 上流の貯水式ダムの近くの支流に設置された取水堰であっても、改善は充分に可能です。それには、前述した幾つかの項目について実行すれば良いのです。

(ロ)それぞれのダムの連携について
 同じ水系に幾つもの貯水式ダムが建設されている例が多くあります。上述した貯水式ダムの改善方法では、それらのダムの連携についても充分に考慮する必要があります。 幾つものダムがある河川では 、特定のダムだけで上述の事柄に対応したとしてもその効果は限られてしまうでしょう。
 ダムに関わる業界は、治水に関わるその他の業界に比べると広報活動や情報共有が盛んである印象があります。 例えば、WEB上に幾つもあるHPの設置運営状況や、ダムカレーの事などもその例ではないでしょうか。 是非とも多くのダム関係者の英知を結集して、より良い治水を全ての河川で実現して下さるように強く願っています。

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