東京都立大学の生物電子顕微鏡室の湿度トラブルについての報告

阿部道生(都立大・理学部・研究生)

1997/09/07

・はじめに

東京都立大学が八王子に移転してから何年もたちますが、5年を経過したあたりからいろいろな施設関連のトラブルが現われてきました。そのあるものは、建物の経年によって発生するトラブルでしたし、あるものは、管理者や利用者が当初は気がつかなかったものが露呈してきた、というものです。ここに示す湿度のトラブルはそのうち後者にあたるものです。事実、数年前にはレーザー顕微鏡のダイクロイックフィルターユニットのミラー部分に錆びが発生し、担当教員がインターネットのメイリングリストにまで「レーザー顕微鏡のトラブル」として相談をもちかけた結果、メーカーから「保証期間外ではあるけれど特例として無償交換」という対応をしてもらった経緯がありました。その時、メーカーの人の言葉のひとつは「きちんと無償交換で応じたということをインターネットのメイリングリストにもつたえてほしい」ということであり、そして「それでも、たぶんこれはうちが原因のトラブルではないと思う」でした。当時、設置室に普段入らない人間がたまにやってくると「なんかむしむしとするね。これで機械は大丈夫なの?」ときかれたものでしたが、管理担当教員にいわせれば「空調は24時間かけっぱなしで、除湿器も動かしているのだから湿度が高いはずがない」ということでしたのでそのままになっていたものです。いまになって思えば、どうしてあの時部屋の湿度を誰も測定しなかったのか不思議です。いや、正確にいえば、たとえば私は管理者に直接「湿度をはかったほうがいい」という進言を何度となくしたのですが、今回まで自分の手で直接測定しなかったのが失敗だったのだと反省しています。今回の私の湿度調査のきっけとなったのは、ある卒業研究生がSEMを使うにあたって、SEM自体にいくつかの問題が発見され、その解決策を講じる過程で湿度の問題が浮上したことによります。その際に、その学生と指導教官は確認のために湿度計を115室に置いてみたのですが、その時ですでに80%を越える湿度が記録されました。少なくとも、大学移転からその時まで、生物電子顕微鏡室には湿度計というものが入ったことがなかったのです。ささやかな手抜きが、高価な機器を損ね、金銭的な損失もさることながら、利用者が不便を強要されるという最悪の事態になりつつあります。ちなみに、この80%の時点は、空調と除湿器が24時間連続稼動の状態で記録されたものでした。

結果からいえば、この空調・除湿器かけっぱなし、の状況で、当該室の湿度は高いときで82%、ドライをつよくかけても74%という値でした。以下に、関連する状況を現時点でわかる範囲でまとめてみます。

機器管理について、同様な問題に直面している方、同様な問題を解決した経験のある方、建築の専門家、いろいろな方からのご意見をおまちしております。

阿部道生

被害の一例

115室の湿度記録の一例

115室において、確認されている環境状況

生物電子顕微鏡室各部屋の湿度状況

考察

レーザー顕微鏡のダイクロイックフィルター無償交換の一件は、大学として恥ずべきことではあるし、また、当時の時点できちんとした対応をとれていたら、と思うと実に残念なことではありますが、今の時点でふりかえって考えた場合、当時からすでに室内の湿度は十分以上に高かったことを示していると捉えてよいでしょう。かえすがえすも、当時、ミラーの錆びが発見された時点でどうして湿度を測定しなかったのか、また、メーカーもメンツなどもあったのでしょうけれど、「湿度を測定させてくれ」と一言いってくれればもっとお互いの損失は少なかったのに、と思います。以前、この部屋に入って「なんかホコリ臭い」といった人もいました。ホコリ臭さというものも、高湿度と密接な関係があるという常識をその当時に知っていれば、と自分の無知が悔やまれてなりません。

さて、115室については、まず、入り口そばの水道と冷却水バルブ以外には直接の水場はありません。また、この水道は室内で使用することがほとんどないものですから、ここに湿度の原因があるとは考えにくいものです。入室してすぐに気がつく顕著な特徴はやはり天井や壁面のしみ、かびですが、これらについては、各部の写真をみていただければわかるとおり、天井裏で水漏れが生じている、という様子ではありません。むしろ、室内の湿度があまりにも高すぎるために空調ダクトに生じる結露を断熱材が処理しきれなくなり、そこからカビが生じていったという印象があります。もちろん、断熱材が恒常的に湿度を含んでいれば、二次的にそこが湿度上昇の原因となりえますが、おそらくは、それよりも根本的な湿度要因があるものと考えられます。

また、管理者は「バルブを閉め忘れた学生が悪い」と学生を怒った例なのですが、SEMの冷却バルブをあけたままにしておいたために、115の床が水浸しになる、という一件も今年の夏にはおきています。バルブをしめわすれたのが悪い、というのは、ローカルな規約による一種のヤクソクゴトですからそれについてはとやかくいわないにしても、たとえば隣の116室ではTEM用の冷却水は常に流したままの状態であり、結露によったとしても床が水浸しになる、というのはやはり常軌を逸脱した事件であると考えるべきでしょう。底冷えのするむき出しのコンクリートの室内で、霧が結露してあたりを水浸しにするようなものですが、しかし、115室自体が簡易天井伏図をみていただければわかるように、開口のない密室であり、しかも空調が常に動いていたことを考えるとその常軌の逸脱の度合もわかろうというものです。(管理者の方は、実の兄弟に一級建築士がいる、ということを常日頃口にし、したがって自分は建築にはとても詳しい、子供のころから詳しいと豪語してはばからない方ですからこの異常性に気がつかないはずはないのですが…)ヤクソクゴトを守らなかった学生をどなりつけるよりも、そんな事態になってしまう部屋の問題の方を重視してもらえなかったことが残念でなりません。責任者としての態度という観点から見れば、まったくもって間違った行為といえるでしょうし、怒られた学生の名誉という点を考えても、教員として学生に謝罪すべきであろうと思えます。

#ちなみに、この管理者の方はたとえばある委員会で他の教員にむかって
#「そんなことをいうならば大学をやめたらどうだ」などと面罵した上で、
#そのことについて「いやあ、ぼくもあの時は委員会でちょっと激論をかわ
#したものだが」といってのけるという側面があり、そういうことも考え併
#せるとなかなか先行きは暗いのですが…

興味深い事実が、偶然今回の湿度測定と時期がかさなった「実験冷却水停止」によってあきらかになっています。各部屋とも、冷却水が停止している間は比較的低湿度を維持したのです。低湿度といっても、機器の設置条件を上回る値ですから、その状態ですら問題あるものなのですが、少なくとも、60%程度に抑えられる、という結果になっています。そして、9/7の冷却水復旧にともなって、それぞれ70%を超える値を示しました。特に、115室に設置した自記温湿度計のチャートは、9/7の昼ごろから湿度が時間とともに上昇していく様子が克明に示されています。

実験冷却水は、それぞれの部屋の下を配管されています。また、115、116、117室の下にはいわゆる居室はなく、大きな地下ピットとなっています。さらに、問題の115室の真下には冷却用水の流れる大きな水路があり、建物として、湿度原には近い位置にこの部屋があることになります。現時点で最も可能性が高いのは、この実験冷却水の配管のどこかにゆるみやひび、はずれがあり、そこから冷却水がもれだして湿度源となっているのではないか、ということです。

ここに関連しているかもしれない事象がもうひとつあります。115の扉が、建物のできた当初は普通に開閉できていたのですが、ここ数年あたりからたてつけが悪くなってきているのです。この扉はカードキーで鍵をあけてはいり、あとは自重でしまり、そのままオートロックがかかる、というタイプのものなのですが、これが自分の重さではきちんとしまらず、途中でひっかかるのです。単にちょっと鍵がぶつかっているだけかというと、どうもそうではなく、人間が手で閉めようとしても、ちょっとした勢いがないとしまらない。つまり、どうも、このあたりで扉の部材に歪みが生じているようなのです。扉の周囲にはちょうどかこむ様なひびがはいっていもいて、近いうちに扉の水平・垂直を測定してみようと考えています。なにかのさいに、この一画が沈む等あって、その結果地下配管にも問題がでている、という可能性が考えられますから。

とりあえず、管理者は、もう二か月も前なのですが、湿度が高いのではないか、というユーザーの問いを受けて「確認する」と答えています。現在、その確認した際の内容と今回のこちらの測定結果とをつきあわせようと考えて、その確認内容を問い合わせているところなのですが、残念ながら随分たつのにいまだに管理者からはこの件についてのきちんとした返答はありません。個人の責任をとらされるといった、小さなことに拘泥したりせず、これをきちんとしないと機器を使用するユーザー全体に迷惑がかかる、ということを正しく認識してもらえていればいいのですが。

・結論

施設担当者に測定してもらって、やはり湿度が高いことは示されました。(その過程でも管理教員は数値を偽って「阿部の測定が間違っていたのであって湿度はたかくなどない」という強弁をしたりしましたが、まあ、それはささいなこと、としておきましょう) そして、暫定的に施設担当からきちんとした除湿器を借りる(それまで設置されていたのは家庭用の小型除湿器で、しかも、経年によって除湿能力はほとんどゼロ、という代物でした)、さらに、管理予算で同規模の除湿器を購入する、その上、湿度管理の可能な空調を増設する、という対応で決着しました。

ここまでにいたるにはいろいろありまして、たとえば担当教員は激しく上下している湿度記録を示して「除湿が機能していないからだ」(これはそのとおりです)「従って、空調の能力は足りているのだ」(これは、非論理的な結論であり、はっきりいえば嘘です。その示されたグラフでは最も湿度が下がったところでも60%を越えているのですから)と頑なな態度をとったり、ということもありました。結局、施設担当に連絡をとり、測定を行ってもらうように私が個人的にはたらきかけ、ようやく改善の糸口がみえてきた、というところです。とりあえず、装置としては除湿器と空調が整備されるので改善されることは間違いないのですが、ちょっと困ったことにいまだに湿度計が設置されていないのです。いままで用いていたものも私が個人的に借りてきたもので、部屋の設備ではないわけですから、この調子では少し時間がたてばまた同様のトラブルが発生するのではないかと思えてなりません。それまでに、管理担当教員が普通の責任感のある常識的な人に交代すればよいのですが・・・