フィーナ誕生日記念SS
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 貴族との謁見を終えて、私はため息をつく。
「姫様、お茶が入りました」
「ありがとう、ミア」
 秒単位のスケジュールの中での休息時間、ミアのお茶を飲んで文字通り一息いれる。
「姫様、その・・・」
 心配そうなミアの顔。
 どうやら私の顔に感情がでていたようだ。
「だいじょうぶよ、ミア」
 私は顔を引き締める、そうして姫としての顔になる。
「フィーナ様、そろそろお時間です」
「わかりました、ミア。お茶ありがとう」
「いえ、私にはこれくらいしか出来ませんから」
「とんでもないわ。ミアにしか出来ないことだからこれからもお願いね」
 ミアの顔がぱぁっとほころぶ。
「ありがとうございます!」
 その後失礼しますといってミアは控えの部屋へと戻っていった。
 それを見計らったように、反対の扉がノックされる。
「どうぞ」
 心の中でため息をつきつつ、姫としての私は謁見者を迎え入れた。

・夜明け前より瑠璃色なMoonlight Cradle sideshortstory
              フィーナ誕生日記念SS「受け止めきれないほどの愛」

 地球での、朝霧の家にホームスティした翌年からだった。
 あの時達哉とリースの協力でトランスポーターを起動させ、月と地球の友好への
 第一歩を踏み出し始めた、あの謁見の間での出来事は、私を月の時期女王としての
 認識を月の貴族達に示された。
 あの時は父様に達哉を認めてもらえた事が嬉しくて、女王ということは何も考え
 つかなかった。
 だけど、貴族達の反応は違った。
 今までもあった、次期女王の婿候補。それが本格的に動きだしたのだ。
「昨年まではアーシュライト家につながりを持つ事が第一と考えられてたようです。
 しかしフィーナ様が女王の威厳をお持ちになり、見せつけたことにより、貴族達は
 フィーナ様に惚れ込んでしまったのでしょう」
 カレンの説明は、嬉しかったけど複雑だった。
「それ故に、自慢の話が息子を姫様に、という事になってしまいました」
 そう言うことになってしまった。
 達哉というフィアンセが居ることは発表されたが、やはり地球人ということが
 反論の焦点になっている。
 どこの馬の骨とも言える地球人など、という話も聞こえてくるほどだ。

「言いたい人には言わせておけばいいさ、俺は絶対に認めさせてやる。
 俺と、フィーナの為に」
 達哉の宣誓は今でも覚えている、眼を閉じれば昨日のことのように思い出せる。
 そうして達哉は努力を重ねに重ねて、今はこの月に居る。
 月に新設された、地球連邦大使館員に抜擢された。
 これは私との釣り合いを持たせるための外交処置、とも言われていた。
「そうだろうな」
 達哉は笑いながらそう言った。
「でもさ、これはチャンスなんだよ。だから俺は受け入れる。このチャンスも
 物にしてみせる!」

 気づけば、地球連邦大使館員の若きエースとまで言われるほど活躍をし、
 月も認めるほどになった。
 認めざるおえない状況になって、貴族達は別な危機感を持ち始めてきた。
 アーシュライト家に婿入りさせようと考えてた貴族達はこぞって自分の息子達を
 売り出してきた。

 普段は公務で忙しい私に、そう言う話は来ることはない。
 だが、今日は別だった。
 誕生日に私を祝うという名目で秒単位での謁見が申し入れられている。
 そのほとんどが、跡取りと一緒に来ていた。

「毎年の事とはいえ、さすがにうんざりしてきたわ」
 少ない休息時間での昼食、思わず愚痴がこぼれた。
「いくら言い寄ってきても私の気持ちは変わらないのに」
 月麦のパンを食べながら、私は机の上にある書類に目を通す。
 行儀が悪いけど、時間が惜しかった。
「達哉さまがいらっしゃることはもうみなさんご存じのはずなのですけど」
 それでも、私の婿という立場が、アーシュライト家とのつながりが
 欲しいのでしょうね。この言葉は口には出さなかった。
 というより口の中にパンがあるのでしゃべれなかったというのが正解かな。
「はぁ・・・」
「姫様?」
「いえ、なんでもないわ。ごちそうさま」
 早めに食事を終え、書類に目を通す。
「ミア、次の謁見までどれくらいあるのかしら?」
「はい、あと10分ほどです」
「ありがとう」
 私はソファに移動して深く腰掛ける。
 達哉・・・
 口に出さず心の中で呼びかける。
 達哉は今何をしてるの?

「今年は来られない?」
「はい、達哉さんからの伝言です」
 数日前、カレンからの話は私に大きな衝撃を与えた。
 どんなに忙しくても、例え前日になっても、達哉は私に会いに来てくれた。
 まだ月にいない時でさえも、来てくれた。
「フィーナ様、ここだけの話ですが・・・」
「・・・」
「確定事項ではございませんが・・・」
 カレンの話だと、どうやら月側の一部勢力が地球大使館に難題を押しつけたらしい。
 それも、外交レベルに発展しないくらいのもの。
 タイミング良く、私の誕生日の前にあわせて。
 その結果、大使館は多忙となり、大使館員は大変な状態だそうだ。
「正規の手続きを踏んでおり、無理や無茶というレベルではありませんので私共は
 動くことは出来ません」
 私は怒る気力が無かった。ここでこのことを問題にすれば、それは個人の感情での
 問題となる。それは出来なかった。

「達哉・・・」
 それくらいがなんだよ、フィーナ。
「・・・え?」
 これくらい、壁でも何でもないさ。
「・・・そうね」
 心の中から達哉の声が聞こえた気がした。
 私はその声に耳を傾け、そして頷いた。
「姫様?」
「なんでもないわ、次の公務を果たします」
 そう、この謁見は公務。なら、私は姫として公務を全うするだけだから。


「達哉が倒れた!?」
 夜、日付が変わろうとする時間になっても私は執務室で公務をしていた。
 そんなときにカレンからもたらされた報告は私に強い衝撃を与えた。
「っ!」
 私は立ち上がり、外へ向かおうとする。
「お待ち下さい、フィーナ様。落ち着いて聞いてくださいと申し上げたはず」
「落ち着いてなんて居られるわけがないわ!」
 止めに入るカレンを押しのけて部屋から出ようとする。
「フィーナ様、一国の王女たるものが冷静に判断できずしてどうするのです!」
 その言葉に私の身体が止まる。
「お伺いします、フィーナ様は何処に行かれるおつもりですか?」
「もちろん達哉の所よ!」
「ですから、達哉様は何処に居られるのかご存じなのですか?」
「あ・・・」
 カレンの言葉に私は冷静さを取り戻した。
 このまま外にでて私はどうするつもりだったのだろう?
 達哉と叫びながら王宮中を走り回るつもりだったのだろうか?
「落ち着かれましたか?」
「取り乱した所を見せたわね、ごめんなさい」
「いえ、お気持ちはわかります」
「・・・では改めて聞くわ。達哉はどうなったの?」
 冷静に、冷静に、と自分に言い聞かせながらカレンに訪ねる。
「では、改めて報告致します。本日夜、達哉君は大使館内で倒られました」
 カレンの声に私は目の前が真っ暗になり・・・
「上司に足をかけられたのが原因です」
「・・・え?」
 暗くなりかけた視界が元に戻る。
「たまたまその場に居合わせた私が、病院へ行くようにお勧めしました」
 カレンの顔が笑っている。
「ですが、こんな時間では病院は開いてませんので、近くにある王宮のゲストルームへ
 案内、休ませることにしました。」
「カレン・・・?」
「倒られたといっても尻餅をついただけですので、若干お尻が青くなっているかも
 しれませんが、医師の診察の必要は無いと判断しております」
 ここまで来て私は担がれたことに理解した。
「ですが、時間が遅く警備上の問題もあるので達哉君の退出は明日朝に私が致します。
 以上、報告を終わります」
「・・・カレン、覚えておきなさいよ?」
「フィーナ様のお慌てぶりを、ですか?」
「カレン!」
 私の慌てぶりを思い出したのか、カレンは口元を手で押さえる。
「・・・それでは失礼いたします。なお、姫様。ミアが夜食を持ってくるそうなので
 絶対部屋から出ないでください」
 そう言ってカレンは部屋から出ていった。
「部屋から出るなって・・・」
 同じ屋根の下に達哉がいる、それなのに行くなということなの?
 そんなことは・・・
「姫様、お待たせしました」
 悩む暇もなく、ミアはやってきた。
「こんばんは、フィーナ」
 達哉と一緒に。


「そう、達哉も担がれたのね」
「あぁ、部長に一杯食わされたよ」
 どうやらこの事件は私たちの知らないところで計画され、実行されたみたい。
「俺はすぐに気づいたけどさ、計画にのることにしたよ。だってフィーナに
 逢えるかもしれなかったからさ」
「そうね、カレン達に感謝しないとね」
 私は達哉の肩にもたれかかろうとして・・・
「ちょっと待った」
「・・・何?」
「俺、汗くさくないか?」
「・・・もぅ」
 せっかくのムードも何もあったものじゃなくなった。
「ごめん、最近まともに部屋に帰ってないからさ」
「忙しいのね、ごめんなさい」
 私は事情を知っているから、謝ってしまう。
「いいさ、こんな事くらい壁でもなんでもないしな」
「ふふっ」
 その言葉に私は微笑む、やっぱりあの声は達哉の声だったのね。
「何がおかしいんだ?」
「なんでもないわ、それよりもお風呂入りましょう。達哉を洗ってあげるわ」

「どう、気持ち良い?」
「あぁ」
 お風呂場で私は達哉の背中をタオルで擦る。
 
 広い広い背中が、緊張で堅くなっているのがわかる。
 こういうときって男の子の方が緊張してしまうものなのかしら?
 それに、お風呂ならなんども一緒に入ったことあるのにどうしてなのかしらね。
「シャワーかけるわ」
 そう一言言ってから背中の汚れを落とす。
「そう言えば、髪を洗ってなかったわね」
 私はシャンプーを手に取る。
「フィーナ、後は自分でやるから」
「いいのよ、私がしてあげたいの。駄目かしら?」
「・・・お願いします」
 

「ふぅ、気持ち良いわね」
「・・・」
 達哉に先に入ってもらい、私も一緒に湯船に入る。
 達哉の胸に私の背中を預けての入浴は気持ちが良かった。
 でも・・・
「達哉、ここは気が早いのね」
「・・フィーナと触れ合うの久しぶりだからな」
 私のお尻の下には堅くなった達哉の物がずっと私を押してきている。
「くすっ、良かった。達哉は私をいつでも求めてくれているのね」
「いつでもって、そんなに無節操じゃないぞ」
「これでも?」
「うっ」
 私は少し腰を浮かせて、達哉ともっと密着する。
 達哉の物はちょうど私の下に潜り込み、私はその上にのる形となる。
「私は嬉しいわ、心も身体も全てを求めてくれるんですもの」
「フィーナ」
 達哉はそっと私を抱きしめる。
「フィーナ、こっち向いて」
 達哉に言われたまま、私は首を回す。
 
「ん・・・」
「・・・フィーナ、誕生日おめでとう」
「ありがとう、達哉」
 もう一度唇同士が重なる、達哉の舌が私の中に割って入ってくる。
 それと同時に抱きしめてた手が胸に降りてくる。
「達哉・・・続きはベットで」
「もう我慢出来ない、ここじゃだめ?」
「ううん、私もすぐに欲しいから・・・私にいっぱいちょうだい」
 日付が変わった夜の、達哉からの誕生日プレゼント、それは

 受け止めきれないほどの愛だった。

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