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10.広州東駅

駅についてみると時間は列車の発車時刻のほぼ2時間前である。広州東駅から香港の九龍駅までの直通列車は途中では乗降扱いは行わない。そのため出国入国の手続きは広州東駅及び九龍駅で行われる。出国に手間取って列車に乗り遅れると困るので早速出国手続きを行うことにして出国カウンターを探すことにした。広州東駅は3階建て(多分・・・・)の建物で1階にはホームからの出口と深セン行きの列車の切符売り場、2階には香港行き及び深セン以外の方面行き(といっても中国国内列車は広州駅発着なので行き先はそれほど多くはない)の切符売り場と国内列車の待合室と改札、そして3階に出国カウンターと出国カウンターの内側に香港行きの列車の待合室と改札がある。2階から3階への階段の入り口に「九龍行き乗り場」という看板がありそこに公安の人と見られる人たちが3〜4人たむろしている。そこから3階に登ろうとするとその公安の人に止められた。「うぉ〜しあんぐちーだおちゅうるぅおん(我々は九龍へ行くつもりだ)」と言いながら切符を見せると、手をぱたぱたさせながら「ぶ〜か〜い〜(だめだ)」と言われるではないか。しかたがないので付近を探し回って他に登り口が無いかを探したが、その登り口以外には乗車口は見あたらない。にわかに出国があばゆくなってきた。同行の二人は「こいつは本当にあてにならない奴だ」という顔をしている。しかたが無いので先の階段の入り口に行ってもう一度、「うぉ〜しあんぐちーだおちゅうるぅおん。ずおしぇんも(我々は九龍へ行くつもりだ。どうすりゃいい)」と話すと腕時計を指さしながら何かを説明してくれている。何を言っているのか聞き取れなかったがゼスチャーから察するに、まだ時間が来ていないので階段を上がってはいけないということらしい。一応時間を確認したかったが「何時から?」と言うのをどう発音すれば良いかを忘れたので、紙に書いて見せた。するとその紙に時間を書いて返してくれた。中国では筆談はかなり有効な手段である。返してくれた紙をみると、その時間までまだ1時間弱あったので「しぇしぇ」とお礼を言ってその場を離れた。時間までじっとしていても仕方がないので駅の中を探検する事にした。この駅からは深セン行きと香港行きの列車の他には1日1〜2本の列車しか走っておらず、またこの駅から発車する深セン行きの列車もほとんどは広州駅が始発駅のなので駅の中は中国の大都市の鉄道駅とは思えないほど閑散としている。それでも設備は立派で国内列車の待合室は近代的でその上かなり広い。土産物屋兼売店もあって、広州名物の白檀の彫り物などを置いてあるがいかんせん人が少ないので店員さんも暇そうにしている。ちょうど閑散とした乗降客の少ない新幹線の駅の様な雰囲気である。散策するうちに時間になったので先ほどの階段の登り口に行く。今度は難なく通り抜けることが出来た。さっき教えてくれた公安の人もまだいて、こちらが先の時間を教えてもらったお礼の意味をこめてにこっと微笑むと向こうもこちらの顔を覚えていたらしく「さいちぇん(さようなら)」と言いながら微笑み返してくれた。3階に上がると目の前に出国カウンターが並んでいる。出国カウンターの造りは空港のカウンターとよく似ているのでまるで飛行機に乗るような雰囲気である。そのフロアの傍らに置いてある出国の申告用紙を1枚取って記入し出国カウンターにパスポートを提出すると出国手続きは終わってしまった。出国カウンターを越えると税関があるがノーチェックで通過、そしてその先に待合室が設けられている。待合室にはいるとホームへの階段にガラスのドアがあり鍵がかけられている。時間が来るとここで改札を行うらしく、その上には我々の乗る列車の名前が電光表示されていた。そして傍らにはTaxFree(免税)と書かれた免税店があった。香港では普通、TaxFree(免税)だから別にここで買ったところで特に得するようには思えないのだが売らんが為のおまじないだろうか。この売店でオレンジジュースを買って飲んだがよく冷えていない上にとても甘く半分しか飲めなかった。またトイレに行こうとトイレ(中国語で書いてあった)と書かれた扉をくぐるとはそこには階段があった。そしてその階段を3階分降りたところ(つまり地平)にトイレはあった。また各階段の踊り場には公安の見張りが立っていて、この場所が国境として扱われていることを感じさせられる。しかし、この階段といい見張りといい、せっぱ詰まってトイレに駆け込んだりするとかなりシュールな目に遭うかもしれない。待合室でうろうろしているうちに改札が開始される時間がやってきた。改札は発車の10分前くらいから行われる。改札が始まったことを知った待合室の乗客はぞろぞろと改札口の前に集まってきた。乗客にはアングロサクソン系の人もかなり見かける。香港から広州に観光に来ているイギリス人だろうか。そして台湾の旅行会社の札をつけたカバンをたくさん見かけるので、台湾からの観光客も多いらしい。中華人民共和国は中華民国(台湾)の存在は認めていないが中華民国のパスポートは通用する。「一国二制度」の考え方といい融通の利きやすいお国柄のようだ。改札を通ると通路はすぐ左に折れてホームへの階段へと続く。ホームに降りてみると各車両の入り口にその車両の号車番号を書いた札がにゅっと突きだしていて、各車両の入り口で服務員さんが出迎えてくれているのは中国の国内列車と同じであるが、その服務員さんの後ろに公安の人が見張りとして立っているのはさすがに国際列車である。入り口の服務員さんに切符を見せると切符の端っこを少しもぎって返してくれた。列車は白い車体に窓まわりが青色、そして腰のあたりに赤い線が入っている。深センから広州に来るときに乗った列車とは違い平屋建て、すなわち普通の車両である。扉は先の中国国内列車と同じく手動ドアで、乗務員の人が鍵を持っていて停車する毎に鍵を開け閉めしてくれる。深センから広州への列車では座席は向かい合わせのボックスシートだったが(といっても軟座なので座席の造りは豪華だった)この車両はリクライニングシートが装備されている。自分の座席を確認した後にあたりを見回すと別のホームに列車が入線して来るのが見えた。中国の鉄道の標準的なスタイルである緑色の車両で座席車しか連結されていない。多分ローカル列車であろう。中国のローカル列車はかつての日本でもそうであったように、とんでもなく長い距離を時間をかけてひたひたと走る。かつて山陰本線の大阪発出雲市(島根県)行き普通列車に端から端まで乗車した事があるが、その列車を見ているとそのときの列車の雰囲気が連想され懐かしい感じを受けた。中国はノスタルジックな国である。

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