フジTV系 月曜ドラマ

『リップスティック』

〜藍のキモチ〜

教誨師エルピスの訪問日誌

第1話 『名もなき恋人へ』

[藍の独白]

_ある日、あたしはCDショップで、ラックが倒れて来て転んでしまった。あたしはキレちゃって、男と女を蹴り飛ばして逃げた。逃げてバスに飛び乗った時、スケッチブックを落とした人がいて隣に乗ってきた。(まさか、後で鑑別所で会うとは思わなかったけど。)

警察に捕まり、あたしは鑑別所に入れられた。服も全部取られ、番号札持たされて写真を撮られた。「反抗的な態度を取ると裁判で不利になりますよ」ってさ。ちょっとしたスキを突いて脱走しようと走った。やっと正門から出られそうになった時、門が閉じられ、誰かに取り押さえられた。あたしを取り押さえた人って、どっかで見たことがあるなぁ・・・。

_夕方、教官があたしを部屋に入れた。4人いたけど、話し掛けられてもあたし上の空だったなぁ。夜、窓を開けて鉄格子を揺らしてみたけど全然動かない。ここから外には出られないってことわかった。夜中、安奈が手首から血を出してみんながバタバタしてるドサクサに、逃げようかと思ったけど、あの教官にニラまれて動けなかった。

教官にいつ出られるか聞いたら、かなり先になるってことがわかった。それじゃシュウが誰も世話する人がいないのに・・・。教官につかみかかって「あたしが行かないとシュウが死んじゃう・・・シュウのとこに行ってあげて・・・。」って言ったけど・・・。

_女の弁護士がやってきて、傷害事件について色々話聞いて、両親が暖かく迎えてくれるって言ってたけど、あたしの両親なんて暖かく迎えてくれるわけないって・・・。あったまに来たから、弁護士の髪をライターで焼いて、手を縛られて独房へ入れられた。

_夜、あの先生がやってきた。「食事も取ってないね。シュウは一杯食べたぞ。」って言った。先生がジャンパーを開けたら、シュウが出てきた。先生は、一生懸命やってたら、裁判でいい判決が出る。そしたら、シュウと暮らせるよ。って言ってくれた。あたしにとって一番心配だったシュウが大丈夫だってことがわかったから、シュウともう一度暮らせるように、がんばってみる気がしてきた。あの先生の名前聞こうとしたけど、「規則だから」って答えてくれなかったけど・・・。

[訪問日誌]

_今日、木村神父の後任として、鑑別所に初めて訪問した。これは大変なことになったと感じた。鑑別所の所長にあいさつして、初めてやってきたので、法務教官の方々に色々と聞いてみたが、これは一筋縄ではいかないことがよくわかった。(まず野島法務主任が「クセモノ」だってのは、よくわかったけど。)

_まぁ、色々な非行歴があるものだな。暴行とか窃盗とか色々あるが、「援助交際」という言葉を聞いて、思わず「何ですか、それ?」って聞いたのは、法務教官の方に失笑されてしまったなぁ。売春のことと後でわかったが、かつてなら家計が苦しくてとか、悪い奴に捕まって売り飛ばされたというのは昔の話として聞いたことがあるが、今では「遊ぶ金欲しさ」とか「彼氏に貢ぐため」とかなのだそうだ。今ここの鑑別所にいる安奈さんってのは、彼も同じ鑑別所にいるみたいだけど、彼に貢ぐためにやってたそうだ。うーん、どんなものかねぇ。

_犯罪を犯してしまった少年は「炭坑のカナリア」と同じで、現代社会のさまざまな病理を敏感に感じ取るだけじゃなくて、それに汚染されてしまって、価値観が混乱したり、罪に対する感覚が麻痺してしまって、色々な罪を犯してしまうんだろうねぇ。まぁ、私のここでの仕事は「自分犯した罪を自覚させ、二度と罪を犯さないように反省させる」ことだからねぇ。これは「人の犯してきた罪に対して、悔い改めを迫り、傷ついた心を介抱する」牧師の仕事と一緒だけど、重い犯罪を犯した彼らの良心を呼び起こして、反省を迫るのは、骨が折れそうな感じだな。

_今度、入ってきたという早川 藍ってのは、CDショップで暴行を働いて二人の人に重傷を負わせたそうだけど、彼女は食事も全く取らない、何かにつけ反抗して脱走を試みようとする「手に負えない子」なんだそうだ。私も話を聞いてみようと思ったが、全然話をしてくれない。ただ、窓の外に何か気になるものがあるみたいで、上の空だったからなぁ。この子が自分の罪が重くなっても気になることって何だろうなぁ・・・。

数日後、私のところに鑑別所の有明教官が小さいネコ連れてきた。あの子が自分の状況を見失ってまで「気にしてた存在」が、このシュウってネコだということで、このネコを彼女が社会に出られるまで預かってもらえないかってことなのだそうで・・・。「あのぉ、私のところは人をかくまうことはあるんですが、ネコは初めてですねぇ・・・」って言いながら、とりあえず預かることにした。

実は、私ネコが苦手なんだけど、いつまでもつかなぁ??(と、ぼやいたら、有明さん連れてかえっちゃった)


第2話『第2ボタンの純情』

[藍の独白]

_鑑別所の朝はラジオ体操から始まるんだけど、眠いといったらありゃしない。調査官が来た時「ごめんなさい・・・早く帰りたくて」と言いたくないけど謝った。あの先生の顔を見上げた時、教官は「いいよ、その調子だ」と言ってるように見えた。

_実は私、友達にアルバイトしたお金を盗まれたみたいで、彼氏と買い物してた姿を見たら、友達は逃げようとしてたので、あたしキレちゃったの。「友達だと思ってたのに許せかなった」調査の後、先生が落としたボタンを拾った。

_部屋に戻って、あたしは部屋の人たちに初めて自分の名前を言った。相変わらず一緒には話しない状態だけど、あたしは十分ご機嫌だった。

_あの先生と、アンケート調査で話をしたけど、色々な内容の質問をしたけど、キスなんてしたことないし、性交渉は片手を広げただけで、「5人?」って聞くから、ふざけて泣いた振りしてら、先生はあわててた。あれは楽しかったなぁ。

_シャワー浴びた後、何か変だなって思ってたら、理恵子が誰かにリンチを食らってかなり痛そうだった。なんか昔の仲間が入ってきて、仕返しを食らったらしい。夜痛がってたので、水で冷やしたタオルを背中に当ててやったら、理恵子は、自分が警察に捕まって取り調べを受けた時、仲間をチクッたこと、それであいつらが仕返しをしてることを泣きながら言ってた。だけど、あたしだと気づいた時、急に彼のことになって、「男は顔じゃねぇんだ」って、強気になってたのは、おかしかったけどね。

_翌日の朝食の時、かつての仲間たちが理恵子の彼をリンチして、理恵子と縁を切ったこと、彼への手紙を見て笑ったことで理恵子はキレて暴れた。「うそだ、うそだ・・・」って言う姿を見ながら、あたしも暴れたくなったけど、あのボタン握って我慢してた、先生と約束したから・・・。

_夜、見回りをしたあの先生に会った。制服のボタンがちゃんとついてたから聞いてみたら、死んだ兄の婚約者につけてもらったみたい。先生、お兄さんの彼女とキスしたりセックスしてたりしたみたいで・・・。あたしいやになって、翌日の運動のハンドボールで、理恵子を殴った連中をぶっ飛ばしてやった。

後で調査室へ呼ばれて、あの先生に運動の時間のことを注意されたけど、「なにがいい子だよ、子ども扱いして。あんたも一緒だよ。あたしを一人にする・・・。キスの経験はありますか?」って、あの先生の唇奪って、ボタンを投げつけてやったよ。(ホントは、先生の背後に女性の影が見えたのが、悲しかったせいもあったんだけど。)

[訪問日誌]

_前回は「初めての訪問」だったので、緊張してしまったが、今回はもうちょっと落ち着いて色々な様子を見てみようと思って、鑑別所を訪問することにした。

_安奈さんは、病院から帰ってきたけど、聞いてみると、お金のために自分の体を売ってたみたいでね。葛西教官には自分の経験から「人生にはいっぱい楽しいことがあるんだよ」って言われたみたいだけど、斜に構えて聞き流していたみたいだね。本人には、大きな罪を背負った汚れた女だという自己イメージが定着して、もう普通に生きていくことはできないと、思い込んでいる節も見える感じであった。

「汝、姦淫するなかれ」と言っても、今時には通用しないだろうが、不適切な性関係を結ぶことは、本人にとっては後で大きな良心の呵責に悩まされるだろうし、こういったことで人生をフイにした人はいくらでもいるんだよと、話をした。(いつか、いましたねぇ、政治的に危なくなった米大統領とか、芸者遊びが原因で選挙に負けて辞職した首相とかね。)

今は「常識になっている不倫(失楽園?)」ってのは、家庭とか周囲に大きな悪い影響を与えるものだよ・・・とは言っておいた。だけど、彼女は援助交際をさせた「彼」を愛しているということなんだとか。人の愛情とは、ここまで自分を堕落させても続けさせるものなのかなぁ?

その「彼らしき男の子」にも会ってみたが、運動神経はかなりいいし、私が話す言葉も「それって、○○から引用してるんでしょ?」って切り返してくるから、かなり頭は切れると思う。しかし、「頭のよい人=いい人」とであるとは限らない・・・という印象を持ってしまった。(どちらかというと、私みたいな教誨師よりは、エクソシスト用意した方が、彼のためにはいいのでは?と、思うほど、何か不気味さを感じてしまった。)

現代の教育は、色々な問題を持っているが、「最も問題となることは、倫理観の欠如した人間を結果的に生み出している」教育体制ということではないかなぁ・・・と感じさせられた。幕末から明治にかけてのイギリスの外交官・アーネスト=サトウは、日本人を評して「離婚とかの倫理的な問題に関わることなどはオープンで、非常に世俗的な民族性を持っている」と言っていたが、特に現代日本人には、「普遍的な真理・倫理」というと、嘲笑される傾向にある。こういう風潮のままで、この国は大丈夫なんだろうか・・・?

_顔にアザ、胸を痛めて押さるようにやってきた理恵子さんに面接してみたら、何でも麻薬関係の罪で捕まった時、仲間の名前をばらし、彼女たちに鑑別所で逆襲リンチ食らい、彼女たちのリンチで、信じていた彼が「理恵子とは何の関係もない。どうでもいい女だ」って言ったことにショックを受けて、落ち込んでいた。人は希望を失えば、余りにもろい存在だ。私は彼女に「忍耐は希望を生み出す。希望は決して失望には終わらない」と言って、慰めることが精いっぱいだった。

_今回の訪問は、色々な意味で、心の問題について考えさせられた。葛西教官も情熱を持って仕事をしていく中で、色々と悩んでいるみたいだけど、私も色々と考えながら、鑑別所を後にした。


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