2007年度 経済法1&2
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試験問題と採点のポイント (平成20年1月23日実施)
平成19年度 経済法2(平成20年1月23日実施)経済法2 試験問題と採点のポイント
一.以下の設問に答えなさい。
(1)米国において「ハードコア・カルテル」と呼ばれているものは、具体的にどのようなカルテルを指すか。(配点20点)
(2)それらは、日本の独禁法において、どのように解釈されているか。条文に明記されている要件に則して答えなさい。(配点20点)
二.以下の事実について、設問に答えなさい。
Xは、カラーレーザープリンタに使用されるトナーカートリッジにICタグを搭載し,ICタグに搭載されたICチップに記録された情報の解析や書換えを困難にし,当該カートリッジの再生品が作動しないようにした。その目的は、再生業者が当該カートリッジの再生品を販売することを困難にすることだけであった。また、再生業者が販売する再生品の品質は、キヤノン製のものと異なるところはなく、利用者は全く問題なく使用できるものであった。
<設問>
Xの本件行為は、独占禁止法上、どのように評価されるべきか(どの条項に違反するか。また、各要件に該当することにつき説明すること)。
その際には、以下のようなXの主張にどう答えるべきかについても述べなさい。
Xの主張 ----- Xは、プリンタ・メーカー間の競争が激しく、プリンタの技術開発のための技術革新及び設備投資が必要なので、カートリッジにおける超過利潤をプリンタのための費用に充てているのであって、これは合理的なビジネスモデルであり、何ら非難されるものではない。(配点60点)
<採点のポイント ---- いわゆる「模範解答」ではありません>
一.
(1)ハードコア・カルテル = 価格カルテル, 数量カルテル、市場分割、入札談合など
(2)独禁法2条6項、3条後段を挙げ、前者の定める要件につき述べること。
ハードコア・カルテルの目的は、競争制限それ自体であり、私的独占や合併、あるいは後述の非ハードコア・カルテルなどのように、他の事業目的を持つ可能性のある行為ではない。
したがって、ハードコア・カルテルが実効性をもって行われれば、それは既に、独禁法2条6項にいう「一定の取引分野における競争の実質的制限」があることを示すものといってよく、競争制限について個別具体的に立証することは不要であると解されている。
すなわち、ハードコア・カルテルは、反トラスト法では「それ自体違法」とされており、競争への影響を立証することは不要である。これに対し、日本の独禁法では明文で「一定の取引分野における競争の実質的制限」という要件を満たすべきであるとされている。しかし、実際には、当該カルテルが実効性を持つ場合は立証不要であると解釈されている。
なお、解答には、『相互拘束』、「公共の利益」などすべての要件について説明するものが多かった。これは設問の出し方にも責任があるが、ここではハードコア・カルテルに固有の解釈を問うているのであるから、「一定の取引分野における競争の実質的制限」についてのみ答えれば十分である。
二.
公取委「キヤノン株式会社に対する独占禁止法違反被疑事件の処理について」(平成16年10月21日。公取のホームページを参照)を素材に、独禁法違反が明確になるように事実関係を一部改変して作った問題である。
(1)「不公正な取引方法」の一般指定10項(抱き合わせ)または15項(取引の不当妨害)に該当する。
10項----消費者に対するプリンタとカートリッジの抱き合わせ販売
15項----再生業者などの競争事業者と消費者の取引を妨害
---20点
本事案は、カートリッジないしインターフェース部分に競争者排除を目的として、意図的に知的財産権をつけ知的財産権の行使を装って、互換メーカーを排除したケース。
プリンタ・メーカーが,技術上の必要性等の合理的理由がないのに,カートリッジを再生利用できないようにした行為であり、独禁法21条の適用除外は認められない、ということを付記すれば、5点程度加算。
(2)一般指定10項・15項の行為要件、および、「公正競争阻害性」要件を満たすこと。
後者については、10項・15項について、「公正競争阻害性」の内容としての競争減殺、手段それ自体の不当性、競争基盤の侵害の3つのうちのいずれに当たるかを明示すること。
10項----上記のいずれもあり得る。
15項----競争減殺、または競争基盤の侵害
-----20点
(3)Xの主張について。
事業者の観点から見て、合理的なビジネスモデルであることだけでは、独禁法違反を覆す正当な理由とはならない。
そもそも、事業者が独禁法違反行為(正確には、規定の要件を満たす行為)を行う理由は、その行為が当該事業者にとって利益となるからである。それをそのまま正当な理由とするのでは、独禁法違反行為はあり得ないことになってしまう。
独禁法、不公正な取引方法における「正当な理由」・「不当性」は、行為者である当該事業者からの観点だけでなく、競争秩序全体から見て「公正な競争」を促進する否かから判断される。
カートリッジにおける超過利潤をプリンタのための費用に充てるという計画(1種のビジネス・モデルとも言われる)は、上記のように当該事業者の経営上の都合だけであって、それが市場における競争の中でどのように評価されるかが独禁法の問題である。したがって、この抗弁は妥当ではない
-----20点
平成19年度前期 経済法1 期末試験の問題と採点のポイント(平成19年7月18日実施)
一. 公正取引委員会(以下、Xという)は、調査の結果、Yらによる入札談合が行われ、それを証明する証拠も確保したと判断した。
Xは、どのような法的措置を執ることができるか。箇条書きの形(1.---、 2.--- )で述べなさい。(配点30点)
二.以下の事実について、設問に答えなさい。
有線ブロードワークス(以下、Xという)は、わが国における有線による業務店向け音楽放送の契約件数の68%のシェアを有しており、これに対し、業界第2位のキャンシステム(以下、Aという)のシェアは26%に過ぎなかった。
XはAの顧客を奪取するため、AからXに乗り換える顧客に限って月額聴取料を廉価で提供し(切替契約と呼ぶ)、しかもその無料期間を6か月とした。
Aもこれに対抗して同様の値下げをしたが、約1年後、Xのシェアが72%に上昇し、反対にAのシェアは20%に減少した。
<設問>
Xの本件行為は、独占禁止法上、どのように評価されるべきか(どの条項に違反するか。また、各要件に該当することにつき説明すること)。
その際には、以下のようなXの主張にどう答えるべきかについても述べなさい。
第一に、トップ企業であっても、その売り上げ、シェアを伸ばそうとすることは当然であり、本件行為はそのような競争的行為であるから違法ではない。
第二に、Aの方も、Xと同様の行為をしているのであって、Xだけが責められるべき筋合いはない。
(配点70点)
<解答のポイント>
以下は、採点に当たって基準としたものである。ただし、網羅的ではない。
なお、実際の採点の際には、以下に明示した個々の点数を積み上げたものをそのまま採点としたのではなく、受験者の全体の解答の様子をふまえ、相対的評価を行っている。
一.公正取引委員会が執ることのできる法的措置
1.排除措置命令(独占禁止法7条1項など。ただし、条文を指摘する必要はない)
2.課徴金納付命令(7条の2など)
ただし、より細かいことを言えば、これらの命令発出の前に行われるべき「事前通知」(49条5項)という答えも正解であるが、ここではそこまで要求していない。
3.検事総長に対する告発(96条1項)
その他、談合関与行為防止法に基づく要請等の措置もあり得る。
公取委(X)が執り得る法的措置をきいているのであるから、「課徴金」とか「刑罰」だけでは不十分である。
特に、刑罰を科すのは裁判によってなされるのであって、公取委は刑罰に値するという意見を「告発」という手続きで検事総長に出すだけである。このような細かい点にまで気をつけること。
なお、公取委による調査(45条以下、特に47条)を挙げる答案も多かった。しかし、質問文は、公取委は「調査の結果----判断した」ということであるから、調査(審査)の段階は終わってから執るべき措置を訊いていることは明らかである。
また、損害賠償請求や差止請求などを挙げる答案も多かったが、これらは被害者がとり得る手段であって、公取委が行うわけではないから、誤りである。
二.有線ブロードワークス事件について。
「私的独占」に当たり(2条5項)、独占禁止法3条(前段)に違反する----10点
要件は、(1)排除、(2)一定の取引分野、(3)競争の実質的制限(あるいは、2と3はまとめて書いてもよい)。-----(1)10点、(2)(3)あわせて10点。合計30点。
(1)「排除」に当たることについては、切替契約を極端に安くする、無料期間を6か月など、トップ企業によるライバル企業に対する攻撃的な料金戦略であるから、などと書けば十分であろう。
(2)一定の取引分野は、業務店向け音楽放送の取引分野。
(3)シェアがトップの企業による行為であり、実際に、競争者のシェアを奪っているから、「一定の取引分野における」「競争の実質的制限」をもたらす行為であることは明白。
以下の第一、第二は、それぞれ20点ずつ。
第一にあるように、ノーマルな競争行為との区別は、ここでは競争者の顧客に対してだけ不当に安い料金を提示したことに求められる。
これに対し、仮にXが、単純にすべての顧客に対し値下げをし、しかもそれがダンピング(コスト割れ販売)でないなら、正常な、ノーマルな競争行為であって、違法とはされない。
ライバル企業に打撃を与えることを露骨に目的とするものであって、効率化によるコスト削減、あるいは、音質の高度化や、顧客対応などのサービスの向上(より一般的には、サービスの質の高度化)など、企業努力による顧客獲得とは無縁の競争方法である、ともいえる。
なお、講義では、同様の例として、新聞各社の無料紙配布や、マイクロソフト社の「コンペティティブ・アップグレード」価格戦略について、本件との違いも含め説明した。
第二に、競争者であるキャンシステムもこれに対抗して値下げしているではないか、との疑問に対して。
独占禁止法は、特に独占的事業者に対し反競争的行為をしないように求めているのであって、そのような力のない事業者が同様の行為を行っても、もともと市場全体に対する影響力がないから「排除」には当たらない。これを「非対称的規制」と呼ぶこともある。
また、このような競争の仕方をしかけたのは、Xであって、Aはやむを得ず、これに対抗したに過ぎない、という事実経過も重要である。なお、いわゆる「競争対抗抗弁」論は、強力な競争者が安値または差別対価で競争をしかけて、それに対抗するための防衛的競争方法をとることを一定の場合に容認しようという理論であり、本件もこれに当たるとすることもできる。
なお、本問は、公取委・勧告審決平成16・10・13を下敷きにしている。本問では日本ネットワークヴィジョン(有線ブロードの実際上の子会社)のことは省いた。
第12回 070711 「企業結合の制限」
二.企業結合の制限
企業結合規制においては、「固い結合」だけを対象としている。
企業結合の諸形態
a. 株式保有の規制(10条1項)---- 事後規制
b. 役員兼任の規制(13項1項)---- 事後規制
c. 会社分割の規制(15条の2)----事前規制
d. 事業譲受け等の規制(16条1項)----一定規模以上の事業・固定資産の譲受けだけは事前規制、それ以外は事後規制
e. 合併規制(15条1項1号)----事前規制
要件の特殊性
上記の企業結合規制には、共通して、以下の要件が定められている。例えば、会社は他の会社の株式を保有すること等によって、「一定の取引分野における競争を実質的に制限することとなる場合」には、当該保有をしてはならない。
私的独占の定義(2条5項)と比べると、「こととなる場合」という文言になっている点が異なる。
→ 市場支配力が現れる前の、それが形成される可能性が認められる段階で規制。
事前規制と事後規制(詳細は教科書89頁以下参照)
株式保有と役員兼任は、事後規制。
合併と一定規模以上の事業・固定資産の譲受け等の規制の場合は、企業結合が行われる前に判断して規制(=「事前規制」。私的独占は、「事後規制」)
しかし、合併などの事前規制の場合だけでなく、株式保有などの事後規制に関しても、結合が行われてから独占禁止法違反になったのでは、結合を解消するのが大変なので(例えば、いったん取得した株式を売却しなければならない)、違反のおそれがある場合には、非公式に公取委に違反にならないかどうかを問い合わせることが行われている。
企業結合当事会社にとっては、企業結合を正式に決める前に、公取委に「事前相談」してから、契約の細目決定、株主総会などの法的手続きに入るのが便宜。
市場構造基準
したがって、「市場構造」基準、具体的には、結合後の当事会社のシェア、結合の形態による結合の強さ・継続性等、代替品の有無、新規参入の難易を中心として判断。
これに対し、「市場行動」基準と「市場業績」基準は、結合後のことであるから、予想しかできないので、客観的な判断が難しい。そこで、これらの基準は原則として用いられない。
株式保有による「結合関係」=複数の企業が株式保有、合併等により一定程度又は完全に一体化して事業活動を行う関係(公取委の「企業結合ガイドライン」より)
<設問>他社の株式を保有する目的は?
① 投資目的
①
経営支配の目的。完全支配だけでなく、影響を与えることだけでも問題になり得る。
②
実際の事業運営上の考慮。例えば、シェアの拡大(水平的保有の場合)、または、原材料の安定的確保など(垂直的保有の場合)。
その他、販売・技術等の提携を支え、または協力関係の象徴的意義としての株式保有。
判断基準ないし要素
a.
結合当事会社の地位を見る上で重要なのは、第1に市場シェア、その順位。
b.
市場の状況としては、第1に、競争者の数および集中度、第2は、参入の容易性、第3は、輸入の状況、第4は、取引関係に基づく閉鎖性・排他性。
c.
その他に、当事会社グループの「総合的事業能力」の変化。
結合の諸形態
a.
水平的所有
競争事業者間の結合であり、一定の取引分野における競争単位の数を実質的に(合併の場合は数の上でも)減少させるので、競争に与える影響が最も直接的.
事例1. 日本楽器事件(勧告審決昭和32・1・30審決集8巻51頁)
楽器製造市場においてトップ企業である日本楽器が第三者名義で、同第2位の河合楽器の株式を24,5%取得。17条違反(脱法行為の禁止)
<質問> 本事例で、日本楽器は何故、河合楽器の株式を取得したのか?
事例2. 日本航空株式会社(JAL)及び株式会社日本エアシステム(JAS)から,持株会社の設立による事業統合計画について事前相談
→ 公正取引委員会による公表文(平成14年4月26日 )は以下の通り。
a. 当事会社の対応策=新規参入促進のための措置
(イ)
規航空会社に対する空港施設面での対応
当事会社は,現在自社が使用しているボーディング・ブリッジ,固定スポット,チェックイン・カウンター等の空港施設の一部について,新規航空会社にこれら施設を提供する。
(エ) 運賃面での措置
① 普通運賃を,主要なすべての路線について,一律10%引き下げ,少なくとも3年間は値上げしない。
② 特定便割引運賃・事前購入割引運賃の拡大
新規航空会社が大手航空会社と競争して新たな事業展開を図るために使用するための発着枠として,新たに「競争促進枠」を創設、空港施設面での新規航空会社への協力、航空機整備業務等各種業務の新規航空会社に対する支援
c.
スカイマークエアラインズ株式会社,北海道国際航空株式会社のほか,新規参入を予定している新規航空会社が存在する。
d.
結論 本件統合計画の実施により,国内航空運送分野における競争を実質的に制限することとはならないものと考えられる。
<問題> 本件についての公取委の「条件付き承認」は、「競争の実質的制限」になるか否かを判断するための最も基本的な基準は、市場構造基準、特に市場占拠率であるという通説及び公取委の立場と異なり、国内航空市場における2社寡占(JALとANA)を認めるものである。これは妥当な解釈・事実認定か?
<解答のヒント>
明示はないが、上記2社に対し、JASはずっと企業規模が小さく、かつ不採算路線を多く有していて、経営状態は長期にわたりあまりよくないという事情も考慮されたかもしれない。
b. 垂直的所有
市場の閉鎖性・排他性、協調的行動等による競争の実質的制限。
例えば、メーカーが卸売業者を合併するとき、卸売業者の市場占拠率が大きければ大きいほど、他のメーカーの流通経路を制限する可能性が大きくなる。
c. 混合型所有(conglomerate)
企業結合後の当事会社グループの原材料調達力、技術力、販売力、信用力、ブランド力、広告宣伝力等の事業能力が増大し、競争力が著しく高まり、それによって競争者が競争的な行動をとることが困難になる場合
八幡製鉄・富士製鉄合併事件(同意審決昭和44・10・30)
「有効な牽制力ある競争者」テスト → このような競争者を無理矢理に作ることが行われたが、合併当事会社の援助の下に作られた競争者が真に合併当事会社と競争するかは疑問。
企業の総合的企業力を考慮せず、シェアの高い4品目に絞って個別的判断がなされ、かつ、これら4品目につき、競争者への設備譲渡、技術提供、株式譲渡などの対応策をとれば、違法ではないとしたこと(「条件付き承認」)。
「一定の取引分野」の画定が、特に合併規制では事前審査をしなければならず、合併後に解体することは困難であるので、多くの合併審査の場合、シリアスな論点となる。
上記のテストへの批判から、今日では協調的寡占市場への警戒に重点が移っている。
第11回 070704 「独占禁止法違反行為に対する措置」
今回は、ゲストスピーカーに鵜瀞恵子氏をお迎えし、表記のテーマでお話を頂きました。
以下に掲載するのは、同氏によるレジュメです。
公正取引委員会 鵜瀞恵子
違反行為は割に合わない
行為類型により措置内容が異なる
公正取引委員会の役割が大きい
1 行政処分
(1) 違反行為者に対する排除措置命令 <平成18年度 13件>
・ 違反事実の認定及び排除措置
・ 具体的措置内容―――違反行為の取りやめ又は取りやめの確認、再発防止策、不作為命令
・ 命令内容はその都度公表する
・ 行政指導により是正を図ることもあり
(2)課徴金納付命令(平成17年改正により算定率引上げ)
<平成18年度 延べ158事業者に対し92億6367万円>
・ 対象行為―――不当な取引制限、支配型私的独占、事業者団体の不当な取引制限相当行為(いずれも対価に係るもの又は供給量、シェア、取引先を制限することにより対価に影響のあるものに限る)
・ 金額の算定方式―――違反行為の実行期間中の対象商品・役務の売上額の10%、卸・小売業及び中小企業は低率、繰り返し事業者は50%加算、早期離脱事業者は20%軽減
・ 裁量性がない(公正取引委員会に処分を義務付け)
(3) 処分に至る手続
・ 端緒―――一般からの申告、中小企業庁長官等からの通知、探知
・ 公正取引委員会による調査―――間接強制権限、立入調査、報告命令、供述録取
・ 処分の事前通知
・ 証拠説明
(4) リーニエンシー(平成17年改正) <平成18年度 79件>
・ 違反事業者が自ら違反事実を報告した場合には課徴金を減免する
・ 調査開始前の報告と資料提出―――1番目は全額、2番目は50%、3番目は30%
・ 調査開始後でも計3社までは減免
・ 単独で報告することが条件
(5) 審判(平成17年改正)
<平成18年度末係属件数 86件(独占禁止法)、7件(景品表示法)>
・ 排除措置命令及び課徴金納付命令に対する不服申立てにより開始
・ 審判官の下で3面構造により審理を行い、当初処分を見直すもの
・ 現在は改正前の手続が並存
(6) 審決取消訴訟 <平成18年度末において7件係属中(うち最高裁2件)>
・ 東京高裁専属管轄
・ 5人の裁判官の合議体
・ 実質的証拠法則
2 刑事訴追 <し尿処理施設談合、名古屋地下鉄工事談合、緑資源機構談合など>
(1) 対象行為―――私的独占、不当な取引制限、届出違反、検査妨害など
(2) 罰則―――3条違反は3年以下の懲役又は500万円以下の罰金、両罰規定、法人重科、三罰規定
(3) 実体規定違反は公正取引委員会の告発が訴訟条件(いわゆる親告罪)
(4) 公正取引委員会から検事総長に対して告発を行う
(5) 地方裁判所から審理(平成17年改正)
(6) 犯則調査権限(平成17年改正)―――裁判官の令状による臨検・捜索・差押え、物件の刑事手続への引継ぎ
3 民事訴訟
(1) 損害賠償請求訴訟(25条)―――行政処分のある場合のみ無過失損害賠償責任、東京高裁のみ
(2) 差止訴訟(24条)―――不公正な取引方法のみ、高裁所在地の地方裁判所中心、現在まで37件提訴のうち原告勝訴事例なし(和解6件)
(3) 民法709条による被害者の損害賠償請求訴訟―――発注者など、各地裁、訴訟前の請求が多い
(4) 地方自治法による住民訴訟
(5) 株主代表訴訟
4 その他の措置
(1) 業法に基づく監督官庁の措置
(2) 談合関与行為防止法に基づく要請・調査・処分
(3) 発注者による指名停止・入札参加停止
(4) 発注者による違約金・損害賠償請求
(5) 社会的信用失墜
5 公正取引委員会の役割
(1) 独立の行政委員会、5人の合議制、内閣府の外局
(2) 独占禁止法違反行為に対する措置の体系の中心をなす
(3) 規則制定権、不公正な取引方法の指定など
(4) 違反行為の未然防止の取組―――ガイドライン策定公表による法解釈の明確化、事業者からの事前相談受付け、処分の公表
(5) 公正取引委員会の組織と定員―――平成19年度末定員765名、官房・経済取引局・取引部・審査局、ブロックごとに地方事務所
(6) 平成19年度予算額 84億1600万円
6 措置体系の見直し
(1) 上記のとおり平成17年に大改正
(2) 改正法施行後2年以内の見直しの法定―――内閣府に設置された独占禁止法基本問題懇談会において、課徴金の性格、違反行為に対する措置の在り方、審判制度について議論が行われ、報告書が先月公表されたところ
(3) 団体訴訟制度・文書提出命令の特則についても検討中
|
排除措置命令 |
課徴金 |
刑事罰 |
差止訴訟 |
不当な取引制限 |
○ |
△ |
○ |
× |
私的独占 |
○ |
△ |
○ |
× |
不公正な取引方法 |
○ |
× |
× |
○ |
企業結合 |
○ |
× |
△ |
× |
△:一部の行為が対象
第10回 070627「私的独占の禁止3」
パラマウント・ベッド事件(勧告審決平成10・3・31)
東京都財務局が発注事務を所管する都立病院向け医療用ベッドにつき、パラマウント社のベッドのみが納入できる仕様書入札を実現して競争者を「排除」した。都は複数のメーカーが納入可能な仕様書による入札を実施する方針を立てていたにもかかわらず、同社は病院の入札事務担当者に対し、同社の製品のみが適合する仕様を盛り込むよう働きかけ、しかもそれは同社が実用新案権等を有している構造であることを伏せていた。
また同社は、都の実施する入札に参加する販売業者の中から落札予定者及び落札価格を決め、入札参加業者に対し入札価格を指示する等、これらの販売業者の事業活動を「支配」していることも私的独占に当たるとした。
<質問> 仮に、パラマウント・ベッドの製品のみが都立病院のベッドに相応しいと判断された場合は、パラマウントベットを売る販売業者間の入札でしかできなくなるが、これは同社が技術的に優れているからであって独占になってもやむを得ない。
ある事業者の製品しか適格性を有しないような仕様書による入札は、公共入札では避けるべきことであるとされている。しかし、前記のような場合が例外的に認められれば、その場合は、その趣旨を明示すべきであろう。
日本インテルが販売したインテル製CPUの数量がCPU国内総販売数量に占める割合は約89パーセント。
しかし、同社は、競争者であるAMD製CPUの販売数量が増加することを危惧し、以下の行為を行った。
国内パソコンメーカーが製造販売するパソコンに搭載するCPUの数量のうちインテル製CPUの数量が占める割合(以下「MSS」という。)を営業上の重要な指標とし、国内パソコンメーカーのうちの5社(平成12年から平成15年までの期間において,日本インテル,日本AMD及び米国トランスメタが当該5社に対して販売したCPUの数量の合計がCPU国内総販売数量に占める割合は約77パーセントである。)に対し,その製造販売するパソコンに搭載するCPUについて、
ア MSSを100パーセントとし,インテル製CPU以外のCPU(以下「競争事業者製CPU」という。)を採用しないこと
イ MSSを90パーセントとし,競争事業者製CPUの割合を10パーセントに抑えること
ウ 生産数量の比較的多い複数の商品群に属するすべてのパソコンに搭載するCPUについて競争事業者製CPUを採用しないこと
のいずれかを条件として,インテル製CPUに係る割戻金又はMDFを提供することを約束することにより,競争事業者製CPUを採用しないようにさせる行為を行っている。
<法令の適用>
日本インテルは,前記5社に対するCPUの販売に係る競争事業者の事業活動を排除することにより,公共の利益に反して,国内パソコンメーカー向けのCPUの販売分野における競争を実質的に制限しているものであって,これは,独占禁止法第2条第5項に規定する私的独占に該当し,独占禁止法第3条の規定に違反するものである。
本件は、忠誠リベートに基づく排除を初めて私的独占にしたという意義がある。
以下の事実認定は重要。
「インテル製CPUについては,その国内における販売数量がCPU国内総販売数量の大部分を占めており,また,パソコンを購入するものの間において広く認知され,強いブランド力を有している。さらに,日本インテルは,価格,機能等の面において上位から下位までのほとんどすべてのパソコンに対応するCPUを国内パソコンメーカーに安定的に供給するとともに,従来のCPUに比して性能を向上させるなどしたCPUを次々に販売している。このため,国内パソコンメーカーにとって,その製造販売するパソコンの品ぞろえの中にインテル製CPUを搭載したパソコンを有することが重要となっている。」
AMDなどと異なり、日本インテルは、国内パソコンメーカーにとって不可欠な取引相手である、ということであろう。
これに対し、AMDについては、「国内パソコンメーカーが,特に,価格,機能等の面において中位から下位までのパソコンにAMD製CPUを搭載し始めた」という事実認定がある。
ここから、日本インテルは、上位のパソコンについては独占的供給者であることをテコとして、より競争的な中位から下位までのパソコンに搭載するCPUについて、パソコンメーカー5社に対し排他条件を押し付けることができたと推測される。
リベートについては、以下のような判断基準に見られるように、「実質的値引きと認められるリベート」とそうではないリベートとの違いを見分けることが重要である。
公取委の流通・取引慣行ガイドライン(第3部第3 「リベートの供与」)
リベートは、「価格の一要素として市場の実態に即した価格形成を促進するという側面も有する」が、「リベートの供与の方法によっては,流通業者の事業活動を制限することとな」る。
なお、インテル日本法人の広報室は、「今回の排除勧告は受け入れる。しかし、公取委が指摘する事実や法令の適用を認めるものではない」と述べた。同社によると、パソコンメーカーが3─4カ月ごとにモデルチェンジする度に、同社は、採用されるCPUに関してパソコンメーカーと価格交渉を行っており、競合他社と厳しい競争をしているという。排除勧告を受け入れた理由として、同社の広報室は、「今回の排除措置の枠組みでも顧客の要望に十分応えることができる。また、顧客や自社も含めて長期にわたる行政手続きにさらされる不都合を回避するため」と説明している。 (ロイター) 平成17年4月1日13時11分更新
ここには、平成17年法改正前の「勧告審決」制度の問題点が出ている。同改正で、勧告審決はなくなったが、上のような企業側の戦略的な対応は、今回の改正法の下でも、排除措置命令に対し審判請求をせずに従うという形であり得るかもしれない。刑事罰・損害賠償請求等の動きもない場合には、「排除」による私的独占には課徴金はかからないなど、制裁が不十分であるから。
もっとも、本件における公取委による排除措置は、かなり周到にインテルのリベート政策を否定したもののようにも見えるので、上記のインテルの説明はやや強がって見せたに過ぎないという面もあるのかもしれない。
第9回 070620 「私的独占の禁止2」
「私的独占の禁止2」
野田醤油事件=東京高判昭和32・12・25
醤油製造業でシェア第1位の野田醤油が、自己の指示する価格以下で販売する小売業者に対し出荷停止や取引拒絶などの措置を採ったことが、他の醤油製造業者3社の事業活動の「支配」に当たるとされた。
本判決では、野田醤油がその卓越した事業力と自己のブランドに対する消費者の信用を背景に、上記の諸措置によって小売価格を斉一に維持し、他の3社も野田醤油の商品と同一価格にしないと最上の格付けを維持できないという状況の下で、3社に対しプライス・リ−ダ−の地位を形成・維持していたことが、他社の事業活動を支配したとされた。
野田醤油は、競争事業者である3社に対しては直接には何らの行為をしてはいないが、上記のような格付けに関する状況を踏まえて、市場全体に対する自己のプライス・リ−ダ−シップを確保・強化する目的で再販行為をしたことは、3社を支配したことになるとされたのである(ここから、「間接支配」と呼ばれる)。
<質問> 消費者が、「キッコーマン」というブランドを信頼したのであるから、野田醤油がプライス・リ−ダ−の地位を形成・維持したことは何ら責められるべきではないのではないか?
野田醤油の採った手段が問題。再販売価格維持行為は、原則違法とされている。
理由:すべての小売店で、その商品の小売価格が一緒になるから
→ 小売店による価格カルテルと同じことになり、小売業者の経営努力を無駄にしてしまう。
シェアトップの野田醤油の製品が、再販行為によって、どこのお店に行っても同じ価格で売っており、値崩れがない。
→ 価格とブランド力(「消費者の信頼」)は、強い関連性がある。
→ 他の3社は、末端価格が野田醤油より低くなるとトップ・ブランド4印という看板を失うことになるから、野田のプライス・リーダーシップに従った価格行動をとらざるを得ない。
→ 3社はブランド力だけでなく、価格などの販売面でも野田醤油に対して従属的になった。
パチンコ特許プール事件(勧告審決平成9・8・6)
パチンコ製造業者10社と(株)日本遊技機特許運営連盟が、パチンコ機の製造上重要な特許を所有し、それらを同連盟が管理・運営することにより集積し(「特許プール」の形成)、それを新規参入者に実施許諾しないことを申し合わせ、新規参入を排除していた。
特許権の「行使と認められる行為」に対しては、独禁法は適用除外とされている(法21条)。しかし、当該行為が技術保護制度の趣旨を逸脱し、又は同制度の目的に反すると認められる場合には、独占禁止法が適用される。
<質問>
1.共同ボイコットだとすると、不当な取引制限ではないか?
2.特許権を持つ者が、新規参入を阻止しようとしてライセンス(特許権の実施許諾)を与えないのは当然ではないのか?
「特許権」――ある特定の技術に対しての独占を認めるもの。しかし、技術独占と市場独占とは全く異なる次元の問題。後者は競争が行われる場(「一定の取引分野」=(関連)市場)の中で考える必要がある。
第一に、当該技術あるいは同種の技術をめぐる取引市場があり得るとして、ある特定の技術が知的財産権を有することと、それが関連市場において独占的になるかどうかは別の事柄。
第二に、当該技術を用いて製造された製品(本件ではパチンコ機)が、その製品に関連する市場において競争上どれだけ独占的になるかは、実態上の競争いかんにかかっている。
「実施許諾」―――他者にライセンスを認める義務は原則としてない。
しかし、本件では、既存パチンコメーカーが保有する特許権の公開・実施許諾を管理していた連盟が、新規参入者に対して実施許諾を認めなかった。
→ パチンコ機市場への、実質上の新規参入拒絶
→ 技術の独占という特許権の範囲を超えて、市場の独占を図ろうとした=「排除」に当たる。
既存の事業者による新規参入者に対する共同ボイコットだとすると、不当な取引制限としても構成できたケース。この場合は、違反行為に対し課徴金が課される。
<質問>
それでは、連盟とそれの構成事業者は、どうしたら独占禁止法違反とならないのか?
a. 連盟=「特許プール」を解散しなければならないのか?
b. 解散したら、個々の事業者は新規参入者に実施許諾することにつき、どのような方針をとればいいのか?
c. 解散しない場合、新規参入者に実施許諾しない旨の申し合わせを廃棄するとして、今後は、実施許諾はどういう方針で行われるべきか?
<解答のポイント>
a. 連盟=「特許プール」を解散しなければならないのか?
答えは、No. 特許プールには、煩雑なライセンス事務を一手に引き受けるなど、効率化に資するものであるから。
c. 本件プールが、ほとんどすべての特許等を集積したものであることが前提。そうでなければ、独占禁止法上の問題は起きない。
本件プールを存続させるとすると、既存の事業者とそれ以外の事業者を差別し、後者へのライセンス等を拒否、あるいは不当に差別的な条件で提案することは止めなければならない。
このことは、b.の答えでもあって、特許プールを利用しない場合であっても、既存の事業者のほとんどすべてが参加するカルテルを形成し、上記と同様に、既存の事業者以外の事業者へのライセンス等を拒否、あるいは不当に差別的な条件で提案するような申し合わせをして実行することは違法となる。
① 行政処分(7条など)=公取による排除措置(違反行為をやめろ、という命令が基本)
②課徴金(7条の2、8条の3) ← 価格に影響のある不当な取引制限と、「支配」による私的独占、事業者団体による同様の行為の場合。
③ 損害賠償または差止請求(24条、25条、又は民法709条)=被害者からの私的救済
④ 刑事罰(89条など)
課徴金の趣旨は、不当な利益の徴収。
これは本来は、被害者からの損害賠償で取り戻すのがスジである。しかし、これは実際上はほとんど不可能であり、違法行為の「やり得く」になってしまうということに対処するということから、制度化された。
典型は、価格引き上げカルテルの場合であり、不当な利益に相当する分を制度的に擬制して国が徴収。これは、支配による私的独占でも同様であるとして、平成17年改正(本年一月から施行)で、これも課徴金の対象とされることになった。
<質問>
共同ボイコットだとすると、私的独占ではなく、不当な取引制限ではないか?
それなら、課徴金を課すことができるのに---?
<解答のポイント>
課徴金を課される場合には、本件の連盟・参加事業者は違法でないと主張して争うことが予想され、公取委はこれを嫌ったのではないか、という推測も可能(真偽は不明)。
その際の予想される争点は、第一に、ライセンスは特許権の行使であるから、独禁法21条によって、独禁法の適用除外を受けるはずである、第二に、本件でプールに集積された技術は、必ずしも代替性のない技術ではなく、ライセンスを受けなくても製造が可能である、の2点であろう。
市場:我が国における業務店向け音楽放送の提供
行為者の地位:業務店向け音楽放送の契約件数の72%のシェア(キャンシステムのシェア20%)
※違反行為前 有線ブロードネットワークス68%、キャンシステム26%
違反行為:キャンシステムの顧客を奪取するため、同社の顧客に限って料金値下げ(排除)
※キャンシステムの運営を困難にし、音楽放送事業を有線ブロードネットワークスに売却させることを企図
有線ブロードと日本ネットワークヴィジョン(有線ブロードの代理店)は、キャンシステムの顧客を奪取するため、切替契約に限って月額聴取料を廉価で提供し、しかもその無料期間を6か月とした。
キャンシステムもこれに対抗して値下げ。
しかし、平成16年7月末時点で、有線ブロードが72%に上昇、キャンシステムは20%に減少。
審決-----有線ブロードと日本ネットワークヴィジョンは、「通謀して,キャンシステムの音楽放送事業に係る事業活動を排除することにより,公共の利益に反して,我が国における業務店向け音楽放送の取引分野における競争を実質的に制限していた」。
本件は、二社寡占市場における料金競争において、トップ企業による攻撃的な料金戦略を私的独占とした点で、電気通信や電力、ガス等の公益事業などにおける同様の競争状況に一石を投じたことになろう。
マイクロソフト社の「コンペティティブ・アップグレード」価格戦略
これまでにも、例えば、パソコンで使う表計算ソフトウエアの分野で、1991年に、「コンペティティブ・アップグレード」が問題になったことがある。
当時の支配的なソフトであった「ロータス1・2・3」に対し、マイクロソフト社は、「エクセル」の販売につき、ロータスからの乗り換え客に対し、エクセルのバージョンアップ価格だけで提供することにした。
仮に数字であるが、ロータス、エクセルともに、新規購入価格は5万円、そのバージョンアップ価格も、それぞれ1万円とした場合、ロータスからエクセルへの乗り換え客は、本来は新規購入価格5万円を支払わなければならないが、これを1万円としたことになる。
これによって(かどうかは分からない。顧客がエクセルを支持したからという理由も考えられる)、エクセルは急速に顧客を獲得し、数年後には表計算ソフトウエアの分野で独占的地位を得た。
エクセルの新規購入者は5万円であるのに、乗り換え客は1万円であるから、「差別対価」であるが、これが不当かどうか、競争者を不当に排除する性格のものかという点で、上の有線ブロード事件と同様の行為である。ただし、本件では何らの措置もとられなかった(米国も同様)。
これは、表計算ソフトウエアの分野が急速に変化、発展しつつある分野であること、ソフトの原価は開発までのコストが膨大であるのに対し、個々の商品の製造コストは僅かであること、また、価格はかなり戦略的に設定されるのが通常であること、上記の価格戦略の故にエクセルがシェアを伸ばしたという因果関係が不明であること、など特殊な事情があったからと推測される。
第8回 070613「独禁法の国際取引への適用、私的独占の禁止1」
7-1. 実体上の域外管轄権(=立法管轄権)と手続上の域外管轄権(=司法管轄権、及び執行管轄権)の区別。
立法管轄権 :独禁法の実体的規制をどこまで及ぼせるか?
司法管轄権 :裁判・判決をすることができるか?
執行管轄権 :独禁法に基づく行政上の手続を実施できるか?
前者(実体上の域外管轄権)については、個別具体的な行為を問題にする際に、「一定の取引分野」の画定の仕方、「公正な競争」の範囲について明らかにする必要がある。
後者(手続上の域外管轄権)は、各国の主権の尊重とのからみがあり、ある国が自国の独禁法の管轄を独自に広く解することは主権侵害となるおそれがある。
7-2. 実体上の域外管轄権は広がりつつある。
属地主義:「自国の競争法を適用するためには外国事業者の行為の少なくとも一部が自国内で行われる必要がある」との考え方(伝統的考え方)
効果主義:「外国事業者の行為のすべてが国外で行われてもその競争制限効果(一般に、当該行為の直接的、実質的かつ予測可能な効果に限定される)が自国内に生ずる限り自国の独禁法を適用できる」との考え方(最近の考え方)
7-3. 手続上の域外管轄権は、各国の相互関係から多様な展開。
歴史的には、国際カルテルを禁止することが、戦後の世界経済の自由競争を促進、担保することにつながるという原則論と、各国の独自の経済・産業事情によって独禁法を適用し、あるいは適用しないという各国の個別の政策とが相反しつつ共存。
具体的には、米国の反トラスト法の広い「域外適用」に、各国がどう対抗、対応するかという観点と、各国の独禁法の平準化の進展とともに、各国で相互に協力しながら、それぞれの独禁法を適用していくことにより、国際的な競争制限行為を禁止・抑制していく、という傾向がともにある。
○化合繊カルテル事件=審決昭和47年12月27日
国内繊維メーカー3社は、アクリル紡績糸につき、イタリア・ミラノ市/京都市で、ヨーロッパメーカーと会合して、お互いの輸出地域・輸出数量等を決定 → 6条違反
「アクリル紡績糸の当該地域(ヨーロッパのこと)向けの輸出取引の分野における競争を実質的に制限」
○天野・ノボ事件=最判昭和50年11月28日
本件において、公取委は、独禁法六条が不当な取引制限または不公正な取引方法に該当する事項を内容とする国際的協定・契約の締結それ自体を違法としており、外国事業者に対する手続上の域外管轄権が認められなくとも、日本の事業者のみを被審人として外国事業者との間で締結された協定・契約の違反条項を破棄させることができるとの考え方の下で、不利な拘束条件をつけられた日本側の天野製薬だけに、違反条項の破棄を求めた。
この場合、不利な拘束条件をつけられた側(天野製薬)は、拘束条項の破棄が自分に有利であるため、一般的には公取委と積極的に争わずに命令に従う。しかし、それでは、相手方の外国事業者(ノボ社)に実質的な告知と防御の機会を与えないこととなり、法の適正手続の要請に反するものであるという批判が強い。
また、拘束条項を破棄された外国事業者(ノボ社)は、契約相手(天野製薬)が公取委と積極的に争ってないことが契約締結当事者間の信義則に違反するということを理由に、天野製薬に対し損害賠償訴訟を提起する可能性も考えられる。この場合、被告側の、「仕方なく公取委の命令に従った」という抗弁が裁判上認められるかは不明であり、これが認められない場合は、損害賠償請求に応じなければならなくなる。
これについては裁判における主張・立証の仕方なども含め不確定要素が多いが、勧告に対し争わずに応諾したことから、信義則違反などを理由に責任を負わされることもあり得るであろう。
ノボ社は審決取消請求をし、最高裁まで争ったが敗訴。ノボ社の主張を公取の審査等のどこかできちんと聞いて議論する機会を与えるべきであり、その手続的保証があるべき。
○ノーディオン事件=公取委勧告審決平10年9月3日
この事件では、上記の天野・ノボ事件と異なり、外国事業者それ自体を被審人とし、かつ、当該事業者が域外適用か否かについて争わなかったので、私的独占とされた。
属地主義的理解?
「ノーディオンは・・・・日本メジフィジックスとの間で、平成8年8月26日に、東京都に所在する日本メジフィジックスの東京本部において、『日本メジフィジックスが取得、使用、消費又は加工するモリブデン99の全量をノーディオンから購入しなければならない』旨の規定を含む平成17年末までの10年間の契約を締結した。」
効果主義的理解?
「・・・我が国におけるモリブデン99の取引分野における競争を実質的に制限していたものであって、…独占禁止法第3条の規定に違反するものである。」
○ビタミン国際カルテルに関する警告事案(平成13年4月)
国内製薬メーカーがヨーロッパメーカーとビタミンの販売について、世界市場及び日本を含む地域別市場ごとの販売予定数量を共同して決定 → 3条又は6条違反の疑いで警告。
公取委は、本件で違反事実を立証するだけの証拠を入手できなかった模様。同じ事件で、欧米では、司法取引などによって違反行為を認定したので、昨年の独禁法改正における課徴金減免制度の導入につながった。
第1節 総説
* 用語とその意味をしっかり理解しておくこと。法律は、「言葉」による社会認識、及び社会統制という面がある(この他に、法による社会統制は、政策遂行のための手段、ないし、社会的価値観=「正義」の実現という性格を持っているのであるが)。
「集中」=ある特定の市場、又はある国民経済全体の中で、単独あるいは少数の大企業がその大きな部分を占めるようになること。これには、「市場集中」と「一般集中」がある。
「市場集中」=特定の市場において、売手・買手がどのような相対的規模をもっているかという観点から、1ないし少数の者がその大部分を占める傾向を指す。これは、市場構造基準のうちの市場占拠率(marketshare、「シェア」)などによって表される。
「一般集中」(「経済力の集中」=「事業支配力の集中」とも呼ばれる)=ある国民経済全体において、少数の個人及び大企業が大きな割合を占めるようになること。
「ゆるい結合」loose combination=単なる合意による、緩い、一時的、部分的な結合
「固い結合」close combination=株式所有や合併、買収、などの企業組織上の手段による、固い、継続的、全面的な結合
上の2つの区別は、ほぼ「不当な取引制限」(=カルテル)規制と、「私的独占」・「企業結合」規制に対応。
カルテルは、市場集中をもたらすのではなく、逆に、現状固定を狙う性格。
私的独占・企業結合規制は、各市場の集中が進み、競争の実質的制限に至ることを阻止。
市場集中は、大企業が当該市場において企業規模や売り上げを伸ばすことから生じる。
「外部成長」------他企業を合併するなど、「固い結合」によって、企業規模を拡大し、あるいは売り上げ、シェアを伸ばすこと。企業結合規制の対象となる。
「内部成長」------企業の製品が市場で売り上げを伸ばし、シェアを伸ばすこと
例えば不当廉売によって、シェアを伸ばし、競争者を市場から駆逐することは、独禁法上は正当な内部成長とは見なし得ない。
例えば、かつてのIBM(ハードウェアのシェアが90%)は、ハードウェアをソフトと抱き合わせて販売
→不当な独占力の拡張という非難、数多くの反トラスト法訴訟を受けた。
→そのため、IBMは、ハードウェアとソフトウェアを分離。マイクロソフトのOSを採用。それが市場で正当に評価されて、「内部成長」でシェアが90%以上となったのであれば、独占禁止法上は違法ではなく、むしろ競争のノーマルな現象。
独占禁止法上は、どのような競争行為、競争過程によって集中が進んだかが問題となる。
(1) 私的独占の意義
私的独占とは、「事業者が、単独に、又は他の事業者と結合し、若しくは通謀し、その他いかなる方法を以てするかを問わず、他の事業者の事業活動を排除し、又は支配することにより、公共の利益に反して、一定の取引分野における競争を実質的に制限すること」と定義されており(独禁法二条五項)、これを受けて、「事業者は、私的独占又は不当な取引制限をしてはならない」という禁止規定が置かれている(三条)。
「私的」とは、公的独占、すなわち制度上認められた独占(例、郵便、水道)以外の独占という意味である。さらに、「してはならない」という法三条の文言からも明らかなように、独占(monopoly)という状態を禁止しているのではなく、独占する行為=独占的行為(monopolize)が対象とされている。
「競争を実質的に制限すること」の意味は、市場支配力を形成・維持・強化することであるから(前述)、「独占」と言っても、多様な形態があり得る。
a. ある市場において文字通り一者のみが売り手または買い手となること(完全独占)。
b. 少数の事業者が互いの競争を抑制し、すなわち協調的にある市場を支配する場合(「協調的寡占」)
c. 一者のみがダントツに大きく、他の競争事業者はこれに真正面からは対抗できない場合(「ガリバー型寡占」)
(2) 行為要件=「排除・支配」、市場要件=競争の実質的制限
前記の私的独占の定義規定のうち、「……を問わず」までは、事業者の単独行為か通謀等によるかを問わないとするだけであり、実質的な行為要件は、その後にある「排除し、又は支配」である。
「排除」とは、市場支配力を獲得あるいは強化しようとする様々な行為によって、他の事業者が独自の事業活動を続けること、あるいは新規参入を著しく困難にすることをいう。例えば、豊富な資金力を背景に不当廉売を長期的に継続し、競争者が当該商品を扱えなくするとか、あるいは原料の買占め等で新規参入を困難にすることなどが、反競争的な排除に当たる。
「支配」とは、他の事業者を直接間接に拘束しあるいは強制することによって、その事業活動を自己の意思に従わせることである。企業の事業活動についての自主的な決定を行い得ない状態をもたらす行為と言い換えることもできる。
「行為要件」である「支配」・「排除」は、当該行為の具体的な態様・意図または市場に対する効果等から、通常の(ノーマルな)企業活動と区別される。例えば、他の会社の株式保有は、それだけで企業支配を可能にするが、単なる企業支配を超えて、特定の反競争的意図から被支配企業に対し具体的に特定の行為を命じ、または禁止すること(東洋製罐事件では、市場分割や自家製缶をなす買い手には売らないように命じたこと)は、株主としての利益のための指図を超えて、東洋製罐自身の戦略的利益のための行為と評価される。
東洋製罐事件(これは「競争の実質的制限」の項で説明した)
第7回 070606 「一定の取引分野、競争の実質的制限」
(1)「一定の取引分野」の意味
「一定の取引分野」とは,多くの取引が互いに影響しあい、競争が行われる場,すなわち一定の供給者群と需要者群との間に成立する「市場」である。
私的独占などの要件である「競争の実質的制限」や「公正競争阻害性」の存否が判断されるのは,「一定の取引分野」においてである。
具体的な競争制限・阻害行為が行われ、それが影響を与える範囲として、「一定の取引分野」が画定される。具体的には、私的独占の禁止等に反する疑いのある行為が「競争の実質的制限」に当たる行為か否かを判断する際に、当該行為がどの範囲の競争に影響を与えるのかを画定しておく必要がある。
この場合、「一定の取引分野」と「競争の実質的制限」・「公正競争阻害性」は、互いに関連して判断される。
「不当な取引制限」=俗に言う「カルテル」の場合は、それが実効性をもって行われれば、当該カルテルの対象がそのまま「一定の取引分野」であるので、「一定の取引分野」をとりたてて画定する必要はない。それが実効性を持ったということは、そのカルテルの対象である商品や地理的範囲で競争が制限され、それが隣接市場の影響を受けなかったということであるから。
これに対し、合併などの「企業結合」規制の場合は、影響が出る前に判断しなければならないので(=「事前規制」)、この「一定の取引分野」画定の問題が特に重要となる。
「一定の取引分野」の範囲は,共通する取引の対象,段階,地域、相手方等によって画定 → 「商品市場」(取引の対象による市場の画定)、 「地理的市場」(地域による画定)
商品市場の画定の基準
(a) 当該商品・役務の用途,性質,価格などを総合的に考慮することにより、主として需要面での合理的な代替可能性があるか否か
(b) 供給面での合理的な代替可能性が補完的に考慮されることもある
(2)地域による「一定の取引分野」の画定
集中の例として、東宝・スバル事件・独禁法百選(第四版)16頁以下----資料2配布
「営業の重要部分の賃借」(独禁法16条3号)に該当する本件契約の締結が、一定の取引分野における競争を実質的に制限することとなる場合」に該当し違法であると判断された。
・公取委審決(昭和25・9・29)
一次的:丸の内・有楽町界隈(8/10 90.4%)、二次的:東京都興業組合銀座支部の管轄地域(8/20 57.9%)、という二段構えの判断方法。
・東京高判昭和26・9・19)、最判(昭和29・5・25)
旧東京市の全部から判断すべきとする原告の主張を否定。上の銀座で見るべきとした。
(3)商品または役務(=サービス)による「一定の取引分野」の画定
PHS、携帯電話、固定電話の3者は、別個の商品・サービスであり、別個の市場か。
PHSと携帯電話は、ユーザーにとってほぼ同様の用途のためであるから、当初は競合すると見られていた。→ ドコモによるNTT系PHS会社の吸収合併は、競争を制限するかについて公取委の審査、容認。
その後、PHSより携帯電話の方が優れているという漠然としたイメージが広まったこともあり、後者の利用者が急増。そのことが、更なる料金の低下をもたらし、携帯電話会社間の競争が激化、それがサービスの差別化を進めることになった(iモードなどのメール・ブラウザー機能の付加)。
* 総務省「IP化の進展に対応した競争ルールの在り方について」(06年9月)25頁
携帯電話とPHSの音声電話サービスの代替性 → 同一市場
ただし、「PHSについてはデータ通信への需要が比較的堅調であり、PHS市場を部分市場として画定」
携帯電話の料金の急激な低下によって、今度は固定電話との競争が表面化。固定電話を持たず、携帯だけのユーザーも増える。
→ 携帯電話と固定電話は同一の「一定の取引分野」を構成するという可能性。
ここから、東西NTTとドコモが兄弟関係にあることは、企業結合による競争制限につながるのではないか、したがって、NTT持株会社のドコモへの出資割合をより低下させるべきだ、という政策課題が提示された。
(公取委・政府規制等と競争政策に関する研究会「電気通信事業分野における競争政策上の課題」平成12年6月、郵政省・電気通信審議会「IT革命を推進するための電気通信事業における競争政策の在り方についての第1次答申」平成12年12月)。
(4)取引段階、取引の相手方の種別
競争関係は、一般に取引段階を同じくする事業者間において成立する。
生産者→卸売業者、卸売業者→小売業者および小売業者→消費者という取引段階ごとに別個の「一定の取引分野」が構成される。
(1)「競争の実質的制限」= 特定の事業者または事業者集団が市場支配力を形成・維持・強化している状態
東宝・新東宝事件=東京高判昭和28・12・9、独禁法判例百選(第3版)----資料3配布
市場支配力の形成・維持・強化とは,典型的には市場における価格その他の取引条件を支配する力または市場の開放性を妨げる力を形成・維持・強化すること。
現実に価格が引上げられたとか、事業者が市場から排除された、などの結果が現れることを必要とするものではない。
市場支配力は相対的な概念であり,その内容は必ずしも一義的ではない。一方の極では,経済学でいう「完全競争」の条件が欠ける場合には常に市場支配力が形成されるとみることもでき,他方の極では,「完全独占」に至ってはじめて市場支配力が形成されるとみることもできる。
独禁法の現実の解釈・運用においては,「有効な競争」を期待することがほとんど不可能な状態をもたらす場合に市場支配力が形成されるとして,上の「完全競争」と「完全独占」の間に「競争の実質的制限」があり得る、という中間的な立場がとられている。
「競争の実質的制限」の存否の基準---当事会社の属する業界の実情,各取引分野における市場占拠率,供給者側および需要者側の各事情,輸入品および代替品の有無ならびに新規参入の難易などの経済的諸条件を総合的に考慮(公取委ガイドライン)
経済学上の有効競争の基準のうち、主として「市場構造基準」の利用が、補助的に「市場成果基準」の利用がそれぞれ一定の有効性を発揮することになる。
(1)競争が有効に機能していれば、当該市場における価格などの取引条件は、市場が決め、参加者はそれに従わざるを得ないはず(price taker)。
しかし、実際には、ある程度の市場力を有して、自己の市場戦略をかなり通すことができる企業もある(price maker)。
(2)現実の多くの市場は、経済学上の「完全競争」ではなく、大企業がある程度の市場力(market power.「市場支配力」まではない場合を含むこととする)を有している。
「競争の実質的制限」は、「市場支配力」の獲得・維持・強化のこと。
独占(Monopoly)・寡占(Oligopoly)・多占(Polypoly)
寡占は、「高度寡占」、「低度寡占」等々の分類がある。事業者の数、そのシェアの分布、需給の状態、関連市場の関係等から、競争的にも、反競争的・協調的にもなり得る。
price leadership, conscious parallelism
例:かつてのビール、全国紙、数年ほど前までの固定電話発携帯電話着の料金
これらの場合、「意思の連絡」、合意がないから、「不当な取引制限」には当たらず、独禁法違反ではない。
しかし、競争機能が十分に機能していないのであり、取引の相手方(特に消費者)は不当な取引条件を押し付けられているから、何らかの対応が必要なはず。
現行の独禁法では、「独占的状態に対する措置」(8条の4)があるが、不十分。
(3)市場支配力が、競争の中で自然に獲得されたものか、それとも競争制限を目的とする反競争的行為によって獲得されたか、をみることが重要。
例、東洋製罐事件=公取委勧告審決昭47年9月18日
この東洋製罐事件では、東洋製罐の行為が「私的独占」(これについては、すぐ後の8.で説明する)に当たるとされた。私的独占の行為要件は、「他の事業者を支配又は排除する」であり、この要件に該当するか否かにおいて、上記の反競争的行為の判断がなされる。
この事件では、同社がわが国の食缶供給の56%を供給し、系列下にある4社をも含めると74%に達するという支配的状態の下で、これら系列4社に対し、役員派遣、株式保有、あるいは各種の事業活動への干渉を行ったことが「支配」に当たり、また、その買手である缶詰製造業者が自家製缶を始めようとしたことに対し、供給停止などで圧力を加えて阻止したことが、「排除」に当たるとされた。
私的独占でも不当な取引制限でも、「支配」、「排除」などの行為要件に該当し、かつ「競争の実質的制限」(=市場要件。市場支配力の獲得・維持・強化)に当たる場合にのみ規制が発動される。「競争の実質的制限」に当たることだけで違法とされるわけではない。
「競争の実質的制限」の判断基準のうち最も重要な市場構造基準のうち、特にシェアが高い企業でも、具体的な行為がどのようなものであったかが問われる。シェアが高いという状態だけでは、独禁法違反にはならない。
シェアが高い事業者または独占状態にある事業者の例として、公益事業を営むNTT東西(地域通信市場)、各電力会社、都市ガス会社、上下水道など。
米国のマイクロソフト社も、パソコンOS市場では各国で90%を越えるシェア。
ただし、これらの事業者が、その地位を利用して取引の相手方に対して強圧的行動をとったり、競争者を排除したという行為が、独禁法(反トラスト法)違反とされることはある。
(4)また、この場合、price makerとなったトップ企業に対し、競争事業者がどう対抗するかも、「市場支配力」の有無ないし程度を判断する要素の1つ。
正面から価格や新製品で競争を挑む場合は(70年代末、オートバイ市場におけるホンダに対するヤマハの競争的挑戦の失敗例)、競争的寡占であるが、それが失敗に終わったということはホンダの支配力が強いことの証明でもある。
リーダー企業と同一またはそれよりやや低い価格で追随する場合、競争は不十分である。野田醤油事件=東京高判昭和32・12・25、80年代の長距離通信市場、携帯3社はどうか?
リーダー企業が、競争事業者を「支配」していて、後者は競争的な行動を控える。野田醤油事件判決は、これを「間接支配」と表現した(野田の販売事業者に対する「直接支配」だけではない、という含意)。
(5)さらに、新規参入を阻止しようとする行為は、それが一定の効果を持つ限りで「競争の実質的制限」に当たることが通常。
例、前掲の東洋製罐事件
例、日本遊戯銃協同組合事件=東京地判平成9・4・9
遊戯銃には衝撃度合についての銃刀法上の規制があり、これに上乗せして、同組合は法的基準よりも厳しい自主規制を行っていた。
ある遊戯銃メーカーが、法的基準以下ではあるが組合の自主規制を超える製品を販売したところ、組合は卸・小売業者に対して、当該製品を販売するならば、その他の組合所属メーカーの製品を供給しないと脅して、当該商品を市場から排除した。
競争事業者の販売ルートを遮断するという点で、新規参入阻止の典型的事例。
しかも、本件では自主規制は形骸化していて、利用者の安全確保というのは名目に過ぎず、本件行為は単に競争力の強いアウトサイダーを排除しようとした事例であるので、競争事業者を不当に排除した違法行為と判断された。
第6回070516「独禁法の目的、『事業者』の概念
5.独占禁法の目的
5-1 一条の目的規定
(1)1条を分解すれば、以下の3つの部分に分けられる。
a. 「私的独占、不当な取引制限及び不公正な取引方法を禁止し、事業支配力の過度の集中を防止して、結合、協定等の方法による生産、販売、価格、技術等の不当な制限その他一切の事業活動の不当な拘束を排除することにより、」----独禁法における諸規定の内容
b. 「公正且つ自由な競争を促進し」----直接目的
c. 「事業者の創意を発揮させ、事業活動を盛んにし、雇傭及び国民実所得の水準を高め、以て、一般消費者の利益を確保するとともに、国民経済の民主的で健全な発達を促進すること」-----間接目的
本法の立法目的を示している本1条は、直接的に「規範」としての性格を持つものではく、当該法律全体の性格を規定し、それに基づき各規定の解釈基準となる。
本条は、規範ではないから、1条違反ということはあり得ない。独禁法における規範として、例えば、3条、8条、19条を参照。
第三条 事業者は、私的独占又は不当な取引制限をしてはならない。
第十九条 事業者は、不公正な取引方法を用いてはならない。
*「規範」は、その名宛人に対し、ある行為をすることを命令し、または禁止する。
是非善悪判断の基準。通常,「~すべし」「~すべからず」という形で表現されるが,「~してよい」(禁止されていない,許される),「~する権利がある」などの命題の形をとることもある。その起源や違反への制裁によって,道徳規範,宗教規範,習俗規範,法規範などに分類される。
独禁法の目的をどう理解するか? 特に、直接目的と間接目的の関係は?
第一説(通説)----「公正かつ自由な競争」の促進それ自体が目的。
第二説(政府の産業政策を進める立場)----究極的な目的である「国民経済の民主的で全な発達の促進」に合致する限りで、競争政策がとられ、合致しない場合はそれ以外の政策がとられるとの考え方。
これに基づき、かつての日本政府は、非法的な、あるいは適用除外法などにより、集中(合併促進など)政策や、過当競争防止のためのカルテル容認政策をとった。
* 過当競争----経済学では否定。伊藤元重ほか『日本の産業政策』(東大出版会、1985年)223頁、ラムザイアー『法と経済学』(弘文堂、1991年)163頁を参照。
第三説--- 一般消費者、中小企業などの経済的従属関係にある者の平等権の確保。
通説も、競争がもたらす法的価値についての理解(本項の末尾を参照)を踏まえれば、あるいは、「公正な」競争の解釈によっては(この点は後期に扱う)、この説と同じこととなる。
第四説---石油カルテル刑事事件=最判昭和59・2・24は、上記1と2の中間的立場。
(2)上の法目的に関する議論は、具体的な禁止規定(3条、2条5項・6項)における「公共の利益に反して」という要件の解釈と重なっている。
私的独占および不当な取引制限は、いずれも「公共の利益に反して」競争を実質的に制限する行為とされている。しかしながら、この「公共の利益」が何を意味するかについては、従来から、独禁法の立法目的の捉え方に関する意見の対立(前記の第一説から第四説)にほぼ対応した意見の対立がみられる。
第一の見解----自由競争経済秩序の維持それ自体(通説。審決例・判例も)
第二の見解----より高次の生産者・消費者を含めた国民経済全般の利益
第三の見解----中小企業者・消費者などの経済的従属者ないし弱者の利益
第四の見解----石油価格カルテル刑事事件・最高裁判決(昭和五九・二・二四)
「独禁法の立法の趣旨・目的及びその改正の経緯などに照らすと、同法2条6項にいう『公共の利益に反して』とは、原則として独禁法の直接の保護法益である自由競争経済秩序に反することを指すが、現に行われた行為が形式的に右に該当する場合であっても、右法益と当該行為によって守られる利益とを比較衡量して『一般消費者の利益を確保するとともに、国民経済の民主的で健全な発達を促進する』という同法の究極の目的に実質的に反しないと認められる例外的な場合を右規定に言う『不当な取引制限行為』から除外する趣旨と解すべき」である。
ただし、本判決は、この事件の価格カルテルがこのような意味での「公共の利益に反して」の要件を満たさないとしているわけではない(=上の説示は「傍論」。すなわち、事件の解決を直接導く「判決理由」ではない)。
その後もこの理論にそのまま従って判断した判決は出ていず、どのようなカルテルがこれに当たるかは不明のままである。
学説の多くからの批判
a. 実質論として、この最高裁の考え方では、カルテルを適法とすべきか否かの判断基準が極めて曖昧、不確実。
b. 実際にそのような基準によってカルテルが適法とされる、例外的場合があるのかどうかも極めて疑わしい。
c.これは行政指導に対する甘い態度を生み、産業・行政庁間の不透明な癒着をもたらすおそれもある。
通説(第一説)が妥当 → 1条の目的と「公共の利益」は、ともに、「公正かつ自由な競争」を指す。
問題となっている行為が究極的目的に合致しないこと、あるいは「公共の利益」に反することは、独立の要件ではなく、したがって、それを違法を主張する側が立証する必要はない。
逆に、違法ではないとする側がこれを否定するために、当該行為が「公共の利益」に反しないということを立証をしようとしても意味がない。
ただし、これは競争だけが目的であり、それ自体に法的価値があるとするものではない。競争は、「望ましい経済成果」と「民主的な経済秩序」(実質的な意味での「消費者主権」)をもたらすのであり、これら2つが独占禁止法における法的価値。
5-2 「公正且つ自由な競争の促進」
「今日の私的独占禁止政策は、いわゆる『独占的』要素を本来的に包蔵している『不完全市場』に『機能的競争』もしくは『有効競争』を能うる限り維持するための政策であるということができる。それは、『不完全市場』という経済の実態を十分に認識した上で自由かつ公正な競争という機能がもたらす経済的社会的効果を最大限に発揮させようとするものである」(昭和二八年度公取委年次報告一頁)。
5-3 完全競争の非現実性と不適切性
完全競争とは、経済学上、一般に、次のような条件が満たされている場合に成立すると言われている。
① 市場で取引する売り手と買い手の数が非常に多く、どの売り手も買い手も市場価格の上にいかなる影響をも及ぼし得ないこと。
② どの売り手も買い手も市場における価格その他の取引条件について完全な情報を有していること。
③ 市場で取引される商品が同質であり、差別化されていないこと。
④ あらゆる生産要素の完全な可動性が存在し、売り手、買い手とも様々の取引へ自由に参入しまたは退出することができること。
しかし、現実のほとんどの市場(いくつかの農産物市場などを除き)においては、これらの条件は満たされていない。
経済学上、競争政策の基準として完全競争に代えて「有効競争」が主張され、多数の支持を受けるに至ったのは、以上のような理由に基づいている。
5-4有効競争の基準
市場構造 (market structure) 基準の立場----
①集中度があまり高くなく、②市場参入が容易であり、③極端な製品差別化がないような場合か否か。
市場行動(market conduct)基準の立場----
①価格について共謀がなく、②製品について共謀がなく、③競争者への強圧政策がないか否か。
市場成果(market performance)基準の立場-----
①技術の進歩・革新への絶えざる圧力があり、②コストの引下げに対応して価格が引き下げられ(正常利潤を超える独占利潤が獲得されていない)、③当該産業が効率的な適正規模の企業から構成され、④販売費が浪費的でなく、⑤慢性的な過剰能力がないような場合に、それぞれ有効競争が実現されていると主張する。
SCPパラダイム
------基本的に市場構造(S)が市場行動(C)を規定し、市場行動が市場成果(P)を規定する、という相関関係にあるとする伝統的な有効競争論
私的独占(法三条前段・二条五項)、共同行為(三条後段・二条六項、八条一項一号)、企業結合(一〇条一項、一三条一項、一五条一項一号、一六条一項)、不公正な取引方法
これらすべてにおいて、市場構造(S)と市場行動(C)を要件としている。
独占的状態の成立要件(八条の四・二条七項)
これだけは、原則は市場構造(S)で、補助的に市場成果(P) を要件としている。
5-5 望ましい経済成果と民主的な経済秩序
競争至上主義ではない。競争それ自体が目的ではない(5-1の最後で述べた)。
独禁法が競争政策を実現しようとするのは、それによって望ましい経済成果と民主的な経済秩序を確保できるという政策判断に基づいているからである。
この2つの価値のうち、独禁法制定の背景と趣旨、一条の目的規定の定め方、具体的な実体規定の内容などからみて、独禁法は、後者の民主的な経済秩序の形成・確保に、より優先的かつ基本的な価値を認めているものと解することができる。
5-6 「一般消費者の利益」の位置付け
(1) 独禁法の目的についての第一説(通説)を最も狭い意味にとれば、
→ 一般消費者の利益は、法律上保護された利益ではなく、競争政策の実現の結果たまたま生ずる反射的な利益ないし事実上の利益にすぎない。
同旨、ジュース表示事件=最判昭和五三・三・一四〈鈴木深雪・百選第5版242頁以下〉。
(2) 第二説(独禁法の目的が国民経済全般の利益にあるとする考え方)に従えば、「一般消費者の利益」は国民経済全般の利益に従属すべきものであるということになる。
(3) 第三説(独禁法の目的が経済的従属関係を規制することにあるとする考え方)に従えば、経済的従属者の最たる者である一般消費者の利益は事業者との関係において法律上直接保護すべき利益であるということになる。
(4) もっとも、独禁法の目的が競争政策の実現にあるとする通説的見解に立っても、「一般消費者の利益」をより積極的に位置付けることは可能である。
一般消費者の欲求を反映する経済活動が行われる民主的な経済秩序を形成するためには、経済学の消費者主権論が教えるように、市場を競争的に維持して個々の消費者による購入選択の機会と自由を保障するとともに、その前提として、市場に登場する商品の情報を十分かつ適切に消費者に与え消費者に合理的な意思決定が行える環境を確保することが不可欠である。
これを法律的に捉え直し、消費者の「権利」という観点からみるなら、以下の権利を確保することが不可欠。
a. 個々の消費者に「選ぶ権利」(競争価格によって商品やサービスに接することが保障されること)
b. その前提としての「知らされる権利」(不当な表示や広告から保護され、合理的な選択を行うために必要な情報が与えられること)
6-1 「事業者」
(1)独禁法によって規制を受ける者=規範の名宛人(受範者)=事業者と事業者団体
事業者=「商業、工業、金融業その他の事業を行う者」(法二条一項)。
事業者団体=「事業者としての共通の利益を増進することを主たる目的とする二以上の事業者の結合体又はその連合体」(法二条二項)。
法的主体(=自然人と法人)のうち、「なんらかの経済的利益の供給に対応して反対給付を反復継続して受ける経済活動を行う者」
その主体の法的性格、例えば、私法人か公法人か、法人の諸形態いかんは問わない(都営芝浦と畜場事件=最判平成元・一二・一四〈百選70事件〉)。
経済事業であれば営利を目的とするか否かも問わない。
(2)事業者・事業者団体に当たる者
協同組合・共済組合(非営利目的。組合員の相互扶助が目的)
政府(お年玉付き年賀葉書事件=最判平成一〇・一二・一八----郵便葉書の発行・販売につき国の事業者性を肯定)
地方公共団体、公社、公団、事業団、NHKなどの特殊法人の行う経済事業
医師、弁護士、建築士などの自由職業----原則として事業者に当たる。
(日本建築家協会事件=審判審決昭和五四・九・一九、観音寺市三豊郡医師会事件=東京高判平成一三・二・一六〈百選1事件〉、「医師会の活動に関する独占禁止法上の指針」(昭和五六・八・七公取委事務局)など)。
(3)事業者・事業者団体には当たらない者
a. 消費者
b. 労働者(後述)
c. 純粋の社会福祉事業、教育事業、宗教事業、慈善事業、ボランティア事業
これらの事業であっても経済事業的側面を併せ持っている場合は、事業者・事業者団体に当たる。
公取委(「景品類等の指定の告示の運用基準について」昭和五二・四・一事務局長通達七号)
① 学校法人、宗教法人等であっても、収益事業(私立学校法二六条等に定める収益事業をいう)を行う場合は、その収益事業については、事業者に当たる。
② 学校法人、宗教法人等または地方公共団体その他の公的機関が一般の事業者の私的な経済活動に類似する事業を行う場合は、その事業については、一般の事業者に準じて扱う。→ 例えば、学校が学費を徴収する場合、自治体の有料施設の利用関係など。
第5回 070509 「独禁法の歴史(続)、規制緩和」
累積した財政赤字問題、「ばらまき予算」時代の終焉(?)、事業者の「自己責任」、「規制の失敗」(政官産の癒着、規制に守られた既存の「権益」の確保、贈収賄など各種の犯罪にまで至る)、各産業政策官庁の政策転換、「族議員」との蜜月時代の終焉。そして競争原理の定着へ。
a.「経済的規制」= 各産業の特性に基づく「経済的合理化」、「効率化」を図るための規制。
しかし、一般には、競争が真の意味で合理性・効率性を達成できるはず。
経済学的には、自然独占→法的独占→規制、または、「経済の外部性」(前出)による規制だけが正当性を持つ。しかし、これは規制の連鎖、過剰規制を生む。
例;電気通信事業法、電気事業法などの公益事業規制
その他、消費者ないし利用者保護のために、一定の規制をかける必要がある場合。
例;金融規制のための諸法
b.「社会的規制」=経済的目的ではなく、社会的安全、秩序の維持など社会的な目的を達成するための規制
例;環境保護・リサイクル促進、食品衛生法、消費生活用製品安全法、電気用品安全法、医療法、医師法、学校教育法等々
独禁法についても「規制緩和」の主張 → 産業界からは、持株会社禁止の緩和(平成9年改正)、企業結合規制の緩和(9条の2廃止)などの主張。
* 規制緩和(deregulation) (『法律学小辞典』有斐閣より)
1. 意義
もっとも広義では、私人に対する国や地方公共団体等による公的関与・制限を撤廃あるいは軽減すること。狭義には、民商法による一般的規制とは別に、その時々の個別具体的な経済政策的観点から、対象行為・領域等を限ってなされる規制(「経済的規制」)を緩和することに限って用いられる。この場合には公害・環境問題への対応とか青少年保護、一般的に言えば、社会の安全・秩序維持などの目的による社会的規制の緩和は含まれない。
2. 対象とされる産業分野
米国で規制緩和が主張されだした当初は、電気通信・電力などの公益事業や、運輸事業、金融・証券・保険事業などのいわゆる規制産業、すなわち特定の商品・サービスに関する価格形成・品質水準の決定、当該事業の開始・継続・終了、設備投資計画などの経営の重要事項について、法律に基づく各種の規制が加えられる産業が問題とされていた。日本では、上記の諸分野の他、独占禁止法の適用除外分野の縮減が進められ、更には規制緩和の主張は、上の意味での規制産業に限られず、土地取引、農林魚業、商業、中小企業の組織・活動、大規模小売店舗(大店法)の設置・拡大等の分野も問題とされている。また、規制緩和の主張は、規制が私人の自由の制限に当たる場合に限られず、私的経済活動に何らかの公的制限・関与(補助金などの積極的な助成等を含む)が加えられることへの見直しにも広げられている。
3. 規制緩和の理由
規制緩和の理由としては、公益事業について顕著な技術革新により競争原理がより有効に機能するようになったこと、より多くの産業について競争による資源の最適配分の方が規制によるよりも有効・適切だとされること、規制のコスト(単なる費用の比較のみならず、規制による企業の効率化へのインセンティブの抑制、規制行政庁と「族議員」および被規制企業との間の不明朗な癒着の傾向)への批判などが挙げられる。従って、個別分野ごとの規制を緩和し、独禁法による競争秩序の維持を目指すべきであるという主張が一般的になされるが、独禁法や商法による一般的規制も緩和すべきであるという意味にも用いられることがある。
4. 具体的な緩和の対象と方法
個別分野ごとの規制のうち、緩和すべき規制としては、参入規制(特に、需給調整条項に基づくもの)、価格・サービス規制、事業者間の取引規制などがある。この他、保安規制等も従来の規制が過剰であるとして緩和された分野もある(例えば、電気事業法など)。さらには、いわゆる「民民規制」として、事業者団体などによる規制も問題であるとする意見も強くなっている。
緩和の法的形態としては、手続上、認可・許可などを届出又は非規制に変える方法のほか、規制行政庁だけに委ねずに情報公開による社会的監視を導入する傾向が強まっており、また実体法上も、電気通信分野における料金規制における「総括原価主義」による規制をやめて「上限価格制」を採用するなどの代替的方法が検討・実施されている分野もある。
従来は、競争か規制かの選択肢。しかし近年は、多くの分野で、競争の機能する領域を広くとるべきだという基本的な観点の下、例外的に競争が有効に機能しない場合に限った規制、あるいは「公正な競争」をさせるための規制が望ましいという考え方に変わってきた。
以下は、後者の例として電気通信産業についての私の講演原稿からの抜粋。その後、以下に掲載。舟田「次世代ネットワークと規制システム---接続規制・ドミナント規制・NTTに対する構造規制を中心に」ジュリスト1318号150-157頁(2006年8月)。
独禁法は競争の維持・促進を目的としていますが、競争原理が完全には実現しない場合もあり、その1つが「自然独占」と言われた分野です。ここでは規模の経済が大きく働くので、独占的な事業者が現れるのはやむを得ないとされ、その代わりに多様な規制によって国民などユーザーの利益を確保することとされてきたのです。
電気通信分野も、この「自然独占」が妥当する分野だとされたのですが、その後の技術革新等によって、その多くは競争に適する産業になったために、競争原理が導入されたわけです。
しかし、それでも、加入者回線部分などは未だにボトルネックのままであるなどから、実際に競争が有効に機能するために、接続規制、ドミナント規制(=支配的事業者規制)、NTT法による規制など各種の規制が行われてきました。
その結果、新規参入も多様に行われ、これによってこの分野は著しく競争的になり、その成果は、料金の低廉化・サービスの多様化などとして現れていることは周知の通りです。
2.現在は独占から競争への過渡期
2-1.NTTのボトルネックと市場支配力
85年の制度改革から既に20年が経過したわけですが、わが国の電気通信産業には依然として、競争が有効に機能していない部分があります。
第一に、NTT東西のボトルネック独占があります。具体的には、NTT は電柱・管路等の敷設基盤を有し、かつ加入者回線など地域通信網において圧倒的な重みを持っています。加入者回線の90.4%(06年12月末契約回線数ベース)はNTT 東西です。
第二に、通信サービスの面でも、通信市場売上高15.8兆円に占めるNTT グループ(東西・コム・ドコモ)のシェアは約63.7%です。(05年度ベース)
うち、固定電話サービスでは、加入電話契約のことは前述の通りで,さらにマイライン契約で、85から69.5%(07年3月末で市内85.0%、県内市外81.1%、県外79.0%、国際69.5%。いずれも上昇)
携帯電話サービスでは、ドコモ52.8%%(いずれも05年9月末ベース)
ブロードバンド(DSL,FTTH,CATV,FWA)の契約数は2504万で、うち、DSLは1424万、FTTHは794万、CATVは357万となっています(06年12月末)。
これについてのNTT各社のシェアは、DSLの契約数シェアは、38.5%、光ファイバーの契約数シェアは67.5%(上昇中)となっており、電話に比べてブロードバンド・サービスでは他の競争事業者も有力であることが分かります。
NTT各社の高いシェアは、各社の企業努力の成果という面もあるでしょうが、同時に、「電電公社」時代からのキャリアであること、第一点であげたボトルネック独占を持っていることとも関連していると考えられます。
2-2 接続規制とドミナント規制
これら2つの独占的要素に対応して、接続規制とドミナント規制が行われており、これは前述のNTT各社の状況として挙げた2点を踏まえると、現在でも必要な規制であると考えられます。
「接続規制」は、接続料・接続条件の役款化、接続会計制度、網機能計画が大きな柱となっています。
「ドミナント規制」(=支配的事業者規制)は、2001年に導入されたものであり、東西NTTとドコモ9社に対し、情報の目的外利用の禁止、特定の電気通信事業者に対する差別的取扱いの禁止などを定めたものです。
2-3 構造規制と行為規制
NTTのボトルネック独占が、各種の設備競争と通信サービス競争に悪影響を与えているということから、現在の持株会社形態をさらに分解して、特にボトルネック独占の部分(加入者回線部門)を分離すべきだという主張が、KDDIやソフトバンクから表明されています。上記の行為規制では不十分で、構造規制にまで踏み込むべきであるという立場です。
私自身は、NTT分割の議論は既に何度か繰り返し行われてきており、その1つの解答が現行の「持株会社」方式であるから、その趣旨(持株会社傘下の5社、東西、ドコモ、Nコム、Nデータがそれぞれある程度の自主性を持って独自の企業努力を行う)を生かすことで、「公正な競争」と経営効率化の両立を図るべきだと考えています。
注 上の構造規制と行為規制については、後出、5.4.「有効競争の基準」を参照。
そこにおける「市場構造」に着目した規制が構造規制であり、「市場行動」に着目した規制が「行為規制」である。
<設問>
皆さんの契約している固定電話は、どのキャリア(=電気通信事業者)との契約ですか?
このうち、電話を設置・利用させること自体は、もともとはNTT東西のサービスであり(加入者回線部分の使用料)、その料金は「基本料」と呼ばれています。住宅用は1700円(東京、横浜、川崎など)から1450円(人口過疎地)。
http://www.ntt-east.co.jp/phone/fare/index.html
ただし、現在は、この加入者回線部分について競争事業者もNTT東西からの卸売りを受けてエンド・ユーザーに提供できるようになっています。
上とは別に、マイライン契約で、市内、市外、県内市外、県外、国際電話につき、キャリアを選ぶことになっています。
<設問>
NTT東西の電話料金は届出ないし認可制(上限価格制度。電気通信事業法20条、21条)。これに対し、他の会社の固定電話料金や、ドコモなど携帯電話の料金は届出制に規制緩和されている(同法19条)。この理由は何か?
電力料金は、一般電気事業者が供給する場合、一般の需要に応じる場合(家庭向け)は認可料金。これに対し、「特定規模需要」(大口ユーザー)に対する場合は自由料金となっている(電気事業法19条)。この理由は?
第4回 070502 「独禁法の歴史」
4.独禁法の歴史(教科書第一章)
前述(「2. 経済法とは?」の冒頭)で述べたように、独占禁止法は、「経済憲法」とも呼ばれ、独占禁止法は競争秩序維持法という基本的性格を持っているにもかかわらず、戦後の日本の経済政策・産業政策、及びそれを支え基礎づける経済法的諸制度においては、むしろ、経済成長、景気回復、各産業の「構造改革」、「国際競争力の強化」などが現実には力を持ってきた。
しかし、それら経済成長政策等々の内実は、各業界内の協調、既存の各企業への保護・助成、既存利益の確保であることが多く、経済民主化に向けた真の構造改革(公正な競争秩序の形成、消費者の権利保護等)は二の次にされていた。
独占禁止法については、弱体化のための改正が昭和28年に行われ、それ以降も同法の運用の停滞、消極化が顕著であった。
「寡占」とは、ある市場において、少数の企業が市場で取引される量の大部分を占めること。一企業だけが当該取引を独占すれば、まさに「独占」市場であるが、現代経済においては多くの場合、寡占市場という形態になっている。
ある市場において、事業者が1社あるいは少数の企業しか存在しない場合、これらの独占企業・寡占企業は市場支配力を持っている。このような市場においては、競争は十分に機能していない(前述、2.(3)。後の「有効競争」論でも再論する)。
「管理価格」→ 寡占市場において、当該寡占企業が市場における価格を恣意的に維持・操作すること。自由で有効な競争の下で実現されるはずの競争価格ではないことが重要。
「非価格競争」→ 上記の管理価格に典型的に見られるように、寡占企業間の競争は、価格をめぐって行われているわけではなく、消費財については、むしろ価格から消費者の目を逸らすようにし向ける競争が激しくなる。
その手段としては、過度の「製品差別化」を図り、広告や宣伝、新製品などに関する競い合いが行われる。しかし、これは自由で有効な競争とは言い難い。
特に、消費者にとっては一見、企業間で激しい競争が行われているようであるが、競争のもっとも重要な要素である価格については、寡占企業間でいわば暗黙の「休戦協定」が実施されているのに近い状態であるともいえ、真の意味での消費者主権が実現されているとは言い難い。
その背景で、流通系列化など、卸レベルでの競争制限が行われることも重要。
戦後、多くの消費財について価格維持が行われ、非価格競争、インフレを助長。
昭和30年代以降の、「寡占」、「管理価格」、「非価格競争」などによって表される非競争的な寡占市場の状況は、主にインフレ基調の経済の下で、同調的価格の引き上げやプライス・リーダーシップ、あるいはコストダウンによって下がるべき価格がそれほどには下がらない、という現象に対するものである。
今日の継続的な価格の低下、あるいは最近のデフレ経済の下では、「価格破壊」というキーワードが流行語になったことに示されているように、上記の諸現象はそのままではあり得ないことである。
ただし、再販売価格維持行為は価格の低下を食い止める戦略として、今日でも有効であり、実際にこれに当たる事例が、独占禁止法違反として摘発されており、それ以外にも、メーカーの支配力の強い化粧品等の分野において今なお散見される。
ただし著作物(書籍,雑誌,新聞,音楽レコード・CD)については、再販禁止の適用除外(同条4項)。
<設問> なぜ著作物については特例として再販を認めるのか?
感情論として著作者のプライドを守るためだということも説かれることがある。
著作者の団体や日本レコード協会の見解は,著作物について再販による超過利潤を認めることによって,儲けの少ない出版・販売を可能にし,多様な文化を保護することになるというもの。
また他に,代替性の低い著作物の小売店における膨大な商品の品揃えを確保することによって(小売店から出版社への無償の返品を認める),文化の多様性を守るためだという説もある。
しかし,CDメーカーや出版社は、売れる商品からの超過利潤で売れない商品の赤字を補填し、多様な文化を維持しているという議論に対しては、どの業界にとっても売れる商品・売れない商品があって、出版物に限らない、という点を指摘することができる。例えば、家電の場合、年間、多種多様な商品を売り出し、実際には当たらない(売れない)商品が多い。メーカーにとって、売れる物と売れない物全体の販売状況のバランスをうまく取って、利益を生み出すことは通常の経営のやり方であって、出版物に限ったことではない。
次に、品揃えを確保するという理由に対して、小売店は本当に品揃えしているかという疑問がある。小売店の面積・立地条件によって、陳列商品を決めており、一部の大規模の店舗を除いて、他の小売店は、多種多様な品揃えをしているとは言えない。売れ筋の商品だけを並べている場合がほとんどである。
さらに、米国をはじめ,多くの国では著作物についても一般の商品と同様に再販を原則禁止としていて,文化の多様性が失われているという事実はない。
新聞の場合は、上述の特殊性(多種多様な著作物、小売店での品揃え)はなく、宅配制度の維持だけが主張されるが、これも説得力は薄い(欧米で、新聞再版を禁止している国でも宅配システムは機能している)。
したがって、著作物については特例として再販を認めている現行の独禁法は疑問がある。
* たばこ事業法33条1項 日本たばこ産業株式会社と「特定販売業者」(輸入したたばこを販売する者)は、小売り定価を定め、大蔵大臣の認可。36条で、これ以外の価格での販売禁止
理由---財政収入、たばこの商品特性から競争による販売増加は望ましくない。
高度成長が終わった昭和40年代後半(1970年代)には、このような経済政策の歪みが多様な形で顕在化し始め、それへの対応の象徴的な出来事が、昭和52年(1977年),戦後初めての独占禁止法強化改正の成立であった。
さらに、日本が国際的に見ても経済大国になった80年代から、従来のような保護主義的な経済政策に対し強い批判が内外から行われた。特に平成元年(1988年)から開始された日米構造問題協議を背景に、独占禁止法の強化改正、またその運用強化、その適用除外を定めた多くの個別規制法に対する「規制撤廃・緩和」の政策がとられ出した。
しかし今日でも、競争だけが経済政策・産業政策ではないという理由で、局地的・散発的にではあるが、未だに独禁法の適用除外を求める声もある。後述の独占禁止法1条の目的規定をめぐる議論もこれにかかわる。
日米経済構造協議(最終報告書、1990年)。
80年代の日本は、巨大な貿易黒字に象徴されるような「経済大国」となり、他方で、米国は貿易・財政という「双子の赤字」に苦しんでいたという背景。
それまでは、「日本的経営」(終身雇用・年功序列制度・企業内組合等が特徴。この他、後述の系列取引なども挙げられることがある)の優秀性が喧伝されていたが、独禁法が十分機能せず、「系列」などによって、日本市場の多様な閉鎖性が海外からの参入を阻害し、消費者の利益を侵害しているという批判。
最終報告書の直後(1991年)から、日本は長期不況に陥り、「日本的経営」、「系列」等々は崩壊過程に入る。
企業集団、株式の相互持合等に基づく特殊な経営者支配に立脚していた、わが国の株式会社の特殊な支配構造も、「コーポレート・ガバナンス」(公開会社の経営者支配のあり方を問い直す)、効率的な経営の確保、経営上の違法行為の抑止(=コンプライアンスの確保))などのスローガンの下、問題になった。
しかし、これは企業の利益を保持しつつ、という前提があり、特に株価低迷対策とも関連していたので、構造問題にまで改革が行われたかは疑問。
日本的経営は、むしろ外からの圧力(金融危機の中での金融改革、国際的競争の更なる展開等々)によって徐々に変質してきている。
*「系列取引」(以下は「法律学小事典」有斐閣より。舟田執筆部分)
1.「企業集団」---企業間の株式の持合・役員の兼任などによる「固い結合」(= 企業集中)によって形成される。
(注)企業間の結合は、「ゆるい結合」(単なる合意による、緩い、一時的、部分的な結合)と「固い結合」(株式所有や合併などの企業組織上の手段による、固い、継続的、全面的な結合)とに分けられる。
旧財閥の流れを組む大企業が構成メンバーとして「ヨコ」の結合関係にある六大企業集団と、大企業がその子会社・関連会社などを支配し「タテ」の結合関係を形成する独立系企業集団とに分かれる。欧米諸国から、keiretsuという用語によって日本の閉鎖的取引慣行を象徴し、非関税障壁として機能していると批判された。
例えば,「相互取引」が違法とされる場合があり、またその他の「不公正な取引方法」に当たることもある(「経済法2」で取り上げる)。
2. 系列取引
上記の企業集団に属する企業間の取引を指すこともあるが、正確には、企業間が固い結合をしているかどうかを問わず、企業間の取引関係が固定的継続的なものを系列と呼ぶ。この意味の系列取引は、ブランド力のあるメーカーと卸・小売業者の間の流通(販売)系列、あるいは組立メーカーと部品メーカーの間の生産(下請)系列などに見られる。その特徴は、単なる固定的継続的な取引関係だけでなく、取引上、「優越的地位」にある企業が、自己の販売政策や生産政策を実現するために、系列下の多くの企業を組織化し、取引条件などを一方的に決定するなど支配することにある。それが「優越的地位の濫用」や、「不当な拘束条件付取引」、「排他条件付取引」あるいは「不当な取引拒絶」などに当たる場合は、「不公正な取引方法」として禁止の対象となる。
他方で、このような系列は、企業集中とスポット的な取引関係の中間的な性格を有する組織化の一形態であって、効率的な日本的経営方法の1つであるとの議論もなされている。
この系列問題は、近年の状況下では、多くの産業分野において顕著な変化が見られるようである。特に、企業集団の核であった金融機関について、企業集団を超えた企業集中が多く行われつつある。また、例えば製造業(特に自動車・家電などの組み立て産業)において、いわゆる「専属下請」が解消され、下請企業は親企業と競争関係にある企業にまで取引を広げようと努めつつある。
しかし、今日、すべての系列の解体がなされたとはいえず、また、そこにおける独占禁止法違反行為、特に、「優越的地位の濫用」などが全く消滅したかどうかは疑問。
例えば、古くから指摘されてきた「下請いじめ」問題は、今も多くの事件において顕在化しており、大規模小売業者(百貨店、コンビニなどフランチャイズ・システムの本部企業)による納入業者への不当な不利益の強要、金融における優越的地位の濫用も独禁法違反とされるなど。
第3回 070425 「経済法とは? その3」
石油カルテル刑事事件最高裁判決の続
本件における被告(石油会社)側の主張
① 行政指導に従ったため実質的な違法性はない
② 狂乱物価を防ぐため価格協定をしたのであるから、独占禁止法の目的である国民の利益に反しない
これに対する反論
① 行政指導に従った行為であっても、そのこと故に違法性が阻却されるわけではない。
② 大幅値上がりになるという予測の立証がされてない。また理論的にも、真の競争が存在することを前提とすれば、価格は市場における需要と供給の関係から決まるのであって、原価の値上がりが直ちに商品の販売価格に反映されるとは限らない。
「権力行政」に従ったカルテル(例えば強制カルテル)・・・違法にはならない。
「行政指導」 〃 ・・・カルテルの形成は私人の判断によるから違法。
非権力行政(「給付行政」ないし保護・助長行政、あるいは行政指導等の任意的行政活動)については、直接的には法律上の根拠を要しない場合もあるが、それが他の法律(例えば独禁法)に違反する行為を誘発してはならないことは言うまでもない。
しかし、少なくとも過去には、上記の通産省による石油行政の例の他、道路運送法(9条の3)による料金認可権限のある運輸省などには、それら料金についての事業者の行為に対し、実際上は独禁法が適用されないという誤解があり(「縦割り行政」の弊の1つ)、まず業界で話し合って適正な料金を決め、認可申請してくるように指導していた(「一括申請」)。
行政指導の他、最近数多く摘発されている「官製談合」事件は、行政庁の非権力行政(この場合は、国の権限に属する道路・河川・港湾の管理など、「給付行政」の性格を持つことが多い)における、私人との取引行為に関し、私人に対し独占禁止法違反行為(=談合)を慫慂ないし強く要請することから生じる。
また、独禁法等の経済規制法の具体的な執行(enforcement)、情報公開、行政救済等も、経済法と密接に関係する。
行政庁が行う私法上の取引----官製談合の事例
防衛庁石油製品談合事件(刑事事件と公取委の審判が並行)
コスモ石油株式会社ほか10社が、防衛庁(現行は「防衛省」)調達実施本部発注に係るガソリン,軽油,灯油,重油及び航空タービン燃料の指名競争入札で談合したとして、公取委は独禁法3条違反として審決を下した(一部の会社については今も審判中)。同時に、公取委は検事総長に告発(89条1項 1号,95条1項1号,刑法60条(共同正犯)、会計法29条の3)。最判平成17年11月21日で有罪確定。舟田「防衛庁石油製品談合刑事事件=東京高裁判決(平成16年3月24日)について」立教法学70号161―192頁以下(2006年)参照。
談合の実行行為者は、石油元売り各社の若手社員(30歳前後)もおり、仮に有罪判決が下りて刑事罰を受けると、かれらは「前科者」となってしまう。
このように会社のために働いて刑事罰を受けた場合、一生会社が面倒を見る、つまり「飼い殺し」になるといわれてきた。しかし近年、独占禁止法違反行為に対する社会的評価が次第に厳しくなり、他方で、近年のいわゆる「企業犯罪」などを契機に、企業のガバナンス(企業統治)の在り方が問われ、特に企業の法令遵守体制(コンプライアンス=complaiance)が強く求められるようになっている現在では、以下のようにより厳しい対処がなされるようになってきている。
「例えば、平成11年の防衛庁石油製品談合事件では、驚くべきことに、ある被告会社の被告人は会社から退職を余儀なくされた。会社側は、社内で独禁法遵守のマニュアルを配布し、当該被告人を含む全社員が法令遵守誓約書の提出を求められて書名しており、会社としては独禁法違反を厳に戒めているのであるから、本件行為は当該被告人の全くの個人プレーであり個人的責任の問題であるという理由によるようである。」(舟田・立教法学65号より)
各社とも、本当は防衛庁からの指示でやってきたのに---、という恨みがあるようである。 「お上である発注者が独禁法違反で制裁を受ける可能性があることを認識していない。会計検査院も公正取引委員会も長年何の是正もなかった。違法性を認識していなかったのだから責任を阻却されるべき。」というのが被告会社の主張。
ジェット燃料などは、防衛庁の「買い手独占」であるから、その言いなりになって長期間、「官民一体」となって、入札は形式だけで、実際は談合で売り手と価格を決めていた。しかし、防衛庁の係官は、証拠不十分で起訴されず、起訴・有罪になったのは会社側だけ。
本件は防衛庁の関与する度合いが大きく、その点を弁護人等が一貫して強調したが、全体としてはことごとく否定された。裁判所は競争制限は長年の事業者側による行為であって、調本はル-ズな面はあったものの事業者側の受注調整(=談合)に対応せざるを得なかったとの判断であった。
諸君が会社員になって、会社の上司に、「談合の場に行ってきて、仕切屋の指示に従え」と命じられ、それに従った行動をしただけで、独禁法違反の実行行為者になり、有罪になる!!
だから、法律(本講義では独禁法等)を勉強して下さい。そして、そういう上司に、「独禁法違反になり、自分も会社も刑事罰を受ける可能性があるから、談合に加わることはダメです」と、はっきりNOを言える人になって下さい。
これに対し、業務命令違反として、不利益処分を受けた場合は、その処分自体を争うか、または下記の「内部告発」をする途があります。
* 三和銀行戒告訴訟・大阪地判平成12年4月17日--職場の賃金・昇格差別などを指摘した手記を出版したことを理由とする戒告処分は、「懲戒権の乱用」。その後,この種の「内部告発」の重要性が広く認識され,「公益通報者保護法」の成立(平成16年)。公益通報者の保護を図り、この種の公益通報を促進する。
ただし、本法はまずは企業の内部で解決すべきだ(「自浄作用」)という企業側の主張に沿って、外部(マスコミなど)への通報は内部通報では十分な対応がとられない場合に限るとされ、実質的に外部通報を制限する結果となっている。会社内の恥を隠せという体質が認められたわけであり、批判も強い。
さらに、この事件から、国と私人(私企業も含む)との取引のあり方、競争の意義、国と国民の関係(国民の税金で、国の費用を賄っているのだから、なるべく「安い政府」、効率的な行政運営を要求できるはず)など、考えて下さい。
本件では、防衛庁にとって、最大の関心事は「安定供給」であり、価格は二の次です。それどころか、防衛庁その他の国の行政機関は、毎年必要な費用は予算で確保されていて、これを年度末までに消化することが重要。消化しないと不必要な予算要求をしたことになり、次の年度では減額されてしまう。また、毎年できるだけ多額の予算を獲得することが各行政機関の力と評価され、担当官の業績になる。
このような予算・会計制度の下では、コスト削減のインセンティブ(誘引)は全く存在しない。そこで、コスト削減に成功した機関ないし部署は、それなりの業績を挙げたと評価するような仕組みが行政改革の一環として検討されているが、その実現はかなり困難のようです(何故でしょうか?)。
以上のように、「経済法学」とは、資本主義経済体制の下で、経済的取引と競争がどうあるべきか、それを示している諸法律(憲法、民商法、刑法、独禁法等々)が全体の経済・社会・政治とどう結びついているかについて考える学問です。
3-1 独禁法の禁止行為の代表例
(1)価格カルテル
→ メーカー間に価格競争があれば、消費者・ユーザーは、
より安い価格を選択できたかもしれないのに…。
(2)参入の妨害
→ 自由な参入が可能であれば、消費者・ユーザーは、もっと品
質がよい/価格が安い商品を選べたかもしれないのに…。
3-2 市場経済の働き=競争の意義
(1)市場経済=自由な経済活動
売り手:何をどれだけ作るか、等 みんなの日常生活を考えよう
買い手:何をどれだけ消費するか、等 (自由な売買=ひとつの秩序形成)
※中央統制経済(計画経済)と対比して考えてみよう。
(2)競争の意義
ア)買い手の自由な選択=売り手間の競争(→「顧客確保のために頑張ろう」)
イ)競争のメリット(経済的メリット)
・よりニーズが高い商品・より安い商品・より品質が高い商品の提供
→限られた資源の望ましい利用(資源の最適配分)
・より優れた、新しい技術、顧客サービス等の開発・採用
→ダイナミックな競争促進
ウ)競争のメリット(社会的・政治的メリット)
・ 各経済主体(事業者・消費者)の自主・独立性・主体性。自分で考え行動する。
「横並び」体質、既存の秩序に安住しない。
・ 政治権力・社会的権力に頼らない事業経営、行動様式へ。コネ社会との決別。
・ 「経済民主主義」----各主体の自主・独立性が前提。また、力ではなく、多くの買い手による選択によって、商品のよさ、それを生む努力が報われる。
3-3 独占禁止法の体系
(1)
実体的規定(違反行為の類型)
ア 独占および集中の規制(私的独占、企業結合(=合併、株式保有等)規制)
イ 共同行為の規制(不当な取引制限=俗にいう「カルテル」、事業者団体)
ウ 不公正な取引方法の規制
(2) 手続規定(違反行為への制裁=サンクション)
ア 行政的対応
公取委(国の行政機関)による措置(「行政処分」。このほか、「行政指導」も)
排除措置命令(「違反行為をやめなさい」など)
課徴金納付命令(「カルテルで儲けた不当な利益を国に払いなさい」)
※ 課徴金は、価格カルテル・入札談合等に課せられる。
イ 民事手続
a)民事差止請求訴訟(法24条)
b)損害賠償請求訴訟(法25条、民法709条等)
c)その他の場面
例:原告「商品を渡せ」→被告「解約した」→原告「解約が独禁法違反だ」等
ウ 刑事罰(違反行為をした人・企業等→罰金・懲役等)
第2回070418 「経済法とは? その2」
前記の「自由で公正な取引と競争という理想が妥当しない領域や場面も多い」
「不完全競争」----独占または寡占の場合、「情報の完全性」がかなり損なわれている場合(特に、消費者において)、「経済の外部性」の場合など。
a. 独占の場合、当該企業は競争に晒されず、ある程度自由に価格等の取引条件を決めることができる(price maker)。
寡占の場合(当該関連市場において少数の企業が活動している状態)でも、2社、3社など少数の企業であれば、上記の独占に近い状態になることもある(非競争的または協調的寡占)。
これらの独占・協調的寡占の場合、下記b.の反競争的行為がなくとも、競争機能は十分には働かない。
b. 反競争的行為が行われる場合----上記の再販売価格維持行為もその1例。独占禁止法は、まさにこのような行為を禁圧することによって、競争機能の回復を目指している。
c. 「経済の外部性」externalities---「市場の失敗」の一例
「個人または企業が,他の個人または企業に影響を及ぼす行動をとったとしても,それに対して対価を支払ったり補償をしたりしないこと」(J.E.スティグリッツ『ミクロ経済学』)
「経済の外部性」の例として、生活廃棄物、例えばペットボトルの処理費用の相当部分が自治体負担になっていること。環境侵害、廃棄物処理など。宇沢弘文『自動車の社会的責任』(岩波新書、1974年)、『社会的共通資本と社会的費用』(岩波新書、1994年)、『社会的共通資本』(岩波新書、2000年)
あるサイトから-----トヨタが本気かどうか不明ながらバイオプラスチックを手がけているのも、やはり化石燃料枯渇のリスクと自動車の社会的責任を考えてのことなのだろう。最悪なのは、やはりプラスチックの単純埋め立て---
このように経済の外部性が認められる場合には、ペットボトルを製造・販売する事業者は、自己負担なしで安い飲料物を販売でき、競争上不当に優位に立つことになる。
そこで、一定の法制度によって当該コスト(社会的費用)を市場経済の中に組み込むこと(=「内部化」)、または外部性が発生しないような公的規制をかけることが要請される。例、ペットボトルの回収・再利用等の費用は、製造・販売する事業者が負担する制度。
容器包装に係る分別収集及び再商品化の促進等に関する法律(平成七年)
d. 競争機能が働くだけでは、社会的な正義、価値が達成できない場合
→ 個別的な対象ごとに、公的な規制ないし基準などが必要となる。
各種の事業法---電気通信事業法、電気事業法、道路運送法等々
放送事業者間の競争----視聴率競争に堕してしまう。最も重要な目的は、民主主義の基礎となる基本的情報を公正に提供することによって、世論形成に資すること
→ 放送法
大学間の競争----「教育」、「研究」が目的なはず。競争の指標は価格と品質であるが、後者は客観化し難い
→ 教育基本法、学校教育法、私立学校法等々
前記のように、私法の明示的な前提-----自由かつ平等で、自立した個人。
黙示の前提----自由で公正な取引と競争
もちろん、これらの前提条件が欠けている場合、民商法でも個別に対応する規定がおかれ、また、個別の規定についての解釈、あるいは権利の濫用、信義則、公序良俗等の解釈を通じて対応。
これらと並んで、取引・競争の自由と公正の実現に正面から対応しようというのが独禁法の役割。
法主体と行為
私法における法的主体は、個人(自然人)と団体(法人)である。団体、特に現代の社会において最も重要な団体である企業の内部において、従業員・労働者の権利、社会保障等の装置が適正かつ有効に機能し(これは労働法・社会保障法の課題)、かつ、すべての法的主体が「公正かつ自由な競争」の中で活動することができるような法制度が機能するとき(これが経済法の課題)、動物の間における「弱肉強食」とは異なる、競争市場の社会的正当性が認められる。
自由と規制の混合
多くの場合、ある行為は公的規制に服し、同時に、ある範囲での自由が認められている。自由がある以上、競争は不可避である。
例えば、前記のc. 外部性,d.競争以外の公的目的が認められる場合など。
ここでは、競争が機能する限り、独占禁止法が適用される。例:容器についてのカルテルや共同事業、大学間の授業料をめぐるカルテルなど。
(4)憲法と経済法の関係。
憲法21条1項の「職業の自由」は、一般的な経済的自由、すなわち職業選択の自由だけでなく、事業者の活動の自由も含むと拡大され、かつ、「公共の福祉に反しない限り」という限定がつき、法律・行政による自由の制限が認められる。しかし、その限界、すなわち何が「公共の福祉」かについては、広い立法裁量が認められている。
行政法の基本原理である「法律による行政の原理」と行政指導の関係。
行政指導は、「公権力の行使に当たる行為」=「処分」ではないから、それに従うかどうかは相手側である私人の任意(行政手続法2条6項)。
行政指導は、法律に基づいて行われる場合もあり、また全く法律上の根拠なくして行われることもあり、後者の場合も直ちには違法ではなく、妥当な行政庁の行為と認められることもある。
「法律による行政の原理」は、国民の自由を制限する権力行政を中心とした要請。
非権力行政(「給付行政」ないし保護・助長行政、あるいは行政指導等の任意的行政活動)については、直接的には法律上の根拠を要しない場合もある。
しかし、行政指導に従うかどうかは法律上は任意としても、実際上は、従わない私人(企業)に対し、別の不利益を被ることがあるため、事実上の強制となることもある。そこで、違法な行政指導、あるいは私人の違法行為(ここでは独占禁止法違反行為)を誘発するような行政指導は妥当ではないと説かれている。
行政指導に従ったカルテルは、独禁法違反に当たるか?
石油カルテル刑事事件最判昭和59・2・24、独禁法審決・判例百選(第6版)258頁以下(資料1)
産油国(OPEC)による原油価格の大幅引き上げ
↓ ↓
石油元売会社は、販売価格を大幅に引き上げを希望、通産省に打診
→ 通産省は、行政指導によって値上げ幅の圧縮を指導
→ 各社はそれに従って、カルテルによって一斉に値上げ
(設問)この行政指導は、当時の通産省(現、経済産業省)の非公式見解によれば、ユーザーのことを考えてのものであった。石油元売り各社はそれに従っただけのに、公取委から独禁法違反とされ、刑事罰まで科されるのは、国家意思の分裂ではないか?
原油コストが2~3倍になっても、コスト全体が2~3倍にはならない。各石油製品の原価構成における原油の割合はそう大きくはない。
また、コストが上昇しても、競争原理が働いていれば、それが直ちに販売価格に反映されるはずがない。
当時の行政指導は、石油各社の値上げを助けるためのものだといえる。
---前記のような行政指導が事実上の強制力を持つという面と、逆に、指導を受ける私人やそれらと取引する者(例えば、石油製品を原材料として用いる石油化学会社)の利益のために機能しているという面があり、しかも、これら両面が1つの行政指導の中に併存することも少なくない。
後に説明するが、カルテルに対する法的制裁の手段は3つある。
①刑事罰 ②公取委の排除措置命令 ③私法上の損害賠償
これらのうち、②、③は刑罰ではないので、憲法の禁止する二重処罰にはあたらない。
生産調整(数量カルテル)について、独禁法違反ではあるが、それまでの通産省の石油政策の実態もふまえ、被告人には違法性の認識がないとして刑事裁判では無罪になった。
しかし、通産省の石油政策が数量カルテルを公式に認めていたわけではないから、国家意思の分裂という非難は法律上は当たらない。しかし、本件では実際上は下記のように行政庁(通産省と公取委)によって、カルテルについての考え方・運用の方針が異なっていたと推測される。
石油会社は、通産省の行政指導に従うか、それとも独占禁止法に違反しないようにするか、の選択を迫られた。当時の石油会社は石油業法によって、毎年の石油精製の数量を規制する権限を有していた通産省と長く緊密な相互依存関係にあったため、石油会社は独占禁止法に違反するというおそれを持ちつつも、カルテルを結び実行した。
なお、通産省の数量規制は、個々の石油会社との個別の関係であって、カルテルを容認するものではなかった。
全体として、カルテルと行政指導の関係をめぐる上記のような過程では、石油会社は主体的な判断をしているのであるから、その行為について独占禁止法違反を問われ、責任を負うべきこととなるのは当然である。
前掲石油価格カルテル刑事事件=最高裁判決は、通産省の行政指導をソフトな、弱い性格のものであったとして、独占禁止法をするようなものではなかったと認定し、その責任は問わなかったが(起訴もされていないが)、疑問が残る。
さらに、本件カルテルは、値上げの上限を定めるものであり、通常のカルテルが下限カルテル(=最低価格カルテル)を決めることとは経済的効果が異なる。上限カルテル(最高価格カルテル)は、稀な状況においてのみあり得る。
しかし、この事件の状況では、実は、「作られた石油危機」であったということが近年になって明らかにされてきた。危機感をあおって、一斉値上げをし易くしたということである。これを前提にすれば、本件カルテルは、通常の値上げカルテル(下限カルテル)だったということになる。
教科書をそのまま読むことはしない。その重要な点を示し、また補足説明をする。何頁は-----という話し方になるので、必ず持ってくること(あるいは毎回の該当頁だけをコピーして持参)。
・レジメは、各回の講義の後、若干の修正をした上で、立教の「サイバー・ラーニング」サイト、及び、私の個人ホームページ: http://www.pluto.dti.ne.jp/~funada/ に掲載する。
・独禁法の条文を随時参照できるように、六法または独禁法・一般指定(不公正な取引方法)だけのコピーを毎回持ってくること。一番小さく安い「ポケット六法」等でも、独禁法と関連法規(景品表示法、下請法)は掲載されている。
・ケースなど、随時プリントを配布するので、レジメ・プリント等を丁寧にファイルして保存すること。
独禁法にかかわる個々のケースについて、より詳しく勉強したい場合は、「独占禁止法審決・判例百選(第6版)」、最新の情報は雑誌「公正取引」、公取委のホームページが便利。
・昨年度までの試験問題は、上記のホームページと「法学周辺」
に掲載。ホームページには、採点のポイントも述べてある。それをよく読んで考えた上で、それでもなお成績評価に疑問があれば調査申請をすること。
・隣の受講生と雑談することは、私も、また他の受講生にも迷惑です。集中して受講できるように会話は厳禁。ただし、眠い人は我慢しても意味ないから、睡眠はご自由に!
・遅刻や早退、缶ジュース、ガムなどは、行儀作法の問題(ルールは決めないから、各自の良識=社会人としての健全な判断力で、という意味)。
・基本的には伝統的な講義形式を採らざるを得ないが、なるべく学生諸君と議論することとしたい。講義中にこちらから質問した場合には、積極的に答えてほしい。正解を求めているわけではなく、それまでの話や諸君の知識・見識から思いつくことで十分。自分の頭で考える訓練であり、また、そのやりとりから私の方も、諸君がどこまで理解しているか、何を話すべきかも分かるだろうという趣旨。
・質問・指摘(例えば、聞き取れない、分からない、プリントが足らない、マイクの調子がおかしい等)は、途中でも遠慮なく手を挙げて発言すること。各回の終了後、教壇まで来て質問してもよい。
学生諸君は、高額の授業料を払っているのであるから、契約の相手方である大学および大学に雇用されている私たち教職員に対し、それに見合う教育サービスを提供すべきことを要望・要求できる。私たちが、残念ながら能力・時間・コスト等の制約から、それらに十分応えられないことも少なくないであろうが、要望に対応することができるかどうかを真摯に検討する過程で、諸君との関係をより意義深いものに変えていけることを期待したい。
これは、他の経済的取引についても同様であり、取引の相手方に取引の条件・内容・実施の仕方等について、質問し要求することが大切。この講義でも取り上げる「消費者の権利」は、法律によって与えられるだけではなく、自ら要求し戦いとるものです。しかし同時で、契約は「交渉ごと」ですから、相手の事情も勘案して、両当事者がともに納得、満足するような内容と手続を形成することが大事です。
・1年のおおまかな講義の内容の予定
独禁法を中心とした経済法の原理・歴史、独禁法の個別的規定に沿った解釈論と運用の実態と若干の立法政策論、独禁法以外の経済的規制・消費者法をめぐる諸問題
「経済法1」では、教科書第3章まで、「経済法2」では、第4章以下。
独禁法以外の経済的規制についての具体的な問題も適宜織り込む。
本講義の成績評価の仕方について、学生諸君の間で誤った情報が流れることも多いようなので、ここでまとめておく。
1.成績評価は、基本的には試験の答案に基づいて行う。すなわち、満点100点で配点し、評価する。したがって、下記の平常点なしでも満点を取ることが可能。
2.方法は、加点方式。事前にこちらが用意した模範解答に沿って、個別論点を正確に書いていれば、5点、10点と加えていく。この絶対評価方式で出された評価を、全体の出来等から適宜修正して相対評価を行い、法学部・経済学部の平均的評価水準になるべく近いものに修正する。
3.こちらが用意した内容と異なることが書かれていて、評価に値すると判断すれば、これも加点する。もちろん、質問と関係ないことを書いても評価には加えない。
4.通知表を受け取ったあと、自分の試験答案の採点につき疑問がある場合は、教務事務センターに申し出ること。ただし、「自分では勉強したつもりですが---」とか、DをC以上に直してくださいなどと書くだけでは不十分であり、自分はこういう答案を書いたので、これがC,Dであるのは納得いかないなどと具体的に明示して申し出ること。
5.上の自己検証に資するために、試験実施後、私のホームページに採点のポイントを掲示する。前年度の試験については既に掲載してあるので、これを参考にして欲しい。
「経済法学」とは、資本主義経済体制の下で、経済的取引と競争の実態がどうか、また規範としてどうあるべきか、それが全体の経済・社会・政治とどう結びついているかを考える学問である。
経済法は、労働法や社会保障法などと同様に、第1次世界大戦頃から現れた新しい分野であり、現代経済に特有の法現象。戦前の日本やドイツでは、産業、貿易の振興等の産業政策のための諸法が次々と立法化され、近代市民法と異なる様々な法現象が顕著になり、そこから経済法という新しい法分野が議論されだした。そこでの経済法とは、当時の統制経済体制を基礎付ける「経済統制法」であったし、経済法学もそれを理論化するという傾向が強かった。
これに対し、戦後は、米国の反トラスト法を継受して成立した独占禁止法や、各種の産業の助成、消費者保護のための各種の経済規制法等によって、取引・競争の自由と公正、その他各種の経済的・社会的目的を実現することが重要になりつつある。独占禁止法は、「経済憲法」とも呼ばれ、政治における民主主義に対応して、経済における民主主義(経済民主主義)を基礎付けるものと位置づけられた。したがって、経済法は、独占禁止法を中心とし、その他、各種個別的規制に関する諸法を含むが、これらも独占禁止法との関連で捉えられつつあり、その意味で独占禁止法は競争秩序維持法という基本的性格を持っている。
市民社会を規律する法が私法、国家の組織活動等を規律するのが公法という伝統的な二分法。この私法と公法が次第に相互浸透し、その中間領域に現れたのが経済法である。
私法の規律の対象(= 名宛人)は、私人であり、公法の名宛人は、主として国家、地方自治体、及びその他の公的法主体(特殊法人などと呼ばれる)である。
私法の前提は、自由かつ平等で、自立した個人による「私的自治」。民商法の規定には明示的には示されていないが、私的自治を原理として掲げたことの歴史的・経済的背景は、市場経済原理=自由競争の機能への信頼がある。
私人が私的利益を自由に追求し創意工夫を発揮(「経済的自由」の実現)。
→個々の取引で取引の相手方の自由な選択にさらされる(「市場のテスト」)
→市場での評価で私人の努力が報われ、同時に社会全体の利益も増大。
民法・商法は、法的主体を責任ある者に限定し(権利能力・行為能力。自然人と並んで、一定の団体に「法人」として法人格を付与する)、私的所有権を法的に保障し、「契約の自由」に基づく個々の取引の安全性、適正性の確保を目的とする。
しかし、この私法秩序が、社会全体の利益に結びつくのは、競争市場で公正な取引・自由が実現されたときだけであるが、自由で公正な取引と競争という理想が妥当しない領域や場面も多い。そこでは、前述の「私的自治」は正当化の根拠を失い、何らかの公的な修正が必要になる。「自己責任」を強調する議論はここを無視することが多いが----
具体的には、強者の「経済的自由」を制限し、不当な不利益を被る者を救済する必要があり、また、より根本的には、自由で公正な取引と競争という理想を回復する独占禁止法の機能が要請される。
参考)不公正な取引方法の例(→詳しくは後期の講義で取り扱います。)
○再販売価格維持とは(例)
→小売店の価格拘束=小売店間の価格競争の停止(→独占禁止法違反)
「私人が私的利益を自由に追求し創意工夫を発揮(「経済的自由」の実現)」
上のケースで,これは,メーカーだけがその「経済的自由」を実現しており,販売店は逆に「経済的自由」を制限されている(『自由の衝突』)。販売店の中には,メーカーの指示通りに500円で売ろうとする事業者も,またより安く売りたいという事業者もいるはず。
また,競争が機能していれば,メーカー間の競争によって,このメーカーは小売値5000円を強制すれば,他のメーカーとの競争に破れるはずではないか?
すなわち、「市場のテスト」が働けば、メーカーは自分の販売価格、あるいは自分が供給する商品の小売価格を恣意的に決めることはできない(price taker)はずではないか?
しかし、上のケースは,「自由で公正な取引と競争という理想が妥当しない領域や場面」の一例。再販売価格維持行為を実効性を持って行えるということは、自己の商品の価格について決定権を持っているということを意味する(price maker)。
なお、再販売価格維持は,原則として独占禁止法違反になるが,同法23条4項は「著作物」については,その発行事業者が行う場合には適用除外としている。例として,書籍,雑誌,新聞,レコード・CDなどがある。理由として,良質な文化の維持,新聞の場合は,「報道の自由」を国民が等しい条件で享受できるように,などが挙げられているが、その根拠は必ずしも説得的ではなく、諸外国でも著作物の再販売価格維持を違法としている場合が多い。