2004年度「経済法2」  講義ゼミトップ  トップページへ

 

レジメは、各回の講義の後、若干の修正をした上で、私の個人ホームページ: http://www.pluto.dti.ne.jp/~funada/ (または、立教→大学案内→学部・大学院→法学部→Staff→Funada→Homepage)、および、大学のイントラネットにおいてサイバーラーニングの名称でシラバスを掲示する欄(http://cl.rikkyo.ac.jp/cl/2004/idx_hogaku.html)も掲載する。




平成16年度(平成17年2月4日実施) 「経済法2」試験問題

一. 以下の事実につき、設問に答えなさい。(配点各25点)

昭和30年代、朝日・毎日・読売の各全国紙は毎年春にほぼ同額の一斉値上げを繰り返し行っていた。公正取引委員会は、昭和34年に行われた事前の申合せに基づく新聞購読料の一斉引上げについて、新聞各社がその申合せを実施し維持する義務を負うという拘束力ある申合せがあったとの証明がなかったとして不当な取引制限の成立を否定した(いわゆる新聞「紳士協定」事件)。

<設問> これは、「不当な取引制限」の要件についての妥当な解釈か。理由を付して述べなさい。(配点30点)。

二.以下の事実について、設問に答えなさい。

化粧品メーカーYと販売業者(卸)Xは、販売委託契約を締結し、継続して取引を行っていた。同契約では、XはY化粧品以外の化粧品の取扱いが禁止されていた。

Yの販売システムは連鎖販売取引(いわゆるマルチ商法)であり、売上目標の達成による昇格とそれに伴う傘下代理店(小売)の増大により、販売手数料・販売利益が急激に上昇していく仕組みであった。かかる販売システムの下、Xは傘下代理店の在庫を引き取りその代金を立て替払いをするなど無理な販売活動を行い、Yから商品を強制的に割り当てられるなどしたため、次第に借金がふくらみ、大量の在庫を抱えるに至った。

そこでXは、別のメーカーAの化粧品販売に転向することを企て、これを知ったYは契約違反として取引を停止した。XはYのこの行為は独禁法違反であるとし、それによる損害の賠償を求めて提訴した。

<設問> 

(1) Yの取引停止行為は、独禁法(または一般指定)におけるどの規定に違反する可能性のある行為か。(配点10点)

(2) 上の規定の定める要件に該当するか否かにつき、理由を付けて答えなさい。(配点30点)

(3) 連鎖販売取引については、一般に、どのような社会的・法的な問題があるか?(配点30点)

 

<採点のポイント>

 文中で、25点等々と書いたが、これは単なる目安であって、具体的に何点となるかは、それぞれの文章のコンテクストで異なる。

一.

問題文から明らかなように、「拘束」だけに絞って書くべき。

 制裁がない、紳士協定であっても、「拘束」に該当。---これだけで25点。

 この種のカルテル協定はそもそも独禁法に違反する申し合わせであるから、「拘束」は法的な拘束であるべきだという理屈は成り立たない。

 「共同遂行」が単独で要件であるという説に拠れば、上の理はより一層あきらか。

 「事前の申し合わせ」はあると明示されているのであるから、「暗黙の合意」、行為の一致(意識的並行行為)などは不要な叙述。しかし、問題文から、この事実関係を明確に読み取れないとも思われるので、これも評価の対象とする。----10点

 

二.

(1)一般指定2項に該当し、独禁法19条違反。----10点

 優越的地位の濫用(一般指定14項)----10点

一般指定11項にも該当する可能性はあるが、公取委のガイドラインでは「有力な事業者」でなければならないから、問題文からは本項該当とは言い切れない。

(2)一般指定2項の定める行為要件については取引拒絶であることは明白であるから、「不当に」すなわち「公正競争阻害性」についての問題。これに関する3種類の見方のうち、ここでは「自由競争基盤」の侵害と捉えるべき。

 すなわち、本件でのXとY間の関係については、契約の内容やYのとった経営方針からXが自由に企業努力を展開して活動できる状況にはなく、「自由競争基盤」の侵害に当たるとすべき。----15点

同じ理由から、同時に、優越的地位の濫用(一般指定14項)と考えることもできる。----10点

また、優越的地位の濫用を実行あらしめるために取引拒絶が行われたと考えると、「独占禁止法上不当な目的を達成するための手段として用いられる場合」だと考えることもできる。いずれも、「自由競争基盤」の侵害であることには変わりがない。----10点

これとは別に、「競争の減殺」を挙げた答案も多かった。しかし、公取委のガイドラインは、競争者の事業活動が困難となるおそれがある場合として、市場における「有力な事業者」基準を採用しているから、本件がこれに当たるかは不明(前問(1)で述べたことと同様)。しかし、この点を指摘することも意味がある。----10点。

 

(3)

 第一に、連鎖販売取引は、自分がコントロールしていない者(下位の販売員)の努力いかんによって収入が左右される「くじ」であり、非良心的、詐欺的な販売方法である。----10点

第二に、下位の販売員への組織拡大は急速に先細りし、終局において破綻すべき性格のものである。この事実を隠して勧誘するのであるから、一般指定8項の「ぎまん的顧客誘引」にも当たる。----10点

第三に、同様のシステムをとりながら、商品・役務の取引が伴わない場合は、俗に「ねずみ講」と呼ばれ、無限連鎖講の防止に関する法律は、無限連鎖講の開設・運営を全面禁止にし、これに違反する者には刑事罰を処するという厳しい規制を置いている。

これに対し、「連鎖販売取引」については、特定商取引法(33条1項)で規制されているが、この形態の取引それ自体を禁止するものではないし、不当な実態を持つ可能性の高い連鎖販売取引を規制することもできず、立法論としては、より厳しい規制に変えるべきである。

このように不十分な規制状況の下では、独禁法や民法(契約責任、不法行為責任)等によって厳しく規制する必要がある。----10点





NO.10 (041217) 「不公正な取引方法(4)」第11回

第3節 不当対価

「不当廉売」---この他、「不当高価販売」、「不当低価購入」、「不当廉価販売」は?

不当高価販売――学校が市場価格よりも割高な制服を学生に強制的に買わせるケース。

不当低価購入――防衛庁石油製品談合刑事事件=東京高判平成16・3・24には、防衛庁が僻地、離島等に供給する石油製品を市場価格より低価格で買っていたとうかがえる箇所がある。

 不当高価販売と不当低価購入は、いずれも、優越的地位の濫用としても捉えることができる。

 

(1)行為要件-----コスト(=費用)を下回る価格。

コストとは-----

a. 総販売原価(公取委の実務。販売業者の場合、簡便な算定では「仕入原価」)

b. 限界費用(米国の判例、学説。これに依る立場から、「追加費用」、「平均可変費用」等が簡便な算定で可能と説かれている)

 

(2)市場要件(公正競争阻害性)------「他の事業者の事業活動を困難にさせるおそれがあること」=「正当な理由がないのに」=「不当に」

6項前段----「正当な理由がないのに」、@著しく下回る、A継続して

6項後段----「不当に」、「低い価格で」

6項前段における「正当な理由がないのに」の立証責任は、原則通り、本要件に該当すると主張する側(公取委など)にある。

これに対し、後段の「不当に」については、立証責任は事実上、行為者に転換される。

 

不当廉売の性格

a. コストを無視した価格による販売は、企業努力によってできるだけ低価に、良い品質の商品・役務を提供するという競争の本質を無効にする。

b. 資本力の戦いになり、大企業に一方的に有利な競争方法。

上の2つに当たる典型例は 「略奪的価格設定」----大企業が、第一段階として、廉売によって競争者を市場から駆逐し、第二段階として、独占に成功してから価格をつり上げて、それまでの廉売による損失を補填する(=「埋め合わせ」)。

これは、不当廉売に当たるが、それだけでなく、日本の独禁法においては、私的独占にも当たる。

公正競争阻害性の3つの要素のうち、「競争の減殺」(極端なケースとして、前記の略奪的価格設定)、「競争手段の不公正さ」(前記のa)、「競争基盤の侵害」(前記のb)のいずれにも当たると考えることができる。

 

<設問> 経済学者は、上のような、「略奪的価格設定」の第二段階における「埋め合わせ」はできない、したがって事業者には不当廉売をする合理的な理由はないから、その規制も不要である、と主張するが、これは正しいか?

 

たしかに理論的には、第二段階において価格を引き上げると、新規参入が行われ、「埋め合わせ」ができなくなる。

しかし、新規参入が早く十分に行われるためには、参入障壁を低くしてゼロにしなければならない。例えば、電気通信の場合は接続規制を強化して、既存のキャリアに接続して参入することを可能にする、設備投資の固定費を低くする(固定資産の取引の流動化、人材の流動化)、航空の場合は空港の発着枠を新規参入者に提供するなど。

しかし、どうしてもある程度の参入障壁は残らざるを得ない。したがって、一定期間、一定部分においては埋め合わせが可能であり、経済学の主張は実際とは合致しないと思われる。

 

・ 中部読売新聞社事件-----第二次北国新聞社事件とほぼ同じ、地域的な差別対価の形をとった事例であるが、違うのは中部読売新聞社と読売新聞社は資本的に全く別の会社であること。ここから、不当な差別対価の規制が用い得ない。したがって、中部読売新聞社の付けた価格だけを問題にせざるを得ない。

・ マルエツ・ハローマート



NO.9 (20041210) 「不公正な取引方法(3)」第10回

三.単独の取引拒絶

3.この他、単独の取引拒絶が「競争基盤の侵害」に当たる場合も、不当と解される。

下記の事例のように、優越的地位の濫用(一般指定14項該当)に当たるような行為をしかけ、これを拒否した事業者に対し取引拒絶する場合など。

ノエビア事件=東京高判平成14・12・5判時1814号82頁(平成14年度重判解)---資料13

<設問> 本事件における取引拒絶の不当性とはどういうものか?

 本件では、ノエビアが採用している「連鎖販売取引」であって、これは参加者が販売手数料を求めるために無理に売上増を図り破綻する危険性のある形態であると判示されている。この連鎖販売取引は、俗に「マルチ商法」と呼ばれている取引形態である(教科書228頁以下)。

控訴人より優越的地位にあるため、押し込み販売などのノエビアの控訴人に対する一連の行為はこの優越的地位の濫用と考えることができる。一般指定14項該当

 また、優越的地位の濫用を実行あらしめるために取引拒絶が行われたと考えると、「独禁研報告」の「独占禁止法上不当な目的を達成するための手段として用いられる場合」だと考えることができるため、一般指定2項に該当すると考えられる。

 しかし、どちらも「自由競争基盤」の侵害から公正競争阻害性を見出すしかない。

 

<質問> 「連鎖販売取引」については何が問題なのか、また、規制の状況についてはどう考えるべきか?

 第一に、連鎖販売取引は、自分がコントロールしていない者(下位の販売員)の努力いかんによって収入が左右される「くじ」であり、非良心的、詐欺的な販売方法である。

第二に、下位の販売員への組織拡大は急速に先細りし、終局において破綻すべき性格のものである。この事実を隠して勧誘するのであるから、一般指定8項の「ぎまん的顧客誘引」にも当たる。

 

同様のシステムをとりながら、商品・役務の取引が伴わない場合は、俗に「ねずみ講」と呼ばれ、下記の特別法では「無限連鎖講」と呼ばれている。

無限連鎖講の防止に関する法律(昭和五十三年制定)

第二条  この法律において「無限連鎖講」とは、金品(財産権を表彰する証券又は証書を含む。以下この条において同じ。)を出えんする加入者が無限に増加するものであるとして、先に加入した者が先順位者、以下これに連鎖して段階的に二以上の倍率をもつて増加する後続の加入者がそれぞれの段階に応じた後順位者となり、順次先順位者が後順位者の出えんする金品から自己の出えんした金品の価額又は数量を上回る価額又は数量の金品を受領することを内容とする金品の配当組織をいう。

 

本法3条は、この意味での無限連鎖講の開設・運営を全面禁止にし、これに違反する者には刑事罰を処するという厳しい規制を置いている。

 他方で、「連鎖販売取引」については、特定商取引法(33条1項)において、「物品販売や役務提供の際に、特定利益(取引料その他の利益を指す)を収受し得ることをもつて誘引する」ことを、同システムの特徴としている。

しかし、同法34条以下で規定されている禁止行為は、「故意に事実を告げず、又は不実のことを告げる行為をしてはならない」等であって、この形態の取引それ自体を規制するものではないし、不当な実態を持つ可能性の高い連鎖販売取引を規制することもできない。したがって、独禁法等によって厳しく規制する必要がある。

 

四.差別対価

第二次北国新聞事件=東京高決昭和32・3・18行集8-3-443(百選・第3版120頁)----資料14

本件では、石川県と富山県において同じ新聞につき違う値段で販売した。これは、北国新聞社の支配力の拡張のため、富山県(280円)で不当な廉売行為を行ったものであり、富山県における新聞業の「競争の減殺」にあたると認定された。

同時にまた、石川県での料金330円の高価で販売してきたことは、市場支配力を利用した不当な高価販売として市場支配力の濫用と考えることもできる(「競争基盤の侵害」)。

 

平成11年、既存の航空会社(JAL/ANA)は、新規参入した航空会社の便の前後だけ値下げした(教科書210頁以下)。

「競争対抗価格」の抗弁をここで認めるかは疑問。市場支配力を有する事業者ないし市場における有力事業者は意図的な競争者の排除をもたらす行為を行ってはならない。

航空会社の事例の場合も、第二次北国新聞事件と同様に、「競争の減殺」と「競争基盤の侵害」の両方が問題になりうる。

非競争地域での料金が不当に高い----「競争ありせば成立したであろう価格」でなければならない。

「想定競争価格」as if competition

この面に着目すれば、私的独占(支配)、または不当な差別対価、優越的地位の濫用に当たる。

JAL、ANAは事業支配力のある事業者であるため、廉売によって競争会社が市場から排除されることになり、私的独占に該当する可能性がある。それほど事業支配力を持ってない事業者の場合には、不当廉売、差別対価に当たりうる。

これに対し、その他の事業者は市場価格に合わせて、あるいはそれ以下の価格(競争対抗価格)を提示することは当然許される。ガソリンスタンドにおける地域による差別対価の事例。

ただし、その区別が難しいこともある。差別的対価を行った事業者の市場力、事業力や差別対価を付けた意図・目的等が違法性判断の手係りになる。

 

NO.10 (041217) 「不公正な取引方法(4)」第11回

第3節 不当対価

「不当廉売」---この他、「不当高価販売」、「不当低価購入」、「不当廉価販売」は?

不当高価販売――学校が市場価格よりも割高な制服を学生に強制的に買わせるケース。

不当低価購入――防衛庁石油製品談合刑事事件=東京高判平成16・3・24には、防衛庁が僻地、離島等に供給する石油製品を市場価格より低価格で買っていたとうかがえる箇所がある。

 不当高価販売と不当低価購入は、いずれも、優越的地位の濫用としても捉えることができる。

 

(1)行為要件-----コスト(=費用)を下回る価格。

コストとは-----

a. 総販売原価(公取委の実務。販売業者の場合、簡便な算定では「仕入原価」)

b. 限界費用(米国の判例、学説。これに依る立場から、「追加費用」、「平均可変費用」等が簡便な算定で可能と説かれている)

 

(2)市場要件(公正競争阻害性)------「他の事業者の事業活動を困難にさせるおそれがあること」=「正当な理由がないのに」=「不当に」

6項前段----「正当な理由がないのに」、@著しく下回る、A継続して

6項後段----「不当に」、「低い価格で」

6項前段における「正当な理由がないのに」の立証責任は、原則通り、本要件に該当すると主張する側(公取委など)にある。

これに対し、後段の「不当に」については、立証責任は事実上、行為者に転換される。

 

不当廉売の性格

a. コストを無視した価格による販売は、企業努力によってできるだけ低価に、良い品質の商品・役務を提供するという競争の本質を無効にする。

b. 資本力の戦いになり、大企業に一方的に有利な競争方法。

上の2つに当たる典型例は 「略奪的価格設定」----大企業が、第一段階として、廉売によって競争者を市場から駆逐し、第二段階として、独占に成功してから価格をつり上げて、それまでの廉売による損失を補填する(=「埋め合わせ」)。

これは、不当廉売に当たるが、それだけでなく、日本の独禁法においては、私的独占にも当たる。

公正競争阻害性の3つの要素のうち、「競争の減殺」(極端なケースとして、前記の略奪的価格設定)、「競争手段の不公正さ」(前記のa)、「競争基盤の侵害」(前記のb)のいずれにも当たると考えることができる。

 

<設問> 経済学者は、上のような、「略奪的価格設定」の第二段階における「埋め合わせ」はできない、したがって事業者には不当廉売をする合理的な理由はないから、その規制も不要である、と主張するが、これは正しいか?

 

たしかに理論的には、第二段階において価格を引き上げると、新規参入が行われ、「埋め合わせ」ができなくなる。

しかし、新規参入が早く十分に行われるためには、参入障壁を低くしてゼロにしなければならない。例えば、電気通信の場合は接続規制を強化して、既存のキャリアに接続して参入することを可能にする、設備投資の固定費を低くする(固定資産の取引の流動化、人材の流動化)、航空の場合は空港の発着枠を新規参入者に提供するなど。

しかし、どうしてもある程度の参入障壁は残らざるを得ない。したがって、一定期間、一定部分においては埋め合わせが可能であり、経済学の主張は実際とは合致しないと思われる。

 

・ 中部読売新聞社事件-----第二次北国新聞社事件とほぼ同じ、地域的な差別対価の形をとった事例であるが、違うのは中部読売新聞社と読売新聞社は資本的に全く別の会社であること。ここから、不当な差別対価の規制が用い得ない。したがって、中部読売新聞社の付けた価格だけを問題にせざるを得ない。

・ マルエツ・ハローマート

 





NO.8 (20041203) 「不公正な取引方法(2)」第9回

第2節 差別的取扱い

一.基本的観点

競争過程で、取引条件(特に価格)等が顧客によって異なることはノーマルな現象。

「一物一価」だから「協調的値上げ」も経済原則にしたがったものである、という産業界の一部で過去になされた主張は誤り。個々の取引は、程度の差こそあれすべて特殊性があり、それらに応じて取引条件も異なりうるし、しかも取引・競争は常に動いているものである。

独禁法上の問題は、異なる取引条件を要求すること、あるいは取引拒絶(究極の「差別的取扱い」)が、競争のノーマルな現象として行われたか、それとも、公正な競争を阻害する目的に基づく、またはそのような効果をもたらすものか、ということ。 

二.共同の取引拒絶(=ボイコット)

直接と間接のボイコット

多くの場合、不当な取引制限にも該当する(そうでなければ、当該ボイコットは効果がないことが多い)。

安売り業者の「狙い打ち」排除が典型例。

実務的に最も問題になるのは,業界の自主基準において,違反行為者に対し取引停止等の規定を設けた場合。事業者団体ガイドライン第2の7参照。

「商品又は役務の種類、品質、規格等に関連して、事業者団体が、例えば、生産・流通の合理化や消費者の利便の向上を図るため規格の標準化に係る自主的な基準を設定し、また、環境の保全や安全の確保等の社会公共的な目的に基づく必要性から品質に係る自主規制等や自主認証・認定等の活動を行う場合がある。このような活動については、独占禁止法上の問題を特段生じないものも多いが、一方、活動の内容、態様等によっては、多様な商品又は役務の開発・供給等に係る競争を阻害することとなる場合もあり、法第八条第一項第三号、第四号又は第五号の規定に違反するかどうかが問題となる。」

「自主規制等の利用・遵守については、構成事業者の任意の判断に委ねられるべきであって、事業者団体が自主規制等の利用・遵守を構成事業者に強制することは、一般的には独占禁止法上問題となるおそれがある」

上記のうち,「強制」すれば違反のおそれが強いという箇所は,自主基準それ自体が正当でありかつ違法性がなければ,これを遵守させるため,ある程度の強制は不可欠であるという反論がある。

ここでも,上記の「より制限的でない、他の代替的手段」という観点が生きる。

日本遊技銃協同組合事件=東京地判平成9・4・9判例百選(第6版)110頁---「経済法1」の資料4

ここでは、法律上の安全基準よりも、事業者団体が定めた自主基準が厳しい基準である場合、これに違反した商品を販売する事業者を事業者団体が販売業者に圧力をかけて共同ボイコットさせた行為は、「競争の実質的制限」になるかが問題となった。

競争事業者(メーカー)間で(安全性を理由に?)拘束し合うだけでなく、アウトサイダーを市場から閉め出すように販売業者に圧力をかけた点で、反競争性が強い。

<質問>

テレビ各社がかつてサラ金広告を共同ボイコットしたことがあるが、この行為は公正競争阻害性があるのか?

@ 広告の媒体には、テレビCMの他にも新聞など代替的手段があり、他方で、テレビ各社と取引する広告主も多種多様であり、サラ金はそのごく一部に過ぎないから競争制限的効果は強くない。

A 社会の共通の利益であるためであり、競争阻害の意図は全くないから、この共同ボイコットには公正競争阻害性がない。

三.単独の取引拒絶

1.流通・取引慣行ガイドラインは、競争者の事業活動が困難となるおそれがある場合として、市場における「有力な事業者」基準を採用。=「競争の減殺」

岡山県南生コンクリート協同組合事件=勧告審決昭和56・2・18審決集27・112(教科書,206,352頁)

全国農業協同組合連合会事件=勧告審決平成2年2月20日審決集26巻53頁(百選・第6版128頁)----資料11

全農のシェアが大きいため、本来は私的独占として認定すべき事件である。これは、独占禁止法22条の解釈としても可能なはずである。

全農が新規参入者を排除した行為は、東洋製罐事件と非常に似たケースである。

2.「独占禁止法上不当な目的を達成するための手段として」取引拒絶がなされた場合。

第二次大正製薬事件=勧告審決昭和30・12・10審決集7・99(百選・第4版148頁)---資料12

 第二次大正製薬事件では取引拒絶の目的が何かが問題になっている。つまり、取引拒絶が排他的取引を目的として行われた場合に、その公正競争阻害性があると判断されるということである。

また、この事件で割戻金の交付、取引保証金の没収等の不利益を与える規定を規約、約定書に設け、恣意的に運用した点については、優越的地位の濫用として判断されている。

3.この他、「競争基盤の侵害」に当たると解することができる例もあり得る。優越的地位の濫用に当たる行為をしかけ、これを拒否した事業者に対し取引拒絶する場合など。

ノエビア事件=東京高判平成14・12・5判時1814号82頁(平成14年度重判解)---資料13



NO.6&7 (041119&041126) 「不公正な取引方法(1)」

※今回は、2回分まとめて掲載させていただきます。(図形のところがわかりにくくてすみません)

第5章 不公正な取引方法

第1節 

「公正な競争」とは? 

能率競争=企業努力が反映される競争、取引の相手方の自由で適正な選択

不公正な取引方法の要件

1. 行為要件------各類型で異なる。

2. 公正競争阻害性-------独禁法2条9項の各号および一般指定の各号における、「不当に」または「正当な理由なく」と同義

公正競争阻害性の3要素

1. 「競争の減殺」

排他条件付き取引―――流通系列化(10年前の「系列御三家」---車・家電・化粧品)、生産下請、民放ネットワークにおいて民放の東京キー局が、系列下のローカル局に対し、他の系列からの番組購入を禁止する行為。

 共同ボイコット(=取引拒絶---安売り小売店を排除するため、メーカーが団結して当該小売店には商品を売らない、とした行為。

2. 「競争手段の不公正さ」

欺瞞的顧客誘引---不当表示、比較広告(航空会社の座席、携帯電話の例)、マルチ商法

3. 「競争基盤の侵害」

優越的地位の濫用---三越事件、下請法、放送事業者と番組プロダクション(著作権の不当な取り上げ、支払い遅延、番組打ち切りや取り直しについての費用支払い拒絶)

 

4. <質問>自動車の専売制はメーカー間あるいは販売店間のどのような競争を阻害するのか? 上記の「競争の減殺」について考えると---

<解答>

第一に、専売制の下では販売店はメーカーの強い支配が及ぶことになり、販売店独自の創意工夫の余地が制限される。その結果、同じブランドの商品を扱う販売店の間はほとんど競争がないことになる(=ブランド内競争の減殺)。

第二に、わが国の自動車産業のように、すべてのメーカーが専売制を採用する場合、販売店網を持っていないメーカーの参入を制限することになり、メーカー間の競争を阻害または制限することにつながる(=ブランド間競争の減殺)。

公正競争阻害性には、ビジネス・リーズン(経営上の理由)や安全性などの要素は含まれるか。

第一次育児用粉ミルク (和光堂) 事件=最判昭和50・7・10民集29・6・888

第一次育児用粉ミルク (明治商事) 事件=最判昭和50・7・11民集29・6・951 

いずれも,教科書195頁以下参照。

<質問>消費財メーカーが「おとり廉売」を抑えるため再販売価格維持をしたことは、防御のためであり、公正競争阻害性はないといえるか?

 再販売価格維持行為については、第5章第5節三を参照。

<解答>

 取引の各段階におけるメーカー建値、特に末端価格の維持は、メーカーにとって重要な関心事(上記の「事業経営上必要あるいは合理的」な動機)

1.値崩れは、当該商品の信用、価格水準への疑問を取引の相手方(ユーザー)の間に広げてしまう。(安くならない商品=いい商品、という消費者の信仰)

2. 末端価格の値崩れは、商品の流れにおける上流への値下げ圧力となり、各事業者の利益を減少させる。

 

      メカー    →→→

        1000円     

  ←←←← 卸売          再販売価格の拘束

       1100円

1500円              

安売りの小売 小売   ←←←←←

        2000円(末端価格)

       消費者

 

メーカーは卸売業者に対して、「安売りの小売業者とは取引するな!」と指示=再販売価格維持行為のため

この指示に反して、卸売業者が安売りの小売業者に売ったら、「取引拒絶=出荷停止」

小売業者の悩み=腕の見せ所

どれだけ高く、たくさん売れるか? → いい商品を安く、どれくらい仕入れるか?

 小売業者は、消費者に販売する努力と、卸売業者からどのように仕入れるかの両面で苦労。両方の市場で競争している。

そこで、末端価格の値崩れを防ぐための手段として、メーカーが考えたこと

→ 販売業者(小売・卸)同士の競争をなくす(=再販売価格維持行為を行う理由)

しかし、販売業者同士の競争をなくす → 企業努力がなくなる → 消費者の利益を害する

でも、メーカーに指示に逆らったら・・・ 「取引拒絶=出荷停止」

<設問> どんな場合に再販売価格維持が実効性をもっておこなわれるか?

<解答>

(1)粉ミルクのように、製品差別化がない場合、末端の販売競争は主として価格をめぐって行われることになるが、市場における有力なメーカーは、自己の指定する建値ないし希望小売価格を末端の販売事業者まで効果的に守らせる力がある。

 販売事業者は、上記のようにメーカーの指示に逆らうと出荷停止を受け、当該商品から受ける大きな利益を失うから、指示に従う。

 逆に、有力ではないメーカーなら出荷停止による不利益は小さいから、安売りした方が得という判断をする販売事業者が多くなる。

 しかし、この1の場合は、前記粉ミルク事件以降、違法であることが明確になっているので、少なくともあからさまな再販は次第に姿を消した。

(2)逆に、いわゆる高級ブランド品など、製品の価格差別化が強い場合、再販売価格維持行為は容易に実効性をもって行われる。

再販売価格維持行為がもたらす影響

(1)ブランド間競争・・・過熱する。ただし、価格以外の要素(デザイン、広告・宣伝等)で。

(2)ブランド内競争・・・減殺される ← 公正競争阻害性の「競争の減殺」に当たる

同時に、販売業者(小売・卸)の腕の振るいどころ、苦労する点である価格設定の自由を奪ってしまうから、「競争基盤の侵害」にも当たる。

3.ある特定商品について極端な「おとり廉売」が広がると、それ以外の価格では売れなくなり、さらに市場価格が下がるから販売利益(販売マージン)が減り、したがって当該商品を扱う販売事業者が減り、結局は当該商品全体の販売減に至るおそれがある。

 これは、特に日用品についてメーカーが全国的に特定商標の下で流通経路に流す商品(「商標品」と呼ばれる)について起きうると説かれ、かつての独禁法では、商標品についておとり廉売のおそれがあるということを理由の1つにして、一定の条件下で再販が認められていた(現在は当該条項は削除されて、再販は原則的には違法とされている)。

 なお、上記の商標品以外に、例えば鰺の開きを「おとり廉売」に出しても、メーカーへの被害のおそれはないから、「不当な顧客誘引」だけが問題となる。しかし、この点も、通常の消費者であれば、当該安売り品が「おとり」に過ぎないと分かっているから、それによって他の商品も安いと誤認するおそれはないといえよう。

loss leader(おとり廉売):対象とされた商品については赤字だが、それは消費者を呼び込むため

→ 他の商品も買ってくれれば、トータルでは販売店にとってプラスになるから、特に大規模小売店にとっては効果的な販売方法となる。

前記の1と2は、事業者にとっての「事業経営上必要あるいは合理的」な要素に過ぎず、再販売価格維持行為は消費者の利益を害するが、この3の「おとり廉売」防止ということだけは、少なくとも論理的には、独禁法上の観点からも正当な要因であるという議論が成り立つと思われる。

ただし、ここから直ちに再販を肯定することにはつながらない。第一に、この「おとり廉売」は、本来は独禁法上の規制(不当廉売)によって対処すべき問題である。第二に、上記の規制で十分には対処できない場合に、事業者は防衛的に再販をすることが認められようが、そのためには、当該おとり廉売(常習)事業者だけに限った再販をするだけでいいはずで、それ以外にすべての販売業者に再販を強制する理由にはならない。

「より制限的でない、他の代替的手段」(less restrictive alternatives. LRA基準とも呼ばれる。教科書242頁参照)は、抱き合わせについての説明であるが、この観点は他の不公正な取引方法についても採用されるべきであり、おとり廉売を防止するためにすべての販売業者に対する再販が必要か、それ以外の「より制限的でない、他の代替的手段」がないかを個別具体的に検討すべきである。

また、このようなおとり廉売による販売減少等の事態は論理的にはあり得るが、実際にこの種の事態が上記の因果関係によって生じたという実例につき、その検証がなされたことはない。

かつての独禁法では、一定範囲の商標品について公取委の指定等の手続の下で再販を認めていたが、必ずしも上記のような狭い範囲、条件を設定していたのではなかったこともあり、前記粉ミルク事件最判はこれら再販許容政策は不公正な取引方法の規制とは経済政策上の観点を異にするものである、と判示している。(以上のことから、教科書257頁以下では、おとり廉売には触れていない)。

<質問>エレベーター・メーカーが、自己の販売したエレベーターの保守管理は自己またはその子会社に任せて欲しいとし、独立の保守事業者には保守部品を販売しない、または3割高で3週間待たせるとしたことは、顧客の安全確保のためであり、公正競争阻害性はないといえるか?

<解答>

本当に安全のために必要不可欠であり、「より制限的でない、他の代替的手段」がないのであれば、公正競争阻害性はない。

しかし、本件では安全のためではなく、独立系保守業者を排除するための口実として使われた論理に過ぎないと認定された。

東芝昇降機サービス事件=大阪高判平成5・7・30判例百選(第6版)122頁、教科書197,240,282

----資料10

この問題は、教科書第2章第5節五「公共の利益」で取り上げたが、不公正な取引方法について、同第5章第1節三後半でも扱っている。




No.5 (041029) 「不当な取引制限(5) 入札談合」

入札談合(教科書168頁以下)

 「入札に際し、競争に加わろうとするものが、事前に相互に相談し、その中の一者に落札するように約束すること。入札の目的である競争を消滅させるものであるから、独占禁止法上の不当な取引制限に該当する。一定の取引分野の解釈によって、一回の談合でも該当するか、組織的・継続的談合の場合にのみ該当するかの対立がある。」(『法律学小辞典』有斐閣)

 通常は、同一の発注者、あるいは同様の工事(知己、工事の種類など)について、談合組織が形成され、「基本合意」が成立し、それに基づいて、個別の入札について「個別合意」によって、落札者が決定され実施される。その過程で、予定価格をにらんで、各参加者の入札価格が調整されることが多い。

 この場合は、「一定の取引分野」は、「基本合意」の対象となる工事群となるが、稀には、1回の入札についての「個別合意」だけで談合が行われる場合もあり、この場合には、当該入札だけで「一定の取引分野」が形成されたと解される。

 談合によって落札者が決定されるのであるから、当然「競争の実質的制限」がもたらされる。

会計法・地方自治法は、「一般競争入札」を原則としているが、実際には今でも「指名競争入札」が多い。ただし例外的に、特定の事業者しか受託・販売できない場合は、「随意契約」も認められる。

 したがって、法律上は、事業者間の価格競争を通じて、最も安価な入札をした事業者が落札する仕組み。
 これらの法律の対象となる主体は、国・地方公共団体の他、特殊法人(道路公団等)も含まれる。
 対象となる契約は、これらの主体が発注または調達する、公共工事、物品、コンピュータ・システムなどすべて。
 しかし、実態としては、おそらくほとんどの発注・調達は、事業者間の「談合」によって行われていると推測される。

 談合は、独禁法のカルテル禁止の対象となり、毎年、20から30件の違反事件が公取委によって摘発されて、課徴金が課されているが、その他の多くの談合は闇の中で継続されているのが大部分。

公共工事の入札及び契約の適正化の促進に関する法律(平成十二年)---談合を防止する入札制度
入札談合等関与行為の排除及び防止に関する法律(平成14年)----「官製談合」に対する規制

<質問> 自由競争に委ねると、安定供給(確実な施工の実現など)に影響が出るか、不良工事が増え、これは事故などがないと発見し難いから、指名競争入札と談合で適正な利益を保証した方が結局は国民の利益になる、という意見は正しいか?

 たしかに、入札は価格だけで決せられるので、品質競争は担保できない。落札者=受注者は,発注の際の仕様書に従って工事を施工すれば足りるし,しかも彼らが実際に仕様書に従った品質の工事をするかどうかは,入札制度だけでは担保できない。

そこで,会計法上の規制や,各発注者による技術基準や材料などの基準、あるいは建築士,発注者等による検査・監督の制度が適正に行われる必要がある。

一般に、受注者(買い手)の選択の自由の実質的確保、品質の確保は、これらの微妙な仕組みが不可欠。より広くは、「行政の業績評価」の試みの一環。行政は目的だけでなく、そのための手段の相当性、コストによっても評価されるべきである。

他方で、指名競争入札と談合で適正な利益を保証したからといって,受注者が高い品質の工事を確実に行うとも限らない。すなわち,談合と安定供給の維持、不良工事の防止は論理的に結びつかない。

<設問>予定価格が適正な積算による価格であれば、談合したとしても、予定価格以下の値段で契約できるのであるから、発注者側の損害は生じないと、いう意見をどう思うのか。

独占禁止法の観点から考えると、入札の目的は事業者が創意工夫を凝らして、競争することであり、公正な価格というのはこのような競争により形成された価格である。したがって、競争をしないで談合で決めた価格はたとえ予定価格以下であっても、発注者の利益を害したことになり、損害が生じたことになる。

実際に,談合が摘発されると,それまで落札率(落札価格を予定価格で除した数字)が100%に近いものであったのが,20%近く下落するという統計もある。

さらに,防衛庁石油製品談合事件=東京高判平成16・3・24においては,応札者全員がすべて予定価格より高い価格を入れ,入札を「不調」にし,これに対応して発注者が予定価格を引き下げた再度(または数度目)の入札で,ようやく落札予定者が予定価格を少し下回る応札価格で落札するという手順がとられていた。これは,当初の予定価格を応札者の談合によって引き上げることになっている。ここにも,予定価格が単に一応のものに過ぎないことが現れているといえよう。

 

「公共工事の談合は,どうして蔓延しているのか」(以下,略)

 

入札談合などの不当な取引制限に対する制裁(教科書287頁以下参照)

------特に、談合等のカルテルに対する法的制裁(広義。不利益を与えることsanction)

1. 課徴金(法7条の2、法8条3)(教科書309頁以下)

2. 公取委の排除措置(7条)

排除措置は、「カルテル協定を破棄します」と宣言すれば済み、既に行った取引をやり直すことは命じられない(「価格の現状回復命令」は出せないという解釈が通説である。教科書295 頁以下参照)。

3. 刑事罰(89条、95条)

かなりの重大事件のみについて課されるという運用方針

4. 私訴による損害賠償(法25・26条、民法709条),不当利得返還訴訟,差止請求(法24条)

裁判のコストと立証の困難性等から実際上容易に提起できるものではない。

「カルテルのやり得」

課徴金は,このような事態を防ぎ、国がカルテルによって得た不当利得を徴収することで、カルテル禁止の実効性を確保する趣旨。

 平成3年改正で課徴金強化改正。平成14年改正で、法人等に対する罰金の上限額を5億円に引上げ。(教科書第1章第2節三を参照)

このように課徴金と罰金が重くなるに従い、また、被害者からの損害賠償訴訟や不当利得返還訴訟などが提起されるようになると、刑罰(二重処罰を定める憲法39条)ないし損害賠償制度との関係が問題となっている。





No.4 (041018)   不当な取引制限(4)

<質問> 安全を理由としたカルテル、上記事例での自主基準は、製品の品質についての競争を実質的に制限するものではないか----これは前期の「経済法1」で扱った「公共の利益」の解釈、「保護に値する競争」または「実質的違法性」論とも関係する。

 自主基準が、社会的に妥当なものであり、かつその実施の方法・態様も妥当(最小限の拘束)であれば、それを競争の基準(ミニマム・スタンダード)として機能することが期待される。その基準の下で競争が有効、公正に行われれば、「競争の実質的制限」はなく、独禁法上何の問題もない。

自主基準による拘束を、「公共の利益」の解釈で、これに当たらないから、2条6項に該当しないということもあり得るが、通説は、「公共の利益」を自由競争秩序の維持それ自体であるとするから、これは難しい。しかし、「公共の利益」ではなく、「競争の実質的制限」に該当しないとすれば足りる。

<質問> プロ野球におけるドラフト制度は、新人選手の獲得競争を制限するものであり、違法なカルテルではないか。

各球団は「事業者」であり、不当な取引制限の「相互拘束」の形態を取っている。しかし、ドラフト制度の目的が球団間の競争を実質的に促進するためのものであり、その実施の方法・態様も妥当(最小限の拘束)であれば、-----(以下、上の問いと同じ)。

第3節 国際的協定・契約の締結

6条の立法趣旨------戦前の国際カルテルと帝国主義的経済戦争からの決別を表明したもの。

化合繊(レーヨン糸など)国際カルテル事件=勧告審決昭和47・12・27・百選(第6版)74頁以下----資料5

 買手側の国際カルテルないし外国事業者、外国政府からの集団的圧力を背景に、国内事業者の間で輸出カルテルが結ばれたケース。

事業者が自主的に輸出を自粛したので、事業者による競争制限とされた。日本の政府が、強制的に輸出を制限すれば、効果は同じでも、「政府強制理論」によって独禁法違反とはならない。

外国為替及び外国貿易法48条(輸出の許可等)、輸出貿易管理令2条(輸出の承認)

第4節 事業者団体の活動規制

事業者団体による構成事業者の機能・活動の制限

浜北市医師会事件=公取委勧告審決平成11年1月25日・百選(第6版)94頁以下----資料6

医師会による広告制限

この事件は、事業者団体が競争制限を目的に広告活動を制限した事例であり、患者の選択の自由を奪ったことになるから、独禁法違反とされたのは当然である。

しかし、単なる事業者の競争の自由、この場合は広告の自由を認めると、患者(広く消費者)の意思決定を歪めるおそれがある。ここにも、日本遊技銃協同組合事件と同様に、一定のルールの下での競争が必要であり、消費者の利益を第一に考えるべきことが示されている。問題は、これを個別の解釈論でどう構成するかである。

<質問> 医師(開業医)あるいは病院等が、全く自由に診療内容、施設、スタッフ紹介、過去の診療例などを自由に広告で出すことを認め、自由競争に委ねた方が、患者の利益にもなるという意見についてどう考えるか?上記について一定の制限をした方がいいとした場合、患者の立場も考慮し得る厚生労働省によって医療法などで明記すべきか、医療の現場をよく知っている事業者団体に委ねるべきか?

 広告は、競争の1手段。これについての相互拘束は、不当な取引制限に当たる可能性がある。しかし他方で、自由に委ねると、不当表示も頻発するおそれがあり、これを独禁法によって公取委がすべて規制することは事務能力からも不可能。

 また、不当表示ではなくとも、不適切な表示、勧誘方法が様々に行われるおそれがあり、それを予防することも必要。患者は、これらの表示その他の勧誘方法に冷静・適切に判断できない場合も多い。したがって、一定の規制は必要であり、消費者の利益になる。

 その手段は、すべてを国(行政庁)に委ねることは不可能。一部は、事業者団体に委ねざるを得ない。しかし、これも事業者の利益だけに考慮したり、事業者の一部の者だけに有利な規制を行うおそれもある。透明性を確保し、しかも、それらを個別に判断・評価せざるを得ない。




No.3 (041015) 不当な取引制限(3)

2.市場要件−−−「一定の取引分野における競争の実質的制限」

「ハードコア・カルテル」= 「それ自体違法」-----競争者の大部分が参加する価格カルテル, 市場分割カルテル、数量カルテル、入札談合など不当な取引制限をなす当事者間の目的は、競争制限それ自体であり、私的独占や合併などのように他の事業目的を持つ可能性のある行為ではない。

また、競争制限の効果をもたらし得ない、すなわち実効性のない共同行為は、部分的に行われてもすぐ崩壊してしまう(カルテルの不安定さ)。

したがって、共同行為が実効性をもって行われれば、それは既に「一定の取引分野における競争の実質的制限」があることを示すものといってよく、後者について別個の立証は不要であると解される。米国におけるカルテルの「それ自体違法」の原則は、日本法における立証についても上の意味で妥当する。

b. 非ハードコア・カルテル----

これに対し、品質・規格カルテル、投資カルテルなどの共同行為は、一定のビジネス・リーズン(積極的な事業目的)があることもあり、また、競争を減少・制限する効果を有するか否かの判断は微妙であり、したがって上記の「それ自体違法」の原則はそのまま妥当しない。

この場合は、「競争の実質的制限」は、参加事業者のシェア、参加事業者が有力であるか否か、当該行為の目的、商品・役務の差別化等から判断。

教科書146頁では、共同行為に参加する事業者のシェアが50%を越える場合には、通常、本要件を充足する、とある。この点につき明示的に争われた事例はないが、カルテル参加者の取引力、需要者の選択の実際上の幅(当該商品についての需要の価格弾力性、代替品との交叉弾力性)がどれだけあるか等の各市場における競争の実態にかかっている。しかし一般には、シェアが50%を下回る場合は、アウトサイダーの競争圧力が強くて、カルテルは実効性を持ち得ないのが通常とは言えよう。

ハードコア・カルテルについて見てみれば、価格カルテルでは、参加者が有力事業者であれば、シェアが半分程度でもカルテルによる値上げは、(完全ではなく部分的にということはあろうが)市場で通ってしまうことが多い。したがって実施され市場で(部分的にせよ)受け入れられた価格カルテルは、そのことだけで、「競争の実質的制限」を認定できる。なお例外として、入札談合では、一社でも談合破りがでれば、その者に落札されてしまうので、談合では全社が参加して行われる。

これに対し、例えばある一定以上の品質を確保しようというカルテル(非ハードコア・カルテル)は、それが実効性をもって行われたとしても、それだけでは「競争の実質的制限」になるとは言えない。そのカルテルが、市場における競争にどのような影響を与えたかを個別に明らかにしなければならない。

日本遊技銃協同組合事件・東京地判平成9年4月9日・百選(第6版)110頁---資料4

ここでは、法律上の安全基準よりも、事業者団体が定めた自主基準が厳しい基準である場合、これに違反した商品を販売する事業者を事業者団体が販売業者に圧力をかけて共同ボイコットさせた行為は、「競争の実質的制限」になるかが問題となった。これも非ハードコア・カルテルの例であるが、競争事業者間で拘束し合うだけでなく、販売業者に圧力をかけ、市場から排除した点で、反競争性が強い。

 



N0.2 (041001)不当な取引制限(2)

1.行為要件-----「相互拘束」・「共同遂行」

(2)通説は、カルテルの行為者は、相互に競争関係にある事業者に限られるとする。

 ただし、「実質的に競争関係にあった者」であれば足りる。

シール談合刑事事件=東京高判平成5年12月14日・百選(第6版)36頁---資料2

 これより進んで、少数説は、実質的に競争関係になくとも、例えば、新聞発行本社と販売店で、共同して競争制限する場合も含むとする。

新聞販路協定審決取消請求事件=東京高判昭和28年3月9日・百選(第6版)34頁---資料3

(3)寡占市場における協調的行為

「意思の連絡」を示す直接証拠がなくとも、間接証拠による「意思の連絡」の推認ができれば、合意ありとする。

実際はほぼ同じことになろうが、少数説では、共同性を推認できれば「共同遂行」ありとする。

間接証拠----事前の情報交換 プラス「行為の外形的一致」=「相互拘束」・「共同遂行」

これに対し、price leadership, conscious parallelism(意識的並行行為)などは、事前の情報交換の証拠がない場合。

独禁による規制は、市場集度の小さい、したがって競争の激しい中小企業分野では厳しく適用できるが、市場集中の進んだ、すなわち少数の大企業がシェアの大部分を占める寡占市場では有効に働かない、という批判もある。

 確かに、中小企業分野で競争を制限しようとすると、明確な形式でカルテル等を行わないと実効性がないので、独禁法違反行為を摘発し易く、これに対し、寡占市場では、少数の大企業の間で、合意とも言えないようなあいまいな形態で、競争回避的な協調体制が容易に作れる。

 

例えば、明確な価格カルテルではなく、前記のプライス・シーダーシップないし「価格の同調的引き上げ」(独禁法18条の2.前記の「行為の外形的一致」のある場合)のように、独禁法の各規定に照らし、明白な違法行為ではなく、灰色の独占的行為を規制することは、立証の困難があり、また企業の自由の侵害のおそれがあるので、公正取引委員会も消極的になりがちである。

 

 このような事態は、独禁法が「競争の実質的制限」などの抽象的な文言(「不確定概念」)による要件を用いていること(これはやむを得ないことである)、また、対象たる市場が寡占市場であることが多いため、寡占的大企業のノーマルな行為なのか、違法・反競争的な行為かを区別することが困難であること、また、「厳格司法」と呼ばれるように、日本の裁判所が一般に、立証責任の分配につき伝統的な刑事法の原則を引きずっていること、等々による。

経済の実態についての認識に基づいて、間接証拠を重視すべきである。

他の法分野で抽象的な要件を用いている例:刑法の正当防衛、緊急避難、民法の公序良俗、不法行為、行政法、特に事業規制における「不当に」を付けた要件など。

 

例として、電気通信事業法

第一種指定電気通信設備を設置する電気通信事業者による指定電気通信役務の保障契約約款において以下に該当する提供条件を定める場合、総務大臣は変更命令を下す。

第20条3項

四 特定の者に対し不当な差別的取扱いをするものであるとき。

五 重要通信に関する事項について適切に配慮されているものでないとき。

六 他の電気通信事業者との間に不当な競争を引き起こすものであり、その他社会的経済的事情に照らして著しく不適当であるため、利用者の利益を阻害するものであるとき。

 




No.1
(040924)  「不当な取引制限(1)」

1.「経済法1」を採点して、

 単位を下さいという「お願い」のコメントがある。当然のことであるが、これは無視する。 公平、客観的な評価、あとで公開され審査を受けても説明できるような評価をすべき。

 条文や、問題文をそのままを書き写すことは、なるべく避ける。
冗長の感じを与える。また、私たち採点者は、この部分を飛ばして読んで、諸君の地の文(自分で考えて書いた文章)を探す作業をしなければならない(これは、多くの解答を見る者にとって、つらい作業ですよ)。
文章にするために必要最低小限の引用に止めるべき。
つぼを押さえた解答を書けば、たくさん書かなくても得点できるはず。「量より質」。
書くという作業よりも、何をどう書こうかと考えることに精力の大部分を集中すべき。

  要件に当てはまるかという作業 = 事実認定と解釈

 しかし、その背後には実態認識、当該法律等の正確な理解が必要。

授業の内容が難しすぎる。教科書が難解。→ 教科書はすべてを理解しようと思わなくて良い。なお、この種の専門書や難しい本に向かうときは、全部を理解しようという態度ではなく、自分が分かることはここだという程度で読み進める、あるいは部分的につまみ食いすれば十分。
授業で習ったことの全体や流れを捉えたい、授業で習ったことを補足して説明を見たい、専門用語・判決・審決を探す(巻末索引を利用)、などのときに利用。
 「難しすぎる」という苦情に応え、後期から若干内容を絞って、なるべく重要なこと、理解し易いことだけを述べよう。しかし、新司法試験の選択科目に、「経済法」が採用されることになったこともあり、その準備に必要なことは取り上げたいし、それは別としても、経済法の講義として、伝えるべきこと、学生諸君が理解すべきことはかなりの量と質にならざるをえない。
条文を読むことに慣れること。どういう構成、順番になっているか、どの条項が重要か、など。しかし、もちろん、個々の内容を暗記する必要はない。

3条にも8条、19条にも該当する、などの解答が多かった。これについては、当たりそうな条項をなるべく多く挙げておけば、どれかは正しいだろう、というものではない。諸条項の間の関係、それぞれの条項の法的意義などは、説明をしっかり聞き理解しておくこと。

解答では、「行政指導に従って行動したというだけで、違法性が阻却されるものではない」というだけのものが多かった。これだけなら0点である。その理由付けを書かないと、意味がない。

入札談合に関するコメントで、就職先で、「コンプライアンス」(compliance 法令の遵守)の重要性について説明を受けたという学生の声。営業優先の経営方針からの転換が必須。

2.講義の進め方等について詳しくは、前期の「経済法1」部分を参照。

・「経済法1」は、教科書第3章まで、「経済法2」は、第4章以下。

・教科書をそのまま読むことはしない。その重要な点を示し、また補足説明をする。何頁はーーーという話し方になるので、必ず持ってくること(あるいは該当頁だけをコピーして持参)。

・独禁法の条文を随時参照できるように、六法または独禁法だけのコピーを毎回持ってくること。一番小さく安い「ポケット六法」等でも、独禁法と関連法規は掲載されている。
・ケースなど、随時プリントを配布するので、それらを丁寧にファイルすること。独禁法にかかわる個々のケースについて、より詳しく勉強したい場合は、「独占禁止法審決・判例百選(第6版)」、最新の情報は雑誌「公正取引」、公取委のホームページが便利。
・昨年度までの試験問題は、上記のホームページと「法学周辺」 に掲載。ホームページには、採点のポイントも述べてある。それをよく読んで考えた上で、成績評価に疑問があれば調査申請をすること。
・隣の受講生と雑談は他のみんなの迷惑になる。気持ちを集中して受講できるように会話は厳禁。ただし眠い人は我慢しても意味ないから睡眠自由。
・遅刻や早退、缶ジュース、ガムなどは、行儀作法の問題(各自の良識=社会人としての健全な判断力で、という意味)。
・基本的には伝統的な講義形式を採らざるを得ないが、なるべく学生諸君と議論することとしたい。講義中にこちらから質問した場合には、積極的に答えてほしい。正解を求めているわけではなく、それまでの話や諸君の知識・見識から思いつくことで十分。自分の頭で考える訓練であり、また、そのやりとりから私の方も、諸君がどこまで理解しているか、何を説明すべきかも分かるし、諸君も私の考えていること、質問の趣旨・背景などが分かってくるであろう。
・質問や指摘(例えば、聞き取れない、分からない、プリントが足らない、マイクの調子がおかしい等)は、途中でも遠慮なく手を挙げて発言すること。各回の終了後、教壇まで来て質問してもよい。
 これは、他の経済的取引についても同様であり、取引の相手方に取引の条件・内容・実施の仕方等について、質問し要求することが大切。この講義でも取り上げる「消費者の権利」は、法律によって与えられるだけではなく、自ら要求し戦いとるものです。

第四章 共同行為の規制

第2節 不当な取引制限(独禁法3条後段、2条6項)の禁止

カルテル 複数の事業者間の競争制限的な協定

共同ボイコット 複数の事業者が共同して、特定の事業者との取引を拒絶し、またはさせること

例:価格の下限を設定するカルテル(=価格カルテル)、私大の授業料カルテル(流通経路がないケース)、ガソリン・灯油あるいは新聞の価格カルテル(大衆消費財で、流通経路があるケース)、鉄鋼の価格カルテル(中間財、多くは大企業間の取引)

 

<質問> カルテルの被害者は誰か---

「公正かつ自由な競争」、取引の相手方、アウトサイダー、さらには行為者自身?

戦前の日独の「カルテル王国」の歴史が教えること---

a. 非効率な事業者も「業界協調」の名の下に温存される、

b. 買い手側に不利益を押しつけ、「カルテルの波及性」

c. カルテル下の国際競争はダンピング競争(通常、内外の差別価格を伴う)と「カルテルの輸出」または市場分割(各国・各企業の「権益」確保)へ

d. 業界ボス、政治との不透明な癒着(カルテル参加者間の利害対立、不安定さ)

 

1.行為要件-----「相互拘束」・「共同遂行」

(1)「相互拘束」と「共同遂行」の関係

通説は、両者は同一の行為を指しているとする。

「相互拘束」における拘束は、例えば契約書に明記された法律上の拘束である必要はなく、事実上の拘束で足りる。

その違反に対する制裁がない場合でも、合意には拘束性が内在しているのが通常であるから、原則として拘束に当たる(法諺「合意は拘束する」)。

新聞「紳士協定」事件(昭和34年)。

通説は、「相互拘束」の中身として、「意思の連絡」=合意を要件とする。

ただし、「黙示による意思の連絡」で足りる。

東芝ケミカル事件=東京高判平成7年9月25日・審決・判例百選(第6版)40頁--資料1

(以下、「共同遂行」をめぐる少数説については本講義では省略)


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「採点を終わって」

A. 評価の分布

「経済法1」の受験者は、下記のように、法学部334名、経済学部3名。

法学部受験者についての評価の分布は、以下の通り。

三年次

四年次

人数
人数
12
6
4
3
33
16
9
7
61
29
29
23
53
26
31
25
48
23
53
42
合計
207
100
126

100

経済学部経営学科 三年1名A,四年1名B,経営学科 四年一名C

B. 採点のポイント

一.

1.行政指導と独禁法違反の関係 20点

行政指導は、「公権力の行使に当たる行為」=「処分」ではないから、それに従うかどうかは相手側である私人の任意(行政手続法2条6項)。

したがって,行政指導に従った行為であっても、そのこと故に違法性が阻却されるわけではない。

なお,これに対し,「権力行政」に従ったカルテル(例えば強制カルテル)なら,私人はこれに従わざるを得ないから独禁法上違法にはならない。

 解答では、「行政指導に従って行動したというだけで、違法性が阻却されるものではない」というだけのものが多かった。これでは不十分であり、なぜそうなのか、また、どういう場合には阻却されるのか(下記の3参照)、などの記述がなければならない。

 

2.同判決における事実認定 10点

同判決では,石油元売会社は、(旧)通産省の行政指導に従って価格カルテルをしたということは否定されている。すなわち,この行政指導では,値上げ限度を示しただけで,カルテルをすることまでは指導していない,と認定されている。

 

3.「公共の利益」(2条6項)の解釈 次の4と合わせて20点

 通説は,「公共の利益」とは「公正かつ自由な競争」の促進それ自体とするので,本項(3),および次項(4)は不要となる。

しかし,仮に石油カルテル刑事事件・最判昭和59・2・24に従うとすると----(ただし,同判決では,上の2.が事実認定されているので,以下は傍論に過ぎない)

同判決は,「公共の利益に反して」について,以下のように判示している。

「自由競争経済秩序」という「法益と当該行為によって守られる利益とを比較衡量して、一般消費者の利益を確保するとともに、国民経済の民主的で健全な発達を促進する』という同法の究極の目的(同法一条参照)に実質的に反しないと認められる例外的な場合」には,違法ではない。

(舟田注:この意味は,「公共の利益に反して」とはいえず,独禁法2条6項には該当しない,ということであろう)。

さらに,「適法な行政指導に従い,これに協力して行われたもの」であれば,「違法性が阻却」される,と。

本件行政指導は違法ではないが,被告人のカルテルは「行政指導に従い,これに協力して行われたもの」ではない,と判示されている。

 

この最後の部分(「行政指導に従い---」)だけは,授業では触れなかった点であり,従って,これを欠いたとしても減点にはならない。

 

4.上の比較衡量,究極の目的についての実態認識

本件で,実際に大幅値上がりになるという予測の立証がされてない。また理論的にも、真の競争が存在することを前提とすれば、価格は市場における需要と供給の関係から決まるのであって、原価の値上がりが直ちに商品の値段に反映されるとは限らない。

授業では,石油製品の原価における原油買い入れ分はほんの一部であるとも述べた。

したがって,「当該行為(本カルテル)によって守られる利益」がどれだけあるかは疑わしく,被告人がこれを立証できたとは考えられない。

 

二.

1.独禁法3条後段(私的独占)10点

2.同法2条5項の私的独占の定義を明示。10点

その上で,同項の定める「支配」,「排除」につき,それぞれ本件事案に即して述べているかどうか。(各15点で採点)

(1)同社のベッドのみが納入できる仕様書入札を実現して競争者を「排除」したこと

(2)同社は、都の実施する入札に参加する販売業者の中から落札予定者及び落札価格を決め、入札参加業者に対し入札価格を指示する等、これらの販売業者の事業活動を「支配」していること

これに加えて、市場要件である「競争を実質的制限」について適切に触れていれば,適宜加点する。

「入札談合」であるという解答も少なくない。談合は,不当な取引制限に当たるが,これは相互に独立した事業者間での協定であって,本件のようなP社の一方的な支配・排除のケースには当たらないから間違いである(1人だけ、この旨を正確に記述した解答があった)。しかし、これは授業ではほとんど触れなかった点であることもあり、コンテクスト等の場合によっては点を加える。

 

以下の点を広義の中で強調したので、これに触れている解答も多かった。しかし、これは解釈論(法律のどの条項に該当するか)ではなく、実態上のこと(政策論)であり、本問で尋ねていることではない。

メーカーと買い手である都の間には、情報力の格差があるので、これを埋める努力ないし工夫が要請される。

本件の発注者の側でも、都財務局・病院事務担当者が競争入札の実効性を十分に考慮したとはいえず、この点でも公取委は発注制度及びその運用の適正化等に留意するよう要請した。

 

C. 答案において述べられた感想について

全体的な印象としては、ゲストスピーカー、レジメの配布とホームページへの掲載、学生諸君にマイクを向けるなど、授業のやり方について好意的な感想が多かった。

ただし、「ごますり」までではないにしても、採点者に向かって書くという状況から、若干の遠慮があるであろうから、もっと厳しい意見もあるだろうとは推測される。

 

 「公取委の方の話を聞けて、めったにない機会なのでよかった」。

「公取委の方がいらっしゃったときに、何も質問できなくて済みませんでした。なかなか、あのような場で挙手をするのは難しいものだと思います。来年から、事前に質問用紙を配布するのはいかがでしょうか?」

 

 「すごく面白かった」

 「去年も受けたが、授業の内容が難しすぎる。教科書が難解」。

「ケース中心のせいか、まとまりがない。講義で話されたことの重点がなにか、明確に示して欲しい」

 「新聞記事や判例百選からのコピーなどは、リアリティーが出て興味深かったので、もっと配布して欲しい」。

 「プロ野球の話が特に面白かった」。

「板書をもっときれいに」

「試験で途中退席する学生が戸をバタンと大きな音を出したまま出て行くのを何とかしてくれ」。

 「後ろでおしゃべりがウルサイ。しかも、いつも同じカップル」

 「3年になってみんな静かに聞いて、講義に集中できた。専門の講義はこういうものかと思った。」

 

 「設問に対する答えをもっとしっかりと教えてもらいたいと思いました」同旨が数通。

問題を考えること自体が大事なのですが,やはり学生諸君は「答え=正解」が欲しいのですね。これは、受験勉強の弊害のような気がします。

授業で出した設問は解釈論だけではなく,実態論・政策論が多いので,それらには,実は正解がない,つまり,幾通りもあり得る,という場合が多いのです。これを完全に整理して教えるというのは大変ですし,またそれを正確に伝えようとすると、それをノートに書いて,暗記するという単純作業に気を取られるおそれがあるとも思います。

もっとも、あまり質問だけで、学生諸君を困惑させるだけに終わるのは私の本意ではありませんから、これから答えの一部でも明確に出すようにしましょう。

 

この講義は、ケース中心に学生に考えてもらうという進め方なので,授業のねらいや内容をつかむのが難しい,という感想を述べた者があった。

 同様に、伝統的な,教科書や法律の体系に沿って,懇切丁寧な説明を中心にするという講義スタイルの方がいい,という意見が少数あった。

 講義の中では、教科書に沿って、話を進めているので、教科書を持ってきている限りは、体系のどこをやっているのかなど分かるはずであるが、教科書を買っていない、持ってこない学生も多いということもあろう。

体系重視とケース重視のどちらの方法も,1長1短であろうが,答案に書かれた感想では,大多数は私の進め方を支持する意見のようである。

ただし、内容が難しいという意見が毎年あるので、今後少し易しい内容に変えることを検討する。

 

「今回、最後に突然、第6章が試験範囲になった」というクレームもありました。しかし、授業の中で何度も、違反行為に対しどのような広義の「制裁」(行政処分、民事上の損害賠償、刑事罰など)が課されるかについて話したので、「突然」ではないつもり。多くの答案にも、課徴金が課されるなどの記述があったので、大部分の諸君が勉強したことが分かります。

 

最後に,試験の成績をあまりに気にしすぎる必要はないと思います。単位を取得することが、学生諸君の最低限の義務であり、目的であることは言うまでもありませんが、授業で私の話を聞き,理解しょうとし,考えること自体が大事です。

 成績が悪かった諸君、それだけでがっかりすることはありませんよ。

スポーツの世界から始まって、「結果を出す」がはやりのようですが,成績はほんの小さな結果の1つであり,諸君が受講しながら考え感じたことなどは簡単に結果に現れるものではないでしょう。多くの場合,結果はそう簡単に現れるものではないのです。試験勉強で暗記したことはすぐ忘れますが,それでも、これらの勉強や、講義の中で理解しようとし考えたことから何か諸君の頭や心の中に残るものがあるはずです。その蓄積・涵養が諸君の本当の潜在力を作り高めるのだと思っていいのではないでしょうか。




試験問題

一. 以下の設問に簡潔に答えなさい。

石油カルテル刑事事件最判において、石油元売会社は、(旧)通産省の行政指導に従って価格カルテルをしたのであるから、独禁法違反とされる理由はないと抗弁したが、最高裁判所はこれを認めなかった。この抗弁を反駁しなさい。

箇条書きの形式で述べること(配点50点)。

二.以下の事実について、設問に答えなさい。

東京都財務局は、発注事務を所管する都立病院向け医療用ベッドにつき、パラマウント社(以下、P社と略記)のベッドのみが納入できる仕様書をもとに入札を実施した。都は複数のメーカーが納入可能な仕様書による入札を実施する方針を立てていたにもかかわらず、P社は病院の入札事務担当者に対し、同社の製品のみが適合する仕様を盛り込むよう働きかけ、しかもそれは同社が実用新案権等を有している構造であることを伏せていた。

 またP社は、この入札に参加する販売業者の中から落札予定者及び落札価格を決め、入札参加業者に対し入札価格を指示した。(公取委勧告審決平成10・3・31)

[ 設問 ]

(1) 公取委は、P社の行為を独禁法違反としたが、その適用法条は何か(配点10点)。

(2) 上の適用をした理由は何か(なぜ同条に該当するのか)(配点40点)。

試験の評価には関係しませんが、時間の余裕のある人は、私の講義に関する感想を書いてください。今後の講義の仕方についての参考にします。苦情、批判も歓迎。もちろん、これによって採点が左右されることはありません。




No.13(040709)「ゲスト・スピーカーによる特別講演」

 以下は,ゲスト・スピーカーとして講演をお願いした伊藤憲二氏によるレジメです。

 ご講演の後,学生諸君から若干の質問等がありました。

独占禁止法の執行・実現の実際
平成16年7月9日(於:立教大学) 
公正取引委員会官房審決訟務室室長補佐
伊  藤  憲  二

 

1.自己紹介等

 ^ 弁護士と独占禁止法
 _ 米国における独占禁止法
 ` 公正取引委員会と独占禁止法

2.公正取引委員会

 ^ 公正取引委員会の組織
 _ 審決訟務室の仕事
 ` 公正取引委員会における法律家の役割

3.独占禁止法のエンフォースメント(執行・実現)

 ^ 独占禁止法違反事件における主な登場人物
  @ 公正取引委員会(審査官,審判官,委員会)
  A 被疑事業者
  B 被害者
  C その他の利害関係人(住民訴訟の原告,株主等)
 _ 設 例:

 大手メーカーのA社が他の同業メーカー5社とともに入札談合を行っていたとして公正取引委員会の立入検査を受けた。
 この後,違反事業者はいかなる手続により,いかなる責任を問われることになるか。

  ア 行政措置

  (ア)排除措置

      審  査   : 立入検査,事情聴取,照会等
      勧  告   : 談合の破棄,将来の不作為,公取への報告等
               違反事業者が勧告を応諾すれば勧告審決
      審  判   : 不服がある場合の手続 

    裁判類似の行政争訟手続
               審判官・審査官・被審人
      審判審決   :
      訴  訟   : 審決取消訴訟(東京高裁)

  (イ)課徴金納付命令

      審  査   : 意見陳述及び証拠申出の機会の付与
      課徴金納付命令:
      審  判   : 不服がある場合の手続
      課徴金審決  :
      訴  訟   : 審決取消訴訟(東京高裁)

  イ 刑事罰

  (ア)公取委の専属告発制度
  (イ)検察庁の捜査・起訴
  (ウ)判決(東京高裁)

  ウ 民事訴訟

  (ア)違反事業者に対する民事訴訟

   @ 発注者(被害者)から違反事業者に対する損害賠償請求訴訟
     独禁法25条訴訟,民法709条訴訟,不当利得返還請求訴訟
   A 住民訴訟(旧地方自治法242条の2第1項4号)
   B その他

    独禁法24条の差止請求訴訟,契約上の地位確認訴訟等

  (イ)違反事業者の取締役等に対する民事訴訟
      株主代表訴訟(商法267条)

  エ その他の影響

  (ア)自治体の指名停止
  (イ)社会的評価の失墜

4 最近の動向

   審判・訴訟事件の増加
   法改正




No.12(040702)「企業結合規制の続 独禁法の執行・実現」

事例2.日本航空株式会社(JAL)及び株式会社日本エアシステム(JAS)から,持株会社の設立による事業統合計画について事前相談(平成14年4月26日 公正取引委員会)

a. 当事会社の対応策=新規参入促進のための措置

(ア)当事会社の有する羽田発着枠について,9便を国土交通省に返上する。また,平成17年2月の発着枠の再配分までに,上記9便を繰り入れる競争促進枠が不足する事態が生じた場合には,更に3便を上限として羽田発着枠を国土交通省に返上する。

(イ) 規航空会社に対する空港施設面での対応

当事会社は,現在自社が使用しているボーディング・ブリッジ,固定スポット,チェックイン・カウンター等の空港施設の一部について,新規航空会社にこれら施設を提供する。

(ウ)航空機整備業務等各種業務受託による新規航空会社への協力

(エ) 運賃面での措置

@ 普通運賃を,主要なすべての路線について,一律10%引き下げ,少なくとも3年間は値上げしない。

A 特定便割引運賃・事前購入割引運賃の拡大

b. 国土交通省による競争促進策の強化

新規航空会社が大手航空会社と競争して新たな事業展開を図るために使用するための発着枠として,新たに「競争促進枠」を創設、空港施設面での新規航空会社への協力、航空機整備業務等各種業務の新規航空会社に対する支援

c. スカイマークエアラインズ株式会社,北海道国際航空株式会社のほか,新規参入を予定している新規航空会社が存在する。

d. 結論 本件統合計画の実施により,国内航空運送分野における競争を実質的に制限することとはならないものと考えられる。

<問題> 本件についての公取委の「条件付き承認」は、「競争の実質的制限」になるか否かを判断するための最も基本的な基準は、市場構造基準、特に市場占拠率であるという通説及び公取委の立場と異なり、2社寡占を認めるものである。これは妥当な解釈・事実認定か?

 一般論としては、企業結合規制についての通説に反し、妥当な解釈とは言えない。ただし、一般論だけで割り切ることもできず、今後、新規参入促進のための措置等の対応策がどれだけ実現されるか、また空港の運営しだい(着陸料などの高コスト体質の改善)という面もある。

 

(4)役員兼任の制限

(5)合併の制限

八幡製鉄・富士製鉄合併事件(同意審決昭和44・10・30)

「有効な牽制力ある競争者」テスト。今日では協調的寡占市場への警戒。

この合併によりガリバー型寡占市場が形成された。このような市場おいては、他の競争会社も合併によって成立したガリバー企業に従って協調的な経営をすれば、既存の事業を継続できるから、正面からの競争を避け、協調的寡占になる可能性が高くなる。

企業の総合的企業力を考慮せず、シェアの高い4品目に絞って個別的判断がなされ、かつ、これら4品目につき、競争者への設備譲渡、技術提供、株式譲渡などの対応策をとれば、違法ではないとしたこと(「条件付き承認」)が批判された。

特に合併規制では事前審査をしなければならず、合併後に解体することは困難であるので、多くの合併審査の場合、「一定の取引分野」の画定がシリアスな論点となる。

(6)営業譲受け等の制限

東宝・スバル事件・最高裁昭和29年5月25日判決(前出)

 

第六章 執行・実現

第一節 行政措置

公取委中心主義

内閣総理大臣の指揮命令を受けることなく独立して職権行使ができる(二八条)

<設問>独立行政委員会を設立する理由

@ 専門技術的知識に基づく、かつ、準司法的権限と手続による行政運用。

A その時々の政府の判断や党派的影響から一線を画す判断と運用が求められる。

事務総局の職員中に、職務の性質上法律専門家が必要であることから、検察官または任命の際現に弁護士であるか弁護士の資格を有する者を加えることも義務付けられている(三五条八項)

公取委が独禁法違反行為の排除または独占的状態に対する競争回復措置を命ずるための手続は、審査、審判および審決の各手続に分けることができる。

審決取消訴訟 審決に不服のある者が公取委を被告として提起。第1審は東京高裁。

 

第二節 刑事罰

公取委は、独禁法違反の犯罪があると思料するときは検事総長に告発する義務がある(法七三条一項)。

平成二年公取委告発方針「国民生活に広範な影響を及ぼすと考えられる悪質かつ重大な事案、違反を反復して行っている事業者・業界、排除措置に従わない事業者等に係る違反行為のうち、公取委の行う行政処分によっては独禁法の目的が達成できないと考えられる事案」

 

第三節 私人による実現手段

損害賠償の請求,または被害者が契約無効等を前提とする不当利得返還の請求

違反行為のうち不公正な取引方法に限定して認められる被害者の差止請求、

違反契約の無効や違反行為に基づく契約解除の無効の主張等

取締役の会社に対する責任を株主代表訴訟として追及する(商二六六条一項五号・二六七条)

 

平成15年度(平成16年1月26日実施) 「経済法2」試験問題

一. 以下の各設問に簡潔に答えなさい。

(2)談合等のカルテルに対する独禁法上の措置・制裁として4種類の制度がある。それぞれ根拠条文をあげ、それらの機能的限界について論じなさい。(配点40点)

 

以下は、上の問題に関する採点のポイント(模範解答ではありません)

1. 課徴金(法7条の2、法8条3)

 価格カルテルまたは価格に影響のあるカルテル(談合もふれに当たる)の「やり得」を防止。しかし、同一事業分野で同様の事件摘発があり、また同一事業者による累犯も少なくないということは、十分な抑止力になっていないことでもある。そこで、課徴金の引き上げが検討されている。

2. 公取委の排除措置(7条)

排除措置は、違法行為を止めることを命じるにとどまるので、「カルテル協定を破棄します」と宣言すれば済み、既に行った取引をやり直すことは命じられない。

3. 刑事罰(89条、95条)

かなりの重大事件のみについて課されるという運用方針。実際の行為を行った社員だけが被告とされ、その上司または役員などは起訴から免れる傾向も。

4. 私訴による損害賠償(法25・26条、民法709条),不当利得返還訴訟,差止請求(法24条)

裁判のコストと立証の困難性等から実際上容易に提起できるものではない。地方自治体の場合、被害の意識がなく、したがって請求をしない傾向がある。

 

ただし、企業結合の規制の場合は、合併について事前規制、株式保有については事後の届出。そこで独禁法違反とされれば、上の2.の排除措置がとられるが、実際は事前相談。しかも、近年は違反とされた事例はない(事実上の規制はある。JAL/JASの事例など)




No.11(040625)「企業結合規制」

二. 企業結合の制限

(1)諸規定の概要----企業結合の諸形態と規制手続

(2)「競争の実質的制限」

 企業結合規制を規定する法10条1項、13条1項、15条1項1号、16条1項本文等は、会社は他の会社の株式を保有すること等によって、「一定の取引分野における競争を実質的に制限することとなる場合」には、当該保有をしてはならない、と定める。私的独占の定義と比べると、「こととなる場合」という文言になっている点が異なる。これら諸規定は、市場支配力が現れる前の段階で企業結合を規制しようとするものである。

 したがって、「市場構造」基準、特に結合後の当事会社のシェアが最も重要であり、結合の形態による結合の強さ、継続性等、代替品の有無、新規参入の難易を中心として判断すべきである。

 これに対し、「市場行動」、「市場業績」基準は、結合後のことであるから、予想しかできないので、客観的な判断が難しい。

特に、「効率性の向上の抗弁」が問題になる。例えば米国の反トラスト法の執行機関である連邦取引委員会(FTC)が公表しているガイドラインでは、企業結合による効率性改善を評価して認められる競争促進的効果と競争制限的効果を比較考量すべきであるとされている。

日本の独禁法に関する通説、および公取委の従来の運用においては、上のような比較考量は採られていず、当該結合が効率性改善による、何らかの意味での競争促進的効果を有することが立証されない限り、直接的に効率性改善自体を判断の要素とはしないとされている。

 

(3)株式保有の制限(93頁以下)

 株式保有による「結合関係」=複数の企業が株式保有、合併等により一定程度又は完全に一体化して事業活動を行う関係(公取委の「企業結合ガイドライン」より)

 <設問>他社の株式を保有する目的は?

@ 投資目的

A 経営支配の目的。完全支配だけでなく、影響を与えることだけでも問題になり得る。

B シエアの拡大(水平的保有の場合)。これは正面から独禁法上の問題になりうる。

C 技術等の提携を株式保有で支える、またはその象徴的意義としての株式保有。

 

結合当事会社の地位を見る上で重要なのは、第1に市場シェア、その順位

 市場の状況としては、第1に、競争者の数および集中度、第2は、参入の容易性、第3は、輸入の状況、第4は、取引関係に基づく閉鎖性・排他性、その他に、当事会社グループの「総合的事業能力」の変化

 結合の諸形態 ―――水平的所有(日本楽器事件、広島電鉄事件)、垂直的所有、混合型所有、一方的所有・相互的所有 、共同出資会社(米国企業アンホイザー・ブッシュ社とキリンビール社の共同出資会社の計画、1993年)

 垂直的所有の場合、例えば、メーカーが卸売業者を合併するとき、卸売業者の市場占拠率が大きければ大きいほど、他のメーカーの流通経路を制限する可能性が大きくなり、独禁法違反にもなりかねない。

 

事例1. 日本楽器事件(勧告審決昭和32・1・30審決集8巻51頁)では、日本楽器が第三者名義で、河合楽器の株式を24、5%取得したことが17条違反(脱法行為の禁止)とされた。

<質問> 本事例で、日本楽器は何故河合楽器の株式を24、5%取得したのか?

 




No.10(040618)「私的独占」

第三章 独占および集中の規制

第1節総説(教科書63頁以下)

用語とその意味をしっかり理解しておくこと。法律は、「言葉」による社会認識、及び社会統制という面がある(その背後には、政策遂行のための手段、および社会的価値観、「正義」の裏付けという面もある)。

「集中」=ある特定の市場、又はある国民経済全体の中で、単独あるいは少数の大企業がその大きな部分を占めるようになること

「市場集中」=特定の市場において、売手・買手がどのような相対的規模をもっているかという観点から、1ないし少数の者がその大部分を占める傾向を指す。これは、市場構造基準のうちの市場占拠率(marketshare、「シェア」)などによって表される。

「一般集中」(「経済力の集中」=「事業支配力の集中」とも呼ばれる)=ある国民経済全体において、少数の個人及び大企業が大きな割合を占めるようになること。

「ゆるい結合」loose combination=単なる合意による、緩い、一時的、部分的な結合

「固い結合」close combination=株式所有や合併などの企業組織上の手段による、固い、継続的、全面的な結合

上の2つの区別は、ほぼ「不当な取引制限」と、「私的独占」・「企業結合」規制に対応。

「固い結合」(独禁法上は、具体的には、「私的独占」・「企業結合」)によって、各市場の集中が進み、競争の実質的制限になることを阻止。

「内部成長」------製品が市場で評価されて、シェアを伸ばすこと

これに対し、例えば不当廉売によって、シェアを伸ばすことは、独禁法上は正当な内部成長とは見なし得ない。

<内部成長の具体例>

かつてのIBM=ハードウェアのシェアが90%

ハードウェアをソフトと抱き合わせて販売

→不当な独占力の拡張という非難。そのため、IBMは、ハードウェアとソフトウェアを分離。

「外部成長」------他企業を合併して、シェアを伸ばすこと

合併の他に、買収、株の持ち合い(相互支配)、子会社化(一方的支配)などの企業集中(=「固い結合」)の形態がある。

→ 固い結合をしているかどうかは、集中度を測る際に重要である。

 

「行為規制」と「構造規制」、「産業」、生産集中度と出荷集中度(通常は、後者を「市場占拠率=シェア」と呼ぶ)、「総資産集中度」、「企業集団」あるいは企業グループ、「六大企業集団」(三井、三菱、住友、芙蓉、三和、第一勧銀)、「独立系企業集団」

 ただし、これら両タイプの企業集団は、ここ数年大きく変化しつつある。長引く不況の中で進行しつつある金融再編成、「株式の持ち合い」構造の崩壊過程、経済の国際化(特に外資系企業の躍進)、IT産業に見られるような技術革新の急速かつ強力なインパクト等のため。

 

 こうした過程の中で、「大競争時代」、「一人勝ちの競争」等と呼ばれる現象から、企業結合によって巨大企業が生まれるのは合理的選択の結果であり、また、仮に市場支配力またはそれに近い影響力が成立しても、それは単に一時的なものにとどまるから、「企業結合」の規制はもはや不要になったという主張もある。

シェアの大きな企業が合併・買収等によって生まれることが、個別に競争制限=市場支配力を生むおそれはないか、という審査は必要。

 市場支配力を生むような企業結合を認めても、長期的に見れば、その市場支配力は競争の中で解消されるとの反論もある。しかし、解消されるまでの間に当該企業結合によって当該市場の競争は制限され、それによる被害も生じる。これらを放置することは不当であるし、長期的にも、それらの反競争的な企業結合が競争の方向を変えてしまうこともあり得る。

 そこで近年の日米欧の独禁法に関する諸事例でも、企業結合を認めないとした事例は僅かであるが、個別的条件を付けて企業結合を認めた例は少なからず存在する。

 

第2節 市場集中の規制

一.私的独占の禁止

 「市場要件」=競争の実質的制限

「行為要件」=「支配」・「排除」

 「行為要件」である「支配」・「排除」は、当該行為の具体的な態様・意図または市場に対する効果等から、通常の(ノーマルな)企業活動と区別される。例えば、他の会社の株式保有は、それだけで企業支配を可能にするが、単なる企業支配を超えて、特定の反競争的意図から被支配企業に対し具体的に特定の行為を命じ、または禁止すること(東洋製罐事件では、市場分割や自家製缶をなす買い手には売らないように命じたこと)は、株主としての利益のための指図を超えた超えて、東洋製罐自身の戦略的利益のための行為と評価される。

東洋製罐事件(これは「競争の実質的制限」の項で説明した)

パチンコ特許プール事件(勧告審決平成9・8・6)

パチンコ製造業者10社と(株)日本遊技機特許運営連盟が、パチンコ機の製造上重要な特許を所有し、それらを同連盟が管理・運営することにより集積し(「特許プール」の形成)、それを新規参入者に実施許諾しないことを申し合わせ、新規参入を排除していた。

特許権の「行使と認められる行為」に対しては、独禁法は適用除外とされている(法21条)。しかし、当該行為が技術保護制度の趣旨を逸脱し、又は同制度の目的に反すると認められる場合には、独占禁止法が適用される。

<質問> 

1.共同ボイコットだとすると、不当な取引制限ではないか?

2.特許権を持つ者が、新規参入を阻止しようとしてライセンス(特許権の実施許諾)を与えないのは当然ではないのか?

1. について 

「特許権」―――技術に対しての独占を認めるものである

しかし、技術独占が市場独占になるとは限らず、したがって市場独占とは別物である。

「実施許諾」―――他者にライセンスを認める義務は原則としてない。排他的な権利。

しかし本件では、既存パチンコメーカーが保有する特許権の公開・実施許諾を管理していた連盟が、新規参入者に対して実施許諾を認めなかった。

→ パチンコ機市場への、実質上の新規参入拒絶

→ 技術の独占という特許権の範囲を超えて、市場の独占を図ろうとした=「排除」に当たる。

2.について

私的独占と不当な取引制限の異なる点・・・効果にある。

@ 行政処分

A 損害賠償

B 刑事罰

C 課徴金 ← 価格に影響のあるカルテルのみ(私的独占には課されない)          ↓

 連盟・メーカーは、不当な取引制限ではなく私的独占の適用で、胸をなでおろした。

 

パラマウント・ベッド事件(勧告審決平成10・3・31)

東京都財務局が発注事務を所管する都立病院向け医療用ベッドにつき、パラマウント社のベッドのみが納入できる仕様書入札を実現して競争者を「排除」した。都は複数のメーカーが納入可能な仕様書による入札を実施する方針を立てていたにもかかわらず、同社は病院の入札事務担当者に対し、同社の製品のみが適合する仕様を盛り込むよう働きかけ、しかもそれは同社が実用新案権等を有している構造であることを伏せていた。

 また同社は、都の実施する入札に参加する販売業者の中から落札予定者及び落札価格を決め、入札参加業者に対し入札価格を指示する等、これらの販売業者の事業活動を「支配」していることも私的独占に当たるとした。

<質問> 東京都は、どうして パラマウント・ベッドの製品のみが適合する仕様のベッドについて入札に付したのか?

 仮に、パラマウント・ベッドの製品のみが都立病院のベッドに相応しいと判断された場合は、パラマウントベット売る販売業者間の入札でしかできなくなるが、これは同社が技術的に優れているからであって独占になってもやむを得ない?

 

野田醤油事件(東京高判昭和32・12・25)

醤油製造業でシェア第1位の野田醤油が、自己の指示する価格以下で販売する小売業者に対し出荷停止や取引拒絶などの措置を採ったことが、他の醤油製造業者3社の事業活動の「支配」に当たるとされた。

 本判決では、野田醤油がその卓越した事業力と自己のブランドに対する消費者の信用を背景に、上記の諸措置によって小売価格を斉一に維持し、他の3社も野田醤油の商品と同一価格にしないと最上の格付けを維持できないという状況の下で、3社に対しプライス・リ−ダ−の地位を形成・維持していたことが、他社の事業活動を支配したとされた。

 野田醤油は、競争事業者である3社に対しては直接には何らの行為をしてはいないが、上記のような格付けに関する状況を踏まえて、市場全体に対する自己のプライス・リ−ダ−シップを確保・強化する目的で再販行為をしたことは、3社を支配したことになるとされたのである(ここから、「間接支配」と呼ばれる)。

<質問> 消費者が、「キッコーマン」というブランドを信頼したのであるから、野田醤油がプライス・リ−ダ−の地位を形成・維持したことは何ら責められるべきではない?

野田醤油の採った手段が問題。

再販外価格維持行為は、原則違法とされている。

理由:すべての小売店で、その商品の小売価格が一緒になるから

→ 小売店による価格カルテルと同じことになり、小売業者の経営努力を無駄にしてしまう

シェアトップの野田醤油の製品が、再販行為によって、どこのお店に行っても同じ価格で売っており、値崩れがない。

→ 価格とブランド力は、強い関連性がある。

→ 他の3社は、末端価格が野田醤油より低くなるとトップ・ブランド4印という看板を失うことになるから、野田のプライス・リーダーシップに従った価格行動をとらざるを得ない。

→ ブランド力だけでなく、価格などの販売の面でも野田醤油に対して従属的立場となった。





No.9(040611)「国際取引への適用」

第6節 独禁法の国際取引への適用

 「実体上の域外管轄権」と「手続上の域外管轄権」の区別。

 三重運賃事件・審判審決昭四七・八・一八、ノーディオン事件・勧告審決平一0・九・三、天野・ノボ事件・最判昭五0・一一・二八

 前者については、個別具体的な行為を問題にする際に、「一定の取引分野」の画定の仕方、「公正な競争」の範囲について明らかにする必要がある。後者は、各国の主権の尊重とのからみがあり、ある国が自国の独禁法の管轄を独自に広く解することは主権侵害となるおそれがある。

 歴史的には、国際カルテルを禁止することが、戦後の世界経済の自由競争を促進、担保することにつながるという原則論と、各国の独自の経済・産業事情によって独禁法を適用し、あるいは適用しないという各国の個別の政策とが相反しつつ共存。 具体的には、米国の反トラスト法の広い「域外適用」に、各国がどう対抗、対応するかという観点と、各国の独禁法の平準化の進展とともに、各国で相互に協力しながら、それぞれの独禁法を適用していくことにより、国際的な競争制限行為を禁止・抑制していく、という傾向がともにある。

現実の経済社会に対して制度の遅れと限界がみられる一つの典型的分野が、国際取引に対する独占禁止法の適用である。

1.適用には次のような「しかけ」が必要。

(1) 実体規定が国外行為、外国企業も対象とすること

(2) 送達、届出等の手続規定の整備

(3) 調査手法の開発----リーニエンシー制度(独禁法違反行為を公取委に通報した事業者に対し、罰金や課徴金を減免する制度)を含む。

(4) 他国との摩擦回避と積極協力の仕組み(多国間、二国間)

 

2.国際カルテルに対する法適用の状況

最近(2003年4月)、ビタミン国際カルテルについて、韓国の公取委が外国企業に対して自国の独禁法を適用し、高額の課徴金を命じた。

「域外適用」――外国における独禁法違反行為に対して、どうやって法適用をするのか?その調査(立入調査、文書提出命令など)はどうやるのか? 

国際カルテルにより、国内のユーザーに被害が生ずる → 各国とも次々に法適用している。ビタミン国際カルテルではアメリカに始まり(1999年)、カナダ、EU、オーストラリア、韓国。人造黒鉛電極のカルテルでも同様。

国際カルテルへの取組に最も積極的なのがアメリカであり、科される罰金も高額化している(ビタミンカルテルではロシュ社に対して史上最高の5億ドルの罰金)。

日本企業も各国で続々と法適用の対象にされている → アメリカでは罰金や禁固刑の対象となっている。

日本の公取委も、これまで外国企業に対して独禁法を適用しており(ノーディオン事件、機械保険カルテル事件など)、法整備も行っている(平成14年改正で外国に送達する公示送達の規定を新設)。

しかし、国際カルテルに対しては、様々な制約があってあまり有効に対処できていない。

<理由>

外国で行われた行為に関する証拠収集は非常に困難。外国において立入検査などはできない。外国企業からの資料提出や供述録取も困難。

日本の公取委は、ビタミン国際カルテルについては、警告を行ったのみで終わった。

――日本では、国際法(域外適用の限界を画する法理)を狭く解釈していることにもよる。

 

3.各国のこれまでの取組

では、どのようにして上記の制約を克服するか?

各国とも、従来はアメリカの「域外適用」と自国の主権をどのように調整するかが主たる問題。

――1970年代はアメリカの「ロングアーム」と相手国の対抗立法が衝突(事業者は板ばさみ)

その対処として、

@ OECDで摩擦回避の仕組みを議論。理事会勧告による、独禁法担当の行政庁(以下、「政府」)の間での通報・協議システムの構築。

A 二国間協力協定により政府同士で通報・協議を約束

次に、1990年代に入り、国際カルテル、国際合併が多くなる(背景:EU統合、ウルグアイラウンドによる関税引下げ)

 → 1国の規制では足りず、各国が協力して対処する必要。事業者から見ても合併審査では各国当局の調整を期待。

@ 二国間協力協定の第2の波

1991年 アメリカ―EU間で協定

1999年 日米協定

A 実体規定の調和の必要

「カルテルは禁止」というような各国共通の認識がなければならない。

競争法のない国に対する働きかけ

    ―――OECDのハードコアカルテル勧告、WTO、APEC、ICN等の取組

 

4.日本も、日米協力協定の締結、日EU、日加でも交渉を行うなど、二国間協定ネットワークへの仲間入り

<二国間協力協定の内容>

@ 通報規定:相手国の利益に影響を及ぼす自国の法執行については、相手国競争当局に通報する

A 協力:両国の競争当局は相互に情報提供等の協力を行う

B 執行活動の調整:両国の競争当局は特定の事案の法適用に関し、相互の執行活動を調整する

C 積極礼譲:自国に影響する相手国における行為について、相手国に措置を採るよう要請する

D 消極礼譲:法執行においては、相手国の利益に考慮を払う

注:「国際礼譲」international comity----国家間で儀礼・便宜・好意等から一般的に行われる慣例。

現行法でできることを相手国に約束するだけのことであるが、外国当局との協力の環境整備としての意義がある。

国際取引に関する独禁法の適用についての前記の制約を克服することや各国間の摩擦回避の手法などについては、なかなか決め手がないが、もがきながら、1つ1つ解決していくことになろう。

<設問>

 独禁法の域外適用により、事業者に各国からの多重の処罰が課される問題をどう解決すきか?

 現在、この問題を解決する方法はまだない。



No.8(040604)「公共の利益」

五.「公共の利益に反して」(2条5、6項)

 前記(第一節 1条の目的規定)とほぼ重なる論点である。

目的についての通説によれば、「公共の利益」は「公正かつ自由な競争」の促進を意味するから、本要件は具体的にその充足の有無を考える必要はないことになる。

ただし、理論的には、法2条6項などについての具体的な解釈の次元で意味があると説かれている。

しかし、石油価格カルテル刑事事件=最判昭和59・2・24(資料,独禁法百選(第6版)258頁以下)によれば、「公共の利益」は、原則として「公正かつ自由な競争」の促進を意味するが、現に行われた行為が形式的に右に該当する場合であっても、右法益と当該行為

によって守られる利益とを比較較量して「一般消費者の利益を確保するとともに、国民経済の民主的で健全な発達を促進する」という究極目的に実質的に反しないと認められる例外的な場合は、本要件に該当しないことになる。

 ただし,同判決が言うような「例外的な場合」が実際にあり得るかは疑問。実際には,そのような場合があると仮定しても,その場合は,新規に立法するなど独禁法に違反しない形態の行政を目指すべきである。

同判決における「公共の利益に反して」は、次のいずれなのか明白ではない。明文のない違法性阻却事由(民法では、正当防衛、緊急避難、正当業務行為、被害者の承諾など。刑法では、正当防衛、緊急避難、正当行為など)か,それとも,不当な取引制限の構成要件の1つなのか。

 

「保護に値する競争」論、あるいは違法性阻却論(教科書54頁以下)

 大阪バス協会事件=審判審決平成7・7・10(教科書56頁)---道路運送法違反の低料金での競争、「ダンピング競争」は、独禁法上保護に値しないから、最低運賃を同法上「標準運賃」として認められている額の40%ないし50%とした協定は、「競争を実質的に制限する」(独禁法8条1項1号)とすべきではない、という解釈。

しかし、構成要件には該当するが、「違法性」を有しない、という解釈も可能。

本件のように,道路運送法など各種の事業法違反の行為を止めさせようというカルテルも、その規制が実効性をほぼ全く失っている場合には、ただちに「保護に値する競争」論から独禁法違反に当たらない、とすべきではない。

 本件審決(1)「本件のように運賃等が現実に主務官庁による認可を経ている場合−−−、明示的な適用除外規定がないにもかかわらず、当然に独占禁止法の適用が排除されて終わる、ということはできないし、−−−道路運送法の関係規定が当然に独占禁止法の関係規定の内容、趣旨を規定し、拘束するものではなく、この問題は、専ら同法の見地から判断すべきである」。

(2)運賃カルテルは、「原則的に」独禁法三条、又は八条一項一号の構成要件に該当するが、「その価格協定が制限している競争が刑事法典、事業法等他の法律により刑事罰等をもって禁止されている違法な取引−−−又は違法な取引条件(例えば価格が法定の幅又は認可の幅を外れている場合)に係るものである場合に限っては、−−−特段の事情のない限り」、前記各条の「競争を実質的に制限する」という構成要件に該当しない。(注、これを「保護に値する競争」ではないから、と解釈する説がある)

 この「特段の事情」のある場合として、「当該取引条件を禁止している法律が確定した司法部における判断等により法規範性を喪失しているとき」が挙げられ、また、本件に即した例としては、 (1)「事業法等他の法律の禁止規定の存在にもかかわらず、これと乖離する実勢価格による取引、競争が継続して平穏公然として行われ−−かつ(2)その実勢価格による競争の実態が−−−独占禁止法の目的の観点からその競争を制限しようとする協定に対し同法上の排除措置を命ずることを容認し得る程度までに肯定的に評価される」ときを挙げることができる。

 本件協定については、前記の(2)について「特段の事情」の立証がないから八条一項一号の構成要件に該当しない。

 

大阪バス協会事件(教科書56頁)の審決要旨

1. 運賃カルテルは、「原則的に」独禁法三条、又は八条一項一号の構成要件に該当する。

2. しかし、「違法な取引条件(例えば価格が法定の幅又は認可の幅を外れている場合)に係るものである場合に限っては、−−−特段の事情のない限り」、前記各条の「競争を実質的に制限する」という構成要件に該当しない。本件の運賃カルテルは、「法定の幅又は認可の幅を外れている場合」に当たる。

3.本件協定については、前記の2.における「特段の事情」の立証がないから八条一項一号の構成要件に該当しない。

<質問>

 そもそも、どうして「ダンピング競争」、「出血競争」がこんなに広く長く続くのか?

 儲けていないなら、または、そこそこ儲けているに過ぎないなら、値上げカルテルはいいのか?

 大手のユーザー(日本交通公社など)には安く、小学校などには高く、でバランスがとれているとしたら、これは道路運送法の趣旨とは異なるし、独禁法上の「不当な差別対価」に当たるか、それとも競争の当然の結果か?

 (旧)運輸省の道路運送法の運用は、どう評価すべきか?

 

本事件において,大手のユーザーが取引の優越的地位を利用して不当に低い対価をバス業者に強いているとすれば,そのこと自体が独禁法の問題である。しかし,それに対抗するためにカルテルをやっていいのかは場合による。独禁法違反行為には,まずはそれ自体を公取委に申告するなり,私訴で対抗するのがスジ。もっとも,これは報復措置がとられるであろうから,実際上こうすべきだというのは難しい。

上記の独禁法違反がないとすれば,道路運送法による料金規制の力が市場より弱いことを意味する。

そうすると,規制緩和の結果が実勢運賃の低下,認可料金との大幅な乖離をもたらしたのに、運輸省は建前を変えてないからこういう現象が起こったのである。

 

日本遊技銃協同組合事件(教科書55頁その他各所)―――一般論として、安全性について一定水準以下の競争を防止するための自主基準であれば「公共の利益」に反しない、あるいは違法性を認められない、という解釈。

しかし、第1に、公的基準(特に法律に基づく安全規制)と、事業者間で作られた自主基準の関係を個別具体的に見るべき。本来は、前者(公的基準)のみで解決すべきであり、これ以外に、後者(自主基準)が仮に必要だとしても、それが新規参入者を排除し、競争を抑止するための既存事業者間の不当なカルテルではないか、という見方が重要。

第2に、仮に、上記の目的が不当なものではないとしても、そのための手段は妥当か、必要最小限か。販売事業者にボイコットさせるなど、必要以上に厳しい拘束をかけるものではないか。

 

<質問> このような自主規制は必要か。公的規制より、自主規制の方が事業者の自由が認められるからいいのか?

公取委のガイドラインでは、自主規制が「強制」のない限り、目的・手段が相当であれば認めるとする。



No.7(040528)「競争の実質的制限」

第2章 第5節 独占禁止法の基本概念

四.「競争の実質的制限」(2条5、6項、8条1項1号)

 「競争の実質的制限」は,特定の事業者または事業者集団が市場支配力を形成・維持・強化している状態を意味している。

東宝・新東宝事件=東京高判昭和28・12・9、土判例百選(第3版)----資料2

市場支配力の形成・維持・強化とは,典型的には市場における価格その他の取引条件を支配する力または市場の開放性を妨げる力を形成・維持・強化することであり,現実に価格が引上げられたとか事業者が市場から排除されたことを必要とするものではない。

しかし,市場支配力は相対的な概念であり,その内容は必ずしも一義的ではない。一方の極では,経済学でいう「完全競争」の条件が欠ける場合には常に市場支配力が形成されるとみることもでき,他方の極では,「完全独占」に至ってはじめて市場支配力が形成されるとみることもできる。

独禁法の現実の解釈運用においては,「有効な競争」を期待することがほとんど不可能な状態をもたらす場合に市場支配力が形成されるとして,右の中間的な立場がとられている。

 「競争の実質的制限」の存否は,一律に特定の基準によって判断されるのではなく,当事会社の属する業界の実情,各取引分野における市場占拠率,供給者側および需要者側の各事情,輸入品および代替品の有無ならびに新規参入の難易などの経済的諸条件を総合的に考慮して(公取委ガイドライン)、個々の事件および具体的な行為類型ごとに判断される。

この場合には,経済学上の有効競争の基準のうち、主として「市場構造基準」の利用が、補助的に「市場成果基準」の利用がそれぞれ一定の有効性を発揮することになる。

1.競争が有効に機能していれば、当該市場における価格などの取引条件は、市場が決め、参加者はそれに従わざるを得ないはず(price taker)。

しかし、実際には、ある程度の市場力を有して、自己の市場戦略をかなり通すことができる企業もある(price maker)。

2.現実の多くの市場は、経済学上の「完全競争」(教科書27頁以下参照)ではなく、大企業がある程度の市場力(market power.「市場支配力」まではない場合を含むこととする)を有している。

 「競争の実質的制限」は、「市場支配力」の獲得・維持・強化のこと。

独占(Monopoly)・寡占(Oligopoly)・多占(Polypoly)

 寡占は、「高度寡占」等々の分類がある。事業者の数、そのシェアの分布、需給の状態、関連市場の関係等から、競争的にも、反競争的・協調的にもなり得る。

 price leadership, conscious parallelism――例:かつてのビール、全国紙、1年ほど前までの固定電話発携帯電話着の料金

 これらの場合、「意思の連絡」がないから、「不当な取引制限」には当たらず、それ自体では(それ以外に反競争的行為をしていないのであれば)独禁法違反ではない。

3.そのような市場力が、競争の中で自然に獲得されたものか、それとも競争制限を目的とする反競争的行為によって獲得されたか、をみることが重要である。

例、東洋製罐事件

 東洋製罐事件では、同社がわが国の食缶供給の56%を供給し、系列下にある4社をも含めると74%に達するという支配的状態の下で、これら系列4社に対し、役員派遣、株式保有、あるいは各種の事業活動への干渉を行ったことが「支配」に当たり、また、その買手である缶詰製造業者が自家製缶を始めようとしたことに対し、供給停止などで圧力を加えて阻止したことが、「排除」に当たるとされた。

 

4.また、この場合、price makerとなったトップ企業に対し、競争事業者がどう対抗するかも、「市場支配力」の有無ないし程度を判断する要素の1つ。

 正面から価格や新製品で競争を挑む場合は(ホンダに対するヤマハの失敗例)、競争的寡占であるが、それが失敗に終わったということはホンダの支配力が強いことの証明でもある。

リーダー企業と同一またはそれよりやや低い価格で追随する場合(野田醤油事件、80年代の長距離通信市場)、競争は不十分である。

5.さらに、新規参入を阻止しようとする行為は、それが一定の効果を持つ限りで「競争の実質的制限」に当たることが通常。

例、前掲の東洋製罐事件

例、日本遊戯銃協同組合事件(東京地判平成9・4・9)

遊戯銃には衝撃度合についての法律上の規制があり、これに上乗せして、同組合は法的基準よりも厳しい自主規制を行っていた。

 ある遊戯銃メーカーが、法的基準以下ではあるが組合の自主規制を超える製品を販売したところ、組合は卸・小売業者に対して、当該製品を販売するならば、その他の組合所属メーカーの製品を供給しないと脅して、当該商品を市場から排除した。

 

6.実際の規制においては、私的独占でも不当な取引制限でも、行為要件に該当し、かつ「競争の実質的制限」(市場要件)に当たる場合にのみ規制が発動される。「競争の実質的制限」に当たることだけで違法とされるわけではない。

「競争の実質的制限」の判断基準のうち最も重要な市場構造基準のうち、特にシェアが高い企業でも、具体的な行為がどのようなものであったかが問われる。シェアが高いという状態だけでは、独禁法違反にはならない。

シェアが高い事業者または独占状態にある事業者の例として、公益事業を営むNTT地域通信会社、各電力会社、都市ガス会社、上下水道など。

米国のマイクロソフト社も、パソコンOS市場では90%を越えるシェアであるが、この地位を利用してパソコン・メーカー等に強圧的行動をとり、競争者を排除したという行為が、米国の独禁法(反トラスト法)違反とされた。



 


No.6(040521)「一定の取引分野」

第2章 第5節 独占禁止法の基本概念

三.「一定の取引分野」(教科書42頁)(2条5、6項、8条1項1号)

「一定の取引分野」とは,競争が行われる場,すなわち一定の供給者群と需要者群との間に成立する「市場」である。

「競争の実質的制限」や「公正競争阻害性」の存否が判断されるのは,「一定の取引分野」においてであり、具体的な競争制限・阻害行為を見ながら「一定の取引分野」が確定される。具体的には、私的独占や不当な取引制限の禁止に反する疑いのある行為が「競争の実質的制限」に当たる行為か否かを判断する際に、当該行為がどの範囲の競争に影響を与えるのかを画定しておく必要がある。この場合、「一定の取引分野」と「競争の実質的制限」・「公正競争阻害性」は、互いに関連して判断される。

「一定の取引分野」の範囲は,共通する取引の対象,段階,地域、相手方等によって画定される。

取引の対象による「一定の取引分野」を商品市場、地域による「一定の取引分野」を「地理的市場」と呼ぶ。

商品市場については、当該商品・役務の用途,性質,価格などを総合的に考慮することにより、主として需要面での合理的な代替可能性があるか否かを判断することによって決められるが、供給面での合理的な代替可能性が補完的に考慮されることもある。

いわゆる「ブランド品」などのように、特定メーカーの商品・役務が極端な製品差別化に成功している場合においては、いわゆるブランド内競争が展開される特定メーカーの商品・役務のみについて「一定の取引分野」が構成されることもある。

 

「不当な取引制限」=俗に言う「カルテル」の場合は、それが実効性をもって行われれば、当該カルテルの対象がそのまま「一定の取引分野」であるので、「一定の取引分野」をとりたてて画定する必要はない。

これに対し、「集中」=「企業結合」の場合は、影響が出る前に前もって判断しなければならないので、この「一定の取引分野」画定の問題が重要になる。

1.地域による「一定の取引分野」の画定

集中の例として、東宝・スバル事件・独禁法百選(第四版)16頁以下----資料1

「営業の重要部分の賃借」(独禁法16条3号)に該当する本件契約の締結が、一定の取引分野における競争を実質的に制限することとなる場合」に該当し違法であると判断された。

・公取委審決(昭和25・9・29)

一次的:丸の内・有楽町界隈(8/10 90.4%)、二次的:東京都興業組合銀座支部の管轄地域(8/20 57.9%)、という二段構えの判断方法。

・東京高判昭和26・9・19)、最判(昭和29・5・25)

旧東京市の全部から判断すべきとする原告の主張を否定。上の銀座で見るべきとした。

2.商品または役務(=サービス)による「一定の取引分野」の画定

「一定の取引分野」についての例として、PHS、携帯電話、固定電話の3者は、別個の商品・サービスであり、別個の市場であろうか。

PHSより携帯電話は、ユーザーにとってほぼ同様の用途のためであり、当初は競合すると見られていた。しかし、実際には、PHSより携帯電話の方が優れているという漠然としたイメージが広まったこともあり、後者の利用者が急増。そのことが、更なる料金の低下をもたらし、携帯電話会社間の競争が激化、それがサービスの差別化を進めることになった(iモードなどのメール・ブラウザー機能の付加)。

また、携帯電話の料金の急激な低下によって、今度は固定電話との競争が表面化。→ 携帯電話と固定電話はともに同一の「一定の取引分野」を構成する、という意見が有力になってきた。

この立場から、東西NTTとドコモが兄弟関係にあることは、企業結合による競争制限につながるのではないか、したがって、NTT持株会社のドコモへの出資割合をより低下させるべきだ、という政策課題が提示された(公取委・政府規制等と競争政策に関する研究会「電気通信事業分野における競争政策上の課題」平成12年6月、郵政省・電気通信審議会「IT革命を推進するための電気通信事業における競争政策の在り方についての第1次答申」平成12年12月)。

携帯(M)と固定(L)の料金格差が、最も重要な判断材料。

両者は同一の取引分野に属するか、それとも別個の取引分野かについては、決定的な議論はないであろう。そもそも、「一定の取引分野」は、具体的な行為や状況の中で問題とされるのであり、それを離れて一般的な議論はしにくい。

 

 商品市場と役務(サービス)市場が相互に関連する事例-------ドコモの「外販許諾」について公取委が警告(平成11・4・27)。

ドコモが、4社から外販許諾の申請があった場合、4社が製造するNCC向け端末機の販売開始時期を制限(販売時期を遅らせるなど)することによって携帯電話市場における競争を減殺している可能性があり、「不公正な取引方法」の一般指定13項(拘束条件付取引)に該当。

 第一に、端末機メーカーが「ドコモの技術を使用した端末機を第三者に販売するときは、ドコモの許諾を得なさい」という拘束には合理性がない。

 端末機の技術の大半は、メーカー独自の技術であり、ドコモとの共同開発にかかる技術は「通信関係」に限られるにもかかわらず、端末機全体を外販許諾にかけるのは、ライセンス契約における権利の濫用に当たる。

 第二に、外販許諾の目的は、自己の権利を守るのではなく、競争者の端末機開発を遅らせようということであることは明白(公取委は、これを明文では言っていないが)。

 ここには、携帯電話の競争の特殊性、すなわち、通信サービスよりも端末がユーザーを引きつけるという特性が明確に表れている。この点に着目し、また具体的な行為(外販許諾)がここに影響を与えようと言うことであるから、このような行為を独禁法上問題にする場合には、固定電話とは別に、携帯電話が独立した1つの「一定の取引分野」であると捉えるべきであろう。

3.取引段階、取引の相手方の種別(例えば大口ユーザー)等による「一定の取引分野」の画定





No.5(040514)「独禁法の目的 事業者」

第二章 独占禁法の仕組みと基本概念

第一節 一条の目的規定

 1条を分解すれば、以下の3つの部分に分けられる。

独禁法における諸規定の内容:「私的独占〜排除することにより」

直接目的:「公正且つ自由な競争を促進」

間接目的:「一般消費者の利益〜促進すること」

 

立法目的は、直接的に「規範」としての性格をものではく、当該法律全体の性格を規定し、それに基づき各規定の解釈基準となる。

1.通説----「公正かつ自由な競争」の促進それ自体が目的。

2.政府の産業政策を進める立場----究極的な目的である「国民経済の民主的で全な発達の促進」に合致する限りで、競争政策がとられ、合致しない場合はそれ以外の政策がとられるとの考え方。

これに基づき、かつての日本政府は、非法的な、あるいは適用除外法などにより、集中(合併促進など)政策や、過当競争のためのカルテル容認政策をとった。

過当競争----経済学では否定。伊藤元重ほか『日本の産業政策』(東大出版会、1985年)223頁、ラムザイアー『法と経済学』(弘文堂、1991年)163頁等を参照。

3.一般消費者、中小企業などの経済的従属関係にある者の平等権の確保(正田彬)。通説も、「公正な」競争の解釈によっては、この説と同じ結果となる。

4.石油カルテル刑事事件・最判昭和59・2・24は、上記1と2の中間的立場。ただし、傍論に過ぎない。

 通説が妥当であるが、これは競争だけが目的で法的価値があるとするものではない。競争は、「望ましい経済成果」と「民主的な経済秩序」(実質的な意味での「消費者主権」)をもたらす。

 したがって、実態と独禁法による規制の関係を見るためには、具体的ケースごとに、競争と究極的目的の連関を確かめる必要。

ただし、解釈論としては、問題となっている行為が究極的目的に合致しないこと、あるいは「公共の利益」に反することは、独立の要件ではなく、したがって、それを違法を主張する側が立証する必要はない。

「公正な」競争とは?

例)日米貿易

 日本から米国への輸出が多すぎる(貿易黒字)。

 その象徴として、米国の自動車メーカーは、自国車を日本で売る手だてが総代理店しかないと主張。

 これに対し、日本企業は非常に強固な流通系列がある(トヨタ→トヨタ販売店)

 これをアメリカは「不公正」だとして批判。 

<その他>

@ 競争の前提が整っていない。→消費者が公平に商品を選択できない

特に、商品情報(品質・性能・原材料・取引条件など)が、ユーザーに正しく伝わっているか?

選択に必要な情報量は十分か?嘘はついていないか?

A 取引力の濫用

労働者を搾取して賃金を安くするのはフェアではなく、公正な競争にならない。

「フェア・トレード」運動

 「取引」と「競争」・・・密着した概念

 取引が公正なものでなければ、競争も公正なものでなくなる。

 

三・四「有効競争」

 有効競争論においては,次のような「市場構造基準」,「市場行動基準」、または「市場成果(業績performance)基準」を満たすときに有効競争が実現されていると見るべきであるとされてきた。

市場構造基準の立場は,@集中度があまり高くなく,A市場参入が容易であり,B極端な製品差別化がないような場合。

市場行動基準の立場は,@価格について共謀がなく,A製品について共謀がなく,B競争者への強圧政策がないような場合。

市場成果基準の立場は,@技術の進歩・革新への絶えざる圧力があり,Aコストの引下げに対応して価格が引下げられ(正常利潤を超える独占利潤が獲得されていない),B当該産業が効率的な適正規模の企業から構成され,C販売費が浪費的でなく,D慢性的な過剰能力がないような場合。

上の3つの立場の中で、独禁法の解釈・運用という場面では、法の実効的な実現・執行という要因が重視されるために,相対的に明確かつ客観的に判定可能な市場構造基準と市場行動基準とを基本としながら,客観的判定の困難な市場成果基準を補助的に取り入れるという態度がとられてきた。なお、市場行動基準は、独禁法の禁止する各行為類型(例:私的独占、不当な取引制限)の行為要件にも取り入れられている。

 

五・六 望ましい経済成果と民主的な経済秩序

 特定の経済理論から直ちに独禁法が生まれるわけではなく、あるいは解釈されるべきではない。

 すべての法は、歴史的産物。それぞれの歴史的文脈の中で生きている。同時に、法理論による裏付けが必要。例えば、「消費者の利益」の意義。

 

第三節

 独禁法の「三つの柱」

1. 私的独占と集中----行為要件は「排除」「支配」、市場要件は「競争の実質的制限」

2. 不当な取引制限----行為要件は「相互拘束」「共同遂行」、市場要件は「競争の実質的制限」

3. 不公正な取引方法----行為要件は各行為類型で様々、市場要件は「公正競争阻害性」

 このうち、特に私的独占と不当な取引制限の「要件」と「効果」について簡単な説明。

3条  事業者は、私的独占又は不当な取引制限をしてはならない。

19条  事業者は、不公正な取引方法を用いてはならない。

これらは実体規定であり、規範である。

2条5項、6項、9項などは、定義規定であり、要件が規定されている。

これらに該当すれば3条、19条などに違反したことになる→効果(7条、7条の2)

 

第五節 独占禁止法の基本概念

一.「事業者」概念(教科書39頁)(2条1項、2項)

1.商品又は役務(サービス)を対価を受けて継続的に供給する経済事業を独立して行う者

2 私企業と公的企業(所有が国、地方自治体など、又は、「特殊法人」のように法的形態が私法人でなく、公法人=公的組織形態)とを問わない。

 東京都と畜場事件・最判平成1・12・14

3.事業が、文化的なもの等、非経済的・非営利的な性格を有していても、同時に経済的行為としての側面も持っていれば、「事業者」である。 

 千葉市医師会事件・勧告審決昭和55・6・19(その他、同種の事件多数)

「プロフェション」としての特別の制度(弁護士、医師、建築士等)。

 営利を目的とする組織であるか否かを問わず(現行法は、非営利の組織に限る例がほとんど。株式会社が医療事業を手がけることを禁止。医療法人、学校法人、弁護士事務所・弁護士法人)、各事業のプロとしてそれぞれの技能を生かして事業を遂行すること自体が目的。「医は仁術」。

建築士協会の会則は、「建築主の利益」も目的に加えたが、これが利益相反にならない理由付けとして、建築士は「プロフェション」であるから。

 

4.俳優・タレント・職業選手の中でも、自己の計算で、独立して事業活動をしている場合は事業者性が認められる。

それ以外の、芸能プロダクションやプロ野球の球団等に所属し従属関係にある場合は、事業者性は否定され、労働関係として扱われる。この意味は、選手の団結は、労働基本権の1つとしての団結権として保護され、独禁法上の「共同ボイコット」として禁圧されない、ということである。

 事業者の共同行為による労働力の買い叩きが「契約の自由」の名の下で野放しにされながら、労働者の共同行為を罰してきた米国のシャーマン法の血塗られた歴史の中で、労働免責(労働者の団結は独禁法の適用を受けず、労働法の保護を受ける)が次第に確立。

労働力は、生身の人間を一定の経済的行為に従事させることから商品価値が生じるのであって、一般の商品とは異なること、また、雇用関係は通常の取引関係と異なり、支配従属関係に立つことが特徴的であるからこそ、労働法による特別の規律によって労働基本権を確保する必要が認められる。これらを根拠に、球団と雇用関係に立つ選手との関係には、独禁法の適用を否定すべきであると解される。この見解によると、球団側は、選手に対し労働者としての権利を保障しなければならず、選手を構成員とする労組には団交権等が認められる。

これに対し、球団側の買い手カルテルとしての不当性を出発点として考えるべきであるという見解もあり得る。これによれば、経済の実態においては、労働力も「商品」であり、雇用関係がそっくり独禁法の適用除外になるという解釈は妥当ではない。労働力の「商品」扱いを労働者の権利保護の方向で否定するのが労働法であるが、反対に、雇用者側の買い手カルテルまで認めようというのは、むしろ労働基本権の趣旨に反するし、独禁法の適用があると解すべきである。この見解によると、球団側が、共同して選手との取引条件を決定すれば、「不当な取引制限」(カルテル)に当たると解される。

上の2つの見解のどちらをとっても、日本の球団側が定める諸ルール、あるいは団交を誠実に行わずに勝手に決定するような行為は、労働者の基本権を侵害するか、独禁法違反に当たる違法な行為である疑いが強いと言えよう。

 

・社団法人日本野球機構「日本プロフェッショナル野球協約」15章「新人選手の選択」(いわゆるドラフト制度)---新人選手は、労働法の保護を受けられるか、それとも独立の事業主か。後者であれば独禁法上違法なカルテルの疑いがある。なお、米国では、従来は判例上、プロ野球に対して反トラスト法を適用除外してきたが、適用を認める判決も多く出始めている。

・「弁護士団体が球団に質問状 プロ野球の閉鎖性にメス 契約更改交渉で代理人排除違法 独禁法『地位濫用』に抵触」日経新聞1992年11月30日付け朝刊。2000年ようやく「代理人交渉」を容認、しかし、渡辺オーナーの骨抜き発言。

・「1軍選手は労働者か否か」西村欣也・朝日新聞2002年3月26日付け朝刊(資料配付)。なお、労組日本プロ野球選手会は、既に10年ほど前に労働組合法上の「労働組合」として適合するとされ(同法2条、5条参照)、登記し法人となっているとのこと(同法11条参照。小西先生のご教示による)。

・ 「巨人一人勝ちいいのか」大橋巨泉・朝日新聞2002年3月26日付け朝刊。

・「日本スポーツ仲裁機構」(Japan Sports Arbitration Agency)(略称JSAA)

2003年4月設立 http://www.jsaa.jp/

国際オリンピック委員会(IOC)から独立して「スポーツ仲裁国際理事会(International Council of Arbitration for Sport):ICAS」

スポーツの運営をめぐって選手と競技団体との間に紛争が生ずることに対応

長野冬季オリンピックの際に長野で行われた活動、シドニー・オリンピックへの水泳の代表選手選考から漏れた千葉すず選手による日本水泳連盟に対する申立て

これと独禁法の問題は(直接的には)別であるが、スポーツについても法的仕組みの重要性が認知されてきたことは大きな意義がある。


No.4(040507)「規制緩和」

(4)規制緩和と行財政改革

競争原理の定着、事業者の「自己責任」、「規制の失敗」(政官産の癒着、各種の犯罪にまで)

 「経済的規制」-----経済政策的観点(合理化、効率化を図るため等)からなされる規制(例;電気通信事業法、電気事業法、金融規制のための諸法)。

 「社会的規制」-----一定の社会的活動(同時に経済的活動でもあり得る)に対し、経済的影響を度外視して、ある社会政策的目的の実現のために規制を加えることを指す(例;環境保護・リサイクル促進、食品衛生法、学校教育法)。

しかし、社会的規制が、必然的に市場経済と何らかの関わりを有することは言うまでもない。例・薬事法の違憲判決,リサイクル促進のための諸法

 独禁法についても「規制緩和」の主張 → 産業界からは、持株会社禁止の緩和(平成9年改正)、企業結合規制の緩和(9条の2廃止)などの主張。

 

規制緩和(deregulation) (『法律学小辞典』有斐閣より)

1. 意義

 もっとも広義では、私人に対する国や地方公共団体等による公的関与・制限を撤廃あるいは軽減すること。狭義には、民商法による一般的規制とは別に、その時々の個別具体的な経済政策的観点から、対象行為・領域等を限ってなされる規制(「経済的規制」)を緩和することに限って用いられる。この場合には公害・環境問題への対応とか青少年保護、一般的に言えば、社会の安全・秩序維持などの目的による社会的規制の緩和は含まれない。

2. 対象とされる産業分野

 米国で規制緩和が主張されだした当初は、電気通信・電力などの公益事業や、運輸事業、金融・証券・保険事業などのいわゆる規制産業、すなわち特定の商品・サービスに関する価格形成・品質水準の決定、当該事業の開始・継続・終了、設備投資計画などの経営の重要事項について、法律に基づく各種の規制が加えられる産業が問題とされていた。日本では、上記の諸分野の他、独占禁止法の適用除外分野の縮減が進められ、更には規制緩和の主張は、上の意味での規制産業に限られず、土地取引、農林魚業、商業、中小企業の組織・活動、大規模小売店舗(大店法)の設置・拡大等の分野も問題とされている。また、規制緩和の主張は、規制が私人の自由の制限に当たる場合に限られず、私的経済活動に何らかの公的制限・関与(補助金などの積極的な助成等を含む)が加えられることへの見直しにも広げられている。→「独禁法の適用除外」、「カルテル容認法」

3. 規制緩和の理由

 規制緩和の理由としては、公益事業について顕著な技術革新により競争原理がより有効に機能するようになったこと、より多くの産業について競争による資源の最適配分の方が規制によるよりも有効・適切だとされること、規制のコスト(単なる費用の比較のみならず、規制による企業の効率化へのインセンティブの抑制、規制行政庁と「族議員」および被規制企業との間の不明朗な癒着の傾向)への批判などが挙げられる。従って、個別分野ごとの規制を緩和し、独禁法による競争秩序の維持を目指すべきであるという主張が一般的になされるが、独禁法や商法による一般的規制も緩和すべきであるという意味にも用いられることがある。 

4. 具体的な緩和の対象と方法

 個別分野ごとの規制のうち、緩和すべき規制としては、参入規制(特に、需給調整条項に基づくもの)、価格・サービス規制、事業者間の取引規制などがある。この他、保安規制等も従来の規制が過剰であるとして緩和された分野もある(例えば、電気事業法など)。さらには、いわゆる「民民規制」として、事業者団体などによる規制も問題であるとする意見も強くなっている。

 緩和の法的形態としては、手続上、認可・許可などを届出又は非規制に変える方法のほか、規制行政庁だけに委ねずに情報公開による社会的監視を導入する傾向が強まっており、また実体法上も、電気通信分野における料金規制における「総括原価主義」による規制をやめて「上限価格制」を採用するなどの代替的方法が検討・実施されている分野もある。

<設問>

電力料金は、一般電気事業者が供給する場合、一般の需要に応じる場合(家庭向け)は認可料金、これに対し、「特定規模需要」(大口ユーザー)に対する場合は自由料金となっているが、この理由は?

 

第2節 市場経済秩序の基本法としての独占禁止法

 市場経済体制を採る諸国においては,独禁法が経済法秩序の基本としての位置づけを与えられている。

1. 競争秩序の維持が,経済の効率的な発展,技術進歩,経済成長,物価安定などの経済政策の目的を実現するために有効

2. 競争秩序の維持が,多くの市場経済体制の諸国がその政治的,社会的目的としている自由で民主的な社会の形成と維持にとって重要な条件

競争秩序の維持は,それによって可能なかぎり市場の自動調節作用を生かし,政治権力の恣意的拡大を阻止するとともに,私的な経済権力を分散させ,消費者の選択の自由と企業の機会の平等と自由を確保することによって民主的な経済秩序を実現し,そのことが自由で民主的な社会の存立基盤を形成する。

 

 


第3回(040430)「著作物の再販、系列取引」

*「再販売価格維持行為」

ただし著作物(書籍,雑誌,新聞,音楽レコード・CD)については、再販禁止の適用除外(同条4項)。

<設問> なぜ著作物については特例として再販を認めるのか?

 感情論として著作者のプライドを守るためだということも説かれることがある。

 著作協会と日本レコード協会の見解は,著作物について再販による超過利潤を認めることによって,儲けの少ない出版・販売を可能にし,多様な文化を保護することになるというもの。

 また他に,代替性の低い著作物の小売店における膨大な商品の品揃えを確保することによって(小売店から出版社への無償の返品を認める),文化の多様性を守るためだという説もある。

 しかし,米国をはじめ,多くの国では著作物についても一般の商品と同様に再販を原則禁止としていて,文化の多様性が失われているという事実はない。

* たばこ事業法33条1項 日本たばこ産業株式会社と「特定販売業者」(輸入したたばこを販売する者)は、小売り定価を定め、大蔵大臣の認可。36条で、これ以外の価格での販売禁止

財政収入、たばこの商品特性から競争による販売増加は望ましくない。

 昭和30年代以降の、「寡占」、「管理価格」、「非価格競争」などによって表される非競争的な寡占市場の状況は、主にインフレ基調の経済の下で、同調的価格の引き上げやプライス・リーダーシップ、あるいはコストダウンによって下がるべき価格がそれほどには下がらない、という現象に対するものである。

 今日の継続的な価格の低下、あるいは最近のデフレ経済の下では、上記の諸現象はそのままではあり得ないことである。ただし、再販売価格維持行為は価格の低下を食い止める戦略として、今日でも有効であり、実際にこれに当たる事例が、メーカーの支配力の強い化粧品等の分野において散見される。

(3)80年代からの日本市場の閉鎖性、「系列取引」をめぐる議論 日米経済構造協議(最終報告書、1990年)。

日本は、巨大な貿易黒字に象徴されるような「経済大国」となり、他方で、米国は貿易・財政という「双子の赤字」に苦しんでいたという背景。

「日本的経営」の優秀性が喧伝されていたが、独禁法が十分機能せず、「系列」などによって、日本市場の多様な閉鎖性が海外からの参入を阻害しているという批判。

 最終報告書の直後(1991年)から、日本は長期不況に陥り、「日本的経営」、「系列」等々は崩壊過程に入る。企業集団、株式の相互持合等に基づく特殊な経営者支配に立脚していた、わが国の株式会社の支配構造も、「コーポレート・ガバナンス」(公開会社の経営者支配のあり方。効率的な経営の確保、経営上の違法行為の抑止(=コンプライアンスの確保))の見直しとして問題になっているが、株価低迷対策とも関連するので、構造問題にまで改革が行われるか疑問。

「系列取引」

1.「企業集団」---企業間の株式の持合・役員の兼任などによる「固い結合」(= 企業集中)によって形成される。旧財閥の流れを組む大企業が構成メンバーとして「ヨコ」の結合関係にある六大企業集団と、大企業がその子会社・関連会社などを支配し「タテ」の結合関係を形成する独立系企業集団とに分かれる。欧米諸国から、keiretsuという用語によって日本の閉鎖的取引慣行を象徴し、非関税障壁として機能していると批判された。

例えば,「相互取引」が違法とされる場合があり、またその他の「不公正な取引方法」に当たることもある(「経済法2」で取り上げる)。

2. 系列取引

 上記の企業集団に属する企業間の取引を指すこともあるが、正確には、企業間が固い結合をしているかどうかを問わず、企業間の取引関係が固定的継続的なものを系列と呼ぶ。この意味の系列取引は、ブランド力のあるメーカーと卸・小売業者の間の流通(販売)系列、あるいは組立メーカーと部品メーカーの間の生産(下請)系列などに見られる。その特徴は、単なる固定的継続的な取引関係だけでなく、取引上、「優越的地位」にある企業が、自己の販売政策や生産政策を実現するために、系列下の多くの企業を組織化し、取引条件などを一方的に決定するなど支配することにある。それが「優越的地位の濫用」や、「不当な拘束条件付取引」、「排他条件付取引」あるいは「不当な取引拒絶」などに当たる場合は、「不公正な取引方法」として禁止の対象となる。

他方で、このような系列は、企業集中とスポット的な取引関係の中間的な性格を有する組織化の一形態であって、効率的な日本的経営方法の1つであるとの議論もなされている。

 この系列問題は、近年の状況下では、多くの産業分野において顕著な変化が見られるようである。特に、企業集団の核であった金融機関について、企業集団を超えた企業集中が多く行われつつある。また、例えば製造業(特に自動車・家電などの組み立て産業)において、いわゆる「専属下請」が解消され、下請企業は親企業と競争関係にある企業にまで取引を広げようと努めつつある。

しかし、この問題が全く消滅したかどうかは不明。

<設問> 近年になって,株式持合い現象が減っている理由

 株価の低落、金融機関にとっては自己資本比率規制が大きな原因




第2回(040423)

(4)憲法と経済法の関係。

 憲法22条1項の「職業の自由」は、一般的な経済的自由、すなわち職業選択の自由だけでなく、職業活動の自由も含むと拡大されて解されている。しかし、「公共の福祉に反しない限り」という限定がつき、法律・行政による自由の制限が認められる。

(5)行政法と経済法の関係

 行政法の基本原理である「法律による行政の原理」

行政指導は、「公権力の行使に当たる行為」=「処分」ではないから、それに従うかどうかは相手側である私人の任意(行政手続法2条6項)。

行政指導に従ったカルテルは、独禁法違反に当たるか?

石油価格カルテル事件・教科書168頁参照。 石油カルテル刑事事件最判・独禁法審決・判例百選20頁以下

石油カルテル事件においての被告側の主張

@ 行政指導に従ったため実質的な違法性はない

A 狂乱物価を防ぐため価格協定をしたので独占禁止法の目的である国民の利益に反しない

これに対する反論

@ 行政指導に従った行為であっても、そのこと故に違法性が阻却されるわけではない。

A 大幅値上がりになるという予測の立証がされてない。また理論的にも、真の競争が存在することを前提とすれば、価格はしじょうにおける需要と供給の関係から決まるのであって、原価の値上がりが直ちに商品の値段に反映されるとは限らない。

 

その他、独禁法等の経済規制法の具体的な執行(enforcement)、情報公開、行政救済等も、経済法と密接に関係する。

「法律による行政の原理」は、国民の自由を制限する権力行政を中心とした要請。

 非権力行政(「給付行政」ないし保護・助長行政、あるいは行政指導等の任意的行政活動)については、直接的には法律上の根拠を要しない場合もあるが、それが他の法律(例えば独禁法)に違反する行為を誘発するようなものであってはならない。

例:以前のタクシー料金の認可に関する行政指導(道路運送法9条の3),最近数多く摘発されている「官製談合」事件。

 

 <今日のケース>

 防衛庁石油製品談合事件 審判と刑事告発(平成11年10月13日、11月9日)

 コスモ石油株式会社ほか10社が、防衛庁調達実施本部発注に係るガソリン,軽油,灯油,重油及び航空タービン燃料の指名競争入札で談合したとして、公取委は独禁法3条違反で勧告,しかし10社は勧告を拒否し審判中。公取委は検事総長に告発(89条1項 1号,95条1項1号,刑法60条(共同正犯)、会計法29条の3)。

談合の実行行為者は、石油元売り各社の若手社員(30歳前後)もおり、仮に有罪判決が下りて刑事罰を受けると、かれらは「前科者」となって、これまでの例では、一生会社が面倒を見るつまり「飼い殺し」になると推測された。

しかし、「例えば、平成11年の防衛庁石油製品談合事件では、驚くべきことに、ある被告会社の被告人は会社から退職を余儀なくされた。会社側は、社内で独禁法遵守のマニュアルを配布し、当該被告人を含む全社員が法令遵守誓約書の提出を求められて書名しており、会社としては独禁法違反を厳に戒めているのであるから、本件行為は当該被告人の全くの個人プレーであり個人的責任の問題であるという理由によるようである。」(舟田・立教法学65号より)

 各社とも、本当は防衛庁からの指示でやってきたのに---、という恨みがあるようである。彼らによれば、「お上である発注者が独禁法を認識していない。会計検査院も公正取引委員会もずっと何の是正もなかった。違法性を認識していなかったのだから阻却されるべき。村社(注:昭シェルの営業担当者)は無罪である。昭和シェルも無罪である。」ジェット燃料など、防衛庁の「買い手独占」ですから、その言いなりになって、おそらく長期間、「官民一体」で、入札は形式だけで、実際は談合で売り手と価格を決めていたのでしょう。しかし、防衛庁の係官は、証拠不十分で起訴されない模様。

 2004年3月24日東京地裁判決(起訴された全社,全員有罪。ただし,ジャパンエナジ−は会社消滅により罰金は科せられず)。本件は防衛庁の関与する度合いが大きく、その点を弁護人等が一貫して強調したが、全体としてはことごとく否定された。裁判所は自由競争の阻害は先行する長年の事業者側によるもので、調本はル−ズな面はあったものの事業者側の受注調整に対応せざるを得なかった故のことであって何ら競争を阻害するものではないとの判断。

 

諸君が会社員になって、会社の上司に、「談合の場に行ってきて、仕切屋の指示に従え」と命じられ、それに従った行動をしただけで、独禁法違反の実行行為者になり、有罪になる!!

 だから、法律(本講義では独禁法等)を勉強して下さい。そして、そういう上司に、「独禁法違反になり、自分も会社も刑事罰を受けてしまうから、談合に加わることはダメです」と、はっきりNOを言える人になって下さい。

*三和銀行戒告訴訟・大阪地判平成12年4月17日(日経新聞平成12年4月17日夕刊)--職場の賃金・昇格差別などを指摘した手記を出版したことを理由とする戒告処分は、「懲戒権の乱用」

 その後,この種の『内部告発』の重要性が広く認識され,「公益通報保護制度」の立法化へ

 さらに、この事件から、国と私人(私企業も含む)との取引のあり方、競争の意義、国と国民の関係(国民の税金で、国の費用を賄っているのだから、なるべく「安い政府」、効率的な行政運営を要求できるはず)など、考えて下さい。

 本件では、防衛庁にとって、最大の関心事は「安定供給」であり、価格は二の次です。それどころか、防衛庁その他の国の行政機関は、毎年必要な費用は予算で確保されていて、これを年度末までに消化することが重要。消化しないと不必要な予算要求をしたことになり、次の年度では減額されてしまう。また、毎年できるだけ多額の予算を獲得することが各機関の力と評価され、担当官の業績になる。

 

 このような予算・会計制度の下では、コスト削減のインセンティブは全く存在しない。そこで、コスト削減に成功した機関ないし部署は、それなりの業績を挙げたと評価するような仕組みが行政改革の一環として検討されているが、その実現はかなり困難のようです(何故でしょうか?)。

 

以上のように、「経済法学」とは、資本主義経済体制の下で、経済的取引と競争がどうあるべきか、それを示している諸法律(憲法、民商法、刑法、独禁法等々)が全体の経済・社会・政治とどう結びついているかについて考える学問です。

 

第一章 独禁法の歴史(教科書1頁以下)

第一節 戦後の「経済民主化」と独禁法の制定

(1)「経済秩序の基本法」としての理解は定着したか?

 むしろ、経済成長、景気回復、各産業の「構造改革」(その内実は、各業界内の協調、既存の各企業への保護・助成、既存利益の確保であることも多い)、「国際競争力の強化」などが現実には力を持っている。

競争だけが経済政策・産業政策ではないという理由で、局地的・散発的にではあるが、未だに独禁法の適用除外を求める声もある。後述の1条の目的規定をめぐる議論もこれにかかわる。

(2)昭和30年代から、現代資本主義に特有な問題として、「寡占」と「管理価格」、「非価格競争」、「不当表示」、「再販売価格維持行為」

「寡占」―――ある市場において、少数の企業が市場で取引される量の大部分を占めること。一企業だけが当該取引を独占すれば、まさに「独占」市場であるが、現代経済においては多くの場合、寡占市場という形態になっている。

 「管理価格」―――寡占市場において、当該寡占企業が市場における価格を恣意的に維持・操作すること。自由で有効な競争の下で実現されるはずの競争価格ではないことが重要。

 「非価格競争」―――上記の管理価格に典型的に見られるように、寡占企業間の競争は、価格をめぐって行われているわけではなく、むしろ価格から目を逸らすようにし向けて「製品差別化」を図り、広告や宣伝、新製品などに関する競い合いが行われているに過ぎず、これも自由で有効な競争とは言い難い。特に、消費者にとっては一見、企業間で激しい競争が行われているようであるが、競争のもっとも重要な要素である価格については、寡占企業間でいわば暗黙の「休戦協定」が実施されているのに近い状態であるともいえ、真の意味での消費者主権が実現されているわけではない。

 




第1回(040416)「本講義の進め方、経済法とは?」

レジメは、各回の講義の後、若干の修正をした上で、立教の「サイバー・ラーニング」サイト、または、私の個人ホームページ: http://www.pluto.dti.ne.jp/~funada/ に掲載する。


本講義の進め方について

・1年のおおまかな講義の内容の予定

独禁法を中心とした経済法の原理・歴史、独禁法の個別的規定に沿った解釈論と運用の実態と若干の立法政策論、独禁法以外の経済的規制・消費者法をめぐる諸問題

「経済法1」では、教科書第3章まで、「経済法2」では、第4章以下。

経済的規制についての具体的な問題も適宜織り込む。

・教科書をそのまま読むことはしない。その重要な点を示し、また補足説明をする。何頁はーーーという話し方になるので、必ず持ってくること(あるいは毎回の該当頁だけをコピーして持参)。

・独禁法の条文を随時参照できるように、六法または独禁法だけのコピーを毎回持ってくること。一番小さく安い「ポケット六法」等でも、独禁法と関連法規は掲載されている。

・ケースなど、随時プリントを配布するので、それらを丁寧にファイルすること。独禁法にかかわる個々のケースについて、より詳しく勉強したい場合は、「独占禁止法審決・判例百選(第6版)」、最新の情報は雑誌「公正取引」、公取委のホームページが便利。

・昨年度までの試験問題は、上記のホームページと「法学周辺」 に掲載。ホームページには、採点のポイントも述べてある。それをよく読んで考えた上で、成績評価に疑問があれば調査申請をすること。

・隣の受講生と雑談しては困る。集中して受講できるように会話は厳禁。ただし眠い人は我慢しても意味ないから睡眠自由。

・遅刻や早退、缶ジュース、ガムなどは、行儀作法の問題(ルールは決めないから、各自の良識=社会人としての健全な判断力で、という意味)。

・基本的には伝統的な講義形式を採らざるを得ないが、なるべく学生諸君と議論することとしたい。講義中にこちらから質問した場合には、積極的に答えてほしい。正解を求めているわけではなく、それまでの話や諸君の知識・見識から思いつくことで十分。自分の頭で考える訓練であり、また、そのやりとりから私の方も、諸君がどこまで理解しているか、何を話すべきかも分かるだろうという趣旨。

・質問・指摘(例えば、聞き取れない、分からない、プリントが足らない、マイクの調子がおかしい等)は、途中でも遠慮なく手を挙げて発言すること。各回の終了後、教壇まで来て質問してもよい。

 学生諸君は、高額の授業料を払っているのであるから、契約の相手方である大学および大学に雇用されている私たち教職員に対し、それに見合う教育サービスを提供すべきことを要望・要求できる。私たちが、残念ながら能力・時間・コスト等の制約から、それらに十分応えられないことも少なくないであろうが、要望に対応することができるかどうかを真摯に検討する過程で、諸君との関係をより意義深いものに変えていけることを期待したい。

 これは、他の経済的取引についても同様であり、取引の相手方に取引の条件・内容・実施の仕方等について、質問し要求することが大切。この講義でも取り上げる「消費者の権利」は、法律によって与えられるだけではなく、自ら要求し戦いとるものです。

 

本講義の成績評価の仕方について、学生諸君の間で誤った情報が流れることも多いようなので、ここでまとめておく。

1. 成績評価は、基本的には試験の答案に基づいて行う。すなわち、満点100点で配点し、評価する。したがって、下記の平常点なしでも満点を取ることが可能。

2. 方法は、加点方式。事前にこちらが用意した模範解答に沿って、個別論点を正確に書いていれば、5点、10点と加えていく。

3. ただし、こちらが用意した内容と異なることが書かれていて、評価に値すると判断すれば、これも加点する。もちろん、質問と関係ないことを書いても評価には加えない。

4. 試験答案の評価は満点100点で行うが、上の絶対評価方式では全体の評価が厳しすぎると判断されれば、平常点という意味で出席回数、講義の中での質疑応答の実績等を加味する。したがって、全部出席してもDということもあり得る。

5. 結果として、法学部・経済学部の平均的評価水準になるべく近いものに修正する。

6. 通知表を受け取ったあと、自分の試験答案の採点につき疑問がある場合は、教務事務センターに申し出ること。ただし、「自分では勉強したつもりですが---」とか、DをC以上に直してくださいなどと書くだけでは不十分であり、自分はこういう答案を書いたので、これがC,Dであるのは納得いかないなどと具体的に明示して申し出ること。

7. 上の自己検証に資するために、試験実施後、私のホームページに採点のポイントを掲示する。前年度の試験については既に掲載してあるので、これを参考にして欲しい。

 

経済法とは?

1.

 「経済法学」とは、資本主義経済体制の下で、経済的取引と競争の実態がどうか、またどうあるべきか、それが全体の経済・社会・政治とどう結びついているかを考える学問である。

経済法は、労働法や社会保障法などと同様に、第1次世界大戦頃から現れた新しい分野であり、現代経済に特有の法現象。戦前の日本やドイツでは、産業、貿易の振興等の産業政策のための諸法が次々と立法化され施行された。

 戦後は、米国の反トラスト法を継受して成立した独占禁止法や、各種の産業の助成、消費者保護のための各種の経済規制法等によって、取引・競争の自由と公正さ、その他各種の社会的目的を実現することが重要になりつつある。経済法は、独占禁止法を中心とし、その他の各種個別的規制に関する諸法を含んだ法領域。

 

2.他の法分科(憲法、民商法など)との関係

(1)市民社会を規律する法が私法、国家の組織活動等を規律するのが公法という伝統的な二分法。この私法と公法が次第に相互浸透し、その中間領域に現れたのが経済法であるとも言える。

(2)私法の規律の対象(= 名宛人)は、私人であり、公法の名宛人は、主として国家、地方自治体、及びその他の公的法主体(特殊法人などと呼ばれる)である。

私法の前提は、自由かつ平等で、自立した個人による「私的自治」。民商法の規定には明示的には示されていないが、私的自治を原理として掲げたことの歴史的・経済的背景は、市場経済原理=自由競争の機能への信頼がある。

私人が私的利益を自由に追求し創意工夫を発揮(「経済的自由」の実現)。

→個々の取引で取引の相手方の自由な選択にさらされる(「市場のテスト」)

→市場での評価で私人の努力が報われ、同時に社会全体の利益も増大。

(3)民法・商法は、法的主体を責任ある者に限定し(権利能力・行為能力。自然人と並んで、一定の団体に法人格を付与する)、私的所有権を法的に保障し、「契約の自由」に基づく個々の取引の安全性、適正性の確保を目的とする。

 しかし、この私法秩序が、社会全体の利益に結びつくのは、競争市場で公正な取引が実現されたときだけであるが、自由で公正な取引と競争という理想が妥当しない領域や場面も多い。

 「不完全競争」----独占または寡占の場合、「情報の完全性」がかなり損なわれている場合(特に、消費者において)、「経済の外部性」の場合。

 「経済の外部性」の例として、ペットボトルの処理費用が自治体負担になっていること。

これに対し民商法でも個別に対応する規定や解釈が行われているが、同時にこれらに正面から対応しようというのが独禁法の役割である。

 私法における法的主体は、個人と団体である。団体の内部において従業員・労働者の権利、社会保障等の装置が適正かつ有効に機能するとき、動物の「弱肉強食」とは異なる、競争市場の社会的正当性が認められる。

 

<今日のケース>

経済法では、どんな問題を扱うのか、見当をつかむため、まず具体的なケースを取り上げてみる。

 特定商取引に関する法律(昭和51年法律57号)

 「電話勧誘販売」2条3項に定義規定。16 条は氏名、販売業者、「契約の締結について勧誘をするためのものであることを告げなければならない」とする。17条、締結をしない旨の意思表示を表示した者に対し、----勧誘してはならない」。18条、価格その他の取引条件を明示した書面の交付義務。21条、禁止行為(「不実のことを告げることをしてはならない」、「人を威迫して困惑させてはならない」)。23条、業務停止命令。24条、契約の申込みの撤回(書面受領から7日間。いわゆる「クーリング・オフ」)、25条、損害賠償等の額の制限、70条以下、罰則。

 

 設問1.本法による規制は、規制緩和に逆行し、消費者の「自己責任」に基づき、民法・刑法などの一般法によって処理すべき事柄に介入するものとして、批判されるべきか?

 設問2. 本法による規制は、上述の諸規定に違反する実例も多いと推測され、実効性があるかは疑わしい。電話勧誘販売による被害を少なくするためには、どうすればよいか?

電話勧誘販売が激増した背景には、発信者番号表示その他を利用して、個人の電話番号を事業として収集・蓄積・販売する事業システムがあると推測される。かなり前から存在した、いわゆる「名簿屋」の進化形態であろう。

そこで、事業者団体に自主的なガイドラインを作成させ、本法を遵守させようという政策が採られている。しかし、このガイドラインの実効性は疑わしいし、団体に所属していない群小の中小企業には及ばない。

 それでは例えば、本法違反行為に罰則を実際に課すか? 個人情報保護法の厳格な執行? 本法をより強力なものとするために、行政庁による「指示」、「業務停止命令」(21,22条)等の行政処分を実際に発動するか? さらには、電話勧誘販売を行おうとする者は主務大臣の許可を得なければならないという許可制を採用するか?

特定商取引法の行政処分(日経新聞2002年5月25日付け朝刊)----2001年度で、20件(前年度は4件)。多くは指示等であるが、業務停止命令も出された。欺瞞的な「内職商法」などに対し。「電話勧誘販売」についても5件の行政処分があった。

http://www.meti.go.jp/policy/consumer/

平成14年度において、特定商取引法に基づき経済産業省が行政処分を行った件数は、指示7件、業務停止命令2件で合計9件でした。また、都道府県における処分件数は16件となっており、経済産業省及び都道府県の処分件数の合計25件は過去最高。取引類型別の内訳をみると、指示を行った7件は、訪問販売が1件(事例5)、特定継続的役務提供が1件(事例1)、業務提供誘引販売取引が5件(事例2〜4、8、9)となっています。業務停止命令を行った2件は、通信販売が1件(事例7)、業務提供誘引販売取引が1件(事例6)となっています。(3)  事例の特徴をみると、近年の厳しい雇用環境を反映して、いわゆる資格商法(事例7)や、内職商法についての事例(事例2〜4、6、8、9)が目立っています。

 また、最近、若年層を対象に異性の販売員が販売目的を告げずに自宅から呼び出した上で、高額の商品を販売するトラブルが消費者からの苦情として多くみられますが、処分事例の中にも、こうした消費者トラブルと関連する事例があります(事例5)。

 

いわゆるインターネット通販サイトについては、平成10年度から、また、いわゆる迷惑メールについては、平成14年2月から、それぞれ広告のモニタリングを行い、特定商取引法の広告表示規制に違反しているおそれのあるものについては、警告メール等を送付している。両者で6,881件

 

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