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2.いざ中国へ

 次の日は朝から銀行探しである。日本円を香港ドルに換金するためだ。中国国内の深センや広州では香港ドルが通用する。中国国内で日本円を人民元に換金する自信がなかったのでこのような事態となった。探し回った末に九龍駅付近でやっと銀行を見つけ、香港ドルを入手した。どうも香港では全てのことがうまくいかない傾向にあるようだ。お金を入手した我々は羅湖への玄関口九龍駅へと向かった。さてここで香港と広州を結ぶ九広鉄路について説明しよう。この鉄道はこの名のとおり香港の九龍駅と広州を結ぶ全長約200kmの鉄道である。昔は九龍発ロンドン行きなんて列車が走っていたらしいが現在の香港からの直通車は広州までの列車と広州の少し西の沸山までの列車のみである。途中羅湖駅と深セン駅の間に国境がある。この2駅は15m程の川をはさんで向い合わせにあり、香港からの乗客が列車を乗り継いで中国に行くには羅湖の駅で降りて歩いて川を渡ることになる。さて、その九広鉄路の始発駅−九龍駅は3階建てでホームは1階にあり3面島式ホームである、このうち広州方面に向かって右側が広州行き専用ホームで改札口が他のホームとは別になっている。2階は、国内列車の改札口で入り口は全部自動改札である。3階は国際列車の改札で入出国審査等の設備も備えている。国際列車の改札は国内列車の改札が日本の私鉄ターミナルを連想させるようなかなり近代的な造りなのに対して随分前時代的な造りである。我々は乗り継いで広州に向かうので、まず国内線で羅湖に行くことになる。切符を買ってホームに降りると広州行きのホームが見える。物々しく金網で囲まれている。我々の乗る羅湖行きの電車に目を移すと、ステンレスで出来たヨーロッパ調の電車で外観はなかなかきれいである。編成の長さは12両程度でそのうち1両が1等車(値段が倍)である。1等車に乗ってみようかとも思ったが車両を見るとそんなに上等そうでなかったのでやめた。普通車の座席は近郊型の配置だがプラスチック製で長く座っているとお尻が痛くなりそうである。まぁ終点の羅湖まで乗っても40分そこそこだから大したことはない。乗り込むとすぐに電車は発車した。国境の羅湖まではかなり頻繁に列車が走っている。日本の近郊電車のイメージである。香港の中心街を十数分走ると電車は右手に海岸を見ながら海岸沿いを走る。車窓からはソテツなど南国らしい木々が青々と茂っている。ちなみに香港の緯度は沖縄とほぼ同じであるか冬といえどとても温かい。そこからしばらく走ると列車は海岸線をはなれ新興住宅地然とした中を走り、またしばらくすると農村地帯を走るようになる。ここで進行方向に目を向けると、にょきにょきと高層ビルが建っているのが見える。中国深センの街である。手前の農村地帯と対照的で、どちらが香港?といった印象を受ける。そのような景色もつかの間、列車は羅湖駅のホームに滑り込んだ。羅湖の駅は国境の立入禁止区域にあり出国する人以外は利用できない。(といってもチェックされるわけでは無いから構内にいて折り返し香港側に帰ることは可能)。つまり羅湖の駅とは国境を越えるための駅なのである。ちなみに直通列車は羅湖の駅の広州に向かって左側をすり抜け、先の15m程の川を渡り深センの駅の構内に一時停車した後に広州へと走り抜ける。さてここで第一の難関である。改札の手前にあるという中国旅行社を探しだしビザを手に入れなければならない。ホームを進行方向に歩いていくと改札口が見えてきた。そして中国旅行公司と書いた小さな看板を発見した。しかしその看板のところに行くと小さなドアがあり、「関係者以外立入禁止」みたいなことが書いてある。窓口を探すと、その入り口のある面の左手の面に窓口があるようである。しかし、その窓口と自分との間には、チェーンが張られていて、そこに行くにはチェーンをまたぐかくぐるかしなければ行けない。しかもここは国境である。チェーンを突破するなんてことをすれば事情聴取なんて羽目になりかねない。途方に暮れていると掃除のおじさんらしき人がやってきたのでその窓口への行き方を聞いてみることにした。「うぉーしあんぐぞうなーり。かーいーまっ?(あそこに行きたいけどいってもいい?)」と私、「かーいー(いいよ)」とおじさん、「ぜんもぞう(どーやっていくの)」と私、おじさん不思議そうな顔をしている。思わず「Can you speak English?」というと、おじさん急ににこにこしながら手をぱたぱたさせて後ずさりしてその場を去ってしまった。「うん?どっかで見たようなシチュエーション・・・・どこでだろう・・・・」などと思いつつ困っていると後ろで聞いていたらしい中国人らしき人が手振りで「反対向きにぐるっと回ればあの場所に行けるよ」と、教えてくれた。中国の人も外人には優しいようである。後でわかったがそのチェーンは乗客の整理のために設けられているものでまたいでも全然問題なかったのである。掃除のおじさんが「どうやっていくの?」なんて聞かれて不思議な顔をしたのも当然である。窓口に行くと先客がいて英語で窓口の係の人と話していたのでほっとした。「ビザが欲しいんだけど(英語)」というと「お部屋へどうぞ。この書類に必要事項を記入して下さい(英語)」と言われた結構順調である。用紙には写真を貼る欄があり、5cm×5cmの写真を貼ることになっている。写真は持っていたが大きさは少し大きい。ハサミで切りそろえようと「なにか切る物をかしてもらえますか」というと、係りの人は「必要ない」といって書類と写真を私から取り上げ、やや大きい私の写真を書類の所定の場所にべちっべちっとホッチキスで止めてしまったので思わず目が点になった。かなり大胆である。同行のみんなのパスポートと書類を集めると係員の人はどこかへいってしまった。当たり前だが中国旅行公司ではビザの発行を行うわけではなくあくまでも取り次ぎを行うのみなので、取次先に持っていっているのだろう。待っている間に周りをうろうろしていると広深鉄路(九広鉄道の中国側)のパンフレットを見つけた。パンフレットには時刻表が載っている。中国国内の列車には、広九高速車(香港〜広州の直通列車:1日4本、季節1本)、広深長途車(区間外への直通車:1日13本)、広深高速車(特急:一日14本)、広深快車(急行:1日15本)、広深慢車(普通:1日1本)の5種類あり約30分毎に発車していると書いてあった。これならすぐに切符が買えそうだと少し安心した。しばらくすると先の係員が帰ってきてお金を払ってくれといった。机の上には1人あたり香港$360と書いてあるので「3人分です」といって香港$1080を渡すとこんなにいらないと言われいくらか返された。よくわからないが団体割引が利くのだろうか?とりあえずくれると言う物は貰っておくことにしてパスポートにビザのはんこが押してあるのを確認した。日本国内でビザの発給を受けた場合には、領事館員や大使館員のサインが書き込まれてているが、ここで発給を受けたビザには特にサインはしていない。もしかして偽物をつかまされたかも等と考えたがだまされたといった話も聞かないのでそのままその場を立ち去った。さて、改札を出るとすぐに出国カウンターがある。香港の場合空港から出国する際には出国税を取られるが、徒歩で出国する場合は特に税金を取られないようだ。どうも空港での出国税は空港使用料のような意味合いのものらしい。出国管理の人は日本人と見るとちらっと顔の確認をして出国のスタンプを押した後にぽいっという感じでパスポートを返してくれた・・・中国風である。出国手続きを済ませて進路に沿って右手に歩くと免税店があり免税店の左手に国境の橋が見えている。国境の橋には屋根があるが、横方向は吹き抜けになっている。橋を渡りながら両側を観察すると、川の両側には有刺鉄線が張り巡らせており国境であることを感じさせられる。左手には職員が使うであろう別の橋がかかっている。さらにその向こうには鉄道の橋があるはずだがその橋に隠れて見えない。橋を渡りきると中国側の入国審査を行う建屋に入る。中国人以外の入国審査は2Fで行われているので階段を上って2Fへ行かなければならないが、間違えてまっすぐと中国人用の入国カウンターまで入ってしまった。パスポートを服務員の人に渡すと、服務員の人は困った顔をして、「しーりーべんれん(日本人だ)」と言っている、そしてこちらを見ながら「要走二楼(2Fに行って)」と言うので、別室で取り調べられるのかと困惑していると他の係員が「Go 2nd floar.there is the gate for you.」と話してくれたのでそそくさと2Fへと向かった。2Fへの階段をあがるとすぐに深センビザの発給所がある。その横を通り抜けて出国ゲートへと急いだ。ところで香港・中国ではゲートと名の付くところ全てに行列が出来るようだ。この国境でも空港ほどではないが10分くらいは必ず並ばされるようだ。入国と出国で2回も並ばされ少々食傷気味である。出国も何事無く終わりゲートを通過、1階に降り建物の出口を出るとそこは深セン火車駅(ご存じの通り中国語では汽車のことを火車とよぶ、ちなみに汽車はバスで汽車駅というとバスターミナルのことになる。深セン駅には汽車駅も存在するのでややこしい)の駅前である。出口には香港から帰省する人を出迎えているのであろうかたくさんの人が出迎えに来ていた。いよいよ中国である。

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