思いつきSSログ保管庫
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雑記掲載SS保管庫 2007年第3期 9月29日 夜明け前より瑠璃色な フィーナ誕生日記念 「想いの形」 9月26日 D.C.II sideshortstory 「秋祭りの夜の夢」 9月21日 夜明け前より瑠璃色な sideshortstory 「秋風」 9月19日 FORTUNE ARTERIAL sideshortstory 「仮装」 9月13日 FORTUNE ARTERIAL sideshortstory 「優しい記憶」 8月24日 FORTUNE ARTERIAL sideshortstory 「魔法少女」 8月23日 夜明け前より瑠璃色な sideshortstory 「節電」 8月21日 夜明け前より瑠璃色な sideshortstory 「魔法少女」 8月9日 夜明け前より瑠璃色な sideshortstory 「Princess Holiday」楽屋裏の夜 8月9日 夜明け前より瑠璃色な sideshortstory 「Princess Holiday」第五夜 8月8日 夜明け前より瑠璃色な sideshortstory 「Princess Holiday」第四夜 8月7日 夜明け前より瑠璃色な sideshortstory 「お姫様の休日」 8月6日 夜明け前より瑠璃色な sideshortstory 「Princess Holiday」第三夜 8月3日 Canvas2 sideshortstory「縞の誘惑」第3話 8月1日 Canvas2 sideshortstory「縞の誘惑」第2話 7月29日 夜明け前より瑠璃色な sideshortstory 「Princess Holiday」第二夜 7月29日 Canvas sideshortstory 「NAKED BLUE」 7月25日 夜明け前より瑠璃色な sideshortstory 「Princess Holiday」第一夜 7月22日 FORTUNE ARTERIAL sideshortstory「夢の中で」 7月18日 FORTUNE ARTERIAL sideshortstory 「12都市12少女‥‥」 7月11日 FORTUNE ARTERIAL sideshortstory 「黒いロングのワンピース」 7月9日 Canvas2 sideshortstory 「メイド服に着替えたら」 7月8日 夜明け前より瑠璃色な sideshortstory 「七夕」 7月4日 遥かに仰ぎ、麗しの sideshortstory「家族」
9月26日 ・D.C.II sideshortstory 「秋祭りの夜の夢」  作:ブタベストさま 「えへへ」 「嬉しそうだな、由夢」 「嬉しいですよ、兄さん」  兄さんと一緒に手をつないでお祭りに来ている。  ただそれだけなのにとても嬉しくて、幸せだから 「えへへ」 「人、思ったより多いな」 「こんなものじゃないですか?」 「そうか? まずはお参りしなくちゃな。」 「はい、兄さん」  お賽銭をいれて手を合わせる。  願い事は一つだけ、ずっと兄さんと一緒にいられますように。 「それじゃぁ兄さん、可愛い妹のためにいろいろとご馳走してくださいね」 「・・・自分で可愛いって言うなよ」 「兄さんはそう思ってくれないんですか?」 「・・・」 「兄さん?」 「・・・さ、由夢。何が食べたいんだ?」 「ごまかしてる?」 「・・・」  兄さん、顔を真っ赤にして照れてる、可愛いな。  そんな兄さんに見とれてしまったのが悪かったのか 「え、きゃっ」  他の人の肩に当たってしまい、よろけたとき石畳の隙間で躓いてしまった。 「由夢、だいじょうぶか?」 「えぇ、たぶん大丈夫だと思います。」  立ち上がろうとして足首に軽い痛みが走る。  でも往来の真ん中で座り込んでいる訳にもいかないし、無理矢理  立ち上がった。 「っ、大丈夫です、さぁ続きを楽しみましょう」 「・・・由夢、無理するんじゃない。ちょっと休めるところに行こう」 「大丈夫ですって、兄さんは心配性なんですから」  せっかくのお祭りを私のために台無しにしたくない。  それに私だってお祭りを一緒に楽しみたいから。 「由夢・・・」 「え?」  兄さんは私の腕をとると自分の首に回して、兄さんも私の首の後ろに手を  まわした。 「とりあえず休むぞ、いいな?」 「・・・はい、その・・・ごめんなさい」  やっぱり兄さんに迷惑かけちゃった・・・  本堂の裏側、人気のないところに私は腰を下ろす。 「由夢、足を見せて」 「や、だいじょうぶですって」 「いいから、見せなさい」  そう言うと無理矢理私の足首に触れる。 「あ・・・」  兄さんの冷たくて暖かい手が私の足首に触れる。  それだけで痛みがひいていく気がしてきた。 「・・・」  兄さんは一生懸命私の足首の様子を見てくれている。  ただ、私は足をあげている形になっているから、浴衣のすそから  太股まで見えてしまっている。 「・・・」  まだ気づかれてないと思う、それも時間の問題だけど。  そんなことよりも私のなかは、外気にさらされて熱を持ちだしてきていた。 「・・・んっ」  兄さんの触診は続く。足首に触れられているだけなのに  なんだか気持ちがいい・・・ 「とりあえず酷い腫れはないけど、ちゃんと湿布を貼っておいた方が  いいだろうな・・・」 「・・・」 「あ、ごめん・・・これはわざとじゃなくて、その・・・」  やっと太股までめくれてる浴衣に気づいた兄さんは、あわてて弁明を  始めた。それがなんだかおかしくて 「ここまでしておいて、今更・・・」 「だからわざとじゃないって」 「そうなんですか? 兄さんは元気になってるようですよ?」 「うっ・・・」  自分自身が主張している兄さん。 「ふふふっ、私を見てそうなったんですよね?」  少しだけ足を開く。すそから流れ込んでくる風が熱を持った私を撫でる。 「由夢・・・」 「私が鎮めてあげますね」  私は兄さんの前に膝建ちになって、兄さんの浴衣のすそをめくる。 「ここじゃまずいって」 「でも、我慢できるんですか?」 「・・・」 「私は我慢できません、だから兄さんの・・・下さい」 「由夢・・・」  ・  ・  ・ 「由夢!」 「・・・はい?」  気づくと私は夕暮れ時の自分の部屋の中にいた。 「だいじょうぶかー、由夢。」  部屋の外から兄さんが呼ぶ声がする。 「だ、だいじょうぶもなにも、ちょっとうたた寝してただけです」 「そうか、もう少ししたら出かける時間だぞ?」 「あ、はい。準備したら行くから下で待ってて」 「おぅ」  兄さんの気配が遠ざかっていくのがわかった。 「・・・夢」  うたた寝したときみた夢。ただの夢・・・だけど、私にとって  夢は夢じゃない。 「ということは・・・」  頬が一気に熱を持つのがわかる。 「そそそ、そんな、兄さんとそそ、外で?」  ・・・でも、これは私の見た夢であって、私の望む事でもあって・・・ 「と、とりあえず着替えないと」  今日のお祭りのために用意した浴衣に着替えようとしたとき  くちゅっ、という音がした。 「・・・えっと」  恐る恐るスカートを脱いだ私の目には、濡れているショーツが映った。 「・・・」  えっちな夢に、身体はすっかり反応していた。  いつまでも濡れたショーツを穿いてるのは気持ちが悪い。  そっと両手でショーツをおろす。 「ん・・・」  濡れた衣服が肌から離れる感触が、敏感になってる私を襲う。  これ以上感じないよう、タオルでそっとふき取る。  ・・・ 「・・・和服は下着を着ないんだよね」  そのまま一糸まとわぬ姿になった私は素肌の上から浴衣を羽織る。  このままだとあの夢と同じようになる、いや、望む望まないに関係なく  あの展開は訪れることだろう。ならば・・・ 「楽しまなくっちゃね」 「お待たせしました、兄さん。兄さんも浴衣なんですね」 「って、由夢が浴衣着るから俺にも着ろって言ったの誰だ?」 「そうでしたっけ?」 「・・・ま、いっか。それじゃぁ行こうか」  そう言って手を出してくれる兄さん。  私はその手を取る。 「はい、行きましょう、兄さん!」
9月21日 ・夜明け前より瑠璃色な sideshortstory 「秋風」 「あのね、麻衣ちゃん」 「あ、ちょっとまってね。今お茶入れちゃうから。」 「あわててやけどしないでね?」 「だいじょうぶだって」  食後のお茶を用意したときにお姉ちゃんに呼ばれた。  3人分のお茶を用意してリビングに戻ってみんなの前にお茶を置く。 「それで、お姉ちゃん。何?」 「うん・・・あのね、私ずっと考えてたの。麻衣ちゃんと達哉君と、私と  家族のことと」  お姉ちゃんに私とお兄ちゃんのことを話したのはつい最近。  その頃にお姉ちゃんが体調を崩してたり、フィーナさんのホームスティの  終わりの時期と重なっていろいろとあった。  まだまだ問題は残ってるけど、今はほっと一息いれられた、そんな時期。 「麻衣ちゃんにちゃんと紹介してもらおうと思ったの。」 「紹介?」 「そう、ご挨拶もしたいし。今度の週末いいかしら?」 「そうだな、俺も最近行ってないし。姉さんにも来てもらうか。  良いだろう、麻衣?」  ・  ・  ・  週末、ちょうどお彼岸の中日にあたる今日。  私とお兄ちゃんとお姉ちゃんの家族3人で、初めて同じ道を歩いている。  普段滅多に歩かない道、来たとしても私一人だけ。  その道を3人で歩くのは不思議な感じだった。  お寺の山門をくぐって本堂の裏側に回る。  途中で閼伽桶を借りて水をいれる。  そして訪れたのは一つのお墓。  墓石には「北原家」の文字が掘られている。  私はそっと手をあわせ目を閉じる。  目を開けると横で2人が同じようにしていた。  3人で静かにお墓の掃除を始める。  お兄ちゃんは落ちている葉やはえてしまった雑草を取り除く。  お姉ちゃんは持ってきたお花をいけてくれている。  私は濡れたタオルでそっと墓石を拭く。  時折吹く風はもう、秋の風だった。  お花もあげて、お線香もあげて、お供え物もあげた。  やるべき事は終わった。  私たちはもう一度軽く手をあわせる。  お姉ちゃんがそっと前に出る。  私はお兄ちゃんと手をつないでぎゅっと握った。  お兄ちゃんは優しく握り返してくれた。 「初めまして、麻衣ちゃんのお父様、お母様。穂積さやかと申します。  達哉君と麻衣ちゃんのお姉ちゃんをしています。  知らなかったこととはいえ、ご挨拶が送れてしまい申し訳ありませんでした。」  そんな、お姉ちゃんは全然悪くない。  ずっと隠し事をしてた私が悪いの!  そう言おうと思った。  でも言葉を出す前にお兄ちゃんの手が私の手を強く握ってきた。 「いつも麻衣ちゃんにはお世話になっています。これからもそうなると思います。  若輩者でお父様やお母様から見れば不安があるかもしれません。  でも、私はずっと麻衣ちゃんのお姉ちゃんとしてがんばっていきますから  空の上から見守ってください。」 「・・・お姉ちゃん」 「ふぅ、なんだか緊張しちゃったわ・・・麻衣ちゃん。これからもよろしくね」 「お姉ちゃん!」  お兄ちゃんがそっと背中を押してくれた。  私はそのままお姉ちゃんの胸の中に顔を埋めた。 「お姉ちゃん、お姉ちゃん!」 「だいじょうぶよ、麻衣ちゃん。私はいつまでも麻衣ちゃんのお姉ちゃんだから」  涙が止まらなかった。 「おじさん、おばさん。お久しぶりです。」  気がつくとお兄ちゃんがお墓の前に立っていた。 「俺もしばらくぶりでごめんなさい。今になってわかったんだけど、ここに来ると  麻衣が妹じゃ無いって感じてしまう気がしたんだと思います。  兄妹でいるって約束を守りたくて・・・でも、それはもう終わりにしました。」  お兄ちゃんは深呼吸して話を続けた。 「おじさん、おばさん。近い将来、麻衣を一度お返しします」 「え?」  お兄ちゃん、それってどう言うことなの? 私を返すって? 「そして、すぐに改めて麻衣を迎えようと思います。  養子として、妹としてではなく」  お兄ちゃん、それは・・・ 「俺の伴侶として」 「お兄ちゃん」 「俺は麻衣と一緒に幸せになります、天国から見てて下さい」  さっきとは違う涙が止まらなかった。 「ほら、麻衣ちゃん。泣くのなら私の胸の中じゃなくて、ね?」  今度はお姉ちゃんが背中を押してくれた。  私はそのまま、お兄ちゃんの胸の中に飛び込んだ。 「・・・お兄ちゃん、格好つけすぎだよ?」 「そうか?」 「うん、格好良いよ、お兄ちゃん!」  私は目をつぶってお兄ちゃんに口づけをした。 「あらあら、お父様、お母様。お孫さんの顔は思ったより早く  みれそうですよ?」  見上げる秋の空は、とてもとても高かった――
9月19日 ・FORTUNE ARTERIAL sideshortstory 「仮装」 「だいたい学園祭の草案はまとまったようだな」  会長の一言が会議の終わりを告げようとしていた。  学園祭の季節、生徒会では各部の出し物やそれに対する予算案、備品の  確認などやることがたくさんある。  一応生徒会に席がある俺もかり出されいろいろと手伝っていた。  たまにある会議にも出席するが、会議では俺は何もすることがない。  今日もそういう会議のはずだった。 「最後に匿名希望の生徒から面白い案をもらったので紹介しよう」 「面白い案?」 「そうだよ、瑛里華。面白い案だ」 「・・・」  なんだか嫌な予感がした。  瑛里華の方を見てみると、瑛里華も同じような事を考えてるのがわかる。  征一郎先輩はというと、何事もないようにしている。  白ちゃんは不思議そうに伊織先輩の方を見ている。 「面白い案の内容は説明するより投稿文を読んだほうが早いので・・・」  会長は一呼吸明けて、手元の資料を読み出しだ。 「生徒会のみんなは仮装するといいと思います!」 「はい?」  瑛里華の間の抜けた疑問の声が監督生室内に響く。 「格好良い人は格好良く、可愛い子は可愛く、可愛い女の子はもっと可愛く  なるべきだと思います!!」  ・・・なんとなく、匿名希望の匿名さんが想像できてしまった。 「兄さん、それって寮・・・」 「瑛里華、これは匿名希望さんだぞ?」 「・・・」 「というわけで、仮装しちゃいましょー!」  ・・・伊織先輩が、文章を機械的に読んでいるだけのはずなのに、俺の耳には  かなでさんがしゃべってるかのように聞こえてきていた。 「というわけで、先に用意できた女の子の可愛さを引き立てる衣装を同封します」 「・・・」  俺も瑛里華も声が出なかった。  白ちゃんはまだ事情を把握してない感じがする、征一郎先輩は悠然としている。 「そう言うわけだから、瑛里華。着てみなさい」 「どこをどういうふうにとったらそう言うわけになるかわかんないけど、却下よ」 「何故なんだい? この前は部屋着をここで着てくれたじゃないか?」 「あれはっ! 兄さんが泣いて頼んだからじゃない。それも嘘泣きで」 「そうだったかな? そんな記憶は無いのだが・・・そうすれば瑛里華が  納得するのなら、その手を試してみようではないか」 「・・・兄さん!」 「あの・・・征一郎先輩、止めなくて良いんですか?」 「あぁ、兄妹のコミュニケーションを阻害する必要はなかろう」 「・・・」  あれが千堂兄妹のコミュニケーションなんですか・・・ 「そうそう、白ちゃんの分もあるようだね。着てみるかい?」 「なんで私には命令で白ちゃんには選択肢があるのよ?」 「怖い姑がいるからな」 「そうだな」  それを肯定する征一郎先輩・・・  自覚はあったのか。 「えっと・・・その、兄さま」  戸惑う白ちゃん。その姿を優しく見る征一郎先輩。 「白、おまえの好きなようにすると良いだろう。着るも着ないも白の意志で  決めなさい」 「・・・伊織先輩、私着てみます。折角用意してくださった物ですもの。  このままお返しするのは申し訳ありません」 「そうか、さすがだな。それではこれを・・・」  伊織先輩は白ちゃんに紙袋のうちの一つを手渡した。 「では、着替えてまいりますね」  白ちゃんは隣の部屋へ行ってしまった。 「さて、残りは瑛里華だけだな。白ちゃんは着てくれたから形勢逆転かな?」 「うぅ・・・わ、私より兄さんや征一郎先輩や、支倉は?」 「俺もなのか?」 「支倉は黙ってなさい」 「・・・はい」  起こってる時の瑛里華には逆らわない方が良いことは身にしみている。 「征一郎や支倉君は、燕尾服だな。そう匿名希望の人の投稿文にも書かれている」 「俺も着るのか?」 「あぁ、征には白ちゃんと一緒に回ってもらうからな。」 「・・・そうか」  ・・・って、そこで納得しないでください。 「なんで燕尾服なんですか?」 「なに、学園内の女子に受けが良いそうだよ、最近はそういう需要もあるそうだ」 「・・・はぁ」 「瑛里華、とりあえず着てみなさい。実際学園祭の時に着るかどうかはまた  別の話だからな」 「・・・わかったわよ、今ちょっと着てみるだけよ?」  結局瑛里華の方が折れて、紙袋をもって隣の部屋へと移っていった。  男性だけが残った監督生室。  俺は気になった質問をしてみることにした。 「あの、伊織先輩も燕尾服着るんですか?」 「何故だい?」 「いや、何故って・・・みんな仮装するんですよね?」 「私はしないよ。だってこれ以上目立ってどうするんだい?」 「あら、大した自信ね」  隣の部屋に通じる扉から瑛里華の声が聞こえた。 「着替え、早いじゃないか」 「白ちゃんに手伝ってもらったから」  扉から出てきた二人は、少し変わった服装に着替えて・・・仮装していた。  そこには胸元に大きな赤いリボンのある白いブラウスと、そして  真っ赤なフレアスカートを着ている瑛里華が立っていた  黒いストッキングがいつもと違う印象を出していた。  そしてその横には白いブラウスに青い大きなスカート、チェックのエプロンを  している白ちゃんがいた。 「ほぉ・・・」 「・・・」 「・・・」  三者三様の反応を示す監督生室。 「・・・あの、どこかおかしいですか?」 「いや、さすがは白ちゃん。ちゃんと着こなしているね」 「兄さま、支倉先輩・・・」 「大丈夫、おかしいところはどこもない」 「うん、可愛いよ」 「あ、ありがとうございます」 「私の方は何の感想も無いわけ?」 「やっぱり赤は似合ってるな、これこそ馬子にも衣装だな」 「それっ、誉めてない!」 「でも、赤は似合ってると思うよ」 「は、支倉っ! な、何を言うのよ」 「何って感想だけど・・・なんでそんなにあわててるんだ?」 「何でもないわよっ!」  伊織先輩が俺達のやりとりをそれはもう楽しそうに見ていた。 「今日は着てみただけだから、当日着るかどうかは別の話だからね!」  帰り際に伊織先輩に宣言してた瑛里華だったけど・・・  あの可愛い服装が見れるなら着てもらった方が嬉しいな。  とはとても口に出せない俺でした。
9月13日 ・FORTUNE ARTERIAL sideshortstory 「優しい記憶」 「こーへー、おっはよー!」  いつものようにかなでさんの不法侵入から始まる朝は、いつものように  さわやかにとは行かなかった。 「こーへー? 朝だよ、起きないと駄目だぞ?」 「・・・」 「こーへー?」 「学園の方には連絡いれておくからゆっくり寝て休んでてね」 「ありがと、陽菜」 「それじゃぁ、お姉ちゃん、学園に行きましょう」 「・・・」 「お姉ちゃん?」 「今日は私も学園休む、こーへーの所でずっと看病してる」 「駄目、お姉ちゃんは学園でもやることいっぱいあるでしょう?」 「でもでも、身体の弱ってるこーへーには誰かがついていないと  いけないんだよ?」 「そうだけど・・・」  なんだか雲行きが怪しくなってきた。かなでさんも俺のことを心配して  くれてるのは嬉しいのだけど、だからといって学園を休ませるわけには  行かない。 「だいじょうぶですよ、かなでさん。ただの風邪だから」 「風邪を馬鹿にしちゃ駄目なんだよ? 風邪は万病の元っていうじゃない!」 「お姉ちゃん、少し落ち着いて」 「ヒナちゃん、だって」 「お姉ちゃん! 病人の前ではお静かに」 「・・・はい」 「孝平君、お薬は飲んだよね?」 「あぁ、さっき陽菜が持ってきてくれたのを飲んだよ」 「あとは暖かくして今日1日安静にすること、わかった?」 「了解」 「お姉ちゃん、今は私たちのする事はないわ。学園に行きましょう」 「でも」 「そのかわり、放課後は一緒に孝平君を看病しましょう」 「せめて午後は自主休校じゃぁ・・・」 「あんまり孝平君を困らせちゃ、駄目」 「こーへー・・・」  いつも笑顔で元気なかなでさんがこんな悲しそうな顔をしてしまってる。  そうさせてるのが俺自身だと言うことが・・・ 「かなでさん、大丈夫ですって。ゆっくり休んでるから、だから学園に  行ってきてください」 「本当にだいじょうぶ?」 「大丈夫です、でも」 「でも?」 「放課後、陽菜と一緒に来てくれると」 「絶対くるっ! ヒナちゃん引きずってでもすぐにくるから!」  後ろの方で陽菜が困ったような、でも暖かい笑顔が見えた。 「それじゃぁいってくるね、こーへー、どこにも行っちゃだめだよー!」 「孝平君、安静にしててね」 「おう」  誰もいなくなった自室。  ベットに寝ながら風邪になった原因を考えてみる。 「・・・って一つしかないか」  風呂上がりの夜風が気持ちよく窓を開けて涼んでいて、そのまま寝たのが原因。  それしかない。 「まいったなぁ・・・」  時計を見るとそろそろ授業が始まる時間。  寮に住んでる学生は全員授業を受けている事だろう。  ・・・人の気配がしない寮の中の自室。  なんだか取り残されてしまったみたいな錯覚を覚える。  それは思い出したくない記憶の封印を解いてしまいそうな・・・ 「・・・寝よう」  頭がぼーっとして、寒気がする。薬を飲んだから大丈夫のはずだが・・・  目を瞑ると襲ってくる暗闇。 「・・・今更一人じゃ寝れませんっていう歳じゃないだろ」  でも・・・  なんだか寝れそうになかった。 another view 悠木陽菜  休んでる孝平君のためにいつも以上に気合いを入れて授業のノートを  とっているはずなのに、授業の内容が全然頭にはいってこない。  これでは孝平君に教えることが出来なくなっちゃう。  そう思っていても授業に身が入らない。  ・・・お昼休みにそっと様子見に行こうかな。  うん、そうしよう。お姉ちゃんと一緒にちょっとだけ、そう、ちょっとだけ  寮に戻って様子を見てくるだけだから。  そう決心したら今度はお昼休みが待ち遠しくなって、やっぱり授業に身が  入らなくなった。 「悠木さん、今日のお昼はどうするの?」 「ごめんなさい、八幡平君。私用事あるから」  いつも孝平君と一緒に食事をする八幡平君のお誘いを断り、私はお弁当の  入った巾着袋を持って昇降口へ急いだ。  靴を履き替えて、寮に向かって走り出そうとしたとき 「こら、ヒナちゃん。一人でどこに行くのかな?」 「お姉ちゃん、見逃して!」 「見逃すも何も、私も行くところは一緒だから大丈夫だよ」 「お姉ちゃん」 「ほら、行こう!」 「うん!」  人気の無い寮の、孝平君の部屋の入り口。 「それじゃぁ行くよ」 「うん」  お姉ちゃんがそっと部屋の扉をそっと少し開ける。  悪いことをしてるわけじゃないけど、二人とも緊張していた。 「こーへー? 起きてる?」  いつもより声を小さくしてるお姉ちゃん。 「孝平君?」  返事は無い。寝てるのだろうか? 「ヒナちゃん、様子見に行こう」 「うん」  扉を開けてベットの方へ行ってみると、孝平君は眠っていた。 「寝てるだけだね」 「そうだね・・・よかった」  額に汗が浮かんでいる。  私はそっと自分のハンカチで汗を拭ってあげた。 「寝てるのなら安心、かな?」 「顔色良さそうだし、だいじょうぶそうだね」 「ふぅ、お姉ちゃん安心しちゃった」 「私もだよ」  それっきり二人とも無言になった。  起きているのならいろいろと症状とか聞けるかもしれない。  けど寝ている孝平君を起こしてまですることじゃない。  今の私たちにはここにいても何もすることがなかった。 「・・・」 「・・・」 「ヒナちゃん、戻ろうか。」 「うん・・・」  いつまでもこうしていられない。午後にも授業はあるのだし、校舎に  戻らなくてはいけない。 「こーへー、また後でくるからね」 「孝平君、放課後にまたくるね」  後ろ髪引かれる思いを振り切って校舎に戻ろうと思ったそのとき 「嫌だ・・・」 「「え?」」  突然孝平君の声がして、あわててベットの方に振り返る。  起きたかとおもったけど、孝平君は眠っていた。 「なんだ、寝言かぁ」  お姉ちゃんは寝言に驚いていた。 「行きたくない・・・もっとここにいたいから・・・」 「「!!」」  二人で息をのむ。 「ヒナちゃん、これって寝言・・・だよね?」  私は返事が出来なかった。 「ねぇ、ヒナちゃん。これって・・・」  遠い昔、私は・・・私たちはこれと似たような・・・ううん、たぶん  同じ事を聞いたことがある。それは、つらい別れの記憶。  私たちもつらく悲しいあの事は、孝平君にとっても、きっと悲しい記憶。  孝平君、今あのことを思い出してるの?  私は布団の上に出ている孝平君の手をそっと両手で包み込む。 「ねぇ、お姉ちゃん」 「ヒナちゃん、言わなくてもわかるよ」 「・・・うん」 「・・・二人で自主休校しちゃおっか」 「孝平君、ずっとそばにいるからね」 「こーへー、もう離れないからね」 another view end  嫌な夢を見ていた。  出会いがあれば別れがあるとはよく言われる言葉だが、子供にとって  それは残酷でもあった。  そう、思い出したくないあのときの記憶・・・のはずだった。  その夢でいつものように起こるはずの、別れは無かった。  夢の中でお姉ちゃんも陽菜も、僕の手をそっと握ってくれていた。 「孝平君、ずっとそばにいるからね」 「こーへー、もう離れないからね」 「・・・うんっ!」  嫌な夢は無くなり、暖かさに包まれていた。 「・・・あれ」  ・・・俺は何をしていたんだろう。  寝起きの頭が少し混乱してるようだ。寝起き・・・?  ・・・あぁ、そうだった。俺は風邪を引いて寝てしまっていたのか。 「なんだか懐かしいな」  夢を見ていたようだ、とても嫌な夢のはずだったのだが、途中から  暖かい、良い夢になった。それだけは覚えている。  そう、今手を包んでいるような暖かさが・・・ 「・・・え?」  寝起きで少しぼーっとしてたらしい。 「なんで、陽菜とかなでさんが?」  寝ている俺の胸の所に寄り添うように陽菜とかなでさんが・・・ 「寝ている?」  そう、寝ているようだ。  俺の手を二人で優しく包み込んだまま・・・  どういう事情でこうなったかは俺にはわからないけど、一つだけ  確信できることはある。 「二人のおかげ、だよな」  悪夢から救ってくれたのは間違いなくこの二人の暖かさだ。 「ありがとう、陽菜。ありがとう、かなでさん」  明日はきっとみんなで学園に行ける、楽しい日々が待っている。 「・・・と昨日は思ったんだけどな」  翌日学園に行ってみれば、あること無いこと噂が立っていた。  悠木姉妹の無断欠席の末、俺の部屋に行ったことがが何故か発覚して  大騒ぎになった。  でもそれは・・・ 「いつもの事だよな」  それもまた、いつものことと言える楽しい学園での日常だった。
8月24日 ・FORTUNE ARTERIAL sideshortstory 「魔法少女」 「やっほー、こーへーいる?」  ノックの音とともにかなでさんの声が聞こえてくる。 「はい、今あけます」  読みかけの小説を机の上に置いて、扉を開ける。  そこにはかなでさんが・・・大きな何かを持っていた。 「おっじゃましまーすっ!」 「かなでさん、それは何?」 「よっくぞ聞いてくれました!」  部屋のベットの上に座ってから、手に持ってた大きな何かを見せてくれた。 「・・・剣?」  それは剣みたいなものだった。持つところもあり、鍔もあって、でも  刃は無い。刃のあるべき中央部分に刀身を固定するような物があるが  これでは斬る事は出来ないだろう。  その中央の部分からSFのように刃が発生するなら、きっと剣として見栄えの  良い物になるんじゃないかな、と思える・・・剣? 「ぶっぶ〜、これはね、魔法のステッキなの」 「・・・はい?」  どこをどう見てもステッキと言うより刃の剣にみえる。 「実はね、ちょっと学園の倉庫整理してたら出てきたの。これはね、由緒正しい  魔法の杖なんだって」 「・・・かなでさん、俺はどこからつっこみをいれていいかわからないのですが」 「いやん、つっこみなんて、こーへーも大人になったんだね」 「・・・」  にこにこしてるかなでさんを見てるとなんだかもうどうでも良くなってきた。 「そ、それで俺の部屋に着た理由は?」 「そこなのですよ、こーへー。良いところついてくるね〜」 「はぁ・・・」 「この魔法のステッキなんだけどね、動かすための呪文が学園に伝わってないの」  いや、魔法のステッキが伝わってるだけすごい学園だと思うんですけど・・・ 「それでね、その呪文探しをこーへーに手伝ってもらおうと思ったの。」 「だいたい理由はわかりましたけど、俺はそう言うの詳しくないですよ?」 「あ、それは大丈夫。私の方で少し探してみたから」 「・・・それって俺が探す手伝いする必要ないのでは?」 「ううん、こーへーには重大な任務があるのです。」 「任務?」 「そう、魔法が使えたら一番に見て欲しいのです!」 「・・・光栄です」 「何!その間は!! おねーちゃん悲しいっ!」 「はいはい、とても光栄ですから早速始めましょうか」 「うみゅー、なにか引っかかるけどこーへーがそこまで言うなら披露するね!」 「まずは・・・元祖から」  元祖って何? 「マハリクマハリタヤンバラヤン!」 「・・・」 「うーん、残念。魔法は使えませんでしたから次っ!」  ・・・一体今のは何だったんだ? 「テクマクマヤコンテクマクマヤコン!」 「・・・」 「これも駄目か、次行くねー!」 「ピピルマピピルマ プリリンパ パパレホ パパレホ ドリミンパ  アダルト タッチで・・・何になればいいんだろう?」 「俺に聞かないでください」 「パンプル ピンプル パムホップンピンプル パンプル パムホップン!」  すでに俺には何がなんかわからない言葉をかなでさんは唱えてる。 「パラリルパラリルドリリンパ ティアランティアナンマリリンパ」 「プリティーミューテーションマジカルリコール!」 「テックセクター!」 「リリカルマジカル・・・って、これは違ったか。  魔法少女じゃなくて魔砲少女さんになっちゃうもんね。では改めて・・・  風は空に、星は天に、そして不屈の心はこの胸に、この手に魔法を!」 「・・・かなでさん、もう止めませんか?」 「うぅ・・・でも最後の最後にとっておきがあるの、それを試してみるね」 「はいはい、もうこうなったら最後までおつきあいしますね」 「うんうん、それでこそこーへーだよ! それじゃぁ、行くね!」 「憎悪の空より来たりて正しき怒りを胸に、  我らは魔を断つ剣を取る。汝、無垢なる刃・・・」  パシッ! 「えぅ」 「支倉、扉開けっ放しで何を騒いでるの?」 「え、瑛里華?」  いつの間にか部屋の中に瑛里華が入り込んでいた。その手には扇子を  持っている。というか、扉あけっぱなしだったのか?  ということは今までのことすべてが外に漏れてた?  ・・・ここは冷静になって。 「なんで扇子持ってるんだ?」  って何を俺は聞いてるんだ。 「うぅ、今回も扇子を持ってる事を先に追求するんだね・・・」  頭を抑えてるかなでさんをとりあえず放っておく。 「なんとなくよ。それよりね、部屋の中に女の子連れ込んで何してるの?」 「それは違う 連れ込んでいません、乗り込まれただけです!」 「・・・私もそう思うけど、ほどほどにしておきなさいよね?」 「それは俺の一存では・・・」 「ほどほどに、しておきなさいよ? 支倉君?」 「・・・はい」  顔は笑ってるのに目が笑ってない瑛里華は結構怖かった。 「それとかなでさん」 「えぅ、なぁに?」 「最後の呪文は危険だから唱えない方がいいわよ?」 「なんで瑛里華がそんなこと知ってるんだっ!」  翌日。 「あ、孝平君。お姉ちゃん見なかった?」  寮で陽菜と会ったとき、陽菜は見慣れない何かを持っていた。  何故か嫌な予感がした。 「見なかったけど・・・陽菜、その手に持ってるのは?」 「これをお姉ちゃんに返そうかなって。昨日突然ね・・・」 「倉庫で見つけたヒナちゃんにぴったしのアイテムだよ!」 「っていってくれたんだけど、倉庫の物って学園の備品だよね」 「確かに・・・」 「だから返しておこうとおもって」 「・・・それがいいと思う」  そう、何事も起きないうちに返した方がいいと思う。  俺は陽菜の手の中を覗いてみた。  そこには、いるかの形をした・・・水鉄砲があった。
8月23日 ・夜明け前より瑠璃色な sideshortstory 「節電」 「そうなんだ・・・うん、わかった・・・お姉ちゃんも気をつけてね。  ・・・あ。そうだ! えとね・・・」  食事の時間になってもなかなか帰ってこない姉さんを麻衣と二人で  待ってたときにかかってきた電話。  会話の内容からすると、また姉さんは泊まり込みになりそうだな。 「それじゃぁ待っててね!」  電話は終わったようだ。 「麻衣、姉さん今日は帰ってこれないのか?」 「うん、準備が一段落するまでまだ結構かかりそうだからって、今日は  泊まり込みになるんだって」 「そうか・・・それで俺はお使いに行けばいいんだな?」 「え? なんでわかるの?」 「何年麻衣の兄をしてると思うんだ? 麻衣のことは何でもわかるさ」 「お兄ちゃん・・・」 「というもあるけどな、会話の流れから簡単に想像できるさ」 「・・・感動して損したかも」 「ごめんごめん」  ちょっと機嫌を損ねてしまったようだ。 「そ、それよりも姉さんに届け物あるんだろう?」 「あ、うん。着替えと今日の夕ご飯のお弁当作るからお願いできる?」 「あぁ、イタリアンズの散歩もかねて行って来るよ。」 「ありがと、お兄ちゃん。すぐ準備するね!」  イタリアンズの散歩をかねての姉さんへのお使いから帰ってきた俺は  家の前でちょっとした違和感を感じた。 「・・・なんだ?」  まずはイタリアンズのリードをつなげてっと、それから玄関の中に入る。 「ただいま・・・」 「おかえり、お兄ちゃん。おつかいご苦労様でした」 「あ、あぁ」 「それじゃご飯にしよ!」  麻衣と一緒にリビングに入っていく。 「・・・」 「どうしたの? お兄ちゃん。」 「なんか、暗くないか?」 「うん」 「電気ついてないな」  そう、普段はつけっぱなしの電気がいくつか明かりが消えてる。  それが違和感の元だった。 「二人だけだし、使わない明かりは消さないと。節電節電♪」 「そういえば、今年の夏は電力が大変なんだっけな」 「そうそう」 「でも俺達の家だけ節電しても電力不足はどうしようもないぞ?」 「そうかもしれないけど、何もしないより良いでしょ?」 「・・そうだな」  確かに家1件がクーラーの設定温度を上げても、普段使ってる明かりを  消しても電力不足には全く影響がない程度だろう。  でも、だからこそやるべきだという麻衣の言い分は間違ってない。 「それに、節電すれば電気代も安くなるんだよ?」 「・・・麻衣は将来良いお嫁さんになるな」 「えぇ?」 「もちろん誰にもわたさないけどな」 「うん!。私はお兄ちゃんのお嫁さんだもんね!」 「・・・」 「お兄ちゃん、どうしたの?」 「いや、なんでもない。それより食事にしようか」  麻衣の言葉にかなりくらっと来たことは秘密にしておこう。 「お兄ちゃん、片づけは私がやっておくからお風呂入っちゃって」 「麻衣は入ったのか?」 「うん、だから今日は最後だからお湯抜いといてね」 「了解」  食後の片づけを手伝おうとしたらやんわり拒否されたので、仕方が無く  麻衣が言うとおりに風呂に入ることにした。  今日最後だからお湯も抜いておかないとな。浴槽を洗うのは明日にしよう。 「ふぅ・・・あれ?」  脱衣所から出たら1階はすべて電気が消えていた。  おそらく玄関の外の明かり以外はすべて消えてるのだろう。 「節電か・・・麻衣も徹底してるな」  俺は苦笑いしながら、明かりをつけずにリビングに入る。  冷蔵庫から麦茶を取り出してコップに注いで飲む。  コップはそのままシンクにおいておく。 「さてと、部屋に戻るか」  寝るには少し早い時間かもしれないが、麻衣は自室に戻っているのだろう。  まだ電気がついてる階段を上り、部屋に入る前に階段の電気を消す。 「節電だからって、夜のクーラーくらいはつけてもだいじょうぶだよな?」  いくら節電だからといっても熱帯夜の続く夜、クーラー無しでは寝るのは  難しい。それくらいは麻衣も許してくれるだろう。  そう思いながら俺は自室の扉を開ける。  と、中から涼しい風がながれてきた。 「・・・あれ? 俺クーラーつけたっけか?」 「ううん、私がつけたの」 「麻衣?」 「うん、そうだよ」  俺の部屋のベットには麻衣が大きな枕を抱えて座っていた。 「どうしたんだ?」 「あのね、お兄ちゃん。節電なの」 「いや、それは聞いた。」 「うん・・・だから、違う部屋でクーラーを2台つけると電気代  もったいないでしょ? だから、1台ですむように・・・」 「麻衣が俺の部屋で寝るのか?」 「・・・だめ?」  麻衣が上目遣いで聞いてくる。  たぶん今でも麻衣は気づいてないと思うが・・・  その仕草は反則だと俺は思う。だって断れないから。 「・・・節電だもんな、俺も強力しなくっちゃ」 「お兄ちゃん! ありがとう!」 「それじゃぁ俺は床に転がって寝るか」 「だめだよ、お兄ちゃんはベットで寝ないと」 「でもそれじゃ麻衣はどこで寝るんだ?」 「えっと・・・その・・・一緒じゃ、だめ?」 「・・・」  節電だものな、と俺は心の中で俺自身を納得させる。 「あぁ、少し早いけど一緒に寝るか」 「うん!」  俺はベットの奥の方に寝転がる。 「お兄ちゃん・・・ちょっと壁の方むいててくれる?」 「あ、あぁ。べつにかまわないけど」 「絶対絶対、こっち向かないでよ?」 「わかった」  何する気だろう? そう思った直後、俺の背後から衣擦れの音が聞こえてきた。  ・・・もしかして着替えをしている?  いや、着替えをするようなものはここにないから、脱いでいる?  何故?  そのとき部屋の電気が消えた。 「・・・失礼しまーす」  そっと俺のベットに麻衣が入ってきた。  そしてそのまま俺の背中にぴたっと抱きついてきた。 「くっつくと暑いぞ?」 「いいの。お兄ちゃんは暖かいから・・・」 「そうか・・・おやすみ、麻衣」 「おやすみなさい、お兄ちゃん。」  ・・・  俺は今日寝れるだろうか?  ・・・  ・・・やはり寝れるわけが無いわけで。 「暑い〜」 「・・・汗びしょびしょだな」 「だって・・・お兄ちゃん激しいんだもん」 「・・・麻衣だって」 「お互い様、かな?」 「そうだな・・・それよりもこれじゃ眠れないな」 「うん、シャワー浴びないと」 「先に麻衣浴びて良いぞ?」 「お兄ちゃん、あの・・・」  ・・・そうだったな。 「節電、だったよな。よし、一緒にはいるか」 「うんっ!」
8月21日 ・夜明け前より瑠璃色な sideshortstory 「魔法少女」 「姫様、お待たせしました」 「ごくろうさま、ミア・・・それが、そうなのね?」 「はい」  王宮の自室にミアは二つの、というより二振りのという方が  表現があってるかもしれない、長い何かをくるんだ包みを持ってきた。 「ふぅ・・・」 「ごくろうさま、さっそくあけてみましょう」 「はい」  ミアは丁寧に包みの一つを開封していく。  そこには刀身の無い剣が入っていた。柄と鍔と、刀身の中心を構成するような  まさに剣というべき物。ただ、刃はついておらず殺傷能力はほとんどない。 「はい、姫様」  ミアから手渡された物を構えてみる。 「思ったより重くないわね」 「姫様、それは剣ではないのですから」  そう言いながらミアはもう一つの包みを開封していた。  そこには柄の長い儀礼用の杖という感じの物があった。先端に丸い飾りが  ついている。 「それはミアのなの?」 「はい、理由はわかりませんが私のだそうです」  ミアは嬉しそうに大きな杖を抱きかかえている。 「それでは、説明書を読みますね・・・」  事の発端は、教団の遺失技術管理部が解析を終えたロストテクノロジーの  解析結果だった。  なんでもこのロストテクノロジーのアイテムは「瞬時に着替える」ための  ものだそうだ。 「先人もよほど忙しかったのかしらね」 「着替える時間を惜しむほどに、ですか?」 「えぇ、それを解決するために時間をかけて開発したのでしょうね」  ただ、このアイテムにはいくつかの起動条件があることがわかった。  まずは、このアイテムを使うには特定の声紋を持つ女性の声でなくては  いけないこと。解析の結果、適応者が月王宮ではフィーナ姫とミアだった。  そのため教団は起動テストを依頼してきた。 「私の声とミアの声って、何か共通項あったかしら?」 「無いと思います、全然違う声ですし」 「・・・ロストテクノロジーはよくわからないわね」  そして、このアイテムを使うには「正装」を持つ人でなくてはいけないこと。 「なんで正装なのかしらね?」 「私にもわかりません」 「そうよね・・・とりあえず試してみないと」 「はい、最初は正装を・・・取り込む?」  私は傍らに用意されてる、正装のドレスに向けて剣をかざした。  そうすると剣が突然ひかりだし、その瞬間ドレスが消えていた。 「これで・・・いいのかしら?」 「えぇ、説明書にはそう書いてあります」  ミアは同じようにメイド服を取り込んでいた。 「ミア、そのままだと着替えてもわからないんじゃないかしら?」 「え? あ、そうですね。とりあえずエプロンだけはずしておきます  これならこのアイテムで着替えれたらエプロン、してるからわかりますね」  私は今はナイトドレスだから、このアイテムが上手く行けば一瞬のうちに  正装のドレスに着替えれることになる。 「準備は出来たわ。ミア、これからどうすればいいのかしら?」 「はい、えっと・・・」  説明書を読み直しているミアが、なんだか言いづらそうにしている。 「どうしたの?」 「姫様・・・」 「ミア?」 「あ、失礼しました。では説明します。着替えはこのアイテムをかざして  起動キーワードを言えば良いそうです。そのキーワードは・・・」  ミアは説明書を私に見せてくれた。 「・・・」 「姫様、やっぱり・・・」 「え、えぇ。これはいろんな意味で危険だと思うわ」 「そう、ですよね・・・」 「でもここまで準備したのですもの、試してみないとね」 「姫様」 「ミア、一緒にいきましょう」 「はい」  深呼吸して、かけ声の準備をする。 「せーのっ!」 「「シンフォニックプリズムハーモニー リズムチェンジ!」」 「わぁ、本当に着替えが出来てる!」  一瞬光に包まれたと思ったその直後、私もミアも正装に着替えてた。 「確かにすごいわね」 「本当にすごいです!」 「でも・・・これはちょっと恥ずかしいわね」 「え、えぇ・・・そうですね。姫様」  私は着替えてる途中の自分の身体をみていないが、このアイテムを  使ったときの感触は何となく覚えてる。  着ていた服が消えていき、そして気がついたら着ていた、そんな  感じだった。 「もしかして、外から見れば着替えてるのって見られてるのかしら?」 「どうなんでしょう? 一瞬でしたからわかりませんでした」  そう、一瞬。  一瞬のうちに着ている服が消えて、一瞬のうちに着せられている。 「・・・ミア、やっぱりこのアイテム、いろんな意味で危険だわ」 「そうですよね、やっぱり・・・」 「一体何の意図があって作られたのかしらね」  その意図については後日、偶然フィアッカから話を聞くことができた。 「それは子供用のおもちゃだよ」 「玩具?」 「あぁ、そうだ。子供の頃誰でも憧れるであろう? 変身する魔法少女に。  それを再現するためのただの玩具だ」 「・・・」  何も言えず、出たのはため息だけだった。 ---  元に関しては危険なので注意してください(^^; ---
8月9日 ・夜明け前より瑠璃色な sideshortstory 「Princess Holiday」楽屋裏の夜  場所はトラットリア左門。  左門さんや仁さんが腕を振るって作られた料理がテーブルの上に並んでいる。  そこに集まるのは色とりどりの少女達。若干少女と呼ぶには・・・ さやか「・・・」  お、同じネタをふるのは危険なので始めましょう(汗) 翠「みんな、グラスは行き渡ってる? おっけー? それじゃぁ、乾杯!!」 一同「かんぱーい!」 翠「はいはい、前回の失敗をふまえて、今回の楽屋裏では司会進行役として   私、遠山翠が勤めさせていただきます、よろしくお願いします!」 (拍手) 翠「そして先に言っておきます、今回も男性陣は御退陣願っております。   私としては朝霧君はいて欲しかったのですが、需要と供給の複雑な   政治的問題があったとのことです」 菜月「政治的問題?」 翠「私もよくわかりません!」 菜月「・・・」 第一夜:レティシア&フィーナ編 翠「というわけでトップバッターはフィーナさんです」 フィーナ「いつも最初だから緊張してしまいます」 翠「舞台挨拶の俳優さんに、いつものように挨拶してましたものね」 フィーナ「あれは・・・その・・・」 翠「緊張しての失敗談の失敗とわからないようにお茶目に振る舞   フィーナさん、素敵だったなぁ」 フィーナ「・・・なんだか誉められてる気がしないのだけど?」 翠「気のせいですって(汗)」 第二夜:シルフィ&麻衣編 翠「最強の義妹の初代と2代目登場です!」 麻衣「と、遠山さん・・・」 翠「さっすが初代と2代目、今日はしないの? なんて台詞恥ずかしくて   言えないのですよっ!」 麻衣「・・・」 <真っ赤になってる 第三夜:エレノア&菜月編 翠「中の人繋がりです」 菜月「中の人って?」 翠「独り言なので気にしないでください、それより初々しいねぇ」 菜月「翠、なんだか発言がおじさんっぽいよ?」 翠「え? そそそ、そんなことないよ?」 菜月「・・・動揺してるのばれてるわよ?」 翠「そ、そんなことより菜月は欲張りだってことでファイナルアンサー?」 菜月「・・・翠、少し落ち着いて」 第四夜:レイチェル&翠編 麻衣「遠山さんが動揺したままなので、司会進行交代しました」 ミア「私たち二人でこの後をお届けしますね」 麻衣「第四夜は、実は話すと長い事情があったそうです」 ミア「書くと短い事情らしいですけど・・・」 麻衣「あ、あはは・・・    実はこの後の第五夜で書こうと思ってた構成が、先に発表された作品に    類似してしまったそうなんです。」 ミア「あ、言ってましたね。やられたって」 麻衣「そのため第五夜の構成を練り直した結果、第四夜には遠山さんが    大抜擢されたそうです」 ミア「・・・いいなぁ、私の出番は今のところここだけなのに」 麻衣「今回は5つしか元のお話がないから、どうしても人数的に    あぶれちゃうんだよね。」 ミア「・・・悲しいです」 麻衣「・・・えっと、とりあえずそう言うわけで第四夜は一言で言うと・・・」 ミア「翠さんはとんでもない物を盗んでいきました」 麻衣「それは・・・」 一同「あなたの、心です!」 翠「わーん、みんながいぢめる〜」 第5夜 ラピス&リース編 麻衣「先に公開された作品と構成が似てしまったために構成自体を    書き換えて作られた、もはや映画が関係なくなったお話だそうです」 さやか「麻衣ちゃんってたまに鋭い事を平気でいうのよね・・・」 ミア「第4夜で本当はメインヒロインの予定だったさやかさんをこちらで    使う関係で、4夜も代わってしまったそうです」 さやか「残念だわ〜、でもリースちゃんが可愛かったから良しとしますか」 リース「・・・」 麻衣「というわけでした。」 ミア「本当はディアナ姫様編を書きたかったそうですが、DC版やPS2版が    無いため無理だそうです」 麻衣「そして、チキュウのお話は・・・」 フィアッカ「あぁ、それは私が止めさせたのだ。無用な混乱を起こす必要は       無いからな」 フィーナ「フィアッカ? 無用な混乱とは?」 フィアッカ「あの話が実はノンフィクションだとしたら?」 一同「え?」 フィアッカ「レティシア姫が実際どのような生活をしているのか、存在して       いるかどうかは私も知らない。       ただな、月に入植を始めるだいぶ前に、長距離移民船団が実際に       とある天体に向かっていったという記録があるのだよ」 ミア「もしかして・・・」 フィアッカ「それが今回の映画と同じかどうかはわからないのだがな・・・       その文献によると、守り神的存在の名前がラピスというのだ」 一同「・・・」 フィアッカ「・・・まぁ、冗談だ」 一同「えー?」 フィアッカ「ということにしておいた方がよいだろうな」 麻衣「えっと、フィアッカさんのおちゃめな冗談でしたけど・・・」 ミア「でも本当に冗談なのかしら?」 リース「・・・」 フィーナ「そろそろお開きの時間かしらね」 菜月「そうですね、夜も更けてきたことだし、解散にしましょう」 ミア「ではお片づけしますね」 麻衣「私も手伝うね、ミアちゃん」 ミア「ありがとうございます」 フィーナ「私も手伝うわ。みんなでやれば早く終わるでしょう?」 ミア「姫様・・・」 翠「・・・片づけはやめておいた方がいいとおもうだけどなぁ」 菜月「翠、何かいった?」 翠「ううん、なんでもないなんでもない」 さやか「それじゃぁみんなで後かたづけしちゃいましょう!」 一同「はーい!」  ・  ・  ・  後かたづけも終わった左門・・・  後かたづけが終わってしまったため・・・  出番を失った人たちがいたことを、このとき誰も気づいてなかった(w
8月9日 ・夜明け前より瑠璃色な sideshortstory 「Princess Holiday」第五夜 「というわけで、みんなで映画を見に行きましょう」 「はい?」 「だから、そういうわけで映画を見に行きましょう」 「・・・」  朝食の席での姉さんの発言に俺と麻衣は言葉が無かった。 「お姉ちゃん、いきなり映画って?」 「あらあら、ごめんなさい。私ったら・・・」  姉さんが改めて説明する。  仕事で会った方から映画のチケットを4枚ももらってしまったそうだ。  だから映画を見に行こう、ということだけど・・・ 「姉さんいきなりすぎだよ」 「ごめんなさいね、チケットのこと今朝思い出したから」 「お姉ちゃん、どの映画のチケットなの?」 「実はね、今話題の・・・」   「Princess Holiday〜転がるりんご亭千夜一夜〜」  同じ世界、同じキャストで作られた、でも結末が5つあるお話。  登場するメインヒロインが5人もいて、そのすべてのヒロインとの結末が  あるお話で、5人のヒロインがいるから物語も5つ。  確かにこの映画の製作発表の時からとんでもない手法と、騒がれていた。 「面白そう、今日はどのお話なのかな?」 「劇場まで行ってみないとわからないけど、どのお話も面白いらしいの」 「そっかぁ、楽しみだなぁ。お兄ちゃんも見に行くでしょ?」 「そうだな、どうせ暇だし」 「それじゃぁ家族みんなで映画を見に行きましょう!」  家族みんなでか・・・  そうなると、あと一人足りないな。  リース、今どこにいるんだろう? 偶然出会えないだろうか? 「・・・そんな事あるわけないか」 「リースちゃん発見!」 「さ、さやか。はなせー」 「あ、リースちゃんだ。久しぶり〜」 「・・・」  偶然ってあるんだな・・・  商店街を歩いてた姉さんはいつの間にか俺達のそばを離れていて  帰ってきたときはリースを抱きかかえていた。 「ねぇ、リースちゃんも映画見に行きましょう」 「興味ない」  相変わらず即答だった。 「そんなこと言わないで、行こうよ」 「・・・」  麻衣のお願いにも無表情のリース。 「お姉ちゃんと映画に行くの、嫌なの?」 「う・・・」  ・・・姉さんのあの仕草と表情に、俺や麻衣は敵わない。  そしてそれはリースも一緒だった。 「・・・映画、行く」 「うん、よかったわ。さぁ、みんなで行きましょう!」  機嫌が最高潮の姉さんと、見に行く映画がすごく気になってる麻衣。  その後ろを俺とリースが歩いていた。 「リース、ごめんな。無理矢理つきあわせちゃって」 「・・・家族、だから」  俺はリースの返事を聞いて、思いっきり抱きしめたくなった。  ただ、商店街の真ん中でそれは危険なので頭をなでるだけにした。 「ん・・・」  劇場は思った以上に混雑していた。  それだけこの映画に期待されてる証拠だ。 「お姉ちゃん、こっちに席あいてるよ」  麻衣が探し出した席は後ろの方、だけど3つしかあいてない。 「3つしかないんじゃ駄目じゃないか?」 「でも、他にまとまって席あいてないよ」 「だいじょうぶ、リースちゃんは達哉君の膝の上に座ってもらえばいいわ、ね」 「え?」 「・・・」 「リースちゃんは背が低いから普通に座っても見えないもの。よろしくね、達哉君」 「あ、あぁ。リースはそれでいいか」 「かまわない」  リースを俺の膝の上に座らせると、リースは俺に身体を預けてきた。  いつも家のソファでしている格好と似ていた。 「リース、スクリーン見えるか?」 「・・・だいじょぶ」 「そっか、ちょっと窮屈かもしれないけど少しの間我慢してくれ、な」 「問題ない」  リースの方は問題なさそうだ。  俺の隣の席で麻衣は買ってきたパンフレットを読んでいた。 「今日の上映は第五夜みたいだね。ラブロマンスに・・・宿命?  なんだろう、宿命って」  宿命・・・あんまり俺は好きじゃない言葉だな。  その宿命に縛られている・・・いや、本人はそう思ってないだろうけど  間近に見て知ってしまってるから。  俺はリースの方を盗み見た、目を閉じている。  眠ってはいないようだけど・・・疲れてるのかな?  そのとき会場にブザーの音が鳴り響く。  少しずつ暗くなる場内、そしてスクリーンにはCMの上映が始まった。  そのCMが終わり・・・ 「Princess Holiday〜転がるりんご亭千夜一夜〜 第五夜」は始まった。 「不老不死の呪いか・・・」 「ただのラブロマンスかと思ってたけど、結構ハードだったね」 「それでもラピスちゃんはきっと幸せな時間を過ごしたとお姉ちゃんは思うわ。」 「うんうん、最後のラピスちゃんの笑顔ってすっごい素敵だったもの」 「そうそう」  麻衣と姉さんは映画の感想の話をしていた。 「リースちゃん、映画どうだった?」 「・・・普通」 「あはは、リースちゃんの普通なら、結構良いほうだね」 「・・・」  麻衣に返事をしたものの、いつもと何か違う感じがする。 「リース、気分でも悪いのか?」 「だいじょぶ」 「そうか・・・」  そうは言う物の少し足下がおぼつかない。疲れてるのだろうな。  そう思った俺はリースの脇の下と膝の下に手を入れた。 「わっ」  そうしてリースを抱き上げる。 「疲れてるなら疲れてるっていえよ、リース。俺が家まで連れてってやるから  少し寝てていいぞ」 「・・・うん」  リースは俺の胸に顔を埋めると、すぐに安らかな寝息を立てた。 「リースちゃん、疲れてたのね。映画に誘って悪いことしちゃったかしら」 「だいじょうぶだって、姉さん。リースは嫌なときは嫌っていうから」 「・・・そうよね」 「リースちゃん、寝顔可愛いね」 「達哉君の胸の中ですもの、安心して眠れるわよね」 「ね、姉さん・・・」 「なんだかラピスちゃんにそっくりにみえるね。」 「そうね・・・雰囲気とか全然違うのに、なんでそう見えるのかしらね」 「それよりも早く家へ帰ろう、俺の腕が持たないから」 「ふふっ、がんばれ!達哉君」  その夜、俺は寝付けないでいた。  それは、予感があったからだろう。  コンコン 「どうぞ」 「失礼する」  扉を開けて入ってきたのは、予想通りの人物だった。 「ごめんな、フィアッカ。リースに無理させてしまって」 「いきなり何を言うかと思ったら・・・まったく、達哉はリースのことを  ちゃんと理解しているのかしていないのか」 「え?」 「達哉が言っておっただろう? リースは嫌なときはちゃんと嫌と言うとな」 「それでもさ、疲れてるのに無理させたのは事実だからな」 「それなら私じゃなくてリースにちゃんと謝っておけば良いだろう?」 「・・・そうだな」 「そうするがよい」 「ありがとう、フィアッカ。」 「わ、私は何もしてないぞ?」 「それでもいいよ、ありがとう」 「・・・そうか、でも礼を言うのは私の方だ」 「?」 「リースを待っていてくれて、ありがとう」 「・・・」 「達哉?」 「なんかさ、毎回同じ話を俺達してないか?」 「・・・そう言われればそうだな」 「だから、俺のその後の台詞もフィアッカはわかっているんだろう?」 「あぁ、だって」 「「家族だから」」 「そうだけど、ちょっと足りないかもな」 「足りない? 何がだ?」  フィアッカは不思議そうな目で俺の方を見た。 「リースもフィアッカも俺の家族だ」 「・・・」  呆れたかな? でも俺はそう思っている、つもりだけど・・・ 「ぷっ・・はははっ!」 「わ、笑うこと無いだろう」 「いやな、私の存在を家族と言うには無理があるだろう」 「だけど」 「すまない・・・いや、ありがとうというべきなのだろうな」 「フィアッカ・・・フィアッカがなんと思っても俺と姉さんと麻衣と、  リースとフィアッカは家族だからな」 「あぁ、肝に銘じておくよ。それでは私は失礼する」 「そうだな、夜も遅いし・・・お休み、フィアッカ、リース」 「おやすみ、達哉」
8月8日 ・夜明け前より瑠璃色な sideshortstory 「Princess Holiday」第四夜  今話題になってる映画がある。 「Princess Holiday〜転がるりんご亭千夜一夜〜」という映画で、  ファンタジーの世界を題材にしたラブストーリーだ。  ただのラブストーリーならここまで話題にはなっていないだろう。  この映画は新たな試みに挑戦している、それは同じ世界同じキャストで、  ヒロインだけが毎回違うという、まるでゲームみたいな作りになっている。  5つの結末を持つ映画、ということで封切り前から話題になっていた。  そしてこういう話題に必ず飛びつくであろう、彼女は・・・ 「あっさぎりくーんっ! 映画見に行こうよ!」 「今日も暑いね〜」 「夏だからな」 「むぅ、朝霧君、もうちょっと面白い反応ないの?」 「・・・遠山は俺に何をもとめてるんだ?」  そんな馬鹿な話をしながら映画館に向かった。 「結構人いるね〜」 「話題の映画だからみんな興味あるんだろうな」 「むー、なんだか朝霧君は興味なさそうな言い方だね?」 「そうでもないさ、ただ・・・」 「ただ、なに?」 「5回も見に来なくちゃいけないのが面倒なだけだ」 「あはっ、朝霧君らしい」  この劇場では映画は日替わりで上映されている。そのためタイミングを  見ないと同じ映画を見る羽目になる。 「それで、今日はどのお話なんだ?」 「今日はね〜、第四夜。サスペンスとアクションとラブシーンが一杯だよ」  ・・・いったいどんな話なんだ?  この映画の共通のテーマはラブストーリーのはずだが、サスペンスに  アクションって・・・ 「何はともあれ、見てからのお楽しみだよ! さ、いこっ!」 「わ、わかったから腕を引っぱるなって」 「だーめっ! 早く入らないと座れなくなっちゃうよ?」  腕を引っぱられながら劇場に入っていく。  劇場内は思ったよりたくさんの人がいた。  後ろの方だがなんとか並んで座ることができた。  そして映画は始まった。 「Princess Holiday〜転がるりんご亭千夜一夜〜 第四夜」 「シャドウムーン、格好良かったね!」  映画が終わっても興奮さめやらない遠山は第四夜のヒロインである  シャドウムーンがお気に入りらしい。 「あーゆーの、憧れちゃうよね〜」 「義賊に?」 「うん、格好良いじゃない。あくどい商人からお金を盗んで貧乏な人たちの  ためにお金をばらまく、まさにヒーローだよ」 「・・・現代でやったら犯罪だけどな」 「ん、もうっ、朝霧君シビア!」 「まぁな」  いくら弱い人のためとはいえ、盗みは立派な犯罪だ。 「それにな、映画でも初代の方が言ってたじゃないか。犯罪は犯罪だって」 「それはそうだけど・・・」  遠山は何かを考え込んでいるようだ。そして 「そうだ、犯罪じゃない盗みならいいよね?」 「・・・なんだか嫌な予感がしないでもないんだけど?」 「や、やだなぁ。朝霧君は私のことどういう目で見てるの?」 「・・・」 「だ、だいじょうぶだって。犯罪じゃないから。それじゃぁ早速試すので  我が家へレッツゴー!」 「はいはい」  リビングに通された俺はお茶を飲んでいた。  遠山といえば「着替えてくるから、覗かないでね?」って言い残して  部屋へと行った。 「今回は何をするつもりなんだろう?」  そう思いながら遠山を待つ事にした。 「朝霧君、おまたせー!」 「何してたんだ、遠山・・・」  リビングに入ってきた遠山は・・・ 「どう、似合ってる?」  まさにシャドウムーンと言われる義賊の姿をしていた。 「・・・」 「・・・」 「・・・」 「あ、朝霧君。何とか言ってよ〜」 「い、いや、その、どこからどうつっこみをいれるべきか・・・  っていうか、何でそんな服持ってるんだ?」 「女の子には秘密って付き物なんだよ?」 「・・・」 「・・・あ、あはははは」  額に大きな汗が見える。 「百歩譲ってその格好は、まぁ許すとして」 「百歩も譲るの!?」 「それで、その格好で義賊のまねごとをするつもりか?」  もしそうだとしたら、さすがにそれは止めないといけない。 「まっさかぁ、そんな犯罪はしないよ。犯罪にならない  盗みをするだけだから」 「盗みは犯罪だろう・・・」 「だいじょうぶだいじょうぶ、頂くのはたった一つだから。」 「それは?」 「朝霧君の・・・達哉君の心」  時間が止まった気がした。 「も、もぅ・・・だから何とか反応してよぉ・・・恥ずかしいじゃない」  恥ずかしがる遠山・・・翠の姿がすごく可愛い。  あぁ・・・そうだったな。  俺の心はとっくに翠の物になってるから、もう誰にもとられないな。 「・・・達哉君」 「え?」  翠の顔が真っ赤になっている。 「も、もしかして口に出てた?」  うん、と可愛く頷く翠。  ・・・俺はたぶん顔中を真っ赤にしてると思う、失態だ。でも・・・ 「事実だしな」 「うん・・・」  翠は俺の方へと近づく。  俺も翠の方へと歩み寄る。 「私の心も・・・達哉君のものだよ・・・んっ」  もうお互い距離と言葉は無くなっていた。
8月7日 ・夜明け前より瑠璃色な sideshortstory 「お姫様の休日」 「暑い・・・」  麻衣に頼まれてお米や調味料の買い出しに出たのだが、この暑さには  さすがに参る。商店街のベンチに座って一休み。  植樹されている樹の周りにベンチがあるので木陰になっていて  一休みするには最適だった。 「・・・あれ?」  そのとき商店街の奥の方から女性が歩いてきた。  その女性を見た瞬間から、俺の鼓動は速くなっていた。  もしかしたら、そう思わずにはいられない。  その女性が近づいてくると姿がはっきりとわかるようになった。  艶やかな髪は後ろで白い大きなリボンで一つにまとめられている。  ポニーテールといわれる髪型だ。そして眼鏡をかけている。  その眼鏡の奥のエメラルドグリーンの瞳に吸い込まれそうになる。  着ている洋服はドレスではなく見慣れた私服とも違うけど、間違いなく 「フィーナ・・・」  もう声の届く距離までフィーナは歩いてきている。 「フィーナ」  俺はそう呼びかける。  そして俺は想像していた返事と違う返事を、想像していた声で聞いた。 「・・・貴方もですの?」 「月の王女様がこんな所を一人で歩いてる訳ないでしょう?」 「・・・」 「似ているって言ってくださるのは嬉しいですけど・・・」 「・・・」 「それを口実にナンパされるのはこりごりなんです」 「・・・」  ・・・俺は何も言わなかった。  なぜなら最初にフィーナに目配せされていたからだ。  間違いない、何故か否定されてるがフィーナだ。 「聞いてますの?」 「え? あぁ、すみません。人違いでした」 「わかっていただけるなら結構です、それでは」  そう言って去ろうとするフィーナは俺とすれ違い際に一言、小さな声で  こう伝えてくれた。 「ごめんなさいね、達哉。また後で」  フィーナが去っていくのを見送った後、俺は何事もなかったように  荷物を持って家へ急いだ。 「ただいまっ!」  玄関には自分たちの物意外の靴があった。  俺はすぐにリビングに移動する。  そしてそこには、さっき見たばかりの格好のままのフィーナがいた。 「お帰りなさい、達哉」 「フィーナ、フィーナだよな?」 「えぇ、間違いないわ。さっきはごめんなさいね」  俺はフィーナの返事を聞いてソファに座り込んでしまった。 「そうだよね、フィーナさんは有名人だもんね」 「えぇ、少し前までは名前しか知られてなかったのだけど・・・」  麻衣と一緒にフィーナの話を聞いた。  フィーナがホームスティに来た頃のスフィア王国は地球から一番遠い  隣国であって、統治者のアーシュライトの名前くらいしか一般的に  知られてなかった。  だが、今は国交回復のためにフィーナが何度も地球に来ているし、  メディアでの発表も何度も行っている。  今では次期女王として、今の現王よりも有名になってしまっている。  それだけに、普通に地球の、満弦ヶ崎の街を歩くことが出来なくなって  しまったそうだ。 「こういうときは変装すれば良いのよね、この前の映画みたいに」 「・・・あれって変装っていうのか?」 「だから眼鏡もかけてみたの・・・似合わないかしら?」  改めてフィーナを見てみる。  後ろで一つにまとめた髪型。眼鏡。 「似合ってるよ、フィーナ」 「ありがとう、達哉」 「・・・あのー、私のことわすれないでくださいね?」  麻衣につっこまれた。  今日は泊まっていけるということで、夜になって合流したミアと一緒に  左門でちょっとしたパーティーになった。  今回の変装の話は左門でも説明され、みんなで町中ではフィーナの名前を  呼ばないように注意する事になった。 「それじゃぁ、フィーナ様を何てお呼びすれば良いのかしら?」 「そこまで考えてなかったわ」 「映画では愛称っぽい呼び方だったからフィーナならフィー、とか?」 「フィーという愛称なら、その愛称の元になる名前も考えないといけないわね」  結局名前は決まらなかった。  夜、フィーナの部屋のベットに並んで座る。  何をするでもなく、ただ並んで座ってお互い寄りかかってるだけだ。  それだけで心が温かくなってくる。 「・・・達哉、今日はありがとう」 「え?」 「街の中で私をちゃんと見つけてくれたから。変装してたから不安だったの」 「そのことなら大丈夫、フィーナは俺の大事な人だから」 「・・・うん、ありがとう」  暖かく静かな時間が流れる。 「・・・達哉、今日はしないの?」 「!!」 「フィーって呼んでくれたの、そういう事じゃないの?」 「いや、フィーっていう愛称はフィーナからとっただけ・・・けど」 「けど?」  俺はそっとフィーナの唇にキスをする。 「ごめんな、フィーナに言わせちゃって。だから俺も言う。  俺はフィーナとしたい、今ここで愛しあいたい」 「私も・・・達哉と愛しあいたいわ」 「フィーナ・・・」 「達哉・・・んっ・・・」  お姫様の休日の夜はこうして更けていった。
8月6日 ・夜明け前より瑠璃色な sideshortstory 「Princess Holiday」第三夜 「達哉と映画みるなんて久しぶりだよね〜」 「そうだな、菜月が大学に入ってからは一度もデートで行ってないな」 「・・・デート」 「菜月、それくらいで沸騰するなよ?」 「あ・・・うん、でも・・・やっぱりいいなぁって」 「何が?」 「・・・デート」  ・・・菜月に沸騰するなと言っておきながら俺の方が沸騰しそうだ。  まったく、菜月は気づいていないのだろうな。  その仕草一つ一つが俺の中での菜月への思いをどんどん高めて  いってしまってることが。 「この映画を見ようと思うの」  劇場の看板には「Princess Holiday〜転がるりんご亭千夜一夜〜」と  描かれている。 「これは・・・」 「うん、今話題のラブストーリー。同じ世界同じキャストで5つの物語が  楽しめるお話なの。」  そう、映画館泣かせとも言われてる、同じ題材で5つの物語もある映画。  せめて7つ物語があれば曜日替わりで上映できたのでは?と言われてる。 「今日は第三夜なの」 「俺は初めてみるから何夜でも問題ないよ」 「うん、それじゃぁ入ろう!」  ちょうど上映開始時間、チケットを買って何とかあいてる席をみつけて  座ったときはすでにCMが始まってしまった。  そして、Princess Holiday〜転がるりんご亭千夜一夜〜の、第三夜が始まった。 「菜月、大丈夫か?」 「うん・・・ごめんね、達哉に迷惑かけちゃって」 「別に迷惑じゃないさ」 「・・・うん、ありがとう」  映画が終わったとき、菜月が涙を流していた。  確かに感動的なラブストーリーではあるが、泣けるかどうかと言われると  たぶん・・・泣ける話ではなかっただろう。  ただ、話の内容が俺と菜月の過去に重なって見えたから・・・  俺も最後に涙ぐんでいたのは内緒にしておこう。  俺は自分の顔を見られないように、そして菜月を安心させるために  菜月を抱き留めていた。  そして落ち着いてから近くの喫茶店へ移動した。 「やっぱり、重なって見えたのか?」 「・・・うん、あのときの自分を思い出しちゃった。」  目標と、夢と、俺との狭間に揺れてすれ違ったあのとき。  あのことを思い出すと今でもやるせない思いがよみがえる。  菜月を泣かせてしまったあのときを・・・ 「でもよかったよね、あのヒロインの剣士。主人公と一緒になれて」 「そうだな、本当の目標を見つけられて良かったな」 「うん」 「でも、そうなると菜月はあの剣士よりもっとすごい事になるな」 「え?」 「二つの目標を手放さずにつかもうとしてるんだからな、獣医になることと  ・・・俺のお嫁さんだろ?」 「・・・」  ぼんっ!  うわ・・・瞬間沸騰した。ちょっと言い過ぎたかな? 「も、もう・・・おだてても何も出ないわよ?」 「何も出なくてもいいさ、菜月がいてくれれば」 「・・・」  ぼんっ! 「た、達哉・・・恥ずかしくなる台詞は禁止!!」 ---  プリホリエレノアルートクリア記念?  SS「Princess Holiday」第三夜でした。  ちょっと短めになってしまったのでこの後おまけを(^^;  ・・・早坂は駆け落ちってあんまり好みじゃないんですよね。  きれい事ではあるのですが、やはり認められての大団円が一番良いです。  おまけ。夢の話はフィーナルートなので実際繋がりはないのですけど(^^; ---  デートから帰ってきて菜月の部屋。 「あ、思い出した!」 「どうしたんだ、菜月?」 「なんか映画見てからずっと頭の片隅で何かがひっかかってたのよ。  それがなんだか思い出せたの!」 「?」 「達哉、覚えてる? 少し前に私が見た夢の話」 「・・・夢?」 「そう、その夢の内容って言うか舞台が今日の映画にそっくりだったの」  ・・・俺も思いだした。  確かあのとき、俺は・・・ 「ぐ、偶然ってあるんだな」 「そうだね〜」  背中に嫌な汗が吹き出してきたのがわかった。
8月3日 ・Canvas2 sideshortstory 「縞の誘惑」第3話  *縞の誘惑第1話は、マク日記07/30付けでマクさんが執筆されています。  *縞の誘惑第2話は、8月1日付けで公開しました。  危うく下着売り場に連行されるのを阻止できた俺が代償として  払わされた物は、今日の夕食だった。  外食とかではなく、俺が作る手作りの夕食。  俺としては何も問題なく、こんなのでいいのか? と思わず  危惧してしまいそうな内容ではあった。 「ごちそうさまでした」 「おそまつさまでした」 「やっぱり浩樹さんの作るご飯は美味しくて敵わないな・・・」 「短期間に料理の腕を上げているおまえが言う台詞か?」  結局夕食は麻巳も手伝いに入った、というか入ってきた。  俺の手をのぞき込みながら、気になることは細かく聞いてくる。  麻巳はこうして俺の料理の技術も少しずつではあるが吸収していった。  理由を聞くと麻巳は 「将来の旦那様より料理が下手というのは耐えられません!」  だそうだ。  今時の家庭なら料理が旦那より下手な嫁なんていくらでもいそうな物だが  麻巳はそれに耐えられないそうだ。  こういうところは古風というか麻巳らしいというか・・・  まぁ、いいか。料理をしてくれる子が上手くなるのは悪くないからな。  ふと、昔の同居人のことを思いだ・・・いや、思い出すのは止めておこう。  食後の胃に精神衛生上よろしくないからな。 「さてと、洗い物をしなくちゃな」 「あ、それは私がやっておきますから・・・  浩樹さん、先にお風呂でも入っててください」  なんだ? 今の間は・・・ 「そうか? まぁ、それなら洗い物は任せた」 「はい、任されました」  ・・・まぁ、いいか。俺は自室に戻って着替えを用意してバスへと向かった。 another view 竹内麻巳  浩樹さんは着替えを取りに行くとバスルームへ消えていった。 「・・・」  私は早くなる鼓動を抑えようと深呼吸をした。  けど、収まるどころかどんどん早くなってしまう。  今日の夕方、からかわれっぱなしなのが悔しくて浩樹さんにちょっとした  意地悪をしかけた。  結果は予想通り、浩樹さんに反省してもらえた・・・けど・・・  私はリビングを見回す、浩樹さんはバスルームに行ってるはずなので  今戻ってくることは無い。でも、もしかしてもしかする時もあるかも  しれないので、浩樹さんの部屋に移動した。  壁にあるクローゼットの扉を開けると、姿見の大きな鏡がある。  その鏡を目の前にして・・・私はそっと自分のスカートをめくりあげる。  ブタベスト様作  スカートの中に見えるのは、水色と白色のストライプの模様の水着。  午前中、大学の授業の無い時間に一人でショッピングセンターへ行って  買ってきたセパレートの水着を今着ている。 「これもパンツ・・・には変わりないもの」  昨日のやりとりの後、自宅へ帰って冷静になってみると、下着を見せると  いう事がどう言うことになるか気づいてしまった。 「まるで・・・私から誘ってるみたいじゃない」  そんな恥ずかしいのは・・・それよりもいやらしい女の子って思われるのが  イヤだった。  そのときひらめいたのが、下着ではなく水着だった。これなら見せても  だいじょうぶ・・・だけど、部屋でこうして見せるのだったらやっぱり  はしたない女の子だと思われてしまうかもしれない。  悩みに悩んで、出した結論が・・・ 「水着を着てお風呂に入ってる浩樹さんの背中を流す」  事だった。これなら自然だし、裸になるわけじゃないからはしたなくもない。  そう結論づけたはずなんだけど・・・ 「うぅ・・・緊張する」  はしたなくないけど、恥ずかしい・・・ 「・・だめよ、麻巳。ここで負けちゃ。竹内麻巳に二言は無いのよ!」  よしっと気合いを入れて、私は着ている洋服を脱ぎ捨てる。  セパレートの、縞々模様のビキニ姿になると、私はバスルームへ向かった。  ・・・可愛いって言ってくれるかな? another view end 「ふぅ・・・」  湯船につかって一息つく。 「さっきの麻巳、何かを思い詰めてたような雰囲気あったな・・・」  また何かに行き詰まったのだろうか?  風呂上がりにでも聞いてみるとするか。  そう思ったとき、脱衣所に人の気配を感じた。  誰だ、と反射的に思い、そして今この家にいるのは俺以外一人しか  いないことに気づく。 「浩樹さん、湯加減はどうですか?」 「湯加減って・・・」  湯張りから保温まで全自動のユニットバス、湯加減が悪いわけはない。 「浩樹さん、お背中流します」 「麻巳?」 「だ、だいじょうぶです・・・水着、着ていますから」 「そ、そうか?」 「はいっ!」  何かがおかしい気もするが、断る理由も無い・・・と思う。 「そ、それじゃぁ頼もうかな」 「そ、それでは失礼します!」  扉を開けて入ってきた麻巳を見て俺は絶句した。  確かに水着を着ていた・・・縞々の、ストライプ模様の水着。  そう、それは先日の夜、ちょっとしたおふざけで麻巳を挑発するのに  使った縞々のパンツ・・・それを穿いていた。 「ど・・・どうですか?」  顔を真っ赤にしてる麻巳を見て、俺は・・・ 「すまない、麻巳」  謝ってしまった。 「え?」 「疑ってすまなかった、麻巳はやっぱり可愛いよ」  俺のちょっとした挑発に乗ってくる麻巳も、俺に仕返ししてきた麻巳も  料理の技を盗もうとした麻巳も、そして俺のために水着姿を披露してくれた  麻巳も・・・すべてが可愛くて愛おしかった。 「本当・・・ですか? 嘘じゃないですよね?」 「あぁ、嘘じゃない。」 「よかったぁ・・・」  その場にへたり込む麻巳。  その姿を見て俺は麻巳に相当な負担をかけてしまったのだと気づいた。  俺は洗い場でへたり込んでる麻巳を抱きしめようと思ったが・・・  止めておく。今湯船から出るわけには行かないからだ。 「それじゃぁ浩樹さん、改めてお背中流しますね」 「い、いや、もう水着姿も堪能したからいいよ」 「堪能って・・・」  まずい、本音を言ってしまった。どうにかして麻巳を追い出さないと。 「麻巳もそのままだと恥ずかしいだろう? 着替えてこいよ」 「水着姿だからだいじょうぶです、それに浩樹さんが可愛いって言ってくれたの  ですもの、恥ずかしくなんてないですから」  ・・・非常にまずい、どうにかしないと。 「浩樹さん、早く出てください。出ないと背中を流せないじゃないですか」 「いや、そのな。湯船に入る前に身体は洗ったから大丈夫だ」 「なら頭を洗ってあげますね、まだのようですし」 「・・・」  頼む、今の現状を察してくれ・・・ 「それとも・・・私が洗うのは駄目なんですか?」  ・・・  ・・・  その後。  麻巳は俺の部屋に泊まっていくこととなり、早朝に車で家まで送って  行くことになった・・・
8月1日 ・Canvas2 sideshortstory 「縞の誘惑」第2話  *縞の誘惑第1話は、マク日記07/30付けでマクさんが執筆されています。  美術部の終わったあと、俺は麻巳に呼び出されていた。  なんでも大事な買い物につきあって欲しいということで  絶対来るようにと念を押されてしまった。  俺につきあわせるような大事な買い物って何だろう?  画材か何かなんだろうか?  撫子の校門を出てすぐの所で麻巳が待っていた。 「浩樹さん、こっちです」 「おう、待たせたか?」 「いえ、美術部の終わる時間は知ってますから」 「そうだったな。それで何を買いに行くんだ?」 「・・・浩樹さん、大事な買い物なんです。何も言わずについてきて  下さいませんか?」 「あ、あぁ・・・」  何か思い詰めたような真剣な表情をする麻巳。 「ありがとうございます、それでは参りましょう」  麻巳と一緒に市街地の中心部の方へと出てきた。 「なぁ、麻巳。真剣になって何を買うんだ?」  道すがら何度か訪ねた俺だったが、そのたびに麻巳は言葉を濁していた。  言いづらい理由でもあるのだろうか?  俺は半分あきらめながら、今日何度めかの質問をした。  どうせ今回も答えは帰ってこないだろう。  そう思ったが、今回は違っていた。 「浩樹さん、つきました」 「ついたって・・・ここはショッピングモールだが・・・」  麻巳は俺の方を見てにこにこ笑いながらとんでもないことを口にした。 「それじゃぁ行きましょう、浩樹さん。下着売り場に」 「・・・」 「どうしたんですか? 浩樹さん」 「麻巳さん、良く聞こえなかったのですが・・・  それとも何か聞き間違えたようなんですけど・・・」 「ならもう一度言いますね。浩樹さん、下着売り場に行きましょう」 「・・・」  にこにこ笑う麻巳の笑顔が、悪魔の微笑みに見えた。 「・・・何故?」 「何を言うんですか?浩樹さんが見たいっていうからわざわざ  買いに来たんですよ?」 「だからって俺が買うのにつきあう理由が・・・」 「好きな人の好きな物を買うんですよ? つきあってもらうのは  当たり前じゃないですか?」 「いや、だから、その・・・」 「浩樹さんが明日みせろと仰るから買いに来たんですよ?」 「えっと・・・」 「絵描きに二言はない、でしたよね?」  ただにこにこしてる麻巳が、これほどまでに怖いと思ったことは  今までたぶん・・・無かったとおもう。  ・・・ 「・・・ごめんなさい、何でも言うこと聞きますから下着売り場だけは  勘弁してください」  その場で頭を下げる。 「・・・ぷっ」  ぷっ? 下げた頭の上の方、麻巳の方から吹き出す音が聞こえた。 「ふふっ、冗談ですよ、浩樹さん。そんなにあわてて・・・ふふっ」  頭を上げると笑いをこらえる麻巳がいた。 「・・・騙したのか?」 「いえ、騙してなんていませんわ。私が言ったことは事実ですもの」 「・・・」  確かに何も騙してはいない。昨日あったことの結果なだけなのだから。 「・・・はぁ」  俺はその場でへたり込みそうになった。  あのまま俺が折れてなければ本当に下着売り場に連れて行かれただろう。 「よかったぁ・・・」 「浩樹さん? これに懲りたらもうあんな事はしないでくださいね?」 「はい・・・」  肝に銘じておきます。 「それじゃぁ、本当の買い物して帰りましょうか」 「本当の買い物?」 「浩樹さん、なんでも言うこと聞くって言いましたよね?」 「あ、あぁ・・・あれは、その」 「その、なんですか?」  にこにこ笑う麻巳。 「・・・いえ、何がお望みでしょうか?」  完全に低姿勢の俺だった。 「今日は浩樹さんの作った美味しいご飯が食べたいです。だから  材料買って帰りましょう」 「そんなので、いいのか?」  少し拍子抜けしてしまった。いつもしてるような事だったから・・・ 「えぇ、でも材料費は浩樹さん持ちですよ?」 「・・・よしっ、今日は腕によりをかけて麻巳にご馳走つくるぞ!!」 「楽しみにしてますね、浩樹さん♪」
7月29日 ・夜明け前より瑠璃色な sideshortstory 「Princess Holiday」第二夜 「この映画、お兄ちゃんと見たかったんだ」  劇場の椅子に座ったとき麻衣は嬉しそうな顔をしてそういった。  今日の麻衣とのデートのリクエストは映画だった。 「でもさ、この映画の作り、結構複雑だな」 「だよねー、全部見るのに何回も劇場にこないといけないんだもん」  事前に麻衣から受けた説明によると、この映画は同じ舞台、同じキャストで  撮られてるのだが、結末が5通りもあるそうだ。  劇場はきっと上映スケジュールの対応に追われたことだろうな・・・  そして今日は上映第2週目の、2本目のお話だそうだ。  どんな話なんだろうか? 1週目はお姫様のお話だったそうだが。  俺は買ったばかりのパンフレットをあけようとした。 「あー、お兄ちゃんだめだめっ!」 「え?」 「パンフレットは上映前に見ちゃだめなんだよ? 内容わかっちゃうじゃない」 「そう言われてみればそうだな」 「だから後で一緒にみよ!」 「あぁ」  そうこうしていると開演のブザーが劇場内に鳴り響いた。 「始まるね、どんな物語か楽しみだよ」 「そうだな・・・」  一体どんな物語なんだろうな。  Princess Holiday〜転がるりんご亭千夜一夜〜の、第二夜が始まった。 「・・・」 「・・・」  映画を見ながら俺は言葉を失っていた。まさか映画の物語が血の繋がりの  無い、兄妹の物語だとは思っていなかったからだ。  旅から帰ってきた主人公を待てった第二夜のヒロインは、妹。  幼い頃から兄にべったりだった妹。  俺達と違うのは、血のつながりがないのは兄の方ということくらい。  詳細は違うが、まさに俺達が実際に体験してきたことに近い内容だった。  作られた物語だから、最後はきっとハッピーエンドだろう。  俺の中のさめた部分はそう理解しきっている。  だが、それでもこの二人の結末に目が離せない。  隣に座ってる麻衣が俺の手を握ってきた。  俺はそっと麻衣の方をみると、真剣な表情でスクリーンに見入っている。  真剣・・・というより、願っているような感じかもしれない。  麻衣も、自分自身に重ね合わせているのだろうか? 「落ち着いたか?」 「うん、ありがとう。お兄ちゃん」  映画が終わった後、麻衣は涙を流していた。  それほど感動した物語ではないのかもしれないが、すれ違いや困難を  乗り越えて結ばれた二人に、麻衣はほっとしたのだろう。  そっと涙を拭ったあと、麻衣が落ち着くまで劇場近くの公園のベンチで  休憩をとっていた。 「・・・よかったの」 「映画が?」 「そうだけど、シルフィちゃんの想いが通じて、二人が結ばれたのが・・・  本当に良くて、安心しちゃったら」 「そうか」  俺は横に座る麻衣の頭を抱き寄せた。 「きっとあの二人は幸せに暮らしたと思うよ。」 「うん」 「そして俺達も幸せに暮らせるさ」 「お兄ちゃん・・・ありがとう」  麻衣はきっと不安な事がたくさんあったのかもしれない。  いくら姉さんや家族に認められても、周りの目線はまだすべてが認めて  くれているわけではないのだから。  でも、だいじょうぶ。最初の、一番高い壁がもう超えてしまったのだから。  あとの障害だって大丈夫。  麻衣がいれば絶対乗り越えていけるから。 「ありがと、お兄ちゃん。もうだいじょうぶ」 「そうか、それじゃぁデートの続きをするか」 「うん!」  俺はベンチから立ち上がった。麻衣の方をみると何故かもじもじしながら  まだベンチに座っている。 「どうした?」 「あのね、お兄ちゃん・・・今日は、しないの?」  上目遣いで俺の方を見ながら言う麻衣。  ・・・ 「あははっ、冗談だよ!」 「麻衣!」 「ごめんごめん、ちょっと言ってみたかっただけだから」 「・・・麻衣」 「え?」  俺は素早く麻衣の手を取り立ち上がらせると、そのまま麻衣の唇を奪った。 「・・・」 「・・・」 「だめだよ、お兄ちゃん・・・本当に欲しくなっちゃう」 「俺はいつでも本気だぞ、普段から我慢するの大変なんだから・・・  その・・・もう少し発言を注意してほしい」 「ごめんなさい、お兄ちゃん。今度から家の中だけにするね」 「・・・」 「・・・だから、今日はもう帰らない?」 「麻衣・・・発言に注意するように言ったばかりだぞ?」 「でも・・・んっ!」  俺は麻衣の言い訳を自分の唇でふさいだ。 「麻衣、帰るのではなくて行こうか、俺の部屋へ」 「・・・うんっ!」
7月29日 ・Canvas sideshortstory 「NAKED BLUE」 「やっとついたね、大輔」 「・・・」 「どうしたの? 疲れちゃった?」 「いや・・・なんでもない。今更だしな」 「変な大輔。こんな所でぼけっとしてないでとっとと別荘に行きましょうよ!」  恋のスケジュールの合間に出来た夏休み。  その夏休みに藍ちゃんからみんなで別荘に行きましょう、というお誘いを  受けた。その肝心な藍ちゃん達はスケジュールの調整がつかず、1日遅れて  到着の予定だそうだ。  その別荘だが・・・  島一つ、すべて鷺ノ宮の持ち物だそうだ。  飛行機で近くの空港まで飛び、その後は船で行く島。  本島から離れてるので人の気配は全くなく、島の中にあるのは港にある  従業員の詰め所のみ。  そこから少しあるいた山の中腹に別荘があるそうだ。 「・・・俺の知らない世界だよな」 「なに、大輔。何かいった?」 「あぁ、恋。少しは自分の荷物をもったらどうなんだ?」 「か弱い妹に荷物持ちをさせる甲斐性無いお兄ちゃんなの?」  ・・・どこがか弱いんだ? 「・・・お兄さま? 今何を思ったか当ててあげましょうか?」 「・・・ごめんなさい」  素直に荷物をもって歩き出した。 「恋はこの島来たことあるのか?」 「うん、前に藍と紗綾さん達と一緒に」 「そっか、しっかし人いないよなぁ」 「何いってるの? 藍の島よ? 一般の人がいるわけないじゃない」  頭でもおかしくなったの? みたいな言い方をされた。  ・・・おかしいのは俺の方なのだろうか?  道無き道を歩くと、海岸にでた。 「ねぇ、ちょっとよっていかない?」  俺の返事を待たずに砂浜に降りる恋。  そのまま波打ち際まで走っていくと、サンダルを脱ぎ捨て海に入っていった。 「気持ちいいよっ! 大輔も入らない?」  ブタベスト様作 「水着に着替えないと後々面倒だぞ?」  もちろん水着は持ってきているがさすがに着てきてはいない。  恋もそのはずだが・・・ 「えっ、きゃっ!」  恋の短い悲鳴と共に俺の視界から恋が一瞬消えた。 「恋!!」  俺は荷物を砂浜に捨てて恋がいた位置に走り出そうとして・・・止めた。 「うぅ・・・」  恋は何かにつまずいたのか、海の中に前のめりにダイブしただけだった。  荷物を持ったまま近づき、波打ち際の少し手前で荷物を下ろして海に入る。 「さすがだな、恋。見事なダイビングだったぞ」 「・・・えぃ!」  ぱしゃっ! 「冷たっ!」  俺は恋に海水をかけられていた。 「私だけ濡れてるなんて不公平。だから大輔も・・・えいっ!」 「・・・ははっ」  相変わらずな恋の考えた方にため息はもうでず、笑いがこみ上げてきた。 「俺に勝負を挑んで勝てると思うなよ?」 「部屋にいることが多い大輔に、外を飛び回ってる私が負けると思って?」  あぁ、恋には勝てないよ。とは声に出さずに言う。  声を出さないで俺は手を動かす。 「それっ!」 「きゃっ、負けないわよ!」 「びしょびしょだな」 「うぅ・・・肌に張り付いて気持ち悪い」  荷物からシートを取り出し、そこに座って休む。  水をかけあって濡れた洋服が肌にまとわりついて気持ち悪い。 「・・・よしっ」  そう言うと恋は、突然服の後ろのリボンを解いた。 「な・・?」  そうしてそのままスカートに手をかけると、えいっていうかけ声と共に  白いワンピースを脱ぎ捨てた。  洋服に隠れている、着やせしがちな恋の身体が白日の下にさらけ出された。  ワンピースを脱いで、緑と白のストライプ模様の下着姿の恋に見とれてしまう。  もちろん下着もびしょびしょに濡れてるから肌に張り付いている。  形をくっきり浮かび上がらせてしまってるブラに、うっすらと透けてしまってる  ショーツ。 「な、なにじろじろ見てるのよ・・・」 「・・・あ、すまん」  俺はあわてて視線を恋からはずす。 「顔・・・背けないでいいよ」 「恋?」 「大輔は見てもいいの・・・ただ、ちょっと恥ずかしいから」 「でもさ、人の目が・・・」 「くすっ、大輔。もうわすれちゃったの? ここには誰もいないんだよ?」 「そう・・・だったな」 「だから・・・」  恋はその場で下着も脱ぎ捨てた。 「恋!?」 「私ね、一度裸で泳いでみたかったの。」 「いくら無人の浜だからって」 「だったら、私を捕まえて止めてみせて!」  そういって海の中に駆けていく恋は、とても輝いて見えた。 「俺に捕まえられるのか?」 「だめ、大輔が捕まえて!」  俺も立ち上がり恋を追う。  恋を捕まえるのは難しいだろう、だって俺が恋に捕まえられてる状態  なのだから・・・でも、たまにはいいか。  俺ははしたなくも、美しい格好をしている恋を追いかけた。 「まて、恋!」 「きゃー、変態さんに捕まっちゃう!」 「・・・おい」 「くすっ、冗談。早く私を捕まえてね!!」
7月25日 ・夜明け前より瑠璃色な sideshortstory 「Princess Holiday」第一夜 「きゃっ!」 「うわっ!」  スクリーンの中には上着で身体を隠そうとするヒロインの女の子がいた。  着替え中に主人公が間違えて部屋に入ってしまったためだ。 「・・・」  お姫様の着替え中に部屋にはいるのはお約束なのか?  現実でこれをやってしまうと、立場的に非常にまずくなる。  嫌な経験談だな。  なんとなく隣に座っているフィーナの方を見たくなって。  ・・・止めた。俺って臆病。  スクリーンに目を戻すと、あわてて扉を閉める主人公がいた。  これもまたお約束、自分が部屋の中に入って、だ。  俺はスクリーンに顔を向けたまま、あのときの事を否応なく思い出してしまって  嫌な汗をかいていた。  ここはとある劇場の特別室。映写室のすぐ近くにありスクリーンは遠いけど  完全個室のVIPルーム。 「俺は普通にフィーナと映画が見たかったんだけどな」 「お仕事ですもの。」  仕方がないわ、と付け加えるフィーナ。  今日から公開される映画「Princess Holiday〜転がるりんご亭千夜一夜〜」の  今日最後の上映は出演俳優さんの舞台挨拶があるそうだ。  その舞台挨拶のサプライズで、映画タイトルにちなんで本物のお姫様に出演  してもらうことになっている。それがフィーナの仕事だ。  こんな仕事もするんだな、と俺が訪ねると 「地球の文化に触れられる素敵な機会だわ」と、フィーナはそう言った。  舞台挨拶は上演前と上演後に行われ、フィーナの出番は上演後だった。  それまで特別室から映画を見ることが出来て、俺はそれに誘われた。  フィーナと映画、と言われたときからどきどきしてたものだが、  VIPルームで見る映画はなんか物足りない。  あの劇場という雰囲気が無いからだ。豪華な部屋で大きなスクリーンで  見ているのは何か違う気がする。  それでも、フィーナと二人っきりでいられるのは、とても嬉しかった。  二人っきりになると、良い雰囲気になって・・・という事が多いのだが  今日のフィーナは違った。  そっとフィーナの方を見てみると、真剣にスクリーンを見つめている。  何に対しても真剣な、フィーナらしいな。  そう思った。  上映が終わり出演俳優さんが舞台に上がってから俺達はそっと舞台脇に  移動する。  俳優さんにはフィーナのことは伏せられてるらしい。 「なんだか緊張してきたわ」 「フィーナでも緊張するのかい?」 「達哉、私をなんだと思ってるの?」 「月の王女様であると同時に可愛い俺の婚約者」 「・・・ずるいわ」 「事実だから」 「もう、達哉ったら」  ここで抱き寄せてキスすれば緊張なんてほぐれるだろうけど、さすがに  スタッフの人目がある以上それは出来ない。  そのとき舞台の司会の人が俳優さんの台本に無い台詞をしゃべり始めた。 「フィーナならだいじょうぶ、俺が保証する」 「ありがとう、達哉。行って来るわね」  司会の人の声が聞こえた。 「今日は本物のお姫様に来ていただいています。今一番注目を浴びているお姫様。  フィーナ・ファム・アーシュライト様です!」  俳優さんにプレゼントする花束を抱えてフィーナは舞台に上がっていった。  そのとき俺は思った。  間違いなく主役の座をあの俳優さん達から奪ってしまうだろうな、と。 「初めまして、レティシア・ラ・ミュウ・シンフォニア。私はスフィア王国の  フィーナ・ファム・アーシュライトです」 「あ、えっと、その・・・」 「ごめんなさい、ちょっと意地悪でしたね。鳥居花音さん。これをどうぞ」  そういって花束をわたすフィーナ。 「あ、ありがとうございます」 「素敵な映画ありがとうございます。映画の中のクリフさんやレティさんみたいに  私も笑顔を増やせるよう、月と地球の交流のためにがんばりますね」 「は、はい。フィーナ様ならきっと出来ます!」 「ありがとう、鳥居さん」  二人は固い握手を交わしていた。 「舞台でのフィーナ、あれは意地悪じゃなくて地が出たんだろう?」 「達哉にはお見通しなのね」 「あぁ」  フィーナは緊張のあまり、社交界での挨拶をしてしまったのだろう。 「かなり緊張してたんだな」 「初めての機会だったから・・・それに、あの映画を見た後だったから  かもしれないわね」 「そうかもな」  主人公のクリフは人々の笑顔を増やす方法を模索して吟遊詩人になり、  そして守りたい笑顔のために王になった。  俺が進もうとしている道と重なって見える。  ヒロインのレティシアも、一般市民の生活を見てみたい、そのために  城から出てきて普通の暮らしをしていった。  そう、フィーナみたいに。  いろいろと条件は違う物の、自分たちの物語を見たような感じだった。 「ねぇ、達哉。私たちの物語も後になって、今のように映画になるのかしら?」 「映画にはならなくても、伝記にはなるんじゃないかな?」 「伝記?」 「月と地球の仲を元に戻して、そして月と地球を超えた最初のカップルとして」 「後世の人たちは私たちをどのようにみるのかしら」 「そんなのは関係ないさ」 「達哉?」 「今の俺達がしてきたことをどう思うかは後世の人の勝手だからな。  俺は俺の出来ることをするだけさ。」 「・・・そうね。でも後の時代の人達が住みやすい世界にはしたいわね」 「そうだな、せめて月と地球の交流が盛んに行われるよう、しないとな」 「それと・・・」 「・・・だな。それも目標にしないとな」  そう、人々の笑顔をもっともっと増やせるように。 ---  プリホリ1週目レティ終了記念の夜明け前より瑠璃色なのSSSでした。  ・・・ややこしい(^^;
7月22日 ・FORTUNE ARTERIAL sideshortstory 「夢の中で」 「おはよー」  一緒に登校してきた陽菜とへーじと一緒にクラスの部屋に挨拶しながら入る。  今日も平凡な1日の始まりだ。  そう思ってた・・・ 「支倉」  なんだか気むずかしそうな顔をした紅瀬が俺の前にあらわれた。  普段コミュニケーションをとろうとしない、というか俺に話しかけてくる事は  滅多にないだけに、何かありそうな予感はした、とりあえず・・・ 「・・・おはよう」  挨拶はしておいた。 「おはよう、挨拶は丁寧なのね」 「コミュニケーションの基本だからな」 「なら、そのコミュニケーションとやらをちゃんと守って欲しいわ」 「なんのことだ?」  言ってる意味がいまいちわからない。俺は紅瀬の次の言葉を待つ。  その待っている時間を最後に、平穏な1日は早くも終わりを告げた。 「毎晩毎晩私の中に入ってこないでくれる?」  一瞬にしてクラスが静まりかえる。  聞こえてくるのは窓の外の小鳥のさえずりのみ。 「・・・は?」 「貴方のおかげで睡眠不足になりがちなのよ。どうにかしてくれない?」 「何の話だ?」 「ふざけないで、毎晩毎晩私の中に入ってきておいて、その言いぐさは何?」 「・・・あ」  そういえば、前にもこんな話あったっけ。  なんでも俺が紅瀬の夢の中に現れるそうで、それをどうにかして欲しいと。  そのことなんだろうか? それを訪ねようとしたとき今更ながらクラスの  雰囲気がおかしいことに気づいた。 「孝平君・・・」 「孝平、おまえ毎晩何してるんだ?」 「誤解だって、おまえら何を想像してるんだ?」 「支倉、私との会話はまだ終わってないわ。さぁ、責任をとってちょうだい」 「紅瀬、おまえも誤解を招くような発言はやめろ」 「誤解? 何を言うのかしら? 事実しか言ってないわ。そして私が貴方の  所為で寝不足になり身体がだるいのも事実なの」 「孝平君・・・」 「孝平・・・」  まずい、この展開は非常にまずい・・・  何を誤解されてるかわからないが、このままでは監督生室への呼び出しの  前に生活指導の先生に捕まりかねない。 「紅瀬、とりあえずその話は昼休みにでもしないか?」 「今でも問題ないわ、貴方が責任とって私の中に入ってこないでくれれば  良いだけだもの」 「それは無理だろう、だって」  夢の中の話なのだから、そう続けるはずだったのだが・・・ 「こーへーっ!」  ばしっ! 「いたっ」 「こーへー、毎晩毎晩何をしてるんだって? もう、お姉ちゃん悲しいよ?」  何故かあらわれたかなでさん。 「か、かなでさん、誤解だって」 「そう言うことならお姉ちゃんにしてくれないと駄目じゃない!」 「お姉ちゃん!」 「寮長、俺の場合でもいいんですか!」 「へーじはだめ、こーへーとヒナちゃん限定だから」 「・・・孝平、おれはこの怒りを誰にぶつければいいんだ?」 「・・・またあなた達なのね」  クラスの入り口の扉には瑛里華が立っていた。  今の俺にはこの事態を収拾させてくれる女神に見える。 「はいはい、この件は生徒会が預かるからあまり騒がないでね。  もうすぐホームルームが始まるわ、クラスのみんなは準備して」  てきぱきと指示を出す瑛里華、さすがに副会長だけのことはある。  その姿を見ながら、とりあえず一難去ったようだ。 「ふぅ・・・助かった」 「でもないんだけどね、孝平。この件の関係者は放課後監督生室にくるように」 「・・・」  監督生室に行けば、間違いなく事態を面白い方へ持っていこうとする  会長がいることだろう。  一難去ってまた一難、そんなことわざが脳裏をよぎった。 「支倉、なんで私まで監督生室に行かなくちゃいけないのかしら?」  ・・・紅瀬がそれを言うか?  そう思ったが言い返す気力が俺には無かった。
7月18日 ・FORTUNE ARTERIAL sideshortstory 「12都市12少女‥‥」  夕食の時間。  寮の食堂でいつものようにかなでさんと陽菜、へーじの4人で食事をとる。  こういうときは寮ってのは楽だよな。  何もしなくても食事の準備はしてくれるし後かたづけも無い。  それに食卓が賑やかなのが良い。  今までは仕事が忙しくてなかなか両親そろっての食事というのが無く  それは仕方がない事とは言え、やっぱり寂しかったから。 「どうしたの? 孝平君」 「いや、なんでもないよ。味わって食べてただけだよ」 「そうだね、今日の肉じゃが美味しいよね」 「なんだこーへー、お袋の味が恋しいのか?」 「・・・まぁな」  本当は違う理由だが、あえてそれを言うことはないだろう。 「そっか、孝平君はこういう味付けが好みなのか」 「陽菜、何かいった?」 「えっ? ううん、なんでもないよなんでも」  そんな穏やかな夕食の時間・・・ 「ねーねー、こーへーはここに来るまで何回も引っ越ししたんだよね?」 「えぇ」 「引っ越したらどれくらいその場所に住んでたの?」 「長くても1年はいなかったと思います」 「それじゃぁ珠津島にいたときが一番長かったんだね」 「そうなるかな」  陽菜の問いかけに、頷く。  珠津大橋の建設が一番たいへんだったらしく、そのため珠津島にはかなり  ながい間住んでた。 「ねーねー、こーへー」 「何?」  穏やかな、何気ない平凡な夕食の時間。  それは、かなでさんの一言によってうち砕かれたのであった。 「引っ越し先の学校でガールフレンドっていた?」  俺は飲みかけのみそ汁を吹き出しそうになった。 「な、なにをいきなり?」 「だってさぁ、転校生って目立つじゃない。いろいろとあるじゃん?」  確かに転校生は目立つ。目立つが故にいじめの対象になることもある。  だから俺は極力目立たないようにしてきたし、表面的なつきあいは  するようにしていた。  だって、俺はどうせすぐにこの場所からいなくなるのだから・・・ 「ほら、転校してきた気になる男の子、ちょっとしたきっかけで女の子に  思いを寄せられる。そして女の子が告白するときは転校生はまた転校  していった・・・なんてどうなのよ?」 「・・・あるわけないじゃないですか、そんな小説みたいな話」 「本当?」 「陽菜?」 「え? えっと・・・その、私も興味あるかなぁって・・・」 「・・・はぁ」  やっぱりこの二人は姉妹なんだな・・・ 「でもさ、こーへーが気にしてないだけでさ、相手はどう思ってるか  わからないじゃない?」 「そう言われると俺はどうしようもないんだけど?」 「そして恋する女の子は転校生のいる場所を突き止めて訪ねてくるの」 「・・・かなでさん?」 「私のこと、覚えてる?」 「かなでさん?」 「それってすっごく、せつ・・・」  ぱしっ! 「えぅ」  小気味の良い音がかなでさんの頭から聞こえた。 「寮長さん? 少し静かにお食事できないのかしら?」 「瑛里華さん」  そこには畳んである扇子を持った瑛里華がいた。 「なんで瑛里華が扇子なんて持ってるんだ?」 「えぅ〜、扇子につっこむんじゃくて私をたたいた事を追求してよ〜」  頭を抑えてるかなでさんをとりあえず放っておく。 「なんとなく、よ。それよりあんまり騒ぐと他の生徒に迷惑よ?」 「ごめんなさい、瑛里華さん。お姉ちゃんにはきつく言っておきます」 「えぅ〜」 「それで、孝平」 「なんですか?」 「現地妻がいるって話、本当なの?」 「なんでそーなるんですかっ!」  ・・・翌朝。 「なんか昨日は妙に疲れた・・・」  結局はかなでさんが読んだ小説に影響されただけっていうことが  わかった。かなでさん、小説の話は小説の中だけにしてください・・・ 「よ、こーへー!」 「へーじ、おはよう」 「なぁ、こーへー。おまえトラックにひかれて死ぬのぐはっ!」 「黙れ」  とりあえず殴っておいた。 ---  えーっと、ネタに関しては危険なのでノーコメントで(^^;;;
7月11日 ・FORTUNE ARTERIAL sideshortstory 「黒いロングのワンピース」 「まったく、瑛里華のやつめ・・・」  監督生室で雑用を押しつけられたため、寮に帰るのがかなり遅くなって  しまった。 「夕ご飯、もうみんな食べ終わってるだろうなぁ・・・」  まずは部屋に戻って着替えないとな。  やっとたどり着いた寮の正面玄関から中に入る。  そのとき、談話室の方から異様な雰囲気が感じられた。  なんていうか、人の気配はたくさんするのにみんな息を殺しているというか  緊張感というか? 「・・・なんだ、この感じ」  そのとき、場が動いた。 「こーへー、お疲れさま〜!」  談話室の中から出てきたのはかなでさんだった。 「ただいま、かなでさ・・・」 「ん? だめだぞ、ちゃんと挨拶しないと?」  ・・・俺はよほど疲れてるらしい。  かなでさんの格好がどこからどうみてもメイドといえる格好に見える。 「あ、そうかそうか。こーへーも男の子だもんね。  ちゃんと私が出迎えてあげないと」  そう言うとかなでさんは姿勢を正して、満面の笑顔でこういった。 「おかえりなさいませ、ご主人様♪」  その瞬間、談話室で歓声があがった。 「もう、こーへーったら今日は積極的なんだから」 「すみません、手荒なまねをしてしまって」 「お姫様抱っこのこと?」  談話室が騒ぎ出した直後、俺はかなでさんを抱きかかえ一目散に自室へ避難した。  妙な噂がたつまえに事態を収拾させるために。 「かなでさん、率直に聞きます。なんでそんな格好をしてるんですか?」 「えー、なんでっていわれても、ただの部屋着なんだけど?」 「そんな部屋着あるんですか?」 「こーへー、決めつけるのはだめだよ? これは立派な部屋着なんだから」  そう言うとかなでさんはくるっとその場で一回転した。  ふわっと広がるスカートのすそに思わず目が行ってしまう。 「黒いワンピース、普通の部屋着だよね? エプロンはちょっと料理をしようと  おもってただけだから普通だし・・・もしかしてこーへー、変なこと考えてた?」 「かなでさん、さっきご主人様とか言いませんでした?」 「あ、それはこーへーが言って欲しそうだったから言ってみました〜」 「・・・確信犯ですか?」 「なんのことかな?」 「百歩譲って部屋着ということにして・・・  部屋着なら部屋にいるときだけにしてください」 「えー、いいじゃん。みんな部屋着で寮内を歩いてるよ?」 「・・・お願いします、かなでさん」 「こーへーがそこまで言うならお姉ちゃんとしても聞いてあげない訳には  いかないかな」  ふぅ・・・これで一安心かな。 「これからこの部屋着はこーへーの部屋に来るときだけ着るね♪」  ・・・  ・・・ 「もう、それでもいいからお願いします」  疲れて否定する気力も起きなかった・・・  そして翌日の放課後。  予想通りといえば予想通り、手伝いではなく呼び出しという形で監督生室に  俺とかなでさんは来ていた。  ・・・なんか以前にも同じシチュエーションがあった気がしないでもない。  中央に生徒会長、その横に呆れた顔をしている瑛里華。 「今日は東儀先輩いないんですね」 「ちょっと用事で出かけてるのよ」  瑛里華が俺の疑問に答えてくれた。 「さて・・・わざわざお越しいただいてすまないね、悠木かなで君。」 「いえいえ、私の方も用事があったので問題ありませんです」 「さて・・・あまり寮内での事に私たちが口だしするのはどうかと思うのだが  一応報告があったのでね。」  ・・・事態の収拾を図るためのかなでさんの秘匿が、俺が寮長にメイド姿に  して部屋に連れ込んだ、という話に展開していたらしい。  確かに、そう見られても仕方がない状況だけに、否定出来ない。 「別に何もしてませんよ、こーへーの部屋に部屋着で遊びに行っただけですから」 「不純異性交遊は無い、ということだね?」 「当たり前です!」  俺は即答した。 「そうだよ、だって不純じゃないもん、純粋だもん!」  ・・・かなでさん、それは逆効果では? 「そうか、なら問題は無いな」  問題ないのか? 「はい、問題ありませーん!」  ・・・  なんだろう、すごく疲れるのはどうしてだろう? 「そういえば、悠木君も用事があるそうだな」 「はい、会長。実は相談なのですが」 「何かな?」 「私、部屋着を注文するときサイズを間違えてしまったのです。  ヒナちゃんに着てもらおうかと思ったのだけど、ヒナちゃんはお気に入りの  部屋着があるからいいって遠慮するんですよ」 「それで?」 「サイズ的にもちょうどいいかな、って思うんですよ・・・瑛里華ちゃんに」 「はい?」  ここまで黙ってやりとりを見ていた瑛里華が驚いた声を上げた。 「普通の黒いワンピースなんですけどね、瑛里華ちゃんに似合いそうだよね?」 「・・そうだな、英国風だし寮の雰囲気にも合うだろう」  黒いワンピースって英国風なのか? 「と、いうわけで瑛里華ちゃんにプレゼント、絶対着てね!」 「な、なんで私が?」 「良いじゃないか、瑛里華。先輩からのプレゼントだ、大事に着てあげなさい」 「ちょっと、兄さん!」 「そうだな・・・ここでお茶を入れるときに良い作業着にもなりそうだな」 「だから、兄さん! 私の話を聞いてください!」 「お茶会なら私も呼んでね」 「お茶会なんて開きません!」 「そうだな、生徒会でのお茶会なんていいな。今度開いてみよう。  もちろん、瑛里華はその作業着を着てもらう」 「だからっ、みんな、私の話を聞きなさいっ!」  その後、監督生室でのお茶会の噂が広まり、一般生徒が参加させろと  暴動が起きた。  毎度のこととはいえ、この学院っていったい・・・ ---  狂想曲シリーズ? でした(^^;
7月9日 ・Canvas2 sideshortstory 「メイド服に着替えたら」  おかしい。  いつもなら俺が帰る時間まで学園に残っている朋子が今日に限って  先に帰るって言ってきた。 「帰りに晩ご飯の材料も買って帰るから、浩樹さんはそのまま帰ってきてね」  そういうといつもは部活の間俺の背中にひっついている朋子は早々  下校していった。 「何か企んでるんじゃないんだろうな?」  俺は帰り道にそう思っていた。 「とはいっても朋子だもんな、手の込んだ事は出来ないだろうし」  朋子はストレートに愛情を表現してきてくれる。  そしてストレートに愛情を欲しがる。それ故に変化球は使えない。 「・・・考えても仕方がないか。」  晩ご飯の材料は朋子が買って帰るといってたし、何か作ってくれている  ことだろう。帰ってからの仕事が一つ減るのは良いことだ。  ・・・ 「折角だからケーキでも買って帰るか」  自宅、マンションのオートロックを自分のキーであけていつものように  エレベーターで自室のある部屋までのぼる。  同じように自分のキーで玄関の扉を開ける。 「ただいま〜」  俺の声に、奥から朋子が来る。 「おかえりなさい、ご主人様。」 「・・・」  俺は思わず固まってしまった。 「お風呂にします? それともお食事? それとも、わ・た・し?」 「・・・」 「なんてね♪」  作:ブタベストさま  リビングで朋子と夕食をとる。  テーブルには朋子手作りの美味しそうな食事が並んでいる。 「はい、ご主人様」 「あ、あぁ。ありがと」  ほかほかのご飯をもった茶碗を手渡された。 「腕によりをかけて作りました、たくさん召し上がってくださいね、ご主人様」 「あぁ、いただきます」  ・・・  ・・・ 「って、おい。朋子、その格好と呼び方はなんなんだ?」  今の今まで流されてつっこむのを忘れてた。  決してこの状況を楽しんでた訳じゃないぞ?  ・・・ 「浩樹さんは私の主人なのですから、主人に仕えるにふさわしい格好を  しただけでございます、ご主人様」 「いや、だから、その・・・」  ・・・なんかちょっと良い気がしてきた。  って駄目駄目。そんな関係俺は望んでいない・・・とおもう。 「朋子、そのな、無理しなくていいんだぞ?」 「ご主人様は、お嫌いなのですか?」 「う゛・・・」  涙目で見上げるのは止めてくれ・・・ 「き、嫌いじゃないけど」 「なら良いじゃないですか、ご主人様♪」 「・・・」  根負けしそう。 「ふぅ・・・」  結局朋子に振り回されたまま、風呂にいれられた。 「後かたづけがありますから、先にお風呂に入ってください」  せめて片づけくらい手伝おうと思ってたのだが、それも許されなかった。 「何があったんだろう?」  そのとき脱衣所に人の気配を感じた。  って、今は朋子しかいないのだからそこにいるのは間違いなく朋子だろう。 「ご主人様、お湯加減はどうですか?」 「・・・」 「ご主人様?」 「あ、あぁ。良い」  なんとなく、展開が予想出来た。 「それではお背中をお流しします」 「おい、それはいろいろとまずいだろう?」  俺のあわてる声を無視するかのように、風呂場に朋子は入ってきた。 「・・・」 「ご主人様、お背中をお流ししますのでこちらへどうぞ」  ・・・  そこには学園指定の水着を着た朋子がいた。  ご丁寧にあのカチューシャだけはつけたままで・・・ 「つ・・・つかれた」  俺は風呂から上がったあと、ベットに倒れ込んでいた。  いつもと違う朋子の態度に妙に疲れていた。  ・・・  何て言うか、この後の展開が読めてきた気がする。  さすがに流されたままではまずい、ここいらで終わらせないと。  俺は朋子のいるリビングに行こうとベットから立ち上がって・・・  コンコン 「ご主人様、失礼致します」  メイド服に身を包んだ朋子が部屋に入ってきた。  ・・・出遅れた。 「明日の着替えをお持ちしました」 「朋子」 「何でございましょう? ご主人様」 「・・・」 「・・・」 「・・・」 「・・・」  無言でお互い見つめ合う。だんだん朋子の顔が赤くなってきた。 「も、もう、見つめてないで何かいったらどうなの?」 「ははっ、地がでたな、朋子」 「えっ?」 「もう終わりにしような、朋子」 「でも・・・」  俺は朋子の手を引き腕の中に抱き留めた。 「何があったかしらないけどな、俺はいつも通りの朋子の方が  可愛いと思うぞ」 「ちょっ・・・」  反論させないために口をふさぐ、もちろん、俺の唇で。 「・・・はぁ」  唇を話したとき、朋子は甘い吐息をはく。 「話してくれるかい? 朋子」 「・・・」  ようやくすると、クラスの男子生徒が持ってきた本に、男はこういう  シチュエーションが喜ばれる、と書かれてたらしい。 「だから、浩樹さんにも喜んでもらおうとおもって・・・」 「・・・」  その男子生徒をどう処分してやろうか・・・ 「朋子。俺はいつもの朋子が一番可愛いと思うし、一番好きだから」 「浩樹さん・・・」  朋子の方から唇を寄せてくる。  俺はそれを出迎える。 「・・・それじゃぁ、寝ようか?」 「うん」  ちょっと早い時間だけど、疲れてるせいか眠りに落ちるのは早そうだ。 「お休み、朋子」 「お休みなさい、浩樹さん」  翌朝の食卓。 「そういえば、朋子。そのメイド服だけど・・・」 「どこで売ってるかわかんなかったし、売ってても買えないと思ったから  竹内先輩から借りてきました」  後で竹内に何言われるか、想像したくない・・・ 「ところで浩樹さん、普段の私が可愛いって言ってくれたけどメイド服の  私は可愛くなかった?」 「そんなことはないさ、可愛くてたいへんだったんだぞ?」 「たいへんって?」 「まぁ、その・・・いろいろ抑えるの」 「・・・浩樹さんってそう言う趣味あったのね」 「いや、決してそんなことは無い! ・・・と思う」 「うん、いいの。喜んでくれるならまた着てあげるね、ご主人様♪」
7月8日 ・夜明け前より瑠璃色な sideshortstory 「七夕」  学園が休みの土曜日の朝、リビングに入った俺は、窓側で  何かをしている麻衣をみつけた。 「おはよう、麻衣。何してるんだ?」 「お兄ちゃんおはよー、これは笹だよ」 「笹?」 「今日は七夕だから飾ってるの」  そういえば、今日は七夕か。 「お兄ちゃんも短冊、書こうよ!」 「んー、俺は特に願い事なんてないからな」 「そんなこと言わないで、ね!」  麻衣に短冊とペンをわたされた。  願うこと・・・  ・・・ 「お兄ちゃん、何をお願いするの?」  俺は短冊を麻衣に見せた。 「わ・・・家内安全健康第一って」 「最初に思いついたのがそれだったんだよ」 「お兄ちゃんらしいって言えばらしいね」  本当は最初に思ったのは、あの少女の事だった。  責務を受け入れ、今も世界のどこかを、月のどこかを見守っている  あの少女、リースの事を・・・  家内安全、健康第一。  俺達の家族の事を、麻衣や姉さん、そしてリース。  家族全員の安全と健康をお願いする、俺にはそれしか思い浮かばなかっただけだ。  俺は笹に短冊をつるした。  横で麻衣も短冊をつるしていた。 「でも、この天気じゃお願い事は届かないかもな」 「うん、夜は雨が降るみたいだから、彦星と織姫は会えないかも」 「・・・そうだ、麻衣。短冊もう一つもらって良いか?」 「うん、いいよ」  俺は麻衣からもらった短冊に願い事を書いた。  1年に1回だけ会える約束を雨でつぶされるのは悲しいから。  だから短冊に書いた願い事。 「彦星と織姫が今夜絶対会えますように」 「お兄ちゃん・・・ロマンティストだね」 「うるさい」 「ふふっ、それじゃぁ私は今夜晴れますようにってお願い事するね」  短冊に願いを書いたけど、現実はそうはいかないだろう。  でも・・・こういう時くらいはいいよな。  その夜、テレビのニュースは大騒ぎになっていた。  梅雨前線が活発になっていて間違いなく雨が降ると予想されてた予報が  日本近辺だけすべてはずれたからだ。  突然日本上空より、雨雲が消えたからだ。  気象学からみても明らかに異常な状況はテレビのニュースやワイドショウを  騒がしていた。  そんな騒ぎとは無縁の俺は、麻衣と姉さんと縁側に出て星空を眺めていた。 「不思議なこともあるのね」 「そうだね、でも良かったんじゃない? 彦星と織姫が会えたんだから」 「そうだな」  雨雲が消えた理由はわからない。でも1年に1回しか会えない恋人達の  逢瀬が叶ったのだから、良かったと思う。 「1年に1回か・・・」 「お兄ちゃん、どうしたの?」 「いや、なんでもない」  1年に1回会える約束の日が雨で無くなるのってどんな気持ちに  なるのだろう?  ・・・それでも来年の同じ日にまた会えるのだから良いのだろうか?  俺は次にいつ会えるかわからない、もしかするともう会えないかも  しれない少女の顔を思い浮かべていた・・・
7月4日 ・遥かに仰ぎ、麗しの sideshortstory「家族」 「温泉?」  午後の理事長室、いつものように仕事をこなしていると司が突然  まるで世間話をするように話してきた。 「えぇ、たぶん温泉です」 「温泉って、あの温泉か?」 「えぇ、理事長の想像の通りだと思います。」 「ほぉ・・・」  こんな半島でも温泉が湧き出るものなんだなぁ・・・ 「すぐにリーダさん達に協力してもらい現地を立入禁止にしてもらいました。」 「なんで規制する必要あるんだ?」  ふぅ、と司が息を大きく吐き出した。  む・・・なんかむかつく。 「お嬢様、温泉はお湯だけが出てくる物じゃありません。危険なガスも  噴出している可能性もあるからです」 「そ、そうか、ご苦労だったな」 「いえ」 「で、理事長。今後どうします?」 「どうするって?」 「あのですね、理事長。僕の話聞いてました? 話の流れから行くと  この温泉をどうするか、という事ですよ?」 「わ、わかってるって」 「・・・まぁ、とりあえずどうするかですよ」 「むぅ・・・」  何か言いたそうな司の顔。というか、何か馬鹿にされてる気がする。 「その温泉の安全性と、湧出量があるのなら、利用すれば良いと思うけど、  司はどう思う?」 「それで良いと思いますよ、理事長。学生達が利用するかどうかはわかりませんが  教職員や警備員は絶対使いますから」 「そうだなぁ、労働条件を良くするのも雇用者としての勤めだからな」 「そう言われると思いまして、調査員の派遣の方は私の方で手配しておきました。」 「そうか、リーダ。ありがとう」 「いえ」 「ではこの件は安全確認の調査待ち、ということで理事会の方はお任せしますね」 「あぁ、任せておけ。」 「そういえば、誰が温泉を発見したんだ?」 「あぁ、殿子と八乙女のコンビですよ。その後は相沢が騒ぎ立てて・・・」 「いつものパターンか」  その光景を思い浮かべて、なんだかおかしくなった。  下手したら相沢なんてその場で温泉に入ろうとしたのかもしれない。  翌日、凰華ジャーナルで温泉発見の記事が掲載されていた。  まだ水たまり程度のお湯に相沢が無理矢理入ろうとして上原に止められた  事が発覚した。 「・・・わかりやすい奴らだな」  その後調査でガスの危険性は無し、湧出量も問題無いと言うことがわかった。 「源泉から温泉を寮に引くのはどうでしょう?」 「だめだな、寮にそう言う設備が無い。改めて各部屋に上水道を設置するのは  難しいというか、無理だな」 「寮の使われてない部屋を改装して大浴場を作るのは?」 「あいてる部屋は無いわけではないが・・・」 「お嬢様、いっそのこと源泉付近に入浴施設を建てた方が早いのでは?」  「そうだな、その方が手っ取り早いか。」 「・・・」 「ん? 司、どうした?」 「・・・いえ、慣れたつもりだったんですけど僕はまだ庶民だったことを  改めて自覚しただけです」 「何を言ってるんだ、私の秘書なんだから庶民な訳ないだろう?」 「・・・はぁ」  それから一月後。  源泉付近に3つの建物が新築された。  源泉は小さな山の中腹付近にあり、遊歩道も整備された。  3つの施設の内訳は、寮から一番近い所に教職員警備員兼用男湯。  そこから少し登った所に、女湯。この施設が一番大きく中で完全に二つに  分かれており、学院生用と教職員関係者用女湯となった。  そして、最初からルートをはずれた先に簡単な宿泊施施設と共に  離れとしてたてられた来賓者用。  来賓者用施設は学院の許可があれば貸し切りで使えるようにもした。  温泉施設が使えるようになった日、男湯も女湯も盛況だったそうだ。  学院生も喜んではいりにいっていたそうだ。  そして・・・ 「みやび、なんで僕はここにいるんだい?」 「何言ってるんだ? 司。家族風呂に家族で入るのに何か問題あるのか?」 「まぁ・・・確かに。でもなぁ・・・」  第3の温泉施設、来賓用ということになってはいるがこの学院に泊まりがけで  来る来賓者はほとんどいない。  学院の許可さえあれば学院生も使えるこの施設は、理事長特権で最初に  私たち家族が使えるように手配したのだ。  そして今私たちは温泉につかっている。  私は司の左側の腕に抱かれている、反対側はもちろんリーダだ。 「リーダ、気持ちよいなぁ」 「は・・・はい、気持ちようございます・・・」 「・・・」 「司? どうした?」 「い、いや・・・気持ちよいんだけどな・・・その・・・」  ずっと天井の方を向いている司の顔はのぼせてるみたいに赤くなっていた。 「もうのぼせたのか? ひ弱だなぁ」 「まぁ、そういうことにしておいてくれ」 「?」 「司、リーダ。背中の流しっこしよ!」  私は司の腕から抜け出して洗い場へ行く。  リーダは浴槽の近くにあるタオルを纏ってから洗い場に来る。 「司、早くこっちに」 「いや、その・・・」 「司、背中を流してもらうの嫌いなのか?」 「そんなわけない、ただ・・・」 「あー、もうとやかく言うな、こっちにこいっ!」  私は腕を引っぱって無理矢理浴槽から司を引き出す。 「あ・・・」 「・・・」 「・・・」 「・・・司、その・・・節操無し?」 「う、うるさい。こんな状況に追い込まれて抑えられると思ってるのか?」 「あのなぁ、司。抑える必要なんてないんだぞ。私たちはいつだって  いいんだぞ。なぁ、リーダ」 「はい、私たちはマイロードのものですから」  ・  ・  ・  来賓用温泉に併設されてる宿泊施設。  施設とはいってもベットがある部屋があるだけの、寮とそうかわらない  部屋のベットの上に3人で横になっていた。 「司・・・一つ訂正。司はひ弱じゃなかった・・・」 「マイロード、今日は、その・・・」 「・・・ちょっと抑えきかなくて、その・・・」 「でも気持ちよかったな、リーダ」 「はい」 「・・・全く、君たちには敵わないよ」  そんなことはない、私たちこそ司には敵わないんだぞ? 「ふぁ」  さすがに疲れたようだ。 「みやびはお眠のようだし、そろそろ寝ようか?」 「はい、マイロード」 「・・・リーダ、どこいくの?」 「私は隣の部屋で休ませていただこうかと」 「なんで? 家族なんだし一緒にねよ?」 「しかし、このベットでは狭くて3人はさすがに・・・」  私の自室にある大きなベットならともかく、普通サイズではさすがに  3人一緒は無理か。でも 「大丈夫だ、こうして・・・」  私は司の腕のしたに抱きつく。 「こうしてリーダも抱きつけば3人で寝れるよ」 「あ、でも・・・」 「司もそう思うだろう?」 「そうだな、みやび。リーダさん、良ければ同じベットで寝ましょう」 「マイロードがそう仰るのなら・・・その、失礼します」  司とリーダと、一緒のベット。  いつもより狭いけど、たまにはこういうのも良いな・・・  司に抱きついていると、とても暖かい・・・  だんだん意識が落ちていくのがわかる。 「司、おやすみのキス・・・」 「わかってるよ、みやび」  触れるだけのキス。 「ちゃんとリーダにもおやすみのキスしないとだめだぞ?」 「お嬢様っ!」  リーダが驚く声を聞きながら私は眠りに落ちていった。  お休み、司、リーダ。
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