思いつきSSログ保管庫
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雑記掲載SS保管庫 2010年第3期 9月29日 夜明け前より瑠璃色なMoonlight Cradle sideshortstory   フィーナ誕生日記念 「受け止めきれないほどの愛」 9月22日 夜明け前より瑠璃色なMoonlight Cradle SSS”夏の終わりの終わり” 9月22日 夜明け前より瑠璃色な ASS -if-EXEP「お月見の夜」 9月20日 FORTUNE ARTERIAL SSS”監督生室の仔猫ちゃん” 9月14日 FORTUNE ARTERIAL SSS”新しい部屋着” 9月12日 スズノネセブン! SSS”正義の味方” 9月7日 夜明け前より瑠璃色なMoonlight Cradle sideshortstory「夏の終わり」 9月5日 FORTUNE ARTERIAL 楽屋裏狂想曲”赤い約束” 9月4日 夜明け前より瑠璃色なMoonlight Cradle SSS”赤い約束” 8月30日 FORTUNE ARTERIAL Another Short Story Re, Extend Episode「吸血鬼の殺され方?」 8月28日 夜明け前より瑠璃色な SSS”初めての制服” 8月26日 FORTUNE ARTERIAL SSS”お散歩” 8月20日 FORTUNE ARTERIAL SSS”穏やかだった夜” 8月19日 FORTUNE ARTERIAL SSS”ルナティック” 8月18日 FORTUNE ARTERIAL sideshortstory「夏合宿」 8月16日 FORTUNE ARTERIAL SSS”プールの王子様” 8月14日 夜明け前より瑠璃色なMoonlight Cradle SSS”秋の足音” 8月11日 夜明け前より瑠璃色なMoonlight Cradle SSS”お風呂上がり” 8月3日 夜明け前より瑠璃色なMoonlight Cradle sideshortstory                朝霧麻衣誕生日SS「今年も最高の誕生日」 8月2日 FORTUNE ARTERIAL 楽屋裏小劇場                〜プール掃除編〜再び楽屋裏トーク編/真実編 7月31日 FORTUNE ARTERIAL 楽屋裏小劇場〜プール掃除編〜feat.桐葉&伽耶 7月24日 FORTUNE ARTERIAL 楽屋裏小劇場〜プール掃除編〜お茶会/楽屋裏トーク編 7月18日 FORTUNE ARTERIAL 楽屋裏小劇場〜プール掃除編〜エピローグ 7月14日 FORTUNE ARTERIAL 楽屋裏小劇場〜プール掃除編〜feat.瑛里華 7月12日 FORTUNE ARTERIAL Another Short Story Re, Extend Episode「つながる日々」 7月10日 FORTUNE ARTERIAL 楽屋裏小劇場〜プール掃除編〜feat.白 7月9日 夜明け前より瑠璃色なMoonlight Cradle SSS”1日遅れの織姫” 7月7日 FORTUNE ARTERIAL 楽屋裏狂想曲”〜七夕に想いをのせて〜 7月4日 FORTUNE ARTERIAL 楽屋裏小劇場〜プール掃除編〜feat.かなで 7月2日 FORTUNE ARTERIAL 楽屋裏小劇場〜プール掃除編〜feat.陽菜 7月1日 穢翼のユースティア SSS”認識” 6月29日 FORTUNE ARTERIAL 楽屋裏小劇場〜プール掃除編〜
9月22日 ・夜明け前より瑠璃色なMoonlight Cradle SSS”夏の終わりの終わり”   「まさかまた着ることになるとは思っても見ませんでした」  嫌々そうにしているエステルさんだけど、ちゃんと着替えているあたり  この暑さには参ってたようだ。 「暑いですからいいんじゃないですか? それにこの夏最後のプールになると  思いますし。嫌でしたか?」 「嫌なわけありません・・・ただ」 「ただ?」  エステルさんは急にもじもじしはじめた。 「もしかして恥ずかしいんですか?」 「当たり前です! 礼拝堂の裏でこんな姿になって達哉に見られてるだなんて」 「でも、前は大丈夫だったじゃないですか?」 「それは貴方が強引だったからです! 本意じゃありません!」    そう言うエステルさんの右手は頬にあてられていた。 「もぅ・・・ここまできたら仕方がないですね。  郷には入れば郷に従えという諺もありますから」    そう言うとぺたっとプールの中に座り込んだ。   「もう、夏も終わりですね」 「そうですね、でも大丈夫です」 「・・・どうしてですか?」 「夏が終われば秋が来ます、秋には秋の楽しみがあります。それに、夏はまた来ます。  そうしたらまたプールに入りましょうね」 「・・・もぅ、達哉ったら」  エステルさんが微笑む。 「ねぇ、達哉」   「また・・・来年の夏も一緒に過ごしてくれますか?」 「エステルさんが嫌じゃなければ、俺はずっと一緒にいます」 「嫌だなんて・・・言うわけないじゃないですか。ずっとそばに居てください」
9月22日 ・夜明け前より瑠璃色な Another Short Story -if-                  Extra Episode「お月見の夜」 「お兄ちゃん、お姉ちゃん、これ見て」  麻衣が2階から降りてきた、手に何か洋服を持っているようだ。 「あら、それは浴衣ね」  姉さんは一目見て浴衣だとわかったようだ。 「うん、さっき整理してたら出てきたの。まだ着れるかな?」 「浴衣はゆったりとしてるから大丈夫よ」 「でももう今年は着る機会は無いだろう」  残暑が厳しかったこの夏も終わり、季節は秋。  さすがに浴衣を着て出歩く事はないだろう。 「むぅ、残念」  麻衣は本当に残念そうな顔をしている。 「良いこと思いついちゃった」 「お姉ちゃん?」 「明日みんなで浴衣を着ましょう」 「明日? 何かあったっけ?」  俺も麻衣も何も思いつかない。 「明日はね・・・」 「どう・・・かな?」 「達哉くん、おかしくないかしら?」  次の日の夜、俺はリビングで二人を待っていた所だった。  そこに降りてきた二人は浴衣姿。  姉さんは髪を結い上げていて、浴衣と相まって色っぽい。  麻衣も照れてる表情がいつもより大人っぽく見える。  その二人を目の前にして言葉が出てこなかった。 「ふふっ、麻衣ちゃん。達哉くんが照れてるわよ」 「うん、お兄ちゃん顔が真っ赤だよ」 「・・・」  俺はその場で後ろを向いて、窓へと向かう。 「お兄ちゃんが逃げたー」 「えぇ、逃げたわね」  実際そうなので言い返せなかった。  リビングの大きな窓を開ける、そこに小さな縁側がある。  縁側っていうほどのものじゃないけど、今日はここが月見の会場だった。 「はい、達哉くん」 「ありがと」  姉さんから麦茶の入ったコップを受け取る。 「こっちも準備おっけーだよ」  麻衣は月見団子を持ってきた。 「はい、お兄ちゃん」 「ありがとう、麻衣」 「・・・」  3人で夜空を見上げる。  浮かぶのは中秋の名月であり、スフィア王国の領土でもあり。 「フィーナさん、元気かなぁ」  今は居ない朝霧家の家族が住む場所でもあった。 「フィーナなら変わりなく元気だろう」  確認出来た訳じゃないけど、確信は出来る。  短い間だったけど、一緒に過ごし家族となった俺だからこそ、だろうか。 「あっ」  麻衣の短い悲鳴、それは月が雲に隠れてしまったからだった。 「今日は天気が悪くなるそうだから、これでお終いね」 「そうだな」  綺麗な月ではあったけど、雲に覆われては見ることは出来ない。  それに風が少し出てきている、薄手の浴衣では風邪をひきかねない。 「中に入ろうか」 「えぇ」  二人が立ち上がる、俺も立ち上がって部屋に戻ろうとした。  その時バランスを崩した。 「えっ」 「なに?」 「きゃっ!」  浴衣の裾をとられ転んだことまでは理解できた。  だけど、俺を襲う衝撃はなく、両手には柔らかい感触がある。 「お、お兄ちゃん?」 「達哉・・・くん?」  俺は起きあがろうと両手に力を入れる。 「あんっ」 「きゃんっ」  二人の色っぽい声に、俺は動きを止めた。 「ん・・・」 「・・・」  気まずい沈黙が降りる。 「・・・」  俺は倒れたまま、まずは両手をあげて、広げた。  そして固い床の感触を確認してから身体を起こす。  俺の視界には、仰向けに倒れた麻衣と姉さん、倒れたときに浴衣の胸元が  はだけていて、下着が露出している。  それはたぶん・・・俺のせいだろう。  そこまで現状を認識して、俺のしたことがやっと理解できた。 「ご、ごめんっ!」  俺は立ち上がってその場で頭を下げた。 「う、ううん、事故だから大丈夫だよ、お兄ちゃん」 「そ、そうよ・・・それよりも達哉くんは大丈夫?」 「俺よりも二人とも大丈夫?」  そっと手を出して、二人にさしのべる。  二人とも手を取って立ち上がる。 「ありがとう、お兄ちゃん」 「ありがとう、達哉くん」 「それよりも怪我は無い?」  俺の下敷きになる形の二人は床に直接たたきつけられたはず。 「怪我は無いよ」 「えぇ・・・」  そう言う二人だったけど、顔が妙に赤い。 「本当に大丈夫?」 「う、うん・・・怪我は無いよ」 「えぇ・・・でも、ね」  乱れた浴衣を直さない姉さんは、身体を小刻みに動かしていた。 「もしかして寒いの? すぐに窓を閉めるから」  俺はリビングの窓とカーテンを閉めた。  これで外の寒さは中に入ってこない。 「早くお風呂に入って身体を暖めて・・・」  振り返って風呂を促そうとして、ここまでして俺は気が付いた。  二人がどういう状態なのかを・・・ 「・・・お兄ちゃん、気づいちゃった?」 「なんとなくは・・・」 「だって、さっきの達哉くん。なんだかとってもワイルドだったんですもの」  身体を震わせてるのではなく、太股をあわせてるだけ。  寒くて赤くなったわけじゃなく、熱をもって火照っているだけ。 「・・・とりあえずはお風呂入ろうか」 「・・・うん」 「・・・えぇ」  二人が頷くのを見てから俺は一緒に浴室へと向かう。  すでに俺の身体も熱を帯びている。 「達哉くん、私明日はお休みなの」 「明日は祝日だもんね、お兄ちゃん」  二人の言いたいことはわかる。 「だから、ね」 「いっぱいしてね、お兄ちゃん」  答はもちろん、決まっていた。
9月20日 ・FORTUNE ARTERIAL SSS”監督生室の仔猫ちゃん” 「急がないとな」  教員室からの帰り道、俺は足早に歩く。  今年の文化祭は先輩達が抜けて初めての大きなイベントだ。  まだ役員が補充されてないままの体制なので、やるべき事が多すぎる。  その上、今年の文化祭は生徒会でも出展することになってしまった。 「開かれた生徒会を作りたい」  それが瑛里華の希望だった。  その後紆余曲折しながら、決まったのは喫茶店。  ただし、文化祭運営業務があるので開店する時間は限られいるし、その上  喫茶店の場所は監督生室だ。  生徒が来るのだろうか? という不安もあるが、開かれた生徒会への第一歩と  しては悪くないと俺は思う。 「その分仕事が忙しくなりすぎだけどな」  思わず口に出してしまう。  文化祭の運営に、自分たちの出し物。今の役員フル稼働でもぎりぎり・・・  いや、進行は遅れ始めている。 「今日は何時に帰れるだろうか」 「ただいま」 「あ、孝平。お帰りなさい」  そう言って監督生室で出迎えてくれたのは会長の瑛里華。  白いエプロンドレス姿の瑛里華、その頭には猫の耳を模したカチューシャと。 「ねぇ、似合う?」  その場でくるっと一回転する瑛里華。  ふわっとスカートが翻り、腰の後ろの黒いしっぽが揺れる。  そして、ちりんと首輪に付いた鈴がなる。 「・・・」  いきなりこんな格好で出迎えられて、俺は声が出なかった。 「ふふっ、効果は抜群ね」 「って、瑛里華。それは」 「えぇ、今日届いた私たちの制服よ」  言うまでもなく、文化祭での生徒会の喫茶店で着る服なのだろう。 「紅瀬さんの分も白の分も届いてるわ、これで完璧ね」  当日、役員全員でおもてなしする予定となっている。  本来俺は裏方のはずだったが、3人に反対され、俺もフロアにでることに  なっている。  改めて瑛里華の格好を見る。  赤い学院の制服じゃない瑛里華、いつもと違って黒を基調とした洋服は  変わった印象を与えている。  エプロンドレスに無理に収めてるような窮屈そうな胸・・・ 「孝平?」 「あ」  胸に目がいってたのをごまかすために視線を外す。 「ふふっ、孝平。何処をみてたのかしら?」 「・・・」 「孝平ったらやらしい」  瑛里華にからかわれるように言われて、俺はたぶん顔が真っ赤になっているだろう。  瑛里華は俺の下からのぞき込むようにして、くすくすと笑っている。  その時気が付いた、というか気が付いてしまった。  これだけ窮屈そうな胸元、ということは・・・ 「瑛里華、これは駄目だ」 「え? どうしたの?」 「この服は駄目だ」 「どうして? こんなに可愛いのに。孝平だってそう思うでしょう?」  可愛すぎるから駄目なんだとは、言えない。 「あ、もしかして孝平焼いてるの?」 「・・・」  俺は何も言えない、だが、言えないことが答になってしまっている。 「大丈夫よ、私には孝平だけなんだから」  そう言うと瑛里華は俺に口づけをする。 「信じられるかしら?」 「信じるも何も、最初から疑ってないさ」  俺は瑛里華を抱き寄せて、今度は俺から唇を重ねた。 「ん・・・あん、孝平・・・」  やはり思った通り、瑛里華はブラをしていなかった。 「やっぱり駄目だ、こんなにしてたらみんなに見られちゃうだろう?」 「だって、孝平がそんなにさわるから・・・きゃんっ」  服の上からわかる固いしこりを指でつまむ。  簡単に場所がわかるのは、俺が瑛里華の身体を知り尽くしているからも  あるが、やはり外から目立つのが問題だ。 「ねぇ・・・孝平」 「何?」 「当日、わからないようにしたいから・・・始まる前にいっぱいしてね」
9月14日 ・FORTUNE ARTERIAL SSS”新しい部屋着”  寮の私宛に送られてきた小包、お姉ちゃんからだった。 「あ、これは・・・」  中に入ってたのは可愛いワンピースだった。  この前お姉ちゃんと電話で話した、新作のワンピース。  一緒に入ってた手紙を開けてみる。 「ひなちゃんに似合いそうだから買っちゃった、絶対ぜーったい似合うから  これでこーへーをイチコロにしてね」 「もぅ、お姉ちゃんったら・・・」  大学に行ってもお姉ちゃんはお姉ちゃんだなと想いながら手紙を読み進める。  手紙の最後に追伸が書かれてあった。 「追伸、もうこーへーはひなちゃんにイチコロだったね」 「・・・もぅ」  お姉ちゃんったら・・・ 「うん、着替えてみよう」  早速私はワンピースに袖を通してみる。  そして姿見の前に立ってみる。   「あれ・・・なんだか裾が短い?」  このワンピース、裾のところがレースになっている。  その裾の所に映ってるのは・・・   「きゃっ!」  誰も見ている訳じゃないけど、私は裾を下に引っ張った。   「んー・・・やっぱり裾が短い」  後ろ姿を鏡に映す、予想通りワンピースの裾が短く下着が見えてしまっている。  私は手を広げてみる。   「袖の長さはぴったり」  私は胸元に手を当ててみる。   「全然苦しくない」   「それじゃぁ何で裾だけ短いんだろう?」  最初はお姉ちゃんがサイズを間違えたと思ったけど、それは違うみたいだった。  なら、これはこういうサイズの洋服なのだろう。  でもそうだとすると下着が見えちゃうからこの洋服で外にでることは出来ない。  どうしよう・・・ 「そうだ」     私は部屋着に使っているスパッツを穿いてみた。 「これなら下着も見えないし大丈夫だよね」  その場でくるっと一回りしてみる。  レースの裾がふわっと広がるけど、スパッツを穿いてるので下着はもう見えない。 「うん、これで良しっと」   「・・・孝平くんに見てもらおうかな」  私は部屋を出て孝平くんの部屋に向かうことにした。 「似合うって、言ってくれるかな?」
9月12日 ・スズノネセブン! SSS”正義の味方” 「なっ!!」  二人揃って非番の日のデートは、突然の爆発音で遮られた。 「今の音は」  聞き慣れてしまったこの音は間違いなく 「魔法犯罪!」  柚子里先輩は音のした方へと駆けだして行く。 「先輩!」  俺も柚子里先輩を追いかける、程なくして現場にたどり着く。 「貴方ね、こんな町中で魔法なんて使ったのは!」  ぴしっと相手の方を指さす柚子里先輩。  相手は俺達を確認すると、魔法を放ってきた。 「危ないっ!」  俺は前もって起動しておいた身代わりくんを魔法の射線軸上に投げつける。  炎の魔法は身代わりくんが受け止めて相殺してくれた。 「問答無用って事ね・・・ならっ!」  柚子里先輩はポーチの中からコンパクトを取り出す。  それは化粧道具をいれるような小さなコンパクト。 「柚子里先輩、まさか?」  大事に持っていてくれたのは嬉しいけど、それをここで使うのか?  柚子里先輩は一瞬、まばゆい光に包まれた。  そしてその瞬間、白い衣装を身に纏っていた。 「あら、着替えるの間違えちゃったわ」 「絶対確信犯ですね、柚子里先輩」 「・・・」  俺のツッコミに答えない柚子里先輩、だけど額に流れる大きな汗を俺は  見落としていなかった。  翌日のアルカナウイング。 「柚子里、始末書を書くのは私の仕事じゃないわよ?」 「う゛・・・ごめんなさい」  魔法犯罪を現行犯で逮捕したことは問題なかったのだが、強すぎた魔法が  周囲の建物を少し損壊させてしまっていたのだ。  その始末書を莉里先輩に手伝ってもらいながら書いている。  俺はというと、特に問題を起こしていないので始末書のお世話にはなっていないが  柚子里先輩が気になって、オフィスの方へを顔を出していた。 「城戸君」 「はい?」  突然俺は同僚の女性隊員に呼ばれた。 「見たわよ、鷹取のあのアイテムは城戸君が作ったんでしょう?」 「えぇ、まぁ・・・」 「ねぇ、あれって簡単に作れるのかしら?」 「まだ試作段階の域を出ていませんが、材料さえあれば出来ます」  俺の答に女性隊員はにこっと笑う。 「じゃぁさ、私のも作ってよ」 「・・・はい?」 「変身って便利だし、それにね・・・」  そう言うと照れくさそうに笑う。 「やっぱり憧れだから」 「あー、ずるい、私のも欲しい!」 「私も!」  そのやりとりに課内の女性隊員が全員手を声をあげる。 「あの・・・」 「それとも鷹取だけ贔屓するのかしら?」  そう言われても柚子里先輩は俺の彼女だし、あのマジックアイテムは  プライベートで作った物だし・・・ 「城戸」  その時奥の席に座ってる隊長が俺を呼ぶ。 「その変身アイテム、便利だから作って見ろ」 「隊長?」 「こうでもしないと収集付かないだろう、頼むぞ」 「・・・はい」  そのやりとりをにこにこしながら聞いてた柚子里先輩。 「なんでそんなに嬉しそうなんですか・・・」 「だって、魔法少女だもの」 「答になってませんって・・・」  その後研究開発班は隊員の無茶なリクエストを受けまくり、てんてこ舞いと  なってしまった。 「えっとカード型デバイスにステッキ型・・・ってこんなの持ち歩くのか?」  女性隊員の希望はまさに魔法少女だった。  それだけならまだしも・・・ 「普段は小型で持ち歩けて、変身するときはベルトになる?  衣装は小型のUSB端末っぽいのを差して変身? こっちはカードに情報を  記載するタイプ?」  なんていうか、個人個人での要望が細かすぎる。 「・・・アルカナウイングってスズノネとなんも変わらないんじゃないか?」  そうして生まれた、戦闘服への変身するためのマジックアイテム。  登録服を戦闘服だけに限定しコストを抑え、その分個人の趣味に合わせて  調整されたマジックアイテム達。 「セーットアップ!」  ペンダントに口づけしてから変身のキーを唱える女性隊員。  腰にベルトを巻いて、そこにUSB型端末を差す男性隊員は 「俺、変身!」 「・・・」  作っておいてなんだけど、これで良いんだろうか? 「ねぇ、幸村。今年のアルカナウイングの就職倍率って高いの知ってる?」 「そうなんですか?」 「えぇ、正義の味方になりたい人ってたくさんいて嬉しいわ」  自分のことのように嬉れしがる柚子里先輩を見ながら、嫌な想像が思い浮かぶ。  もし、そうだとしたら・・・ 「幸村、どうしたの?」 「・・・なんでもない」  アルカナウイングの将来が凄く不安になってきた・・・
9月7日 ・夜明け前より瑠璃色なMoonlight Cradle sideshortstory「夏の終わり」 「エステルさん、今日はこれを持ってきました」  残暑厳しい午後の礼拝堂、俺は家にあったとある物を持ってきて、広げた。 「これは?」 「子供用のプールです」  そう、これは子供が自宅で遊ぶための簡易プールだった。 「子供用・・・」  エステルさんの表情が硬くなる。 「確かに子供用とはなってますけど、子供専用じゃありませんから大丈夫です」 「わ、私はそのことを気にしてるんじゃありません!」  そう言いつつもエステルさんの右手が頬にあてられている。 「俺も入りますし、エステルさんもどうですか?」 「え? で、でも、礼拝堂を訪れる信者の方がいらっしゃいますし・・・」  エステルさんの視線が揺らぐ、それは心が揺れてる事を表してもいる。 「大丈夫です、今日は陽差しが厳しいですから外を出歩く人は少ないですよ」 「でも」 「鍵はかけてありますから大丈夫ですよ」  礼拝堂と居住区の間にある扉にすでに鍵はかけてある。 「それじゃぁ俺は裏庭で準備してますから、エステルさんも良かったら水着に  着替えてきてくださいね」  俺はエステルさんの返事を待たず、部屋から出た。 「もう・・・強引なんだから」 「ふぅ・・・」  子供用とはいっても大きめのビニールプール、空気を入れてふくらませるのに  凄く手間取った。額から汗が流れ落ちる。 「・・・よし、これで出来た」  用意して置いたホースから水を入れる。 「達哉、お待たせしました」 「エステルさん、もうちょっとだけ待って・・・」  振り返った先に立っていたのは白い水着に包まれたエステルさん。    以前海に着ていった物と同じ・・・のはずだよな?  でも何故か、カテリナ学院指定水着に形が似ている気がする。 「達哉、どうかしましたか?」   「い、いえ・・・見とれてしまいました」 「っ! ま、またそんなお世辞などを」  エステルさんの頬が真っ赤に染まる、白い水着と赤く染まった肌の  コントラストが眩しかった。 「俺がエステルさんにお世辞を言わないことはわかってるでしょう?」 「・・・余計に恥ずかしいです」 「水が綺麗ですね」  午後の陽差しを浴びたプールの水面は輝いていた。 「これに入るんですね」 「もうちょっと待ってて下さい」 「どうしてですか?」 「水道水は結構冷たいですから、少しだけ冷ました方がいいんです」 「わかりました、ではその間に達哉も準備をしてきてください」 「俺は着ている物を脱ぐだけですからすぐです」  そう言いながら俺はシャツを脱ぐ。 「っ!」 「エステルさん?」   「な、なんでもありません!」   「気持ち良いですね、達哉」  最初は戸惑ってたエステルさんだったが、プールに入ってしばらくすると  リラックスし始めた。 「お風呂とはまた違いますし、波も無いですし。でも、不思議な気分です」  確かに、すぐ横には礼拝堂の壁。  普段あり得ない場所で水着になってプールに入っているのだから不思議な  気分になるのは当たり前だ。  俺も、エステルさんと一緒にプールに入ってるのがちょっと不思議で嬉しかった。   「達哉、どうかしましたか?」 「・・・えい!」 「きゃっ!」  俺はエステルさんに水をかけた。 「達哉?」 「気持ちいいですよね、エステルさん。えぃ!」 「きゃん! もぅ、達哉ったら子供見たいに」 「いいんですよ、今日だけは、ほら」 「ふふっ、わかりました。私も子供になります。えい!」 「んー!」  エステルさんが立ち上がり、うーんと伸びをする。  そして伸びをしたせいで食い込んだ水着の裾を直す。    思わず魅入りそうになって、視線を外す。 「空が高いですね」    エステルさんは俺の葛藤に気づかないまま、空を見上げる。  俺も視線を追うように空を見上げる。 「同じ空なのに、高く感じます。とても不思議です」 「もう、秋が来ているからだと思います」 「そう・・・ですね、もう秋なのですね」  二人で空を見上げる。 「・・・そろそろ終わりにしましょうか」 「えぇ」  俺達は揃ってプールから出た。 「俺が片づけておきますからエステルさんは先にシャワーを浴びてきてください」 「片づけなら私がしておきます、達哉こそ先に着替えてきてください」 「駄目です、エステルさんが先です」 「どうして私が先じゃなくちゃいけないのですか」 「少し風が出てきています、このままだと身体が冷えて風邪を引きます」  残暑厳しいとはいえ、この時期の夕方は風が冷たくなってきている。 「それを言うなら達哉も同じです」 「それでも駄目です、だってエステルさんは女性なのですから」 「男も女も関係ありません!」  エステルさんは頑固だった。 「それじゃぁ言い直します」 「何度言っても同じです」 「エステルさんは俺の彼女ですから、彼氏に格好良い事をさせてくれませんか?」 「っ!」  俺の言葉に顔を真っ赤にする。本当に可愛くって見とれてしまう。 「達哉はずるいです」 「そうですよ、俺はずるいんですよ」 「でも・・・」  そう言って俺の前に近づいてくるエステルさん。   「私は達哉の彼女なんですよ? だから一緒がいいです」  その言葉に俺は両手をあげる。 「エステルさんもずるいです」 「えぇ、私もずるいのですよ」 「・・・ははっ」 「ふふっ」  二人で笑いあう。 「それじゃぁ、まず二人でシャワーを浴びてから一緒に片づけましょう」 「えぇ」  俺達は寄り添いながら礼拝堂の中へと戻る。  ふと、振り返るとそこにあるのは、最初より水が減った子供用プール。  その光景は残暑、というより夏の終わりを感じさせた。 「達哉?」 「・・・行きましょうか、エステルさん」 「はい」
9月5日 ・FORTUNE ARTERIAL SSS 楽屋裏狂想曲”赤い約束” 「今お茶いれるわね」  瑛里華の部屋に招かれた俺はクッションの上に座っていつものように  待つことにした。  その時サイドテーブルの上に置かれた写真に気が付いた。 「この写真はフィーナ姫・・・」   「おまたせ、孝平。どうしたの?」  瑛里華は俺の見てる写真に気づく。 「あの時の記念写真よ」  修智館学院で今行われてる定期放送「出張生徒会」。  生徒会をもっと身近な物に感じて欲しくて行われたこの校内放送も  かなり長く続いている。それだけみんなの感心が強いと言うことだろう。  そして何故か、一国の王女がその放送にゲストとしてやってきた。  月のスフィア王国の第一王女、フィーナ姫。 「兄さんったらどんな手を使ったのかしら」  ゲストが決まったときの瑛里華の第一声は俺の感想でもあった。  そして厳戒態勢の中収録が行われ、無事放送も出来た。  直接ラジオには参加していないが、俺は良い経験が出来たと思ってる。 「ほら、収録の間に時間があったでしょう? その時にちょっと、ね」 「そんなことしてたのか・・・」  収録の間に打ち合わせや放送して良い内容かどうかの確認を裏方である  俺や東儀先輩、そして王国の駐在武官の方と確認をしている。  その作業時間の間に瑛里華はフィーナ姫と一緒の控え室に居たわけだが  まさかそこでこんな事が起きていたとはしらなかった。 「だって、フィーナ姫が着ていた制服、可愛かったんですもの。それに  修智館学院の制服は兄さんが用意してたのよ」 「相変わらずだな、会長は」  会長が用意した制服はそのままプレゼントされたそうだ。  フィーナ姫も喜んでくれたそうだ。 「ねぇ、他の写真もあるのよ。見てみる?」 「良いのか?」 「もちろん♪」   「どう?似合ってるでしょう」 「あぁ」  普段ブレザー姿の瑛里華しか見ていない俺に、このセーラータイプの  制服姿の瑛里華は新鮮だった。  穿いているスカートの長さは変わらない、けどいつも穿いてる黒いソックスではなく  白い長めのソックス。スカートとそのソックスの間の肌が妙に艶めかしく、ドキドキ  してきた。   「フィーナ姫がね、今度来ることが出来たら今日のお礼にこの制服、用意して  くれるって約束してくださったの。すっと楽しみにしてるの」 「・・・そうだな、瑛里華に似合ってるものな。俺も楽しみだよ」 「むー」  突然瑛里華がむくれだした。 「孝平もフィーナ姫が来られるの期待してるの?」 「え、そりゃ勉強にもなるけど」 「勉強になるのがそんなに楽しい?」  頬を膨らませる瑛里華。  その時、話がすれ違ってることに気が付いた。 「・・・そうだな、いろいろと勉強になるのが楽しみだよ、でも」  そこで一度区切って写真を一枚手に取る。   「瑛里華がこの制服を俺の前で着てくれるのがとても楽しみだよ」 「あ・・・うん、私も楽しみよ、孝平!」 「瑛里華、残念な知らせがある」  翌日の監督生室、会長が沈んだ声で話しかけてきた。 「どうしたの、兄さん?」 「残念なことに、フィーナ姫の再度のゲスト出演は難しくなった」 「そう・・・フィーナ姫はお忙しいですものね」  気落ちする瑛里華。 「だが、他の方が来られるかもしれない。なんでもフィーナ姫がホームスティ  していた家の方が最有力だそうだ」 「えっと・・・確か、朝霧さん?」  フィーナ姫の資料に、朝霧家へのホームスティという項目があった。 「でも、それだと瑛里華が困るよな」 「なんで私が困るのよ、兄さん」 「だってなぁ・・・あんな完璧な妹が来たら、瑛里華じゃ敵わないだろう!」 「・・・はい?」  突然何を言いだしたの? と瑛里華の顔は語っている。 「麻衣やんが来たら、もう妹力では瑛里華は敵わない! こっちは白ちゃんと  悠木妹を持ってして対抗するしかない!!」 「だから、なんで対抗するのよ! それに妹力ってなによ!!」  いつもの言い合いが始まる。 「支倉、この仕事を頼む」 「あ、はい」 「兄様、支倉先輩、お茶が入りました」 「すまない、白」 「ありがとう、白ちゃん」 「どういたしまして。ところで兄様、妹力ってなんですか? 妹には必要  なんでしょうか?」 「・・・気にするな、伊織の戯れ言だ。白は今のままで充分だ」 「はい、ありがとうございます、兄様」  俺はお茶を飲みながら東儀先輩からもらった書類に目を通す。 「同じ2位でも向こうは強大だぞ?」 「だから、2位とか関係ないでしょ!!」  いつもと変わらない生徒会の日常だった。
9月4日 ・夜明け前より瑠璃色なMoonlight Cradle SSS”赤い約束”   「どうかしら?」  部屋に招かれた俺は、目の前の光景に言葉を失った。 「達哉」 「あ、あぁ・・・」 「ふふっ、もういいわ。わかったから」  そう言うとフィーナはその場でくるっとまわる。 「言葉が無いのが感想よね」   「へぇ、そんな仕事があったんだ」 「えぇ」  その時の写真を見せてもらった。   「あれ、これってカテリナの制服だよな」 「えぇ、千堂さんが着てみたいって言ったのでお互いの制服を交換してみたの」  フィーナと一緒に映ってる千堂さんという女性は生徒会の副会長だそうだ。 「それでね、記念にってこの制服を戴いてきたの」 「千堂さんの?」 「違うわ、会長さんがわざわざ1着用意してくれてたの。また会おうって約束の  意味を込めて・・・」  その時フィーナの顔が少し曇った。 「・・・カレンが事前に手を回しただけよね、でないとサイズぴったしなんてあり得ないもの」 「フィーナ?」 「な、なんでもないわ」 「そういえば、まだ感想を達哉の口から聞いてなかったわね」 「さっきわかったんじゃなかったっけ?」 「えぇ、でも達哉からは聞いてないわ、もしかして私の思い違いかもしれないもの」  そういって俺を見上げてくる。    フィーナが眩しく見えて、耐えられず俺は目をそらす。 「ふふっ」  フィーナが嬉しそうに笑ってるのが見えて無くても手に取るようにわかった。  ・  ・  ・ 「ん・・・」  フィーナが家に帰ってくる事が出来るのは稀。  だからこそ、その時間を濃密に過ごす。 「・・・待って、スカートが皺になっちゃう」  そう言うとフィーナはスカートを先に脱ぐ。    上着はブレザーをまだ着ているままなのに、スカートだけ穿いてない。  そのアンバランスさに目が眩む。    フィーナは俺の熱い視線に脱ぐ動きが止まっていた。  ・・・いや、太股のところが微妙に動いていた。 「フィーナ、もしかして・・・」  俺の言葉に顔を真っ赤にする。 「フィーナ」 「や、きゃんっ!」  俺はフィーナを抱き寄せて、そっと触れる。  予想通り、いや、予想以上にそこは濡れていた。 「もうこんなに」 「だって・・・キスが気持ちよくって・・・それに、あんなに熱い目で私を  見つめるんですもの・・・あん」  俺は触れただけの手をそっと上下に動かす。 「駄目・・・制服が皺になっちゃう」 「なら脱がせてあげる」    シャツのボタンを下から一つ一つ外していく。  少しずつ広がっていく、フィーナの綺麗な素肌。 「達哉・・・もう我慢出来ないわ」 「もうちょっとだけ、綺麗な姿のフィーナを見ていたい」  脱がす手を休めて、フィーナを見つめる。 「・・・んっ・・・駄目・・・」  フィーナの手が自らを慰めるかのように動く。 「見てるだけなんて嫌・・・達哉・・・お願い」 「そんなに可愛いお願いされたらどうなっちゃうかわからないぞ?」 「いいの、達哉。私を激しく愛してっ!」
8月30日 ・FORTUNE ARTERIAL Another Short Story Re,                 Extend Episode「吸血鬼の殺され方?」  食事が終わると、紅瀬さんと瑛里華が後かたづけを始める。  俺はたまに手伝ったり手伝わなかったり。  今日はどうするか? 「支倉、少し呑もうではないか?」  伽耶さんが一升瓶を2本持ってきた、俺はそれを断る理由は無い。  縁側に並んで座り、お互いのコップに酒を注ぐ。  俺のコップに注がれた日本酒は、かなりの辛口で、紅瀬さんが探し出して  来た銘柄だった。  それを口に運び、喉に流し込む。  感じるのは微かな辛み。以前伽耶さんが試しに舐めてみて、涙目になるほどの  辛さのはずなのだが、俺にはそう辛く感じない。  眷属故の味覚の消失、いや、鈍化だった。  俺はコップをあおると夜空を見上げた。  伽耶さんも同じように夜空を見上げる。  会話は無い、だけどそれが冷たい時間ではなく、心地よく感じる。  慣れたもんだよな、と思う。  あれからもう何十年たったのだろうかとも思い返そうとして・・・止めた。  無意味なことだからだ。 「・・・のぉ、支倉」 「なんですか、伽耶さん」 「・・・注ぐか?」 「お願いします」  俺のコップに酒が注がれる。  そして俺はまだ夜空を見上げる。  今は伽耶さんは見上げていない。  コップの中の酒を少し口に含み、そしてまた夜空を見上げる。  それは、俺ではなく、伽耶さんの為の時間だった。  そう、何かを決意するための、そんな時間。 「・・・なぁ、支倉。何故・・・支倉はここにいてくれるのだ?」 「好きだからです」 「なっ!」  俺の言葉に伽耶さんはコップを取り落とす、俺はそれを瞬時に回収する。 「危ないですよ?」 「支倉が変なことを言うからだぞ!!」 「おかしいこと言いました?」 「当たり前だ、そんなに軽々しく口にして良いことではないぞ」 「でも本心ですから」 「・・・それはわかっておる、瑛里華を好いてくれてるのは」 「瑛里華だけじゃないですよ」 「っ!」  伽耶さんが息を飲む。 「俺は瑛里華と同じくらい、伽耶さんも好きですよ」 「−−−−−−−っ!」  伽耶さんは悲鳴にならない悲鳴をあげた。 「はぁはぁ・・・死ぬかと思った」 「伽耶ったら、そんなに嬉しかったのね」  悲鳴を聞いて駆けつけた瑛里華と紅瀬さんは伽耶さんの横に一緒に座っている。 「なななっ!」 「ほら、落ち着いて」  そういって紅瀬さんは一升瓶から酒を注ぐ。  ・・・あ、それって確か紅瀬さんのお酒じゃ。  そう思ったとき、伽耶さんの悲鳴がまたあがった。 「だいじょうぶ、母様?」 「ひ・・・ひりはっ、ひろいではないか」 「気付けには辛い方がいいのよ?」 「紅瀬さん、別に母様は気を失ってないわよ・・・」 「あら、そうだったかしら?」  伽耶さんをからかって楽しんでいるようだった。 「ふぅ・・・桐葉、覚悟は良いか?」  復活した伽耶さんが桐葉の前に立つ。 「望む所よ、今日は何の勝負にするのかしら?」  紅瀬さんに返事をせず、伽耶さんは俺の方を向く。 「支倉、桐葉の事は好きか、嫌いか?」 「え?」  この質問に紅瀬さんが驚きの声をあげる。  伽耶さんの意図したことがわかった、だからといってそれに乗ろうという事は  思わない、なぜなら答は決まっているから。 「もちろん、好きですよ」 「っ!」  その俺の声に紅瀬さんは顔を真っ赤にした。 「ふふふっ、桐葉もまだまだ青いの、いや、赤いのか」 「伽耶っ!」 「はははっ!」  何故か勝ち誇ってる伽耶さんだった。 「ねぇ、孝平」  お酒を片手に俺の所によってくる瑛里華。続きの言葉を待たずに俺は答える。 「瑛里華、大好きだよ」 「うん♪」 ANOTHER VIEW ... 「いいのか、伊織」 「構わないさ、今さらだからな」  瑛里華達がさっきまで食事をしていた部屋、そこで俺と征は酒を飲んでいた。 「しっかし、面白い見せ物だよな」 「・・・」  あの女のことになると征は言葉を選ぶ。 「母であるまえに、女か・・・そりゃそうだよな。  俺達を創っても産んではいないのだからな」 「伊織」 「何、今さら気にしてないさ。それはおまえも知っているだろう?」 「あぁ」 「しっかし、吸血鬼って殺せるんだ、知らなかったよ。  それも殺したのは支倉君と来た。まったく、瑛里華に続いて二人も殺されたよな。  次は、俺の番かな?」 「それはないだろう」  即答する征。 「その基準なら、おまえはすでに支倉に殺されているからな」 「しまった、すでに俺は死んでいたか! やるな支倉君、さすがは両刀使いだ!」 「・・・」 「なぁ、征。乗ってくれないと寂しいんだけど」 「あぁ、すまない、酒が美味かったものでな」 「そりゃそうか、酒の肴も美味いものな」  俺と征の見る先、そこには楽しそうに騒ぐみんなの姿があった。 「伊織、おまえはいいのか?」 「構わないさ、今さらだからな」
8月28日 ・夜明け前より瑠璃色な SSS”初めての制服”   「どうかしら、ミア」 「とてもお似合いです、姫様」  ホームステイして初登校の朝、制服に着替える前に下着を着替えることとなった。  ドレスの時はコルセットがあるのでブラジャーは必要なく、ナイトドレスの時は  普段から付けていないから、こうして改めてブラをするのがちょっと不思議の  ような気がする。  胸を締め付けられるような感じは無い、カレンがサイズをあわせて用意して  くれてるのだから当たり前よね。 「姫様、どうかなされましたか?」 「なんでもないわ」  私は制服に袖を通した。   「姫様、お似合いです」 「ありがとう、ミア」  でも、ちょっとスカートが短くないかしら?  ドレスの時は胸元が大きく開いている、それに慣れている私は、逆に足が大きく  露出しているこの短めのスカートがとても落ち着かない。   「郷には入れば郷に従え」  カレンの言葉が思い出される。それでもカレンは私のために長めのソックスを  用意してくれた。でもそれは太股の途中の所までしか長さがないので、足全てを  隠せるわけではないし、スカートが風でめくれてしまえばショーツが見えてしまう  事には変わりがない。  大丈夫かしら・・・ 「姫様?」 「なんでもないわ、ミア。髪をお願いできるかしら?」   「はい、わかりました」  座った私の後ろに回り、櫛を髪にそっと通すミア。  いつものように、髪が整えられていく。  その時、ドアがノックされる音が聞こえた。 「どうですかー?」  この声は達哉様・・・私の格好はおかしくないかしら? 「達哉さまですか?、どうぞー」  私が返事をしないので、ミアが変わりに返事をしてくれた。 「失礼しま・・・」  達哉様が部屋に入ってくる、そして言葉も動きも止まった。  一瞬、私の格好がおかしいのだろうかと思ってしまう。  でも、ミアが似合ってると言ってくれたのだから大丈夫。私は達哉様に尋ねる。 「いかがですか?」
8月26日 ・FORTUNE ARTERIAL SSS”お散歩” 「風が涼しいです」  陽が暮れる頃の時間、俺と白ちゃんは仕事を切り上げることにした。  今は無理をして仕事を先倒しして進める必要が無くなってきている。 「鍵、閉めました」 「ありがとう、白ちゃ・・・」 「え、きゃっ!」  涼しい風が白ちゃんを包み込むように吹いていく。  短いスカートを巻き上げながら。 「うぅぅ・・・支倉先輩、見ました?」 「・・・見えた、ごめん」  嘘をつくことも考えたけど、見てしまったのは事実だった。  名前の通りの、真っ白なパンツが。 「恥ずかしいです」 「ごめん、白ちゃん。でも可愛かったよ」 「・・・あぅ」  名前とは違い、白ちゃんの顔は真っ赤になった。  監督生室から寮までの帰り道。 「もう、秋の風ですね」  まだ残暑が厳しいけど、朝夕は涼しくなってきたと思う。 「俺はまだちょっと暑いと思うけどね」 「そう、ですね」  そう言って微笑む白ちゃん。 「・・・でも、今は涼しいから、ね」 「あ・・・はい」  俺の出した手を嬉しそうに手を重ねてそっと握ってくる。 「これからもっと涼しくなってきますね」 「そうだな・・・でも、俺は暑くても構わないよ?」 「・・・良いのですか?」  俺はそっと腕そのものを差し出す。 「ありがとうございます」  白ちゃんは手だけじゃなく、腕も組んでくる。 「支倉先輩の腕は、暖かいです」  思わず白ちゃんの胸も暖かいと言いそうになって危うく口を紡ぐ。 「支倉先輩?」 「あ、いやさ、今年の夏も出かけられなかったなって思ってさ」  なんとか話題を逸らす。 「結局生徒会の仕事が忙しくてデート出来なかったなって」 「そんなことはありません、この夏も支倉先輩はずっと一緒にいてくださいました。  私はそれだけで充分です」  白ちゃんは充分と言ってくれる。でも、俺がそれに甘えるわけにはいかないと思う。 「そうだな・・・またプールに忍び込もうか」 「ふぇ? プール?」  俺の独り言に白ちゃんが過剰な反応をする。 「あの・・・その・・・」  顔を真っ赤にする白ちゃん。 「あ」  去年プールに忍び込んだ時のことを思い出してしまった。 「あの、そう言う意味じゃなくって、良い思い出を作ろうと・・・」  良いながら結局去年の想い出を思い出してしまう。 「・・・」 「・・・」  二人で顔を真っ赤にしながら歩くと、寮が見えてきた。 「着いちゃいました」 「着いちゃったな」 「・・・」 「・・・」 「「あの」」  二人同時に言葉が出る。 「白ちゃんからどうぞ」 「いえ、支倉先輩から・・・」 「なら・・・良かったらもう少し散歩しないか?」 「はい、是非お願いします!」 「でも白ちゃんの用事は大丈夫?」 「大丈夫です、だって私も同じですから」 「そっか、それじゃ行こうか」 「はい!」  俺達は腕を組んだまま、今来た道を引き返し、脇道に入る。  もう少しだけ、二人だけで居るために。
8月20日 ・FORTUNE ARTERIAL SSS”穏やかだった夜” 「ごちそうさまでした」 「おそまつさまです」 「でもさ、やっぱりすごいと思うぞ、これは」  何が凄いかというと、ここは寮の俺の部屋で陽菜は電気コンロだけで、  完璧に味噌ラーメンを作り上げたからだ。 「そんなことはないよ、麺やスープは市販の物だし、野菜は炒めただけだし」 「それでもさ、寮でここまでラーメンを作れる人なんていないと思うぞ」 「もぅ、孝平くん。そんなに誉めても何も出ないよ?」  笑いながら陽菜は俺のどんぶりを手にする。 「洗い物くらい俺がするよ」 「そんなに多くないから大丈夫だよ。待っててね、先に紅茶をいれてあげる」  ラーメンの後に紅茶はミスマッチだと思う、けど陽菜の紅茶は絶品だ。  きっとまた新しいブレンドでいれてくれることだろう。 「〜♪」  エプロンをつけ、上機嫌に鼻歌まで出てきてる陽菜。  穏やかに流れる、幸せな時間だ。 「はい、お待たせ」 「本当に至れり尽くせりだな、ありがとう」 「これくらい大したことないよ」  そう言いながら洗い物に戻ろうとする陽菜。 「本当に、陽菜は良いお嫁さんになれるよな」 「えっ?」  なにげに口から出た言葉。  その言葉の意味に俺も気づく。 「お嫁さん・・・って、孝平くんの、かな?」  答えるのが恥ずかしい、けど陽菜はちょっと不安そうな目で俺を見つめている。 「・・・他の誰にも渡さないよ」 「あ・・・」  俺の言葉が陽菜に染みこんでいく、そして不安な表情は花開くように笑顔に変わる。 「うん! ありがとう、孝平くん」  その笑顔は眩しすぎた。 「あ、暑いな・・・ちょっと夜風に当たろうかな」  俺はその場から立ち上がり窓を開ける。  クーラーが付いてるのだから窓を開ける方が暑くなることに気づいたけど  今さら止めるわけにもいかなかった。  だが、窓を開けた瞬間に入ってきた夜風は夏特有の蒸した空気ではなく、涼しく  澄んだそよ風だった。俺はその涼しさに驚いた。 「もう、秋が来ているんだね」  いつの間にか俺の横に並んで陽菜が立っていた。 「そうだな、まだ夏真っ盛りって思ってたけどな」  日中の残暑はまだ厳しく、真夏日、猛暑日が続いている。  けど、秋はすぐそこまで来ていた。 「ねぇ、虫の音色が聞こえるよ」  陽菜がそっと眼を閉じて耳を澄ます。  確かに外から秋特有の虫の音色が聞こえて来ている、けど俺はその音色より  眼を閉じて耳を澄ませている陽菜から目が離せなかった。 「もう夜は秋なんだね・・・孝平くん?」 「あ、いや、なんでもない」  思わず見とれていたなんて言えるわけは無かった。 「あ、洗い物しちゃわないと」 「やっぱり俺も手伝うよ。一人よりは早いだろう?」 「んー、お願いしちゃおうかな、いい?」 「あぁ、任せておけ」  陽菜が洗い物をして、俺が水気をふき取る。 「ねぇ、孝平くん。なんだか新婚さんみたいだね」 「え?」  陽菜の言葉にどきっとする。  その俺の表情がおかしかったのか、陽菜が笑い出した。 「陽菜?」 「ごめんなさい、でもさっきの仕返し、だよ」  さっきのって、お嫁さんの発言か? 「まったく」 「ふふっ」  穏やかに時間が流れる、幸せな時間だった。  でも、それはまもなく終わりを告げる、そんな時間でもあった。 「ねぇ、孝平くん」 「なに?」 「今日は・・・お泊まりしてもいい、かな?」  俺の返事は決まっている。  どうやらこの幸せな時間はまだまだ続きそうだ。 「ばれたら大変だよね」 「生徒会役員と寮長が規則違反だもんな」 「ばれなければ大丈夫だよ」 「陽菜も悪い子になったもんだな」 「孝平くんとなら、悪い子になってもいいよ」  幸せな時間は続く、だけど・・・ 「ねぇ、せっかくだから一緒に・・・」  穏やかではない、そんな夜の始まりだった。
8月19日 ・FORTUNE ARTERIAL SSS”ルナティック” 「―――」  肢体が上下するたびに豊かな胸が揺れ、淫靡な声が響く。 「孝平っ! わたしっ!」  腰を深く押しつけた瞬間、瑛里華は背を仰け反らす、限界以上に腰を  密着させるために。  そして高い声とともに、俺を締め付ける。  その衝撃に、俺も限界が越え目の前が真っ白になっていく。 「っ!」  視界がフェードアウトする、その瞬間。  ―――俺は広がる光を見た。 「はぁはぁはぁ・・・」  つながったまま俺に倒れ込む瑛里華の背中をそっと撫でる。  俺はというと、気怠い感覚に身を任せながらも、先ほど見た光景を  思い出していた。 「ん・・・あん」  呼吸が落ち着いてきた瑛里華は腰を上げる。  そして離ればなれになった瑛里華はすぐに俺の横に並んで抱きついてきた。 「・・・孝平、どうかしたの?」 「・・・」 「孝平?」  瑛里華が心配そうな顔をする。 「あ、いやさ・・・その、笑うなよ?」 「え? うん」  突然の俺の言葉に面食らいながら、瑛里華は頷く。 「あのさ、さっき女神を見たんだ」 「女神?」 「あぁ、俺の気のせいじゃなければだけどな。瑛里華っていう女神がさ」 「わ、私が女神!?」  笑われなかったけど、驚かれてしまった。 「なんていうかさ、瑛里華がイク瞬間に、瑛里華の髪がぱぁっと広がってさ」  その時の様子を説明する。  話を聞いてる瑛里華は驚きから照れた顔になっていく。 「誉めてくれるのは嬉しいけど、女神は誉め過ぎよ」 「でも、そう見えたんだから仕方がないさ」  その時、カーテンの隙間から漏れる月明かりが瑛里華の髪を一房照らす。  俺は身体を起こす。 「孝平?」  そしてカーテンを開く。 「きゃっ」  瑛里華がシーツを身体に巻き付ける。 「瑛里華、シーツを取ってそこに座って」 「恥ずかしいわ、カーテンが開いてるから誰かに見られちゃうかもしれないし」 「大丈夫だよ、こんな遅くまで起きてる生徒は居ないさ、ほら」  俺は瑛里華のシーツに手をかける。 「もぅ・・・今回だけだからね」  瑛里華の手から力が抜けるのを見て俺はシーツを取った。 「・・・」 「孝平・・・どこか変なところは無い・・・よね?」 「・・・」  恥ずかしそうに身体を揺らす瑛里華。  だが、俺はその瑛里華の仕草に劣情よりも感動を覚えていた。  均整が取れた女性の身体が月明かりに照らされている。  少し火照って赤みを帯びた肌、自己主張を続けている胸、俺を受け入れた場所は  足を閉じてるから見えない。  そして何よりも月明かりを浴びて輝く瑛里華の金色の髪。 「ヴィーナス」  口から出た言葉は、無意識的に紡いだ言葉、だけど今の瑛里華に似合う言葉だった。 「私は女神なんかより、人間で良いわ。孝平を愛するただの人間で」 「そう・・・だな、でも俺だけの女神なら良いだろう?」 「なら、孝平はダヴィテかしら?」  ヴィーナスと並び一緒に教科書などで紹介される、ミケランジェロのダヴィデ像。 「俺はそこまで鍛えてないさ」 「そうかしら?」  瑛里華はベットから立ち上がって俺の前に立つ。 「っ、瑛里華!」 「ほら、この辺りなんてスゴイじゃない」  俺の胸を指でつーっと触る。 「それに、あんなにしてもまだすごいし」  瑛里華の目線と、手が俺の下の方へと移動する。 「ねぇ、神様って淫乱なの知ってる?」  神々の神話でそう言う直接的な描写は無いけど、戦いの始まりに男女の関係が  原因であることが、あるのを知っている。 「私は孝平だけの女神なんでしょう? なら、もっと愛でて、愛して」  瑛里華に抱きつかれ、そのままベットに二人で倒れ込む。  カーテンは開けたまま、月明かりを浴びる瑛里華は綺麗で、狂おしいほど愛しい。 「孝平・・・ん・・・あぁ」  先ほどと同じ体勢で瑛里華と俺は一つになった。
8月18日 ・FORTUNE ARTERIAL sideshortstory「夏合宿」 「暑い〜」  監督生室での沈黙を破ったのは会長だった。 「あつ〜」  書類を団扇代わりにぱたぱたとし始めた。 「兄さん、クーラーが効いてるのだから外ほど暑くないでしょ?」 「こんな時に外に出る訳ないじゃないか」 「気が散るから静かに仕事して!」 「あつー」 「兄さん!」  いつもの千堂兄妹のやりとりに俺も集中力が途切れた。 「支倉先輩、お茶をお持ちしますね」 「ありがと、白ちゃん」  タイミング良く白ちゃんがお茶を煎れに給湯室の方へと向かった。 「仕方がないな、少し休憩にするか。白、みんなの分も頼む」 「はい、兄様」 「さっすが白ちゃん、征一郎はいいなぁ、良くできた妹が居て」 「出来てない妹で悪かったわね!」 「はい、紅瀬先輩もどうぞ」 「ありがとう」  白ちゃんが紅瀬さんに冷茶を渡して、全員に行き渡る。 「ふぅ、美味いな」 「ありがとうございます」  しばしの休憩時間となった、みんなそれぞれお茶を飲んだり肩を回したりと  休んでいる。 「そうだ、征。良いアイデアがあるんだ」 「却下だ!」 「ちょ、まだ何も言ってないのになんで却下なんだよ。 「伊織の言うことだからな」 「そうね、兄さんの思いつきはあまりあてにならないわね」 「瑛里華まで、兄は悲しいよ、そう思わないかい、白ちゃん!」 「ふぇ!?」 「伊織、白を巻き込むな」 「じゃぁ話くらいは聞いてくれよ」 「仕方がない」  結局話しだけを聞くこととなった。 「というわけで、合宿しよう!」 「どういうわけだ?」 「だから、というわけなんだよ。そこは察してくれよ」 「伊織、小説や漫画ではないんだぞ、ちゃんと説明しないとわからないだろう」  二人のやりとりが続く、会長は話し始めに本当に「というわけで」と言い出した。  前振りも説明も無しに、だ。 「まったく、兄さんは仕事さぼりたいだけじゃないの?」 「違うぞ瑛里華、生徒会の仕事は大事だ、ただテンションの下がったままでは  仕事に支障が出かねない。そこでだ、息抜きも必要、だから合宿だ!」 「よくわからない話の展開ですね・・・」 「支倉、伊織の展開を気にしたら負けだ」  確かにそうかもしれない。 「伊織、合宿するとしても日程の調整や予算などが無いぞ」 「日程なら作ればいいさ、なぁ支倉君」 「はい?」 「今の生徒会の仕事は夏休み明けの為に前倒しでやってる物がほとんどだろう。  1,2日休みにしても問題はあるまい?」  ここで問題がある、と答えたいところだったが、会長の言うとおりなので  無いと言うしか無かった。 「予算は生徒会のC会計を使えば問題無い」 「そんな会計などない」 「嘘っ! 俺が前にいたときプールした会計だぞ? 無いわけないだろう!」 「無い物は無い」 「そんな〜・・・避暑したいのにぃ・・・」  会長の計画は予算問題であっさりとん挫してしまった。 「そんなに合宿したいなら私が手を貸してあげましょうか?」 「え? 紅瀬さん?」  いつもならここで終わる話、そこに意外な人物からの手がさしのべられた。 「本当、紅瀬ちゃん!」 「えぇ、私のつてで宿泊はただで出来るわ。山の中腹だから避暑にも最適ね。」 「おぉ、さっすが紅瀬ちゃん。伊達に長生きしてないね!」  長生きという言葉に紅瀬さんの眉がぴくっと動く。  だがそれもすぐに収まりいつものクールな表情に戻・・・ 「ねぇ、孝平。何かおかしくない?」 「瑛里華もそう思ったか?」 「えぇ」  紅瀬さんの表情から俺だけじゃなく、瑛里華も何かをおもったようだ。  これは何かありそうな気がする。 「食事は出来ないから、自分で材料を用意して行くことになるわ。  かかる大まかな費用はそれだけね」 「おしっ! それで行こう! 日程は・・・この日にで大丈夫かい?」 「えぇ、相談しておくわ」 「よし、生徒会夏合宿決定! おーし、やる気出てきたぞ。それまでに仕事を  全部終わらせるぞ、みんな、やるぞ!!」  会長がものすごい速さで仕事に戻る。  俺は何か不安を感じながら、仕事に戻ることにした。 「ねぇ、征一郎さん。合宿いいの?」 「予算と日程に問題が無ければ構わない」  それに、と小さな声で付け加える東儀先輩、その目線の先には。 「合宿、楽しみです」  嬉しそうな白ちゃんの姿があった。 「なぁ、紅瀬ちゃん、この道って」 「えぇ、準備が必要なの」  夏合宿当日、寮で待ち合わせた俺達は紅瀬さんに案内されて山道を  歩いていた。 「そっか、紅瀬ちゃんの荷物はそっちに置いてあるんだね」 「そうよ」  生徒会面々が山道を歩く、その先にあるのは瑛里華の実家だった。  そうして着いた山の中腹にある千堂邸。 「ようこそ、千堂邸へ。ここが今日の宿泊所よ」 「やっぱりそうかっ! ってなんで俺があの人の所に泊まらないといけないんだ!」 「うるさいぞ、伊織。嫌なら帰れ」  開口一番、伽耶さんは会長に文句を言う。 「伽耶、お世話になるわ」 「駄目と言った、だが聞く耳は持たないのだろう?」 「えぇ」 「確かに、山の中腹で学園敷地より涼しいから避暑に最適だな」 「食事が出来ない・・・そう言う訳ね」  紅瀬さんが言ってる事に何一つ間違いはなかった。 「伽耶さま、お世話になります。つまらない物ですがどうぞ」 「おぉ、すまないな」  お世話になる方に差し上げるんだって、白ちゃんは事前にささきのきんつばを  買ってたっけ。 「それじゃぁみんなの部屋に案内するわね」 「ちょ、俺の意見は?」 「伊織、これは生徒会の活動だ。だが、おまえに強制はしない」 「・・・わかったよ、今日だけだからな。それに俺がいないと始まらないしな」 「さぁ、部屋へ行きましょう」 「スルーですかっ!?」 「お昼はカレーにしましょう」 「お、合宿の定番だね、いいねぇ」 「材料は買ってあるから、これで作りましょう」 「・・・紅瀬さん、それは何?」 「見てわからないの? カレーに使う香辛料よ」  そこに並べられてる瓶の中身は物の見事に真っ赤だった。 「瑛里華、鍋は二つ用意した方が良さそうだな」 「え、えぇ・・・母様、まだ鍋あるかしら?」 「あぁ・・・無くても絶対にすぐに用意させる」 「母様、せっかくだから一緒にお風呂入りましょう」 「あたしはあとでかまわんから、皆で先に入ればいい」 「伽耶、せっかくだから一緒に入りましょう」 「私も伽耶さまと一緒がいいです」 「・・・そこまでいうなら仕方がないな」  そう言いながらも伽耶さんの顔がほころんでいた。 「なぁ、支倉君、せっかくの合宿だ。行かないか?」 「一応聞きますけど、何処にですか?」 「もちろん、のぞきだよ」 「俺死にたくないんですけど・・・」 「そりゃ支倉くんは瑛里華の裸なら嫌と言うほど見てるかもしれないだろう」 「み、見てません!!」 「そうムキになるなって。だからさ、紅瀬ちゃんのナイスバディとか、白ちゃんの  ロリボディとか、見に行こうじゃないか」 「だから、俺は死にたくないですから」 「見つからなければ問題ないだろう?」 「・・・伊織、話がある。ちょっとそこまでつきあえ」 「え? 征! いつからそこに?」 「いいからつきあえ!」 「ちょ、痛い、腕引っ張るなって!」  ・・・はぁ、俺はおとなしく部屋で待とう。  会長と東儀先輩が帰ってきたのはそれから1時間ほど後のことだった。 「綺麗です・・・」 「そうだな」  夜はみんなで花火大会、大会というほどの規模ではなく、手持ちの花火を  みんなでするだけのささやかな大会だった。  女性陣はみな浴衣で、花火の光に照らされたその姿は綺麗だった。 「ねぇ、孝平。さっきの台詞、一体何処を見て言ったのかしらね?」 「・・・花火に決まってるだろう」 「そう言うことにしておいてあげるわ」  微笑む瑛里華の顔は綺麗で思わず見とれてしまう。 「私ね、今回ばかりは紅瀬さんに感謝してるの。みんなで合宿、そんなこと  全く考えたことなかったから、驚いたけど嬉しかった」 「そうだね、紅瀬さんのたくらみにのって正解だったな」 「たくらみって言っちゃ紅瀬さんに悪いわよ?」 「そうだな」 「えぇ」  こうして夏の夜は過ぎていった。  またみんなでここに集まろう、と約束をして。 
8月16日 ・FORTUNE ARTERIAL SSS”プールの王子様”  水の上を渡ってくる風は涼しく、テントの下であっても空気がよどむことは無い。  熱い陽差しはテントが防いでくれている、意外に良い環境なのかもしれない。 「それでもやっぱり監督生室の方が良いかもな」  ファイリングされた書類から目を離し、目の前にあるプールを見渡す。  ここは学院敷地内のプール、そのプールサイドに特設されているテントの中。  プールではしゃぎながら遊んでいるのは、後輩達。  今日は前期課程の生徒のためのプール解放日だった。 「ご苦労様、支倉君」  テントに入ってきたのは前期課程担当の体育教師。  授業は生徒と一緒に走ったり参加したりと、生徒からの受けが良い女性の教師だ。 「ごめんなさいね、人手不足のせいで生徒会を頼っちゃって」 「良いんですよ、これも生徒会の仕事ですから」  会話しながらも、プールの監視は怠らない。 「本当に真面目ね、少しくらい遊んでも良いのよ?」 「いえ、大丈夫です。遊んだことがばれたら後が怖いですし」 「それもそうね」  生徒会を代表して俺がプール監視の仕事を請け負っているが、受けてない他の  メンバーは監督生室で仕事をしている時間だった。  俺も遊ぶわけにはいかないと、持ち出せる自分の仕事は持ち出してきていた。  書類に目を通しながら、プールを監視する。  意外に面倒だが、書類自体は目を通すものばかりなので少しは楽だった。 「それじゃぁ私は向こうに戻るわね」 「お願いしま・・・」 「どうしたの?」  俺は答えず、パーカーを脱ぎ捨てる。  水着だけの姿になって、すぐにプールに飛び込んだ。  そして一人の女の子を抱きかかえる。 「大丈夫?」  その子は俺の声に気づかず、暴れる。 「落ち着いて!」 「え・・・」  その時になって俺が抱きかかえてることに気づいたようだった。 「大丈夫だから力を抜いて」 「は・・・はい」  俺はそっとプールサイドへ向かう、そこには先生が待機してくれていた。 「先生、お願いします」  そっとプールサイドに持ち上げる。 「大丈夫? 足、つってるわね。マッサージを始めるから痛かったら言ってね」  俺はテントに戻り保健室へ連絡した。 「そんなことがあったのね。だからか」  翌日、監督生室に書類を持って行った俺に瑛里華は昨日の経緯を聞いてきた。 「大したことなくて良かったよ・・・ん?」  今瑛里華は何を言った? 「だから・・・か?」 「そうよ、プールの王子様」 「なんだよ、それ」 「孝平のあだ名」  俺がプールの王子様、一体なんだ? 「おぼれかかった瞬間に助けに入ったんでしょう? 下級生の女の子の間で  噂持ちきりよ?」 「別に俺は特別なことをした訳じゃないんだけどな」 「わかってるわ、王子様」 「瑛里華、勘弁してくれ。俺が王子様って柄じゃないだろう?」  どっちかというと、猪突猛進のお姫様を後ろから追いかける従者、だろうな。 「ねぇ孝平。今何か不穏なこと考えてない?」 「・・・俺が王子だったら瑛里華は何になるのかなって思っただけだよ」  とっさに嘘を着いた。瑛里華はこう言うことには鋭いんだよな。 「私? 私はやっぱり王子様と婚約したお姫様かしら?」 「・・・」 「・・・もぅ、孝平。何か言ってよ! 恥ずかしいじゃない!」  顔を真っ赤にして怒る瑛里華。 「恥ずかしいなら言わなければいいだろう? でもあってるかもな」 「なっ!」  ますます顔を真っ赤にする瑛里華だった。
8月14日 ・夜明け前より瑠璃色なMoonlight Cradle SSS”秋の足音” 「あら、達哉くん?」 「あ、仕事終わったの?」  事務室でPCでレポートを書いてた俺の所に姉さんがやってきた。 「えぇ、私の仕事は終わったけど、また残ってたの?」  姉さんの呆れた顔、だけどすぐに嬉しそうな顔になる。 「そりゃ、姉さんと一緒に帰りたいからさ」 「駄目よ? 残業代はでないんだから仕事終わったら帰らないと」 「別にいいさ、ちょっと展示での企画を書いてただけだし」 「あら、そうだったの? それじゃぁその企画を見てみようかしら」  そういって画面をのぞき込む姉さん、だけど俺はファイルを閉じる。 「達哉くん?」 「今日は遅いからもう良いよ、それより帰ろう」 「私は達哉くんの企画を見てみたいな」 「だめ、仕事が終わったら早く帰らないといけないんだろう?」 「もぅ、達哉くんったら」  そう言いながら姉さんは事務室の出口へ向かう。 「達哉くん、ここの戸締まりお願いね」 「わかった、通用口で待ってる」 「陽が暮れると涼しいわね」  弓張川の土手を二人で並んで歩く。  もちろん、手はつないで。 「達哉くん、静かにしてみて」  歩くのを止めて、静かにしてみる。 「聞こえる?」 「・・・鈴虫か?」  鈴虫かコオロギかわからないけど、それは秋の虫の音色。 「もう秋なのね」 「そうだね」  昼間は蝉の音が聞こえても、夜はもう秋の足音が聞こえる季節。  もうすぐ秋になるんだな。 「ふふっ」  突然姉さんが微笑む。 「どうしたの、姉さん?」 「やっぱり季節って良いなって思ったの。月にいたときは季節なんて無かったから」  そう言いながら夜空を見上げる。でもそこに月は浮かんでいない。 「・・・そうだね、やっぱり季節があるっていいよな」 「えぇ」  そんな世間話を姉さんとしながら帰る。  たったそれだけだけど、楽しくかけがえのない時間だった。 「「ただいま」」  二人で挨拶をして家に入る。  確か麻衣は今日は友達の家に出かけているはずだ。 「夜御飯どうしようか?」 「冷蔵庫に何か入ってたかしら?」  姉さんはキッチンへ向かう。 「俺は風呂の用意してくるね」  夜御飯は姉さんに任せて浴室へ向かう。 「達哉くん、麻衣ちゃんが夜御飯の用意しておいてくれたわ」  どうやら出かける前に準備をしていってくれたらしい。 「暖めればすぐに出来るわ、ちょっとまっててね」 「俺も何か手伝おうか?」 「そうね、お願いしちゃおうかしら」  キッチンにある俺用のエプロンをして姉さんの横に並ぶ。  なんだかちょっと恥ずかしいかもしれない、だって・・・ 「ふふっ」 「どうかした?」 「ううん、なんだか嬉しくって。達哉くんとこうして一緒に料理してるだけなのにね」  まるで新婚さんみたい、と俺も思ってしまった。  姉さんはそう言っていないけど、きっと同じように考えてるかもしれない。 「・・・それよりも作っちゃおうよ」 「達哉くんは恥ずかしがり屋さんなのかしら?」 「姉さん!」 「はいはい♪」 「「ごちそうさまでした」」  二人で麻衣の用意してくれた食事を食べ終えた。 「姉さん、俺が後かたづけしておくから先にお風呂どうぞ」  キッチンへお皿を持っていきながら俺は姉さんに先に勧めた。  食べる前に準備に使った物は片づけてあるので、あとはお皿を洗うだけだ。  これならすぐに終わるだろう。 「ねぇ、達哉くん。もう、秋なのよね」 「ん? あ、そうだね」  姉さんの方を向くと、なんだか顔を赤くしている。 「だから、結構涼しいわよね」 「陽が暮れたら涼しくなったよね」 「えぇ・・だから、一緒に温まらない?」 「え?」 「もぅ、これ以上私から言わせないで」 「・・・わかった、行こうか」  俺は洗い物を止めて姉さんの手を取る。 「あ、まだ着替えが」 「構わないよ、家には俺以外誰もいないんだし、あとで取りに行けばいいさ。  それに、涼しいから早く温まりたいしね」 「・・・うん」  俺は姉さんの手をとって浴室へと向かう。 「久しぶりに達哉くんの背中を流してあげるわ」 「ありがとう、姉さん」 「・・・その後、私も綺麗にしてくれる?」
8月11日 ・夜明け前より瑠璃色なMoonlight Cradle SSS”お風呂上がり” 「ただいまー」  どうやら麻衣が帰ってきたようだ。 「おかえり」  リビングから声をかける。  ぱたぱたぱた、と階段を駆け上がっていく音が聞こえた。  直接部屋へと帰っていったようだ。  いつもならクーラーの利いた部屋に真っ先に来るのだけどな。  そう思いながらも、俺はテレビに目を戻す。  すぐに階段を駆け下りてくる音が聞こえた。  麻衣が制服姿のままリビングに入ってくる、と思ったらそのまま通り抜けて行った。  その先にあるのは浴室。  どうやらシャワーを浴びるらしい。  今日は吹奏楽部の練習日、麻衣は朝から学院へ行っていた。  朝早い時間なら涼しいが、日中は残暑厳しい暑さ、学院から帰ってくるだけで汗を  かいてしまう。 「風呂から上がったら麦茶でもいれてあげるか」 「ふぅ、さっぱりしたぁ」  麻衣の声が聞こえたので、俺は立ち上がって麦茶を用意しようとした。 「っ!」  俺は声を失った。    下着とタンクトップ姿の麻衣が浴室の方から現れたからだ。   「あれ、お兄ちゃんどうしたの? もしかしてお兄ちゃんもシャワー入りたかった?」 「ち、違う」 「そう?」  そう言いながら麻衣はキッチンの方へと入っていく。   「じゃなくて、麻衣。その姿ははしたないだろう」 「なんで?」    首を傾げる麻衣、その姿が妙に艶めかしく感じるのは、麻衣の姿のせいか、それとも  お風呂上がりの麻衣からする、石鹸の香りのせいだろうか・・・ 「別に裸じゃなんだし・・・」  そう言いながら冷蔵庫を開ける麻衣。 「お兄ちゃんが注意したバスタオルでもないからいいんじゃないかな?」  以前バスタオル姿でうろついてた麻衣を注意したことがあった。  確かに裸でもないし、注意したバスタオル姿でもないけど、これはかなり  目の毒、というか誘惑されてしまう。 「あったあった」  麻衣はアイスのカップとスプーンを持って、ソファに座る。  そして食べはじめる。   「この一口の為に今日頑張ったんだよ、美味しい♪」  幸せそうに微笑む麻衣の顔を見て、俺は後ろめたい気分になった。 「・・・」 「お兄ちゃん、もしかしてアイス食べたいの?」 「いや、いいよ。それよりも麻衣、アイス食べたらちゃんと洋服をきるんだぞ?  このままだと風邪引いちゃうからな」 「はぁい・・・ん♪」  返事をしながらアイスを食べる麻衣だった。 「ごちそうさまでした、それじゃあ着替えてくるね」    俺の横を通り過ぎていく麻衣。  その可愛いお尻に目がいきそうになり、慌ててテレビに目を戻す。 「・・・はぁ」  麻衣が横でアイスを食べてる間、俺はテレビを見ていたはずだが何も覚えて  いなかった。 「・・・なんだか妙に疲れた」  これからバイトだというのに、妙に疲れた昼下がりだった。
8月3日 ・夜明け前より瑠璃色なMoonlight Cradle sideshortstory「今年も最高の誕生日」 「行って来ます」  姉さんはいつものように博物館へと仕事に向かった。  見送ったのは俺と麻衣。 「・・・」 「・・・」 「と、とりあえずリビングに行くか?」 「う、うん、そうだね」  二人でぎこちないまま、リビングに戻る。 「お兄ちゃん、麦茶飲む?」 「あぁ」  麻衣はキッチンへの方へと向かっていった。  俺はそれを見送りながら、ソファに深く座り込む。  窓の外を見る、真っ白な雲に青い空。  真夏の天気だった。 「おまたせ、お兄ちゃん」 「ありがと」  俺は麻衣から麦茶を受け取って飲む。  麻衣は俺の横に座って同じように麦茶を飲む。 「・・・」 「・・・」  場が続かない。 「・・・あー、もうだめだ!」 「お兄ちゃん? きゃん」  俺は横に座ってる麻衣を抱きしめる。 「よく考えたら今日我慢する必要なんてないんだよな」 「でも」 「嫌だ、俺は我慢したくない」  そう言って強引に唇を重ねる。 「ん・・・はぁ・・・お兄ちゃん」 「麻衣、誕生日おめでとう」 「・・・うん、ありがとう」  今日は麻衣の誕生日、だが今年は平日だった。  夏休みとはいえ、俺は午後からバイトがある。バイトを断り遊びに行く事も  考えたけど、みんなで誕生会を開きたかったので、それはやめにした。  代わりの先日の日曜日、俺は麻衣と記念の海へと出かけて来た。  お互い想いが通じ合って最初のデートをした、あの海だ。  1日中遊んで俺と麻衣の二人だけで誕生日を祝った。  そうして迎えた麻衣の誕生日当日。 「お祝いはもうしてもらったし」  そう言う麻衣だったが、やはり何かしてあげたくなってしまった。 「よし、麻衣。デートに出かけよう」 「え、いいの?」 「あぁ、遠くへは行けないけどせっかくだしな」 「うん! それじゃぁ着替えてくるね!!」  ぱたぱたと麻衣は二階へと駆け上がっていった。 「俺も準備するか」 「おまたせ、お兄ちゃん」  リビングで待ってると麻衣がおりてきた。 「どう・・・かな?」    麻衣は見たことのない白いトップスにタイトスカートという姿だった。  トップスにはピンでネクタイふうの飾りが留められている。  そのネクタイと同じ柄のリボンがスカートにも縫いつけられていた。 「ちょっと短すぎないか?」 「もぅ、お兄ちゃんのえっち」 「そう思ったんだし仕方がないだろう、それに・・・」  そこまで言いかけて麻衣の視線に気づく。 「それになに、かな?」 「・・・言わせるなよ」 「わたしは聞きたいな、お兄ちゃん」 「・・・」  上目遣いの麻衣。 「・・・見せたくないんだよ」 「聞こえないよ、お兄ちゃん」  そう言う麻衣の顔は真っ赤だ、間違いなく聞こえてるはずだ。 「ほら、出かけないと時間がなくなっちゃうぞ」  俺は先に玄関に向かう。 「あ、待ってよお兄ちゃん!」 「ふふっ」    暑い陽差しの中を歩く、俺はその陽差しにすでにやられそうになっていたが  麻衣は楽しそうだった。 「お兄ちゃん、だらしないぞ?」 「暑い物は暑い」 「でも、暑いから良い物もあるよ、ほら」  麻衣が指さす先は物見が丘公園、その入り口に止まってるのは移動販売車だった。   「美味しいね、お兄ちゃん」  本当に美味しそうにアイスにかぶりつく麻衣。 「確かにこれだけ暑いと美味いな」  俺もアイスを食べる、暑い外で食べるアイスの味は格別だった。  麻衣とアイスを食べながら物見が丘公園を散歩する。  たったそれだけしか出来ないけど・・・ 「ふふっ」  麻衣は楽しそうに笑っていてくれる、それだけで俺も嬉しかった。 「暑い・・・」 「そんなに暑いって言わないでよ〜」  二人で散歩を終えて帰ってきた俺達を出迎えたのは、蒸し暑くなった我が家  だった。出かけるときに窓をしめ空調を切ればこうなる。  家に入った瞬間、外よりも暑く感じ汗がどっと出た。 「こりゃバイト行く前にシャワー浴びないとな」 「そうだね」 「麻衣、先に入って良いぞ」 「お兄ちゃんこそ先に入っていいよ」 「俺は後でいいさ」 「・・・」  麻衣は何かを考えてるようだ、その考えの先に何があるのか。  何となくだがわかってしまう。 「それじゃぁ一緒に入ろう、お兄ちゃん」 「恥ずかしいから先に入ってて」  そう言われた俺は、先に風呂場に入った。  一応タオルは腰に巻いている、だけど麻衣がここに来ると思うだけで  反応してしまっている。 「なんていうか・・・わかりやすいよな」  俺は腰掛けに座る。 「お待たせ、お兄ちゃん」  麻衣が入ってきた。  いつかのスクール水着ではなく、バスタオルだけを捲いた姿だった。   「それじゃぁ背中を流してあげるね」  俺の葛藤を知ってか知らずか、そのまま俺の背後に回る。  そっとシャワーをかけてから、タオルを背中にあてる。 「痛かったら言ってね」  麻衣はそっと背中を洗い始めた。 「んしょ・・・お兄ちゃんの背中って大きいね」 「そうか?」 「うん、あんまり見たこと無いし・・・」  背中に何かが当たる感触がする。 「やっぱりおっきいなぁ」  麻衣がそっと背中に抱きついてきてるようだった。  タオル越しの柔らかいふくらみが否応なく俺を興奮させる。 「よし、背中はこれでオッケーだよ、次は頭を洗ってあげるね」 「はい、お終い」 「それじゃぁ次は俺が麻衣を洗ってあげる」 「え、いいよ」 「俺だって麻衣を気持ちよくさせてあげたいからな」 「あ・・・うん」 「ほら、麻衣。ここに座って」  俺は麻衣と入れ替わり腰掛けに座らせた。 「・・・」  しまった、麻衣の背中を洗うとしたらバスタオルを取らないといけない。  そうなると洗う前に俺は我慢が出来なくなってしまう。 「お兄ちゃん?」 「あ・・・うん、麻衣。良ければ頭を先に洗いたいけど・・・」  その時になって気づいた、女の髪は命だって言われることを。 「あ、いや、俺の手じゃ麻衣の髪を傷つけるだけかもしれないな」 「ううん、そんなことないよ。お兄ちゃん、わたしの髪を洗ってくれる?」  そう言うと麻衣はリボンをほどく。  ふわっと広がる麻衣の髪、その光景に目を奪われてしまう。 「お兄ちゃん?」 「・・・痛かったり嫌だったらすぐに言うんだぞ」 「うん」  首元からそっとシャワーをあてる。  そして髪をお湯で濡らしてから、シャンプーを取り髪にそっと触れる。 「ん」  一瞬びくっとする麻衣。 「だいじょうぶだよ、お兄ちゃん」  麻衣の言葉に後押しされ、俺は麻衣の髪を洗う。  注意しながら、そっと髪を梳くように、時折頭部の皮膚をマッサージするように  大事に大事に髪を洗う。 「お兄ちゃん、髪洗うの上手なんだね」 「そうか? さっき麻衣にしてもらったことの真似だけどな」 「わたしより上手だと思うよ」  お世辞かもしれないけど、麻衣にそう言われて悪い気はしない。  だからといって調子に乗らず、先ほど以上に丁寧にそっと髪を洗う。 「ん・・・お兄ちゃん」 「痛いか?」 「ううん・・・気持ち良いよぉ」  麻衣の甘い声。その声は俺を甘く痺れさせる。  落ち着け、今は麻衣の髪を洗いきる、それだけを考えろ! 「ふぁ・・・そこいいよ」 「・・・」  別にやましいことをしている訳じゃない、ただ髪を洗ってるだけなんだ。  なのに・・・ 「ああんっ」  麻衣の声に惑わされ続けることとなった・・・ 「終わったよ、麻衣」  いろんな意味で終わりを迎えることが出来た。  甘い声を出す麻衣の髪をトリートメントで仕上げてシャワーで流す。 「終わった・・・」 「ふぁぃ」  麻衣はなんだかのぼせたような声を出す。 「だいじょうぶか・・・っ!」  麻衣の顔をのぞき込んだとき、今さらながらに気づいた。  バスタオルとはいえ濡れれば身体に張り付く、さっきからシャワーを浴びた  麻衣のバスタオルは身体に張り付き、その柔らかいラインを浮き彫りにしている。  気のせいか、ふくらみの先端が浮き上がって見える。 「ん・・・お兄ちゃん」  麻衣はふらっと立ち上がったかと思うと、その場にぺたっと座り込んだ。 「麻衣、大丈夫か?」 「うん、わたしは大丈夫だよ・・・お兄ちゃん」  その顔は熱にうかされたような、そんな表情だった。  一瞬本当にのぼせたのか、と思ったがそれがすぐに違う事がわかった。 「麻衣?」  麻衣はタイルの上に仰向けに寝ころんだ。 「お兄ちゃん、今度は何処を洗ってくれるの?」  寝ころんだ拍子にはだけたバスタオル、それは麻衣の身体の全てを見せている  訳じゃない、逆に隠れてる分余計に麻衣を妖艶に見せていた。 「手の届かないところもちゃんと洗って欲しいな・・・ううん、汚して欲しい」 「麻衣・・・」 「でも先に・・・最初にお兄ちゃんの唇を洗ってあげる」  俺の理性が崩壊した瞬間だった。  ・  ・  ・ 「お兄ちゃん、入ってもいい?」 「あぁ」  左門で麻衣の誕生会をしてからの夜、俺は部屋でうとうとしていた。  日中思った以上に体力を使い果たし、そのままバイトで疲れ切っていた。 「お兄ちゃん、ごめんなさい」 「どうしたんだ、麻衣?」 「だって、お兄ちゃんが疲れてるの、わたしのせいだもん」  確かに麻衣にも理由の一端があるかもしれない。 「そうかもな、でも俺は麻衣が好きだから、そうしたかったから」  そう言いながら麻衣の頭を撫でる。 「ん・・・お兄ちゃん、ありがとう」 「だから、気にするな。でも・・・」 「でも、なに?」 「さすがに今夜は一緒に寝るだけだからな?」 「いいの?」 「あぁ、俺が麻衣と寝たいだけだからな、逆にお願いしたいよ」 「うん、ありがとう!」   「えへへ」  麻衣は楽しそうにベットに横になる。 「今年も最高の誕生日をありがとう、お兄ちゃん」
8月2日 ・FORTUNE ARTERIAL 楽屋裏小劇場〜プール掃除編〜再び楽屋裏トーク編 「あの・・・またするんですか?」 「当たり前であろう、主役がいて始めて終われるのだからな」  そう言って緑茶をすするのは伽耶さん。 「そうね、私たちをのけものにするなんて酷いと思わないかしら、千堂さん」 「私に言われても・・・」  そう言って肩をすくめる瑛里華。  俺の部屋に集まってのお茶会はいつものことだが、プール掃除と伽耶さん、  紅瀬さんと遊んだ後はさすがにきつい。  出来れば眠ってしまいたいのだが・・・ 「でも、伽耶にゃんは出向してたんでしょ?」 「伽耶にゃん言うな! まぁ、どうしてもというので撮影に行ってたのだが・・・」  顔を曇らせる伽耶さん。 「何かあったんですか?」 「いや・・・そのな・・・」  言いづらそうにしている、よほどのことがあったのだろう。 「嘘から出た真、それとも瓢箪から駒かしらね」 「どういうことですか?」 「ふふっ、伽耶から直接聞くと良いわ。その方が面白いから」 「伽耶様、何があったのですか?」 「なんでもないわ!」 「ひゃぅ」  伽耶さんの怒りに白ちゃんが縮こまる。 「伽耶、東儀さんをいじめちゃ駄目よ」 「い、いじめてなどおらぬ!」 「なら説明してあげればいいじゃない。もう過ぎた事よ」 「差し障り無いなら教えてください、伽耶さん」  俺も頼むことにした。 「う゛・・・」  一瞬困った顔をした伽耶さんだったが、はぁ、とため息を付き諦めた顔になった。 「撮影があった、それだけだ」 「母様、撮影だけでなんでそんなに嫌な顔するんですか?」 「だってねぇ、撮影って抱き枕のですものね」 「き、桐葉!」  紅瀬さんの衝撃の発言に皆固まった。 「えっ、伽耶にゃんの抱き枕! 私見たい、欲しい、抱きたい!!」  ・・・いや、一人だけ興奮してる人がいた。 「あは、あははは・・・」 「抱き枕の撮影、ね・・・」  瑛里華と陽菜は引きつった顔をしている。 「まさかあの時の話を本気にするとは思っても見なかったのだ!」  そういえば、以前エイプリルフールでそんな話が出たような出なかったような・・・ 「もうこの話はお終りだ!」  これ以上伽耶さんの機嫌を損ねるのも良くないのでこの話は終わりになった。 「孝平、プール掃除お疲れ様」 「あぁ、瑛里華も風邪が良くなって良かったよ」 「ありがと」 「支倉先輩、一声かけてくれればお手伝いさせていただいたのに」 「白ちゃんはローレルリングもあっただろう?」 「と、いうわけでその辺の経緯はここ参照!」 「お姉ちゃん、手を抜きすぎだよ」 「ここって言われたってわからないですよ、かなでさん」 「おお、なるほど、こうなっておったのか」 「そうね、私たちが居ない間にも話は展開してたのね」  ・・・わかる人がここにいた。というか、なんでわかるんですか? 「でも、せっかく水を抜いたのにまたいれちゃったら明日の検査が大変じゃないの?」 「検査? あー、そういえばそんな話あったな」  何故か目線を逸らす伽耶さん、気のせいか額に大きな汗をかいている。 「・・・なんとなく話が読めてきたわ、母様」 「な、なんのことだ?」 「それじゃぁここできりきりの回想シーンだね、用意はいい?」 「いや、回想ってなんですか!」 「きりきり、お願いね」  俺のツッコミは無視された。 --- ・FORTUNE ARTERIAL 楽屋裏小劇場〜プール掃除編〜真実編 「暑いな」 「夏だから」  私と伽耶は部屋で一緒に過ごしていた。  千堂邸は作りが古く、クーラーが無い。千堂君や千堂さんの私室にはあるけど  この離れには無く、以前東儀家から持ってきた古びた扇風機があるだけだ。 「・・・暑い」 「そうね」  襖の近くに置かれたブタの形をした蚊取り線香の煙がゆったりと上っていく。 「・・・暑い、どうにかしろ」 「クーラーのある部屋に行けばいいじゃない」 「嫌だ、あの風は好きになれん」 「贅沢ね」 「暑い!」 「それじゃぁ、水浴びでもしたら?」 「おぉ、良い案ではないか。では早速準備を頼む」 「私は本を読んでるのだけど」 「桐葉、友の頼みを聞いてくれぬのか?」 「・・・」  命令をしないだけいいのだろうか、それともずるくなってきた分悪いのだろうか? 「はぁ・・・ちょっとだけ待ってて」  確か、あれはあそこにあったはず、私はあれを取りに行った。 「はい、どうぞ」 「桐葉、これはなんだ?」 「見ての通り、水浴びの為のプールよ」  千堂家の倉に何故かあった、子供用のビニールプール。それを庭に持ち出して  水を張った。 「何故あたしが子供用の物にはいらねばならぬ?」 「水浴びするだけなんだからいいじゃない」 「嫌だ、もっとちゃんとしたのが良い」 「なら海に行く?」 「面倒だ」 「・・・」  どうしたものか、そう思った時、伽耶が何かを閃いたようだ。 「そういえば、学院の方に大きなプールがあったな」 「えぇ、あるけどまだ準備は出来てないはずよ」 「そうか、なら準備させるまでだ」  その後征一郎さんを呼び出し手配をしたようだ。 「今日の所はこれで我慢しておこう、明日が楽しみだな」 「・・・誰が犠牲になるのかしらね」  恐らくは千堂さんと、孝平だろう。 「・・・気が向いたら手伝いに行こうかしら」 --- 「母様・・・」 「伽耶様・・・」 「伽耶さん・・・」 「な、なぜみんなあたしを見る?」  紅瀬さんの回想を聞いて、みな伽耶さんの方を見ていた。 「伽耶にゃんぐっじょぶ!」  何故かかなでさんだけ喜んでいた。 「なら、明日はめいいっぱいプールで遊べるね。みんなで遊ぼうよ!」 「そうね、過ぎたことを気にしても仕方がないわね。私も風邪が治ったし  身体をおもいっきり動かしたい気分なの」 「それじゃぁ私はお弁当を持っていくね。簡単な物しかできないけど」 「悠木先輩、私もお手伝いします」 「伽耶はどうするの?」 「あたしか? 気が向いたら水浴びに行くとしよう」 「そう? じゃぁ決まりね」  トントン拍子に話が進んでいく。 「俺は」 「もちろん、参加よね、孝平」 「支倉先輩も来てくださいますよね?」 「こーへーは参加決定だよ!」 「孝平くん、来てくれると嬉しいな」  遊んでない4人は遊ぶ気満々だった。 「そうね、今度はみんなで鬼ごっこしましょうか」 「そうだな、それも面白いかもしれないな」 「いや、鬼ごっこという単語にはあまり良い思い出が無いのですけど・・・」  その時紅瀬さんの微笑みが目に入った。  なんだか嫌な予感がする微笑みだった。 「ねぇ、知ってる? プールでの鬼ごっこで捕まったら一枚脱がないと  いけないのよ?」 「なに! そうなのか!?」 「なんですと!?」 「紅瀬さん、嘘言わないでください!!」 「捕まらなければいいだけよ、それとも孝平の前で肌をさらしたいのかしら?」 「・・・」  みんなが一斉に俺を向き、そしてうつむく。 「そ、そうね・・・ビキニで行けばチャンスは2回になるわね」 「わ、私はワンピースしか持ってません・・・ビキニを買わないといけません」 「わたしのは元からビキニだし、安心」 「どうしよう、一度捕まったら私・・・でも、孝平くんなら・・・」 「つ、捕まらなければいいだけではないか」 「ふふっ」 「紅瀬さん、楽しんでませんか?」 「えぇ」  悪びれもせず即答する紅瀬さん。 「でも、私は学院指定のしか持ってないから、一度で裸になっちゃうわよ?」  思わず想像しそうになって、頭を左右にふって止める。 「いいのよ、無理しなくても。私は孝平にならいいんだから」 「私も孝平になら・・・」 「支倉先輩なら、私・・・」 「こーへー、やん、大胆」 「孝平くん、わたしがんばる」 「そ、そうだな、あたしも参加だけはしてもいいぞ?」 「・・・」  俺は逃げたくなってきた・・・けど。 「逃げたら孝平の不戦敗よ、何されても文句いわないでね」  逃亡の道はふさがれた。  俺はどうすればいいんですか・・・  明日の夜、無事に部屋に戻って来れますように。  そう祈らずにはいられなかった。
7月31日 ・FORTUNE ARTERIAL 楽屋裏小劇場〜プール掃除編〜feat.桐葉&伽耶 「・・・あれ」  ふと目が覚めた、どうやら眠ってしまっていたようだった。 「っ!」  身体が固くなって、起きようとしたら痛みが走った。  痛まないよう気をつけてゆっくりとおきあがる。 「ふぅ・・・そうか」  ここはプールの男子更衣室。そこにある長椅子でうとうとしまったようだ。  半日前、シスターに頼まれたプール掃除、誰にも助けを呼ぶことが出来ず  一人で掃除を終えたのがついさっき。 「はぁ・・・早くプールを施錠して報告に行かないとな」  長椅子から立ち上がり、着替えようと思った。  その時、外から人の声と水の音が聞こえた。  おかしい、もう陽が暮れたこの時間にプールに人がいるわけがない。  そもそも掃除中で立入禁止にしてあるはずだ。 「誰だろう?」  俺はプールに続く扉を開いた。 「目が覚めたのか、支倉」  何故か水の入ったプールの中から伽耶さんがこちらを見上げてきていた。 「駄目よ伽耶、孝平は掃除をして疲れてるんだから」  同じようにプールに入ってる紅瀬さん。 「まったくだらしがないやつだな」  ・・・どうなってるんだ? 「何はともあれ掃除ご苦労であった」  プールから出てきた伽耶さんは真っ白な水着・・・いや、どこから調達したのか  わからない、真っ白な学院指定水着姿だった。 「・・・」  横に立つ紅瀬さんは普通の学院指定水着だった。  学院のプールなのだから、これが普通の姿なのに、何故か安心できる。  何でだろうな・・・ 「・・・はっ」  思わず遠くを見上げていた俺は我に返った。 「なんで伽耶さんと紅瀬さんがここに居るんですか?  それもプールに水が入ってるし」  伽耶さんに合わせてであろう、プールの水は2/3程度の水深だった。 「なに、水遊びをしているだけだ」 「いえ、だから何で今なのか、それよりも明日業者がくるので水を抜いておかないと  いけないんです」 「ならまた抜けば良かろう」  ・・・確かにそうだけど、なんか釈然としない。 「ふふっ」  俺と伽耶さんのやりとりを見ていた紅瀬さんが微笑んでいる。  その笑みは・・・なんか嫌な予感がする。 「伽耶、孝平に言うことはないの?」 「あたしが孝平に何を言うというのだ?」 「そうね・・・水着、似合ってるとか?」 「なっ!」  伽耶さんは顔を真っ赤にした。 「そういえば、伽耶さんの水着って珍しいですよね」 「えぇ、でも伽耶に似合うでしょう?」 「そうですね、良く似合ってます」  確かに、白色がこんなにも似合うとは思ってもいなかった。 「ななな、何を言う!」 「伽耶、誉められたんだからお礼を言わないと」 「あたしは、誉めて欲しいからこれを着た訳じゃない!  桐葉がお揃いを着て欲しいって言うから着ただけだ!!」 「えぇ、思ってたとおり、いえ、それ以上に似合うわよ、伽耶」 「素直に喜べないのは何故なのであろう・・・」  釈然としてない表情の伽耶さん、だけどどことなく嬉しそうに見える。 「せっかくだから孝平も一緒に涼まない?」 「え? 俺も?」  プール掃除で疲れてるのだが、少しだけ眠ったおかげで身体の方は  大丈夫そうだ。 「あ、あたしは別に支倉が居てくれなくたって構わないぞ?」 「私は孝平が居てくれた方が嬉しいわ」 「桐葉がそこまで言うなら」 「俺の意志は?」 「あら、こんな美女に誘われて逃げ出すのかしら?」  確かに美女のお誘い、嬉しくない訳じゃないが・・・  何故か逃げた方が良いような気がしないでもない。 「ほらっ!」 「え?」  紅瀬さんに腕を取られたと思ったら、プールの中に投げ飛ばされた。  浅い水深だから危険、俺は着水した後の衝撃に備える。  だが、思った以上に水深が深くなっていた。  どうやら水を入れてる途中だったらしく、今はプールの縁まで水がたまっている。 「紅瀬さん、なにをって!」 「わわっ!」  伽耶さんが飛び込んでくる、いや、押されて落ちてきたのだろう。  俺は伽耶さんを水中で上手く受け止めて、水面に顔をだした。 「危ないじゃないか!」 「ごめんなさいね、でも伽耶も楽しそうだから」 「え?」  そう言えば伽耶さんは俺にしがみついたままだった。 「ななな、はなせっ!」  腕の中でもがく伽耶さんを離す。 「次は私の番ね」 「え?」  そう言うと今度は紅瀬さんが飛び込んできた。  紅瀬さんに押されるように水中に沈む俺と紅瀬さんは正面から抱き合う形に  なっている。  さっきの伽耶さんとも同じ感じだが、俺の胸に当たる感触は先ほどとは  比べ者にならないほどの存在感を俺に感じさせてくれた。 「ふふっ」 「紅瀬さん?」 「残念だけど、今はここまでよ」  そう言いながら俺の胸をつーっと指でなぞる。 「それじゃぁ遊びましょう。最初の鬼は孝平で良いわね」 「鬼?」 「えぇ、伽耶。鬼は彼よ、一緒に逃げましょう。捕まったら何をされるか  わからないわよ?」 「そうだな、たまには逃げる方になるとするか」  そう言うと二人は俺の前から離れていく。 「鬼さんこちら、手の鳴る方へ」 「鬼さんこちら、手の鳴る方へ」  俺に遊びに参加しない、という選択肢は無いんだろうな。 「・・・鬼を捕まえに行く鬼か」  せっかくだ、楽しまないと損だからな。全力で行かせてもらおう! 「だらしないな」 「えぇ、そうね」 「・・・」  全力を出しても、二人に触れることさえ出来なかった・・・
7月24日 ・FORTUNE ARTERIAL 楽屋裏小劇場〜プール掃除編〜お茶会  掃除を終えた俺が部屋に戻ってからすぐ、いつものお茶会が開かれた。  出席者は4人。 「そうなんだ、そんなことがあったのね」  そう言って紅茶を優雅に飲む瑛里華は病み上がりだった。 「すみません、支倉先輩。お手伝い出来なくて」  しゅんとなる白ちゃんは、明日のローレルリングのバザーの準備で  忙しかったそうだ。 「孝平くん、声かけてくれれば良かったのに。プール掃除だって美化委員の  お仕事の一環なんだよ?」  陽菜は美化委員の仕事で忙しかったはずなのに、そう言ってくれる。 「ごくろーごくろー、こーへーのおかげで今年も気持ちよくプールに入れるね」  かなでさんは風紀委員と寮長と、聞いた話だと陽菜の美化委員の仕事を一緒に  手伝ってたそうだ。 「仕方がないですよ、急な話だったんですし」  俺は紅茶で喉を潤す。 「でも、ちゃんと次は言ってよね」 「わかったよ、瑛里華。でも今回は何とかなったんだから・・・」 「孝平くん?」 「どうしたの、こーへー?」 「・・・なんとかなったんですよね、掃除って」  急に自信がなくなってきた。  確かに今プールに戻れば掃除を終えた綺麗なプールになっているはず。  掃除は間違いなく終わったのだ。  ただ、その記憶が曖昧なのは、何故だろう? 「こーへー? んー、それじゃぁ今から楽屋裏にはいろっか♪」 ・FORTUNE ARTERIAL 楽屋裏小劇場〜プール掃除編〜楽屋裏トーク編 「と、言うわけでプール掃除おつかれさまー!」  かなでさんが高らかにそう宣言する。 「・・・あれ? さっきまで何かしてた気がするんだけど」 「細かいことは気にしない気にしない」  そう言ってかなでさんは俺のグラスに冷えたジュースを注いでくる。  さっきは紅茶を飲んでた気がするんだが・・・ 「今回のプール掃除編は、わたしのヨメ、ひなちゃんがトップバッター!  さっすがひなちゃん」 「別に凄いことじゃないよ、お姉ちゃん。美化委員の活動中にプールに  人気を感じたからのぞいてみたの、そうしたら孝平くんが一人で掃除  してたのをみつけただけだから」  確かにプールは校庭の近くで部室棟も近いけど、作りのため外から中は  見れないようになっている。  のぞくといっても、更衣室を経由して中に入るしかないはずだ。 「そっか、わざわざ様子を見に来てくれてありがとう、陽菜」 「ううん、そんなにお礼を言われることじゃないよ」 「ちなみにー、ひなちゃんの格好はスクール水着に体操着の上だけでした」 「それってそんなにおかしいかな?」  そう俺に聞いてくる陽菜。 「・・・いや、いいんじゃないか? 似合ってるし」 「ありがとう、孝平くん」  思わずそう言ってしまった、他の3人からの視線が痛かった。 「今回2番手は珍しく悠木先輩でしたね」 「えりりん珍しいっていうなー!」 「でも、水着を着ていてスカートだけっていうのはどうかと思うわよ。  何か特殊な性癖でもあるんじゃないかって思われちゃうんじゃない?」 「そ、そんなことないもん! 単に脱いでる途中でこーへーがずっと  見つめてきてたから恥ずかしくなってからかっただけだもん!」 「お姉ちゃん、やっぱり恥ずかしかったんだ」 「それなのにこーへーったらあんなこと強要して・・・えっち」  俺は目をそらすことしか出来なかった。 「白はどうしてプール掃除のことを知ったのかしら?」 「もともとプール掃除を頼んだのはシスターですから、すぐに教えてくれました」 「それでバザーの準備は大丈夫だったの?」 「はい、今はローレルリングにたくさんの人が来てくださってくれます。  お友達が行ってあげて、と言ってくれました」 「良いお友達がいるのね、白ちゃん」 「はい」 「それで、お楽しみの服装だけど」 「わ、あわわわ・・・あの格好は忘れてください!」 「白いスクール水着にローレルリングのケープ・・・白、一体何処でそう言う事を  教わってくるのよ・・・」 「白い水着はお隣のお婆さまです、白さまには白い水着がお似合いになられるって  言われました」 「またあのお婆さんか・・・」 「ケープは、その・・・はずかしかったので纏っただけです」 「白ちゃん、その格好が狼の目にどう映るか考えたことある?」 「え、狼さんがいるんですか?」  その白ちゃんの言葉に、一斉にこちらに視線があつまる。 「・・・」 「で、でも・・・支倉先輩ならその、優しいですから」  白ちゃんの発言に、視線がさらに痛くなった。 「えりちゃんは風邪をひいてたんでしょ? だいじょうぶ?」 「ありがとう、悠木さん。風邪はもうほとんど治りかけだったのに、孝平が強く  反対してたのよ。治りかけが大事だからもう1日休めって」 「それでもプール掃除のお手伝いにきたんだよね、えりりん。でもどうして  知ったのかな?」 「・・・言わなくちゃ駄目?」 「わたしも知りたいです、瑛里華先輩」 「・・・すぐにお見舞いに来てくれる孝平が来てくれなかったのよ。  それでおかしいなって思って調べたの」 「こーへーってマメだね」  そう言ってにやにやするかなでさん。 「孝平くんだもの」  そう言いながらも満足してるような笑顔の陽菜。 「支倉先輩・・・素敵です」  目をきらきらさせている白ちゃん。 「で、えりりんは王道の裸Yシャツっ!」 「裸じゃないわよ! ちゃんと水着着てたわよ!」 「体操着の上だけっての良かったけど王道はやっぱり強いよね」 「悠木先輩、話聞いてます?」 「さらに、スク水マッサージ付き、こーへー、どうだった?」 「・・・コメントを拒否します」 「・・・」  瑛里華と俺は一緒になって真っ赤になってしまった。 「でも不思議だよね、いつもの楽屋裏なら全員分話があるはずなのに  きりきりとかやにゃんの話が無いね」 「そういえば、そうでした。伽耶様と紅瀬さんにお話はどうされたのでしょう?」 「何か用事でもあったのかな?」 「母様と紅瀬さんは出張よ」 「出張?」  俺はそんな話を今始めて聞いた。って出張ってなんだよ? 「母様は今度の夏の新作グッズの撮影に出かけてるの。紅瀬さんはそのお供よ」 「なにーーーー!」  かなでさんが大声をあげる。 「伽耶にゃん単独でグッズがでるの? わたしをさしおいて!?」 「かなでさんをさしおくのはおいといて、伽耶さんのグッズが出るんだ」 「こーへー、わたしをさしおくなんて酷いっ! こーへーのえっち!!」 「今は関係ないですから!」 「それで、伽耶さんのグッズって何なのかしら?」 「私も詳しいことは知らないんだけどね。どうやらエイプリルフールのネタが  実現されるらしいのよ」 「それって、出張生徒会の乗っ取り?」  今好評放送中の出張生徒会、その乗っ取り計画がエイプリルフールネタで  あったのを思い出す。 「まさか、いくらなんでもそこまでしないとは思う・・・わよ」  瑛里華・・・なんでそんなに弱気なんだ? 「よし、わたしも明日から出張に行く! オーガストにわたしの本気を  みせるのだ!」 「お姉ちゃん、そんな無茶なこと言わないの」 「止めてくれるなひなちゃん、女には闘わなくちゃならないときがあるのだ!」 「お姉ちゃん、夏休みの宿題手伝ってあげないよ?」 「・・・ごめんなさい」 「・・・」  妹に手伝ってもらう宿題って・・・ 「そんなわけで、プール掃除編、お開きです」 「いつも捕捉、感想を送ってくださる皆様、ありがとうございます」 「きりきりの番がないってツッコミはなかったのが残念だよね、期待してたのに」 「でも、美術部の部長さんの番は?って言われた方は居るみたいだね」 「・・・まぁ、それはおいといて」 「「ありがとうございました!」」 「ふぅ」  なんだかよくわからないお茶会は終わりを告げ、みんな部屋へと帰っていった。  使ったカップをかたづけて、俺はベットに横になる。 「なんだか妙に疲れたよな」  午後から始めたプール掃除、たった半日しかたってないはずなのに、体感的に  同じ掃除を4回繰り返した気がする。  日数も半日を回ではなく、半月くらいという感じがする。 「変な1日だったな・・・ま、いっか。もう今日も終わりだし明日は日曜で休みだし」  ゆっくり眠るか・・・ 「まったく、いくら同じメーカーだからって作品と世界が全く違うじゃない」  突然女の人の声がする、おれは驚いて目を覚ました。  部屋の中に一人の女性がたっていた。  長い金髪を頭の上で結わいている、いわゆるポニーテールという髪型だ。  黒を基調とした珍しい洋服に、マント? いや、白ちゃんのケープに似たものを  両肩から垂らしている。 「あ、起こしちゃったわね、ごめんなさいね」 「そんなことより、貴方は誰ですか?」 「通りすがりの科学者よ、どうせ覚えられないことだから気にしないで」 「覚えられない?」 「そ、これから貴方はやり残したもう一つの可能性の続きを見なくちゃいけないの」 「可能性?」 「まぁ、難しいことは気にしないで。それじゃぁそゆことで」  その女性が両手を胸の前であわせる、そのあわせた掌を広げる。  そこから眩しい光があふれ出る。 「まったく、楽屋裏って面倒よね・・・」  そんなぼやきが聞こえてきて・・・おれは光に飲み込まれた。  ・・・続く?
7月18日 ・FORTUNE ARTERIAL 楽屋裏小劇場〜プール掃除編〜エピローグ 「終わった・・・のか?」  口に出して、それが嫌なフラグのような気がした。  たいていこういう言葉を発すると、その通りにならないことが多いからだ。 「・・・」  だけど、終わったのだ。  昼過ぎから始めたプール掃除、結局誰の助けも得ずに終えたのだった。  広いプールの底と壁を掃除し始めて半日、もう日が沈みかけている。  そのたった半日が、半月にも感じるほど長かった。  プールから上がる、水の中から出るときに感じる身体の重みを感じる。  今のプールに水は入ってない、それでもそう感じるのは、単に疲れてるからだろう。 「ふぅ」  プールサイドに仰向けになる。 「なんだか疲れたな・・・」  ・  ・  ・ 「お疲れ様、孝平くん」 「ねぇ、孝平くん・・・お礼、今欲しいな?」 「お疲れー、こーへー。よく頑張った、えらいえらい」 「お礼のキス・・・いっぱいちょうだい」 「お疲れ様でした、支倉先輩」 「その前に・・・してあげます。良いですか?」 「お疲れ、孝平」 「・・・だめよ、寮の部屋に帰ってからよ?」 「・・・」  少し横になってただけなのに眠ってたらしい。 「・・・でも、なんだ?」  妙な記憶がある。  プール掃除にみんなが手伝いに来てくれた、ような記憶だった。  それは陽菜だったり、かなでさんだったり、白ちゃんだったり  瑛里華だったりした。 「あり得ない話だよな」  俺は立ち上がって水の入ってないプールを見る。  間違いなく全て一人で掃除した・・・はずだ。  それなのに、みんなと掃除したような気がするだなんて、おかしい。  陽菜は美化委員の活動があったはず、かなでさんは風紀委員の会合。  白ちゃんは明日のバザーの準備、瑛里華は風邪で寝込んでる。  だから、そんなはずはない。 「・・・ん?」  もう一つおかしいことに気づいた。  生徒会関係者で、紅瀬さんだけ記憶が無い。 「・・・いや、おかしくないか」  記憶がある方がおかしいのだから、無いのが普通のはずなのだ。 「・・・帰るか」  最後の力を使って掃除道具をかたづける。  そして更衣室に入り、備え付けの長椅子に座る。 「・・・あれ」  気が付くと、その長椅子に横になっていた。  ちょっと座るだけだったつもりだが、身体は相当疲れてるようだ。  それでもここで眠るわけには行かない、プールの施錠と先生への報告を  しなくてはいけない。 「・・・ちょっとくらいはいっか」  こうしてプール掃除は終わった。
7月14日 ・FORTUNE ARTERIAL 楽屋裏小劇場〜プール掃除編〜feat.瑛里華  午後から始めたプール掃除。  人海戦術が使えればそう時間はかからないのだろうが、俺一人しかいない  この状況ではいつ終わるかわからない広さだ。  幸い定期的に掃除がされてるらしく、酷い汚れは無い。  だからといって手を抜く気はない。みんなに気持ちよく入ってもらう為だ。  もうひと頑張りだ! 「とはいってもなぁ・・・」  デッキブラシで掃除できる範囲は狭く、少しずつ着実に進んではいるが、  このペースだと陽が暮れる頃になっても終わるかどうか微妙だった。 「プール掃除で徹夜は嫌だな」  そうつぶやいて、そうなりそうな予感に身震いする。 「・・・やるしかないな」 「ふぅ」  あらかじめ買っておいたペットボトルのフタを開け飲む。 「ぬるい」  日陰に置いておいたのだが、それでも時間の経過と共にぬるくなる。  それだけの時間、掃除をしていたわけだ。 「・・・はぁ」  プールサイドに仰向けになる。  さすがに疲れてきた、集中力なんてとっくに切れている。  それでもやり通さなくちゃ、でないと瑛里華が・・・ 「もう、ばれてるわよ」   「電話しても出ないんですもの、探しちゃったわよ?」  携帯は濡れるのがまずかったので持ってきていなかった。 「そんなことより、なんでここに?」 「もちろん、掃除を手伝う為よ」    そう言うと瑛里華は腰に手を回す。 「駄目だ。瑛里華はまだ本調子じゃないだろう?」  そう、俺が瑛里華に声をかけなかった理由。それは先日から風邪をひいて  いたからだった。今日も午前中の授業は欠席している。  普段なら声をかけないことに怒るだろう、だが事情が事情なので黙って  一人で掃除をする事にしたのだった。   「大丈夫よ、一晩ぐっすり寝て回復したわ」 「風邪は治りかけが一番危険なんだぞ」 「ありがとう、でも私だって生徒会の一員なのよ? 孝平だけ働かせて私が  寝てるなんて出来ないわ」    そう言いながらシャツまで脱ごうとする。  そのシャツの下は素肌ではなく、すでに水着を着込んでいる。  様子をみるつもりではなく最初から手伝う気でいたのだろう。 「でも駄目だ、今だって顔が赤い」  そう、瑛里華の顔は火照っている。まだ熱がひききっていない証拠だ。 「こ、これは違うわよ」 「違わない」 「違う」 「違わない!」  意固地になって反論する瑛里華、このままでは口論になって瑛里華に余計に  負担をかけてしまうかもしれない。 「ったく、瑛里華」 「何よ! え!?」  そっと瑛里華を抱き寄せて唇を奪う。 「・・・んっ、はぁ」  そして離れる。 「少し落ち着いたか?」 「え・・・えぇ」  ・・・今さらながらに恥ずかしい事をしたかもしれない。  逆に俺が落ち着かなくなってきた。 「や、やっぱり顔が赤いな」 「そういう孝平も赤いわよ?」   「まぁ、そういうわけだよ」  俺は瑛里華に話しかけながら身体を動かす。  瑛里華はプールサイドの日陰に座ったまま、俺と会話をしている。  結局、手伝う瑛里華をなだめ俺の話し相手になってもらうことで落ち着いた。  一応は監督役として参加することで納得してないけど納得させた瑛里華と、  瑛里華に見られてるからさぼれない俺、という図式でプール掃除は再開され、  終わりを迎えようとしていた。 「ごめんなさいね、結局手伝えなくって」 「良いんだよ、監督が居てくれた方がやりやすいしな」 「でも、世間話をしてただけよ?」 「それでもだよ、俺一人じゃ集中出来なくなってたしな」 「ありがと、孝平。でも、どうして急に業者が来ることになったのかしらね?」  確かに急だった、来るのは明日で、だから掃除をして欲しいだなんておかしいと  思う。 「なんとなく、誰かが後ろで糸を引いてる気がするんだよな」 「・・・私もそう思うわ。でも確証は無いのよね」 「調べる時間が無いのも、もしかして計算通りに進んでるのかもな」 「あり得るわね」 「まぁ、でも何れしなくちゃいけないことだし、幸い今は業務も溜まってない時  だったし、結果オーライだな」  そう言いながら俺はプールサイドにあがる。 「お疲れ、孝平」 「瑛里華もお疲れ様」 「私は何もしてないわ」 「それでもさ、お疲れ様」  俺は両手を伸ばす。 「んー、さすがに疲れたな」 「・・・」 「瑛里華、どうした?」 「ねぇ、孝平・・・あとで部屋に行っても良いかしら?」 「あぁ、構わないけど」 「今日のお礼に、マッサージしてあげるわ」 「おいおい、瑛里華は病み上がりだってわかってるよな?」 「だいじょうぶよ、孝平のこりをほぐすだけだもの、それくらい出来るわ」 「そうか、それじゃぁお願いしようかな」  夜、部屋に瑛里華が来てすぐにマッサージを始めることになった。 「それじゃぁ、孝平、そこにうつぶせになって」    そう言いながら何故かシャツを脱ぐ瑛里華。まだ水着を着たままだった。 「どうしてまだ水着のまま、というか何故脱ぐんだ?」 「ふふっ、掃除中ずっと孝平の視線を感じてたわよ? 孝平ったらこう言うの  好きなんでしょう?」 「・・・」 「ふふっ、頑張った孝平にご褒美をしてあげるわ」
7月12日 ・FORTUNE ARTERIAL Another Short Story Re,                 Extend Episode「つながる日々」 「ふぅ、良い湯だな」 「えぇ、そうね」  家に備え付けた大きな露天風呂。寮から抜け出してあたし達はここで  汗を流し湯に浸かっていた。 「はい、伽耶」 「お、すまぬな」  桐葉がとっくりからお酌をする、それをあたしのお猪口で受け、口に運ぶ。 「良い味だな」 「・・・二人ともお風呂でお酒はないでしょう?」  その様子を見て呆れてるのは瑛里華だった。 「何を言ってるんだ、瑛里華。湯に浸かりながら月を肴に飲む。風流で良いでは  ないか?」 「昔っていつの時代よ・・・」 「そうね、もう何年も前の話よね」 「紅瀬さん、何百年の間違いじゃないかしら・・・」 「あら、女に歳を聞くのはいけないことなのよ?」 「私だって女です!」 「まったく、瑛里華は風流とはほど遠いな」 「私は風流よりもエレガントの方がいいの!」  ふぅ、と一息つく。  まぁそれもまた瑛里華の生き方なのだから良いだろう。 「それよりも瑛里華もどうだ?」 「私は遠慮しておくわ。お風呂上がりに冷えたワインを戴くから」 「それって、風呂上がりのビールみたいね」 「人をおじさんっぽく言わないで!」 「・・・ったく、やかましいな」 「あら、やかましいのは嫌なのかしら、伽耶」 「そうよ、母様。そんな顔して言っても説得力無いわよ」 「うるさい!」  お猪口の中で揺れる酒、その表面に浮かぶ月。  夜空を見上げてみればその月を直に見ることが出来る。  回りを見る、そこには桐葉が居る。  そこには瑛里華が居る。  それだけだけど、なんと心が落ち着くのだろう。  昔からは考えられなかった、あたしの宝物達。 「ふぅ、ちょっとのぼせそうね」  桐葉が湯からあがり、縁に腰掛ける。  髪をまとめていたタオルを外した桐葉。 「・・・」 「私もちょっと休憩」  同じように縁に腰掛ける、瑛里華は髪を後ろで一つに大きく編んでいるので  タオルでまとめては居ない・・・。 「・・・」  さっきまで心が落ち着いてたのに、今は妙にざわめく。 「あら、どうしたの、伽耶?」 「母様?」  二人が心配そうにこちらをのぞきこむ。  少し前屈みになると、その存在はより大きく、誇示してくる。 「・・・どうしたらそんなに育つのだ」  思わず小声でつぶやいた一言だったが、眷属と吸血鬼の聴力を持ってすれば  聞き逃す事はなかった。 「私の胸は普通よ?」  そう言ってわざとらしく髪をかき上げる。  両腕を背中に回すポーズは、さっき以上に胸を誇示する。 「紅瀬さんが言うと嫌みに聞こえるわね」  そう言う瑛里華だって、桐葉ほどではないが大きい。  あたしは自分の胸を見下ろす。  真っ平ら、ではない。ふくらみはちゃんとある・・・けど。 「それなら、伽耶も成長すればいいじゃない」 「そうね、母様もずっとそのままでいる理由もないんだし良いんじゃないかしら」 「確かにそうだが・・・」  あたし達は全員成長を止めている。不老不死であるあたし達は成長を自在に  コントロールできるはず・・・なのだが。  あたしが瑛里華や桐葉と同じ肉体年齢に成長しても胸が大きくなる保証は無い。  もしかすると小さいままかもしれない。 「・・・まぁよい。あたしは今の身体が気に入っておるからな」  成長して胸が大きくならなかった時のショックを・・・考えたくはない。 「それにな、支倉も今のままで良いと言っておったしな」 「え、孝平が?」 「支倉君にそう言う特殊な性癖があったなんて知らなかったわ」 「そ、そうだったんだ・・・」 「なんだか酷い言われような気がするのだが」 「き、気のせいよ母様」 「そうよ、伽耶。被害妄想は良くないわ」 「・・・まぁよい。時はまだまだあるのだ。今を楽しもうじゃないか」  伊織や瑛里華に誘われて、学院生徒して過ごす今。  せめて、卒業するまで今のままで居よう、そう思う。  今日はあたしの誕生日、実家に帰る前に寮で級友と共に祝いの宴を開いて  もらった。  今だけしか一緒に居られない級友ではあるが、悪くはなかった。  ・・・いや、良い記憶になると思う。  だから、その級友達と、瑛里華と桐葉と、みんなとちゃんと卒業してみよう。 「私はそろそろあがるわね。冷えたワインが待ってるわ」 「バスタオルを捲いて腰に手を当ててワインを飲む、そんな姿を想像出来るわね」 「ちょっと紅瀬さん、そんなこと私がするわけないでしょ?」  桐葉と瑛里華の会話を聞きながら、あたしは残ってる酒をあおる。 「今年も良い誕生日だったな」  来年はどうだろう? 「・・・ふっ、心配する必要などないな」  未だに終わらない桐葉と瑛里華の言い合いを見てればわかる。  しばらくは忙しく楽しい日々が続きそうだ。  そう、来年の今日に続く、日々が。
7月10日 ・FORTUNE ARTERIAL 楽屋裏小劇場〜プール掃除編〜feat.白 「支倉先輩、お疲れ様です」  プールのふちの所に白ちゃんの顔だけが見えた。 「白ちゃん」 「はい、これをどうぞ」  そっと手を出す白ちゃん、その手にはペットボトルが握られていた。 「ありがとう、白ちゃん。ちょっと休憩にするか」  俺は白ちゃんに近づく。  白ちゃんはそれにあわせて顔を引っ込める。 「?」  とりあえずプールから上がることにした。 「あ、あのっ!」  プールサイドに上がった俺の前で、白ちゃんが顔を真っ赤にしていた。 「そのっ、これはっ!」 「白ちゃん、とりあえず落ち着こう。俺も落ち着くから」 「は、はいっ!」  俺は深呼吸する、白ちゃんもまねて深呼吸する。  そして、落ち着いて俺は白ちゃんの姿を見る。  着ているのは間違いなく白い水着、だが以前海で見た物と違う。  白いワンピースなのは代わりがないのだけど、なんだか野暮ったく見える。  それは、この水着が学院指定の、いわゆるスクール水着だからだろうか。  でも白いスクール水着だなんてあるのか?  そして、白ちゃんはローレルリングのケープを纏っていた。  白いスクール水着に白いケープ。白ずくめだった。 「えっと、また隣のお婆さん・・・かな?」 「すごい、支倉先輩なんでわかったんですか?」  ・・・まさかとは思ったけど、本当にそうだったのか。 「そして、俺が水着じゃないから恥ずかしくなって上着だけを着た、のかな?」 「はい、さすがは支倉先輩です」  そう言ってから顔を赤くする白ちゃん。 「わたしのこと、なんでもわかっちゃうんですね」  それだけ白ちゃんが純真なだけ、なんだけどそれは言わないでおいた。 「ローレルリングの方は終わったの?」 「はい、バザーの準備は終わりました」  並んで座って二人でペットボトルのジュースを飲む。  ささやかなお茶会だった。  お茶会というには俺は体操着、白ちゃんは水着にケープと、端から見ると  不思議な光景だとは思う。 「それで、支倉先輩のお手伝いをしようと思ったのですけど・・・  ご迷惑でしょうか?」 「いや、そんなことはないよ。白ちゃんが居てくれるだけで百人力だよ」 「わたしは居るだけ・・・お役に立てないんでしょうか?」 「違うよ、白ちゃん」  俺はそっと白ちゃんを抱き寄せる。 「あ・・・」 「こんな可愛い白ちゃんが見てくれるだけで、俺はがんばれるんだよ」 「支倉先輩・・・」 「あ、でも白ちゃんも掃除を手伝ってくれると助かるかな」 「・・・くすっ、わかりました。精一杯お手伝い致します」 「白ちゃん」 「はい、きゃっ!」  ホースの水を空に向けて放つ、細かくなった水滴が白ちゃんに降り注ぐ。 「支倉先輩、冷たいです」 「でも気持ちが良いだろ?」 「はい・・・あ、小さな虹が見えます」  きらめく水滴に、小さな虹が現れていた。 「綺麗です」  水滴を浴びながら、小さな虹を見る白ちゃん。 「・・・っ!」  その姿を見てた俺は気づいた、スクール水着は本来厚みのある素材のはず。  なのに、白ちゃんの身体が透けて見えることに。 「どうしたんですか、支倉先輩・・・え?」 「・・・」  白ちゃんの視線が下がって行き、とある場所で止まる。 「あの・・・支倉先輩、それってわたしを見てそうなったんですか?」 「・・・ごめん、せっかく手伝ってくれてる白ちゃんを見てだなんて、不謹慎  だよな」 「・・・良いんです、支倉先輩がわたしをみて、そうなってくれる事は  わたしは嬉しいんです」 「白ちゃん?」 「ちゃんと、わたしは支倉先輩の彼女だって、求められてるってわかるから」 「・・・白ちゃん」 「支倉先輩、そこに座ってください」  言われるように、プールの壁に背を預け座る。 「お掃除もしないといけないので・・・今はこれで我慢してくださいね」  そう言って俺の前で屈む。  その姿勢が止まる。 「でも、その前に・・・良いですか?」  そう言って目を閉じる白ちゃん。 「あ、んっ・・・」  俺は濡れるのも構わずに白ちゃんを抱きしめた。
7月9日 ・夜明け前より瑠璃色なMoonlight Cradle SSS”1日遅れの織姫” 「今日は良い天気だよね、でもなんで今日なんだろうね」  夕焼けを見ながらの商店街からの帰り道、麻衣は空を仰いでそう言った。 「なんでって、なんでだ?」  手に持った買い物のビニール袋を持ち直しながら俺は、今日という理由が  わからなかった。 「なんでって、七夕だよ」 「あぁ、そう言うことか」  我が家にもささやかながら笹を飾り短冊をつるしたのは昨日の事。  リビングから見える外は、大雨だった。 「確かに昨日だったら綺麗な月が見えたかもしれないな」 「お兄ちゃん、七夕の場合は月じゃなくて、天の川だよ」 「そうだったな」  夜空を見上げると、真っ先に探すのは月、だから月を第1に考えてしまう。 「月からだと、天の川っていつも見れるのかな?」 「月の位置にもよるだろうな」  月はいつも同じ面を地球に向けている、そしてその面に作られているスフィア王国。 「この時期だと、ちょうど昼と夜の境目あたりだったかな。  だとすると天の川は・・・あれ? 見えるのか?」  夜の時期に入っても地球側を向いてるんだから、地球の向こうに見えるのか? 「お兄ちゃんでも肝心なところはわからないんだね」 「まぁな、まだまだ勉強不足だ」  月学を学んでいても、月から見える星座なんて学んではいない。  でも、こう言うことも知っておくのは良いことだと思う、今度調べてみよう。 「でも、月には雲がないから七夕の日は絶対に二人とも会えるんだね」 「そうだな、1年に1回必ず逢える」  彦星と織姫か・・・ 「フィーナさんとも1年に1回、必ず会える日があると良いのにね」 「・・・ありがとうな、麻衣」  空いている手で麻衣の頭をなでる。 「もぅ、私は子供じゃないんだよ?」  そう言いながらも嬉しそうに目を細めている。 「よし、帰るか」 「うん」 「お兄ちゃん、フィーナさんだよ」  テレビのニュースで昨日の話題を取り扱っていた。  どうやらフィーナは地球に来ているようだ。 「フィーナさんって和服も似合うんだね」  テレビの中のフィーナは見慣れたドレスではなく、十二単みたいな和服を  着ていた、まさに織姫のようだった。 「友好関係を築くためにフィーナ様もいろいろと頑張っていらっしゃるみたいね」  普通の記者会見ならドレス姿で赴くフィーナも、行事と重なるとそう言う服装で  出てくることが多々ある。  それは、言い方は悪いかもしれないが、地球連邦との友好を表す良い  パフォーマンスとなっている。  それでも、フィーナは嫌な顔をせず、月と地球の為ならと、やっていることだろう。  そう言うフィーナの姿を見て、俺は何をしているんだろうと焦ることもある。  だが、焦ったところで何かがすぐに変わる訳じゃない。  俺は、俺の出来ることを一つずつ確実に積み重ねていくしかないのだ。  その時インターフォンが鳴る音が聞こえた。 「あら、こんな時間に誰かしら?」  姉さんが玄関へと確認しに行く。 「フィーナさんってもう月に帰ったのかな?」 「どうだろ、スケジュールは過密だからな、でも往還船の中だけでもゆっくりと  休んでくれてると良いんだけどな」  トランスポーターは短時間で、というより一瞬で月へといけるが、まだ実用化の   目処は立っていない。  正常に動くことは俺とフィーナの身を持って確認したが、それですぐに使える  訳ではない。 「残念だけど、往還船の中でもゆっくりとしたことは無いわ」  突然聞こえてきたその声に俺はソファから立ち上がる。  そして声の方をみると、そこには姉さんとフィーナが立っていた。  いつものドレス姿ではなく、先ほどニュースでみた、和服姿のフィーナが・・・ 「フィーナさん!」  麻衣が驚きの声をあげる。 「ただいま帰りました」  ホームスティしてたときと同じように、挨拶をするフィーナ。 「あら、達哉君、家族にお帰りの挨拶をしないのかしら?」 「・・・あ、あぁ、お帰り」 「ただいま、達哉。もしかして、この格好、おかしいのかしら?」  うつむき自分の格好を見直してるフィーナ。 「大丈夫ですよ、フィーナ様。達哉君は見とれて声がでないだけですから」 「本当?」 「あぁ・・・」 「・・・」  俺の返事に顔を真っ赤にするフィーナ。 「なんだか熱いよ、お姉ちゃん」 「そうね、クーラーつけようかしら?」 「さやか、麻衣!」  姉さんと麻衣のからかう声に怒るフィーナだった。 「そっか」 「えぇ」  夜半過ぎ、俺はフィーナの部屋で過ごしていた。  本来なら昨日の会談の後月に帰るはずだったフィーナ。  だが、会談相手が大雨の影響で到着が遅れることになり、会談自体が今日の  夜までずれ込んだのだそうだ。  その時間を利用し、他の高官達との対談や会議をこなし、本来の会談を終えたのが  つい先ほど。  次の往還船の出発までの時間を使って朝霧家に帰ってきたのだった。 「そう言うことなら、涙雨にも感謝しないとな」 「涙雨?」 「あぁ、七夕の日の雨の事をそう呼ぶんだよ」  俺は簡単に説明した。 「地球では彦星と織姫は出会えなかったのね」 「天の川の水が反乱して、出会えなくなった。でも、その水のおかげで  俺とフィーナは出会えた」 「二人には悪いけど、私は雨が降ってくれて良かったわ」 「俺もだよ、フィーナ」  そっとフィーナを抱き寄せる。 「ん・・・」  そして触れるだけのキス。 「それじゃぁ寝ようか」 「・・・キスだけなの?」 「あぁ、フィーナの身体が心配だからな。休めるときには休んでおかないと」 「・・・えぇ、そうね」  フィーナが少しだけ悲しそうな顔をする。 「だけどさ、ゆっくり休む前には適度な運動は必要だよな」 「え?」  悲しそうな顔が驚きの顔になる。 「フィーナさえ良ければだけどさ・・・その、どうかな?」  そして、驚きは、妖艶な顔にかわる。 「えぇ、達哉が望むなら私はいつでも良いわ」 「望んだのはフィーナの方じゃないのか?」 「もぅ、達哉の馬鹿!」
7月7日 ・FORTUNE ARTERIAL SSS 楽屋裏狂想曲”〜七夕に想いをのせて〜” 「こーへー、お帰りなさい。お風呂にする? 御飯にする? それとも?」  監督生室から帰ってきた俺を、かなでさんが出迎える。 「それで、今夜は何の用事なんですか?」 「スルー!?」 「そういえば、今日は七夕ですもんね」 「わたしがネタをふる前なのに!?」  隠そうにも大きい笹の葉は部屋に帰ってきた瞬間目に入る。 「うぅ・・・こーへーが知らない内に大人の階段を上ってしまったよぉ、しくしく」 「どーしてそうなるんですかっ!」  七夕に向けて、白鳳寮でも談話室に大きな笹が飾られていた。  生徒会も協力し、折り紙で飾りを作ったりして、思ったより豪華な笹になっていた。  さっき通ったとき、短冊もたくさん飾られていた。  願い事は個人の物なので俺は特に見ていない。  彼女が欲しい、彼氏ができますように、とかが毎年多いそうだ。 「そーゆー願いは願う物じゃなくて頑張るもんなんだけどね」 「みんながかなでさんみたいに行かないですからね、はい、どうぞ」 「ありがと、こーへー」  紅茶をかなでさんい煎れてあげる、自分の分もいれてから床に座る。 「ねぇ、こーへー。今年も半分終わっちゃったね」 「え? まぁ、そう言われるとそうですね」  突然の話に俺は混乱する。 「今年は激動の年になりそうだよね」  いや、まだ半分しか終わってないんですけど・・・ 「2010年はほんと、激動の年になるよね。いおりんがPSPでゲームを  プロデュースしたでしょ? わたし、その為にPSP買っちゃった♪」  そういえば、そんな事を春頃に言ってたっけ。  それ以降音沙汰無いのが気になるけど・・・ 「それに、アニメ化も決まったでしょ? これは、寮のテレビをちゃんと  地上デジタル化しておいたから問題なし♪」 「いつのまに・・・」  寮のテレビはアナログだったはず。 「もちろん、各部屋への工事も順調に行ってるよ」  本当にいつのまに、だよな・・・ってかなんで生徒会通さずにそう言うことが  決まって進行してるんだ? 「本家では新作の情報公開が小出しにされてるけど、そろそろだと思わない?」 「何がですか?」 「コンシューマーへの移植♪」 「それって会長が言ってた事ですか?」 「あー、いおりんの野望は放っておいていいよ。本編の移植だよ、本編の」  まぁ、時期的に来てもおかしくないとは思うけど、まだ何の話もないよな。 「PSPも買ったし、PS2は実家から持ってきたし、さすがに他のメーカーの  ハードでは出ないよね。これでどんとこいだよ!」 「あれ、かなでさんはPS3は持ってないんですか?」 「あれはブルーレイディスクのプレイヤーだよ、まだゲーム機じゃないよ?」 「いや・・・その偏見って」 「だいじょーぶ、今までの経過からいればPS2かPSPだよ。だって月のお姫様の  ゲームはPSPだったんだもん、だいじょーぶだいじょーぶ」  そう言うとかなでさんは立ち上がり、用意してた短冊を笹に飾る。 「どうかわたし達が最新作の座を取り戻せますように」  この願いはすぐに叶うことになる。  確かに、コンシューマーでは最新作となることになるのだが・・・ 「なんでPS3なのっ! それになに、新ヒロインって!」 「また人気投票を実施したら、どうなるのかしらね?」 「ぐはっ!」  紅瀬さんの一言にその場に崩れ落ちるかなでさんだった。 「私はどんな媒体になっても、孝平が居てくれれば良いわ」  そう言ってしなだれかかって来る紅瀬さん。 「えっと・・・」 「新ヒロインなんて関係ないわ、さぁ行きましょう。私には孝平しかいないって  事を再確認させてあげるわ」
7月4日 ・FORTUNE ARTERIAL 楽屋裏小劇場〜プール掃除編〜feat.かなで 「やっほー、こーへー」 「かなでさん?」  水のないプールの底におりて一人で掃除を始めてすぐにかなでさんが現れた。 「どうしたんですか?」 「こーへーと遊ぼうと思ってきたの」 「遊ぶも何も、俺は掃除をしなくちゃいけないんですよ。それに今日は水を  いれないですから遊べないです」 「うん、わかってる。だからこーへーと遊ぶ前に掃除をしちゃおうかなって思うわけ」  そう言うとかなでさんは梯子からおりてきた。 「ほら、デッキブラシを貸して。お姉ちゃんが手伝ってあげる」 「でも迷惑かけちゃうし」 「いーの、こーへーと遊ぶためだもん、ほらっ!」  そう言うと俺の手からデッキブラシを奪い取る。 「ありがとうございます」 「うん」  かなでさんの笑顔が凄く眩しかった。 「でも、来るの早いですね」  俺もついさっき先生から頼まれたばかりだ、監督生室と寮を経由したとはいえ  かなでさんが来るには早すぎる。 「そりゃそーだよ、こーへー。だって一昨日ひなちゃんが掃除を手伝った話が  公開されたでしょ?」 「・・・はい?」  一昨日って何の話だ? 俺は確かに今日先生に頼まれてすぐにプールに来たはずだ。 「先手を打ったわけ。だって放っておくと絶対あのロリっ娘より後にされたあげくに  オチにされちゃうでしょう?  わたしだっていつまでもやられてばかりじゃないよ?」 「・・・」  何を言ってるか理解できないんだけど、なんとなく理解したような気がする。 「ほら、それよりも掃除をしちゃおうよ」 「あ、はい・・・でもかなでさん」 「何?」 「その格好だと濡れちゃいますよ」  かなでさんは制服のままだった。 「だいじょーぶ、濡れる前に脱ぐから」 「え?」  俺は驚きの声をあげる。  かなでさんは勢いよくブラウスのボタンを外して脱いでしまった。 「この通りしたには水着着てるからだいじょーぶなのだ!」 「・・・」 「あれ? こーへー、もしかして照れてる?」  いきなり目の前で女の子が服を脱いだ、見てる方が恥ずかしくなる。 「なんで照れちゃうのかな、水着着てるんだよ?」 「かなでさん、恥ずかしくないんですか?」 「だから、裸になる訳じゃないんだから恥ずかしくなんて無いよ、ほら」  そう言うとかなでさんはスカートをたくし上げる。 「っ!」  そこに見えるのはもちろん水着、学院指定の水着なのだから上半身が見えてる  段階で想像できるのだが、それでも自分が熱を持つのがわかる。 「こーへー、こんなので照れちゃって可愛い」 「む」  からかわれたままじゃなんだか悔しい。 「かなでさん、水着着てるから見られても恥ずかしくないんですよね?」 「うん」 「それじゃぁ、そのままでいてください」 「え?」  スカートをたくし上げたままの格好でかなでさんは固まる。 「恥ずかしくないんですよね?」 「え、う、うん・・・」 「本当かどうか試してみましょう」  そう言うと俺はかなでさんに近づいて屈む。 「っ!」  かなでさんが息をのむ音が聞こえる。  目の前にあるのは、かなでさんの大事なところ。もちろん水着に隠されているので  見えるわけではない。  だが、スカートを自分でたくし上げて見せているという事に興奮してしまう。 「えっと、こーへー?」  かなでさんの声が聞こえる。 「ね、ねぇ・・・何とか言ってよ?」 「・・・」 「・・・こーへー、ごめんなさい」  かなでさんは素直に謝ってきた。 「もぅ、こーへーがこんなにえっちだなんて思ってもいなかったよ」 「俺だけですか? かなでさんこそえっちだと思いますよ、自分からスカートを  たくし上げて俺に見せるんだもの」 「あれはこーへーがそうして欲しいっていったからでしょ!」 「そうでしたっけ?」 「むー、かなですぺしゃるプールバージョンっ!」  俺は突然ホースから水をかけられた。 「つ、冷たいですって!」 「わたしをからかった罰だよ」 「なら!」  俺ももう一本あるホースから水をかなでさんにかける。 「きゃ、やったなこーへー!」 「俺だってやられてばかりじゃいませんよ!」 「よし、勝負だこーへー!」 「・・・参りました」 「わたしも・・・降参」  二人でプールのそこに座り込んで息をあげていた。 「掃除する前に遊んじゃいましたね」 「そーだね」  空を見上げる、もうすぐ夕焼けの時間だろう。 「それじゃぁ、俺は掃除を続けますからかなでさんはあがってください」 「え、なんで?」 「もう時間も遅いですし」 「だめだよ、こーへー。こーへーと遊ぶために掃除を手伝う約束でしょ?  先に遊んじゃっても約束は果たさないとね」  かなでさんの言葉に頬が緩む。  なんだかんだいっても責任感が強い、良い先輩でお姉さんなんだな。 「それじゃぁお願いします」 「うん! お礼は夕食とキス一回でいいからね」 「はい、でもキス一回だけで良いですか?」 「なっ!」 「一回じゃ駄目なら何回なんですか?」 「・・・えっとね、たくさんがいいな。それと、先払いもらって、いい?」  俺は返事をせず、かなでさんと重なった。
7月2日 ・FORTUNE ARTERIAL 楽屋裏小劇場〜プール掃除編〜feat.陽菜  水が抜かれたプールの底におりる。 「思ったより汚れてはいないんだな」  屋外のプールは水が汚れて藻などが発生している、そんなんだろうかと  思ってたが、修智館学院は違っていた。  定期的に水の交換などはしているようだし、その際簡単な掃除も行われて  いるようだった。 「それでも、少しぬめりがあるな」  手で触るとわかる、床にぬめりがある。  だが、それほど酷くない。  洗剤を使ってデッキブラシで軽く擦ればすぐに無くなるだろう。 「・・・広いよな」  普段目にしない光景、水のないプール。  そして、その広さに呆然としそうになる。 「始めないと終わらないしな・・・」  諦めて始めることにした。 「孝平くん」 「陽菜?」  プールサイドから陽菜がこっちを覗いていた。  何故か体操服姿だった。 「どうしたんだ、こんな所に」 「それは、こっちの台詞だよ、孝平くん」  陽菜の台詞? 「なんで、私を誘ってくれなかったの?」 「いや、誘うってプール掃除だし、それに陽菜は美化委員の活動がある日だろう?」  最初は美化委員に頼む事も考えた、けど美化委員のスケジュールを変える訳には  いかないし、言えば委員のみんなが無理してしまう。  だから言わないでおいた。 「もぅ、私ってそんなに頼りがい無いのかな? こう見えてもお掃除は得意なんだよ」 「それとこれとは違う気がするんだけどな」 「いいの、孝平くん。私も手伝うからね、駄目っていっても手伝うからね」  そう言うと陽菜は俺の所から見えなくなった。  そして、梯子のあるところに現れて、底におりて来ようとした。 「んしょ」  こっちに背中を向けておりてくる陽菜のお尻があらわになる。  そこに見えるのは赤い体操着ではなく・・・ 「水着?」 「うん、濡れても良い格好で来たの」    どうやら学院指定の水着の上に体操着の上着だけを着てきたようだ。  なんていうか・・・すごく目の毒というか、保養になるというか。 「おかしいかな?」    自分の身体を見直す陽菜。 「おかしくは無い・・と思う」 「良かった、さぁ掃除を始めちゃおう、孝平くん」 「孝平くんってなんでもできるんだね」 「そういうわけじゃないけどな」  掃除中、ふと陽菜の方を見てしまう。  上半身は体操着、下は穿いて無く水着、そんなアンバランスな姿に俺は  妙に照れてしまう。  俺はそうならないよう、掃除に集中する事にした。  気が付くと掃除は終わっていたのだった。 「水はいつ入れるの?」 「えっと、明日の業者の点検を終えてからの予定だ」 「そっかぁ、泳げるかと思ったんだけど残念」 「そ、それよりも陽菜、手伝ってくれてありがとうな。おかげで助かったよ」 「困ったときはお互い様だよ、孝平くん」 「それでもありがとう、何かお礼しないとな」 「・・・」  俺の言葉に陽菜は何かを考えるような仕草をする。 「ねぇ、孝平くん・・・お礼をくれるんだよね?」 「あ、あぁ。俺に出来ることだけどな」 「あの・・・ね、えっと・・・」 「孝平くん・・・お礼の、キスが欲しいな」 「それじゃぁ俺の方がお礼をもらう感じだよな」   「駄目・・・かな?」  俺の答は決まっていた。
7月1日 ・穢翼のユースティア SSS”認識” 「カイム、入っていいかい?」  部屋の扉の外からエリスの声が聞こえた。 「あぁ」  俺は何となく読んでいた本を机の上に置く。  そして扉の方に向き直る、ちょうどエリスが扉を開けて入ってくる所だった。 「エリス?」  入ってきたエリスはいつもと違う服を着ていた。 「どうかな?」  少し恥ずかしそうにそう聞いてくるエリス。  その服装は見慣れた物ではあるのだが、エリスが着ているのを見るのは  初めてだった。  それは、リリウムで娼婦達が着ている服だった。  薄手の生地で作られているその服は、自分の身体を売る娼婦にとっては  商品価値を高める効果がある。  布で隠されてるはずの胸は、完全に透けて見える。下着と違って保護する  役目が無く逆に刺激する作りになってるため、常にそれは主張する事となる。 「・・・ん」  下は穿いてはいるが、布地はほとんど無く小さい。 「やっぱり、ちょっと恥ずかしいわね」 「どうしてそんな格好を?」  そう、エリスが何故この服を持っているか、それよりも先に何故この服を  着たのかが気になった。  娼婦の為の服、それは自分が商品であるための服でもある。  エリスは娼婦になりかけた過去はある、だが娼婦にはなっていない。  普通の女なら、そんな過去は見たくないと俺は思う。 「そうね・・・私がカイムだけの女だって言うことを認識するためかしら」  それなら別に他の方法もあるだろうし、認識以前にエリスは俺の物という事に  なっている。  だから改めて認識する必要など無い、はずだが。 「そうか。何があったかはわからないが、エリスは俺の女だ。安心しろ」 「っ、カイム!」  エリスが俺に抱きついてくる。 「安心しろ、エリスの帰るところは、ここだ」 「・・・うん」  俺はそっとエリスを抱きしめ、髪を梳いてやった。 「カイム」  エリスはそのまま俺を見上げてそっと目を閉じる。  俺はそれに答えた。
6月29日 ・FORTUNE ARTERIAL 楽屋裏小劇場〜プール掃除編〜 「あ、支倉君。ちょっと良いかしら?」  土曜、授業が終わった後に俺はシスターに呼ばれた。 「はい、なんでしょう」 「申し訳ないのですけど、プールの掃除をお願いできるかしら?」 「はい?」  いきなりプール掃除? 「実は・・・」  シスターの説明では、なんでも急に明日の朝から設備点検が入ることに  なったそうだ。  その為一度水を抜くのだが、その後水を入れる前に掃除をしておきたいとの事。  点検時間は短いので、今日中に掃除をして欲しいという話だった。 「でも、なんで急に明日なんですか?」 「私もわからないのです、急に決まったことらしいので」 「・・・」  なんだかどこかで糸を引いてる人がいる気がする。  脳裏に浮かんだのは金髪のいやにさわやかに笑う先輩の顔。  ・・・まさかな。  会長なら直接俺に頼んでくるだろう。 「急で悪いんですけど、お願いしますね」 「はぁ・・・とりあえず生徒会に戻ってから検討・・・といっても時間は無いか」  どうするか・・・といっても掃除するしかないんだろうな。  まずは監督生室に行くか。 「・・・なんで誰もいないんだよ」  監督生室に着いたとき扉に鍵がかかっていた。  その段階で誰もいないことはわかってはいたが・・・  生徒会のスケジュールを見てみる。  伊織会長と東儀先輩は町会長との会合らしい。  実際何をしてるかはわからないが、瑛里華曰く年上に受けが良いらしい。  白ちゃんはローレルリングの活動。  瑛里華は・・・ 「手伝える人は誰もいないのか・・・」  どうしたものか、とはいってもプールの水はもう抜かれてるはずだ。 「俺一人でするしかないか」  思わずため息をつく。 「仕方がないか、学院生の為だもんな」  俺は一度涼に戻って体操服に着替え、それからプールに向かうことにした。
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