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9.さらば広州の街

満腹のおなかを抱えて部屋に戻って部屋を眺めるとあらためて豪華な部屋であることを実感する。思い返すと食堂で働いていたお姉さんも結構かわいらしいお姉さんがそろっていた。この様な高級なホテルに泊まることはこの先あまり無いであろうと思い、この感触を体に覚え込ませるべくベットに今ひとたび潜り込んでじたばたと動き回る。同行の同僚達はこの様な私の行動を冷ややかに眺めながら荷造りをしている。何とも名残惜しいがひとあたり豪華な部屋に別れを告げた後にホテルのフロントへ向かった。フロント前に立って「Check!」と言う。昨日のうちにお金は払ってあるがルームサービスのジュースを何本か飲んだのでそのお金を払わなければいけない。財布から小銭を取り出して待っていると、どうも返金して貰えるらしい。結局宿泊代は540元で1000元を取られたのは身元の保証のためらしい。前回宿泊したときはこの様な保証金を徴収されなかったから察するに我々はうさん臭い連中だったのだろう。さて、お金を返してもらう段になって、「“れんみん”と“ドル”のどっちがほしい?」と聞かれた。しかし“れんみん”か“ドル”と言われても何のことだかわからない。しばらく困った顔をしていると、まあいいかと言う顔をしてお釣りを人民元でくれた。後でわかったのだが“れんみん”とは人民元(中華人民共和国の紙幣)のこと“ドル”とは香港ドルのことであった。昨日の支払いの時、香港ドルで支払ったのでどちらの紙幣でお釣りがほしいのかと聞かれたのだった。この時人民元でお釣りを貰ったのは大失敗で、香港に戻って人民元を香港ドルに換金しようとすると人民元18元が香港ドルの10ドルになってしまう。広州では1元も1香港ドルも同じように通用するので何も考えていなかったのだ。それにしても2種類のお札が通用するとは不思議な国である。玄関を出て客待ちをしていたタクシーに乗り込みいつものごとく行き先を書いた紙を見せる。タクシーの運ちゃんは何も言わずにタクシーを出発させた。広州の街には信号は少ないが、高架道路が多く走っている。また大きな交差点は立体交差になっているところが多い。ところによっては3階建ての立体交差になっていたり、ロータリーになっていたりと大きな構造物が多い。雰囲気で言えば大阪の阪急中津駅付近(戦前からあった高架道路がある)の雰囲気である。またそこをトロリーバスが走っていたりするからとても懐古的である。もう少しこの懐古的な雰囲気の街を味わっていたかったがタクシーはどんどんと広州東駅へと向かって行く。広州東に近づくにつれて街の雰囲気は近代的になってくる。広州東駅のあたりは広州の新しい経済の中心として発展著しい地域である。ほんの数年前までは田圃が広がる農村地帯だったらしいが街並みにそんな面影は全くなく経済開放の勢いを感じさせられる。また広州の街では現在地下鉄を建設中であちこちで地面を掘り返している。建設されているのは広州東から街の中央を通って広州の街の西南に位置する平洲(ピンジュー)に至る路線と広州の街の北に位置する飛行場から、街の中央を通って街の東南に位置する赤崗(チィガン)に至る路線の2つの路線が建設中である。2つの路線は丁度我々の宿泊した広東賓館すぐ近くで交差しているので、完成すれば広州東や空港と先のホテルは地下鉄一本で結ばれることになるはずだ。近代的な街並みをしばらく走るとしばらくして広州東の駅の建物が見えてきた。さて広州東駅に着いてお金を払うと運転手はごそごそとお釣りを探している。お釣りがいらないと言うのを待っているのかもしれないがまあいいかと思い「めいよちぇん(お釣りはいいよ)」と言うと、にこっと笑顔になって「しぇしぇ(ありがとう)」と言った。運転手の初めて見せた愛想笑いである。

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