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99/6/6
『ウラBTTB』 請われてリリース!
5月26日にリリースされた『ウラBTTB』、なかなか好調。 6月4日付のオリコン・デイリー・ランキングでは6位にエントリーされている。坂本龍一の「共生系」は密かにきてるのだろうか。これは請われてリリースされたCDだ。珍しいことだ。ジャケットは再生紙使用?ところで「共生系」なんてな言い方は、いかにも誤解を助長しそうだが、キャッチーだし、わかりやすい方が浸透しやすいから、個人的には押したいところ。ダメ?

リゲインEB錠のコマーシャル・ソング『energy flow』もNews23のテーマ・ソング『put your hands up(piano version)』も相当に問い合わせがあったらしい。問い合わせたのは、従来的な教授ファンが自分のコレクションをまたひとつ増やすためだったのだろうか。どうもそれだけではないような気もする。オペラのチケット完売騒動といい(日本でオペラなんぞに興味をもっている人なんて、そんなにたくさんいるの?)、やっぱり従来の教授ファン以外の層にもじわじわと「共生系」はきてるのだろうか・・・・・

今回の一連の反響は、音楽業界側で意図していないところで起こっている。さらに、ここ数年トレンド・リーダーを担ってきたコギャルやら享楽的なOLから発信されたものではないので、ブームといえるようなあからさまな過熱ぶりのかたちをとらずに進行している。なんというか、大声でまくし立てたりはしないが、坂本龍一が今やろうとしていること、考えていることに、共感とまではいかないまでも、なんとなく気になるといったような、社会のある層が生まれつつあるのだろうか。

実際のところリゲインEB錠のコマーシャル自体はありふれた出来栄えだ。才気あふれるディレクターが世に問うた意欲作なんてものじゃない。(あのOL役らしい女性の安らかな微笑はよかった。)やっぱり皆あの坂本龍一の紡ぎ出す旋律にピンときたわけだ。それは、僕らが日常生活の様々な場面でさんざん聴かされているオンガクとは異質の響きをもっていたから。厳しく抑制され、それでいて何故あんなにも優しいのか?・・・・・静かで思慮深い、その層の人々は、そんなふうに知らず知らず自問してみたかもしれない。それはなんだか、蒼く深い海のなかで、鯨が悲しく鳴く声に、遠く方々に散らばった鯨たちが静かに耳を澄ましているような感動がある。

『ウラBTTB』は、珍しいことにウチの近所のそこそこ大きなレコード・ショップの特設台にGLAYやら宇田多ヒカルのCDなんかと一緒に並んでいた。そこは最近全国的に増加している、レコード店とレンタル・ビデオ店と本屋をひとつにしたようなフランチャイズ・チェーンのひとつである。深夜まで営業され、いわばメディアのコンビニといったところだ。大きな敷地面積を誇るレコード・ショップの無数のCDに囲まれながら、僕はたびたびもう新しい音楽はないんだな、という漠たる感覚に襲われる。POPもROCKもほとんど、70年代から80年代にすべて出尽くしたのだ。新曲はいつも何かに似ている。何々風の新曲を作るのがイヤならDJになるしかないだろう。

マーケティングとしての音楽業界はシステムとしては、かつてないほど高度な発達を遂げている。アイドルはもとより、ロック少年の反抗もちゃんとシナリオに組み込まれ、つまり商品化されて消費者に提供される。この高度な巨大システムは、これまで大衆の望んできたあらゆるパターンの偶像を蓄積しているのだ。すべては実に用意周到に計画され、不確定要素の入り込む余地など少しもない様子だ。どれもこれも絵に描いたようだ。いや、実際はじめに大衆のイメージがあって、音楽産業側がそれに沿って実に器用にキャラを作っていくわけだ。(もうウンザリだ!)この息苦しい状態は現在ではほとんど慢性的だが、energy flowのあの旋律がテレビから流れてくる時だけは、僕らは音楽家の魂に直に触れることができた。やっぱり坂本龍一はいいねぇー(泣)

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