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「経済法」は、一般の人にはあまりなじみのない法分野でしょう。憲法・民法・刑法などの基本的な法分野は、近代市民法の形成以来の長い歴史を持っていますが、経済法は、労働法や社会保障法などと同様に、第1次世界大戦頃から現れた新しい分野で、現代経済に特有の法現象です。
わが国も他の多くの諸国と同様に、資本主義経済体制の下で、各経済主体の自由な活動を基本としています。しかし現実には、企業と消費者、大企業と中小企業など、社会的経済的機能や経済力が異なる多様な経済主体があり、「公正かつ自由」な取引と競争という理念は必ずしも実現していません。
このような実態に対応して、取引・競争に関するル−ルを決めておかないと、社会的に不当な取引や、厳しい競争を避けるためのカルテルなど、反競争的な行為が広く行われるおそれがあります。例えば、食品などの原材料を消費者がよく分からないまま選択するのでは、公正な取引とは言えないので、消費者に分かるように表示させるル−ルが必要です。また、公共工事の入札におけるいわゆる談合や、証券会社による不当な損失補填などが広く行われ、大きな社会問題になったことは、まだ記憶に新しいところでしょう。
そこで、独占禁止法や、消費者保護のための各種の規制法などによって、取引・競争の自由と公正さを確保することが必要になるのです。「経済法」とは、独占禁止法を中心とし、その他の各種の個別的規制に関する諸法を含んだ法領域であり、これを対象とする「経済法学」はきわめて現代的な課題を扱う学問だと言えましょう。
私が大学4年生の頃(1969年)は、日本の高度成長期の真っ最中で、そこから様々な社会的な歪みや構造的な問題が起きつつありました。「学生の反乱」とも呼ばれた学生の反権力闘争が激しく行われていた時期です。私も含め学生の多くは、政治のみならず、企業風土ないし企業文化に対しても反感を持っていました。当時既に水俣などの公害問題が明らかになりつつあり、企業間の取引においては、例えば「下請けいじめ」と呼ばれるような、経済力の濫用がおおっぴらに行われており、また会社の内部でも、会社員を丸ごと会社が抱え、人格的にも支配するような企業風土が当然視されていました。
ところが、商法や労働法の講義を聞くと、「会社」制度には、株主の意見を反映する制度や、不正行為を防止する数多くのチェック機能が用意され、労働者の権利も確保されています。また、経済学が教えているように、自由競争が有効に機能すれば、企業努力と革新的な工夫に優れた企業が競争の中で正当に評価され、また、優れた安い商品を選択する消費者の評価が決定的だという意味で、「消費者主権」が自動的に実現されるはずです。このように、会社制度や市場経済の仕組みは、個々の株主・労働者・消費者に対し、一定の権利を保障し、様々な利害対立を議論や競争の中で活かしていこうという、極めて「経済民主主義」的な性格を持っています。
経済法は、このような企業社会の仕組みをわが国の実態とのかかわりの中で実定法化し、前述のような様々な病理的現象に対応する法ですから、「経済法学」は、個々の不公正な取引などの実態認識を通じて、資本主義体制の理念を根底から問いなおす学問だと言えます。一方で、個別の取引の実態を具体的に知る作業、他方で、法の理念を常に問いなおす作業という、両極の間の往復が、この学問分野の魅力だと思います。
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戦後50年を過ぎ、日本は「経済大国」になったと言われますが、その間に企業・行政・政治の各内部構造とそれらの相互関係は、硬直的な「制度疲労」に陥り、現在の技術革新と国際経済の動きに対応できなくなっているのではないか、また、不正行為の温床になっているのではないか、などの指摘がなされ、全体の制度の見直しをすべき時期に来ていると考えられます。
特に、多くの産業を保護し規制している今の「規制大国」的状況を変える必要があるとして、「規制緩和」が強く主張されています。政治や行政による規制ではなく、各経済主体の自由と競争原理を基本とする経済システムに変えることで、より「開放的」でダイナミックな社会を作ることが展望されるのです。
しかし他方で、公正な競争を確保するための、各産業の特性をふまえた微妙な仕掛けがないと、今のロシアのような混乱を生むおそれがあり、例えば、証券取引法の強化によって、インサイダ−取引を規制するという制度改正が必要になります。また、電話や電力など、まだ独占的要素が強い分野では、独占力の濫用を防止し、競争を促進するための制度的工夫が様々に凝らされようとしています。さらに、先に表示の例を挙げましたように、消費者取引の場合には、企業の自由に委ねると、かえって消費者の利益を害する危険が生じるなどの具体的な考慮も要請されます。
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「経済法」学は、現実の経済でなされている取引・競争の実態を、実質的な意味での「自由」と「公正」という観点から検証しようとする学問ですから、まず取引・競争の実態を的確に知ることが大事です。
したがって、概説書や教科書より、新聞や雑誌などに親しむこと、そして、毎日の買い物などでも、表示が適切かなどに気をつけ、故障の際などには販売店にきちんとクレ−ムをつけてはどうでしょうか。
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「石油カルテル、最高裁が有罪判決」
昭和48年の石油危機を背景に石油元売り各社が、石油製品の値上げカルテルをしたことが、公正取引委員会によって独禁法違反としてカルテルの破棄が命じられ、同時に、石油会社役員に対する刑事罰の可否につき、最高裁は、昭和59年2月24日、有罪判決を下しました。
本判決は、独禁法違反行為に対し刑事罰が課された初めての判決として重要な意味を持っています。また本件は、長年にわたる通産省の石油産業に対する規制が問われたという面も持っていたのですが、判決は、この値上げは通産省の行政指導に従っただけだという被告の主張を斥けました。私は、判決当日の新聞の判決批評で、行政指導に関する判断が不明確と批判しましたが、驚いたことに、その見出しは、「行政指導の範囲明確に」となっていました。
新聞も、間違うことがあり、よく読まなければアブナイという例です。
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