8th |
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【 sponge 】 |
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月・水・金の週3日、夜2時間で 月 5,000円。しかも3人。破格の値段だ。家庭教師のバイト料の話。 |
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中学の終わりだったか高校の初めだったかハッキリと覚えていないが、小学生の子供達の勉強を |
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見てやってくれないかという話を母が持ってきた。それを私が引き受けたのだ。 |
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さて、行ってみると小5と小3の男の子と保育園に通う女の子が待っていた。しばらく見ているうちに、 |
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どうやら弟は九九が、兄は分数の計算が怪しいのが分かった。だが、それよりも問題だったのは |
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勉強への意欲が見られなかったこと。宿題をする間、じっと座っていることさえできないのだ。 |
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そこで、アメとムチ作戦。宿題が終わった後、遊ぶことにした。宿題が終わらない子は仲間ハズレ。 |
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宿題は出来ても理解していないことがあるので、時々自作の問題を出す。答えられるまで続ける。 |
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遊びが仕事の男の子2人は、必死で知恵を絞る。我ながら良いアイデアだった。効果はバツグン。 |
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早く遊びたいため、私が来る前に宿題を終わらせていた事もあった。そのうち、早々と勉強時間を |
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終えて皆で遊ぶ時間が増えた。カテキョなんだか、ベビー・・・いや、チルドレン・シッターなんだか。 |
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ある日、兄妹の母親が、女の子に字を教えてくれと言い出した。次の春、3人揃って小学生なのだ。 |
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しかし、「あいうえお」の5文字を覚えるだけでも時間がかかった。何度も書いて、書かせて、読んで、 |
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読ませても覚えられない。ただ、兄たちが宿題をする姿につられて、せっせと文字を書き続けていた。 |
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それからしばらく経って私は驚いた。突然、今までとは全く違う速度で彼女は字を覚えていくのだ。 |
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濁音(゛)、半濁音(゜)、拗音(ゃ)、促音(っ)、長音(ー)も一瞬でマスター。さらに、カタカナと数字も |
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一緒に覚えるというオマケ付き。絵日記を書ける文章力も身に付き始めていた。 |
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「スポンジが水を吸うように」という表現があるが、まさにその通りだったと思う。これから先ずっと |
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使うであろう文字を、彼女が自分でモノにした瞬間に立ち会えたことが嬉しかった。兄達も触発され |
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成績が上がった。しかし私は何より、皆が色々な事に興味を持ってくれたことに感激していた。 |
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いつだったか、3人は引っ越して行った。「お母さんが結婚するんだ」と、1番上の子が言っていた。 |
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そっか。もう、夜も寂しくないね。よかったね。みんな元気でね。あんまりケンカしちゃダメだよ――。 |
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忙しくて楽しかった私の家庭教師生活は、こうして突然終わりを迎えた。 |
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6 Apr 2001 |
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