思いつきSSログ保管庫
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雑記掲載SS保管庫 2009年第4期
12月31日 FORTUNE ARTERIAL sideshortstory                    楽屋裏狂想曲〜わたしの時代2010〜 12月7日 FORTUNE ARTERIAL 楽屋裏小劇場”勝利への道” 11月10日 canvas2 sss"おしるこの季節" 11月1日 Canvas2 sideshortstory 「はろういんらぷそでぃ2009」 10月27日 FORTUNE ARTERIAL sideshortstory                    楽屋裏狂想曲〜続・わたしの時代 10月19日 FORTUNE ARTERIAL sideshortstory                    楽屋裏狂想曲〜わたしの時代ぱーと2〜 10月14日 夜明け前より瑠璃色なMoonlight Cradle SSS”休みの朝” 10月9日 originalshortstory 冬のないカレンダー #17 「もしかして別なことで興奮しちゃった?」 10月8日 FORTUNE ARTERIAL SSS”目覚めのキス” 10月7日 夜明け前より瑠璃色なMoonlight Cradle SSS”冷えた身体、熱い心” 10月4日 悠木陽菜誕生日SS「月明かり」
12月31日 ・FORTUNE ARTERIAL sideshortstory              「楽屋裏狂想曲〜わたしの時代2010〜」 「あ、こーへー。お帰りなさい」  監督生室から帰ってきた俺をかなでさんが出迎えてくれた。 「お風呂にする? 御飯にする? それともぉ?」 「疲れたので寝ます」 「即答!? それも選択肢外?」 「・・・それよりも何で俺の部屋にいるのかって聞くまでもないですね」  確かに扉の鍵はかけておいたはずなんだけど・・・って考えるまでもないか。 「不覚考えちゃだめだよ、こーへー」 「・・・ま、いっか。それじゃぁかなでさんにします」 「へ?」 「風呂か飯か、かなでさんなんでしょ? だからかなでさんにしま」  ぺしっ! 「こ、こらっ! こーへー、えっちなことはだめ! そーゆーのはちゃんと・・・」  かなでさんは顔を真っ赤にしてた。 「ねぇ、こーへー。今年もいろいろとあったよね」 「そうですね」  かなでさんは年越しそばを持ってきてくれていた。  蕎麦を二人で一緒になってすする。 「やっぱりわたしたちが最新作じゃなくなったのが大事件だったよね」 「・・・まだ気にしてたんですか?」 「あたりまえだよ、だって先輩が後輩になっちゃったんだよ?」  先輩が後輩に?  かなでさんの事か? でもかなでさんは先輩っていうよりも 「こーへー?」 「へ? いや、なんでもないですから」 「怪しいなぁ・・・ま、いっか。ほら、人気作だった作品が最新作になっちゃった  じゃない。わたしは最新作出てないけど、お姫様には親近感あるのよね」 「はぁ・・・」  そういえば声が似ているような気がしないでもない。 「今度PSPにも移植されるでしょ? だからわたしたちも負けて入られない!  そうしたらいおりんが動いたんだよ」 「会長が?」 「うん、制作会社に打ち合わせに行くくらい企画が進んでるんだって。楽しみだよね」  会長、いったい何してるんだ? ちょっと気になる、というか嫌な予感がする。 「だから、こーへー。2010年はわたしたちの時代にしよ!」  このときのかなでさんはもちろん俺も知らなかった。  会長は確かに動いていた。  だがそれは会長の独断専行であり、野望であったという事。  そして・・・  「20XX UNKNOWN PROJECT」    この作品が発表されたことにより、先代ではなく先々代になってしまうことに・・・
12月7日 ・FORTUNE ARTERIAL FA楽屋裏小劇場”勝利への道” 「これが今回のか」  俺は談話室のソファに座り、もらったばかりの校内新聞を見てみる。  放送部と生徒会が行ってる放送「出張生徒会」。  その内容や、連絡事項や募集要項を新聞部がこうして校内新聞にしてくれている。  出張生徒会瓦版、それがこの校内新聞のタイトルだった。  俺も復習や次の募集要項の確認にこの新聞を読んでいる。 「ねーねー、こーへー。今回の放送聞いた?」  ソファの後ろから両手を回して抱きついてきたのはかなでさんだった。 「聞くも何も収録の時から居ますからね」  俺は慣れた手つきでかなでさんの手をほどく。 「いーなー、今度わたしも収録現場に遊びに行って良い?」  かなでさんはそう言いながら、俺の横に座った。 「収録を見たいっていう生徒は多いんですよ、だから今どうするか検討してます」 「そっか、わたし楽しみにしてるね」 「そうそう、こーへー。今回の新聞にのってた生徒会便り、見た?」 「今回のって、何でしたっけ?」  プレ放送を含めてもう7回も放送してると記憶があやふやになってきていた。  あの話が何回目か、だなんて気にしていないもんな。  俺は改めて新聞を読む。 「夜明け前より瑠璃色なのグッズ情報のこと?」 「そう! 夜明け前より瑠璃色なのだよ! 夜明け前より瑠璃色なであって  Moonlight Cradleじゃないの。よあけまえよるりっ!」  突然かなでさんの声が止まる。  なんだか目に涙を浮かべてる。 「もしかして、噛みました?」  涙目のかなでさんは頷いた。 「ありがとー、こーへー」  カップに水をくんできてかなでさんに手渡した。  そのカップを口に含み、舌を冷やしてる。 「んー、酷くなくて良かったよ」  そう言って赤い舌を出すかなでさん。 「・・・」 「あれ? どうしたの、こーへー?」 「な、なんでもありません」  かなでさんの小さな口から舌が出ているだけなのに、それが艶めかしく見えた  だんて言えるわけが無かった。 「でね、こーへー。よーするに、今回のこれは、あけるりのグッズなんだよね」 「確かにそうですよね」 「今さらだよね」 「?」 「だってさぁ、わたしたちのはもう出てるじゃない」  出たっけか? 「あー、わすれたの? 2008年の電撃G's magazine3月号・4月号と  電撃姫3月号・4月号・5月号に付録としてついたじゃない・・・」  そう言ったかなでさんが急に落ち込んだ。 「かなでさん?」 「そーいえばあの時のわたしの順番、5番目で一人だけ5月号の付録だったんだよね。  ロリっ娘に負けなかっただけマシだけど・・・」 「・・・えっと」 「でも、わたし達は最新作に負けてないのだっ!」 「・・・」  フォローする必要は無かったようだ。 「わたし達より前の人気作のフィギュアには負けない!  わたし達はまだまだ戦える!!」  落ち込んだり元気になったりと忙しいけど、そこがかなでさんらしいんだよな。 「さぁ、こーへー! 人気作のわたし達をもっとたくさんフィギュア化して  もらえるようもっともっと頑張ろう!!」 「・・・そうですね、頑張りましょう!」 「その意気だよ、さすがわたしのこーへー!  プリンの人とかおせんべいの人に負けないぞ、おー! そしてPSPへの移植で  最新作の座を再び勝ち取るのだ!!」  その後部屋に戻った俺は改めて新聞を読んで見て 「・・・」  生徒会便りのコーナーに掲載してあった写真が小さすぎてロゴの中にある  Moonlight Cradleの文字を見落としていた事実に気づいた・・・ 「でもまぁ、大丈夫か」  かなでさんは最新作の座を勝ち取るんだからな、そんな心配は無用。  そう、確信した。
11月10日 ・canvas2 sss"おしるこの季節" 「もう、冬だな。販売機の飲み物に暖かい物が増えてきたよ」  キャンバスに筆を走らせながら俺は語り続ける。 「暖かい飲み物の中に、おしるこを見つけたんだ。それを見たら真っ先に  思い浮かぶ少女がいたんだ・・・いいやつだった」  ゴンッ!  という大きな音と共に目の前が一瞬真っ暗になった。 「勝手に殺すなっ!」 「朋子・・・モチーフのリンゴを投げることはないだろう?」  キャンバスの先にあるベットの上から朋子はリンゴを思いっきり投げつけてきた。 「人を勝手に殺すな!」 「朋子が緊張してるからちょっとした冗談でリラックスさせてあげようと  思っただけなんだけどな」 「そ、そりゃ緊張だってするわよ・・・恥ずかしいもの」  朋子は身体をよじる、後ろで編んだ髪が身体の動きにあわせて揺れる。 「そう、朋子はベットの上で何も身に纏っていなかった。  可愛い顔も、小振りな胸もぐはっ!」 「声に出して言うな!」  持っているかごの中にあるリンゴがまた一つ減った。 「別に良いじゃないか、ここには俺しかいないんだから」 「浩樹さんだから恥ずかしいの!」 「そうか? 俺は好きだぞ?」 「え?」  俺の言葉にぽかんとした顔をする朋子。 「小振りでも感度の良い胸も、柔らかなお腹も、そのお腹からなめらかに描く  ラインも・・・って、それを投げていいのかな?」  残ってるリンゴを手に取った朋子は、俺の言葉に動きを止める。  座ってかごを持っているポーズの朋子、そのかごからリンゴが消えていくたびに  どんどん身体を隠す物がなくなっていく。  残り1個のリンゴでは、角度によっては見えてしまうだろう。 「女は度胸よ!」 「え? ぐはっ!」  油断してた所に最後の1個が投げつけられた。 「この変態シスコンロリコン天然ジゴロ! 見たいなら見ればいいじゃない!」  そう言いながらも胸を隠すように腕を組む朋子。 「・・・見たい」 「え?」  俺は頭をさすりながら朋子を見る。 「俺の一番大好きな女の子なんだから、見たいに決まってるだろう」 「・・・うん、私も一番大好きな浩樹さんに見て欲しい」 「見るだけで良いか?」  答が分かり切ってる、でもあえて問いかける。 「・・・ばか、聞かないでよそんなこと」
11月1日 ・Canvas2 sideshortstory 「はろういんらぷそでぃ2009」 「金色の悪魔は留学中」  クッキーを焼いてる時間に再確認する。 「ちびっこ小説家は卒業」  一つ一つ要注意人物の名前を挙げて、確認する。 「水彩の悪魔も卒業・・・って、別に今回は要注意人物じゃないか。  そして今回は土曜日で学園は休み」  去年の悪夢のような事態は起こらない、絶対にだ! 「はぁ〜、幸せだなぁ〜」  思わずつぶやく。  その時レンジのタイマーの音がなる。 「お、上手く焼けたかな?」  ・・・よし、上出来だ。  去年より作る量を減らしたクッキーをレンジから取り出す。 「よし、こんなもんだな」  明日の土曜日、美術部に顔を出さなくてはいけないから、美術部員のみんなの  分くらいは作っておこう、そう思い立って作ってみた。 「一応美術部にも要注意人物はいるからな・・・」  エビフライを思い出して・・・とりあえずそれ以上思い出すのを止めておく。 「今日は早く寝れそうだな」  明日の準備を万全にして、土曜日を迎えることとなった。 「さぁ、今日もがんばりましょう!」 「・・・をい」 「なんですか、上倉先生?」 「なんで竹内が仕切ってるんだ?」  美術部の部室に来てからいつものように部活を始めて、あまりに違和感無く  竹内が仕切ってることに今さらながらに気づいた。 「あら、良いじゃないですか。私は美術部のOGなんですしここに来て  いけない理由はありますか?」 「いや、無いな・・・」  邪魔になるどころか、部員の指導などを考えるといて助かる方が大きい。 「それじゃぁ上倉先生、クッキーください」 「・・・は?」 「今日が何の日かご存じないのですか?」 「いや、知ってはいるけど・・・」 「それともあの言葉を言わなくちゃ駄目ですか?」  そう言いながら微笑む竹内の手は、近くの部員が用意してたキャンバスに  かかっていた。 「ま、まぁみんなの分はあるから先に配っても良いだろう」  その瞬間、美術部室の中で女生徒の歓声があがった。  エリスがいない今、特に料理やお菓子を作る必要はないのだが、何故か  無性に作りたくなるときがあった。  その時、出来上がった物を部員に配ったら好評でたまに作って持っていく  ようになっていた。  そしていつの間にか美術部の名物となってしまった。 「浩樹、いる?」 「上倉先生、いらっしゃいますか?」  扉を開けて入ってきたのは霧と理事長代理だった。 「あ、はい。なんのご用でしょうか?」 「私は無視?」 「いえ、今忙しいので丁重にお帰りくださりやがれませ」 「浩樹、血の海に沈みたい?」 「それで、霧様は何のご用件でしょうか?」 「・・・上倉先生、変わってませんね」  竹内の呆れた声が聞こえた。  結局部活動を始める前にお茶会となってしまった・・・ 「ただいま」  誰もいない部屋だが、帰ってきたときの挨拶は・・・ 「お帰りなさい、お兄ちゃん」  出迎えたのはエプロン姿のエリスだった。 「えええ、エリスっ!?」 「そうだよ、お兄ちゃん」 「エリスがエプロン! まさか何か作ってるのかっ!?」 「私が帰ってきてることより料理の方で驚くのね・・・」 「当たり前だろうっ!」  その時奥で焦げ臭いにおいがした。 「あ」 「早く火を止めろ!」 「う、うん!」  そうして走り去っていくエリスは、エプロン以外何も身につけてなかった。 「・・・またこのパターンか?」 「あれ、浩樹。玄関先で何やってるの?」 「き、霧! なんでここに!? 「お兄ちゃん、火大丈夫だったよ」 「ば、ばか、エリスっ こっちに来るな!」 「え、なに? エリスちゃん帰ってるの? 何で言ってくれないのよ。  お邪魔しまーす!」 「ま、待て、霧!」  慌てて追いかけるも間に合わず 「このぉ、なんて事させてるのよ!  変態シスコンロリコン天然ジゴロに裸エプロンマニア!」 「ぐはっ!」  霧のクリティカルヒットに俺の意識は闇へと消えた・・・ 「いやぁ、ごめんね浩樹。てっきり浩樹がさせてる物だと思いこんじゃってさ」 「でもセンセーの趣味でもあるんでしょ?」  俺が気を失ってる間にエリスが説明したために誤解は解けたのだが・・・ 「なんで萩野までいるんだ?」 「それはもちろん、久しぶりの出番だからだよ」 「・・・早くお帰りくださいやがれませ」 「あー、ひっどーい! こんな美少女を一人で帰らせるの?」 「杉原さん呼ぶか?」 「あ、ごめんなさい、それは止めて、怒られる」  どうやらまた逃げ出してきたようだな・・・ 「お兄ちゃん、起きれる?」 「あ、あぁ・・・なんとか生きてる」 「なによぉ、大げさねぇ」  霧さん、額に汗浮かべながらフォローしても説得力無いんですけど? 「それじゃぁ御飯にしよっか。腕によりをかけて作ったからいっぱい食べてね」 「・・・すまない、まだ調子が良くないみたいだから」 「お兄ちゃん・・・」  エリスが悲しそうな声をあげた。 「・・・だから、少しでいいか?」 「うんっ!」 「シスコンね」 「そうだね、センセーシスコンだね」  ほっとけ!
10月27日 ・FORTUNE ARTERIAL sideshortstory              楽屋裏狂想曲〜続・わたしの時代〜 「ねぇ、孝平。寮長ずいぶん機嫌良かったけど何かあったのかしら?」  昼食の時一緒のテーブルについてたかなでさんは上機嫌だった。 「あぁ、なんでもテレカの撮影したって言ってたからたぶんそれのこと  じゃないかな?」 「あー、なるほど。公式のね」  何が公式かはよくわからないし、携帯がここまで普及してる今時、  テレカなんて使うんだろうか?  その時そう思った俺にかなでさんはこう注意した。 「あのね、こーへー。それは考えちゃいけないんだよ?」 「どうしてですか?」 「おとなのじじょーっていうやつなの。だからだよ、わかった?」  あの時のかなでさんの目は真剣だった。  だから、テレカの使い道に関して俺は考えるのを止めた。 「そっかぁ、寮長もとうとうテレカデビューなのね」  瑛里華は納得したようで、仕事に戻っていった。 「余裕ね」  一緒に手伝ってくれている紅瀬さんがパソコンの前から立ち上がる。 「・・・どういう意味よ?」  一気に不機嫌になる瑛里華。 「別に、私は余裕が無いから羨ましいだけよ」  どういう意味だ? 瑛里華じゃないけど、俺でも意味がわからない。  気づくと紅瀬さんは俺の背後に回り込んでいた。 「紅瀬さん?」  俺は振り向こうとした、その瞬間顔に柔らかい物があたった。 「!?}  この柔らかさは、もしかして? 「あら、今日の孝平は積極的ね」 「ちょ、ちょっと、何してるのよ!」  俺は慌てて紅瀬さんから離れる。 「何って、孝平に寄り添っただけよ」 「どうしてそうなるのよ!」 「私は不安だからよ」  不安? 紅瀬さんが? 「寮長が単独でテレカ撮影をしたのよね、孝平」 「あ、あぁ・・・」  見せてもらった写真には、確か伽耶さんの猫が映ってたきがするが  一応かなでさん単独だった。 「きっと出来上がったテレカをもって寮長は孝平の所に行くわ」 「そう・・・なるのか?」 「えぇ、だって私の時がそうだったじゃない」  確かに紅瀬さんもテレカが出来上がったとき、俺に見せに来たっけ。  そのテレカの時に使った衣装姿で・・・ 「どういうことよ、孝平?」 「あの時の孝平は凄かったわ・・・」  何が凄かったんでしょうか、紅瀬さん? 「そ、それとこれと不安になることがなんで関係あるのよっ!」 「孝平の回りには敵が多いのよ? だから公式でアピール出来る人ほど  有利になるのよ」  そういうもんなんですか? 「なんでそうなるのよ!」 「あら? 千堂さんはテレカを見せに言ったときそう言う展開にならなかったの?」 「ど、どういう展開よ」 「・・・そうよね、貴方だけですものね」 「何が!」 「単独でテレカの写真を撮ったことがない人は」 「・・・え?」  紅瀬さんの指摘に驚く瑛里華。 「そ、そんなことはないわよ? だって夏は・・・」 「そうね、夏は月のお姫様の引き立て役だったわね」  そういえば夏のテレカの時瑛里華はずいぶん拗ねてたっけ。  私より大きいなんて反則よ、って・・・ 「そ、その前は」 「東儀さんと一緒だったわね」 「だって、ほら。紙袋の絵だって」 「あの時は伽耶と親子揃っての撮影だったわね」 「なら、抱き枕はどうなのよ、紅瀬さんのは無いじゃない」  いや、抱き枕って会長が暴走したあれだよな?  そんなの次があるわけ無いじゃないか。 「悠木さんは1位で最初、千堂さんが2位で次。なら、今度は私の番ね」 「そんなこと決まってないじゃない!」 「そうね」 「あら、素直に引き下がったわね」 「えぇ、不特定多数の生徒へ使われたくないし、孝平の抱き枕なら私で十分よね」 「・・・」  どうコメントしても良い答が出てこないので、黙秘することにした。 「・・・冗談よ」 「紅瀬さん?」 「それじゃぁ、仕事に戻るわ」  紅瀬さんが俺の肩口から去っていく。 「・・・ふぅ、瑛里華。仕事続けよう」 「・・・」 「瑛里華?」 「え? あ、そうね。仕事終わらせてしまいましょう」  機嫌が悪くなったというより、落ち込んでいるんだろうな。  俺は後でどうフォローすべきか仕事をしながら考え始めた。
10月19日 ・FORTUNE ARTERIAL sideshortstory              楽屋裏狂想曲〜わたしの時代ぱーと2〜 「るんらら〜♪」  談話室に来た俺は、上機嫌のかなでさんを見つけた。 「かなでさん、なんだか機嫌良いですね。良いことありました?」 「あ、こーへー! これ見て」  笑顔のかなでさんが渡してくれたのは1枚の紙、その紙にプリント  されてるのはかなでさんの写真だった。 「またわたしの時代がやってきたんだよ♪」  かなでさんの時代?  そう言えば以前もそんなこと言ってたっけ。 「抱き枕はえりりんに譲っちゃったけど、テレホンカードならお手頃価格でしょう?」  抱き枕って、会長が暴走したあれか? 「やっぱりわかってる人はわかってるんだよ」  何がわかってるかが俺にはよくわからないけど、かなでさんの写真は可愛いと思う。 「どう、わたし綺麗でしょ?」 「綺麗っていうより、かなでさん可愛いです」 「え? や、やだなぁ、わたしはオトナノオンナなんだから美しいんだよ?」  かなでさんが顔を真っ赤にして言い訳を始めた。 「別に大人の女でも可愛くていいんじゃないですか?」 「こ、こーへー。お姉さんをからかっちゃ駄目でしょ?」 「別にからかってないですよ、可愛いから可愛いって言ってるだけです」 「や・・・ぷしゅぅ」 「かなでさん?」  かなでさんが顔を真っ赤にしてソファに座り込んだ。 「かなでさん、だいじょうぶですか?」 「うにゃぁ」  大丈夫じゃなさそうだった。 「はい、冷たいお茶です」 「ありがとー、こーへー」  少ししてかなでさんは落ち着いてきた。 「落ち着きました?」 「・・・えぃ!」  額に風紀シールを貼られてしまった。 「いきなり何するんですか!?」 「お姉ちゃんをからかった罰だよ」 「それって公私混同です」 「いいの、わたしが寮長なんだもん!」  良くないと思うんですけど・・・ 「わたしをからかうこーへーが悪いんだから」 「何かいいました?」 「ううん、なんでもない!  それよりもさ、そろそろわたしたち最新作に戻れそうだよね」 「最新作?」 「そうそう! もうそろそろ移植発表の時期だしわたしたちの時代が再び  やってくるんだよ! がんばろうね、こーへー!」 「は、はい」  かなでさんの勢いに思わず返事してしまった。  発表された結果にかなでさんが涙するのはもう少し後の日曜日のことだった・・・
10月14日 ・夜明け前より瑠璃色なMoonlight Cradle SSS”休みの朝” 「おはよう、お兄ちゃん・・・寝顔が可愛い♪」  まどろみの中、微かに麻衣の声が聞こえる。 「もっと一緒に寝ていたいけど、そろそろ起きないと朝ご飯の準備出来なくなっちゃう」  唇に何か重なる感触がした気がする。 「えへっ・・・よいしょっと」  俺のすぐ側から温もりが離れる。 「うー、ちょっと寒いかな。着替えはっと・・・あっ」  離れた温もりが愛おしい・・・ 「うん、ちょっと着てみようかな・・・えへ、暖かいな」  温もりがあった場所が外気にさらされて、覚醒してくる。 「これなら離れててもお兄ちゃんと一緒だね」  ・・・ 「よしっ、お兄ちゃんの朝ご飯作りに行こう!  目が覚めた俺の耳に麻衣の声ははっきり聞こえてくる。 「おはよう、麻衣」 「え? お兄ちゃん!? 起きたの?」 「あぁ、目が覚め・・・」  麻衣の姿を見て寝ぼけていた俺は一気に目が覚めた。 「麻衣?」 「あ、えっと・・・シャツ借りちゃいました」  少しばつが悪そうな顔をして麻衣がそう答える。 「いや、別に構わないけど・・・それじゃ寒くないか?」  シャツだけでは素足はそのまま露出している。 「ううん、そんなことないよ。お兄ちゃんに抱かれてるみたいで暖かいよ」    その言葉に、離れた温もりに対する愛おしさがこみ上げる。 「なぁ、麻衣。今日は用事あるのか?」 「え? 特に何もないけど・・・」 「それじゃぁもう少し寝ていよう」 「えっ、きゃん」  俺は麻衣を引き寄せて抱きしめ、そのままベットに倒れ込む。 「お、お兄ちゃん・・・朝ご飯作らないと」 「そんなの後でも良いさ」 「でも・・・」 「嫌なのか?」  こう言うと麻衣はどう答えるか分かり切ってる、ちょっと意地悪な質問をする。 「そんなことないよ・・・でも・・・」  俺はそのまま先を促す。 「お兄ちゃん、このままだと我慢出来なくなっちゃうよ」 「我慢なんてする必要無いさ、俺だって・・・わかるだろう?」  俺は麻衣を抱きしめてる、つまり俺の身体の変調はそのまま麻衣に伝わる。 「あ・・・うん、わかる。お兄ちゃんが私を求めてくれるって・・・  お兄ちゃん・・・甘えてもいいの?」  俺は返事の代わりに麻衣の唇を奪う。 「ん・・・ふ・・・ぷはっ・・・お兄ちゃん、もっと・・・」  休みのこの日、二人で部屋から起き出したのは昼前になった。
10月9日 ・originalshortstory 冬のないカレンダー #17                「もしかして別なことで興奮しちゃった?」 「それでは各自注意するように、以上」  そう言うと担任は教室から出ていった。 「いよいよだね」 「なんで嬉しそうなんだよ?」  HRが終わってすぐにアイツは俺の所にやってくる。 「だって、堂々とお泊まりできるんだもん」 「・・・やっぱりそうなるのか?」 「うん、おばさんも来ていいよって昨日電話くれたよ」  おふくろ、手が早いな。  でもまぁ、今回はさすがに仕方がない状況だからな。 「よし、俺はちょっと寄り道してから帰る」 「じゃぁ私も一緒に行く」 「今回ばかりは駄目だ、おばさんを一人にしておくのか?」 「うー・・・確かにお母さん一人にしておけないよ。うん、今はおとなしく帰るね」  台風直撃前日、まだ雨は強くないがこれから風とともにどんどん酷くなって  行くだろう。  この街の直撃は明日の午前中、そのため学校は休校となっている。  そして強い台風の日には、我が家にはもう一つの嵐がやってくることになる。 「いらっしゃい!」  おばさんとアイツが来たとき、俺は台所に立ってカレーを煮込んでいた。  以前作り置きしておいた手作りのルーを使ってるのでそんなに時間はかからない。 「あ、いい匂いがするよ、カレーだね♪」  満面の笑みを浮かべて台所にやってくるアイツ。 「おばさんの様子はどうだ?」 「んとね、お母さんはおばさんと一緒にいるよ」 「なら、安心だな」  俺をからかう元気いっぱいのおばさんにも弱点はあった、  そのうちの一つが「台風」だった。  俺の記憶にあるおばさんはいつも元気いっぱいで優しくてお茶目・・・  あの年齢の女性にお茶目という言葉が似合うのか悩んでしまうけど、実際似合うの  だから仕方がない・・・と、言う印象がある。  だが、学生時代と今では全然性格が違ったらしい。  俺は良くはわからないが、台風の日はその時に戻ってしまう。  だから、おばさんにはおふくろが必要となる。 「いらっしゃい、おばさん」 「お邪魔してます」  心なしか元気の無い声、いつもおばさんと呼ぶと「お義母さんって呼んで」と  返してくるおばさんがおとなしく返事をするだけ。  違和感というより、不安感の方が襲ってくる。 「何そんな顔してるのよ? だいじょーぶよ」 「わかってるよ」 「なら、今するべきことは何?」 「あとはまかせた」 「任された!」  おふくろとの会話を引き上げて、俺は台所に戻る。 「いつ食べても美味しいわね〜」 「このカレー、私の大好物だもん、おかわりしてもいい?」  夕食の席、美味しいと言って食べてくれるカレー。  美味しい御飯は笑顔を届けてくれる、これが俺に出来ることだった。 「ねぇ、いつお婿さんにきてくれるのかしら?」 「駄目よ、あげないわよ、それよりお嫁に来てくれる方が先よ」 「じゃぁ、お嫁にあげたら変わりにお婿にもらうわね」  調子が戻ってきたらすぐにいつもの会話が始まる。 「お母さん達、仲良いよね」  それをにこにこしながら見るアイツ。 「・・・ま、いっか」  元気になってくれたのなら、それに越したことはないからな。 「それじゃぁ、今日はどうやって寝よっか?」  みんなでリビングでまったりしてたとき、おふくろの爆弾発言が飛び出した。 「どうやってって、普通に布団で寝れば良いだろう?」 「それじゃぁ面白くないでしょうに・・・よし、今日はみんなで寝よう」 「別にみんなで・・・」  反論しようとした俺の視界におばさんの顔が映る。  元気なおばさんを演じようとしてるのがばればれだった。 「ふぅ・・・何もしなければ俺はそれでもいいぞ」 「え? いいの!」  俺の敗北宣言に飛びついてきたのはおふくろではなくアイツだった。 「やったぁ、キミと同じお布団でぬくぬく♪」 「・・・」  選択を間違えたかもしれない・・・ 「それじゃぁ私はこっちね」 「私はこっちでいいかな?」  並べられた4組の布団、さすがに部屋が狭く感じる。  俺は端で寝ようとしたのだが、真ん中に移された。  右におふくろ、左におばさんが陣取る。 「えー、私は何処で寝ればいいの? 私もキミの隣が良いよ〜」 「とはいってもな・・・」  すでに俺の両隣は確保されてしまっている。 「うー、こうなったら私はキミの上で寝る!」 「ちょっと待て!」 「いいじゃない、私重くないよ?」 「重くなくっても一晩中はきつい! それはだめだ」  上に乗られるといろんな意味でやばくなるから、俺は目一杯否定する。 「どうして上はだめなのかしらねぇ・・・それは後で問いつめようっと」 「おふくろ・・・」 「それよりも、こうしましょう」  布団は三組に減らされた。  真ん中に俺が寝て、右となりにアイツ。  左となりにおばさんを抱くようにおふくろが眠っている。  そしてアイツもおふくろ達も俺の布団の方に接近して、今では布団の境界線が  破られた状態になっている。   豆電球の明かりの中、外は凄く強い風が吹いてるのがわかる。 「・・・」 「眠れないの?」  おふくろの心配そうな声がする。  俺は大丈夫と返事をしようとしたが、その前におふくろが一言付け加える。 「若いわね」 「どういう意味だよ」 「台風に興奮して眠れないって意味よ? もしかして別なことで興奮しちゃった?」 「・・・寝る」 「そうね、お休み。それと、ありがとう」 「俺は特に何もしてないよ」  俺の返事におふくろは反応しなかった。 「・・・おやすみなさい」  明日の朝には雨は上がってるだろうか?  そんなことをぼんやり考えながら、俺も眠りにつくことにした。 「・・・」  目が覚めた瞬間、両腕に柔らかい感触を認識する。  俺は自分の右腕を見る、アイツが抱きついていた。柔らかな感触は言うまでもない。  俺は自分の左腕を見る、おばさんが抱きついている。アイツに負けるとも劣らない  柔らかさが押しつけられている。  そして今は朝。  ・・・こんな状態をおふくろに見られたら何を言われるかわからない。 「・・・あれ?」  そう言えばおばさんと一緒に寝ていたおふくろが見あたらない。  先に起きたのか? 「・・・ということは」  すでにこの状態を見られたということか・・・ 「手遅れ・・・か」 「その通りよ、おはよう。元気?」 「・・・おはよう、おふくろ。二人とも起こしていいか?」 「もう少し寝かせてあげて、私は朝ご飯作ってくるから」  そう言うとおふくろは部屋から出ていった。 「寝かせるのは構わないんだけど・・・」  この天国というべきか、地獄というべきか、この状態が続くのか。  ・・・今回だけだからな  俺自身を納得させる言い訳をしながら、もう一度眠ることにした。 「小さい頃は可愛くて大きくなったら頼れる、なんて良い子に育ったんでしょう。  やっぱり男の子って良いわ、早くお婿さんに来てね」 「駄目よ、あげないわよ」  いつものやりとりに朝から疲れてくる。 「お母さん達仲良いよね♪」  台風という非日常が過ぎて日常が戻って来た事に安堵した。 「今日のお礼をしなくちゃね、だから今夜はうちに泊まりに来てね。  いっぱいサービスしてあげるわ」 「私もサービスするから、泊まりにおいでよ♪」 「・・・今日は勘弁してください」
10月8日 ・FORTUNE ARTERIAL SSS”目覚めのキス” 「孝平、起きて!」 「ん・・・」  誰かに起こされる声と、突然明るくなった部屋。 「・・・おはよう、瑛里華」 「おはよう、孝平。じゃなくって、今日休校ですって!」 「休校?」  俺は寝ぼけたまま、ベランダに通じるドアの方を見てみた。 「・・・あ、そうか」  昨日の夜から台風が接近していて、危険だから雨戸をしめるよう通達があった。  それで雨戸を閉めて寝たんだっけ。  俺はベットからおりて扉を開けて、雨戸をちょっと開けた。 「・・・納得」  すぐに雨戸をしめた、そのちょっとした間だけで俺の顔はびしょ濡れになった。 「しかし、酷い台風だな」  昼間から電気をつけた部屋の中、俺は瑛里華の分のお茶も煎れた。 「ありがと、孝平。でも困ったわね」 「何が?」  休校になって特に困ったことはないと思う。時間が出来た分生徒会の仕事が  こなせるのだから。 「あの、孝平? もしかして生徒会のたまった仕事ができるから休校になって  問題ないとか思ってない?」 「よくわかったな」 「そりゃぁ、私は孝平の彼女ですもの」  自信満々に胸を反らす瑛里華。思わずそのふくらみに目が向いてしまう。 「じゃなくて! この台風じゃ監督生室にいけないわよ」 「あ・・・」  そうだった、そこまで考えてなかった。 「それどころか、食堂にも行けないな」 「あ・・・」  今度は瑛里華が絶句していた。  その時きゅーっという音がした。 「っ!」  瑛里華の顔が赤くなる。 「・・・すまん、腹が減ってるようだ」 「そ、そうね。食事の問題もあったわね、どうしようか?」 「そうだな・・・買い置きあったかな?」  俺は小さな収納の中にある買い置きを探してみた。 「ちょうど2個あるな、これで朝はなんとかなりそうだ。瑛里華、食べるよな?」 「えぇ、ごちそうになるわ・・・ありがとう、孝平」 「これくらいどうってことないさ」  俺はポットでお湯を沸かすことにした。  二人でテレビのニュースを見る。  珠津島は台風の直撃で今が一番酷い状態らしい。  珠津島大橋も封鎖されており、本島から孤立しているようだが、  これは台風が過ぎれば解決する問題だろう。  本島に通勤する人にとっては死活問題だとは思うけど、俺達には関係無い話だった。 「なんだか暇ね」 「そうか? 俺は結構楽しいぞ」 「台風が楽しいだなんて、孝平も男の子ね」 「台風が楽しい訳じゃないさ」 「それじゃぁ何が楽しいのよ」  その瑛里華の問いに答えるのがなんだか照れくさい。 「ま、ぼちぼちとな」 「答になってないわよ?」 「いいんだよ」 「なんだか時間がのんびり流れてるみたいね」  時計をみるとまだ10時過ぎ、普段なら授業を受けている時間だった。 「たまにはいいんじゃないか? 俺達働き過ぎだし」 「そうね、たまには孝平と一緒にのんびり過ごすのも良いわね・・・ふぁ」  瑛里華が小さな欠伸をする。 「眠いのか?」 「んー・・・大丈夫よ、孝平」  そう言いながら瑛里華は俺の肩に寄りかかってくる。 「別に寝ても良いんだぞ? 今日は休みなんだからさ」 「でも、雨があがったら監督生室に行かなくっちゃ・・・」 「そうだな、それまで優雅に昼寝と洒落込むか?」 「優雅に・・・」 「瑛里華?」 「・・・」  はしゃぎ疲れた子供のように瑛里華は眠ってしまった。  瑛里華を起こさないようベットに横たえる。  そっと、瑛里華の寝顔を見る。  穏やかに眠っている瑛里華を見て、なんだか俺も眠くなってきた。 「今日は休みの日だから、たまにはいいか」  そう、理由を付けて俺も、眠りにつくことにした。 「・・・おはよう、孝平。よく眠れた?」  目が覚めると目の前に瑛里華の顔があった。 「ん・・・今何時だ?」 「3時過ぎよ、台風は過ぎたみたいね」  雨戸は開けられており、午後の陽差しが部屋に注いでいる。 「孝平、お昼は食べられそう?」 「そうだな・・・軽い物なら食べれそうだ」 「なら食堂行きましょう、それから監督生室ね」 「今日は休みじゃなかったのか?」 「明日が大変よ?」  そう言われると行くしかないな。  俺は上半身を起こして・・・ふと、唇に残る柔らかい感触に気づく。 「なぁ、瑛里華」 「なぁに?」  微笑む瑛里華の頬は赤く染まってるように見える。 「・・・なんでもない」 「くすっ、変な孝平」  目覚めのキスは王子様が王女様にするものなんだけどな。  そう思いながらも、逆も悪くないな、と思った。
10月7日 ・夜明け前より瑠璃色なMoonlight Cradle SSS”冷えた身体、熱い心” 「雨が強くなってきたな」  リビングの扉から夜空を見上げる。  雨が少し強くなってきているし、風が出始めている。 「姉さん・・・」 「今日は台風が近づいているということで、閉館を早めにします」  月博物館の館長代理である姉さんは、朝の会議でそう宣言した。  今日は平日でもあり、雨が強く台風が近づいている事もあり、入館者がかなり減少  する見込みだからだ。  館員の安全も考えての処置だそうだ。  姉さんの、じゃなかった。館長の言ってたとおり、いつも以上に人の入りが悪く  午後になってからは来館者がいなくなってしまった。  いつもより少しだけ早めの閉館、そして後かたづけをし職員を随時帰宅させていく。 「達哉君・・朝霧君も仕事は終わったのよね? 早く戻りなさい」 「姉・・・館長は?」  未だに呼び方の切り替えが上手くいかない事に二人で苦笑いしながら、俺は  姉さんの返事を聞く、でもその答は聞くまでもなく分かり切ったことだ。 「責任者が先に帰る訳には行かないでしょう? みんなが帰ったら私も帰るわ」 「なら俺も待ってる」 「駄目よ、残っていても仕事はないのだから残業もつけられないのよ?」 「残業なんて関係ないよ、俺は姉さんと帰りたい」  わざと職場で姉さん、と呼ぶ。 「もぅ、達哉君ったら・・・でもね、家の事もしなくちゃいけないでしょう?」  確かに家の台風対策はまだされていないし、イタリアンズの事も心配だ。  いつも家のことをまかせっきりの麻衣は数日前から友達と旅行に行っている。  旅先は台風の進路ではないけど、麻衣のことも心配だった。 「だから、家のことをお願いね、達哉君」  俺は断ることは出来なかった。 「・・・」  やっぱり心配だ。迎えに行こう!  俺は玄関へ向かう。 「ただいま〜」  それと同時に姉さんが帰ってきた。 「姉さん、だいじょうぶ?」 「大丈夫じゃないみたいね」  そう言う姉さんはずぶぬれだった。 「傘はどうしたの?」 「風が強くて壊れちゃったのよ」 「すぐに呼んでくれれば迎えに行ったのに」 「もうお家の近くだったから帰って来ちゃった、それよりタオルお願いできる?」 「あ、ごめん。今持ってくる」  びしょ濡れの姉さんにタオルを持ってくる、という重要なことを忘れていた俺は  すぐに洗面所へと向かった。 「姉さん、お待・・・っ!」 「ありがとう、達哉君」 「姉さん、なんて格好してるんだよ!」  姉さんは玄関で洋服を脱いで下着姿になっていた。 「だって、濡れた服着たままだと風邪ひいちゃうじゃない」 「だからって玄関で脱ぐことないだろ!」 「このまま部屋に行くと床がびしょ濡れになっちゃうでしょう?」 「誰かが来たらどうするんだよ?」 「鍵は閉めてあるわ」  確かに姉さんの言ってることに間違いはない。  けど、玄関で下着姿というのはあまりに危険すぎる。  その下着の雨で濡れて肌が透けて見える。  ブラのふくらみの頂点にある、ピンク色の突起も、パンツのうっすらと透けて  見える恥毛も・・・ 「と、とりあえずバスタオルを羽織って」 「ありがとう」  姉さんはバスタオルを受け取ると、それを身体に羽織った。 「ふふっ、達哉君必死ね」 「っ!」  確かに必死だったかもしれない、それは・・・ 「姉さんのそんな格好見たからだよ」 「別に我慢しなくてもいいのよ?」 「駄目だよ、姉さん。まず先にしなくちゃいけないことがあるだろう?」 「先にすること? お帰りのキスとか?」 「・・・それより先にお風呂に入って身体を暖めること。  そうしないと風邪ひいちゃうだろう?」 「そうね・・・残念だけどそうするわ」  いつまでも玄関で話してる訳にもいかない、それこそ姉さんが風邪をひいて  しまうからだ。 「ねぇ、達哉君。お風呂で身体を暖めたら・・・お帰りのキス、してくれる?」 「あ、あぁ・・・するから先にお風呂に入って」  このままだとキス以上の事をしてしまいそうになる。  少し頭を冷やす時間が欲しかった。 「ふふっ、良いこと思いついちゃった。  早くして欲しいから、一緒にお風呂に入りましょう」  どうやら頭を冷やす時間は手に入れられそうに無かった・・・
10月4日  紙製のお椀に、お茶の粉を入れる。  少量の水もいれて、軽く茶筅で練ってから、お湯を注ぐ。  茶筅を底につけないように、英語のmの字を書くように、素早く混ぜる。 「・・・どうぞ」 「ありがとうございます」  私の点てたお茶を持った生徒が去っていく。 「ふぅ」  誰にも気づかれないように一息つく。 「寮長、お願いします」 「はい」  私はまた同じ動作を繰り返す。  今日は10月3日、中秋の名月。  夜空を見上げると、綺麗な月が浮かんでいた。 ・FORTUNE ARTERIAL sideshortstory「月明かり」 「だいじょうぶか、陽菜?」 「私はだいじょうぶだよ、孝平くん。孝平くんこそだいじょうぶ?」 「俺は生徒会で鍛えられてるからな、それよりもきつくなったら言えよ?」 「うん」  今年の中秋の名月は10月になる、それも土曜日ということで生徒会と寮との  合同でちょっとしたイベントを行うことになった。 「みんなでお月見できるといいわね」  いつもの孝平くんの部屋のお茶会でのその一言がきっかけだった。  寮の屋上で月を眺めるだけの月見会、それだけじゃ人が来そうにないからと  言うことで、茶道部に協力を仰ぎ当日夜、お茶を点てることになった。  費用は参加者のカンパで賄い、お茶とお団子を提供してみんなで月を見る。 「ちょっと地味かもしれないけど、たまにはこういうイベントも良いと思うんだ」  そう孝平くんは言ってた。  参加者を募ったところ、思ったより多く集まって茶道部だけではいろいろと  問題が出てきてしまった。お茶を点てる人が足りないのだ。 「私が手伝います」 「なら俺も」  私と孝平くんが手伝うことになったのが1週間前、それから茶道部に通って  レクチャーを受けることになった。  こうして迎えた月見会。 「ふぅ」  せっかくのお月見を孝平くんと一緒には出来そうになかった。 「やっぱり疲れてるんじゃないか?」 「大丈夫だよ、孝平くん。ほら、次のお茶を点てましょう」 「あ、あぁ」  ちょっと腕がだるくなってきていたけど、孝平くんと同じ事を出来る。  それがとても嬉しかった。  月見会は特に進行とかなく、みんなでゆっくりとお茶を楽しみながら月を見る。  それだけのイベントだから静かに進行していった。 「おつかれ、陽菜」 「お疲れ様、孝平くん」  参加者みんなにお茶が行き渡って一段落した私はその場で夜空を見上げた。 「あれ、孝平くん?」  孝平くんがお茶を点て始めた。  その手さばきは私より上手い。なんでもそつなくこなす孝平くんらしいな。 「陽菜、良かったら・・・どうぞ」 「あ・・・ありがとう、孝平くん」  渡されたお椀を両手で受け取る。 「暖かいな」  そしてそっと口を付ける。  苦いような、甘いような、抹茶独特の味がする。 「結構なお手前で」 「どういたしまして」 「ふふっ」 「ははっ」 「こういうのは私たちには似合わないかもしれないね、孝平くん」 「そうかもな」  格式張った形は私には似合わない、だってそれは私の自然体ではないから。 「支倉先輩、準備出来ました」 「ありがとう、白ちゃん。よし、行こうか」 「え? 何処に?」 「今日の最後のイベントだよ」  訳がわからないまま、私はみんなの所に連れて行かれた。 「寮長、お誕生日おめでとう!」 「え?」  みんなの前に連れて行かれた私は、千堂さんに花束を渡された。 「おめでとう!」 「おめでとう、寮長!」  みんなが私にお祝いの言葉をくれる。 「あ、ありがとう・・・」 「陽菜、涙は駄目だぞ?」 「でも、でもっ」  とても嬉しくなって、涙が流れそうになる。 「ほら」 「・・・ありがとう」  そっとハンカチで私の目元を拭ってくれる。 「支倉君熱いわね、みんなの前でみせつけてくれるなんて」 「え? そ、そんなことは違うぞ!」  千堂さんのからかう声に孝平くんは慌ててる。 「くすっ」  その慌てっぷりがおかしくて思わず笑ってしまった。  私へのお祝いで終えた月見会。  片づけにそんなに時間はかからなかった。  茶器やポットは茶道部のみんなが、用意してあった敷物もすぐに片づけられた。  そしてイベントの後、お礼が言いたくてすぐに孝平くんの部屋を訪れた。 「お疲れ様、陽菜」 「孝平くんこそお疲れ様。それと、ありがとう」 「何が?」 「最後のお祝い、孝平くんが考えてくれたんでしょう?」 「・・・みんなの気持ちだからな」 「それでも、ありがとう」 「・・・そんなことよりもさ」  孝平くんが話題を変えようとしている。照れ屋な孝平くんなんだから。 「忙しくて言えなかったんだけどさ・・・似合ってる」 「ありがとう、孝平くん 言ってくれなかったからきっとどこかおかしいかなって  おもってたんだ」  今日のお茶会、孝平くんと私は着物を着ていた。  最初に着替えた私を見て何か言おうとしてた孝平くんだったけど、すぐに準備に  呼ばれてしまって何も言ってくれなかった。  どこかおかしいのかなってずっと思ってたけど、これで安心できた。 「そんなことないよ、似合わない訳ないじゃないか」 「ありがとう」 「ねぇ、孝平くん。月が綺麗だよ」  ベランダに通じるガラス戸越しに夜空を見上げる。  まだ綺麗な月が夜空に浮かんでいる。  その時、スイッチの音と共に部屋の電気が消された。 「孝平くん?」  私は振り向く。 「やっぱり・・・」 「何が?」 「月明かりに照らされた陽菜だよ、綺麗」  その言葉にドキっとする。 「ねぇ・・・本当にそう思う?」 「あぁ、嘘じゃないよ、陽菜。綺麗だよ」  その言葉に私の鼓動が早くなる。 「ねぇ、月の魔力って知ってる?」 「魔力?」 「そう、lunaticは月から取られてるし、狼男も月を見て変身するでしょう?」 「・・・確かにそうだな」 「だから・・・ね」  私は着物の帯をほどく。  あっけないほど簡単に帯はほどけて、着物の前が開く。 「だからね、孝平くん・・・私は月の光を浴びちゃったから」  全ての着物をその場に脱ぎ捨て、孝平くんの元に歩み出す。 「今日のお礼をしてあげたいの・・・いい?」  ・  ・  ・ 「私、寮長失格だね」 「どうして?」 「だって、男の子の部屋に泊まっちゃったんだよ?」  誕生日の朝、私は孝平くんの部屋で目覚めた。  目覚めたとき大好きな人が私を抱きしめてくれている、そんな幸せな  誕生日の始まりだった。 「・・・陽菜は真面目だな、ちょっと朝早くから俺の部屋に来ただけじゃないか?」 「孝平くん?」 「朝早すぎて日が昇る前に来ただけだろう?」 「それって無茶すぎないかな?」 「でも事実だろう?」 「・・・そうだね、孝平くんがそう言うんだから、本当の事だね」  無茶すぎると思うけど、間違ってないと私は思う。 「陽菜、今日の予定は?」 「夕方前に一度実家に戻るだけだけど・・・」 「よし、それじゃぁ今日はずっと陽菜と一緒にいられるな」 「・・・うん」  私は孝平くんの胸に頬をあてる。  暖かい、孝平くんの鼓動が聞こえてくる。 「ねぇ、孝平くん。今日はずっと側にいてくれるんでしょう?」 「あぁ、陽菜が望まない限りな」 「なら・・・私、シャワー浴びたいの。だから・・・ね?」  その言葉に顔を真っ赤にする孝平くん。 「えっと・・・」 「私が望むならずっと側にいてくれるんだよね?」 「・・・お手柔らかに」 「うん♪」  今日はずっと一緒だよ、孝平くん。
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