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11.広州〜香港列車の旅

座席は進行方向左側の窓側であった。車窓より外を見ると上屋を建設中のホームが見える。しばらくするとその建設中のホームにディーゼル機関車を先頭にした貨物列車が入線してきた。いったい中国の貨物列車は何を運んでいるのだろうと興味を持って眺めると機関車の次には銀色のタンク車が連結されていて、その後ろの方には背の低い有蓋貨車(屋根のある貨車)が連結されている。しばらく眺めていると貨物列車はすぐに出発していった。それからしばらくすると列車の発車時間が来たようで音もなく列車は動き出した。しばらくの間広州東駅の構内をゆっくりと走る。出発してすぐに進行方向左に機関車がたくさん留まっているのが見える、さらに進むと広州東駅からずっと進行方向左側に寄り添っていた線路の上を走っている貨物列車を追い越した。つながれている貨車から類推すると先に発車した貨物列車らしい。その貨物列車の走っている線路はそれから先もしばらく貨物ヤードのあるところまで続いていた。貨物ヤードには多くの貨車が止まっていてこの国の鉄道の運送の主力は貨物であることが見て取れる。この頃になると広州東駅を出発してすぐから流れている案内放送も終わり、深センから広州東の列車の中でも流れていた中国風のバックグランドミュージックが流れている。案内放送は2種類の中国語と英語の3種類放送されているようでさすが国際列車である。聞き流していたが多分乗車のお礼と九龍への到着時刻などをアナウンスしているのであろう。出発してしばらくすると都市近郊の農村といった風景に変わり列車はあまり揺れずに快調に走っている。そして外を眺めていると車内弁当を抱えた服務員さんが弁当を売りにやってきた。抱えている車内弁当を見ると日本の車内で販売されている弁当のようなきれいな包みではなく、白いプラスチック(ほかほか弁当のような)のものに入れられていて、また中身がどんな物かが全然わからない。物は試しで購入しようかと思ったが迷っている間に車内弁当販売の服務員さんは次の車両に行ってしまい買い損なってしまった。この列車にも食堂車が付いているのでそこで調理して持ってくるのであろう。広州を出て小一時間くらいであろうか少し開けた街中を列車は走る。車窓からは大きなヤードなどが見えるので結構大きな街だ。多分東莞(トンガン)の街だろう。ここから東の汕頭(サントウ)方面への線路が分岐して行くが日本で手に入る地図には記載されていない。最近出来た鉄道なのか、もしくはし最近になって旅客扱いを開始した路線かもしれない。その汕頭までは広州と深センから一日1本の直通列車が走っているようである。そして広州東駅をたって1時間半ほどで遠くに深センの街の高いビルが見えるようになってきた。深センに近づくと進行方向左側に高速道路が走っているのが見える。この高速道路は「広深高速公路」と呼ばれており広州と深センの間を結んでいる。深センの街にいる少し手前に料金所のようなゲートがもうけられているのを車窓から見ることが出来た。ここで深センに不法な車が出入りしないかをチェックしているらしい。このあたりに来ると列車は速度を落して走るようになり、しばらくすると案内放送が流れ服務員の人が香港入国用の申告書を配り始めた。直通列車の場合入国の手続きは九龍駅で行われるので急いで書く必要は無いはずだが、何となく不安なのでその場で記入を済ませてしまった。そんなことをするうちにやがて列車は深セン駅に停車した。列車が停車している隣の線路を銃をもった兵士らしき人が歩いている。さすがに国境を通過する列車だけあって警備が厳しいようだ。しかし、もうすぐ香港が中国に返還されるからであろうか、兵士の様子にはあまり緊張感は見られない。そんな安穏とした雰囲気の兵士を、あの銃はソ連製かいなぁ等と思いながら眺めているとすぐに列車は出発した。しばらく鉄道関係の施設等が雑然と並んでいる景色の中をそろそろと進んだ後に国境の橋を渡っていく。進行方向すぐ左側には警備用の橋があり、その向こうに昨日渡った国境の橋が見え隠れする。そしてすぐに羅湖の駅の構内となりあっけなく国境を通過してしまった。羅湖駅には香港〜羅湖間の電車列車が停車しており、その横をすり抜けて行く。香港にはいるとしばらく田園風景の中を走行し羅湖の次の駅上水の駅あたりからは近代的な街並みが広がる。何かタイムマシンで過去から現在に戻ってきたような感覚がして香港に入ったことを認識させられる。列車は中国国内とはうって変わってゆっくりと進む。そして時々通過する駅で列車を待っている乗客が物珍しそうに列車を眺めているのが見える。列車はゆっくりながらも歩をすすめ、左手に大埔海(たいぽうはい)の海岸線を見ながらしばらく走った後に内陸にはいると程なく終点の九龍駅である。列車はものものしく金網に囲われたホームに到着、乗客はそそくさとホームへ急いで降りて行く。ホームに降り立つとホームから3階に通じるエスカレータがありこれを登ると入国審査のカウンターがある。先の乗客の様子からカウンターは混んでいると思っていたが、意外にも空港の入国審査のカウンターのようには混んでおらずあっさり香港に入国できた。これで広州〜香港の旅も終わりである。同行者の一人は英語の通じる香港に帰ってきて元気が復活したらしく、さあ買い物に行こうと息巻いている。思えば、ばたばたとした旅だったので広州の街をほとんど見て回る時間がなかった。次に来るときはもう少しゆっくりと時間をとって見てて回りたいものだ。トロリーバスにも乗車してみたい。そんなことを思いながら名残惜しさを残して九龍駅を後にした。

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