2006年 経済法1           トップページへ   講義目次に戻る


平成18年度 「経済法1」試験問題

一.次の設問に簡潔に答えなさい。

(1)競争の経済的・社会的・政治的メリットを箇条書きの形で述べなさい。(配点30点)

(2)石油カルテル事件の際に通産省が行った行政指導のように、石油元売事業者と行政庁が情報交換しながら、国民生活に対する悪影響を最小限にするような価格カルテル・数量調整を実施した方が結局は「公共の利益」に資する、という意見を反駁してください(配点30点)

二.以下の事実について、設問に答えなさい。

東洋製罐は、わが国の食缶供給の56%を供給し、系列下にある同業の4社をも含めると販売シェアは74%に達する。同社は、系列4社に対し、役員派遣・株式保有等を通じて、4社の販売地域や製造缶型を限定するなど、事業活動への干渉を行った。
また、その販売する食缶の買手である缶詰製造業者が自家製缶を始めようとしたことに対し、供給停止などで圧力を加えて阻止した。(東洋製罐事件=公取委勧告審決昭47918日)

<設問> 上記の行為は、独禁法のどの規定に違反するか、理由を付して述べなさい。(配点40点)

解答のポイント

一.
(1)

ア)競争のメリット(経済的メリット)---15

・よりニーズが高い商品・より安い商品・より品質が高い商品の提供

  → 限られた資源の望ましい利用(資源の最適配分)

・より優れた技術の採用・新しい技術の開発

上の2点から、競争は、経済の効率的な発展,技術進歩,経済成長,物価安定などの経済的な目的を実現するために有効。

イ)競争のメリット(社会的・政治的メリット)---15

・ 各経済主体の自主・独立性(事業者・消費者の主体性)

・ 政治権力・社会的権力に頼らない事業、行動様式へ。コネ社会との決別。

競争は、政治権力の恣意的拡大を阻止、自由で民主的な社会の存立基盤を形成する。「経済民主主義」というスローガンはこれを表現するもの。

 その他、競争は、消費者主権を実現し、消費者の利益をもたらす、企業努力(「事業者の創意」、工夫等)が報われる、企業努力が正当に評価されるなども、上述のことと同じであり正しい。----5点から10

 なお、独禁法1条の文言をそのままコピーしただけの答案も多いが、それだけでは足りない。

(2)独禁法の解釈論なのか、実態認識ないし政策論のレベルなのか、曖昧な答案が多い。まずは解釈論から出発すべきであり、さらに実態論に言及することが望ましい。

独禁法の解釈論として、「公共の利益」(26)は、自由な競争秩序それ自体を指す(通説)から、設問のようなカルテルは「公共の利益に反して」なされる、と解される。----10

 石油価格カルテル刑事事件・最高裁判決(昭和五九・二・二四)は、自由競争経済秩序という法益と当該カルテル行為によって守られる利益とを比較衡量し、「一般消費者の利益を確保するとともに、国民経済の民主的で健全な発達を促進する」という究極の目的に実質的に反しないと認められる例外的な場合を不当な取引制限行為から除外すると判示した。これによれば、当該カルテル行為の具体的な事情によっては「公共の利益に反して」という要件に該当しないとされることもあり得る。----10

しかし、この考え方では、カルテルを適法とすべきかすべき場合か否かの判断基準が極めて曖昧、不確実。また、実際にそのような基準によってカルテルが適法とされる、例外的場合があるのかどうかも極めて疑わしい。

これは「官製カルテル」肯定論であり、事業者は競争の圧力から免れ、恒常的なカルテル体質を生むことにつながる。

さらに、これは行政指導に対する甘い態度を生み、産業・行政庁間の不透明な癒着をもたらすおそれもある。

前記の事件では、この事件の状況では、実は、「作られた石油危機」であったようである。このような行政手法では、事業者の利益は考慮されるが、消費者の利益が軽視されるおそれがある。----10

その他、本件事案と判決について適切なコメントを書けば加点。

・ 同社がわが国の食缶供給の56%を供給し、系列下にある4社をも含めると74%に達するということは、既に同社が市場支配力を持っていることを示している。この状況で、以下のような行為をすれば、「競争の実質的制限」=市場支配力の維持・強化に当たる。---20

・これら系列4社に対し、役員派遣、株式保有、あるいは各種の事業活動への干渉を行ったことが私的独占における「支配」に当たる。---10

・ 買手である缶詰製造業者が自家製缶を始めようとしたことに対し、供給停止などで圧力を加えて阻止したことは、私的独占における「排除」に当たる。---10

 「支配」・「排除」に触れた答案は多いが、最初の「競争の実質的制限」について説明のないものが多い。シェアの点の他、自家製缶について圧力を加えることができる、ということは、競争の実質的制限を示す事実である。



12回(060707)「私的独占2

一.私的独占の禁止()

(3) 市場要件=「競争の実質的制限」

問題になる行為によって市場支配力を形成・維持・強化(以下、「形成等」と略記)するか否か。「競争の実質的制限」と市場支配力については前出。

ノーディオン事件=公取委勧告審決平成1093

 本件については、7.独禁法の国際取引への適用 で既に説明した。

カナダのノーディオン社が日本の取引先である二社に対し、放射性医薬品の原料であるモリブデン九九の全量を同社から購入する義務を課すことによって、他のメーカーを排除し、わが国におけるモリブデン九九の取引分野における競争を実質的に制限するとして、私的独占に当たるとされた。

本件では、ノーディオン社が世界におけるモリブデン九九の生産数量の過半を占め、また日本では前記の二社だけが本商品を輸入販売しているという状況の下で、排他的購入契約を強制されたことから、競争の実質的制限に当たるとされた。

パラマウント・ベッド事件=勧告審決平成10331

東京都財務局が発注事務を所管する都立病院向け医療用ベッドにつき、パラマウント社のベッドのみが納入できる仕様書入札を実現して競争者を「排除」した。

都は複数のメーカーが納入可能な仕様書による入札を実施する方針を立てていたにもかかわらず、同社は病院の入札事務担当者に対し、同社の製品のみが適合する仕様を盛り込むよう働きかけ、しかもそれは同社が実用新案権等を有している構造であることを伏せていた。

 また同社は、都の実施する入札に参加する販売業者の中から落札予定者及び落札価格を決め、入札参加業者に対し入札価格を指示する等、これらの販売業者の事業活動を「支配」していることも私的独占に当たるとした。

インテル事件=勧告審決平成17年3月8日

日本インテルが販売したインテル製CPUの数量がCPU国内総販売数量に占める割合は約89パーセント

AMD製CPUの販売数量が今後も増加し続けることを危惧

国内パソコンメーカーが製造販売するパソコンに搭載するCPUの数量のうちインテル製CPUの数量が占める割合(以下「MSS」という。)を営業上の重要な指標とし

 国内パソコンメーカーのうちの5社(平成12年から平成15年までの期間において,日本インテル,日本AMD及び米国トランスメタが当該5社に対して販売したCPUの数量の合計がCPU国内総販売数量に占める割合は約77パーセントである。)に対し,その製造販売するパソコンに搭載するCPUについて
ア MSSを100パーセントとし,インテル製CPU以外のCPU(以下「競争事業者製CPU」という。)を採用しないこと
イ MSSを90パーセントとし,競争事業者製CPUの割合を10パーセントに抑えること
ウ 生産数量の比較的多い複数の商品群に属するすべてのパソコンに搭載するCPUについて競争事業者製CPUを採用しないこと
のいずれかを条件として,インテル製CPUに係る割戻金又はMDFを提供することを約束することにより,競争事業者製CPUを採用しないようにさせる行為を行っている。

<法令の適用>
日本インテルは,前記事実の2(1)記載の5社に対するCPUの販売に係る競争事業者の事業活動を排除することにより,公共の利益に反して,国内パソコンメーカー向けのCPUの販売分野における競争を実質的に制限しているものであって,これは,独占禁止法第2条第5項に規定する私的独占に該当し,独占禁止法第3条の規定に違反するものである。

本件は、忠誠リベートを初めて「排除」による私的独占にしたという点に意義がある。

特に、以下の事実認定は重要。

「インテル製CPUについては,その国内における販売数量がCPU国内総販売数量の大部分を占めており,また,パソコンを購入するものの間において広く認知され,強いブランド力を有している。さらに,日本インテルは,価格,機能等の面において上位から下位までのほとんどすべてのパソコンに対応するCPUを国内パソコンメーカーに安定的に供給するとともに,従来のCPUに比して性能を向上させるなどしたCPUを次々に販売している。このため,国内パソコンメーカーにとって,その製造販売するパソコンの品ぞろえの中にインテル製CPUを搭載したパソコンを有することが重要となっている。」
 AMDなどと異なり、日本インテルは、国内パソコンメーカーにとって不可欠な取引相手である、ということであろう。

これに対し、AMDについては、「国内パソコンメーカーが,特に,価格,機能等の面において中位から下位までのパソコンにAMD製CPUを搭載し始めた」という事実認定がある。

ここから逆に、日本インテルは、上位のパソコンについては独占的供給者であり、これをテコとして排他条件を押し付けることができたとも推測される。

リベートについては、以下のような判断基準に見られるように、「実質的値引きと認められるリベート」とそうではないリベートとの違いを見分けることが重要である。

公取委の流通・取引慣行ガイドラインでも、第3部第3リベートの供与で、「価格の一要素として市場の実態に即した価格形成を促進するという側面も有する」が、「リベートの供与の方法によっては,流通業者の事業活動を制限することとなり」とある。

インテル日本法人の広報室は、「今回の排除勧告は受け入れる。しかし、公取委が指摘する事実や法令の適用を認めるものではない」と述べた。同社によると、パソコンメーカーが34カ月ごとにモデルチェンジする度に、同社は、採用されるCPUに関してパソコンメーカーと価格交渉を行っており、競合他社と厳しい競争をしているという。排除勧告を受け入れた理由として、同社の広報室は、「今回の排除措置の枠組みでも顧客の要望に十分応えることができる。また、顧客や自社も含めて長期にわたる行政手続きにさらされる不都合を回避するため」と説明している。

(ロイター)平成17411311分更新

ここには、従来の「勧告審決」制度の問題点が出ている。平成17年改正で、勧告審決はなくなったが、上のような企業側の戦略的な対応は、今回の改正法の下でも、排除措置命令に対し審判請求をせずに従うという形であり得るかもしれない。刑事罰・損害賠償請求等の動きもない場合には、「排除」による私的独占には課徴金はかからないなど、制裁が不十分であるから。もっとも、本件における公取委による排除措置は、かなり周到にインテルのリベート政策を否定したもののようにも見えるので、上記のインテルの説明はやや強がりという面もあるのかもしれない。


11回(060630)「私的独占1

8.独占および集中の規制

一.私的独占の禁止

(1) 私的独占の意義

 私的独占とは、「事業者が、単独に、又は他の事業者と結合し、若しくは通謀し、その他いかなる方法を以てするかを問わず、他の事業者の事業活動を排除し、又は支配することにより、公共の利益に反して、一定の取引分野における競争を実質的に制限すること」と定義されており(独禁法二条五項)、これを受けて、「事業者は、私的独占又は不当な取引制限をしてはならない」という禁止規定が置かれている(三条)。

 「私的」とは、公的独占、すなわち制度上認められた独占(例、郵便、水道)以外の独占という意味である。さらに、「してはならない」という法三条の文言からも明らかなように、独占(monopoly)という状態を禁止しているのではなく、独占する行為=独占的行為(monopolize)が対象とされている。

 また、「競争を実質的に制限すること」の意味は、市場支配力を形成・維持・強化することであるから(前述、第二章第一節四)、「独占」と言っても、ある市場において文字通り一者のみが売り手または買い手となることに限られず、少数の事業者が互いの競争を抑制し、すなわち協調的にある市場を支配する場合も含む(「協調的寡占」)。

(2) 行為要件=「排除・支配」

 前記の私的独占の定義規定のうち、「……を問わず」までは、事業者の単独行為か通謀等によるかを問わないとするだけであり、実質的な行為要件は、その後にある「排除し、又は支配」である。

 「排除」とは、市場支配力を獲得あるいは強化しようとする様々な行為によって、他の事業者が独自の事業活動を続けること、あるいは新規参入を著しく困難にすることをいう。例えば、豊富な資金力を背景に不当廉売を長期的に継続し、競争者が当該商品を扱えなくするとか、あるいは原料の買占め等で新規参入を困難にすることなどが、反競争的な排除に当たる。

 「支配」とは、他の事業者を直接間接に拘束しあるいは強制することによって、その事業活動を自己の意思に従わせることである。企業の事業活動についての自主的な決定を行い得ない状態をもたらす行為と言い換えることもできる。

パチンコ特許プール事件(勧告審決平成9・8・6)(レジメNo.8 & 9を参照)

パチンコ製造業者10社と(株)日本遊技機特許運営連盟が、パチンコ機の製造上重要な特許を所有し、それらを同連盟が管理・運営することにより集積し(「特許プール」の形成)、それを新規参入者に実施許諾しないことを申し合わせ、新規参入を排除していた。

特許権の「行使と認められる行為」に対しては、独禁法は適用除外とされている(法21条)。しかし、当該行為が技術保護制度の趣旨を逸脱し、又は同制度の目的に反すると認められる場合には、独占禁止法が適用される。

<質問> 

特許権を持つ者が、新規参入を阻止しようとしてライセンス(特許権の実施許諾)を与えないのは、特許権の正当な行使であり、経済的にも当然ではないのか?

「特許権」――ある特定の技術に対しての独占を認めるもの。しかし、技術独占と市場独占とは全く異なる次元の問題。後者は競争が行われる場(「一定の取引分野」=(関連)市場)の中で考える必要がある。

第一に、当該技術あるいは同種の技術をめぐる取引市場があり得るとして、ある特定の技術が知的財産権を有することと、それが関連市場において独占的になるかどうかは別の事柄。

第二に、当該技術を用いて製造された製品(本件ではパチンコ機)が、その製品に関連する市場において競争上どれだけ独占的になるかは、実態上の競争いかんにかかっている。

「実施許諾」―――他者にライセンスを認める義務は原則としてない。

しかし、本件では、既存パチンコメーカーが保有する特許権の公開・実施許諾を管理していた連盟が、新規参入者に対して実施許諾を認めなかった。

→ パチンコ機市場への、実質上の新規参入拒絶

→ 技術の独占という特許権の範囲を超えて、市場の独占を図ろうとした=「排除」に当たる。

既存の事業者による新規参入者に対する共同ボイコットだとすると、不当な取引制限としても構成できたケース。この場合は、違反行為に対し課徴金が課される。

独禁法違反行為に対する制裁。

  行政処分=公取による排除措置(違反行為をやめろ、という命令が基本)

  ② 課徴金 ← 価格に影響のある不当な取引制限と、「支配」による私的独占の場合。

  ③ 損害賠償または差止請求=被害者からの私的救済

 刑事罰

 課徴金の趣旨は、不当な利益の徴収。

これは本来は、被害者からの損害賠償で取り戻すのがスジである。しかし、これは実際上はほとんど不可能であり、違法行為の「やり得」になってしまうということに対処するということから、国が不当な利益の徴収をするための課徴金が制度化された。

典型は、価格引き上げカルテルの場合であり、不当な利益に相当する分を制度的に擬制して国が徴収。これは、支配による私的独占でも同様であるとして、平成17年改正(本年一月から施行)で、これも課徴金の対象とされることになった。

野田醤油事件=東京高判昭和321225

醤油製造業でシェア第1位の野田醤油が、自己の指示する価格以下で販売する小売業者に対し出荷停止や取引拒絶などの措置を採ったことが、他の醤油製造業者3社の事業活動の「支配」に当たるとされた。

 本判決では、野田醤油がその卓越した事業力と自己のブランドに対する消費者の信用を背景に、上記の諸措置によって小売価格を斉一に維持し、他の3社も野田醤油の商品と同一価格にしないと最上の格付けを維持できないという状況の下で、3社に対しプライス・リ−ダ−の地位を形成・維持していたことが、他社の事業活動を支配したとされた。

 野田醤油は、競争事業者である3社に対しては直接には何らの行為をしてはいないが、上記のような格付けに関する状況を踏まえて、市場全体に対する自己のプライス・リ−ダ−シップを確保・強化する目的で再販行為をしたことは、3社を支配したことになるとされたのである(ここから、「間接支配」と呼ばれる)。

<質問> 消費者が、「キッコーマン」というブランドを信頼したのであるから、野田醤油がプライス・リ−ダ−の地位を形成・維持したことは何ら責められるべきではないのではないか?

野田醤油の採った手段が問題。再販売価格維持行為は、原則違法とされている。

理由:すべての小売店で、その商品の小売価格が一緒になるから

→ 小売店による価格カルテルと同じことになり、小売業者の経営努力を無駄にしてしまう。

シェアトップの野田醤油の製品が、再販行為によって、どこのお店に行っても同じ価格で売っており、値崩れがない。

→ 価格とブランド力(「消費者の信頼」)は、強い関連性がある。

→ 他の3社は、末端価格が野田醤油より低くなるとトップ・ブランド4印という看板を失うことになるから、野田のプライス・リーダーシップに従った価格行動をとらざるを得ない。

→ 3社はブランド力だけでなく、価格などの販売面でも野田醤油に対して従属的になった。



10回(060623)「独禁法の国際取引への適用

7.独禁法の国際取引への適用

 実体上の域外管轄権(=立法管轄権)と手続上の域外管轄権の区別。

立法管轄権  :独禁法の実体的規制をどこまで及ぼせるか?

   司法管轄権  :裁判・判決をすることができるか?

執行管轄権  :独禁法に基づく行政上の手続を実施できるか?

前者(実体上の域外管轄権)については、個別具体的な行為を問題にする際に、「一定の取引分野」の 画定の仕方、「公正な競争」の範囲について明らかにする必要がある。

後者(手続上の域外管轄権)は、各国の主権の尊重とのからみがあり、ある国が自国の独禁法の管轄を独自に広く解することは主権侵害となるおそれがある。

属地主義:「自国の競争法を適用するためには外国事業者の行為の少なくとも一部が自国内で行われる必要がある」との考え方(伝統的考え方)

効果主義:「外国事業者の行為のすべてが国外で行われてもその競争制限効果(一般に、当該行為の直接的、実質的かつ予測可能な効果に限定される)が自国内に生ずる限り自国の独禁法を適用できる」との考え方(最近の考え方)

 歴史的には、国際カルテルを禁止することが、戦後の世界経済の自由競争を促進、担保することにつながるという原則論と、各国の独自の経済・産業事情によって独禁法を適用し、あるいは適用しないという各国の個別の政策とが相反しつつ共存。

 具体的には、米国の反トラスト法の広い「域外適用」に、各国がどう対抗、対応するかという観点と、各国の独禁法の平準化の進展とともに、各国で相互に協力しながら、それぞれの独禁法を適用していくことにより、国際的な競争制限行為を禁止・抑制していく、という傾向がともにある。

○化合繊カルテル事件=審決昭和471227

  国内繊維メーカー3社は、イタリア・ミラノ市/京都市で、ヨーロッパメーカーと会合して、お互いの輸出地域・輸出数量等を決定 → 6条違反

当時の日本メーカーによる洪水輸出に対する欧州側の反発(特に、欧州のメーカー)を考慮して、日本メーカー側が自粛した、という背景。

これ以降、貿易摩擦への対処は、日本・諸外国の独禁法を考慮しつつ行われるようになる。場合によっては、日本の政府による輸出規制によって対処。これであれば、メーカーによる競争制限行為ではないから、各国の独禁法に違反しない。

 ○並行輸入阻止事例

■■■この 並行輸入阻止事例の図がうまく挿入できません。必要な方はサイバーラーニングをご覧ください。


○天野・ノボ事件=最判昭和
501128

天野・ノボ事件において、公取委は、独禁法六条が不当な取引制限または不公正な取引方法に該当する事項を内容とする国際的協定・契約の締結それ自体を違法としており、外国事業者に対する手続上の域外管轄権が認められなくとも、日本の事業者のみを被審人として外国事業者との間で締結された協定・契約の違反条項を破棄させることができるとの考え方の下で、不利な拘束条件をつけられた日本側の天野製薬だけに、違反条項の破棄を求めた。

に有利であるため、一般的には公取委と積極的に争わずに命令に従うことと考えられる。それでは、相手方の外国事業者に実質的な告知と防御の機会を与えないこととなり、法の適正手続の要請に反するものであるという批判が強い。

 また、拘束条項を破棄された外国事業者(ノボ)は、契約相手(天野製薬)が公取委と積極的に争ってないことが契約締結当事者間の信義則に違反するということを理由に、天野製薬に対し損害賠償訴訟を提起する可能性も考えられる。この場合、被告側の、「仕方なく公取委の命令に従った」という抗弁が裁判上認められるか?

 これについては裁判における主張・立証の仕方なども含め不確定要素が多いが、勧告に対し争わずに応諾したことから否定されることもあり得るであろう。

 ノボは審決取消請求をし、最高裁まで争ったが敗訴。ノボの主張を公取の審査等のどこかできちんと聞いて議論する機会を与えるべきであり、その手続的保証があるべき。

ノーディオン事件=公取委勧告審決平1093

 この事件では、上記の天野・ノボ事件と異なり、外国事業者それ自体を被審人としたので、同事件のような疑義はない。

属地主義的理解? 

「ノーディオンは・・・・日本メジフィジックスとの間で、平成8826日に、東京都に所在する日本メジフィジックスの東京本部において、『日本メジフィジックスが取得、使用、消費又は加工するモリブデン99の全量をノーディオンから購入しなければならない』旨の規定を含む平成17年末までの10年間の契約を締結した。」

     

  効果主義的理解?
「・・・我が国におけるモリブデン99の取引分野における競争を実質的に制限していたものであって、…独占禁止法第3条の規定に違反するものである。」

○ビタミン国際カルテルに関する警告事案(平成134月)

国内製薬メーカーがヨーロッパメーカーとビタミンの販売について、世界市場及び日本を含む地域別市場ごとの販売予定数量を共同して決定 → 3条又は6条違反の疑いで警告



9回(060616)「競争の実質的制限

6-3.競争の実質的制限256項、811号)

 「競争の実質的制限」は,特定の事業者または事業者集団が市場支配力を形成・維持・強化している状態を意味している。

東宝・新東宝事件=東京高判昭和28129、土判例百選(第3版)----資料配布

市場支配力の形成・維持・強化とは,典型的には市場における価格その他の取引条件を支配する力または市場の開放性を妨げる力を形成・維持・強化することであり,現実に価格が引上げられたとか事業者が市場から排除されたことを必要とするものではない。

しかし,市場支配力は相対的な概念であり,その内容は必ずしも一義的ではない。一方の極では,経済学でいう「完全競争」の条件が欠ける場合には常に市場支配力が形成されるとみることもでき,他方の極では,「完全独占」に至ってはじめて市場支配力が形成されるとみることもできる。

独禁法の現実の解釈運用においては,「有効な競争」を期待することがほとんど不可能な状態をもたらす場合に市場支配力が形成されるとして,右の中間的な立場がとられている。

 「競争の実質的制限」の存否は,一律に特定の基準によって判断されるのではなく,当事会社の属する業界の実情,各取引分野における市場占拠率,供給者側および需要者側の各事情,輸入品および代替品の有無ならびに新規参入の難易などの経済的諸条件を総合的に考慮して(公取委ガイドライン)、個々の事件および具体的な行為類型ごとに判断される。

この場合には,経済学上の有効競争の基準のうち、主として「市場構造基準」の利用が、補助的に「市場成果基準」の利用がそれぞれ一定の有効性を発揮することになる。

1.競争が有効に機能していれば、当該市場における価格などの取引条件は、市場が決め、参加者はそれに従わざるを得ないはず(price taker)。

しかし、実際には、ある程度の市場力を有して、自己の市場戦略をかなり通すことができる企業もある(price maker)

2.現実の多くの市場は、経済学上の「完全競争」(教科書27頁以下参照)ではなく、大企業がある程度の市場力(market power.「市場支配力」まではない場合を含むこととする)を有している。

 「競争の実質的制限」は、「市場支配力」の獲得・維持・強化のこと。

独占(Monopoly)・寡占(Oligopoly)・多占(Polypoly

 寡占は、「高度寡占」等々の分類がある。事業者の数、そのシェアの分布、需給の状態、関連市場の関係等から、競争的にも、反競争的・協調的にもなり得る。

 price leadership, conscious parallelism——例:かつてのビール、全国紙、1年ほど前までの固定電話発携帯電話着の料金

 これらの場合、「意思の連絡」がないから、「不当な取引制限」には当たらず、それ自体では(それ以外に反競争的行為をしていないのであれば)独禁法違反ではない。

3.そのような市場力が、競争の中で自然に獲得されたものか、それとも競争制限を目的とする反競争的行為によって獲得されたか、をみることが重要である。

例、東洋製罐事件=公取委勧告審決昭47918

この東洋製罐事件は、東洋製罐の行為が「私的独占」(これについては、すぐ後の8.で説明する)に当たるとされた。私的独占の行為要件は、「他の事業者を支配又は排除する」であり、この要件に該当するか否かにおいて、上記の反競争的行為の判断がなされる。

この事件では、同社がわが国の食缶供給の56%を供給し、系列下にある4社をも含めると74%に達するという支配的状態の下で、これら系列4社に対し、役員派遣、株式保有、あるいは各種の事業活動への干渉を行ったことが「支配」に当たり、また、その買手である缶詰製造業者が自家製缶を始めようとしたことに対し、供給停止などで圧力を加えて阻止したことが、「排除」に当たるとされた。

4.また、この場合、price makerとなったトップ企業に対し、競争事業者がどう対抗するかも、「市場支配力」の有無ないし程度を判断する要素の1つ。

 正面から価格や新製品で競争を挑む場合は(ホンダに対するヤマハの失敗例)、競争的寡占であるが、それが失敗に終わったということはホンダの支配力が強いことの証明でもある。

リーダー企業と同一またはそれよりやや低い価格で追随する場合(野田醤油事件、80年代の長距離通信市場)、競争は不十分である。

5.さらに、新規参入を阻止しようとする行為は、それが一定の効果を持つ限りで「競争の実質的制限」に当たることが通常。

例、前掲の東洋製罐事件

例、日本遊戯銃協同組合事件(東京地判平成949

遊戯銃には衝撃度合についての法律上の規制があり、これに上乗せして、同組合は法的基準よりも厳しい自主規制を行っていた。

 ある遊戯銃メーカーが、法的基準以下ではあるが組合の自主規制を超える製品を販売したところ、組合は卸・小売業者に対して、当該製品を販売するならば、その他の組合所属メーカーの製品を供給しないと脅して、当該商品を市場から排除した。

6.実際の規制においては、私的独占でも不当な取引制限でも、行為要件に該当し、かつ「競争の実質的制限」(市場要件)に当たる場合にのみ規制が発動される。「競争の実質的制限」に当たることだけで違法とされるわけではない。

「競争の実質的制限」の判断基準のうち最も重要な市場構造基準のうち、特にシェアが高い企業でも、具体的な行為がどのようなものであったかが問われる。シェアが高いという状態だけでは、独禁法違反にはならない。

シェアが高い事業者または独占状態にある事業者の例として、公益事業を営むNTT地域通信会社、各電力会社、都市ガス会社、上下水道など。

米国のマイクロソフト社も、パソコンOS市場では90%を越えるシェアであるが、この地位を利用してパソコン・メーカー等に強圧的行動をとり、競争者を排除したという行為が、米国の独禁法(反トラスト法)違反とされた。



第8回(060609)「事業者、
一定の取引分野

6.独占禁止法の基本概念

6-1 「事業者」

 独禁法によって規制を受けるのは、原則として事業者および事業者団体である(その例外として独禁法九条・一三条・一四条、および八九条以下の刑事罰規定参照)。このうち、事業者団体は、事業者の結合体またはその連合体であると定義されており(二条二項)、その定義は、事業者概念を基礎として構成されている。したがって、まず、事業者概念を明らかにする必要がある。

 独禁法上、事業者は、「商業、工業、金融業その他の事業を行う者をいう」と定義されている(法二条一項)。この場合、「その他の事業を行う者」にどのような範囲の者を含めるのかが解釈論上問題となるが、独禁法は、「公正且つ自由な競争の促進」によって望ましい経済成果と民主的な経済秩序の確保を目指す経済法の基本法であることから判断して、「なんらかの経済的利益の供給に対応して反対給付を反復継続して受ける経済活動を行う者」であればよく、その主体の法的性格は問わない(都営芝浦と畜場事件=最判平成元・一二・一四〈百選70事件〉)。経済事業であれば営利を目的とするか否かも問わないので、独禁法は、協同組合・共済組合や、政府(郵便葉書の発行・販売につき国の事業者性を肯定した、お年玉付き年賀葉書事件=最判平成一〇・一二・一八〈百選2事件〉)、地方公共団体、公社、公団、事業団、NHKなどの特殊法人の行う経済事業に対しても適用される。

 他方、一般に、純粋の社会福祉事業、教育事業、宗教事業、慈善事業などには独禁法の適用はないとされるが、これらの事業であっても経済事業的側面を併せ持っている場合があり、いずれの側面を重視して判断すべきかについて困難を伴う場合がある。公取委は、①学校法人、宗教法人等であっても、収益事業(私立学校法二六条等に定める収益事業をいう)を行う場合は、その収益事業については、事業者に当たること、②学校法人、宗教法人等または地方公共団体その他の公的機関が一般の事業者の私的な経済活動に類似する事業を行う場合は、その事業については、一般の事業者に準じて扱うことを明らかにしている(「景品類等の指定の告示の運用基準について」昭和五二・四・一事務局長通達七号)。

 医師、弁護士、建築士などの自由職業については、かつてもっぱら個人の能力が評価される活動であり、独禁法二条一項の列挙するような企業的性格を持たないとして、独禁法の適用について消極的見解が有力であった。しかし、近時においては、それらの自由職業も経済事業であることには変わりがないこと、自由職業においても料金協定、新規開業の妨害などの競争制限行為が行われ弊害が生じていること、米国、ドイツ、英国など諸外国の独禁法においても、自由職業に対する法の適用が積極的になってきたことなどから、自由職業に対しても、原則として独禁法を適用すべきであるとする見解にほぼ一致するに至っている。公取委も、建築士事務所の開設者、病院・診療所の開設者、歯科診療所の開設者などに対して独禁法を適用する態度を採るに至っている(日本建築家協会事件=審判審決昭和五四・九・一九、観音寺市三豊郡医師会事件=東京高判平成一三・二・一六〈百選1事件〉、「医師会の活動に関する独占禁止法上の指針」(昭和五六・八・七公取委事務局)など)。

 俳優や職業運動選手の場合には、独立した事業者として活動しているときには違反主体として独禁法の適用が可能であるが、被用者としての地位にあるときには独禁法を適用できない。もっとも、被用者としての俳優や職業運動選手の活動を制限する事業者としての使用者の経済活動に対しては独禁法の適用はあり得る。

俳優・タレント・職業選手の中でも、自己の計算で、独立して事業活動をしている場合は事業者性が認められる。

それ以外の、芸能プロダクションやプロ野球の球団等に所属し従属関係にある場合は、事業者性は否定され、労働関係として扱われる。この意味は、選手の団結は、労働基本権の1つとしての団結権として保護され、独禁法上の「共同ボイコット」として禁圧されない、ということである。

 事業者の共同行為による労働力の買い叩きが「契約の自由」の名の下で野放しにされながら、労働者の共同行為を罰してきた米国のシャーマン法の血塗られた歴史の中で、労働免責(労働者の団結は独禁法の適用を受けず、労働法の保護を受ける)が次第に確立。

労働力は、生身の人間を一定の経済的行為に従事させることから商品価値が生じるのであって、一般の商品とは異なること、また、雇用関係は通常の取引関係と異なり、支配従属関係に立つことが特徴的であるからこそ、労働法による特別の規律によって労働基本権を確保する必要が認められる。これらを根拠に、球団と雇用関係に立つ選手との関係には、独禁法の適用を否定すべきであると解される。この見解によると、球団側は、選手に対し労働者としての権利を保障しなければならず、選手を構成員とする労組には団交権等が認められる。

これに対し、球団側の買い手カルテルとしての不当性を出発点として考えるべきであるという見解もあり得る。これによれば、経済の実態においては、労働力も「商品」であり、雇用関係がそっくり独禁法の適用除外になるという解釈は妥当ではない。労働力の「商品」扱いを労働者の権利保護の方向で否定するのが労働法であるが、反対に、雇用者側の買い手カルテルまで認めようというのは、むしろ労働基本権の趣旨に反するし、独禁法の適用があると解すべきである。この見解によると、球団側が、共同して選手との取引条件を決定すれば、「不当な取引制限」(カルテル)に当たる可能性がある。ただし、興業として面白いゲームを見せるために、必要最小限の行為としてドラフト制度、FA制度などが作られているとすれば、その限りで違法ではないとも解される。

上の2つの見解のどちらをとっても、日本の球団側が定める諸ルールとその運用のいくつか、例えば団交を誠実に行わずに勝手に決定するような行為は、労働者の基本権を侵害するか、独禁法違反に当たる違法な行為である疑いが強いと言えよう。

・社団法人日本野球機構「日本プロフェッショナル野球協約」15章「新人選手の選択」(いわゆるドラフト制度)---新人選手は、労働法の保護を受けられるか、それとも独立の事業主か。後者であれば独禁法上違法なカルテルの疑いがある。なお、米国では、従来は判例上、プロ野球に対して反トラスト法を適用除外してきたが、適用を認める判決も多く出始めている。

・「弁護士団体が球団に質問状 プロ野球の閉鎖性にメス 契約更改交渉で代理人排除違法 独禁法『地位濫用』に抵触」日経新聞19921130日付け朝刊。2000年ようやく「代理人交渉」を容認、しかし、渡辺オーナーの骨抜き発言。

・「1軍選手は労働者か否か」西村欣也・朝日新聞2002326日付け朝刊。なお、労組日本プロ野球選手会は、既に10年ほど前に労働組合法上の「労働組合」として適合するとされ(同法2条、5条参照)、登記し法人となっている(同法11条参照)。

・「巨人一人勝ちいいのか」大橋巨泉・朝日新聞2002326日付け朝刊。

6-2.「一定の取引分野」(256項、811号)

「一定の取引分野」とは,競争が行われる場,すなわち一定の供給者群と需要者群との間に成立する「市場」である。

「競争の実質的制限」や「公正競争阻害性」の存否が判断されるのは,「一定の取引分野」においてであり、具体的な競争制限・阻害行為を見ながら「一定の取引分野」が確定される。具体的には、私的独占や不当な取引制限の禁止に反する疑いのある行為が「競争の実質的制限」に当たる行為か否かを判断する際に、当該行為がどの範囲の競争に影響を与えるのかを画定しておく必要がある。この場合、「一定の取引分野」と「競争の実質的制限」・「公正競争阻害性」は、互いに関連して判断される。

「一定の取引分野」の範囲は,共通する取引の対象,段階,地域、相手方等によって画定される。                 

取引の対象による「一定の取引分野」を商品市場、地域による「一定の取引分野」を「地理的市場」と呼ぶ。

商品市場については、当該商品・役務の用途,性質,価格などを総合的に考慮することにより、主として需要面での合理的な代替可能性があるか否かを判断することによって決められるが、供給面での合理的な代替可能性が補完的に考慮されることもある。

いわゆる「ブランド品」などのように、特定メーカーの商品・役務が極端な製品差別化に成功している場合においては、いわゆるブランド内競争が展開される特定メーカーの商品・役務のみについて「一定の取引分野」が構成されることもある。

「不当な取引制限」=俗に言う「カルテル」の場合は、それが実効性をもって行われれば、当該カルテルの対象がそのまま「一定の取引分野」であるので、「一定の取引分野」をとりたてて画定する必要はない。

これに対し、「集中」=「企業結合」の場合は、影響が出る前に前もって判断しなければならないので、この「一定の取引分野」画定の問題が重要になる。

1.地域による「一定の取引分野」の画定

集中の例として、東宝・スバル事件・独禁法百選(第四版)16頁以下----資料配布

「営業の重要部分の賃借」(独禁法16条3号)に該当する本件契約の締結が、一定の取引分野における競争を実質的に制限することとなる場合」に該当し違法であると判断された。

・公取委審決(昭和25929

一次的:丸の内・有楽町界隈(8/10 90.4%)、二次的:東京都興業組合銀座支部の管轄地域(8/20 57.9%)、という二段構えの判断方法。

・東京高判昭和26919)、最判(昭和29525

旧東京市の全部から判断すべきとする原告の主張を否定。上の銀座で見るべきとした。

2.商品または役務(=サービス)による「一定の取引分野」の画定

一般に、カルテル協定が結ばれ、それが実効性を持って実施された場合には、そのカルテルの対象をそのまま「一定の取引分野」として認定してよい。それが実効性を持ったということは、そのカルテルの対象である商品や地理的範囲で競争が制限され、それがその隣接市場の影響を受けなかったということであるから。

「一定の取引分野」についての第3の例として、PHS、携帯電話、固定電話の3者は、別個の商品・サービスであり、別個の市場であろうか。

PHSと携帯電話は、ユーザーにとってほぼ同様の用途のためであり、当初は競合すると見られていた。しかし、実際には、PHSより携帯電話の方が優れているという漠然としたイメージが広まったこともあり、後者の利用者が急増。そのことが、更なる料金の低下をもたらし、携帯電話会社間の競争が激化、それがサービスの差別化を進めることになった(iモードなどのメール・ブラウザー機能の付加)。

また、携帯電話の料金の急激な低下によって、今度は固定電話との競争が表面化。→ 携帯電話と固定電話はともに同一の「一定の取引分野」を構成する、という意見が有力になってきた。

この立場から、東西NTTとドコモが兄弟関係にあることは、企業結合による競争制限につながるのではないか、したがって、NTT持株会社のドコモへの出資割合をより低下させるべきだ、という政策課題が提示された(公取委・政府規制等と競争政策に関する研究会「電気通信事業分野における競争政策上の課題」平成126月、郵政省・電気通信審議会「IT革命を推進するための電気通信事業における競争政策の在り方についての第1次答申」平成1212月)。

携帯(M)と固定(L)の料金格差が、最も重要な判断材料。

両者は同一の取引分野に属するか、それとも別個の取引分野かについては、決定的な議論はないであろう。そもそも、「一定の取引分野」は、具体的な行為や状況の中で問題とされるのであり、それを離れて一般的な議論はしにくい。

 関連する事例として、ドコモの「外販許諾」について公取委が警告(平成11427)。

ドコモが、4社から外販許諾の申請があった場合、4社が製造するNCC向け端末機の販売開始時期を制限(販売時期を遅らせるなど)することによって携帯電話市場における競争を減殺している可能性があり、「不公正な取引方法」の一般指定13項(拘束条件付取引)に該当。

 第一に、端末機メーカーが「ドコモの技術を使用した端末機を第三者に販売するときは、ドコモの許諾を得なさい」という拘束には合理性がない。

 端末機の技術の大半は、メーカー独自の技術であり、ドコモとの共同開発にかかる技術は「通信関係」に限られるにもかかわらず、端末機全体を外販許諾にかけるのは、ライセンス契約における権利の濫用に当たる。

 第二に、外販許諾の目的は、自己の権利を守るのではなく、競争者の端末機開発を遅らせようということであることは明白(公取委は、これを明文では言っていないが)。

 ここには、携帯電話の競争の特殊性、すなわち、通信サービスよりも端末がユーザーを引きつけるという特性が明確に表れている。この点に着目し、また具体的な行為(外販許諾)がここに影響を与えようと言うことであるから、このような行為を独禁法上問題にする場合には、固定電話とは別に、携帯電話が独立した1つの「一定の取引分野」であると捉えるであろう。

3.取引段階、取引の相手方の種別(例えば大口ユーザー)等による「一定の取引分野」の画定

競争関係は、一般に取引段階を同じくする事業者間において成立する。したがって、例えば商品の流通経路が生産者→卸売業者→小売業者→消費者となっている場合には、通常、生産者→卸売業者、卸売業者→小売業者および小売業者→消費者という取引段階ごとに別個の「一定の取引分野」が構成される。しかし、生産者が、卸売段階を超えて直接小売業者に向けて競争を行っているとみられる場合や、卸売および小売段階を超えて直接一般消費者に向けて競争を行っているとみられる場合もあり、そのような場合には、取引段階を超えて「一定の取引分野」が構成されることになる。

また、例えば、大口需要者向けと一般消費者向けとにおいて、取引方法や取引条件が異なっているような場合には、それぞれが別個の「一定の取引分野」を構成することになる。また、特定の官公庁、薬についての医家向けと大衆向けなど特定の取引相手方ごとに別個の「一定の取引分野」が構成されることもある。




7回(060602)「独禁法の目的 その2

5-2 「公正且つ自由な競争の促進」

 前述の通説的見解に従って、独禁法が原則として「公正且つ自由な競争の促進」を目的とする法律であり、競争政策を実現することを意図する法律であるとしても、このことは、寡占経済として特徴付けられている高度に組織化された現代資本主義社会を、多数の小規模な事業者のみからなる完全競争的な古典的資本主義社会へと逆戻りさせることを意図するものではない。

 公取委がかつて述べたように、「今日の私的独占禁止政策〔競争政策-筆者注〕は、いわゆる『独占的』要素を本来的に包蔵している『不完全市場』に『機能的競争』もしくは『有効競争』を能うる限り維持するための政策であるということができる。それは、『不完全市場』という経済の実態を十分に認識した上で自由かつ公正な競争という機能がもたらす経済的社会的効果を最大限に発揮させようとするものである」(昭和二八年度公取委年次報告一頁)と言うことができる。東京高裁が石油生産調整刑事事件および石油価格カルテル刑事事件(東京高判昭和五五・九・二六〈百選6事件〉)において、不当な取引制限の要件である「競争の実質的制限」について、「一定の取引分野における競争を全体としてみて、その取引分野における有効な競争を期待することがほとんど不可能な状態をもたらすことをいうものと解される」と判示するのも、次元の異なるものではあるが、基本的に同じ趣旨に出たものである。

5-3 完全競争の非現実性と不適切性

 完全競争とは、経済学上、一般に、次のような条件が満たされている場合に成立すると言われている。

 ① 市場で取引する売り手と買い手の数が非常に多く、どの売り手も買い手も市場価格の上にいかなる影響をも及ぼし得ないこと。

 ② どの売り手も買い手も市場における価格その他の取引条件について完全な情報を有していること。

 ③ 市場で取引される商品が同質であり、差別化されていないこと。

 ④ あらゆる生産要素の完全な可動性が存在し、売り手、買い手とも様々の取引へ自由に参入しまたは退出することができること。

 しかし、現実のほとんどの市場(いくつかの農産物市場などを除き)においては、売り手、買い手の数は限定され、情報も不完全であり、製品差別化が行われ、また、生産要素の移動も不完全であり、参入、退出の自由も完全ではない。現実の市場の競争は不完全であり、何らかの程度の独占的要素が常に市場に内在している。したがって、独禁法によって完全競争を実現するようなことは、およそ非現実的であり、実際上不可能なことである。また、完全競争は静態的な理論モデルにおける概念であり、動態的な競争を捉えようとしたものではないから、技術革新や規模の経済性の実現などを考慮に入れるには別の概念ないし理論が必要である。

 経済学上、競争政策の基準として完全競争に代えて有効競争が主張され、多数の支持を受けるに至ったのは、以上のような理由に基づいている。

5-4有効競争の基準

 有効競争論は、一九四〇年、米国の経済学者J・M・クラークによって提起されて以来、多くの経済学者によって活発に展開されてきたが、有効競争の概念は完全競争の概念と比べると不明確であり、その内容も論者によって一様ではない。

 有効競争論は、市場構造基準、市場行動基準および市場成果基準の三つの立場に大別されてきた。市場構造基準の立場は、①集中度があまり高くなく、②市場参入が容易であり、③極端な製品差別化がないような場合に、市場行動基準の立場は、①価格について共謀がなく、②製品について共謀がなく、③競争者への強圧政策がないような場合に、市場成果基準の立場は、①技術の進歩・革新への絶えざる圧力があり、②コストの引下げに対応して価格が引き下げられ(正常利潤を超える独占利潤が獲得されていない)、③当該産業が効率的な適正規模の企業から構成され、④販売費が浪費的でなく、⑤慢性的な過剰能力がないような場合に、それぞれ有効競争が実現されていると主張する。もっとも、多くの有効競争論者は、いずれか一つの基準を相対的に重視するのにとどまり、一つの基準のみに固執することなく、三つの基準を併用して総合的に有効競争の存否を判断する態度を採ってきた。

 経済学上の基準それ自体が法の基準に代わるものではないが、有効競争論が独禁法の立法論や解釈運用に大きな影響を与えてきたことは疑いなく、その場合、法の実効的な実現・執行という要因が重視されるために、相対的に明確かつ客観的に判定可能な市場構造基準と市場行動基準とを基本としながら、客観的判定の困難な市場成果基準を補助的に取り入れるという態度が採られてきたのである。基本的に市場構造が市場行動を規定し市場行動が市場成果を規定するという相関関係にあるとする伝統的な有効競争論(そしてそのことを実証しようとする伝統的な産業組織論)は、近年、経済学上多くの批判にさらされているが、現行独禁法は、依然として、伝統的な有効競争論に基づき、市場構造基準と市場行動基準とを基本としつつ、市場成果基準を補助的に取り入れるという態度を維持している。独禁法は、主として、私的独占(法三条前段・二条五項)、共同行為(三条後段・二条六項、八条一項一号)、企業結合(一〇条一項、一三条一項、一五条一項一号、一六条一項)、不公正な取引方法などといった企業の人為的な市場行動を禁止または制限しており、後述のように、その違法要件である市場支配力の形成・維持・強化を意味する「一定の取引分野における競争の実質的制限」や、競争の減殺、競争手段の不公正さまたは競争基盤の侵害を意味する「公正な競争を阻害するおそれがある」の判断においても、市場構造基準と市場行動基準とを基本としつつ、補助的に市場成果基準を取り入れて判断されている。また、価格の同調的引上げの理由報告徴収の要件(一八条の二。ただし、現行法では削除されている)においては、市場占拠率要件という市場構造基準と協調的価格行動要件という市場行動基準とから構成されており、「伝家の宝刀」といわれる独占的状態の成立要件(八条の四・二条七項)においても、市場占拠率要件および参入要件からなる市場構造要件と価格要件、利益要件および費用要件からなる市場成果基準から構成されている。

5―5 望ましい経済成果と民主的な経済秩序

 さて、独禁法は、「公正且つ自由な競争の促進」に向けられた規範体系であるとしても、このことは、競争至上主義に立脚していることを意味するわけではない。独禁法が競争政策を実現しようとするのは、それによって望ましい経済成果と民主的な経済秩序を確保できるという政策判断に基づいているからである。そのことが独禁法一条の「公正且つ自由な競争を促進」以下の部分に定められている。すなわち、「事業者の創意を発揮させ、事業活動を盛んにし、雇傭及び国民実所得の水準を高め」ることが望ましい経済成果を示し、「一般消費者の利益を確保するとともに、国民経済の民主的で健全な発達を促進すること」が民主的な経済秩序の形成を示している。

 事業者間の公正かつ自由な競争を促進すれば、生産効率や活発な技術革新を促し、それによって経済活動の規模が拡大して雇用水準が高まり、コストが低下して物価が安定するなどの望ましい経済成果が得られることになる。事業者間の競争が公正かつ自由に行われていれば、一般消費者の市場における自由な購入選択を通じて、経済的次元の最大多数である一般消費者の欲求を反映する経済活動が展開され、民主的な経済秩序が形成されることになる。

 このように、独禁法は、競争政策の実現によって、望ましい経済成果と民主的な経済秩序を確保しようとしているのであるが、独禁法制定の背景と趣旨、一条の目的規定の定め方、具体的な実体規定の内容などからみて、独禁法は、後者の民主的な経済秩序の形成・確保に、より優先的かつ基本的な価値を認めているものと解することができる。

5-6 「一般消費者の利益」の位置付け

 独禁法一条の目的規定の中に「一般消費者の利益を確保する」ことが定められているが、独禁法において「一般消費者の利益」をどのように位置付けるのかについての考え方は、独禁法の立法目的の捉え方の違いに対応して多様である。また、独禁法の目的は競争政策を実現することにあるとする通説的見解においても、「一般消費者の利益」の位置付けについての考え方は、必ずしも一様ではない。

 独禁法の目的は競争政策を実現することにあるとする通説的見解を最も狭い意味にとれば、一般消費者の利益は、法律上保護された利益ではなく、競争政策の実現の結果たまたま生ずる反射的な利益ないし事実上の利益にすぎないものとなる。独禁法の目的について判例の立場に立っても、同様の結論が導かれる(ジュース表示事件=最判昭和五三・三・一四〈鈴木深雪・百選第5242頁以下〉)。

 また、独禁法の目的が国民経済全般の利益にあるとする考え方に従えば、「一般消費者の利益」は国民経済全般の利益に従属すべきものであるということになる。これに対し、独禁法の目的が経済的従属関係を規制することにあるとする考え方に従えば、経済的従属者の最たる者である一般消費者の利益は事業者との関係において法律上直接保護すべき利益であるということになる。

 もっとも、独禁法の目的が競争政策の実現にあるとする通説的見解に立っても、「一般消費者の利益」をより積極的に位置付けることは可能である。確かに、独禁法一条に定める「一般消費者の利益」の内容を、事業者の競争によって生ずる望ましい経済成果が一般消費者に還元される結果、一般消費者が良質廉価な商品の豊富な供給を受けることができるというようなことを意味するものと解するならば、「一般消費者の利益」に対する消極的な位置付けに終わるかもしれない。しかし、競争政策と独禁法がそれによって確保しようとしている民主的な経済秩序との関係に着目するならば、独禁法における「一般消費者の利益」の積極的な位置付けが可能である。

 すなわち、一般消費者の欲求を反映する経済活動が行われる民主的な経済秩序を形成するためには、経済学の消費者主権論が教えるように、市場を競争的に維持して個々の消費者による購入選択の機会と自由を保障するとともに、その前提として、市場に登場する商品の情報を十分かつ適切に消費者に与え消費者に合理的な意思決定が行える環境を確保することが不可欠である。これを法律的に捉え直し、消費者の「権利」という観点からみるならば、民主的な経済秩序を形成するためには、競争政策によって、個々の消費者に「選ぶ権利(競争価格によって商品やサービスに接することが保障されること)」と、その前提としての「知らされる権利(不当な表示や広告から保護され、合理的な選択を行うために必要な情報が与えられること)」を確保することが不可欠になると言うことができる。

 このように、独禁法一条に定める「一般消費者の利益」の内容を、消費者の「選ぶ権利」と「知らされる権利」を意味するものと捉えるならば、「一般消費者の利益」は、単なる競争政策実現の結果的現象ではなく、むしろ競争政策の実質的な中核を占めるものであり、競争政策は、「一般消費者の利益」の確保なしには成り立たないとすら言えるのである。

 いずれにせよ、独禁法一条の「一般消費者の利益」をどのように捉えるかによって、独禁法の消費者法的性格を決定付け、内容的にみて独禁法が消費者の利益ないし権利の実現のための規制をどの程度行うことができるかという規制内容面と、独禁法運用に消費者参加がどの程度認められるかという規制手段面に重要な影響を与えることになる。この点に関連して、規制手段面においては、独禁法違反行為に対する一般消費者の損害賠償請求や差止請求がどの程度認められるか、公取委の活動に対して不服のある一般消費者の行政争訟制度における不服申立資格や原告適格が認められるかなどの重要な問題が存在している。


6回(060526)「独禁法の概要と歴史 その3、独禁法の目的 その1」

前回の補足

* 経済的規制の例として、電気通信産業に対する規制

 従来は、競争か規制かの選択肢。しかし近年は、多くの分野で、競争の機能する領域を広くとるべきだという基本的な観点の下、例外的に競争が有効に機能しない場合に限った規制、あるいは「公正な競争」をさせるための規制が望ましいという考え方に変わってきた。以下は、後者の例として電気通信産業についての私の講演原稿からの抜粋。

1.競争と規制の併存---「公正な競争」のための規制

 独禁法は競争の維持・促進を目的としていますが、競争原理が完全には実現しない場合もあり、その1つが「自然独占」と言われた分野です。ここでは規模の経済が大きく働くので、独占的な事業者が現れるのはやむを得ないとされ、その代わりに多様な規制によって国民などユーザーの利益を確保することとされてきたのです。

 電気通信分野も、この「自然独占」が妥当する分野だとされたのですが、その後の技術革新等によって、その多くは競争に適する産業になったために、競争原理が導入されたわけです。

 しかし、それでも、加入者回線部分などは未だにボトルネックのままであるなどから、実際に競争が有効に機能するために、接続規制、ドミナント規制(=支配的事業者規制)、NTT法による規制など各種の規制が行われてきました。

その結果、新規参入も多様に行われ、これによってこの分野は著しく競争的になり、その成果は、料金の低廉化・サービスの多様化などとして現れていることは周知の通りです。

2.現在は独占から競争への過渡期

2-1.NTTのボトルネックと市場支配力

85年の制度改革から既に20年が経過したわけですが、わが国の電気通信産業には依然として、競争が有効に機能していない部分があります。

 第一に、NTT東西のボトルネック独占があります。具体的には、NTT は電柱・管路等の敷設基盤を有し、かつ加入者回線など地域通信網において圧倒的な重みを持っています。加入者回線の94.7(契約回線数ベース)NTT 東西です。

 第二に、通信サービスの面でも、通信市場売上高15.7兆円に占めるNTT グループ(東西・コム・ドコモ)のシェアは約65%です。(04年度ベース)

 うち、固定電話サービスでは、加入電話契約のことは前述の通りで,さらにマイライン契約で、76から60%(市内、市外、県内市外、県外、国際電話)

 携帯電話サービスでは、ドコモ54.4%(いずれも059月末ベース)

 ブロードバンド(DSL,FTTH,CATV,無線)の契約数は約2200(05年末現在)で、うち、DSLは約1400万、FTTHは約460万、CATVは約320万となっています。

これについてのNTT各社のシェアは、DSLの契約数シェアは、39%、光ファイバーの契約数シェアは59.2%となっており、電話に比べてブロードバンド・サービスでは他の競争事業者も有力であることが分かります。

 NTT各社の高いシェアは、各社の企業努力の成果という面もあるでしょうが、同時に、公社時代からのキャリアであること、第一点であげたボトルネック独占を持っていることと関連していると考えられます。

2-2 接続規制とドミナント規制

これら2つの独占的要素に対応して、接続規制とドミナント規制が行われており、これは前述のNTT各社の状況として挙げた2点を踏まえると、現在でも必要な規制であると考えられます。

「接続規制」は、接続料・接続条件の役款化、接続会計制度、網機能計画が大きな柱となっています。

「ドミナント規制」(=支配的事業者規制)は、2001年に導入されたものであり、東西NTTとドコモ9社に対し、情報の目的外利用の禁止、特定の電気通信事業者に対する差別的取扱いの禁止などを定めたものです。

2-3 構造規制と行為規制

 NTTボトルネック独占が、各種の設備競争と通信サービス競争に悪影響を与えているということから、現在の持株会社形態をさらに分解して、特にボトルネック独占の部分(加入者回線部門)を分離すべきだという主張が、KDDIやソフトバンクから表明されています。上記の行為規制では不十分で、構造規制にまで踏み込むべきであるという立場です。

 私自身は、NTT分割の議論は既に何度か繰り返し行われてきており、その1つの解答が現行の「持株会社」方式であすから、その趣旨(持株会社傘下の5社、東西、ドコモ、Nコム、Nデータがそれぞれある程度の自主性を持って独自の企業努力を行う)を生かすことで、「公正な競争」と経営効率化の両立を図るべきだと考えています。

注 上の構造規制と行為規制については、後出、5.4.「有効競争の基準」を参照。

そこにおける「市場構造」に着目した規制が構造規制であり、「市場行動」に着目した規制が「行為規制」である。

<設問>

 皆さんの契約している固定電話は、どのキャリア(=電気通信事業者)との契約ですか?

 このうち、電話を設置・利用させること自体は、もともとはNTT東西のサービスであり(加入者回線部分の使用料)、その料金は「基本料」と呼ばれている。住宅用は1700円(東京、横浜、川崎など)から1450円。

http://www.ntt-east.co.jp/phone/needs/fare/kyoku.html

ただし、現在は、この加入者回線部分について競争事業者もNTT東西からの卸売りを受けてエンド・ユーザーに提供できるようになっている。

<設問>

 NTT東西の電話料金は届出ないし認可制(上限価格制度。電気通信事業法20条、21条)。これに対し、他の会社の固定電話料金や、ドコモなど携帯電話の料金は届出制に規制緩和されている(同法19条)。この理由は何か?

電力料金は、一般電気事業者が供給する場合、一般の需要に応じる場合(家庭向け)は認可料金、これに対し、「特定規模需要」(大口ユーザー)に対する場合は自由料金となっているが、この理由は?

5.独占禁法の目的

5-1 一条の目的規定

第一条 この法律は、私的独占、不当な取引制限及び不公正な取引方法を禁止し、事業支配力の過度の集中を防止して、結合、協定等の方法による生産、販売、価格、技術等の不当な制限その他一切の事業活動の不当な拘束を排除することにより、公正且つ自由な競争を促進し、事業者の創意を発揮させ、事業活動を盛んにし、雇傭及び国民実所得の水準を高め、以て、一般消費者の利益を確保するとともに、国民経済の民主的で健全な発達を促進することを目的とする。

(1)1条を分解すれば、以下の3つの部分に分けられる。

独禁法における諸規定の内容:「私的独占~排除することにより」

直接目的:「公正且つ自由な競争を促進」

間接目的:「一般消費者の利益~促進すること」

立法目的は、直接的に「規範」としての性格をものではく、当該法律全体の性格を規定し、それに基づき各規定の解釈基準となる。

「規範」は、その名宛人に対し、ある行為をすることを命令し、または禁止する。

是非善悪判断の基準。通常,「~すべし」「~すべからず」という形で表現されるが,「~してよい」(禁止されていない,許される),「~する権利がある」などの命題の形をとることもある。その起源や違反への制裁によって,道徳規範,宗教規範,習俗規範,法規範などに分類される。

独禁法1条は、規範ではないから、1条違反ということはあり得ない。独禁法における規範として、例えば、3条、8条、19条を参照。

第三条  事業者は、私的独占又は不当な取引制限をしてはならない。

第十九条  事業者は、不公正な取引方法を用いてはならない。

1.通説----「公正かつ自由な競争」の促進それ自体が目的。

2.政府の産業政策を進める立場----究極的な目的である「国民経済の民主的で全な発達の促進」に合致する限りで、競争政策がとられ、合致しない場合はそれ以外の政策がとられるとの考え方。

これに基づき、かつての日本政府は、非法的な、あるいは適用除外法などにより、集中(合併促進など)政策や、過当競争のためのカルテル容認政策をとった。

過当競争----経済学では否定。伊藤元重ほか『日本の産業政策』(東大出版会、1985年)223頁、ラムザイアー『法と経済学』(弘文堂、1991年)163頁を参照。

3.一般消費者、中小企業などの経済的従属関係にある者の平等権の確保。通説も、「公正な」競争の解釈によっては、この説と同じ結果となる。

4.石油カルテル刑事事件・最判昭和59・2・24は、上記12の中間的立場。ただし、傍論に過ぎない。

(2)上の法目的に関する議論は、具体的な禁止規定(3条、25項・6項)における「公共の利益に反して」という要件の解釈と重なっている。

私的独占および不当な取引制限は、いずれも「公共の利益に反して」競争を実質的に制限する行為でとされている。しかしながら、この「公共の利益」が何を意味するかについては、従来から、独禁法の立法目的の捉え方に関する意見の対立にほぼ対応した意見の対立がみられる。

 すなわち、独禁法上の「公共の利益」を、①自由競争経済秩序の維持それ自体であるとする見解(第一の見解)、②より高次の生産者・消費者を含めた国民経済全般の利益であるとする見解(第二の見解)、③中小企業者・消費者などの経済的従属者ないし弱者の利益であるとする見解(第三の見解)などに分かれている。しかし、このうち第一の見解が通説的位置を占めており、公取委の審決や裁判所(新聞販路協定審決取消請求事件=東京高判昭和二八・三・九、奥道後温泉観光バス事件=高松高判昭和六一・四・八)もこの見解に従ってきた。

しかし、石油価格カルテル刑事事件・最高裁判決(昭和五九・二・二四)は、独禁法の立法の趣旨・目的およびその改正の経緯などに照らして、不当な取引制限の「公共の利益に反して」の要件について、原則として独禁法の直接の保護法益である自由競争経済秩序に反することを指すが、現に行われた行為が形式的に右に該当する場合であっても、右法益と当該行為によって守られる利益とを比較衡量して「一般消費者の利益を確保するとともに、国民経済の民主的で健全な発達を促進する」という究極の目的に実質的に反しないと認められる例外的な場合を不当な取引制限行為から除外する趣旨と解すべきである、と判示するに至っている。

ただし、本判決は、この事件の価格カルテルがこのような意味での「公共の利益に反して」の要件を満たさないとしているわけではなく(したがって、上の説示は「傍論」。すなわち、事件の解決を直接導く「判決理由」ではない)、その後もこの理論にそのまま従って判決は出ていず、どのようなカルテルがこれに当たるかは不明のままである。

 実質論として、この最高裁の考え方では、カルテルを適法かすべき場合か否かが極めて不確実であり、行政指導に対する甘い態度(前述)とも相まって、学説の多くは批判的である。

 通説が妥当であり、問題となっている行為が究極的目的に合致しないこと、あるいは「公共の利益」に反することは、独立の要件ではなく、したがって、それを違法を主張する側が立証する必要はない。また、違法ではないとする側がこれを否定するために、当該行為が「公共の利益」に反しないということを立証をしようとしても意味がないと解される(前記の最判に反対)。

ただし、これは競争だけが目的で法的価値があるとするものではない。競争は、「望ましい経済成果」と「民主的な経済秩序」(実質的な意味での「消費者主権」)をもたらす。



5回(060519)「独禁法の歴史(2)

4.独禁法の歴史(続)

(4)規制緩和と行財政改革

競争原理の定着、事業者の「自己責任」、「規制の失敗」(政官産の癒着、規制に守られた既存の「権益」の確保、贈収賄など各種の犯罪にまで至る)

a.「経済的規制」= 各産業の特性に基づく「経済的合理化」、「効率化」を図るための規制。

しかし、一般には、競争が真の意味で合理性・効率性を達成できるはず。

経済学の用語でいえば、自然独占→法的独占→規制、または、「経済の外部性」(前出)

例;電気通信事業法、電気事業法、金融規制のための諸法

b.「社会的規制」=経済的目的ではなく、社会的安全、秩序の維持など社会的な目的を達成するための規制

例;環境保護・リサイクル促進、食品衛生法、学校教育法

規制緩和(deregulation) (『法律学小辞典』有斐閣より)

. 意義

 もっとも広義では、私人に対する国や地方公共団体等による公的関与・制限を撤廃あるいは軽減すること。狭義には、民商法による一般的規制とは別に、その時々の個別具体的な経済政策的観点から、対象行為・領域等を限ってなされる規制(「経済的規制」)を緩和することに限って用いられる。この場合には公害・環境問題への対応とか青少年保護、一般的に言えば、社会の安全・秩序維持などの目的による社会的規制の緩和は含まれない。

. 対象とされる産業分野

 米国で規制緩和が主張されだした当初は、電気通信・電力などの公益事業や、運輸事業、金融・証券・保険事業などのいわゆる規制産業、すなわち特定の商品・サービスに関する価格形成・品質水準の決定、当該事業の開始・継続・終了、設備投資計画などの経営の重要事項について、法律に基づく各種の規制が加えられる産業が問題とされていた。日本では、上記の諸分野の他、独占禁止法の適用除外分野の縮減が進められ、更には規制緩和の主張は、上の意味での規制産業に限られず、土地取引、農林魚業、商業、中小企業の組織・活動、大規模小売店舗(大店法)の設置・拡大等の分野も問題とされている。また、規制緩和の主張は、規制が私人の自由の制限に当たる場合に限られず、私的経済活動に何らかの公的制限・関与(補助金などの積極的な助成等を含む)が加えられることへの見直しにも広げられている。

. 規制緩和の理由

 規制緩和の理由としては、公益事業について顕著な技術革新により競争原理がより有効に機能するようになったこと、より多くの産業について競争による資源の最適配分の方が規制によるよりも有効・適切だとされること、規制のコスト(単なる費用の比較のみならず、規制による企業の効率化へのインセンティブの抑制、規制行政庁と「族議員」および被規制企業との間の不明朗な癒着の傾向)への批判などが挙げられる。従って、個別分野ごとの規制を緩和し、独禁法による競争秩序の維持を目指すべきであるという主張が一般的になされるが、独禁法や商法による一般的規制も緩和すべきであるという意味にも用いられることがある。 

. 具体的な緩和の対象と方法

 個別分野ごとの規制のうち、緩和すべき規制としては、参入規制(特に、需給調整条項に基づくもの)、価格・サービス規制、事業者間の取引規制などがある。この他、保安規制等も従来の規制が過剰であるとして緩和された分野もある(例えば、電気事業法など)。さらには、いわゆる「民民規制」として、事業者団体などによる規制も問題であるとする意見も強くなっている。

 緩和の法的形態としては、手続上、認可・許可などを届出又は非規制に変える方法のほか、規制行政庁だけに委ねずに情報公開による社会的監視を導入する傾向が強まっており、また実体法上も、電気通信分野における料金規制における「総括原価主義」による規制をやめて「上限価格制」を採用するなどの代替的方法が検討・実施されている分野もある。



4040512)「独占禁止法の概要、独禁法の歴史(1)

3. 独占禁止法の概要

1 独禁法の禁止行為の代表例

 (1)価格カルテル

    

   → メーカー間に価格競争があれば、消費者・ユーザーは、

    より安い価格を選択できたかもしれないのに…。

(2)参入の妨害

         

    → 自由な参入が可能であれば、消費者・ユーザーは、もっと品

質がよい/価格が安い商品を選べたかもしれないのに…。

2 市場経済の働き=競争の意義

 (1)市場経済=自由な経済活動

   売り手:何をどれだけ作るか、等      みんなの日常生活を考えよう

   買い手:何をどれだけ消費するか、等   (自由な売買=ひとつの秩序形成)

    ※中央統制経済(計画経済)と対比して考えてみよう。 

(2)競争の意義

 ア)買い手の自由な選択=売り手間の競争(→「顧客確保のために頑張ろう」)

 イ)競争のメリット(経済的メリット)

・よりニーズが高い商品・より安い商品・より品質が高い商品の提供

     →限られた資源の望ましい利用(資源の最適配分)

   ・より優れた技術の採用・新しい技術の開発

 ウ)競争のメリット(社会的・政治的メリット)

    ・ 各経済主体の自主・独立性(事業者・消費者の主体性)

  政治権力・社会的権力に頼らない事業、行動様式へ。コネ社会との決別。

  「経済民主主義」

3 独占禁止法の体系

(1) 実体的規定(違反行為の類型)

ア 独占および集中の規制(私的独占、企業結合(合併、株式保有等)規制

イ 共同行為の規制(不当な取引制限=俗にいう「カルテル」、事業者団体)

ウ 不公正な取引方法の規制

(2) 手続規定(違反行為への制裁=サンクション)

 ア 行政的対応

   公取委(国の行政機関)による措置

   排除措置命令(「違反行為をやめなさい」など) 

     課徴金納付命令(「カルテルで儲けた不当な利益を国に払いなさい」)

     ※課徴金は、価格カルテル・入札談合等に課せられる。

イ 民事手続

  a)民事差止請求訴訟(法24条)

  b)損害賠償請求訴訟(法25条、民法709条等)

   ※その他の場面でも問題となる。

    例:原告「商品を渡せ」→被告「解約した」→原告「解約が独禁法違反だ」等

ウ 刑事罰(違反行為をした人・企業等→罰金・懲役等)

4.独禁法の歴史(教科書 第一章1頁以下)

1.戦後の「経済民主化」と独禁法の制定

(1)「経済秩序の基本法」としての理解は定着したか?

 前述(2. 経済法とは?の冒頭)で述べたように、独占禁止法は、「経済憲法」とも呼ばれ、独占禁止法は競争秩序維持法という基本的性格を持っているにもかかわらず、戦後の日本の経済政策・経済法においては、むしろ、経済成長、景気回復、各産業の「構造改革」(その内実は、各業界内の協調、既存の各企業への保護・助成、既存利益の確保であることも多い)、「国際競争力の強化」などが現実には力を持ってきた。

しかし、特に日本が国際的に見ても経済大国になった80年代から、このような保護主義的な経済政策には強い批判が内外から行われ、独占禁止法の運用強化、その適用除外を定めた多くの個別規制法に対する「規制撤廃・緩和」の政策がとられ出した。

しかし今日でも、競争だけが経済政策・産業政策ではないという理由で、局地的・散発的にではあるが、未だに独禁法の適用除外を求める声もある。後述の1条の目的規定をめぐる議論もこれにかかわる。

(2)昭和30年代から、現代資本主義に特有な問題として、「寡占」と「管理価格」、「非価格競争」、「不当表示」、「再販売価格維持行為」

「寡占」———ある市場において、少数の企業が市場で取引される量の大部分を占めること。一企業だけが当該取引を独占すれば、まさに「独占」市場であるが、現代経済においては多くの場合、寡占市場という形態になっている。

ある市場において、事業者が1社あるいは少数の企業しか存在しない場合、これらの独占企業・寡占企業は市場支配力を持っている。このような市場においては、競争は十分に機能していない(後の「有効競争」論で再論する)。

 「管理価格」———寡占市場において、当該寡占企業が市場における価格を恣意的に維持・操作すること。自由で有効な競争の下で実現されるはずの競争価格ではないことが重要。

 「非価格競争」———上記の管理価格に典型的に見られるように、寡占企業間の競争は、価格をめぐって行われているわけではなく、むしろ価格から目を逸らすようにし向けて「製品差別化」を図り、広告や宣伝、新製品などに関する競い合いが行われているに過ぎず、これも自由で有効な競争とは言い難い。特に、消費者にとっては一見、企業間で激しい競争が行われているようであるが、競争のもっとも重要な要素である価格については、寡占企業間でいわば暗黙の「休戦協定」が実施されているのに近い状態であるともいえ、真の意味での消費者主権が実現されているわけではない。

「著作物の再販、系列取引」

*「再販売価格維持行為」

ただし著作物(書籍,雑誌,新聞,音楽レコード・CD)については、再販禁止の適用除外(同条4項)。

<設問> なぜ著作物については特例として再販を認めるのか?

 感情論として著作者のプライドを守るためだということも説かれることがある。

 著作協会と日本レコード協会の見解は,著作物について再販による超過利潤を認めることによって,儲けの少ない出版・販売を可能にし,多様な文化を保護することになるというもの。

 また他に,代替性の低い著作物の小売店における膨大な商品の品揃えを確保することによって(小売店から出版社への無償の返品を認める),文化の多様性を守るためだという説もある。

しかし,CDメーカーや出版社は、売れる商品からの超過利潤で売れない商品の赤字を補填し、多様な文化を維持しているという議論に対しては、どの業界にとっても売れる商品・売れない商品があって、出版物に限らない、という点を指摘することができる。例えば、家電の場合、年間、多種多様な商品を売り出し、実際には当たらない(売れない)商品が多い。メーカーにとって、売れる物と売れない物全体の販売状況のバランスをうまく取って、利益を生み出すことは通常の経営のやり方であって、著作物に限ったことではない。

次に、品揃えを確保するという理由に対して、小売店は本当に品揃えしているかという疑問がある。小売店の面積・立地条件によって、陳列商品を決めており、一部の大規模の店舗を除いて、他の小売店は、多種多様な品揃えをしているとは言えない。売れ筋の商品だけを並べている場合がほとんどである。

さらに、米国をはじめ,多くの国では著作物についても一般の商品と同様に再販を原則禁止としていて,文化の多様性が失われているという事実はない。

したがって、著作物については特例として再販を認めている現行の独禁法は疑問がある。

* たばこ事業法33条1項 日本たばこ産業株式会社と「特定販売業者」(輸入したたばこを販売する者)は、小売り定価を定め、大蔵大臣の認可。36条で、これ以外の価格での販売禁止

理由---財政収入、たばこの商品特性から競争による販売増加は望ましくない。

 昭和30年代以降の、「寡占」、「管理価格」、「非価格競争」などによって表される非競争的な寡占市場の状況は、主にインフレ基調の経済の下で、同調的価格の引き上げやプライス・リーダーシップ、あるいはコストダウンによって下がるべき価格がそれほどには下がらない、という現象に対するものである。

 今日の継続的な価格の低下、あるいは最近のデフレ経済の下では、「価格破壊」というキーワードが流行語になったことに示されているように、上記の諸現象はそのままではあり得ないことである。ただし、再販売価格維持行為は価格の低下を食い止める戦略として、今日でも有効であり、実際にこれに当たる事例が、メーカーの支配力の強い化粧品等の分野において散見される。

(3)80年代からの日本市場の閉鎖性、「系列取引」をめぐる議論 日米経済構造協議(最終報告書、1990年)。

日本は、巨大な貿易黒字に象徴されるような「経済大国」となり、他方で、米国は貿易・財政という「双子の赤字」に苦しんでいたという背景。

「日本的経営」(終身雇用・年功序列制度・企業内組合等が特徴とされる。この他、後述の系列取引なども挙げられることがある)の優秀性が喧伝されていたが、独禁法が十分機能せず、「系列」などによって、日本市場の多様な閉鎖性が海外からの参入を阻害しているという批判。

 最終報告書の直後(1991年)から、日本は長期不況に陥り、「日本的経営」、「系列」等々は崩壊過程に入る。企業集団、株式の相互持合等に基づく特殊な経営者支配に立脚していた、わが国の株式会社の支配構造も、「コーポレート・ガバナンス」(公開会社の経営者支配のあり方。効率的な経営の確保、経営上の違法行為の抑止(=コンプライアンスの確保))の見直しとして問題になっているが、株価低迷対策とも関連するので、構造問題にまで改革が行われるか疑問。

「系列取引」(以下は「法律学事典」より。舟田執筆部分)

1.「企業集団」---企業間の株式の持合・役員の兼任などによる「固い結合」(= 企業集中)によって形成される。旧財閥の流れを組む大企業が構成メンバーとして「ヨコ」の結合関係にある六大企業集団と、大企業がその子会社・関連会社などを支配し「タテ」の結合関係を形成する独立系企業集団とに分かれる。欧米諸国から、keiretsuという用語によって日本の閉鎖的取引慣行を象徴し、非関税障壁として機能していると批判された。

例えば,「相互取引」が違法とされる場合があり、またその他の「不公正な取引方法」に当たることもある(「経済法2」で取り上げる)。

2. 系列取引

 上記の企業集団に属する企業間の取引を指すこともあるが、正確には、企業間が固い結合をしているかどうかを問わず、企業間の取引関係が固定的継続的なものを系列と呼ぶ。この意味の系列取引は、ブランド力のあるメーカーと卸・小売業者の間の流通(販売)系列、あるいは組立メーカーと部品メーカーの間の生産(下請)系列などに見られる。その特徴は、単なる固定的継続的な取引関係だけでなく、取引上、「優越的地位」にある企業が、自己の販売政策や生産政策を実現するために、系列下の多くの企業を組織化し、取引条件などを一方的に決定するなど支配することにある。それが「優越的地位の濫用」や、「不当な拘束条件付取引」、「排他条件付取引」あるいは「不当な取引拒絶」などに当たる場合は、「不公正な取引方法」として禁止の対象となる。

他方で、このような系列は、企業集中とスポット的な取引関係の中間的な性格を有する組織化の一形態であって、効率的な日本的経営方法の1つであるとの議論もなされている。

 この系列問題は、近年の状況下では、多くの産業分野において顕著な変化が見られるようである。特に、企業集団の核であった金融機関について、企業集団を超えた企業集中が多く行われつつある。また、例えば製造業(特に自動車・家電などの組み立て産業)において、いわゆる「専属下請」が解消され、下請企業は親企業と競争関係にある企業にまで取引を広げようと努めつつある。

上記の引用の冒頭にある、「固い結合」について補足。企業間の結合は、「ゆるい結合」(単なる合意による、緩い、一時的、部分的な結合)と「固い結合」(株式所有や合併などの企業組織上の手段による、固い、継続的、全面的な結合)とに分けられる。

上記の引用の最後にある、系列の解体がなされ、独占禁止法違反行為がなくなったか、特に、「優越的地位の濫用」以下の独禁法上の問題が全く消滅したかどうかは疑問もある。



3回(060428)「経済法とは?(3) ある官製談合の事例から

2. 経済法とは?(続)

3.ある官製談合の事例から

 防衛庁石油製品談合事件(刑事事件と公取委の審判が並行)

 コスモ石油株式会社ほか10社が、防衛庁調達実施本部発注に係るガソリン,軽油,灯油,重油及び航空タービン燃料の指名競争入札で談合したとして、公取委は独禁法3条違反として審決を下した(一部の会社については今も審判中)。同時に、公取委は検事総長に告発(89条1項 1号,95条1項1号,刑法60条(共同正犯)、会計法29条の3)。最判平成17年11月21日で有罪確定。舟田防衛庁石油製品談合刑事事件=東京高裁判決(平成16324日)について」立教法学70161192頁以下(2006年)参照。

談合の実行行為者は、石油元売り各社の若手社員(30歳前後)もおり、仮に有罪判決が下りて刑事罰を受けると、かれらは「前科者」となって、一生会社が面倒を見る、つまり「飼い殺し」になるといわれてきた。

しかし、独占禁止法違反行為に対する社会的評価が次第に厳しくなり、他方で、近年のいわゆる「企業犯罪」などを契機に、企業のガバナンス(企業統治)の在り方が問われ、特に企業の法令遵守体制(コンプライアンス=complaiance)が強く求められるようになっている現在では、以下のようにより厳しい対処がなされるようになってきている。

「例えば、平成11年の防衛庁石油製品談合事件では、驚くべきことに、ある被告会社の被告人は会社から退職を余儀なくされた。会社側は、社内で独禁法遵守のマニュアルを配布し、当該被告人を含む全社員が法令遵守誓約書の提出を求められて書名しており、会社としては独禁法違反を厳に戒めているのであるから、本件行為は当該被告人の全くの個人プレーであり個人的責任の問題であるという理由によるようである。」(舟田・立教法学65号より)

 各社とも、本当は防衛庁からの指示でやってきたのに---、という恨みがあるようです。「お上である発注者が独禁法を認識していない。会計検査院も公正取引委員会もずっと何の是正もなかった。違法性を認識していなかったのだから阻却されるべき。」ジェット燃料など、防衛庁の「買い手独占」ですから、その言いなりになって、おそらく長期間、「官民一体」で、入札は形式だけで、実際は談合で売り手と価格を決めていたのでしょう。しかし、防衛庁の係官は、証拠不十分で起訴されない模様。

 本件は防衛庁の関与する度合いが大きく、その点を弁護人等が一貫して強調しましたが、全体としてはことごとく否定された。裁判所は自由競争の阻害は先行する長年の事業者側によるもので、調本はル-ズな面はあったものの事業者側の受注調整に対応せざるを得なかった故のことであって何ら競争を阻害するものではないとの判断でした。

諸君が会社員になって、会社の上司に、「談合の場に行ってきて、仕切屋の指示に従え」と命じられ、それに従った行動をしただけで、独禁法違反の実行行為者になり、有罪になる!!

 だから、法律(本講義では独禁法等)を勉強して下さい。そして、そういう上司に、「独禁法違反になり、自分も会社も刑事罰を受けてしまうから、談合に加わることはダメです」と、はっきりNOを言える人になって下さい。

 三和銀行戒告訴訟・大阪地判平成12年4月17日--職場の賃金・昇格差別などを指摘した手記を出版したことを理由とする戒告処分は、「懲戒権の乱用」。その後,この種の「内部告発」の重要性が広く認識され,「公益通報者保護法」の成立。ただし、本法についての多くの批判が説くように、本法はまずは企業の内部で解決すべきだ(「自浄作用」)という企業側の主張に沿って、外部(マスコミなど)への通報は内部通報では十分な対応がとられない場合に限るとされ、実質的に外部通報を制限する結果となっている。会社内の恥を隠せという体質が認められたとも言える。

 さらに、この事件から、国と私人(私企業も含む)との取引のあり方、競争の意義、国と国民の関係(国民の税金で、国の費用を賄っているのだから、なるべく「安い政府」、効率的な行政運営を要求できるはず)など、考えて下さい。

 本件では、防衛庁にとって、最大の関心事は「安定供給」であり、価格は二の次です。それどころか、防衛庁その他の国の行政機関は、毎年必要な費用は予算で確保されていて、これを年度末までに消化することが重要。消化しないと不必要な予算要求をしたことになり、次の年度では減額されてしまう。また、毎年できるだけ多額の予算を獲得することが各機関の力と評価され、担当官の業績になる。

 このような予算・会計制度の下では、コスト削減のインセンティブ(誘引)は全く存在しない。そこで、コスト削減に成功した機関ないし部署は、それなりの業績を挙げたと評価するような仕組みが行政改革の一環として検討されているが、その実現はかなり困難のようです(何故でしょうか?)。

 以上のように、「経済法学」とは、資本主義経済体制の下で、経済的取引と競争がどうあるべきか、それを示している諸法律(憲法、民商法、刑法、独禁法等々)が全体の経済・社会・政治とどう結びついているかについて考える学問です。



第2回(040422)「経済法とは?(続)」

2. 経済法とは?

2.他の法分科(憲法、民商法など)との関係

(3)民法・商法は、法的主体を責任ある者に限定し(権利能力・行為能力。自然人と並んで、一定の団体に「法人」として法人格を付与する)、私的所有権を法的に保障し、「契約の自由」に基づく個々の取引の安全性、適正性の確保を目的とする。

 しかし、この私法秩序が、社会全体の利益に結びつくのは、競争市場で公正な取引・自由が実現されたときだけであるが、自由で公正な取引と競争という理想が妥当しない領域や場面も多い。そこでは、前述の「私的自治」は正当化の根拠を失い、何らかの公的な修正が必要になる。「自己責任」を強調する議論はここを無視することが多いが----

  具体的には、強者の「経済的自由」を制限し、不当な不利益を被る者を救済する必要があり、また、より根本的には、自由で公正な取引と競争という理想を回復する独占禁止法の機能が要請される。

参考)不公正な取引方法の例(→詳しくは後期の講義で取り扱います。)

    ○再販売価格維持とは(例)  

    

→小売店の価格拘束=小売店間の価格競争の停止(→独占禁止法違反)

「私人が私的利益を自由に追求し創意工夫を発揮(「経済的自由」の実現)」

上のケースで,これは,メーカーだけがその「経済的自由」を実現しており,販売店は逆に「経済的自由」を制限されている(『自由の衝突』)。販売店の中には,メーカーの指示通りに500円で売ろうとする事業者も,またより安く売りたいという事業者もいるはず。

また,競争が機能していれば,メーカー間の競争によって,このメーカーは小売値500円を強制すれば,他のメーカーとの競争に破れるはずではないか? すなわち、「市場のテスト」が働けば、メーカーは自分の販売価格、あるいは自分が供給する商品の小売価格を恣意的に決めることはできない(price takerはずではないか?

しかし、上のケースは,「自由で公正な取引と競争という理想が妥当しない領域や場面」の一例。再販売価格維持行為を実効性を持って行えるということは、自己の商品の価格について決定権を持っているということを意味する(price maker)。

なお、再販売価格維持は,原則として独占禁止法違反になるが,同法234項は「著作物」については,その発行事業者が行う場合には適用除外としている。例として,書籍,雑誌,新聞,レコード・CDなどがある。理由として,良質な文化の維持,新聞の場合は,「報道の自由」を国民が等しい条件で享受できるように,などが挙げられているが、その根拠は必ずしも説得的ではなく、諸外国でも著作物の再販売価格維持を違法としている場合が多い。

 「不完全競争」----独占または寡占(当該関連市場において少数の企業が活動している状態)の場合、「情報の完全性」がかなり損なわれている場合(特に、消費者において)、「経済の外部性」の場合など。

「経済の外部性」externalities---「市場の失敗」の一例

「個人または企業が,他の個人または企業に影響を及ぼす行動をとったとしても,それに対して対価を支払ったり補償をしたりしないこと」(J.E.スティグリッツ『ミクロ経済学』)

「経済の外部性」の例として、ペットボトルの処理費用の相当部分が自治体負担になっていること。環境侵害、廃棄物処理など。宇沢弘文『自動車の社会的責任』(岩波新書、  ?年)、『社会的共通資本と社会的費用』(岩波新書、1994年)

あるサイトから-----トヨタが本気かどうか不明ながらバイオプラスチックを手がけているのも、やはり化石燃料枯渇のリスクと自動車の社会的責任を考えてのことなのだろう。最悪なのは、やはりプラスチックの単純埋め立て---

このように経済の外部性が認められる場合には、一定の法制度によって当該コスト(社会的費用)を市場経済の中に組み込むこと(=「内部化」)、または外部性が発生しないような公的規制をかけることが要請される。

これに対し、民商法でも個別に対応する規定や解釈も一部行われているが、これらと並んで、取引・競争の自由と公正の実現に正面から対応しようというのが独禁法の役割。

 私法における法的主体は、個人(自然人)と団体(法人)である。団体の内部において従業員・労働者の権利、社会保障等の装置が適正かつ有効に機能し(これは労働法・社会保障法の課題)、かつ、すべての法的主体が「公正かつ自由な競争」の中で活動することができるような法制度が機能するとき(これが経済法の課題)、動物の間における「弱肉強食」とは異なる、競争市場の社会的正当性が認められる。

(4)憲法と経済法の関係。

 憲法211項の「職業の自由」は、一般的な経済的自由、すなわち職業選択の自由だけでなく、職業活動の自由も含むと拡大されて解されている。しかし、「公共の福祉に反しない限り」という限定がつき、法律・行政による自由の制限が認められる。しかし、その限界、すなわち何が「公共の福祉」かについては、広い立法裁量が認められている。

(5)行政法と経済法の関係

 行政法の基本原理である「法律による行政の原理」

行政指導は、「公権力の行使に当たる行為」=「処分」ではないから、それに従うかどうかは相手側である私人の任意(行政手続法2条6項)。

行政指導は、法律に基づいて行われる場合もあり、また全く法律上の根拠なくして行われることもあり、後者の場合も直ちには違法ではなく、妥当な行政庁の行為と認められることもある。

「法律による行政の原理」は、国民の自由を制限する権力行政を中心とした要請。

 非権力行政(「給付行政」ないし保護・助長行政、あるいは行政指導等の任意的行政活動)については、直接的には法律上の根拠を要しない場合もある。

しかし、行政指導に従うかどうかは法律上は任意としても、実際上は、従わない私人(企業)に対し、別の不利益を被ることがあるため、事実上の強制となることもある。そこで、違法な行政指導、あるいは私人の違法行為(ここでは独占禁止法違反行為)を誘発するような行政指導は妥当ではないと説かれている。

行政指導に従ったカルテルは、独禁法違反に当たるか?

石油カルテル刑事事件最判昭和59224、独禁法審決・判例百選(第6版)258頁以下(資料1)

石油会社は、通産省の行政指導に従うか、それとも独占禁止法に違反しないようにするか、の選択を迫られた。当時の石油会社は石油業法などによって、通産省と長く緊密な相互依存関係にあったため、石油会社は独占禁止法に違反するというおそれを持ちつつも、カルテルを結び実行した。

前掲判決は、通産省の行政指導をソフトな、弱い性格のものであったとして、独占禁止法をするようなものではなかったと認定し、その責任は問わなかったが、疑問が残る。

その他の例:以前のタクシー料金の認可に関する行政指導(道路運送法9条の3。現在、タクシー料金は届出制),最近数多く摘発されている「官製談合」事件。

その他、独禁法等の経済規制法の具体的な執行(enforcement)、情報公開、行政救済等も、経済法と密接に関係する。



第1回(040414)「本講義の進め方、経済法とは?」

1. 本講義の進め方について

教科書をそのまま読むことはしない。その重要な点を示し、また補足説明をする。何頁は-----という話し方になるので、必ず持ってくること(あるいは毎回の該当頁だけをコピーして持参)。

・レジメは、各回の講義の後、若干の修正をした上で、立教の「サイバー・ラーニング」サイト、または、私の個人ホームページ: http://www.pluto.dti.ne.jp/~funada/ に掲載する。

・独禁法の条文を随時参照できるように、六法または独禁法・一般指定(不公正な取引方法)だけのコピーを毎回持ってくること。一番小さく安い「ポケット六法」等でも、独禁法と関連法規は掲載されている。

・ケースなど、随時プリントを配布するので、レジメ・プリント等を丁寧にファイルして保存すること。

独禁法にかかわる個々のケースについて、より詳しく勉強したい場合は、「独占禁止法審決・判例百選(第6版)」、最新の情報は雑誌「公正取引」、公取委のホームページが便利。

・昨年度までの試験問題は、上記のホームページと「法学周辺」 に掲載。ホームページには、採点のポイントも述べてある。それをよく読んで考えた上で、成績評価に疑問があれば調査申請をすること。

・隣の受講生と雑談することは、私も、また他の受講生にも迷惑です。集中して受講できるように会話は厳禁。ただし、眠い人は我慢しても意味ないから睡眠自由。

・遅刻や早退、缶ジュース、ガムなどは、行儀作法の問題(ルールは決めないから、各自の良識=社会人としての健全な判断力で、という意味)。

・基本的には伝統的な講義形式を採らざるを得ないが、なるべく学生諸君と議論することとしたい。講義中にこちらから質問した場合には、積極的に答えてほしい。正解を求めているわけではなく、それまでの話や諸君の知識・見識から思いつくことで十分。自分の頭で考える訓練であり、また、そのやりとりから私の方も、諸君がどこまで理解しているか、何を話すべきかも分かるだろうという趣旨。

・質問・指摘(例えば、聞き取れない、分からない、プリントが足らない、マイクの調子がおかしい等)は、途中でも遠慮なく手を挙げて発言すること。各回の終了後、教壇まで来て質問してもよい。

 学生諸君は、高額の授業料を払っているのであるから、契約の相手方である大学および大学に雇用されている私たち教職員に対し、それに見合う教育サービスを提供すべきことを要望・要求できる。私たちが、残念ながら能力・時間・コスト等の制約から、それらに十分応えられないことも少なくないであろうが、要望に対応することができるかどうかを真摯に検討する過程で、諸君との関係をより意義深いものに変えていけることを期待したい。

 これは、他の経済的取引についても同様であり、取引の相手方に取引の条件・内容・実施の仕方等について、質問し要求することが大切。この講義でも取り上げる「消費者の権利」は、法律によって与えられるだけではなく、自ら要求し戦いとるものです。他方で、契約は「交渉ごと」ですから、相手の事情も勘案して、両当事者がともに納得、満足するような内容と手続を形成することが大事です。

・1年のおおまかな講義の内容の予定

独禁法を中心とした経済法の原理・歴史、独禁法の個別的規定に沿った解釈論と運用の実態と若干の立法政策論、独禁法以外の経済的規制・消費者法をめぐる諸問題

「経済法1」では、教科書第3章まで、「経済法2」では、第4章以下。

経済的規制についての具体的な問題も適宜織り込む。

本講義の成績評価の仕方について、学生諸君の間で誤った情報が流れることも多いようなので、ここでまとめておく。

1.成績評価は、基本的には試験の答案に基づいて行う。すなわち、満点100点で配点し、評価する。したがって、下記の平常点なしでも満点を取ることが可能。

2.方法は、加点方式。事前にこちらが用意した模範解答に沿って、個別論点を正確に書いていれば、5点、10点と加えていく。

3.ただし、こちらが用意した内容と異なることが書かれていて、評価に値すると判断すれば、これも加点する。もちろん、質問と関係ないことを書いても評価には加えない。

4.試験答案の評価は満点100点で行うが、上の絶対評価方式では全体の評価が厳しすぎると判断されれば、平常点という意味で出席回数、講義の中での質疑応答の実績等を加味する。したがって、全部出席してもDということもあり得る。

5.結果として、法学部・経済学部の平均的評価水準になるべく近いものに修正する。

6.通知表を受け取ったあと、自分の試験答案の採点につき疑問がある場合は、教務事務センターに申し出ること。ただし、「自分では勉強したつもりですが---」とか、DC以上に直してくださいなどと書くだけでは不十分であり、自分はこういう答案を書いたので、これがC,Dであるのは納得いかないなどと具体的に明示して申し出ること。

7.上の自己検証に資するために、試験実施後、私のホームページに採点のポイントを掲示する。前年度の試験については既に掲載してあるので、これを参考にして欲しい。

2. 経済法とは?

1.現代における経済秩序を考える

 「経済法学」とは、資本主義経済体制の下で、経済的取引と競争の実態がどうか、また規範としてどうあるべきか、それが全体の経済・社会・政治とどう結びついているかを考える学問である。

経済法は、労働法や社会保障法などと同様に、第1次世界大戦頃から現れた新しい分野であり、現代経済に特有の法現象。戦前の日本やドイツでは、産業、貿易の振興等の産業政策のための諸法が次々と立法化され、近代市民法と異なる様々な法現象が顕著になり、そこから経済法という新しい法分野が議論されだした。そこでの経済法とは、当時の統制経済体制を基礎付ける「経済統制法」であったし、経済法学もそれを理論化するという傾向が強かった。

 これに対し、戦後は、米国の反トラスト法を継受して成立した独占禁止法や、各種の産業の助成、消費者保護のための各種の経済規制法等によって、取引・競争の自由と公正、その他各種の経済的・社会的目的を実現することが重要になりつつある。独占禁止法は、「経済憲法」とも呼ばれ、政治における民主主義に対応して、経済における民主主義(経済民主主義)を基礎付けるものと位置づけられた。したがって、経済法は、独占禁止法を中心とし、その他、各種個別的規制に関する諸法を含むが、これらも独占禁止法との関連で捉えられつつあり、その意味で競争秩序維持法という基本的性格を持っている。

2.他の法分科(憲法、民商法など)との関係

(1)市民社会を規律する法が私法、国家の組織活動等を規律するのが公法という伝統的な二分法。この私法と公法が次第に相互浸透し、その中間領域に現れたのが経済法である。

(2)私法の規律の対象(= 名宛人)は、私人であり、公法の名宛人は、主として国家、地方自治体、及びその他の公的法主体(特殊法人などと呼ばれる)である。

私法の前提は、自由かつ平等で、自立した個人による「私的自治」。民商法の規定には明示的には示されていないが、私的自治を原理として掲げたことの歴史的・経済的背景は、市場経済原理=自由競争の機能への信頼がある。

私人が私的利益を自由に追求し創意工夫を発揮(「経済的自由」の実現)。

→個々の取引で取引の相手方の自由な選択にさらされる(「市場のテスト」)

→市場での評価で私人の努力が報われ、同時に社会全体の利益も増大。


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