フィーナ誕生日記念SS 瑠璃色の夜
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 朝目覚めたとき、サイドテーブルに一通の手紙がおかれていた。
 昨日の夜ベットにはいるときにはなかったはずだ。
「ミアの仕業かしらね」
 私はその手紙の封をあける。
 そこには私の予想した筆跡で書かれたカードが入っていた。

 Happy Birthday Dear Feena
                                 Tatsuya

 あわてて書いたようなバースデーカード。
「ちょっとシンプルすぎるわよ? それと、格好つけすぎ。」
 私はカードを胸に抱いて、そっと目を閉じる。
 カードに込められた達哉の思いが私の胸の中に浸透してくるような、
 暖かさを感じる。
 今日は私の誕生日。今年もこうして達哉がお祝いしてくれる。
 そのことがとても嬉しかった。

フィーナ誕生日記念SS
想いの形
「姫様、お疲れさまです。お飲物をどうぞ」 「ありがとう、ミア」  ミアから冷たい飲み物が入ったコップを受け取る。  毎年誕生日に行われる行事。  王宮のテラスに出て、お祝いにかけつけてくれた国民への挨拶。  その合間を縫っての、貴族達からのお祝いの言葉を受けて、そして  月に新設された、地球の連合政府の大使館の高官達との面会。  面会と、挨拶との繰り返しだった。  月の姫としての形式的な面会の繰り返しはいつもの事ながら、ただ  疲れるだけだった。それでもお祝いに来てくれるのだから嫌な顔は出来ない。  表情に気をつけているつもりだったのだけど、今日はうまくいっていない。  悪い方にうまくいってないわけじゃない。  時折、ふっと気が抜けるように、微笑んでしまう。  そのとき相手は決まって、絶句してしまう。  そして直後に何事もなかったように、会談は続けられる。 「ふふふっ、姫様。ご機嫌ですね」 「ミアにはそう見えるのかしら?」 「えぇ、今日の会談の後皆様が口々に何て言われてるかご存じですか?」  私の失敗のことだろうか? 「何度もお会いしてるのに、姫様に見とれてしまったそうですよ」 「冗談でしょう?」 「いえ、他のメイドから聞いた話ですけど、姫様が時折見せるお顔に見とれて  声が出なかったそうです」 「そう・・・」  私の気が抜けた表情が、見とれる物なのだろうか?  そんなことよりも、そういう表情をさせた達哉のことがずっと気になっていた。 「ねぇ、ミア。大使館員との面会の予定はどうなってるのかしら?」 「はい。夜のパーティーまでの間に何度かありますが・・・」 「達哉は?」 「申し訳ございません、達哉さん個人での面会のスケジュールは・・・」 「いいのよ、ミア。まだ難しいですものね」   月に新設された連邦政府の大使館。  達哉はカテリナ学院の月学部を主席で卒業したあと、大使館員として就職し  今は月大使館と満弦ヶ崎の大使館を言ったり来たりしている。  大学卒業で大使館員とは、異例の抜擢だ。  私の婚約者という立場に箔をつけるというと嫌な言い方だけど、それも仕方が  無いことだった。  達哉自信もそう思ってるようで、人一倍努力し働いている。  その働きは月でも連邦政府の大使館でも認められつつあるが、  まだ一介の職員である以上、こういう公の会談はまだもてる物ではなかった。  それでも。  同じ月にいて、私の事を思ってくれてるだけで、私はがんばれた。 「今日くらいはゆっくり会いたいわ」 「姫様、何か仰いましたか?」 「いえ、なんでもないわ」  夕方から始まったホールでのパーティー。  たくさんの食事が並ぶホールでのパーティーだけど、やはりいつものように  私への挨拶をしようとする出席者に囲まれて身動きがとれない。  ・・・このどさくさにまぎれて来てくれたっていいんじゃないの?、達哉。  心の中でそっとつぶやく。  もちろん、この会場に達哉がいないことは知っている。  それでもそう思ってしまう。  夜も更ける時間になってやっとすべてのスケジュールを消化した。  私はいつものようにミアと一緒に自室へ向かう。 「・・・」 「姫様?」 「なんでもないわ」  そういえば、以前の誕生日の時は部屋に達哉がいたのだっけ。  みんなのお祝いを持ってきてくれて・・・ 「姫様、ご不満でもあるのですか?」 「何も不満など無いわ、達哉からのバースデーカードも届いているのだし」 「くすっ」 「ミア?」 「いえ、姫様はやっぱり達哉さんからのプレゼントが一番嬉しいのですね」 「当たり前じゃない」  私は自信を持って答える。 「今年は達哉さんは、何をしてくださるのでしょうね?」 「・・・ミア?」  以前にもあったこの展開は・・・ 「ねぇ、ミア。何か隠し事・・・」 「姫様、お着きになりました!」  私の言葉を遮るようにミアは私の部屋の前に立つ。 「そ、それでは扉をあけますね」  慌てるようなミアの素振りに私は確信した。  私はミアが扉を開けるよりも先に、自分で扉を開けて、部屋の中に飛び込んだ。  ・・・部屋の中はいつもと変わらず、誰もいなかった。 「・・・期待しすぎると落胆って大きいわね」 「姫様? あれれ?」  後ろから入ってくるミアは部屋の中を見て驚いてた。 「どうしたの? ミア」 「あわわ、達哉さん準備間に合わなかったのでしょうか?」 「準備?」 「え?」  ミアはあわてて口を両手でふさぐ。 「ミア、どういうことなの?」 「どうしたんだ? ミア」  隣室に続くドアが開いて、そこから私が一番聞きたい声が聞こえてきた。  私は声のする方に駆けだした。 「達哉っ!」 「え? フィーナ? もうそんな時間なのか?」  扉から出てきた達哉を見て、私は足が止まった。 「・・・達哉? なんでエプロンしているのかしら?」 「どうかな、フィーナ」 「美味しいわ、達哉」  テーブルについた私とミアと、ひょっこり現れたリースと4人での  静かな誕生会、その机の上に並んだ食事は、達哉の手作りだった。 「そう言ってもらえると作った甲斐があったよ」  嬉しそうに笑う達哉。  達哉が用意してくれた食事は、確かに左門さんや宮廷の料理人が作るものより  味は落ちるかもしれない。  でも、私にはとっても美味しく感じる、いえ、美味しかった。 「達哉さん、腕が上がりましたね」 「でも、まだまだ」  ミアの声にリースが釘をさすように合いの手を入れる。 「おやっさんと比べられればまだまだだよな」 「左門の料理は悪くない。達哉のはまだまだ、でも・・・悪くはない」 「そうか、ありがとうな、リース。」 「達哉が料理をしてるなんて、私知らなかったわ」  大使館の仕事が忙しい達哉が料理を習う時間なんてほとんどとれないはず。  そのことを離すと達哉は笑いながら、「だからだよ」といった。 「こっちに来てる間や、地球でも忙しいと家に帰れないだろう?  一人だからこそちゃんと作らないと、栄養バランス偏っちゃうから」  言われてみればそうだった。  どんなに忙しくても私にはミア達がいてくれるけど、達哉にはそういう  人たちは実家にしかいない。 「大変なのね」 「そうでもないさ、こうしてフィーナに手料理を振る舞えたのだから」 「達哉ったら・・・格好つけすぎよ」 「そうかな?」 「・・・暑い」 「り、リースさん」 「・・・」 「・・・」  リースの一言で、この場に二人がいることを思い出した私たちは、二人  そろって真っ赤になっていた。 「あ、暑いならデザートをだそうか」 「あら、まだ何かあるのかしら?」 「あぁ、さすがにデザートは俺の自作じゃないんだけどな」  そう言うと隣の部屋の冷蔵庫にデザートをとりに行った達哉が持ってきたのは  小さなカップだった。 「それは?」 「この前もらった、おやっさん特製のシャーベット、それも桃だよ」 「まぁ」 「桃ですか?」 「・・・食べる」  桃のシャーベットは火照った体にとても気持ちが良く、美味しかった。 「・・・帰る」 「いろいろとありがとな、リース」 「私は何もしてない」 「気をつけて帰ってね」 「・・・また」 「それでは私もおいとま致しますね。」 「ご苦労様、ミア」  二人が帰っていき、部屋には私と達哉だけが残った。  食事の後かたづけも終わり、二人だけの世界。  申し合わせたように、私は達哉の胸の中に抱き留められる。 「フィーナ、改めて誕生日おめでとう」  唇に触れるだけのキスと一緒に贈られる言葉。 「ありがとう、達哉。プレゼントの続き・・・ん」  ベットの中で二人で過ごす誕生日は、もうすぐ終わりを告げようとしていた。 「俺さ、今年のプレゼントは迷ったんだ。」 「迷う?」 「あぁ、フィーナに喜んでもらうにはどうすればいいかなって」 「私は達哉がいてくれるだけで嬉しいわ」  それは私の本当の気持ち。 「でも、それだけじゃ俺の気持ちが収まらなくてさ・・・  少し前から料理の練習してたんだ。ミアにも教わりながら」 「大変じゃなかった?」 「大変だったさ、でも今日のフィーナの顔を見れたから問題無いさ」 「達哉ったら・・・やっぱり格好つけすぎよ」 「そうかい?」 「えぇ、そんなに格好良いとますます惚れちゃうわ」 「それを言うなら、フィーナは可愛いすぎるな」 「あら、綺麗すぎる、じゃないの?」 「姫としてのフィーナは綺麗だけど、俺の腕の中にいる女の子のフィーナは  とても可愛いすぎるよ」 「・・・もう、そんなこと言われると離れられなくなっちゃうわ」 「俺はとっくに離れられないさ」 「・・・私もよ、達哉」  どちらかともなく、私たちは唇を重ねた・・・ 「そうだわ、来年の誕生日プレゼントは達哉の愛が欲しいわ」  翌朝、私は思いついたことを達哉に話してみた。 「うーん・・・それは難しいな」 「なんで?」 「だってさ、俺の愛は元からフィーナのものだから」 「達哉ったら・・・」 「でも、将来結婚したあとなら、出来るかもしれないな」 「?」  結婚した後? 「愛じゃなくて、愛の結晶を、ね」  ・・・やっぱり達哉は格好つけすぎだと思う。
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