フジTV系 月曜ドラマ

『リップスティック』

〜藍のキモチ〜

教誨師エルピスの訪問日誌

第3話 『私の心を当てて』

[藍の独白]

_あの先生とキスした後、あたしはご機嫌ナナメだった。だけど、翌朝体操してたら、あの教官は笑いかけてきた。あたし、何よって思ってすねた振りしてたけど。まぁ、色々あるから、やり直さないとね。

部屋に真白が面会から帰ってきて、親御さんの事情を聞いたけど、親が離婚して、父親に会いに行ったら再婚しててショック受けた話してた。再婚した父親はひどい奴だったみたいで、母親の代わりに義理の父親を突き落としたらしい。あたし「あたしの親は・・・」って言いかけた時、真白は「いいのよ。あたしを友達と思ってくれた時で・・・」って言うのを止めた。

_あの先生との面接では、あたしは黙りっきりだった。「君が話さなくてもいいよ。時間制限はないからね。」と教官が言った後、バスの中で出会った時の話でブスブス言ってたら段々話す気になった。だけどあの教官が「家庭環境は?」って聞いて来た時、あたしは黙りこくってしまった。

_お昼頃、体育館で腕相撲大会になった。理恵子との勝負に、あの先生が来てたので、いいとこ見せようと思って、理恵子に勝った。真白との勝負の途中で「面会だ、君に」って言われたので行ってみたら、親父が来ていた。

お母さんは心労で倒れたらしい。父は「お前は、私たちに何の恨みがあるんだ。普通の親以上に教育とか・・・ここを出たら、うちにお帰りなさい。」って言ったけど。あたし「あたし、うちには帰らない」って言ったら、親父が逆ギレしてあたしにつかみかかった。だけど、あたしは帰りたくないの。あんな家には・・・。夜、見回りが来て、あの教官かな?って思って窓を向いたら、違う先生だった。

_あの先生は、家庭事情について知りたいみたいだけど、「すぐには話したくない。信じてないから・・・じゃぁ、今あたしが一番したいことを当てて。」なかなか先生は当ててくれなかった。なんかわかってないなぁ。

部屋の中で、真白は母親には「あたしは必要ないんだよ」って泣き出し、理恵子は「みんなそうなんだよ。ここにいる奴らは・・・」って言ってたけど、あたしもそうなんだなぁ・・・って思ってた。

夜見回りに来た先生は、「まだわからないよ。一回しか言えないんだから。」って言ったけど、所長に注意されたことを話してて「ボタンつけてくれないか・・・」って言って、取れたボタンを取り出した。「まぁね、当たり。おまけしとくけど」って言ったけど、ホントは先生のボタンをつけたかったんだけどね。

_翌日、先生のボタンを付けた。先生が上着を着てきちんとボタンを締めた時、あたしはちょっとうれしかった。

[訪問日誌]

_今回で3回目の訪問になる。しかし、彼ら(彼女たち)は、「心の内面」はなかなか見せない。さらには、その背景となる家庭事情については、さらに言いたがらない。誰にも「言うに言えない事情」あるからねぇ。

真白さんは、時々お母さんが来るみたいで、親御さん思いみたいですね。だけど、義父が大酒呑みで母親に乱暴を働いたりして、いたたまれなくなって階段から義父を突き落としたようだ。「母親を一人にしておけない・・・うちに帰ったらやり直したい」っていう思いを持っているから、大丈夫だろうと思う。

_どうも、安奈さんが自殺した要因は、母親の自殺が背景にあるらしく、それが原因となって・・・彼に盲従して、援助交際をしていたらしい。彼の方は「自分は、彼女がブタみたいなオヤジも抱かれているのを見て、彼女を愛せるかどうか試してみたかったんです。」ってなこと言ってたけど、何となく屈折した「愛情表現」ような気がしてならない。どうも彼には普通の恋愛経験はないんだろうなぁ。

どうも、安奈さんには手を一度も触れてないみたい・・・って誰か言ってた見たいで、そのせいである教官は、彼に「お前らは公僕なんだよ・・・権利なんかねぇんだよ。」って罵倒されて乱暴されたらしい。彼の家庭環境は、話してくれないけど、どうもかなり知的レベル・経済的レベルは高いけど、何も倫理的レベルでは大きな問題があるのだろうなぁ。

_だけど、真白さんの期待を裏切って、お母さんはお父さんとは離婚しないみたい。彼女は「お母さんは分かってないっ!」って言い続けていたけど、両親の離婚は立場上勧められないが、彼女が息苦しい思いを続けていかなくてはならないのは、私としては何とも言えない。

(私も離婚に立ち会わされた経験があるが、「よい離婚」はこの世にはありえない。だけど「悪い結婚」が結果として「離婚」をした方がいい状況になるとは思うね。)

彼女にとって幸せな家庭とは、義父のいない「母親と水入らず」なんだろうね。彼女は母親を守りたい・・・だけど、母親は「女性はベターハーフとしての男性を求める」という女性のさがで、離婚後寂しい思いをしていたらしい。その後知り合ったのが、義父で、たとえ、働かずお金をせびるだけで、暴力を振るったりしてても、母親にとっては「寄り添っていたい存在」なんだろうなぁ。

_藍さんは、相変わらず肝心なことは話してくれないが、シュウが有明教官に連れられて、我が家に訪問してきたことを話したら、びっくりしてた。どうもその後、有明さんに「シュウのお友達として、色々話てあげる・・・。」って言ったのは、後らしいけどね。

父親が面接に来たみたいで、父親は何か政治家・警察ルート使って、事件の示談を成立させるようなこと言ってたみたい。結構いい家庭で育っているように思うが、何となく人脈とか金銭とかでカタつけるような感じの父親で、そこら辺が彼女を家から出て行かせる要因になったような気がする。

_今回の訪問は、少年たちの「家庭事情の背景」について考えさせられた。今、「普通の家庭で育った子供たち」が、社会を驚かす事件を起こしていたりする。その生育の背景には「本当に欠かせないもの」を見失っていないだろうか・・・?そんなことを思いながら、鑑別所訪問から帰ってきた。


第4話『窓ごしに告げた愛』

[藍の独白]

_朝から色々な先生に調査室で調べられたけど、あたし言いたくないから、黙ってた。「黙ってちゃ何もわからないわ。素直に話しなさい」なんて言われるけど、あの先生でなきゃ嫌なんだ。後であの先生がやってきた。口の脇にパン屑つけてさ・・・。

_先生が家庭状況について聞かれたから、あたしは先生の家庭について聞いた。どうも亡くなったお兄さんは、絵の才能とか運動神経とか凄かったみたいね。弟の先生は、いつも劣等感に悩まされてただろうなぁ・・・。

「お兄さんが亡くなって・・・うれしかったでしょう・・・あたしに聞くんだから、おあいこじゃなきゃ嫌だ。」先生はただ、「なんでおあいこじゃなくちゃならないんだ。僕は教官だよ」って言ったけど、あたし、それ嫌なんだけどね。

_いつも、ぽっぽは部屋でお菓子を食べていた。何も話さないし、よく手を洗ってた。何も話さないし、理恵子とかがよく八つ当たりするけど、どうもよくわかんないやつだなぁ・・・。夜、真白に聞いたけどねぇ・・・。「言いたくないことだから・・・」と言ってた。

_調査官と、あの先生が話してる内容聞いて、ちょっと焼き餅焼きたくなったけど、「あたしは同じ?一山いくらのバナナ? 」って聞いたけど、先生は教官としての役目言って「君は僕の苦しませて、何が楽しいんだ!」と怒った。あたし「傷を届かないところは、なめてもらうしかないじゃない!・・・ただ、先に傷を見せて欲しいだけなの。」って叫んだ。だけど先生は「悪いが、僕の傷は癒えている」と、返事した。そんなの嘘だよぉ!あたし、先生はわかってくれると思ってたの。あたしの傷を癒してくれる人かな・・・?と期待してた。とってもがっかりしたけどね。夕食で理恵子は、「振られたの・・・あの先生に?」ってからかうものだから、ついキレて暴れてしまった。すぐ教官たちに押さえられ、ひどく怒られた。

_理恵子が「腹減った〜っ」ってぼやいてばかりいたら、ぽっぽは、みんなにキャラメルを配ってくれた。何か今まで話もしないし、何のコミュニケーションを取ろうしなかったのに、私たちにキャラメルをくれるなんて・・・。ぽっぽが少しづつ自分のことを表現しようとしてるのかなぁ・・・?

_夜、あの先生がやってきて、兄さんがの死んだ時の話をして「僕は泣かなかった・・・内心はほっとしてたんだよ。・・・うれしかったんだ。」って言った。先生はこのことを、あたしに初めて話したみたいで、「これ話すことはないだろうね・・・永遠に・・・」と言ってた。「もし、先生がいいって言うならば、ここにいる一ヶ月だけ・・・その後は、しゃぼん玉みたいに消えて忘れるから・・・好きでいていい?」って聞いたら、うなずいてくれた。網を挟んで手を合わせた時、あたしはうれしかった。

[訪問日誌]

_小鳩さんは会社経営をしている父親の家庭で育ち、中学生で登校拒否をしていて、家出したそうだ。そして、担任の先生に見つかった時、担任の手にナイフを刺したそうだ。そういうことをしてしまった背景については、何も話してくれない。なんか聞いた話では、ことあるごとに手を洗うという習癖を持っているそうだ。よくわからないが、臨床心理学の例によると、「ある種の完全主義が行き詰まった時、手を繰り返し洗い続けたり、トイレに繰り返し行く」といった症状が出るそうだ。彼女の場合には、自分で言葉では表現できない「よほどの強迫観念を持っている」としか思えないけどねぇ。

ご両親の方は、小鳩さんに「学校を無理に行かせようとしたのが悪かった」なんて色々話しているみたいだけど、これは本質的な解決にはならないよ。どちらかというと、うまく学校へ行って対応できない「人間関係の持ち方、自己の意志を表現する力」をちゃんと育ててない家庭に問題があるように思うんだけどね。私?どうかなぁ・・・。人の出入りが多くて、何かにつけて近所の人たちから色々言われやすい家庭だったから、「うまく立ち回る能力」はしっかり身についたな。だけど、「ホントの気持ち」は人には誰にも見せてないなぁ。(多くの人はそういった面はあると思うけどね)

_新任の葛西さんが彼女の担当みたいだが、これはどうも有明さんが彼に・・・ということで、担当になったらしい。「昔は悪だったんだぜ」と彼は言う。どうも職場での話では、彼は昔ヤクザも避けて通るくらいにケンカが強くて、敵もいなかったそうだけどねぇ。どうも違うような気がするがなぁ。その割には繊細な印象あるんだけどねぇ。ホントにそうだったら、大きなハンマーで叩くような「脅して聞き出す形」では、彼女の心の扉を開くことはできないと思う。だけど、彼女は少しづつ意志表示ができる方向へ行きつつあるようだ。有明さんは「どうやって心を開いたの?」って聞いたみたいだけど、葛西さんは「企業秘密です!」って言ってたそうだ。彼にも、誰でもには言えない心の内側を彼女に見せたのかなぁ・・・?

_私は、ミッションスクールのチャプレンとして働いていた頃、何度か登校拒否の生徒と接したことがある。色々と話を聞いてみると、両親などの「周囲の人たち」が本人に色々な期待をかけすぎて、自分の気持ちを表現できなくなって潰れてしまう形で登校拒否に陥ったパターンが多いようだ。(実話?)今日<5/3>、鑑別所訪問の前に、あるスーパーへ買い物へ行った。別にそこでいつも買い物をしてるわけではない。かつてカウンセリングした生徒が、そこで働いているので行ったのだ。彼女はレジを打っていて、そこへ品物を持ち込むと、「あ・・・先生、お元気ですか?」と話かけてきて、「いや、ちょっと用事のついでに寄ったんだ。元気そうで良かった」って返事した。代金を支払った後「先生もお元気で・・・」と言ってくれた。彼女は母親を早く失い、独りっ子で家族の期待を一身に背負ってしまい、繊細な神経をすり減らし潰れてしまって不登校になった。その時に私が担当することになり、折りを見て彼女の話を聞き、話をしたりした。どこまで効果があったかはわからないが、彼女はちゃんと卒業し、在学時よりも元気な姿で働いていた。帰りにもう彼女は22歳の大人であり、私はその分だけオジサンになってしまったことを思わされた。

_今回の訪問は、不登校(ドラマ中では「登校拒否」だが、新聞や教育界では「不登校」と表現し、文部省も公文書で使うようになった)について、小鳩さんを通して考えさせられた。今の時代は、余りにもエゴがぶつかり合い過ぎて、心が繊細過ぎる人にとっては、生きていくことは難しい時代なのではないかなぁ・・・と思わされながら、鑑別所を後にした。


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