2006年 経済法2

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平成18年度「経済法2」期末試験(平成19年1月26日実施)

一.課徴金制度の趣旨を簡単に説明しなさい。(「趣旨」とは、どのような理論的根拠によって、独禁法違反行為者に対し課徴金を賦課することとされているのか、ということです)(配点40点)

二.以下の事実について、設問に答えなさい。

エレベーター・メーカー(Y1)が、自己の販売したエレベーターの保守管理サービス(部品取替工事を含む)は自己の完全子会社(Y2)が担うという戦略を立てた。しかし、Y1からエレベーターを買った顧客(A)は、Y2より料金が安い独立の保守事業者(X)に保守管理を委託した。ところが、そのエレベーターが故障を起こし、Xがその修理のため取替部品をY2に注文したところ、Y2は独立の保守事業者には顧客の安全確保のため取替部品を販売しないと答え、注文に応じない。

Xは、Y1Y2独占禁止法違反を理由とする損害賠償請求訴訟を提起した。

<設問>

 Xの請求は認められるか。理由を付して答えなさい。(配点60点)

<採点のポイント>

 各ポイントにつけた点数は単なる目安であって、これを機械的に足し算するものではない。全体の文章のコンテクスト(文脈)の中で見る必要があり、また、最終的には相対的評価をするからである。

一.課徴金制度の趣旨

「カルテル禁止の実効性確保のための行政上の措置として機動的に発動できるようにした」もの(最高裁平成17913日)

事業者からカルテルによって得た不当な利得をはく奪する趣旨20点)

→ 第一に、カルテル禁止の実効性確保、違反行為の抑止、カルテルの予防効果

第二に、社会的公正の確保、すなわちカルテルの「やり得」を許さない(第一・第二各10点)

 これとともに、広義の「制裁」としての機能も果たすことと書いても良い(10点)。

 平成一七年改正によって、課徴金の額が引き上げられ、これは「制裁」としての性格が明確になったと理解することもできる(これに対し、上記の趣旨は変わっていないとも言うことができる。この点は議論があり得るところであり、多様な理解が可能であるから、これに触れれば適宜10点程度加点する)

二.東芝昇降機サービス事件=大阪高判平成5730の事案を簡単にした設問。

(1)同判決は、一般指定15項違反としたが、理論的には2項違反単独の取引拒絶)ともし得る。(20点)

 ただし、試験の際に一般指定を配布しなかったので、便宜上、一般指定15項の代わりに独禁法296号、また、一般指定2項の代わりに同項1号を挙げても正解とする。

(2)一般指定2における公正競争阻害性については、第一に、エレベーターの保守管理サービスについての競争の減殺をもたらす場合があげられる。

単独の取引拒絶について、流通・取引慣行ガイドラインは、市場における「有力な事業者」基準を採用しており、Y2がこれに当たるとすれば、ここで公正競争阻害性ありということになる。

この他、第二に、「独占禁止法上不当な目的を達成するための手段として」取引拒絶がなされた場合、あるいは第三に、「競争基盤の侵害」に当たる場合に、それぞれ該当する事案であるとも言える。20点)

これら第二、第三の点は、顧客が保守管理サービスについて選択できなくなり、独立系保守管理サービス事業者が競争の可能性を不当に奪われる、などのより一般的な説明でも可とする。

(3)「顧客の安全確保のため」という理由によって、上記の公正競争阻害性がなくなるか?

本当に安全のためかは疑わしい。競争者を排除するための口実ではないか。いずれにせよ、Y1Y2は、本当に安全のため必要最小限の措置であることを主張・立証すべきであり、単に「顧客の安全確保のため」と主張するだけでは足りない(事実上の立証責任の転換)

また、「顧客の安全確保のため」の必要最小限の行為だったか、「より制限的でない、他の代替的手段」はなかったのかを検討すると、上記の公正競争阻害性を覆すことはできないと考えられる20点)

この点はむしろ「経済法1」で詳しく述べ、「経済法2」では簡単に触れるにとどめたので、この(3)には触れなくてもよいこととする。(正確に述べれば20点、述べなくても他の(1)、(2)、(4)だけで満点になる)

(4)上記の検討から、本件Y1Y2の行為が独占禁止法違反であれば、民法709条に基づく不法行為の要件を充足し、Xの請求は認められる。(20点)

(5)以下の諸点に触れた解答があった。

・ 以上の他、Y1Y2の関係は、Y2が完全子会社であることから、実質的に一体であるとみなすことができる。このような親子会社間で共謀しても、不当な取引制限には当たらない。不当な取引制限は、独立した競争事業者間の協定を対象とするからである。

・ Y1Y2の行為は、顧客(A)に対しては抱き合わせ販売(一般指定10項)に当たるが、本問はこれを訊いているのではない(この点を誤解した答案があった)

・ Y1の行為は、顧客(A)に対しては契約上の信義則違反に当たるとも解される。しかし、Y2に対しては、このような契約法上の責任を問うことはできないであろう。

・ 「一定の取引分野」がY1の販売するエレベーター保守管理サービス市場であるとすれば、Y1の行為は私的独占に当たるとする可能性はある。10点)

なお、上記の配点は一応の目安であって、最終的には相対的評価をする。



070112「第13回 課徴金について補足 競争の意義

 

1.舟田「課徴金の強化」(けいざい講座)読売新聞1229日付

 

 価格カルテルや入札談合など、価格に影響を与えるカルテルを行った事業者には、独占禁止法に基づき、課徴金が課される。課徴金制度は、事業者からカルテルによって得た不当な利得をはく奪する趣旨で設けられたものだ。個々の不当利得を算定することは不可能なので、売上高経常利益率の平均値を参考にし、課徴金の額は、カルテルの実行期間における事業者の売上高の原則6%(小売業は2%、卸売業は1%)とされている。
 公正取引委員会に設置された独禁法研究会は十月、課徴金の水準を引き上げる一方、談合などを通報した事業者には課徴金を減免する制度を新設することを柱とする報告書をまとめた。      
 引き上げ案は、カルテルが「不当利得」だけでなく、「社会的損失」ももたらしていることから、この損失分も徴収すべきだという考え方に立つ。
 不当利得は、その商品や役務を不当に高く購入させられた需要者の損失に等しい。これに対して社会的損失とは、違反行為による価格引き上げの結果、商品・役務を購入できない需要者が出ることによる損失や、関連する商品・役務の価格も上昇することでその需要者が受ける損失などの波及的な損失を指す。
 課徴金引き上げが提案された背景としては、第一に、国際的な競争の影響を受けにくい公共工事等の分野において、カルテル・談合体質が繰り返されているという事情がある。カルテルなどの競争制限行為は、当該産業の効率化への努力をつぶす弊害をもたらす。第二に、わが国の独禁法における排除措置、課徴金、刑事罰などの抑止力が、国際的にみて低いことも挙げられる。
 消費者の利益を確保し、経済再生を図っていく上で、独占禁止法違反行為に対する執行力・抑止力を強化する必要があると判断されたわけである。

 

一方、違反事実についての情報を提供したカルテル参加者に課徴金を減免する制度は、「リーニエンシー」(leniency=制裁減免)と呼ばれる米国の制度を手本としている。逆に、繰り返し違反行為を行うなど悪質な事業者には課徴金を加算する制度も提案されている。
 価格カルテルなどの独禁法違反行為は近年ますます複雑・巧妙化しつつあり、カルテルの存在を立証することが困難になっている。その中で米国や欧州連合(EU)では、当局によるカルテル事件の摘発が最近増加している。その要因は減免制度の導入である。また、減免制度には、カルテルから自発的に離脱するきっかけを企業に与えると同時に、役職員などの法令遵守意欲を高める効果も期待される。
 ほかに報告書は、課徴金の対象となる違反行為を、現行の価格カルテルに限らず、非価格カルテルや私的独占などへ広げることも提案している。
(この部分はスペースの関係から、大幅に縮小した)


  課徴金の引き上げに対して、日本経団連は、不当利得を超す分は制裁、処罰にあたり、憲法が要請する「二重処罰の禁止」に抵触する恐れがあると反対している。カルテルに対しては刑事罰や排除措置や発注官庁による指名停止措置・違約金条項などが制裁として機能しており、とりわけ刑事罰との関係では「制裁としての課徴金を課すなら法人に刑事罰を科さないか、逆に刑事罰に一本化すべきだ」というのがその主張である。
 しかし、学説や最高裁では、1つの違反行為に対し課徴金と刑事罰を重ねて課しても、そのことでただちに憲法で禁止する二重処罰に当たるわけではないと解釈している。

実態面でも、排除措置はカルテルをやめさせるだけで、制裁・抑止効果を持たない。指名停止も実効性に乏しいと指摘される。刑事罰は、公取委が告発するのは悪質かつ重大な事案だけで、過去の告発は一〇件に過ぎない(有罪七件、無罪一件、係属中二件)。→後注 係属中二件もその後、有罪となった。
 刑事立証には膨大な費用と時間を要する。刑事罰に一本化した場合は、多くの事案が排除措置だけで済まされてしまうであろう。争うとしない違反行為者に行政命令だけで賦課できる課徴金は事案の迅速処理という点で有効性が大きい。

刑事罰と課徴金の選択という提案は考慮に値するが、仮に悪質重大な違反行為には刑事罰だけを科すという振り分けをするなら、刑事罰は最高五億円で、課徴金は現状でも百億円規模の金額になることもありうるという現状を変えなければならず、新たに多くの難問が出てくるだろう。
 本来は、被害者(特に消費者)が民事訴訟によって自らの損害の賠償を求めるのが筋だが、損害賠償請求は近年になって数件の提訴があっただけで、ほとんど機能してこなかった。多くの障害を克服するために、立証責任の見直し、団体訴訟制度の創設などの検討が望まれる。独禁法の実効性を確保するためには、課徴金や刑事罰、排除措置、損害賠償、指名停止などの手段をバランス良く機能させることが求められるのである。(了)

 

2.上記の原稿についての舟田コメント

2−1 課徴金の趣旨・目的

「引き上げ案は、カルテルが『不当利得』だけでなく、『社会的損失』ももたらしていることから、この損失分も徴収すべきだという考え方に立つ。」

 これは講義では触れなかったが、それはこの考え方が結局は採用されなかったから。

 この点についての、ゲストスピーカーの徳力先生のレジメ該当部分は以下の通り。

 

課徴金とは:違反行為者に対して金銭の納付を命じる行政処分

  その目的・趣旨 (1)違反行為者に対する金銭的不利益→違反行為の抑止

(2)不正な利得の保持(やり得)の禁止→社会的公正の確保

 

別紙2 内閣府懇談会の論点整理(抜粋)

 

エ.課徴金の法的性格,算定方法(不当利得相当額等を根拠とする必要性)等について

@     現行の課徴金は不当利得相当額を算定の根拠としているが,こうした考え方に拘束されるべきではなく,抑止のために必要な金額を課せるようにすべきではないか。

A     多くの国においては,不当利得の観念を要せず事案の実情に応じて金額を設定でき,その賦課も裁量によるため柔軟に運用できる金銭的不利益処分を設けており,独占禁止法の課徴金についてもこのような制度にしていくべきで,そうすれば現行の課徴金の対象となっていない違反行為類型にも課すこともできるようになる。また,排除措置命令を課徴金納付命令とともに,一つの決定で下すことができ,減免制度も欧米と同様に弾力的に活用することができる。

B     不当利得相当額をベースにしないとしても,刑事罰ではなく行政処分なので,その算定に合理的な根拠が必要なのではないか。

 

独禁法の定める課徴金の制度は,・・・カルテルの摘発に伴う不利益を増大させてその経済的誘因を小さくし,カルテルの予防効果を強化することを目的として,既存の刑事罰の定め(独禁法89条)やカルテルによる損害を回復するための損害賠償制度(独禁法25条)に加えて設けられたものであり,カルテル禁止の実効性確保のための行政上の措置として機動的に発動できるようにしたものである。また,課徴金の額の算定方式は,実行期間のカルテル対象商品又は役務の売上額に一定率を乗ずる方式を採っているが,これは,課徴金制度が行政上の措置であるため,算定基準も明確なものであることが望ましく,また,制度の積極的かつ効率的な運営により抑止効果を確保するためには算定が容易であることが必要であるからであって,個々の事案ごとに経済的利益を算定することは適切ではないとして,そのような算定方式が採用され,維持されているものと解される。そうすると,課徴金の額はカルテルによって実際に得られた不当な利得の額と一致しなければならないものではないというべきである。」(最高裁平成17913日)

 

2−2 指名停止

「指名停止」は、指名競争入札制度において、入札参加者を発注者が指名し、指名された事業者だけが参加できるという制度の下で、独占禁止法違反行為を行った事業者はこの指名をしないとすることによって、一定の制裁を加えたことにするもの。

これは、発注者の側の対応であって、法律上の根拠があるわけではない。

ところで、指名競争入札制度それ自体を廃止する方向にある中で、正確には、入札参加排除(指名停止,および一般競争入札の場合における参加資格の否認)と書くべきであろう。

 

指名停止も実効性に乏しいと指摘される。」

これは、原案は、「乏しい場合もある」。

技研システム国家賠償請求事件=東京高判平成15424は、誤った勧告で指名停止などの損害を受けたことを理由にしているし(後注:この判決後、勧告あるいはその前の立ち入り調査の時点での指名停止は止めることとなり、法的決定が出てから指名停止されることとなっている)、実効性がある場合もないとはいえない。

しかし、痛みがないように停止の時期や期間を考慮した事例があるとの指摘も多い。(→ 後注:この批判を受け、現在の指名停止はかなり厳しいようで、経営に打撃を与えているとも言われている。)

 

 

 

「講義の終わりに----競争の意義」

 

1.経済政策の中における競争政策・独禁法の位置づけ

 「公正かつ自由な競争」は、自由放任では達成できない。強力な競争政策・独禁法の執行が必要。

戦後の自由経済体制のスタートから現在に至るまで、この立場は、経済成長・国際競争力・景気対策などの経済政策に比べ、十分には尊重されていない。

 競争政策こそが、長期的な持続的発展を生む原動力であるが、自由競争は十分に実現されていない。

国際競争に十分さらされている分野(金融、製造業など)と、内需産業(電力、建設・土木、医療など)との格差---「内外価格差」

また、従来は経済的な意味での競争に適しないとされてきた各種の産業、例えば公益事業や医療・製薬産業・教育産業・スポーツ産業などについて、独禁法の適用と競争政策の強化が要請されてきている。

 

2.効率性、資源の最適配分

 競争が活発に行われていることには、次のような社会的意義がある。

 第1に、競争は、市場全体の効率性、資源の最適配分をもたらす、というのが経済学の教え。

しかし、その基礎にあるのは、市場におけるプレイヤーである経済主体、特に企業の体質についての特定の認識である。

 競争は、企業への刺激になり、企業の競争的体質を作る。常に革新的な工夫が要請される。

 「企業家精神」、革新(イノベ?ション)に基づく自由な企業活動、という動態的機能が市場で正当に評価される。

 例えば、経済の国際化が不十分な場合、日本の寡占企業間、中小企業間のカルテルは、単に価格を維持する等にとどまらず、市場における上記の動態的機能が失われるので、そのときどきの品質、製造技術、販売方法等のもとでの競争を固定化してしまう。

さらに、新聞のように、長期間にわたり寡占的協調体制と再販に守られると、1面では、激しい、しかし歪んだ販売競争と紙面作りの競争がなされ(「特ダネ」など目立つための紙面作り、販売員・販促品の提供、「販売正常化」のかけ声だけ)、他面で、「なあなあ」の世界(記者クラブ・「発表ジャーナリズム」など)に安住し易くなり、革新的な工夫(例えば、宅配便への委託、コンビニでの新聞販売の制限などの販売店以外のルートでの流通)をつぶしていく努力だけが通ってしまう。

 談合体質に染まっていた建設・土木産業も同じ。高層建築など技術革新は著しいが、取引方法の近代化は遅れている(電子入札、総合評価方式などの新しい動きもあるが)。受注者(国・地方公共団体・特殊法人等)との不透明な癒着と業界内の協調体質、多層的な下請け構造の問題性は変わっていない。

 新聞と建設・土木産業に共通するのは、諸外国との競争がなく、内輪での競争だけという点(内需産業)。

 競争は、単に各経済主体の効率性の向上をもたらすだけでなく、常に提供する商品・役務(=サービス)の質の向上をももたらす方向に働くべき。

 

3.経済主体(事業者と消費者)の実質的自由

第2に、「公正かつ自由な競争」の下でのみ、経済主体(事業者と消費者)の実質的自由の確保と自己責任原則が実現される。

形式的自由(国家からの自由)のみならず、実質的自由(=各経済主体が、実質的意味で独立し、主体性を発揮できること)が市場経済を真の意味で有効かつ公正に機能させる。

例えば、従来の系列支配などは、支配者と被支配者の関係を固定化し、後者の実質的自由を不当に奪う場合が多かった。

近年、家電の系列店の衰微、自動車製造業や家電製造業などにおける専属下請けからの脱皮の動きもある。しかし、前記の建設・土木産業における多層的な下請け構造、放送事業者と番組プロダクションの下請関係、さらにコンビニにおける本部と加盟店の関係(これはフランチャイズ契約であるため、系列とは呼ばれないが同質の関係である)など、今でも多くの問題がある。

さらに、ノエビア事件、大規模小売店による納入業者に対する優越的地位の濫用の事件は、今日でも多発している(これらについては、不公正な取引方法の冒頭でも挙げた)。

そこでは、取引当事者間の力関係に基づいて、優越的または支配的な地位にある事業者が、被支配者に対し、通常の対等な当事者間の商取引であればあり得ない、不当な、あるいは無理な要求を課すことが、しばしば見られる。

例えば、大規模小売店が納入業者に対し、記念行事の費用を恣意的に負担させ(協賛金問題)、あるいは納入する商品とは別の、大規模小売店が販売する商品を無理矢理大量に買わせる(押しつけ販売)。ノエビア事件では、ノエビア側は販売事業者に対し、ノエビア商品だけを扱うことを義務づけ、しかし、販売事業者にとってそれだけでは事業が成り立たない場合も、他の商品の販売の禁止を強制する。その場合、販売事業者は従来よりも大量の商品を買い入れて売るように努力せざるを得ない。しかし、結局は仕入れた商品は売れずに、大量の在庫が負担となって残る。倒産するか、依存的な事業を継続するかという選択しかなく、最後は多額の負債を抱えさせて倒産させる(倒産商法とも呼ばれる。この場合、ノエビアは、それまでの仕入代金は既に支払い済みであるから、倒産によって何ら損失を被ることはない。なお、ノエビアがここまで悪質かは判決からは分からない。倒産商法の典型はジュエリーの販売会社などで見られる)。

これは極端な事例であるが、優越的または支配的な地位にある事業者による「力の濫用」の事例は、今日でも広く見られるところである。

このような「力の濫用」を規制することによって、はじめて「公正な取引」→「公正な競争」が生まれる。

私的な経済権力からの自由が、独禁法の基本理念。

私的な経済権力が生まれることは市場経済の必然。しかし、その行使には一定の制約。

私的権力を持つ側も自らを律する精神、そして、取引の相手方を主体として尊重する精神。

被支配者の側も、不当な「力の濫用」に抵抗する気構えと知恵。

これが、「公正かつ自由な競争」の前提。

 

 事業者と消費者の関係も、実際の交渉の場になると、情報格差から事業者の側が1種の優越的または支配的な地位にたつことがある。キャッチ商法(=キャッチセールス)の例。

消費者は、提供される商品・役務に関する正確な情報を得て、それによって適切・冷静に選択することが可能になるように、競争・取引環境の整備が要請されること。これは消費者主権の実質化への道でもある。

 近年、金融機関の「格付け」がクローズアップされているが、これも選択のための中立的な情報が要請されていることの反映。不当表示など「ぎまん的顧客誘引」、誇大広告(イメージ広告の氾濫)の規制。大学を含め、政府・企業・各種法人等の「自己点検・自己評価」、情報公開もこの点から重要。

 このことは同時に、情報を収集・分析し、判断・選択する側(特に、消費者)の主体性も問われることになる。

 コーポレート・ガバナンス----企業における意思決定・運営が適法かつ適正になされるシステム

 マーケット・ガバナンス----市場経済における取引・競争が適法かつ適正になされ、各経済主体による独立性、自主性が十分に発揮されること、特に「消費者主権」が実現されること

 これらは、企業の中の個人(経営者・労働者)と消費者が、確固たる独立性・主体性(=実質的自由)を獲得・維持できるかにかかっている。


061215「第12回 不公正な取引方法の6---事業活動の不当拘束」

第5節 事業活動の不当拘束

一.総説

法2条9項4号「相手方の事業活動を不当に拘束する条件をもって取引すること」

@       排他条件付取引(一般指定11項)

「不当に、相手方が競争者と取引しないことを条件として当該相手方と取引し、競争者の取引の機会を減少させるおそれがあること」

A       再販売価格維持行為(一般指定12項)

行為者が取引の「相手方に対しその販売する当該商品の販売価格を定めてこれを維持させること」(一般指定12項1号)、および相手方の転売先の販売価格について同様の拘束をすること(同項2号)

B       拘束条件付取引(一般指定13項)

「前二項に該当する行為のほか、相手方とその取引の相手方との取引その他相手方の事業活動を不当に拘束する条件をつけて、当該相手方と取引すること」

双務契約では、取引当事者が互いに拘束し合うのは当たり前。

ここでは、当該取引の本体をなす約定(取引対象商品の特定・価格・支払い方法など)以外の付随的条件を付して、相手方を不当に拘束することが対象。

二.排他条件付取引(一般指定11項)

 コンビニエンスストアの例----合理的な範囲を超えているか否か。店主(オーナー)の判断で、本部以外から商品を仕入れて販売することを禁止できるか。「競争基盤の侵害」に当たるか否か。

 専売店(自動車、薬や新聞の販売店など)の例----特定のメーカーの商品だけを(主として)販売せよという条件。「競争減殺」に当たるか否か=「有力な事業者」基準。しかし、「競争基盤の侵害」に当たるか否かも考慮される。

 商品の特殊性(ガソリン)、ノウハウの秘密性保持、技術的理由など明白な合理的理由があり、手段も必要最小限など相当なものであれば不当性はない。

三.再販売価格維持行為

 原則として、すなわち「有力な事業者」でない事業者が行った場合も、「競争減殺」と「競争基盤の侵害」の両方に当たる。

 「拘束」に当たらない再販もある=「お願い再販」

四.拘束条件付取引

 テリトリー制---縦の(取引の相手方に対する)制限。これに対し、競争事業者間の地域分割協定はカルテルの一種。両者が混合している例もあるが(前掲・新聞販路協定事件など)、誰が主導的かを見ることが重要。


061208「第11回 不公正な取引方法の5---不当対価

 第4節 不当な顧客誘引・取引の強制

一.「ぎまん的顧客誘引」(一般指定8項)・「不当な利益による顧客誘引」(一般指定9項)

不当表示と過大な景品については、ほとんどすべて景表法で処理。

ホリディ・マジック事件=公取委昭和50613日勧告審決・独禁法審決・判例百選(第二版)153頁以下---資料12

「不当な利益による顧客誘引」(一般指定9項)------景品、損失補填問題。

いずれも、公正競争阻害性の3つの要素のうち、「競争手段の不公正さ」の問題。

顧客が、冷静に、客観的に自らの必要または求めに的確に対応する(気分による選択も含め)商品・役務を選択できることが、公正な競争の前提。きまぐれで選ぶことがあるという事実を否定するものではないが、事業者の側では、冷静に比較しつつ選択したいという顧客もいることに備えるべき。

特に、広告・宣伝等による事業者側が提供する情報は、その性格上、一面的にならざるを得ないとしても、消費者が上記のような選択をなるべく可能になるような環境を整備することが重要。

消極的な表示規制だけではなく、積極的な規制、例えば不利益表示の強制なども強化すべき。客観的な情報(原材料は何か、製造期日はいつか等々)を提示し、あるいは説明する義務。

取引の相手方との情報の格差、商品選択の能力が劣ることを利用して誘引するという点で、「競争基盤の侵害」の問題でもある。

資料13---ジュース表示事件=最判昭和53314独禁法審決・判例百選(第6版)234頁以下

<質問>

以下の議論についてどう考えるか。

「景品は、消費者の利益になるのであるから、これで不要な商品まで買わせられることを防ぐという規制は過保護ではないか。消費者は『自己責任』で商品選択をすべき。」

二.「取引の強制」、特に「抱き合わせ販売」(一般指定10項)

行為要件

@ 従たる商品(B)が主たる商品(A)にとって「他の商品」であること

 社会通念上、「他の商品」の抱き合わせと観念されていない場合には、一つの商品として見るべきである(例、万年筆とカートリッジ)

 別々に買うこともできる場合は、後記のAの要件を満たさない(例、歯磨きと歯ブラシ)

 二つの商品が組み合わされて内容・機能に実質的変更がもたらされ、別個の特徴を持つ単一の商品になる場合は、上の要件を満たさない(例、パソコンのOS(基本ソフト)とブラウザー・ソフト or WMP)

A 「購入させ」ること = 相手方の商品選択の自由を実質的に抑圧する、すなわち、「他の商品」についての独立した判断の放棄を強制すること

公正競争阻害性

@ 競争の減殺------マイクロソフトによるエクセルとワードの抱き合わせ(マイクロソフト事件(勧告審決平成10・12・14)、昇降機の各部品(商品A)とその取替え調整工事(商品B)を抱き合わせ(東芝昇降機サービス事件=大阪高判平成5730-----資料10(配布済み)

A 手段の不当性-----ドラクエWと他の人気のないゲームソフトの抱き合わせ(藤田屋事件=審判審決平成四・二・二八))

B 競争基盤の侵害

商品Aについての行為者の強制し得る地位を前提として、商品Bの取引を強制

キヤノン株式会社に対する独占禁止法違反被疑事件(平成16年10月21日)

三.「その他の取引強制」、特に「相互取引」(一般指定10項)

金融上の圧力をもって自己または自己の指定する事業者と取引するように強制すること(埼玉銀行・丸佐生糸事件=同意審決昭和二五・七・一三。ただし、本件は私的独占とされた。

「購買力の濫用」(abuse of buyingpower----抱き合わせ販売は、売り手の行為であるが、逆に、購買力を有する事業者が売り手に対し、取引を強制すること。

取引上の優越した地位を利用」して行う場合は、一般指定一四項違反。


061201「第10回 不公正な取引方法の5---不当対価

第3節 不当対価

「不当廉売」---この他、「不当高価販売」、「不当高価購入」、「不当廉価販売」は?

(1)行為要件-----コスト(=費用)を下回る価格。

コストとは-----

a. 総販売原価(公取委の実務。販売業者の場合、簡便な算定では「仕入原価」)

b. 限界費用(米国の判例、学説。これに依る立場から、「追加費用」、「平均可変費用」等が簡便な算定で可能と説かれている)

(2)市場要件(公正競争阻害性)------「他の事業者の事業活動を困難にさせるおそれがあること」=「正当な理由がないのに」=「不当に」

なお、多くの学説や公取のガイドラインは、公正競争阻害性は別に、「事業活動の困難化」要件を挙げる。しかし、事業活動の困難化は不当廉売の不当性を説明した文言であって、不当性とは別個の要件として定められたものではない(これは制定時の経緯から明らか)。

不当廉売の不当性

a. コストを無視した価格による販売は、企業努力によってできるだけ低価に、良い品質の商品・役務を提供するという競争の本質を無効にする。

b. 資本力の戦いになり、大企業に一方的に有利な競争方法。

典型例は 「略奪的価格設定」----大企業が、第一段階として、廉売によって競争者を市場から駆逐し、第二段階として、独占に成功してから価格をつり上げて、それまでの廉売による損失を補填する行為。

これは、不当廉売に当たるが、それだけでなく、日本の独禁法においては、私的独占にも当たる。

公正競争阻害性の3つの要素のうち、「競争の減殺」(極端なケースとして、前記の略奪的価格設定)、「競争手段の不公正さ」(前記のa.)、「競争基盤の侵害」(前記のb.)のいずれにも当たる可能性がある。

(4)諸事例

・中部読売新聞社事件

・都営芝浦屠畜場事件

・マルエツ・ハローマート事件

・お年玉付き年賀葉書事件

・コンピュータ・システムの公共入札における「安値入札」問題

国の入札において、自己のコストを大幅に下回る価格で応札・落札。

第一に、システムの設計から実際のシステム構築、運用・保守管理など、多段階に分けた入札をすることが多い。最初の段階で安値入札しても、後の段階で(あるいは、後記の資料9にあるように、後では随意契約で)その赤字を取り戻すという企業戦略を許してはならない。これを防ぐような入札の仕方を工夫すべきである(これは難しいことであるが)。

第二に、図書館情報システムや下水道監視・管理システムのように、他の同様のシステムで落札し、そこで初期投資を回収すれば、その後では安値入札をしても十分採算がとれるという場合、コスト割れはどのような基準で算定するか、結論はでていない。

・建設・土木などの公共入札におけるダンピング落札問題。

談合で「ダンピング受注」を防止するという談合肯定論?

独禁法上の不当廉売に当たる落札は違法であり、規制すべきであるが、業界の常識ではダンピング受注と非難される場合でも、必ずしもすべてが不当廉売に当たるものではない。

また、ダンピング受注が必ず不良工事を生むわけではなく、逆に、談合によって受注した工事でも不良工事はあり得る。不良工事防止は、談合ではなく、適正な検査体制の整備などで対処すべき。

公取委「公共建設工事に係る低価格入札問題への取組について」(平成16年4月28日)

「工事原価+一般管理費」。簡便な基準として「工事原価(直接工事費+共通仮設費+現場管理費)」を下回る価格であるかどうかがひとつの基準となる。

これは、前掲の原価=総販売原価の立場。工事原価は、仕入原価に対応する。


061124「第9回 不公正な取引方法の4---差別対価・不当対価

四.差別対価

(1)LPガス販売差別対価差止請求事件---大手販売会社によるLPガスの販売が地域による不当な差別対価にあたらないとして、中小小売企業者からの独占禁止法24条に基づく差止請求が棄却された事例

1 トーカイ事件=東京地判平成16・3・31、東京高判平成17・4・27控訴棄却

2 日本瓦斯事件=東京地判平成16・3・31、東京高判平17531控訴棄却

 地域によって市場価格やコストが違うので、これに合わせた価格設定には不当性はない。

(2)第二次北国新聞事件=東京高決昭和32318行集8-3-443(百選・第3120頁)----資料14

(3)既存の航空会社(JAL/ANA)が、新規参入した航空会社(スカイマーク・エアドゥ)の便の前後だけ、顧客を奪うためその料金と同額に設定した行為。(平成11年)

その後、スカイネット(SNA),スカイマークに対し,JALANAは対抗値下げを行い、これに対しては前回の時の批判を受け、公取委警告(平成14930日公表)、両者は値下げ撤回。

「競争対抗価格」の抗弁(競争事業者が価格競争をしかけたので、これに対抗するために価格を下げたに過ぎない)をここで認めるかは疑問。市場支配力を有する事業者ないし市場における有力事業者は意図的な競争者の排除をもたらす行為を行ってはならない。

これに対し、その他の事業者は市場価格に合わせて、あるいはそれ以下の価格(競争対抗価格)を提示することは当然許される。

(4)差別対価については、「競争の減殺」と「競争基盤の侵害」の両方が問題になりうる。

a.「競争の減殺」----競争地域における競争事業者の不当な排除。不当廉売と同類の反競争性。

b.「競争基盤の侵害」----非競争地域での料金が不当に高い。

「競争ありせば成立したであろう価格」でなければならない=「想定競争価格」as if competition

b.の面が認定されれば、不当な差別対価だけでなく、私的独占(「支配」)、または優越的地位の濫用にも当たる。


061117「第8回 不公正な取引方法の3---取引拒絶

第2節 差別的取扱い

一.基本的観点

競争過程で、取引条件(特に価格)等が顧客によって異なることはノーマルな現象。

「一物一価」だから「協調的値上げ」も経済原則にしたがったものである、という産業界の一部で過去になされた主張は誤り。個々の取引は、程度の差こそあれすべて特殊性があり、それらに応じて取引条件も異なりうるし、しかも取引・競争は常に動いているものである。

独禁法上の問題は、異なる取引条件を要求すること、あるいは取引拒絶(究極の「差別的取扱い」)が、競争のノーマルな現象として行われたか、それとも、公正な競争を阻害する目的に基づく、またはそのような効果をもたらすものか、ということ。 

 

二.共同の取引拒絶(=ボイコット)

直接と間接のボイコット

多くの場合、不当な取引制限にも該当する(そうでなければ、当該ボイコットは効果がないことが多い)。

安売り業者の「狙い打ち」排除が典型例。

実務的に最も問題になるのは,業界の自主基準において,違反行為者に対し取引停止等の規定を設けた場合。事業者団体ガイドライン第2の7参照。

「商品又は役務の種類、品質、規格等に関連して、事業者団体が、例えば、生産・流通の合理化や消費者の利便の向上を図るため規格の標準化に係る自主的な基準を設定し、また、環境の保全や安全の確保等の社会公共的な目的に基づく必要性から品質に係る自主規制等や自主認証・認定等の活動を行う場合がある。このような活動については、独占禁止法上の問題を特段生じないものも多いが、一方、活動の内容、態様等によっては、多様な商品又は役務の開発・供給等に係る競争を阻害することとなる場合もあり、法第八条第一項第三号、第四号又は第五号の規定に違反するかどうかが問題となる。」

「自主規制等の利用・遵守については、構成事業者の任意の判断に委ねられるべきであって、事業者団体が自主規制等の利用・遵守を構成事業者に強制することは、一般的には独占禁止法上問題となるおそれがある」

上記のうち,「強制」すれば違反のおそれが強いという箇所は,自主基準それ自体が正当でありかつ違法性がなければ,これを遵守させるため,ある程度の強制は不可欠であるという反論がある。

しかしここでも,上記の「より制限的でない、他の代替的手段」という観点が生きるのであって、通常は、強制力のない自主基準でもおおよその成果はあげられるはず。それ以上の強力な自主基準は、本来は法律上定めるべき事柄ではないか、などの考慮が必要であり、一般的には認められるべきではない。

日本遊技銃協同組合事件=東京地判平成949判例百選(第6版)110---前出、資料10

ここでは、法律上の安全基準よりも、事業者団体が定めた自主基準が厳しい基準である場合、これに違反した商品を販売する事業者を事業者団体が販売業者に圧力をかけて共同ボイコットさせた行為は、「競争の実質的制限」になるかが問題となった。

競争事業者(メーカー)間で(安全性を理由に?)拘束し合うだけでなく、アウトサイダーを市場から閉め出すように販売業者に圧力をかけた点で、反競争性が強い。

三.単独の取引拒絶

1.流通・取引慣行ガイドラインは、競争者の事業活動が困難となるおそれがある場合として、市場における「有力な事業者」基準を採用。=「競争の減殺」

岡山県南生コンクリート協同組合事件=勧告審決昭和56218審決集27112(教科書,206,352頁)

全国農業協同組合連合会事件=勧告審決平成2220日審決集2653頁(百選・第6版128頁)----資料11

2.「独占禁止法上不当な目的を達成するための手段として」取引拒絶がなされた場合。

第二次大正製薬事件=勧告審決昭和301210審決集799(百選・第4版148頁)---資料12

3.この他、「競争基盤の侵害」に当たると解することができる例もあり得る。優越的地位の濫用に当たる行為をしかけ、これを拒否した事業者に対し取引拒絶する場合など。

ノエビア事件=東京高判平成14125判時181482頁(平成14年度重判解)---資料13


061110「第7回 不公正な取引方法の2---公正競争阻害性

公正競争阻害性には、ビジネス・リーズン(経営上の理由)や安全性などの要素は含まれるか。

第一次育児用粉ミルク (和光堂) 事件=最判昭和50710民集296888

第一次育児用粉ミルク (明治商事) 事件=最判昭和50711民集296951 

いずれも,教科書第5章第1節三(4)参照。

<質問>消費財メーカーが「おとり廉売」を抑えるため再販売価格維持をしたことは、防御のためであり、公正競争阻害性はないといえるか?

 再販売価格維持行為については、教科書第5章第5節三を参照。

<解答>

 取引の各段階におけるメーカー建値、特に末端価格の維持は、メーカーにとって重要な関心事(上記の「事業経営上必要あるいは合理的」な動機)

1.値崩れは、当該商品の信用、価格水準への疑問を取引の相手方(ユーザー)の間に広げてしまう。(安くならない商品=いい商品、という消費者の信仰)

2. 端価格の値崩れは、商品の流れにおける上流への値下げ圧力となり、各事業者の利益を減少させる。

メーカー

 1000

卸売         再販売価格の拘束

 1100

1500

安売りの小売 小売

2000(末端価格)

消費者

メーカーは卸売業者に対して、「安売りの小売業者とは取引するな!」と指示=再販売価格維持行為のため

この指示に反して、卸売業者が安売りの小売業者に売ったら、「取引拒絶=出荷停止」

小売業者の悩み=腕の見せ所

どれだけ高く、たくさん売れるか? → いい商品を安く、どれくらい仕入れるか?

 小売業者は、消費者に販売する努力と、卸売業者からどのように仕入れるかの両面で苦労。両方の市場で競争している。

そこで、末端価格の値崩れを防ぐための手段として、メーカーが考えたこと

→ 販売業者(小売・卸)同士の競争をなくす(=再販売価格維持行為を行う理由)

しかし、販売業者同士の競争をなくす → 企業努力がなくなる → 消費者の利益を害する

でも、メーカーに指示に逆らったら・・・ 「取引拒絶=出荷停止」

再販売価格維持行為がもたらす影響

(1)ブランド間競争・・・過熱する。ただし、価格以外の要素(デザイン、広告・宣伝等)で。

(2)ブランド内競争・・・減殺される ← 公正競争阻害性の「競争の減殺」に当たる

同時に、販売業者(小売・卸)の腕の古いどころ、苦労する点である価格設定の自由を奪ってしまうから、「競争基盤の侵害」にも当たる。

3. 極端な「おとり廉売」が広がると、それ以外では売れなくなり、さらに市場価格が下がるから販売利益(販売マージン)が減り、したがって当該商品を扱う販売事業者が減り、結局は当該商品全体の販売減に至るおそれがある。

loss leader(おとり廉売):その商品については赤字だが、それは消費者を呼び込むため

→ 他の商品も買ってくれれば、トータルでは販売店にとってプラスになる

再販売価格維持行為をするための理由付けである

上の1と2は、事業者にとっての「事業経営上必要あるいは合理的」な要素に過ぎず、再販売価格維持行為は消費者の利益を害するが、この3の「おとり廉売」防止ということだけは、独禁法上の観点からも正当な要因である。

したがって、「おとり廉売」は、独禁法上の規制(不当廉売)をなすべきであるが、ここから再販を肯定することにはつながらない。おとり廉売をする事業者を独禁法違反とすれば足り、また、当該おとり廉売事業者だけに限った再販をするだけでいいはずで、それ以外にすべての販売業者に再販を強制する理由にはならない。

「より制限的でない、他の代替的手段」(less restrictive  alternatives. LRA基準とも呼ばれる)がないかも検討(教科書、第5章第4節四(5)参照)。ここは抱き合わせについての説明であるが、この観点は他の不公正な取引方法についても同様に問題となる。

また、こういう事態は論理的にはあり得るが、実際にこの種の事態が上記の因果関係によって生じたという実例、その検証がなされたことはない。

<質問>エレベーター・メーカーが、自己の販売したエレベーターの保守管理は自己またはその子会社に任せて欲しいとし、独立の保守事業者には保守部品を販売しない、または3割高で3週間待たせるとしたことは、顧客の安全確保のためであり、公正競争阻害性はないといえるか?

<解答>

本当に安全のためか?

東芝昇降機サービス事件=大阪高判平成5730判例百選(第6版)122頁、教科書197,240,282

----資料10

この問題は、教科書第2章第5節五「公共の利益」で取り上げたが、不公正な取引方法について、同第5章第1節三後半でも扱っている。


061027「第6回 不公正な取引方法の1---総論」

第5章 不公正な取引方法 

第1節 

「公正な競争」とは? 

能率競争=企業努力が反映される競争、取引の相手方の自由で適正な選択(比較購買)が機能する競争

自由競争だけでは、上の競争過程は実現し得ない。自由競争が場合によっては、むしろ、「公正な競争」=能率競争を阻害してしまうことがあり、ここに「不公正な取引方法」の規制の意義がある。

不公正な取引方法の要件

1.行為要件------各類型で異なる。

2.公正競争阻害性-------独禁法29項の各号および一般指定の各号における、「不当に」または「正当な理由なく」と同義。

公正競争阻害性の3要素

1. 「競争の減殺」

    排他条件付き取引???

   例:流通系列化(十数年前の「系列御三家」---車・家電・化粧品)、

 生産下請(「専属下請」。今は少なくなっているが)

民放ネットワーク(民放の東京キー局が、系列下のローカル局に対し、他の系列からの番組購入を禁止する行為)

   共同ボイコット(=共同の取引拒絶)---安売り小売店を排除するため、メーカーが団結して当該小売店には
   商品を売らない、とする行為。

2.「競争手段の不公正さ」

  欺瞞的顧客誘引---不当表示、比較広告(航空会社の座席、携帯電話の例)、マルチ商法

3.「競争基盤の侵害」

     優越的地位の濫用---三越事件、下請法、放送事業者と番組プロダクション(著作権の不当な取り上げ、
   支払い遅延、番組打ち切りや取り直しについての費用支払い拒絶)


5回(061020)「不当な取引制限 その5

 ゲストスピーカーとして、公正取引委員会の徳力徹也氏をお迎えして、下記のテーマでお話をしていただいた。

課徴金制度・その運用状況等について」

   ★恐れ入りますが、徳力氏のレジュメにつきましては、サイバーラーニングをご覧ください。
     うまくこのページに載せられませんでした。すみません。 →サイバーラーニング(経済法2)へ

 


4回(061013)「不当な取引制限 その4

入札談合などの「不当な取引制限」に対する制裁(教科書 第6章)

------特に、談合等のカルテルに対する法的制裁(不利益を与えることsanction

1.課徴金(法7条の2、法8条3)

「租税を除く外、国が国権に基づいて収納する課徴金」(財政法3)。これに当たる課徴金は、独禁法上の課徴金がほとんど唯一の例。

2.公取委の排除措置(7条)

排除措置は、「カルテル協定を破棄します」と宣言すれば済み、既に行った取引をやり直すことは命じられない(「価格の原状回復命令」は出せないという解釈が通説である)

この原状回復命令が出せないとする理由は、市場の需要供給というのは動いているため、原状回復命令による価格が、命令がだされた時点の市場価格と違う可能性があるため。

教科書で挙げている,価格の原状回復命令が「違法行為を排除するために必要な限度を超えており」というのは,カルテル協定を破棄させれば,自由な競争が回復されるので,その時点から競争価格に戻るはず,ということにある。しかし,これが実際にそうなるかどうかは場合によっては疑問(特に,長期インフレが続いていた時期には,引き上げられた価格は戻らず、カルテルの「やり得」になっていた。)

3.刑事罰(89条、95条)

かなりの重大事件のみについて課されるという運用方針

 

4.私訴による損害賠償(法2526条、民法709条),不当利得返還訴訟,差止請求(法24条)

裁判のコストと立証の困難性等から実際上容易に提起できるものではない。

「カルテルのやり得」

課徴金は,このような事態を防ぎ、国がカルテルによって得た不当利得を徴収することで、カルテル禁止の実効性を確保する趣旨。

したがって、違反行為者が不当に得た利得分を取り戻すに過ぎないから、不利益を与えることには当たらず、狭義の「制裁」ではないと説明されてきた。今回の独禁法改正では、「制裁」であるとしているが、この不当利得の徴収という性格は維持されている。

 平成3年改正で課徴金強化改正。平成14年改正で、法人等に対する罰金の上限額を5億円に引上げ。(教科書第1章第2節三を参照)

このように課徴金と罰金が重くなるに従い、また、被害者からの損害賠償訴訟や不当利得返還訴訟などが提起されるようになると、刑事罰(二重処罰を定める憲法39条)ないし損害賠償制度との関係が問題となっている。

 

課徴金と刑事罰・損害賠償制度との関係

刑事罰(教科書第6章第2節)

資料7-----ラップ価格カルテル刑事事件・東京高裁平成5521日・百選(第6版)64頁以下

損害賠償・不当利得返還請求との関係(教科書第6章第3節)

資料8-----シール談合不当利得返還請求事件・東京高裁平成1328日百選(第6版)66頁以下

これらの判決は、1つの独禁法違反行為に対し、課徴金、刑事罰、損害賠償請求(または不当利得請求)が重ねて課されても憲法違反ではないし、不合理な制度でもないとしている。

 

<質問> なぜ、これまで独禁法違反行為に対し、被害者は法的な救済(民法709条に基づく損害賠償請求、不当利得返還請求など)を求めることが少なかったか?

 

 1つは、公共入札談合の場合、被害者である国や地方公共団体、特殊法人等は、原価を補うだけの予算がつくし(真の被害者は、納税者、利用者等である)、国等の入札担当官など公務員は、天下りなど談合で利益を得ることも多かったから。

 2つ目に、一般に、独禁法違反を理由とする私法上の訴訟は、原告側に大きなコストや手間暇がかかり、しかも、因果関係の立証は裁判所の厳しい態度から極めて困難なことが多い。

 

鶴岡灯油事件・最判平成元年12月8日百選(第6版)238頁以下---資料9

本判決は、石油カルテルの被害者である最終ユーザー(灯油を買った消費者)165名が元売り各社に民法709条に基づき損害賠償請に対し、違反行為の存在さえも、また因果関係、損害も立証されていないとした。

 

第7節          事業者の行為と事業者団体の行為との関係

 共同行為の主体を実態に即して捉えるべき→構成事業者の間のカルテルと見るか、事業者団体の統制行為として見るか。あるいは両面を併せ持っていると見るか。

 

第9節 行政指導

石油価格カルテル刑事事件最判昭和59224百選(第6版)258頁以下(前期「経済法1」で取り上げた)

 行政指導がカルテルを黙示的に容認するものである場合でも、行政指導は法的な強制力を持たないから,それに従った事業者のカルテルは任意で(自由意思で)行為したのであり,独禁法違反となる。

 独禁法の適用除外が法律上、明示されている場合は、その要件に従ったカルテルのみが独禁法違反とされず,それ以外の行為が行政指導の下に行われれば独禁法違反となる。(適用除外については、教科書7章を参照)

 行政指導の問題性------不透明性、責任の主体が不明、「法律による行政の原理」

 行政手続法32条以下は、逆に従来の行政指導に、これらの規定が示唆するような違法、不当な行政指導があったことを示している。

 同法321-----範囲を逸脱してはならない。相手方の任意の協力によってのみ実現されるものであることに留意すべき。

 同条2---行政指導に従わなかった者に対する不利益取り扱いの禁止(「江戸の仇を長崎で討つ」)

 352-----書面交付の要求があれば交付しなければならない。

 36----複数の者に対する行政指導は、公表。

 

 

 



3回(061006)「不当な取引制限 その3

 

第4節 事業者団体の活動規制

 戦前の日本の統制経済が、事業者団体によって行われ、カルテル体制を支えたことなどもふまえ、厳しい規制がかけられている。

 

 事業者団体の禁止行為

a.     競争の実質的制限

b.     6条の国際的協定・契約

c.     事業者の数の制限

d.     構成事業者の機能・活動の制限

e.     事業者に不公正な取引方法に該当する行為をさせるようにすること

 

浜北市医師会事件・公取委勧告審決平成11125日(判例百選・第6版)----資料5

この事件は、事業者団体が競争制限を目的に広告活動を制限した事例であり、患者の選択の自由を奪ったことになるから、独禁法違反とされたのは当然である。

しかし、単なる事業者の競争の自由、この場合は広告の自由を無制限に認めると、患者(広く消費者)の意思決定を歪めるおそれがある。

 

<質問> 医師(開業医)あるいは病院等が、全く自由に診療内容、施設、スタッフ紹介、過去の診療例などを自由に広告で出すことを認め、自由競争に委ねた方が、患者の利益にもなるという意見についてどう考えるか?

 上記について一定の制限をした方がいいとした場合、患者の立場も考慮し得る厚生労働省によって医療法などで明記すべきか、医療の現場をよく知っている事業者団体に委ねるべきか?

 

 広告は、競争の1手段。これについての相互拘束は、不当な取引制限に当たる可能性がある。しかし他方で、自由に委ねると、不当表示も頻発するおそれがあり、これを独禁法によって公取委がすべて規制することは事務能力からも不可能。

 また、不当表示ではなくとも、不適切な表示、勧誘方法が様々に行われるおそれがあり、それを予防することも必要。患者は、これらの表示その他の勧誘方法について冷静・適切に判断できない場合も多い。

 したがって、一定の規制は必要であり、消費者の利益になる。

 その手段は、すべてを国(行政庁=公取委や厚生労働省、消費者保護のための諸機関)に委ねることは不可能。一部は、事業者団体に委ねざるを得ない。しかし、これも事業者の利益だけに考慮したり、事業者の一部の者(ここでは既存の医師、病院・診療所)だけに有利な規制を行うおそれもある。

透明性を確保し、しかも、不適切な表示、勧誘方法を防止するために、ある程度・範囲で広告規制をかけることにも合理性が認められ、その規制の適否は個別に判断・評価せざるを得ない。

 

6節 入札談合(公共的入札ガイドライン)

 談合=「入札に際し、競争に加わろうとするものが、事前に相互に相談し、その中の一者に落札するように約束すること。入札の目的である競争を消滅させるものであるから、独占禁止法上の不当な取引制限に該当する。一定の取引分野の解釈によって、一回の談合でも該当するか、組織的・継続的談合の場合にのみ該当するかの対立がある。」(『法律学小辞典』有斐閣)

 

公共入札は、会計法・地方自治法の要請-----発注者である国・地方自治体・特殊法人と受注者である私企業との不当な癒着を防ぎ、また競争の中でなるべく有利な取引条件で契約することができるはずであり、それが国等の最小限のコストをもたらす、という立法趣旨

 法律上は指名競争入札でなく、一般競争入札が原則であるのに、品質・信用を理由として指名競争入札に付されることが多かった。これは「談合やむなし」、競争への信頼の欠如、という発注者の誤った意識を示している。この点は、談合事件を契機とし多くの批判を浴びて、徐々に一般競争入札に変わりつつある。

 

 通常は、同一の発注者(事業団、国、県、市町村など)、あるいは同様の工事(知己、工事の種類など)について、談合組織が形成され、「基本合意」が成立し、それに基づいて、個別の入札について「個別合意」によって、落札者が決定され実施される。その過程で、予定価格をにらんで、各参加者の入札価格が調整されることが多い。

 この場合は、「一定の取引分野」は、「基本合意」の対象となる工事群となるが、稀には、1回だけの入札についての「個別合意」だけで談合が行われる場合もあり、この場合には、当該入札だけで「一定の取引分野」が形成されたと解される。

 「競争の実質的制限」は、談合によって落札者が決定されるのであるから、当然肯定される。

 

クボタほか2名によるダクタイル鋳鉄管談合事件・公取委勧告審決平成11422日(判例百選・第6版)44---資料6

この刑事事件は、教科書318頁参照。

 

<質問> 公共的入札についての談合がどうして蔓延しているのか どうして終わらないのか、どういう構造なのでしょうか。

<質問> 自由競争に委ねると、不良工事が増え、これは事故などがないと発見し難いから、指名競争入札と談合で適正な利益を保証した方が結局は国民の利益になる、という意見は正しいか?

 

会計法・地方自治法は、「一般競争入札」を原則としているが、実際には今でも「指名競争入札」が多い。指名される事業者は少数であり、発注者から指名をとるために、受注者の方が取引上従属的な関係になりやすい。しかし、近年は、談合の予防のために、一般競争入札を採用することが多くなっている。

ただし例外的に、特定の事業者しか受託・販売できない場合は、「随意契約」も認められる。

 したがって、法律上の原則は、事業者間の価格競争を通じて、最も安価な入札をした事業者が落札する仕組み。

 これらの法律の対象となる主体は、国・地方公共団体の他、特殊法人(道路公団等)も含まれる。

 対象となる契約は、これらの主体が発注または調達する、公共工事、物品、コンピュータ・システムなどすべて。

 しかし、実態としては今でも、おそらく多くの発注・調達は、事業者間の「談合」によって行われていると推測される。

 談合は、独禁法のカルテル禁止の対象となり、毎年、20から30件の違反事件が公取委によって摘発され、課徴金が課されているが、それでも談合は闇の中で継続されている。



2回(060929)「不当な取引制限 その2」

 

1.行為要件-----「相互拘束」・「共同遂行」

2)通説は、当事者は、相互に競争関係にある事業者に限られるとする。ただし、「実質的に競争関係にあった者」であれば足りる →「ヨコのカルテル」に限る。

シール談合刑事事件・東京高判平成51214日・審決・判例百選(第6版)36---資料2

 

 少数説は、実質的に競争関係になくとも、例えば、新聞発行本社と販売店で、共同して競争制限する場合も含むとする → 「タテのカルテル」も違法。

 

新聞販路協定審決取消請求事件・東京高判昭和2839日・審決・判例百選(第6版)34---資料3

<質問> 本事件を例にとって、通説と少数説では法の適用でどう違ってくるかを考えよ。

 

(3)寡占市場における協調的行為

「意思の連絡」を示す直接証拠がなくとも、間接証拠による「意思の連絡」の推認ができれば、合意ありとする。

実際は同じことであるが、少数説では、共同性を推認できれば「共同遂行」ありとする。

間接証拠----事前の情報交換 +「行為の外形的一致」=「相互拘束」・「共同遂行」

これに対し、price leadership, conscious parallelismなどは、事前の情報交換の証拠がなく、結果として「行為の外形的一致」があるに過ぎない場合であるから、不当な取引制限には当たらない。

しかし、実際に、意思の連絡や少数説における「「共同の認識」もないのに、上記のように「行為の外形的一致」だけがあるということはあり得るか、疑問もある。多くは、共同性の証拠がないだけのケースであろうと推測される。

 

2.市場要件???「一定の取引分野における競争の実質的制限」

(1)「それ自体違法」の原則とその修正

a.     「ハードコア・カルテル」-----価格カルテル, 数量カルテル、市場分割、入札談合

米国では、「それ自体違法」の法理。

不当な取引制限をなす当事者の目的は、この競争制限それ自体であり、私的独占や合併などのように他の事業目的を持つ可能性のある行為ではない。

また、競争制限の効果をもたらし得ない、すなわち実効性のない共同行為は、部分的に行われてもすぐ崩壊してしまう(カルテルの不安定さ)。

したがって、共同行為が実効性をもって行われれば、それは既に「一定の取引分野における競争の実質的制限」があることを示すものといってよく、後者について別個の立証は不要であると解される。米国におけるカルテルの「それ自体違法」の原則は、日本法における立証についても上の意味で妥当する。

b.     非ハードコア・カルテル----品質・規格カルテル(製品制限)、技術開発カルテル、特許プール

シェア、参加事業者が有力であるか否か、商品・役務の差別化等から競争の実質的制限の有無を判断。

これらは、一定のビジネス・リーズン(事業目的)があることもあり、競争に与える効果についても競争を減殺または制限するか否かの判断は個別具体的に行われる必要がある。

 

日本の独禁法の解釈としては、上のa.b.の区別は、そのままでは取り入れられていず、ハードコア・カルテルの場合でも、非ハードコア・カルテルと同様に、競争の実質的制限を立証する必要がある。しかし、その立証の際には、上のa.b.の区別は意味があり、上記の立証の仕方を参考にすることができる。

それと並んで、上のa.b.のいずれの場合であろうと、競争の実質的制限の立証の際には、共同行為に参加する事業者のシェアが50%を越える場合には、通常、本要件を充足する、とされる。

なぜなら、シェアが50%を下回る場合は、アウトサイダーの競争圧力が強くて、カルテルは実効性を持ち得ないのが通常であるから。

「競争の実質的制限」に当たるか否かは、シェアが大きな手掛かりであるが、その他、市場参加者の取引力、需要者の選択の実際上の幅がどれだけあるか等の各市場における競争の実態を総合的に評価しなければならない。

 

日本遊技銃協同組合事件・東京地判平成949日(判例百選・第6版)110---資料4

ここでは、法律上の安全基準よりも、事業者団体が定めた自主基準が厳しい基準である場合、これに違反した商品を販売する事業者を事業者団体が販売業者に圧力をかけて共同ボイコットさせた行為は、「競争の実質的制限」になるかが問題となった。

これも非ハードコア・カルテルの例(品質カルテル)であるが、競争事業者間で拘束し合うだけでなく、販売業者に圧力をかけ、アウトサイダーを排除した点で、反競争性が強い。

 安全を理由としたカルテルには不当性はないか----これは前期の「経済法1」で扱った「公共の利益」の解釈、「保護に値する競争」または「実質的違法性」論とも関係する。

 

<質問> 安全を理由としたカルテル、上記事例での自主基準は、製品の品質についての競争を実質的に制限するものではないか。

 

 自主基準が、社会的に妥当なものであり、かつその実施の方法・態様も妥当(必要最小限の拘束)であれば、それが競争の基準(ミニマム・スタンダード)として機能することが期待される。すなわち、その基準の下で競争が有効かつ公正に行われれば、「競争の実質的制限」はなく、独禁法上何の問題もない。

自主基準による拘束を、「公共の利益」の解釈で、これに当たらないから、2条6項に該当しないということもあり得るが、通説は、「公共の利益」を自由競争秩序の維持それ自体であるとするから、これは難しい。しかし、「公共の利益」ではなく、上記のように、「競争の実質的制限」に該当しないとすれば、この種の自主基準を認めることができる。

 

<質問> プロ野球におけるドラフト制度は、新人選手の獲得競争を制限するものであり、違法なカルテルではないか。

 

各球団は「事業者」であり、不当な取引制限の「相互拘束」の形態を取っている。しかし、ドラフト制度の目的が球団間の競争を実質的に促進するためのものであり、その実施の方法・態様も妥当(最小限の拘束)であれば、上の問いと同様に是認される。

 

(2)カルテルの実施と競争制限の関係

合意が成立すれば、その時点で、当該市場の競争は実質的に制限される(=市場支配力が成立する)から、その合意が実際に実施される前であっても、不当な取引制限は行われたと解される(刑事罰においても既遂)。

もっとも、実際には、ほとんどの事件では、実行された後で独禁法違反として摘発・処理される。


1回(060922)「不当な取引制限 その1」

レジメは、各回の講義の後、若干の修正をした上で、下記のウエッブサイトに掲載。

1.私の個人ホームページ: http://www.pluto.dti.ne.jp/~funada/

または、立教大学案内学部・大学院法学部StaffFunadaHomepage

2.   大学のイントラネット(V-Campus)→サイバー・ラーニング( http://cl.rikkyo.ne.jp/cl/2006/

講義の進め方等については、前期の「経済法1」のホームページを参照。

「経済法1」は、教科書第3章まで、「経済法2」は、第4章以下。

 教科書= 根岸哲・舟田正之『独占禁止法概説』(有斐閣、第3版、2006年)

 

第四章 共同行為の規制

第2節 カルテル=不当な取引制限(独禁法3条後段、2条6項)の禁止

・カルテルとは? ----- 典型は、競争事業者間の協定によって、価格等の取引条件について相互に拘束し、あるいは共同歩調をとることによって、市場における競争を制限する行為。

 

・私的独占との違い

私的独占も、市場における競争を制限する効果をもつ点ではカルテルと同様。

しかし、私的独占の中心的行為態様は,その行動を決定する主体が一元的である〈単独者または「固い結合」をした複数の企業〉であるのに対して,カルテルの場合は、これに参加する複数の企業が、独立の意思決定の主体として存続する〈「ゆるい結合」〉である点に違いがある。

 

・カルテルの不安定性

競争しつつある企業間の利害を調整することは必ずしも容易ではない。また仮にいったん利害が調整されて価格カルテルが成立したとしても,各企業にとってはカルテル価格を多少とも下回る価格で販売量を拡大しようとする誘因が存在する。カルテルに参加している企業のうちのいずれかの企業がこのような誘因から価格を引き下げれば,他の企業もこれに追随する結果,カルテルは崩壊する。

 

・カルテルが成立・存続しやすい条件

1. 企業の同質性

製品が同質である(製品差別化の程度が低い)こと,企業数が少数であること,各企業のマーケット・シェア(市場占有率),費用条件,製品構成(多角化の程度)の差異が小さいこと。

2. 企業の環境条件の安定性

需要の成長・変動が小さいこと,需要の価格弾性値が小さいこと,技術進歩など費用条件の変化をもたらす機会が乏しいこと,参入障壁が高いこと,カルテルに参加しないアウトサイダーが存在しないこと,

3. カルテル維持のための各種の仕組み

カルテル参加企業の行動を監視し協定に違反する行動に対して制裁を課す。

アウトサイダーに対して略奪的価格引下げやボイコットなどの排他的行動をとる。

 

・カルテルの例

1. 価格の下限を設定するカルテル(=価格カルテル)

→ 私大の授業料カルテル(かつて噂があった。流通経路がないケース)、

ガソリン・灯油あるいは新聞の価格カルテル(大衆消費財で、流通経路があるケース。前記の「経済法1」で取り上げたのは、石油カルテル刑事事件=最判昭和59224、独禁法審決・判例百選(第6版)258頁以下

鉄鋼の価格カルテル(これもかつて噂があった。中間財、多くは大企業間の取引)

2. 数量調整カルテル

 → 石油生産調整刑事事件=東京高判 昭和55926

3. 入札談合(公共入札という独特の制度に乗ったカルテル)

→ 前記の「経済法1」で取り上げたのは、防衛庁石油製品談合事件=最判平成17年11月21日(有罪確定)

 

<質問> カルテルの被害者は誰か---取引の相手方、アウトサイダー、行為者自身?

戦前の日独の「カルテル王国」の歴史が教えること---

a.     非効率な事業者も「業界協調」の名の下に温存

b.     買い手側に不利益を押しつけ、これは転嫁、伝播する傾向=「カルテルの波及性」

c.     カルテル下の国際競争はダンピング競争(通常、内外の差別価格を伴う)と「カルテルの輸出」または市場分割(各国・各企業の「権益」確保)へ向かう傾向

d.     業界ボス、政治との不透明な癒着(カルテル参加者間の利害対立、不安定さから、調停者が必要)

 

1.行為要件-----「相互拘束」・「共同遂行」

1)「相互拘束」と「共同遂行」の関係

通説は、両者は同一の行為を指しているとする。

「相互拘束」における拘束は、例えば契約書に明記された法律上の拘束である必要はなく、事実上の拘束で足りる。

その違反に対する制裁がない場合でも、合意には拘束性が内在しているのが通常であるから、原則として拘束に当たる(法諺「合意は拘束する」)。

新聞「紳士協定」事件。

  通説は、「相互拘束」の中身として、「意思の連絡」=合意を要件とする。

ただし、「黙示による意思の連絡」で足りる。

東芝ケミカル事件・東京高判平成7925日・審決・判例百選(第6版)40--資料1

 これに対し、少数説によれば、「共同遂行」には、拘束は必要なく、行為者が主観的に共同性を有して、共同行為をなせば足りるとする。

これによれば、「共同の認識」で足り、合意の立証は不要。日本の独禁法の要件の立て方は、米国と異なる。実態としても、欧米型の「契約社会」ではない。

ただし、「共同遂行」だけで要件を満たすとした判決・審決はまだない。

さらに、通説は、「暗黙の合意」(=「黙示による意思の連絡」)も相互拘束に当たるとするから、少数説と実際上の違いはそれほどはない。ただし、合意の立証を厳しく要求する解釈では、異なることがあろう。