法学の世界”消費者と法”
11 | 試験問題(問題と解答のポイント) | |
10 | 「二.消費者と契約 その7」 | 第10回(060630) |
9 | 「二.消費者と契約 その6」 | 第9回(060623) |
8 | 「二.消費者と契約 その5」 | 第8回(060609) |
7 | 「二.消費者と契約 その4」 | 第7回(060602)連鎖販売業・・・・ |
6 | 「二.消費者と契約 その3」 | 第6回(060526) |
5 | 「消費者と契約 その2」 | 第5回(060519)クーリング・オフある一定の状況の下で契約を締結した者に,法定期間内に限り,契約を解消することを認める制度・・・・ |
4 | 「消費者と契約 その1 」 | 第4回(040512)二.消費者と契約・・・ |
3 | 「法とは何か(続々) 公法・私法・社会法」 | 第3回(060428)近代社会は、歴史的には,国による暴力の独占と、中間団体の排除を特徴とする。・・・・ |
2 | 「法とは何か(続) 例:自白の無理強い」 | 第2回(060421)<今日のケース 勾留の決定・期間,接見交通権の制限> |
1 | 本講義の進め方について 法と社会生活 |
教科書をそのまま読むことはしない。その重要な点を示し、また補足説明をする。 →第1回(060414)法と社会生活 |
2006年度 「消費者と法」試験問題
一.以下の各設問に簡潔に答えなさい。
(1) いわゆる「クーリング・オフ」とは何か(配点20点)
・ 「クーリング・オフ」の意味----15点
特定商取引法などにおいて、訪問販売など一定の類型の取引形態の場合、ある一定の状況の下で契約を締結した者に,法定期間内に限り,無条件で、契約を解消することを認める制度。
・ 「クーリング・オフ」の目的や種類-----5点
不意打ちで勧誘され、判断する時間もなく契約した場合、消費者を保護しなければ不公平なときがある。そのための「消費者が一方的に契約をやめられる制度」である。
この制度があることで、販売業者が不当な勧誘行為を抑止する、という効果も期待される。
クーリング・オフには、「法律で設けられているもの」と「業界や個別の業者が自主的に設けているもの」がある。
(2) 今年4月から施行されている公益通報者保護法は、企業、国・自治体、その他の法人(大学など)の不祥事を事業者内部の者による内部告発によって社会的に明らかにすることを目的としている。
Aさんは、取引先であるB会社の商品が海外から輸入されているにもかかわらず、国産品と表示されていることに気づき、ある新聞社にこの事実を知らせ、その記事によってこの事実は広く知られるところになり、Bは違法行為を行ったとして行政処分を受けた。Bは告発者がAさんであることを突き止め、その報復として、Aさんとの取引を停止した。
Aさんは、公益通報者保護法によって何らかの保護を受けることができるか。理由を付して答えなさい。(配点20点)
・ 本法の保護対象は労働者に限られる(2条参照)から、本法によっては保護を受けられない。----15点
→ 狭すぎないか? 雪印事件では取引先から偽装についての情報が漏れた。
・ 通報する順番が、以下のように規定されていることからも保護を受けられない。まず第一に、当該労務提供先等、第二に、行政機関、第三に、更に厳しい要件の下で外部への通報(同法3条等)。-----5点
→ これも不当に厳しすぎる。まず当該労務提供先等に通報すべきという要請は実態にそぐわない。本件のように、新聞社などの外部に通報した場合も正当な保護を与えるべきである。
二.以下の設問につき、理由を付して答えなさい。(配点60点)
Aさんは、業者Bから、パソコンと教材ソフトを購入し研修を受ければ、自宅でできる入力業務を紹介すると勧誘されて、それらの代金50万円と研修費5万円をクレジットで分割払いすることにし、研修を受けた。しかし、仕事は全く紹介してもらえないうちに業者Bが倒産し、行方不明となってしまって、商品を返還できず、損害賠償も請求しようがない。あとで調べると、パソコンと教材ソフトは通常は25万円にしか相当しないことが分かった。
Aさんは、クレジット会社からの支払請求を拒絶できるか。
なお、この契約は、特定商取引法における「業務提供誘引販売契約」に当たる。
解答のポイント
結論は、Aさんは、クレジット会社からの支払請求を拒絶できる、を正解とする。
問題は、その理由付けである。
(1)仕事を全く紹介してもらえない → 特定商取引法58条の2第1項の規定する、不実のことを告げる行為をしたことに当たるから、取消しができる。
これに対し、「不実」かどうか、微妙な場合はどうするか、という疑問も出るであろう。民法の解釈では、動機の錯誤にすぎない場合、「内職を紹介するように努力します」、というだけの場合は、救えない。しかし、ここでは業者Bが最初からAさんらをいわば騙して雲隠れした、という悪質なケースを想定している。そして、実際に起こった多くのケースはこれと同様である。
そこで、特定商取引法51条1項の定義規定では、「業務提供利益----を収受し得ることをもつて相手方を誘引」すれば足り、業務提供が具体的に約束された契約内容であることは不要であると解されている。
実際には、内職をしたいという消費者が50万円以上の大金を投資するのであるから、「努力します」など言うだけではなく、より巧妙、強力に誘わないと消費者を誘引することはできないであろう。それらの場合も消費者を救済しないと意味がないのである。
なお、この取り消しは消費者契約法4条1項2号でも可能である。ただし、特定商取引法には、困惑・断定的判断提供の類型がない、不利益事実の不告知はない、という差異がある。
業者Bの行為が、民法上の債務不履行に当たるかは微妙。パソコン、ソフトの売買契約については、対価の不均衡(不当に高額)ということはあるが、履行は行われている。
こういうパターンの契約において、契約の動機となった事柄(仕事がもらえる)が実現されなかった場合に、契約全部の効力を否定しようとすると、動機の錯誤詐欺取消し等、民法がもっている道具では、どれも「帯に短し、たすきに長し」というわけで、特定商取引法、消費者契約法等の特別法が制定された、という経緯がある。
そこで、Aさんは業者Bに対し、民法のことはさておき、特定商取引法による契約の取消しをすることができるとし、あとは次に述べる(2)の点を考えれば足りるとしておく。
なお、契約を取り消した場合、その契約は最初から無効であったことになり、契約をしていない状態に戻る。
これとともに損害賠償を請求するためには、別途、法律上の根拠が必要である。ただし、消費者は、本件のような悪質なケースでは不法行為によって損害賠償を請求することができる場合も多いであろう。
(2)割賦販売法による「抗弁の接続」
Aさんは業者Bに対し、特定商取引法による契約の取消しをした場合には、既払代金(研修費5万円と、パソコンと教材ソフトの代金50万円)の返還を請求できる。(A・B双方に原状回復義務が生じる)
業務提供誘引販売業者が仕事を提供したり、あっせんすることについての契約と、そのための商品の売買契約や研修などの役務の提供契約は、それぞれ別個の契約ではあるが、実態からは密接に関連しており、取引としても一体の契約と捉えるべきものと説かれている。(例えば、大阪高判平成16年4月16日)
したがって、仕事を提供したり、あっせんするとされていた業務がその約定通りに履行されない場合には、その義務の不履行を理由として商品の売買や役務の提供契約を解除できる(最高裁判決・平成8年11月12日判タ925号171頁参照)
業者Bは行方不明であり、Aさんには、クレジット会社に対する債務だけが残っている。しかし、Aさんは、下記のように割賦販売法によって、業者Bに対して有している抗弁をクレジット会社に対しても主張できる。
パソコンは割賦販売法の指定がされている(割賦販売法施行令1条1項、別表第1、41号)。
本件は、「割賦購入あっせん」(割賦販売法2条3項)に当たる。これは、2ヶ月以上かつ3回以上に分割して支払いを受ける場合に限っているなどの制限があるが、細かすぎるので、講義ではクレジット分割払いとして大雑把に説明したところであるから、「割賦購入あっせん」→ 「指定商品若しくは指定権利又は受領する指定役務に係る第三十条の二第一項第二号又は第五項第二号の支払分の支払の請求」(割賦販売法30条の4第1項)→ 割賦販売法30条の4によって抗弁の接続が認められる、として議論を進めてよい。
なお、本問のように業者が逃げた場合でも、取消しの意思表示は到達しなければならないので、公示送達をするか(民法98条)、また、Aさんは業者Bにパソコンを返却しなければならないので、どうするかなど本件の後始末にはいくつかの難問があるが、解答でこれに触れる必要はもちろんない。
第10回(060630) 「二.消費者と契約 その7」
7.割賦販売法( 第8回(060609)の補足)
「割賦購入あっせん」と「抗弁の接続」について補足説明(割賦販売法30条の4)
公益通報者保護法による保護の内容(同法3条、5条)
特定継続的役務提供契約における契約の解除(特定商取引法49条)
業務提供誘引販売契約における契約の解除(同法58条)
消費者団体による差止請求
消費者契約法の一部を改正する法律案(2006年通常国会提出)
http://www.cao.go.jp/houan/164/164-2gaiyo.pdf これは既にコピーを配布済み
成立、H18. 5.31
第164回国会(常会)(平成18年1月20日〜平成18年6月18日) で成立した法律
http://www.gov-online.go.jp/theme/11_horitsu/horitsu_164.html
このサイトは、以下の「政府公報オンライン」から、「第164国会で成立した法律」を出せば出てきます。
「契約の履行と不履行」
教科書(『現代法学入門』)
§5 財産関係と法 4.取引の手段としての契約
このうちの「契約の履行」154頁を条文集に沿って補足説明。
また、契約関係にある事業者・消費者との関係において、上記の契約責任だけでなく、不法行為(民法709条)が用いられることがあることを説明。
第9回(060623) 「二.消費者と契約 その6」
最終授業日(7月7日)に筆記試験。
参考となる法律の条文をコピーしたものを配布。したがって、条文を暗記する必要はない。しかし、事前に読んでおかないと、どこにどんな条項があるかなど見当がつきにくいであろう。
採点はしっかり読んで行うので、読みやすい字で書いて欲しい。
客観的な採点基準も公開する(あとでホームページに掲載)。諸君は、自分が書いた答案と、掲載された採点基準を付き合わせれば、自分の答案の評価について見当がつくであろう。
それでも採点に疑問があれば、十分な根拠を書いて調査依頼を提出すること(単に「納得できないから、答案を見直して欲しい」というのは不十分)。
私の個人ホームページ http://www.pluto.dti.ne.jp/~funada/
2003年度前期「経済法1」
http://www.pluto.dti.ne.jp/~funada/kougi-zemi2003.html#採点結果
一.以下の各設問に簡潔に答えなさい。
(1) 「特定商取引に関する法律」によって、「電話勧誘販売」に対する規制が強化され、勧誘する者の氏名、販売業者名、「契約の締結について勧誘をするためのものであること」等を告げなければならない、「不実のことを告げることをしてはならない」、「人を威迫して困惑させてはならない」等の規定や、いわゆる「クーリング・オフ」の規a定が整備された。
これは規制緩和の流れに逆行し、消費者の「自己責任」をあいまいにするものではないか? 本規制の根拠や、その妥当性について、各自の意見を述べなさい。(配点30点)
以下、採点のポイントは省略(前記のサイトを参照)。
・規制の根拠-----情報力、交渉力の格差
交渉力については、競争が十分働いていれば、消費者も比較しつつ選択できるから、事業者が一方的に交渉力において優越しているわけではない、という議論もある。
しかし、取引当事者間の交渉において、実際に説得的なのは、情報力を圧倒的に持っている事業者側であり、これが交渉においても響いてくる(情報力→交渉力)。
* 消費者基本法(昭和四十三年法律第七十八号、最終改正年月日:平成一六年)第一条
この法律は、消費者と事業者との間の情報の質及び量並びに交渉力等の格差にかんがみ、消費者の利益の擁護及び増進に関し、消費者の権利の尊重及びその自立の支援その他の基本理念を定め、国、地方公共団体及び事業者の責務等を明らかにするとともに、その施策の基本となる事項を定めることにより、消費者の利益の擁護及び増進に関する総合的な施策の推進を図り、もつて国民の消費生活の安定及び向上を確保することを目的とする。
吉田尚弘「消費者保護基本法の一部を改正する法律」ジュリスト1275号87頁以下(2004年)
また、法的ルールは、経済的な効率性のみによって正当化されるべきものではなく、我々の社会が維持すべき価値としての公正性(fairness)にも基礎を置いている。「交渉力の格差」は、公正性の観念も包含するものとして理解される。
落合誠一『消費者契約法』(有斐閣、2001年)50頁以下、180頁以下参照。
・ 本法8,9条について
→ 岡田ヒロミ『消費者契約法活用ガイド』岩波ブックレットNo.541(2001年)、32〜39頁配布
8条=免責条項が無効となる場合。
9条=高額な損害賠償額の予定、違約金条項につき、本条所定の限度を超える場合、超過部分を無効とする。
ただし、レンタルビデオの延滞料などは、契約解除に伴わない損害金なので、次の10条が適用される。
大学入学辞退者の学納金返還訴訟が多数ある。
授業料は、入学辞退によって返還されるべきであるが、不返還特約によって、返還されないことが通例であるので、本9条1号により「平均的損害」を超える部分だけ返還される。
入学金は、入学のための準備行為の手数料と解すれば、「平均的損害」とされる手数料を超える部分だけ返還される。これに対し、入学しうる地位の対価であると解すれば、返還は要しないということになる(判例は分かれている)
・本法10条について
第十条 民法、商法その他の法律の公の秩序に関しない規定の適用による場合に比し、消費者の権利を制限し、又は消費者の義務を加重する消費者契約の条項であって、民法第一条第二項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するものは、無効とする。
(1)「民法、商法 その他の法律の公の秩序に関しない規定の適用による場合に比し」。
これは、実質的な意味での民法、商法であり、条約、商慣習法、確立した判例・学説なども含む(「法源」の問題である)。
「その他の法律」には、純然たる民事ルールのみを定める法律、たとえば借地借家法などに限られず、民事訴訟法や各種の業法(たとえば、宅地建物取引業法)も含む。
「公の秩序に関しない規定」とは、任意法規を指す。これに対し、公の秩序に関する規定とは、強行法規を指す。
教科書58頁以下参照。以下は、法律学小辞典より。
1 意義 法律の規定には,当事者がそれと異なる特約をしても,特約が無効となるような規定もあれば,特約が優先し排除されてしまう規定もある。前者を強行法規(又は強行規定)といい,後者を任意法規(又は任意規定)という〔民91参照〕。
2 強行法規 強行法規は公の秩序に関するものであるから,公法上の規定の多くが強行法規であるが,単なる取締法規(→ 取締規定)違反(例えば,公安委員会の許可を受けないで風俗営業を営んだ場合)の特約の効力は無効ではない(罰則は適用される)。もっとも,どのような規定が強行法規であり,どのような規定が取締法規であるかは,具体的な規定ごとに,その趣旨などを考えながら判断していかなければならない。私法上の規定でも,身分法の規定とか,物権〔例:民177〕や会社など,第三者の利害に関係する規定は強行法規である。
3 任意法規 任意法規にあたるのは,当事者の合理的意思解釈のために置かれている契約法上の規定の多くである(→ 解釈規定・補充規定)。しかし,具体的に,ある規定が任意法規かどうかを判断することは必ずしも容易ではない。法律上,その規定に反する特約が無効とされている場合〔例:借地借家9・21・37〕は強行法規であることが明らかであるが,そうでない場合には,結局はその規定の趣旨を判断して定めるほかないとされている。
たとえば、民法558条は、「売買契約に関する費用は、当事者双方が等しい割合で負担する。」と規定する。これは任意法規であるから、契約費用を買主の負担とする合意も有効である。
しかし、消費者の全額負担とする合意は、この民法558条に比して、「消費者の義務を加重する消費者契約の条項」である。これが、「消費者の利益を一方的に害する」ものであれば、無効となる、というのが、本条の定めである。
(2)「民法第一条第二項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するもの」
当該条項が消費者の利益を一方的に害して信義則違反とされるか否かは、具体的な契約の中身・形成過程などを総合考慮して判断される。
ただし、本条の対象となる契約条項は、「契約の主要目的に関する条項、または物品・権利・役務の価格・対価に関する条項」を含まない、という解釈が有力のようである。なぜなら、これは契約の本体をなす部分であって、これは基本的に市場における取引によって決定されるべきものであるから、という理由。
消費者に不利益な契約がすべて無効となっては、「消費者取引市場は成り立たなくなるであろう」。落合前掲書153頁。制定過程でもこの趣旨が論じられていた、同15頁。
もちろん、本法とは別に、民法90条(公序良俗違反)、あるいは権利濫用とされて無効となることもあり得る(本法11条1項参照)。
第8回(060609) 「二.消費者と契約 その5」
平成11年には、不当な消費者被害が頻発しつつあったエステティックサロン、外国語会話教室等を「特定継続的役務提供」として特定商取引法の対象に追加(41〜50条)。
○規制対象:身体の美化、知識の向上等を目的として、継続的に役務を提供する取引形態( エステ、語学教室、家庭教師、学習塾)
○規制内容:
・書面交付の義務付け(契約締結前、契約締結時)
・前払取引を行う場合は、財務内容の開示義務(倒産して逃げてしまう事例が多発)
・誇大広告の禁止
・不適切な勧誘行為の禁止(不実告知、威迫困惑行為)
・クーリング・オフ(8日間、中途解約等)
・中途解約時の精算ルール(49条7項)
・「関連商品」---特定継続的役務提供とのセット販売。これにもクーリング・オフ規制をかけ、中途解約の効果を及ぼし、商品売買の解約を可能とする。
・指定法人制度の導入、罰則の強化等
特定継続的役務提供の問題点
1.役務の内容、質の客観的評価が困難。
2.役務の効果も客観的評価が困難。
3.誇大広告、虚偽の説明、過量販売になりがち。
4.長期なので消費者側に事情変更が生じやすいが、契約から離脱しにくい。
5.クレジット契約と結合。
「先取り後払い」のメリットがなく、月謝制の方が消費者に有利。
1.特定継続的役務提供の規制対象に2役務を追加
(1)パソコン教室(2)結婚相手紹介サービス(「結婚を希望する者への異性の紹介」)
なお、上記2役務ともに、2か月・5万円を超える継続的役務を対象とする。
2.新規追加2役務に関する中途解約時の精算ルールの整備
3.新規追加2役務の関連商品
役務契約をクーリング・オフ又は中途解約した場合に解約可能な「関連商品」の範囲を以下のとおりとする。
・パソコン教室 :電子計算機及びワードプロセッサー、書籍、
CD−ROM等の磁気媒体
・ 結婚相手紹介サービス:指輪等の装身具、真珠・貴石・半貴石
6.業務提供誘引販売取引
平成12年改正で、「内職・モニター商法」などの新手の悪徳商法に対応し、仕事を提供するので収入が得られると勧誘し、仕事に必要であるとして商品等を売り、または登録料などの金銭負担を負わせる取引が「業務提供誘引販売取引」として規制対象に加わった(51〜58条の3)。
○規制対象:
仕事を提供するので収入が得られると勧誘し、仕事に必要であるとして、商品等を売り金銭負担を負わせる取引
○規制内容:
・書面交付の義務付け(契約締結前、契約締結時)
・広告規制(一定事項の表示の義務付け)
・不適切な勧誘行為の禁止(不実告知、威迫困惑行為)
・ クーリング・オフ(20日間) 等
・ 商品売買をセットにしているので、これにも規制をかける。
・ クレジット取引における抗弁権の接続(割賦販売法の改正)
【パソコンの内職商法】
「パソコンを購入すれば、パソコンを使った内職をあっせんする」と電話で勧誘され、約65万円のパソコン(学習ソフトとセット)を購入。
勧誘の際は月5〜10万円の収入になるという話だったが、内職のあっせんは少なく、期待していた収入はあがらない。
【着物のモニター商法】
「着物のモニターとして働かないか」と勧誘された。モニターとしての業務は、展示会場での月1、2回の接客業務等との説明。
モニター報酬として着物のクレジット支払額相当額以上を毎月支給するとの約束の下に、自分名義のクレジットで約100万円分の着物を購入した。最初のうちは約束通りモニター料の支払があったが、途中で支払停止。以後、自分で支払わざるを得なくなった。
内職・モニター商法の問題点
1.事業者の債務履行の不確実性
2.破綻の必然性 --- 実態は、自転車操業。提供される仕事、あるいは斡旋する仕事など初めからないので、いずれは破綻する。
【割賦販売法の改正】クレジット取引における抗弁権の接続
消費者と販売業者との間に、上記の特定継続的役務提供や内職・モニター商法に係る物品の販売等に係るトラブル業務の報酬の不払いによる解約等が生じたときに、それを理由に消費者がクレジット会社からの支払請求を拒むことを認める。
抗弁の接続
通常は第三者には対抗できない抗弁を,一定の場合に認めること。例えば,単純な割賦販売により商品を購入した場合,商品に瑕疵(かし)があれば,買主は売主に対して代金支払を拒むことができる。しかし,購入者が信販会社から信用供与を受けている場合には,第三者たる信販会社の支払請求に対して,このような抗弁を対抗できるかという問題が生じる。割賦販売法は,上記のように一定の場合についての抗弁の接続を認めている〔割賦30の4等〕。
販売業者・役務提供事業者、消費者、クレジット会社(信販会社)、という3者間の関係(図)
★図が挿入できませんでしたので省略させていただいています。サイバーラーニングの原稿をご覧ください。
【趣旨・目的】
割賦販売等に係る取引を公正にし、その健全な発達を図ることにより、購入者等の利益を保護し、あわせて商品等の流通及び役務の提供を円滑にし、もつて国民経済の発展に寄与することを目的とする。本法制定当初は、割賦販売取引を始めた百貨店と小売業者の調整を図ることも目的としており、取引秩序法としての性質を有していると言われていたが、その後の諸改正による規制の拡大・強化とともに、特に昭和47年改正で「購入者等の利益を保護し」という文言が追加されて、購入者等すなわち消費者の利益を保護するという性格を持つことがより鮮明となった。
【概要】
本法上の割賦販売には、割賦販売・ローン提携販売・割賦購入あっせん・前払式特定取引の4形態がある。
取引の対象は、政令で定める指定商品・指定権利・指定役務に限られる。
古典的形態として、割賦販売とは、代金又は対価を2カ月以上の期間にわたり,かつ,3回以上に分割して受領する条件でなされた販売又は提供(2条1項1号。個品割賦販売型・総合割賦販売型)を指す。
割賦販売には、上の他、クレジットカードなどの証票等を利用者に交付し,一定の時期ごとに,その証票等により販売した商品・権利・役務の代金又は対価の合計額を基礎としてあらかじめ定められた方法により算定した金額を受領する条件でなされた販売又は提供(2条1項2号。リボルビング式割賦販売型)、もある。
割賦販売には多様な形態があるために、規制内容は複雑であるが、それらの多くに適用される規制として、割賦販売条件の明示(3条等)、割賦販売に係る契約の申込時、契約締結時には、直ちに販売価格、賦払金等の、契約内容を明らかにする書面を交付すること(4条、4条の3等)、法定の契約書面受領後8日間は無条件解約を認めること(クーリング・オフ)(4条の4等)、賦払金の支払義務が履行されない場合の契約解除等の制限(5条)、契約解除に伴う損害賠償、違約金等の額の制限(6条)等が定められている。
訪問販売法における訪問販売・通信販売・連鎖販売業・電話勧誘販売・特定継続的役務提供・業務提供誘引販売取引の6類型すべてに共通して、いわゆる抗弁の接続が認められている(30条の4等)。すなわち、特定商取引法および本法上の規定によって購入者が返品し又は契約を解約した場合、第三者たる信販会社等の支払請求に対して、その割賦販売(クレジット)の支払いも拒絶できるとされている。
8. 消費者契約法(平成12年制定)
以下は、次のウエッブ・サイトから引用した部分が多くありますが、一部は私が修正・補足しています。
http://tantei.web.infoseek.co.jp/ckeiyaku/haikei.html
消費者契約法は、次のような必要性から成立したものです。
1)消費者トラブルや被害の増加
大量の商品やサービスが販売される消費社会の進展は、一方で多くの消費者被害やトラブルを生じさせています。全国の消費者センターに寄せられている相談件数は、年々増加しています。和牛商法、霊視、霊感商法、モニター商法、証券取引被害、変額保険被害など大量で全国的な被害やトラブルになっているものも多くあります。
これらの消費者のトラブルの背景には、事業者と消費者の間の情報力、交渉力の格差の存在があり、それを前提として適正な民事ルールが必要です。
2)規制緩和の進行
日本経済の活性化のためや外国からの要求によって規制緩和が進行しています。金融商品が多様化したり、航空運賃が自由化しているのはその影響のためです。
規制緩和は商品やサービスの多様化や価格・料金の低廉化など消費者に利益をもたらす一方で、問題のある業者、悪徳業者などが参入するなど消費者に不利益をもたらすこともあります。特に規制緩和は消費者に選択を委ね、その選択に責任をもつことを求めています(消費者の自己責任)。 しかし、正しい情報が事前に提供されなければ、選択の前提を欠くことになり、消費者が不利益を受けることになります。
規制緩和は今後さらに商品、サービス、契約形態の多様化・複雑化をもたらします。このような状況のもとで情報力・交渉力がない消費者に選択と自己責任だけを押し付けることは、ますます消費者被害やトラブルを増加させることは明らかです。
自己責任の前提となる情報開示を進め、不公正な勧誘による契約を取り消したり、不公正な契約条項を無効とするルールが必要です。
3)不十分な従来の法制度
現在の多くの消費者被害の救済は、民法の詐欺(民法96条)、錯誤(民法95条)、不法行為(民法709条)の規定や信義則(民法1条2項)などの一般条項を根拠におこなわれています。
しかしこれらは要件が厳格であったり、一般条項であるため、救済されるかどうか予測が難しいなど救済方法としての問題があります。そのため、特定商取引法などの消費者保護法制度が成立してきたのですが、より広くカバーする、消費者契約の特性に合致した民事ルールが必要です。
4)国際的な消費者法制の流れ
消費者契約の適正化のための民事ルールを定めることは国際的な流れでもありました。 1993年に消費者契約の適正化に関するEC指令が採択されて以降は、広い範囲の国々で消費者契約に関する民事ルールの整備が進められてきたという流れがあったためです。
5)公正取引実現のためのルールの必要
行政規制が中心であったこれまでの消費者保護法制のもとでは、事業者も消費者も何が公正な取引であるかの判断を行政に委ねる傾向がありました。今後は事業者及び消費者が自ら判断して、公正な取引を実現していくことが求められます。このための判断の基準となるルールが必要です。そのルールの実現は、消費者取引における被害やトラブルの予防にも資するものとなるのです。
ここで大事なことは、本法が、消費者=弱者を助けるというパターナリズムだけでなく、消費者取引についての合理的な市場環境を整えるという目的・性格を持っている、ということです。
消費者契約法は、次のような特徴により、事業者と消費者にある格差の存在を明確にして、これを前提として包括的な民事ルールを定めています。
1)民事ルール
特定商取引法や割賦販売法、賃金業規制法などは、いずれも行政による規則を主な内容とする行政規制法規です。
これに対して、消費者契約法は民法の特則として、事業者と消費者の間の権利関係を定めるものです。つまり、製造物責任法や借地借家法などと同じく私人間の権利関係についてルールを定めているのです。
2)適用範囲が広い
特定商取引法や割賦販売法は、指定商品、指定役務、指定権利があり、適用範囲に限界があります。賃金業規正法や証券取引法など各種業法も適用される業種に限定があります。
これに対して消費者契約法は、労働契約を除く全ての消費者、事業者間の消費者契約に適用があり、例外のない包括的な民事ルールとなっています。
3)事業者に情報提供の努力義務を定めている(本法3条1項)
構造的に商品やサービス、契約内容の情報を多く持っている事業者は、これらの情報を消費者に十分に提供してから、勧誘したり契約を結んだりするよう努力する必要があることが明記されています。
4)不公正な契約は取り消しが可能(本法4条)
消費者契約の締結にあたって、事業者が不公正な方法で勧誘した場合には、消費者は締結した契約を取り消すことができるようになっています。
重要な事項について間違ったことを言って勧誘したり(不実告知)、将来の不確実な事項について断定して勧誘したり(断定的判断の提供)、消費者に不利な事項を故意に告げなったり(不利益事実の不告知)したときには、消費者はそれによって結んだ契約を取り消すことができます。
また、自宅や職場などに居座って勧誘したり(不退去)、店舗などの勧誘場所に長時間拘束して勧誘して(退去妨害)、消費者を困惑させて契約が結ばれた場合も取消しが可能となります。
5)事業者の免責事項等は無効(本法8条・9条)
本法は、契約条項のうち、トラブルの多い事業者の責任を免除したり、軽減する免責条項と、違約金に関する条項について無効となる場合を定めています。これに反する条項はたとえ定めてあっても無効となります。
6)消費者の利益を一方的に害する条項は無効(本法10条)
信義則に反して消費者の利益を一方的に害する条項を無効とすると一般的に定めています。これによって、消費者との契約において規定されている様々な条項を適正なものにしていく手がかりができたことになります。
消費者契約で被害にあったとき、まず頭に浮かぶのは特定商取引に関する法律です。特にクーリング・オフは消費者にとって有効な救済手段となっています。
そこで消費者被害の救済のためには、特定取引に関する法律を強化すれば、消費者契約法などいらないという議論もありました。
しかし、第一に、特定商取引法が適用される取引形態は、キャッチセールスなど無店舗販売やその他の特定の商取引に限っています。
また、特定商取引法では、適用対象は指定されています。指定された商品、役務、権利や特定の取引に適用が限定されています。
トラブルの問題がおきるたびに適用の対象に指定されるものは増えていますが、後追いとなっています。すべての商品、役務、権利の消費者取引に適用される法律が必要であり、それが消費者契約法です。
第二に、特定商取引法には、クーリングオフ権の行使や継続的サービス取引で中途解約ができるなど若干の規定以外は、事業者と消費者間の契約関係に関する直接の規定はありません。特定商取引法は、基本的には行政規制法規なのです。
これに対して、消費者契約法は、不公正な勧誘行為によって契約した場合などに事業者と消費者の契約関係がどうなるかを定めたもので、当事者間の権利義務を直接定めている民事ルールなのです。
(目的)
第一条 この法律は、消費者と事業者との間の情報の質及び量並びに交渉力の格差にかんがみ、事業者の一定の行為により消費者が誤認し、又は困惑した場合について契約の申込み又はその承諾の意思表示を取り消すことができることとするとともに、事業者の損害賠償の責任を免除する条項その他の消費者の利益を不当に害することとなる条項の全部又は一部を無効とすることにより、消費者の利益の擁護を図り、もって国民生活の安定向上と国民経済の健全な発展に寄与することを目的とする。
(定義)
第二条 この法律において「消費者」とは、個人(事業として又は事業のために契約の当事者となる場合におけるものを除く。)をいう。
2 この法律において「事業者」とは、法人その他の団体及び事業として又は事業のために契約の当事者となる場合における個人をいう。
3 この法律において「消費者契約」とは、消費者と事業者との間で締結される契約をいう。
(事業者及び消費者の努力)
第三条 事業者は、消費者契約の条項を定めるに当たっては、消費者の権利義務その他の消費者契約の内容が消費者にとって明確かつ平易なものになるよう配慮するとともに、消費者契約の締結について勧誘をするに際しては、消費者の理解を深めるために、消費者の権利義務その他の消費者契約の内容についての必要な情報を提供するよう努めなければならない。
2 消費者は、消費者契約を締結するに際しては、事業者から提供された情報を活用し、消費者の権利義務その他の消費者契約の内容について理解するよう努めるものとする。
(消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示の取消し)
第四条 消費者は、事業者が消費者契約の締結について勧誘をするに際し、当該消費者に対して次の各号に掲げる行為をしたことにより当該各号に定める誤認をし、それによって当該消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をしたときは、これを取り消すことができる。
一 重要事項について事実と異なることを告げること。 当該告げられた内容が事実であるとの誤認
二 物品、権利、役務その他の当該消費者契約の目的となるものに関し、将来におけるその価額、将来において当該消費者が受け取るべき金額その他の将来における変動が不確実な事項につき断定的判断を提供すること。 当該提供された断定的判断の内容が確実であるとの誤認
2 消費者は、事業者が消費者契約の締結について勧誘をするに際し、当該消費者に対してある重要事項又は当該重要事項に関連する事項について当該消費者の利益となる旨を告げ、かつ、当該重要事項について当該消費者の不利益となる事実(当該告知により当該事実が存在しないと消費者が通常考えるべきものに限る。)を故意に告げなかったことにより、当該事実が存在しないとの誤認をし、それによって当該消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をしたときは、これを取り消すことができる。ただし、当該事業者が当該消費者に対し当該事実を告げようとしたにもかかわらず、当該消費者がこれを拒んだときは、この限りでない。
3 消費者は、事業者が消費者契約の締結について勧誘をするに際し、当該消費者に対して次に掲げる行為をしたことにより困惑し、それによって当該消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をしたときは、これを取り消すことができる。
一 当該事業者に対し、当該消費者が、その住居又はその業務を行っている場所から退去すべき旨の意思を示したにもかかわらず、それらの場所から退去しないこと。
二 当該事業者が当該消費者契約の締結について勧誘をしている場所から当該消費者が退去する旨の意思を示したにもかかわらず、その場所から当該消費者を退去させないこと。
(事業者の損害賠償の責任を免除する条項の無効)
第八条 次に掲げる消費者契約の条項は、無効とする。
一 事業者の債務不履行により消費者に生じた損害を賠償する責任の全部を免除する条項
二 事業者の債務不履行(当該事業者、その代表者又はその使用する者の故意又は重大な過失によるものに限る。)により消費者に生じた損害を賠償する責任の一部を免除する条項
三 消費者契約における事業者の債務の履行に際してされた当該事業者の不法行為により消費者に生じた損害を賠償する民法 の規定による責任の全部を免除する条項
四 消費者契約における事業者の債務の履行に際してされた当該事業者の不法行為(当該事業者、その代表者又はその使用する者の故意又は重大な過失によるものに限る。)により消費者に生じた損害を賠償する民法 の規定による責任の一部を免除する条項
五 消費者契約が有償契約である場合において、当該消費者契約の目的物に隠れた瑕疵があるとき(当該消費者契約が請負契約である場合には、当該消費者契約の仕事の目的物に瑕疵があるとき。次項において同じ。)に、当該瑕疵により消費者に生じた損害を賠償する事業者の責任の全部を免除する条項
2 前項第五号に掲げる条項については、次に掲げる場合に該当するときは、同項の規定は、適用しない。
一 当該消費者契約において、当該消費者契約の目的物に隠れた瑕疵があるときに、当該事業者が瑕疵のない物をもってこれに代える責任又は当該瑕疵を修補する責任を負うこととされている場合
二 当該消費者と当該事業者の委託を受けた他の事業者との間の契約又は当該事業者と他の事業者との間の当該消費者のためにする契約で、当該消費者契約の締結に先立って又はこれと同時に締結されたものにおいて、当該消費者契約の目的物に隠れた瑕疵があるときに、当該他の事業者が、当該瑕疵により当該消費者に生じた損害を賠償する責任の全部若しくは一部を負い、瑕疵のない物をもってこれに代える責任を負い、又は当該瑕疵を修補する責任を負うこととされている場合
(消費者が支払う損害賠償の額を予定する条項等の無効)
第九条 次の各号に掲げる消費者契約の条項は、当該各号に定める部分について、無効とする。
一 当該消費者契約の解除に伴う損害賠償の額を予定し、又は違約金を定める条項であって、これらを合算した額が、当該条項において設定された解除の事由、時期等の区分に応じ、当該消費者契約と同種の消費者契約の解除に伴い当該事業者に生ずべき平均的な損害の額を超えるもの 当該超える部分
二 当該消費者契約に基づき支払うべき金銭の全部又は一部を消費者が支払期日(支払回数が二以上である場合には、それぞれの支払期日。以下この号において同じ。)までに支払わない場合における損害賠償の額を予定し、又は違約金を定める条項であって、これらを合算した額が、支払期日の翌日からその支払をする日までの期間について、その日数に応じ、当該支払期日に支払うべき額から当該支払期日に支払うべき額のうち既に支払われた額を控除した額に年十四・六パーセントの割合を乗じて計算した額を超えるもの 当該超える部分
(消費者の利益を一方的に害する条項の無効)
第十条 民法、商法 その他の法律の公の秩序に関しない規定の適用による場合に比し、消費者の権利を制限し、又は消費者の義務を加重する消費者契約の条項であって、民法第一条第二項 に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するものは、無効とする。
民法
(基本原則)
第一条 私権は、公共の福祉に適合しなければならない。
2 権利の行使及び義務の履行は、信義に従い誠実に行わなければならない。
3 権利の濫用は、これを許さない。
第7回(060602) 「二.消費者と契約 その4」
物品の販売を行う者が、取引料などの一定の利益(「特定利益」)が得られるとして,当該商品の再販売を行う者を勧誘し,その者と行う当該商品の取引を指す(33条)。
実質的にはネズミ講の変種である,いわゆるマルチ商法を念頭に置いた規制。
販売業者の氏名又は名称、商品の種類の明示(33条の2)、書面交付の義務付け(37条)の他、広告における一定事項の表示の義務付け、誇大広告禁止(35,36条)、不実告知、威迫困惑行為など不適切な勧誘行為の禁止(34条)、クーリング・オフ(40条)等が定められている。
昭和63年改正で、連鎖販売業に対する規制を潜脱する、いわゆる「マルチまがい商法」に対応するために,再販売に加え、「販売あっせん」等が規制対象とされた。
平成16年,連鎖販売取引の中途解約・返品を認める規定など,悪質な訪問販売等に対応した改正が行われている。
単に金銭の授受がなされるだけの無限連鎖講と異なり,連鎖販売取引においては一応は商品(役務)の取引が存在する。それゆえ,連鎖販売取引は禁止はされていないが,実質的には禁止に近い厳格な規制がなされている〔特定商取引34〜40〕。
「無限連鎖講の防止に関する法律」(昭和53年法律101号)。ネズミ講すなわち無限連鎖講がもたらす社会的害悪の防止を目的とする法律。
本法において「無限連鎖講」とは,先に加入した者が先順位者,以下これに連鎖して段階的に2以上の倍率をもって増加する後続の加入者がそれぞれの段階に応じた後順位者となり,順次先順位者が後順位者の支出する金品から自己の支出した価額又は数量を上回る価額又は数量の金品を受領することを内容とする無限連鎖の金品配当組織をいう〔無限連鎖講2〕。
無限連鎖講の開設・運営・加入・勧誘及びこれらの助長行為を禁止し,これらを行った者に対し罰則を科す〔無限連鎖講3・5〜7〕とともに,国・地方公共団体に対し無限連鎖講の防止に関する調査・啓もう活動の任務を課している〔無限連鎖講4〕。
第6回(060526) 「二.消費者と契約 その3」
前回(訪問販売・通信販売)の復習
1) 実体法における規制----特定の行為を違法とし、禁止する規範の設定。
2) 手続法における規制----上記の違反行為に対する制裁(=サンクション sanction、広く、違反行為者に対し不利益を課すこと)の内容・手続等を定める。
a. 民事ルール---一般の民法・契約法の原則の修正。私人間の権利義務を定める。
被害者(消費者)が加害者(事業者)に対し、契約の解約や損害賠償を請求し交渉する際の法的根拠となるが、話し合いが決着が付かないときは、その執行は原則として裁判による(その他、仲裁などもあり得る)。
例:クーリング・オフ、契約解除に伴う損害賠償等の額の制限
b. 公的規制
b-1 法律上の義務づけ---氏名等の明示義務、書面交付義務、不実告知、威迫困惑行為など不適切な勧誘行為の禁止
b-2 上記の義務違反に対する行政庁による各種の措置(特に、行政処分)
b-3上記の義務違反に対する刑事罰----違反者に対する罰則
b-2 行政的規制
指示----7条、第14条、第22条、第38条、第46条又は第56条
業務停止命令----8条、15条、23条その他
本法違反に基づく処分件数----平成17年度 業務停止命令25件、指示58件(前年度の倍)
b-3 罰則---警察が捜査し、検事が起訴、刑事裁判で判決を下し、刑事罰を科す。
例:第七十条
次の各号のいずれかに該当する者は、二年以下の懲役又は三百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
一 第六条第一項から第三項まで、第二十一条、第三十四条第一項から第三項まで、第四十四条又は第五十二条第一項若しくは第二項の規定に違反した者
二 第八条第一項、第十五条第一項、第二十三条第一項、第三十九条第一項から第三項まで、第四十七条第一項又は第五十七条第一項の規定による命令に違反した者
「警察白書」 www.npa.go.jp
特定商取引等に係る事犯
16年中の特定商取引等事犯の検挙事件数は75事件、検挙人員は229人であった。高齢者等を対象に、居宅を訪問して建物を点検し、必要のない修繕工事を行う「点検商法」や、寝具等を強引に売りつける「押し付け商法」が目立った。
表3-9 特定商取引等に係る事犯の検挙状況の推移(平成12〜16年)
★図の挿入ができません。サイバーラーニングをご覧ください。
検挙 = 警察で認知(被害の届出,告訴・告発その他の端緒により犯罪の発生を確認すること)した犯罪について被疑者を特定し,送致・送付又は微罪処分に必要な捜査を遂げること
このうち、どれだけ上記の起訴以下の手続がとられたかは不明(調査不足)。
本法による規制は、上述の諸規定に違反する実例も多いと推測され、実効性があるかは疑わしい。訪問販売や電話勧誘販売などによる被害を少なくするためには、どうすればよいか?
電話勧誘販売が激増した背景には、発信者番号表示その他を利用して、個人の電話番号を事業として収集・蓄積・販売する事業システムがあると推測される。かなり前から存在した、いわゆる「名簿屋」の進化形態であろう。
a.そこで、事業者団体に自主的なガイドライン(=自主基準)を作成させ、本法を遵守させようという政策が採られている。
例えば、社団法人日本訪問販売協会「訪問販売企業の自主行動基準」http://www.jdsa.or.jp/index.html
しかし、このガイドラインの実効性は疑わしいし(違反行為に対する制裁はない)、団体に所属していない群小の中小企業には及ばない。
b. それでは、例えば、本法違反行為のすべてに罰則を実際に科すか?
c. 個人情報保護法の厳格な執行(本法については後で扱う)?
d. 本法をより強力なものとするために、行政庁による「指示」、「業務停止命令」等の行政処分をすべての事案に対し実際に発動するか?
e. さらには、電話勧誘販売を行おうとする者は主務大臣の許可を得なければならないという許可制を採用するか?
それぞれメリット・デメリットがある。例えば、規制のコスト、「規制の失敗」(特に、上記のe.の場合)。
消費者訴訟の特徴は
@ 被害額が小さい
A 被害者が素人で、加害者(事業者)の間に情報の格差があるので、被害の立証が困難。
@ 実損害を賠償させる現行の制度から「懲罰的損害賠償」制度に変更(米国等にある制度)
exemplary [punitive] damages // penal damages // punitory damage // vindictive damage
A 被害者にとって弁護士費用が大きな負担になるため、加害者に損害額以外に被害者の弁護士費用の別途支払いを命じる。不法行為についてはほぼ実現している。しかし、その他の、例えば契約上の債務不履行などについては認められていない。
B 団体訴訟----個々の被害者の損害額が小さいと裁判をしても割りに合わない。しかし、多くの被害者が一緒に訴訟を起こすと被害総額も多くなるので、有能で熱心な弁護士を雇い、消費者団体がそれら多数の消費者にかわって訴訟をする。
団体訴訟とは,本来の権利義務の帰属主体のほかに,一定の団体に一定の団体訴権制度請求権を認め,その請求にかかる訴訟の当事者適格を与える制度。
現在、消費者契約法において、この団体訴訟を認める法案が国会に上程中。
団体訴訟
処分により多数者に共通の利益が侵害される場合において,それらの者が結成する団体が提起する訴訟。訴訟の実質から判断して団体の出訴がふさわしい場合には取消訴訟の原告適格を肯認する見解も有力である。なお,アメリカでは,多数の消費者や投資者の権利をまとめて代表者が訴訟をすることを認めるクラス・アクションが発達し,制度化されている。
「消費者団体訴訟制度 同一事件判決確定後に別団体も提訴可能に」朝日新聞060218朝刊
「不当契約から消費者守れ」朝日新聞050620朝刊
内閣府 第164回 通常国会に提出した法案
http://www.cao.go.jp/houan/164/index.html
消費者契約法の一部を改正する法律案
http://www.cao.go.jp/houan/164/164-2gaiyo.pdf
第三章差止請求
第一節差止請求権
第十二条適格消費者団体は、事業者、受託者等又は事業者の代理人若しくは受託者等の代理人(以下「事業者等」と総称する。)が、消費者契約の締結について勧誘をするに際し、不特定かつ多数の消費者に対して第四条第一項から第三項までに規定する行為(同条第二項に規定する行為にあっては、同項ただし書の場合に該当するものを除く。次項において同じ。)を現に行い又は行うおそれがあるときは、その事業者等に対し、当該行為の停止若しくは予防又は当該行為に供した物の廃棄若しくは除去その他の当該行為の停止若しくは予防に必要な措置をとることを請求することができる。ただし、民法及び商法以外の他の法律の規定によれば当該行為を理由として当該消費者契約を取り消すことができないときは、この限りでない。
C法律上の「推定」規定を設けること
消費者が事業者の不法行為によって損害をこうむったとして、その賠償を請求する訴えを提起する場合、事業者の当該行為の違法性、損害の存在、因果関係、故意または過失を消費者側が立証しなければならない(民法709条)。
しかし、これは困難な場合が少なくない。そこで、特定の規定に違反する行為、例えば、不実告知、威迫困惑行為がなされたことを立証すれば、その他の立証すべき要件(損害の存在、因果関係、故意または過失)は充たされたと推定することが考えられる。
事業者がこれを否定する特別の事実を立証しない限り、後者の要件は充たされたと言うことになる(立証責任の転換)。
つまり、「推定」とは、ある規定の要件事実について立証責任(証明責任ともいう)の転換をなすことである。
ただし、以上は、特定商取引法については実現していない。
D 消費者センターに寄せられる苦情の内容、件数等を裁判で活用
E 共同訴訟の中の選定当事者(灯油訴訟)
共同の利益を有する多数者はその中からある者を選定し、その者を言わば代表者として訴訟を行うこと。共同訴訟の簡潔化をはかることができる。
F クラス・アクション(Class Action)制度(米国の制度)
共同の利益を持つ者の中から、選定行為によって代表者を決めるのではなく、ある者が自分こそ代表者にふさわしいと自ら名乗り出て、裁判所の許可により代表者となるものである。適切な代表者が得た判決であれば、個々的に授権しなかった者(クラスのメンバー)にも判決効が及ぶ。ただし、クラスのメンバーは、クラス・アクションからの除外を申し出ることによって、判決効から開放されることができる手続き上の保障がある。(高橋宏志『重点講義民事訴訟法 下』(有斐閣、2004年)293頁)
クーリング・オフ(『法律学小辞典』有斐閣)
〔英〕cooling-off(period) ある一定の状況の下で契約を締結した者に,法定期間内に限り,契約を解消することを認める制度。熟慮期間・再考期間などと訳されることもある。
1960年代の初頭にイギリスで始められた制度であるが,わが国では,昭和47年の割賦販売法の改正(法72)に際して導入された〔割賦4の4・29の4〕。
その後,特定商取引に関する法律や宅地建物取引業法(昭和27法176),保険業法などにもとり入れられている〔特定商取引9・24・40・48・58,宅建業37の2,保険309,投資顧問17,預託取引8,ゴルフ場等に係る会員契約の適正化に関する法律(平成4法53)12参照〕。
法定期間内ならば理由のいかんにかかわらず行使できる権利であるとされているが,その趣旨は,適正な情報なしに,あるいは,強引に勧められて熟慮せずに契約を締結した者に,自分のした決定に対して再考する機会を与えようというところにある。消費者紛争の解決手段として,非常に重要な機能を果たしているといわれているが,上記のような特別法によって認められている制度であり,消費者契約一般に適用があるわけではない。
なお,民法の一般原則との関係で,いったん成立した契約を理由なしに覆すということをいかに説明するかという難問がある。
東京都消費生活総合センター(飯田橋)/電話03-3235-1155(相談専用)より
http://www.shouhiseikatu.metro.tokyo.jp/s_sodan/c_off.html
<契約とクーリング・オフ>
ふだん私たちは、モノを買ったり、借りたりサービスを受けたりする「契約」をしています。モノを買う場合は「買います」という申込みと販売会社の「売ります」という承諾が一致すれば契約は成立します。いったん成立した契約は守らなくてはいけません。これが契約の原則です。
しかし不意打ちで勧誘され、判断する時間もなく契約した場合、消費者を保護しなければ不公平なときがあります。そのための「消費者が一方的に契約をやめられる制度」がクーリング・オフです。クーリング・オフは消費者が困ったときの切り札と言えます。
ただし、契約の原則の例外ですから、全ての契約に使えるわけではありません。例えば、普通のお店にいって商品を買ったときなどはクーリング・オフはできません。
<クーリング・オフの種類>
クーリング・オフには「法律で設けられているもの」と「業界や個別の業者が自主的に設けているもの」があります。「法律で設けられているもの」は、特定商取引法(旧訪問販売法)によるものが最も使われていますが、クーリング・オフの適用には販売方法、商品・サービス等条件があります。その他、特定商取引法以外の法律にもクーリング・オフ制度があります。ただし、その適用についてはそれぞれの法律によって条件が違います。
また、法律ではクーリング・オフの対象となっていなくても事業者が自主的にクーリング・オフを設けている場合もありますので、契約書をよく確認することが大切です。
では、以下の質問について考えてみよう!
1.訪問販売の場合は、なぜクーリングオフを認めているのか?
2.なぜ店舗販売や通信販売(ネット販売も含む)の場合は、クーリングオフを認めていないか?
3,特定商取引法等においてクーリングオフの規定がないケースで、販売事業者が自主的に無料の解約を認めている理由は?
1. 訪問販売は、@不意打ち性(突然・一方的に勧誘される)、A密室性(録音しない限り、会話の内容は第三者に聞かれない)B勧誘の執拗性、攻撃的な勧誘が効果的、C即決の強要、などの特性ないし傾向がある。
→ 消費者が契約意思不確定なままに契約を締結してしまう。
あとで、意思表示の瑕疵を立証することは困難
そこで、学説等では以下のように説かれている。
@熟慮期間の付与-----書面により正確な情報を提供した後、一定の期間を与えて冷静に考え直す機会を与える。
A不適正勧誘の抑止-----クーリングオフ制度には、消費者を保護するとともに、販売業者が不当な勧誘行為を抑止する、という2つの趣旨がある。
2.通信販売の場合、消費者は、カタログ・広告やホームページをみて品物を確認し、消費者が自発的に購入意志を形成し、個人の自主的な判断に基づいて、電話やEメールなどの通信手段を利用して申込みを行い、売買契約を締結する。
そこには、訪問販売について指摘されたような不意打ち性・攻撃性・密室性が存在しないので、クーリングオフを認める必要がないとされた。
店舗販売とクーリングオフ
以下は、http://www7.plala.or.jp/daikou/cooling-off/tenpo.htm#tenpo より
広告を見て自ら申し込んだ場合や、店舗に自ら出向いて契約の申込みをした場合には、消費者を保護する必要性はありません。
しかし、次の場合はクーリングオフできます。
@ 法的に店舗・営業所等とは認められない場合
A キャッチセールス(街で呼び止められて店舗へ連れて行かれた場合)
B アポイントメントセールス
(電話・郵便等で販売目的を隠して、または(販売目的を告げていても)有利な条件を示されて店舗へ呼び出された場合)
C 催眠商法(SF商法)(会場が@に該当する場合、勧誘方法がABに該当する場合)
E エステティックサロン
F 語学教室
G 学習塾
H 家庭教師等
I パソコン教室
J 結婚相手紹介サービス
K 内職商法
L モニター商法
M 現物まがい商法
N 投資顧問契約
O ゴルフ会員権契約
商法・取引 |
クーリングオフ期間 |
法律上の該当取引 |
|
訪問販売 |
8日間 |
特定商取引法 |
訪問販売 |
キャッチセールス |
8日間 |
特定商取引法 |
訪問販売 |
アポイントメントセールス |
8日間 |
特定商取引法 |
訪問販売 |
8日間 |
特定商取引法 |
訪問販売 |
|
8日間 |
特定商取引法 |
電話勧誘販売 |
|
ねずみ講 |
無期限(契約は無効) |
|
|
20日間 |
特定商取引法 |
連鎖販売取引 |
|
エステティックサロン |
8日間 |
特定商取引法 |
特定継続的役務提供 |
語学教室 |
8日間 |
特定商取引法 |
特定継続的役務提供 |
学習塾 |
8日間 |
特定商取引法 |
特定継続的役務提供 |
家庭教師等 |
8日間 |
特定商取引法 |
特定継続的役務提供 |
パソコン教室 |
8日間 |
特定商取引法 |
特定継続的役務提供 |
結婚相手紹介サービス |
8日間 |
特定商取引法 |
特定継続的役務提供 |
20日間 |
特定商取引法 |
業務提供誘引販売取引 |
|
20日間 |
特定商取引法 |
業務提供誘引販売取引 |
|
ネガティブオプション |
14日間(または7日間) ※(注意)下記参照 |
特定商取引法 |
売買契約に基づかないで送付された商品 |
店舗販売 |
(原則) (例外) |
|
|
通信販売 通信販売と通信教育は意味が違います。通信教育はクーリングオフできる場合とできない場合があります。 |
クーリングオフ制度なし |
特定商取引法 |
通信販売 |
出会い系サイト |
クーリングオフ制度なし |
|
|
パチンコ・競馬等攻略法 |
クーリングオフ制度なし |
|
|
分割払い契約 |
8日間 |
割賦販売法 |
割賦販売 |
クレジット契約 |
8日間 |
割賦販売法 |
割賦購入あっせん |
ローン契約 |
8日間 |
割賦販売法 |
割賦購入あっせん ローン提携販売 |
現物まがい商法 |
14日間 |
特定商品等の預託等取引契約法 |
|
海外先物取引 |
14日間 |
海外商品先物取引受託法 |
|
宅地建物取引(売買) |
8日間 |
宅地建物取引業法 |
|
宅地建物 賃貸借 |
クーリングオフ制度なし |
|
|
ゴルフ会員権契約 |
8日間 |
ゴルフ場等会員契約適正化法 |
|
投資顧問契約 |
10日間 |
投資顧問業規制法 |
|
保険契約 |
8日間 |
保険業法 |
|
平成8年、本法の規制対象に加わった(16〜25条)。
平成12年改正で、ネット通販等の電子商取引に係る消費者保護のため、一般の通信販売としての規制の他に、事業者の電子メールアドレスの表示や、義務づけ、および、誤認を生じさせやすい画面設定により顧客の意に反する申込を行わせるような行為の禁止等の規定が新設された。
平成14年改正では、携帯電話などへ広告メールを一方的に送りつける、いわゆる迷惑メールに関し、メールの表題部に「未承認広告*」と表示すること、および、メールにより広告をする際に、受信者が広告の受け取りを希望しない旨を事業者に連絡する方法の表示の義務づけ、さらに、受信拒否者に対する再送信の禁止が新たに規定された。
いわゆるインターネット通販サイトについては、平成10年度から、また、いわゆる迷惑メールについては、平成14年2月から、それぞれ広告のモニタリングを行い、特定商取引法の広告表示規制に違反しているおそれのあるものについては、警告メール等を送付している。両者で6,881件(平成15年度)
・ 人格の自由(法律上の主体)、所有権の自由、契約の自由、過失責任の原則(教科書、141〜143頁)
・ 取引の手段としての契約(教科書、148頁〜149頁)
多様な取引当事者における消費者の特殊性----事業者間の取引との違い
取引は法的には「契約」という形式で行われる。教科書148頁
原則は、「契約の自由」であり、取引の両当事者の意思の合致により、特定の内容の契約が成立。意思の合致は、契約の申し込みと承諾という「意思表示」から成り立つ。
・ 資本主義と契約(教科書、153頁〜154頁)
・不法行為(教科書、155頁)
経済産業省サイト http://www.meti.go.jp/policy/consumer/contents3.html
パンフレット「契約はよく理解して慎重に」
<今日のケース 電話勧誘販売>
特定商取引に関する法律(昭和51年法律57号)
http://www.meti.go.jp/policy/consumer/contents1.html
特定商取引法の対象となる取引類型は、以下の6つです。
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【趣旨・目的】
特定商取引(訪問販売、通信販売及び電話勧誘販売に係る取引、連鎖販売取引、特定継続的役務提供に係る取引並びに業務提供誘引販売取引をいう)を公正にし、及び購入者等が受けることのある損害の防止を図ることにより、購入者等の利益を保護し、あわせて商品等の流通及び役務の提供を適正かつ円滑にし、もつて国民経済の健全な発展に寄与することを目的とする。ここで「購入者等」とは、実際には消費者であることがほとんどであり、本法は消費者保護法の実質を持っている。訪問販売等に関する法律(略称、訪問販売法)は、平成12年改正で「特定商取引に関する法律」と改称された(以下では、この改正法における条文番号を表示する)。
【概要】
訪問販売とは、販売業者が営業所、代理店等以外の場所において、売買契約の申込みを受け、若しくは売買契約を締結して行う指定商品の販売をいう(2条1項)。指定商品は国民の日常生活に係る取引において販売される物品であって政令で定めるものをいう(2条4項)。訪問販売をしようとするときは、販売業者の氏名又は名称、商品の種類を明示すること(3条)、売買契約の申込時、契約締結時には、直ちに販売価格等、契約内容を明らかにする書面を交付すること(4、5条)、不実告知、威迫困惑行為など不適切な勧誘行為の禁止(6条)、法定の契約書面受領後8日間は無条件解約を認めること(クーリング・オフ)(9条)、契約解除に伴う損害賠償等の額の制限(10条)等が定められている。
通信販売とは、販売業者が郵便等により売買契約の申込みを受けて行う指定商品の販売をいう(2条2項)。通信販売の広告に関する販売価格、代金の支払時期・方法等の表示義務、誇大広告禁止(11,12条)、申し込みを受けたときは遅滞なく承諾等を通知すること(13条)等が定められている。なお、これは通信販売には当たらないが、顧客の申込みがないのに,購入しない旨の通知か商品の返送がない限り,購入の承諾がなされたものとみなすという条件をつけて商品を送付するという販売方法(ネガティブ・オプションと呼ばれる)があり、このような一方的な条件は顧客を拘束しないが,本法は,一定期間経過後は,顧客は当該商品を自由に使用処分できるとしている(59条)。
「公権力」-----近代市民社会における、公と私の区別が前提
その他の社会規範でも、「村八分」、大学における停学・退学処分など私的制裁があり得る。
近代社会は、歴史的には,国による暴力の独占と、中間団体の排除を特徴とする。
近代法は、同時に、その巨大化した国を牽制、制限する装置でもある。「法的安定性」と「正義の要求」も、国に対する規範的要請という面も持つ。
これは,国・公権力についての要請にとどまらず,社会的強者による不当な圧迫・強制行為に対する要請でもある。
公法と私法の融合(教科書87頁以下)= 市民社会を規律する法が私法、国家の組織活動等を規律するのが公法という伝統的な二分法。この私法と公法が次第に相互浸透
私法の規律の対象(= 名宛人)は、私人であり、公法の名宛人は、主として国家、地方自治体、及びその他の公的法主体(特殊法人などと呼ばれる)である。
私法の前提は、自由かつ平等で、自立した個人による「私的自治」。民商法の規定には明示的には示されていないが、私的自治を原理として掲げたことの歴史的・経済的背景は、市場経済原理=自由競争の機能への信頼がある。
これに対し,「自由」の実質を問い(強者の自由だけではないか),実質的な自由の実現が要求されるようになる。
→ 社会法(労働法,経済法),さらに私法自体の変革(権利の濫用,信義則,公序良俗)
公法と私法(教科書83〜88頁)
このうちの労働法について(教科書157頁)
労働基準法、最低賃金法---教科書167頁
団結権の保障、「不当労働行為」、団交権、争議権---教科書170頁以下、
Q.コンビニでアルバイトし、今月最初の賃金を貰ったのですが、明細書を見ると時間給600円で計算されていました。その他に手当はもらっていません。
使用者(雇用主)が最低限支払わないといけない基準(金額)があれば、教えてください。
A.労働者の賃金については、「最低賃金法」という法律があり、この法律に基づいて都道府県毎に最低賃金が定められています。この都道府県労働局が定めている最低賃金を下回る額での労働契約は無効であり、最低賃金額で契約したものとみなされます。ですから、あなたのケースで、該当する最低賃金額と支払われた賃金の時間額との差額が生じる場合には、差額を使用者(雇用主)が支払うこととなります。
広島県における取扱いは、次のとおりです。
649円 |
− |
600円 |
= |
49円 |
49円 |
× |
勤務時間 |
= |
追加支給必要金額 |
基本的人権の意味(実体法)
手続法の意義(手続的正義)
<今日のケース 勾留の決定・期間,接見交通権の制限>
「自白の無理強いでは」朝日新聞社説060417
刑事事件(教科書36頁),法曹三者(40〜41頁),刑事手続(121〜124頁)
憲法31 条 「何人も、法律の定める手続によらなければ、その生命若しくは自由を奪はれ、又はその他の刑罰を科せられない。」→法定手続にとどまらず,「適正手続」の要請
(1) 実体的真実の追求のために適正な手続が必要。しかし,逆のこともある。令状主義(35条),自己負罪拒否特権(38条1項),二重の危険の禁止(39条後段),証言拒否権など
「1 何人も、自己に不利益な供述を強要されない。
2 強制、拷問若しくは脅迫による自白又は不当に長く抑留若しくは拘禁された後の自白は、これを証拠とすることができない。
3 何人も、自己に不利益な唯一の証拠が本人の自白である場合には、有罪とされ、又は刑罰を科せられない。」
憲法39条
「何人も、実行の時に適法であつた行為又は既に無罪とされた行為については、刑事上の責任を問はれない。又、同一の犯罪について、重ねて刑事上の責任を問はれない。」
(2)実体的真実に即した正確な裁判が,当事者だけでなく国民にも明らかにされること。信頼を得ることができ,法に従う精神が生まれる。
(3)長期的には,手続的に厳格なルールに従うことがより多くの正確な裁判をもたらす。
(4)人の尊厳にかかわる。
現行の刑事訴訟制度は,憲法上三権分立主義が徹底されたことから,裁判所は,従前の司法大臣の司法行政上の手を離れて独立の組織として編成されることとなり,また,検察官についても裁判所法とは別に検察庁法が制定されたことにより,両者は組織上明確に分離され、法務省の中に検察庁が設置されている。
法務省のサイトから http://www.moj.go.jp/
Q. 検察と警察はどこが違うんですか。
A. 一般的に犯罪が発生した場合,第一次的に捜査を行い,被疑者(犯人,容疑者)を逮捕したり,証拠を収集したり,取調べ等を行うのが警察です。なお,警察は,被疑者を逮捕したときには逮捕の時から48時間以内に被疑者を事件記録とともに検察官に事件を送致しなければなりません。検察庁では,警察から送致された事件について,検察官が自ら被疑者・参考人の取調べを行ったり,証拠の不十分な点について,警察を指揮して補充捜査を行わせたり,自らが捜査を行い,収集された証拠の内容を十分に検討した上で,最終的に被疑者について裁判所に公訴を提起するかしないかの処分を決定します。このように被疑者を起訴するか否かを決定するのは公訴の主宰者である検察官だけの権限です。また,起訴した事件について公判で立証し,裁判所に適正な裁判を求めたり,裁判の執行を指揮監督するのも検察の重要な仕事です。
第1回(060414)「本講義の進め方、法とは? 例:内部告発」
1.本講義の進め方について
・教科書をそのまま読むことはしない。その重要な点を示し、また補足説明をする。何頁は-----という話し方になるので、必ず持ってくること(あるいは毎回の該当頁だけをコピーして持参)。
「テキスト」伊藤正己・加藤一郎(編)『現代法学入門』有斐閣、第4版、2005年
「参考文献」渡辺洋三『法とは何か』、同『法というものの考え方』岩波新書
・レジメは、各回の講義の後、若干の修正をした上で、立教の「サイバー・ラーニング」サイト、または、私の個人ホームページhttp://www.pluto.dti.ne.jp/~funada/ に掲載する。
・ケースなど、随時プリントを配布するので、レジメ・プリント等を丁寧にファイルして保存すること。
・隣の受講生と雑談することは、私も、また他の受講生にも迷惑です。集中して受講できるように会話は厳禁。ただし、眠い人は我慢しても意味ないから睡眠自由。
・遅刻や早退、缶ジュース、ガムなどは、行儀作法の問題(ルールは決めないから、各自の良識=社会人としての健全な判断力で、という意味)。
・基本的には伝統的な講義形式を採らざるを得ないが、なるべく学生諸君と議論することとしたい。講義中にこちらから質問した場合には、積極的に答えてほしい。正解を求めているわけではなく、それまでの話や諸君の知識・見識から思いつくことで十分。自分の頭で考える訓練であり、また、そのやりとりから私の方も、諸君がどこまで理解しているか、何を話すべきかも分かるだろうという趣旨。
・質問・指摘(例えば、聞き取れない、分からない、プリントが足らない、マイクの調子がおかしい等)は、途中でも遠慮なく手を挙げて発言すること。各回の終了後、教壇まで来て質問してもよい。
学生諸君は、高額の授業料を払っているのであるから、契約の相手方である大学および大学に雇用されている私たち教職員に対し、それに見合う教育サービスを提供すべきことを要望・要求できる。私たちが、残念ながら能力・時間・コスト等の制約から、それらに十分応えられないことも少なくないであろうが、要望に対応することができるかどうかを真摯に検討する過程で、諸君との関係をより意義深いものに変えていけることを期待したい。
これは、他の経済的取引についても同様であり、取引の相手方に取引の条件・内容・実施の仕方等について、質問し要求することが大切。この講義でも取り上げる「消費者の権利」は、法律によって与えられるだけではなく、自ら要求し戦いとるものです。他方で、契約は「交渉ごと」ですから、相手の事情も勘案して、両当事者がともに納得、満足するような内容と手続を形成することが大事です。
2.授業内容」について
まず、法の意義、理念、目的などを検討して、はたして人間の社会で法が存在し、さらになくてはならない理由は何かについて考えましょう。順序としては、法とは何か、法と社会規範、法の目的、権利と義務、法の適用・実現(法の効力)などについて、なるべくわかりやすく説明します。
その後、現実的な問題に関わっている法律分野を選んで一緒に考えてみます。具体的には、私たちの日常生活に密接に関係する消費者保護のための法律、そして、携帯電話とインターネットに関する法律問題などを素材に検討していくことにします。
・将棋などのゲームの「ルール」とは異なる。
法(law, Recht)は、権利(right, Recht =正義)と表裏の関係にあるから。
・「当為」=Sollen → 現実との緊張関係
・各種の社会的規範
相互に矛盾することがしばしばある。
例:内部告発
近年、事業者(=企業。法的には会社)、国・自治体、その他の法人(大学も!)の不祥事が事業者内部の者(労働者、取引先など)からの通報により相次いで明らかにされる事例が注目されてきた。
------ 三菱自動車のリコール隠し、食品の偽装表示、東電の原発トラブル隠し、入札談合など
労働者、取引先の事業者などは、雇用契約・取引上の契約から、守秘義務が生じている。
他方で、社会全体から見れば、団体内の違法ないし不正な行為が行われているという事実をを監督行政庁やマスコミ等に(ほとんどは)匿名で知らせる行為は正当視される。
この種の情報が漏れた場合、事業者は「誰が漏らしたか」を調査し、配置転換や解雇等の処分をかけることが多い。
→ 解雇の無効、不利益取扱いの禁止によって、告発者を法律上保護する必要がある。
公益通報者保護法
公布:平成16年6月18日法律第122号、施行:平成18年4月1日
2条 この法律において「公益通報」とは、労働者(労働基準法(昭和二十二年法律第四十九号)第九条に規定する労働者をいう。以下同じ。)が、不正の利益を得る目的、他人に損害を加える目的その他の不正の目的でなく、その労務提供先(次のいずれかに掲げる事業者(法人その他の団体及び事業を行う個人をいう。以下同じ。)をいう。以下同じ。)又は当該労務提供先の事業に従事する場合におけるその役員、従業員、代理人その他の者について通報対象事実が生じ、又はまさに生じようとしている旨を、当該労務提供先若しくは当該労務提供先があらかじめ定めた者(以下「労務提供先等」という。)、当該通報対象事実について処分(命令、取消しその他公権力の行使に当たる行為をいう。以下同じ。)若しくは勧告等(勧告その他処分に当たらない行為をいう。以下同じ。)をする権限を有する行政機関又はその者に対し当該通報対象事実を通報することがその発生若しくはこれによる被害の拡大を防止するために必要であると認められる者(当該通報対象事実により被害を受け又は受けるおそれがある者を含み、当該労務提供先の競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがある者を除く。次条第三号において同じ。)に通報することをいう。
この法律において「公益通報」とは、
1.労働者が、
2.不正の利益を得る目的、他人に損害を加える目的その他の不正の目的でなく、
3.その労務提供先又は当該労務提供先の事業に従事する場合におけるその役員、従業員、代理人その他の者について通報対象事実が生じ、又はまさに生じようとしている旨を、
4.権限を有する行政機関又はその者に対し当該通報対象事実を通報することがその発生若しくはこれによる被害の拡大を防止するために必要であると認められる者に
5.通報することをいう。
http://www5.cao.go.jp/seikatsu/koueki/gaiyo/jobun.html(内閣府のウエッブ・サイト)
http://www.ron.gr.jp/law/law/koeki_tu.htm(私人のサイト)
http://www.etsuko.jp/katudo/naibu/(川田えつこ氏のサイト)
なお、現行の法令等は、以下が正式サイト(上記の法律は施行前であるから、まだ掲載されていない。上記は、検索エンジンで検索した)
http://law.e-gov.go.jp/cgi-bin/idxsearch.cgi
労働者に限られる→ 狭すぎないか?
雪印事件では取引先から偽装についての情報が漏れた。
法令違反行為、しかも「通報対象となる法令」に限る → 狭すぎないか?
外部への通報が保護される要件
@不正の目的でない
A法令違反行為が生じ、又はまさに生じようとしていると信じたことに相当の理由がある
B「内部や行政に通報すると不利益な取扱いを受けるおそれがある」、「内部通報では証拠隠滅のおそれがある」、「人の生命、身体への危害が発生する急迫した危険がある」
下記の反対に考慮したのであろうが、厳しすぎる。特に、これらの立証責任を通報者側がしなければならないとすると。
産業界からの批判-----内部通報では不十分か? 「自浄作用に委ねるべき」
通報する外部の例-----報道機関、事業者団体、消費者団体、被害者など
しかし、問題は通報する順番が、以下のように規定されていること。まず第一に、当該労務提供先等、第二に、行政機関、第三に、更に厳しい要件の下で外部への通報(同法3条等)。
串岡弘昭「公益通報者保護法を見直せ」朝日新聞平成18年3月25日付け朝刊