思いつきSSログ保管庫
*このページに直接来られた方へ、TOPページはこちらです。

雑記掲載SS保管庫 2006年下半期 12月8日 Canvas2 クリスマスストーリー 12月6日 SHUFFLE! sideshortstory キキョウ 11月12日 SHUFFLE! sideshortstory セージ 11月6日 Canvas2 竹内麻巳 10月23日 Canvas2 竹内麻巳 9月29日 夜明け前より瑠璃色な フィーナ誕生日記念瑠璃色の夜 8月9日 夜明け前より瑠璃色な フィーナ 8月7日 夜明け前より瑠璃色な フィーナ 8月3日 夜明け前より瑠璃色な 麻衣誕生日記念Happy Happening Birthday 7月19日 夜明け前より瑠璃色な 神舞姫たち 7月13日 夜明け前より瑠璃色な 誕生日麻衣SS 7月12日 夜明け前より瑠璃色な 誕生日麻衣SS 7月11日 D.C.II 朝倉由夢 7月10日 夜明け前より瑠璃色な 誕生日麻衣SS
12月8日 ・Canvas2 sideshortstory 「部長の誕生日のお祝いとクリスマスパーティーをするの。  お兄ちゃんもちゃんと来てね。」  撫子のクリスマスパーティーの後に竹内の実家の喫茶店で誕生会を行う。  夕方から行われるので、帰りが遅くなるのが心配。  監督者が必要。  という流れで俺までかり出されることになった。  まぁどうせ家にいても何かがあるわけじゃないし、教え子の誕生日を  祝うのも悪くない。  誕生会の会場の片隅でそっとシャンパン片手に優しく教え子達を  見守るだけだろう。  そう、思っていた俺が・・・ 「浩樹ぃ、飲んでる?」  すでに顔を真っ赤にして酔っぱらっている霧。  ・・・考え甘かった。 「って、なんでシャンパンにアルコールが入ってるんだ?」 「えーっ、シャンパンはアルコールが入ってるの当たり前じゃない。  せんせー、もうぼけてるの?」 「・・・アルコールは大人になってからだぞ? 萩野」  メンバーの中で一番年上のはずなのだが絶対そう見えない。 「あ、せんせー。今しつれーなこと思わなかった?」 「思ってないぞ、本心だからな」 「むー」  俺は改めて店の中を見渡す。  料理を一番たいらげ、一番飲んでる霧。 「・・・って、霧。おまえも監督役だろうに。」 「いいじゃない、無礼講よ!」  霧さん・・・あなたはいつも無礼講です。  エリスは藤波と仲良く話し込んで・・・ 「でねー、お兄ちゃんって恥ずかしいんだよ? もう私のこと  愛してるって、きゃっ!」 「・・・さいてー」  ・・・何が最低なんですか? 「そういえば、今日の主役は・・・って」  少し離れた席に竹内と美咲が顔を向かい合わせて座ってる。  なんか静かな雰囲気、それだけ見れば大人の女性が飲みながら  語り合ってるような、そういう・・・ 「いや、それはやばいだろ」  飲みながら語り合うという所はまだあの二人には早すぎる。  あまり飲まないように注意しておいた方がいいだろう。 「それで、先生はもう、どうしようもないんですっ!  部活には来てくれないしちゃらんぽらんだし、不良だしっ!」 「竹内さんも大変ですね。上倉先生はもう少しまじめになるべきです」  ・・・近づかない方が身のためかも。  それに、注意するには遅すぎたか・・・  そしてそのグループに飛び込んでは引っかき回す萩野の手には  常になみなみと注がれてるシャンパンがある。  こういうとき常識人って損なんだよなぁ・・・ 「お兄ちゃん、飲んでる?」 「エリス、その問いかけは何か違うだろう?」 「いいの、特別な日なんだからっ! というわけで、はい」  エリスはクリスマスツリーの飾りを俺の手に持たせてきた。 「・・・クリスマスツリーのリース?」 「ぶっぶー、はずれー。これはやどりぎって言うの。」 「やどりぎ?」 「この前は失敗したけど、簡単な事だったの。やどりぎをお兄ちゃんが  持てば良かったの」 「・・・?」 「上倉先生、ご存じですか? クリスマスの日にやどりぎの下にいる  人にはキスしてもいいっていう話」 「そんな話しるか」  藤波の淡々とした説明に返事しつつも・・・ 「おにーちゃーんっ!」 「はっ」  飛びついてきたエリスをすんでのところでかわす。 「ひっどーい、キスするだけなのにー」 「そう簡単におまえらの策略にのると思うなよ?」  カチャッ  エリスをかわした直後、何かの音が聞こえた。  それは、鍵をかけるような音。  ・・・鍵をかける?  俺は店の扉の方をみた。 「萩野・・・何をした?」 「鍵をかけたんだよ? せんせー」 「なぜ?」 「もっちろん、逃げられないように決まってるじゃないっ!」  そういうことか、なら俺は 「ふんっ!」  思い切ってやどりぎを遠くに向かって投げた。 「あーー」 「これで俺はやどりぎの下にはいなくなったぞ?」  これで一安心だな。 「先生?」 「なんだ?」 「先生は、私の家の喫茶店の名前覚えてますか?」 「あぁ、もちろんだ。常連だからな」 「じゃぁ、名前を言ってください」 「喫茶店やどり・・・」  ・・・  ・・・ 「先生は最初から、やどりぎの下にいたんですよ?」 「・・・」  にこにこ笑う竹内。 「しまったぁ!」 「せんせー、ちゅーしよっ!」 「あー、だめです、萩野先輩」  そうだ、駄目だぞ? 「私が先だもん!!」  ・・・エリスさん、違うと思います。 「さいてー」  藤波、カクテルを飲みながらさめた目で見ないでくれ。 「このシスコンロリコン天然ジゴロ」  ・・・またいっぺんに言われた。 「据え膳食わねばなんとやら、ですよ? 先生」 「竹内・・・おまえだけが最後の砦だとおもったのだが」 「安心してください、私も参加しますから♪」 「安心できるかっ!!」  こうして楽しいクリスマスパーティーの夜は更けていった・・・ 「わけあるかっ!」  そのまま店でみんな酔いつぶれて。  翌朝ちょっと気まずい雰囲気と、何故かみんな顔を赤くしていた。  俺はというと・・・何があったかは証言拒否させてください・・・ 「もう、このメンバーでクリスマスパーティーには参加しないぞ・・・」 ---  ちょっと早いクリスマスSSでした。  本来クリスマスの時に公開すべきでしたが、そのころ非常に多忙ですし  思いついたら書くのが早坂なので(^^;  一応、クリスマスSS&麻巳誕生日SSです。
12月6日 ・SHUFFLE! sideshortstory 「・・・」  ・・・なんとなく目が覚めた。  枕元の目覚まし時計を手に取ってみる。  時計の針は10時をすぎている、明らかに寝過ごした時間だ。  いくら休みとはいえ、楓が朝ご飯に呼びにくるには遅すぎる時間。 「楓は・・・そうだったな」  昨日おじさんの会社の人から連絡があった、なんでも出張先で  おじさんが熱をだしたそうだ。  連絡はしなくてもいいと、おじさんは言い張ったそうだが、長期出張で  愛娘と全く会えない親馬鹿を心配した部下が連絡をくれたわけで。 「それじゃぁ行って来ますね、稟くん」 「行って来ます」  楓は様子を見にプリムラと一緒に出かけたのは昨日の午後。  「・・・静かだ」  静かな芙蓉家は否応なしにあの時期を思い出させる。  ・・・あれは過去の話だ。 「とりあえず起きるか」  身体をおこし、起きあがろうとしたとき 「っ!」  突然頭痛が走った。思わず額を押さえるほどの鈍い痛み。  それと同時に緊張が走る。  過去の経験から朝の始まりに起きる頭痛はたいてい、神王か魔王のおじさん  絡みの何かがあったからだ・・・けど 「それはありえない、か」  そう、今神王家と魔王家は誰もいない。  公式行事の関係でそれぞれ里帰りしている。  だから何かがおこるわけはない・・・と思う。 「・・・」  少しすると頭痛は収まった。 「まぁ、なんでもないだろう」  シャワーを浴びればすっきりするだろう。  シャワーを浴びたあと、リビングに顔をだす。  朝ご飯を食べようと来てみたのだが、当たり前だがそこにご飯の用意は  されてない。  俺は冷蔵庫を開けてみる。そこにはいろんな食材が保存されているが・・・ 「料理の必要性はあり、か」  俺には家事の能力は全くない。料理しないと食べれない物は無い物と同じだ。 「・・・コンビニ行くか」  手早く着替えて外に出る。空が暗い。 「雨降らないといいのだけどな」 「はぁ・・・やっとついた・・・」  呼吸が荒い、ずっと走っていた身体は異常なほど熱くなっている。  コンビニで弁当と牛乳を買った後までは良かった。  そこで親衛隊に捕まり、いつもの逃走劇。  走り回ってるうちに雨まで降ってくる始末。 「はぁ・・・はぁ・・・」  熱い・・・身体が熱い。  手提げ袋から牛乳パックを取り出し、コップに空けるまもなく一気に飲み干す。 「・・・ふぅ」  落ち着いてきた、と思うまもなくあの鈍い頭痛がおそってきた。  少し熱っぽいような気がする。 「まずは・・・着替えないとな」  思い足を引きずるように自分の部屋へ行く。  部屋に入り、上着を脱いだところで酷い目眩におそわれた。 「くっ!」  倒れそうになる身体をかろうじてベットの前へ向ける。  そしてそのままベットの上に倒れ込む。 「俺って我慢強い方だったはずだが・・・な・・・」  頭の中が回っているような感覚に襲われつつ、そっと意識は闇に沈んでいく・・・  稟っ! 稟っ!!   だ・・れ・・だ?  稟っ! 起きてよっ! 稟っ!!   ・・・起きる? 俺・・・が?  こうなったら神界へ運んで治療術師の元で・・・   ・・・なんか物騒な話になってきてるような気がする。  よくわからないが、そっと目を開けると、そこには涙を流している少女の  顔があった。誰がこの少女を泣かしているのだろう? 「稟っ! 気がついたの?」  涙を流している少女の顔をはっきり認識したとき、俺は少女を抱きとめた。 「えっ?」 「だいじょうぶ・・・泣かなくても大丈夫」 「・・・うん」  俺はそっと髪をなでた。 「・・・じゃなーいっ!!」  突然少女が起きあがる。 「この、馬鹿稟っ! 何やってるのよ!!」 「頭に響く・・少し静かにしてくれ」 「あっ、ごめん。だいじょうぶ?」 「キキョウが静かにしてくれればだいじょうぶだ」 「ごめんね、稟」 「・・・」 「・・・稟?」 「・・・キキョウ?」 「なに?」 「なんでいるんだ?」 「・・・」 「・・・」  キキョウはあきれた顔をしていた。 「今まで私がいたことに違和感無かった訳ね」 「あぁ、気づかなかった」 「・・・って、それどころじゃないっ!」 「だから静かに」  俺は頭を押さえながらそう頼んだ。 「稟っ、あなたは何してるの!」 「何って、一人きりの休みを満喫・・・っ!」  また襲ってきた頭痛に顔をしかめる。 「だから、何で濡れてる服着たままベットで倒れてるのよ?」  瞳に涙を浮かべながら問いつめてくる。  どんな理由があっても、こんな顔をさせちゃだめだ。 「ごめん、今理由を話すから落ち着けよ、キキョウ」  そういってキキョウの頭をなでる。 「・・ん」  すねたような顔をしたキキョウだったが、頭をなで始めて少しすると  落ち着いてきた。 「だいたい理由はわかったわ。相変わらずなのね」 「あぁ」  俺はベットの中で横になったまま、事情をはなした。 「それで調子の悪かった風邪が一気にでてきた、と」 「たぶん、それであってる」 「まったく・・・稟ったらもう少し体調管理しっかりしないと」 「返す言葉がございません」  いつも楓に頼りっぱなしで、楓が1日いないだけでこうなるとは・・・ 「それよりも、キキョウ。なんでここに?」 「え?」  俺の質問に意表をつかれたような顔をしたキキョウ。  どんどん顔が赤くなっていく。 「た、たまたまよ!」 「たまたまって・・・シアと一緒に神界にいたんじゃないのか?」 「公式行事は神王とシアがいれば問題ないの。それに・・・」  キキョウは言葉を一度きった。 「なんか胸騒ぎがしたのよ、理由も原因もわからない、胸騒ぎ。  普段だったら気にしないんだけど・・・よくわからないけど  気づいたら私はここに来てただけ」 「そっか・・・理由はよくわからないけどありがとうな、キキョウ」 「べ、別に稟のためだけじゃないのよ? 胸騒ぎがしただけだから」 「それでも、いまここにいてくれることは嬉しいからさ、ありがとな」 「う・・・うぅ」  抱きしめたいくらいちっちゃくなって真っ赤になってるキキョウ。 「ちょっと気が抜けたら眠くなってきた、少し寝てもいいか?」 「何言ってるのよ、病人なんだからおとなしく寝てなさい!  目が覚めるまで・・・ここにいてあげるから!」 「あぁ、ありがとう。ぐっすり眠れそうだ」  俺の意識はそっと闇に落ちていく。  でも、さっきとは違う、暖かい闇の中に。そう、誰かに守られている  そんな暖かさの中にそっと落ちていく。 「おやすみ、稟。」  最後に聞こえたキキョウの優しい声と、唇に感じる優しい柔らかさを  抱きながら、俺の意識は眠りについた。  なんだろう?  周りに懐かしい暖かさを感じる。  ずっと見守ってくれる、この暖かさは・・・ 「・・・母さん」 「稟くん・・・だいじょうぶですか?」  目を開けた視界にはここにはいるはずのない、愛しい少女達の姿があった。 「楓? ネリネに、シア? プリムラも?」 「ボクもいるよ!」  扉からお盆をもった亜沙先輩が入ってくる。 「なんで?」 「キキョウちゃんから緊急連絡網が回ってきたの」 「それで、行事が終わって抜け出せるようになってからすぐに駆けつけました」 「稟ちゃん、水くさいなぁ。なんでボクにヘルプを求めなかったの?  誰もいないなんてチャンスだったのに」 「亜沙先輩?」 「楓・・・冗談だってば」  なんとなく事情はわかったけど、緊急連絡網っていったい・・・ 「楓? おじさんは?」 「お父さんのことはいいんです、稟くんの方が大事ですっ!」  ・・・おじさん、大丈夫・・・だよね? 「稟くん、なんで連絡してくれなかったんですか?」 「ごめん、楓。やっぱり電話は・・・」 「あっ」  病気になって電話をして、その先は・・・ 「稟くん、だいじょうぶっす。私が迎えに行けばひとっ飛びだもん」 「そうですわ、稟様。」 「稟くん、私は稟くんをおいてどこにも行かないから安心してくださいね」 「稟、いっしょ」 「はい、そこまでそこまで。せっかくつくったおかゆがさめちゃうからね」  そういってお盆をもった亜沙先輩が俺の横に座る。 「それじゃぁ、順番でいいよね?」 「順番?」  なんか、非常に嫌な予感がする。  そんな俺をよそに、亜沙先輩は土鍋からお粥をそっとレンゲですくって 「ふー、ふーっ。はい、稟ちゃん。あーん」  ・・・やっぱり 「ほら、そこ! 嫌な顔しない。病人は病人らしく!」 「俺に拒否権は・・・なさそうですね」  今の時間はわからないが、朝から何も食べてない俺の胃は目の前のおかゆを  拒否できるほど我慢強くない。 「我慢強いはず・・・なんだけどなぁ」 「はい、あーん」 「あーん・・・」  優しく口に流し込まれたおかゆは優しい味がした。 「・・・うまい」 「当たり前でしょ? ボクの力作なんだから!」  おかゆで力作っていうのも・・・ 「はいはーい、次は私の番っす!」 「でしたらその次は私が」 「私も・・・する」 ---  私は一歩引いた場所でみんなを見ていた。  稟が眠りについた後シアに連絡して、その後緊急連絡網をつかって  順番にみんなに連絡が行った。  その直後、みんなが集まってきた。  本来行事の関係で抜け出せないはずのシアやネリネは晩餐会を体調不良を  理由に欠席して抜け出してきたそうだ。  シアはこちらに来る前に楓とプリムラを回収してきた。  亜沙も合流して、いつのまにかいつもと同じになっていた。 「あれ? キキョウちゃんはしないの?」  順番にあーん・・・をしていたシアがこちらに抜け出してきた。 「シア、そんな恥ずかしいこと良く出来るわね?」 「だって、稟くんにだよ? 夢みたいじゃない」  そりゃぁ、私だってしてみたくはないわけじゃないけど・・・ 「・・・はぁ」  今稟と顔をあわせると、あのことを思い出してしまう。  私がこの部屋に来たとき、倒れていた稟をみて動揺してしまった私。  稟に抱き留めてもらった、きっと真っ赤になった私。  ちょっと思い出すだけで頬が熱っぽくなるのがわかる。 「というわけで、次はキキョウちゃんの番ね」 「え・・・えぇ?」 「ほら、恥ずかしがってないで! 稟くんまってるよ?」 「は、恥ずかしがってない!」 「じゃぁ簡単だよね?」  う・・・ 「し、シアがそこまで言うのなら・・・」 「うんうん、そこまで言うっす」  私はそっと稟の隣まで歩き出す。 「わ・・・キキョウちゃんがちがち」  亜沙、うるさい。私だってわかってるんだから。  お盆を渡されて、それから稟の横に座る。  土鍋の中からお粥をそっとすくう。もうだいぶさめてる。 「はい、稟・・・あ・・・」 「キキョウちゃん、ファイトっす!」 「そこでふーふーってしないとだめですよ?」  外野、うるさいっ! 「・・・ふー」  そして稟の方をみるとあきれたような顔をしている。 「シアがどうしてもっていうだからね? わかってる?」 「あぁ」  笑いをこらえるような稟。  むー、稟のくせにっ! こうなったら・・・  私は稟に出すはずのおかゆを自分の口に含む、そして 「ん・・・」  そのまま稟の口に・・・ 「・・・どうだ!」 「どうだって・・・」 「キキョウちゃん、大胆・・・」 「ボクもそこまでは考えたけど、実行はしなかったよね」 「・・・」  気がつくとプリムラが私の横に来ていた。  土鍋の中のおかゆをそっとすくい、口に含んで・・ 「・・・」  稟に口移ししてた。 「私も、私もやるっす!」 「稟様と口移しで・・・」 「これはボク達もするしかないよね、楓」 「はい、キキョウちゃんとリムちゃんだけずるいですものね」 「・・・俺の意見は?」 「あるわけないでしょ? 稟!」 「キキョウ・・・うらんでいいか?」 「感謝するの、間違いじゃないの?」 「・・・降参」  私はとびっきりの笑顔で答える。 「そうそう。稟、素直が一番よ?」 ---  Really?Really!クリア記念・・・ていう訳じゃなくて(^^;  キキョウのリクエストを受けてたのですがなかなか思いつかなくて  やっと書けました。というか、SHUFFLE!は登場キャラ多すぎて書くの  すごく大変でした。うまくまとめきれなかったのはキャラの多さを  使いこなせなかった早坂の力不足です。  SSのエピローグ?での視点変更後が思ったより長くなったのは  思いつきなので仕様っぽい(笑)  ちなみに、りありあのSSは、八重桜で考えています。  さて、明日はいよいよですね。  夜買い出しに行くと時間ぎりぎりなので、巡回する余裕がないかも  しれません(T_T) どうなるかは明日次第、ということで(^^;

11月12日 ・SHUFFLE! sideshortstory  「ただいま、ママ」  「おかえりなさい、パパ」  玄関でパパをお迎えする。パパの表情はどことなく嬉しそう。  ということは・・・  「賭は、ネリネちゃんたちの勝ち、ね?」  「あぁ、見事に負けてしまったよ。この後のことを考えると頭が痛いよ」  そういいつつもパパは微笑んでいる。  リビングでお茶を出してからパパはにこにこしながら結果を教えてくれた。  リムちゃんが消したはずの稟ちゃんの記憶は、よみがえってしまった。  その結果賭にまけてリムちゃんを研究所につれて帰れなくなった事。  この後神界と魔界をどう説得するか、神王様と考えなくてはいけないこと。  「まぁ、緑葉君がいうよにプリムラの感情は稟ちゃんが引き出したのだから   無理に引き裂くと閉じこもってしまう可能性は大いにあるからね。   それを説明してどうにかするしかないかな」  ・・・パパったら、大事なことから目を背けてる。  「パパ、ちょっと質問いいですか?」  「なんだい、ママ」  私はあえてこう質問した。  「魔王様にとってプリムラって何なのですか?」  私の魔王様という台詞にパパの顔は一瞬で青ざめた。パパは家族からこう  呼ばれるのが苦手なので、この手でよく説得されることがある。  青ざめたパパだったけど、私のまっすぐに見る目を見返して答えてくれた。  「・・・生命の神秘を追求するための人工生命体の三号体だ」  「では、パパ。パパにとってリムちゃんって何?」  「もちろん、私の可愛い娘さ」  今度は即答してくれた。  そしてはっとした顔になった。  「そうだよ、ママ。プリムラは私たちの娘じゃないか。   なんで忘れていたんだろう」  ちゃんと思い出してくれた。うん、パパはやっぱりパパだ。  「魔王様の立場では思い出してはいけない事ですものね。   でも、リコちゃんも、リムちゃんもネリネちゃんと同じ、私たちの   娘なんですよ?」  「そうだよ! 娘の幸せを願うことには何の問題もないじゃないか!」  「そうそう!」  「よし、そうとなれば早速説得のための準備をしなくちゃ!」  「それじゃぁ前祝いにご馳走の準備を・・・」  私はここで一区切りしてから、改めて言い直す。  「ご馳走の準備をお願いしちゃおうかしら」  「いいのかい? ママ。今日はお休みじゃないんだよ?」  我が家のパパの家事当番はお休みの日だけになっている。  そう決めないとパパがすべてやってしまうからだ。  魔王妃となったいまでも、私のメイドとしての誇りは失っていないのだから。  「格好良いパパにご褒美です」  「ありがとう、ママ。ようし、張り切って前祝いの準備しちゃうぞ!」  エプロンを手にとってキッチンへ早速向かうパパ。  いつ見ても魔王様とは思えないその背中は、輝いて見えた。  「・・・キッチンに向かう魔王様の背中が輝いても」  一瞬我に返る私。  「あ、パパ。私もお手伝いしますからね?」  「もちろんだとも、ママ。ママにはあれを作ってもらわないと」  「えぇ、あれだけはパパには負けませんからね?」  この後張り切りすぎたパパの作った料理の数々は稟ちゃん達を  巻き込んでの大宴会になりました。  パパったら・・・はりきりすぎです。  その後のお話。  リムちゃんの魔界の研究所へ連れ戻す計画は白紙になり、ネリネちゃん達の  当初の計画通り、この人間界に研究所を作りそこで計画が続けられることに  なりました。  その計画の変更の説得の時のパパはとても格好良かったです♪
11月6日 「それじゃぁはいりましょう、あ・な・た」 ・canvas2 sideshortstory 竹内麻巳 「それじゃぁ、先に入ってるな」  そういうと浩樹さんは隣の部屋、脱衣所へ入っていった。  扉が閉まり部屋に一人残された私。  浩樹さんを待たせるわけにはいかないので、すぐに浴衣の帯をほどこうとし、 「・・・」  誰もいない部屋を確認する。 「ふぅ、何を緊張してるんだろう」  旅館の和室の部屋で浴衣を脱ぐだけ、裸のまま温泉に入るわけでもない。  湯浴み用のバスタオルを巻いて入るのだから恥ずかしいわけないのだけど・・・ 「やっぱりちょっと恥ずかしいかな」  勢いだったけど、一緒に温泉に入りたい。一緒に丸い地球を実感したい。 「・・・よしっ!」  あまり待たせると浩樹さんがのぼせてしまう。覚悟を決めると私は勢いよく  浴衣を脱いで湯浴み用のバスタオルを身体に巻く。  そして脱衣所への扉を開けた。  竹内麻巳(ブタベスト様作) 「失礼します」  お湯を身体にかけてから、浩樹さんの入っている温泉の隣にそっと入る。  お湯にふれたときタオルがちょっとまくれたのであわてたけど、浩樹さんは  ずっと外を見ていた。  見られなかったのは良かったけど、何故か悔しい気がする。 「・・・」 「・・・」  何も会話が無い、静かな時間。  二人で温泉に並んでつかっているだけ。  壁のない内風呂の温泉から見えるのは、丸い水平線。  ただ、それを眺めているだけ。  それだけなのに、心が落ち着いてくるのがわかる。 「・・・」 「・・・」 「・・・ねぇ、浩樹さん?」 「・・・ん?」  私は思いきって聞いてみる。 「もしかして、私が悩んでいるのわかっちゃった?」 「・・・まぁな、これでも麻巳の師匠だからな」  私は驚いた。浩樹さんが絵の事で私が悩んでいることまでお見通し  だったなんて。 「悩みまでわかったんですか?」 「いや、何を悩んでるかはもちろんわからないさ。ただな、この前撫子の  美術部に来たとき様子がおかしかったからな。もしかして、と思っただけさ」 「そっかぁ・・・浩樹さんには隠し事できないね」 「・・・麻巳がわかりやすいだけだ」  ぶっきらぼうに答える浩樹さん。それが照れの裏返しってことを私は  よく知っている。  私は浩樹さんの肩に自分の頭をそっと乗せる。  それにあわせるように、浩樹さんは私の肩に手をかけてそっと抱き寄せてくれる。 「私ね、また道を見失いそうになったの。」  私の悩み、それはあのときと同じだった。  撫子を卒業して星和芸大に入って、その環境のすごさに圧倒されていた。  卒業前の桜花展での銀賞、その経歴を持っただけの私には、周りの人の  技術の、感性のすごさに圧倒されていた。  絵を描こうにも、あのときの気持ちを失いそうになっていた。  だって、ここには浩樹さんはいないから・・・ 「そうか・・・でも、もう解決したのだろう?」 「えぇ、こんなに良い景色を見せてもらったんですもの。  創作意欲がわいてきました。」  創作意欲がわいてきたのは本当、だけど悩みを解決してくれたのはこの雄大な  景色じゃない。  また立ち止まりそうになった私を後ろからそっとおしてくれた浩樹さんのおかげ。 「そうか、じゃぁのぼせる前によく覚えておけよ?」 「はいっ!」  元気よく返事をした私を嬉しそうに見つめている浩樹さん。  私はそのまま、浩樹さんの頬に口づけをする。 「ありがとう、浩樹さん」 「さすがにのぼせそうだな」 「えぇ・・・」  温度が低めの温泉とはいえ、ずっとお湯につかっていたらのぼせてしまう。 「浩樹さん、背中流してあげますね」 「え?」 「今日のお礼させてください」 「お礼なんてかまわないさ、何もしてないんだし」 「だめですっ! 私の気が収まりません!!」 「わかったわかった、大声だすなって」  苦笑いしながら、浩樹さんは湯船からあがり、洗い場の方へ移動してくれた。  私もそれを後ろからそっとおいかけようとして・・・ 「・・・」  心がすっきりした私には、これはもういらないわね。  浩樹さんが後ろを向いてる今のうちにそっとタオルをはずした。 「それでは背中を流しますね、ご主人様」  竹内麻巳(ブタベスト様作)  そこには大きな背中があった。  いつから私はこの背中を追いかけるようになったのだろう?  学園時代、私は常に浩樹さんの正面にいた気がする。  部活をさぼる不良教師に、顧問として部活に出てきてもらえるよう頼みこむ毎日。  最後の方は頼むというより怒ってたっけ。 「・・・麻巳?」 「え? あ、ごめんなさい」  思いふけってた私を現実に戻す浩樹さんの声。  あわてて手に持ったハンドタオルを石鹸で泡立てて、背中をこする。 「痛かったら言ってくださいね」 「あぁ」  ちょっと落ち着きのない背中を力と感謝を込めて洗い流す。  あの誕生日の日から私は浩樹さんを目で追っていた。   私のことを気にかけてくれながらも、心は鳳仙さんに向いていたあのつらい時。  私を見てくれているはずなのに、私には背中しか見せてなかった浩樹さん。  感情が爆発しそうになって鳳仙さんと桜花賞で戦おうだなんて、私ってすごい  事をしちゃったんだよね。  でも、そのおかげで私は絵を、思いを乗せた初めての絵を描くことができた。  その思いを浩樹さんはうけとめてくれた。  今見ている背中、浩樹さんの後ろ姿。  でも、浩樹さんはいつも私の方を見てくれている。  私は・・・ 「ま、麻巳さん?」  そっと浩樹さんの背中に抱きついていた。 「浩樹さんはここにいるんですよね」 「当たり前だろう?」 「わかっています、でも・・・えっ?」  浩樹さんは私をふりほどく。  そして・・・ 「きゃっ」  私の方に振り向いてから私をそっと抱きとめてくれた。  そっと髪をなでられるのがとても気持ちが良い・・・  このまま溶けそうな感じがする、幸せな時は・・・ 「・・・浩樹さん」 「・・・みなまでいうな、こういう状況なんだから仕方がないだろう?」 「・・・雰囲気台無し。でも・・・私を感じてくれたのでしょう?」 「・・・あぁ」 「嬉しい・・・」  私は・・・ 「それでは、今度は私の背中を洗ってくださいね、あ・な・た」 ---  10月23日公開のcanvas2 sideshortstoryの温泉パートを加筆修正し、  当時頂いていたブタベストさまの絵を挿し絵に使わせてもらった  完全版をお届けしました。  最初からこれくらいのボリュームはあったはずだったのですが、当時書いてる時に  なぜかシンプルにまとまってしまったです(^^;  そゆわけで、麻巳のアフターストーリーでした。
10月23日 ・canvas2 sideshortstory  秋に描いた海の絵は、今は実家の喫茶店に飾られている。  浩樹さんの運転する車は、高速道路を走っている。  私はその車の助手席に座っている。 「もうそろそろ、どこに連れ込むのか教えてくれませんか?」 「連れ込むだなんて人聞きの悪い・・・」 「何も言わずにつれてこられてるのは事実ですっ!」 「まぁまぁ、ついてからのお楽しみっていうだろ?」 「・・・もぅ、浩樹さんったらこういうところは子供っぽいんだから」  どうしてこうなったのかを思い返してみる。  先日、撫子の美術部に顔を出しに行った帰りに突然 「なぁ、麻巳。今度の日曜日あいてるか?」 「えっと・・・特に予定はないですけど」 「それじゃぁ、決まりだ。7時に俺のうちに来てくれ。」 「え?」 「あ、そうそう。着替えももってこいよ?」 「浩樹さん?」  ・・・だめ、全く何もわからない。  撫子を卒業して浩樹さんとおつきあいを始めるようになってから  浩樹さんの今まで見たこと無い一面をみれるようになったのは  とても嬉しかった。  そして一つしったことは、意外にも子供っぽいところがあったこと。  今日もその部分に振り回されているのだけど・・・ 「麻巳、どうかしたのか?」 「え? ううん、なんでもない」  それを嫌と思ってない私がいる。  惚れたものの弱みっていう事かな。  流れる風の香りに潮の香りを感じ始めた頃、目的地に到着した。 「ここは?」 「ほぉ、思ったより大きな旅館だな」 「旅館っていうよりホテルみたいですけど?」  小高い山を上ったと思ったらその山の頂上にホテルが建っていた。  潮風を感じるから海に近いはずだけど、周りの木々が視界を狭めて  居るので本当に海が近いかわからない。 「麻巳?」 「え? なに?」 「行くぞ」 「あ、待ってください!」 「わぁ・・・」  飛び込んできたのは空色と海色。  受付で手続きをしたあと、通された部屋からは海が一望できた。  水平線が視界いっぱいに広がる・・・ 「まるい・・・」 「驚いたか?」 「えぇ・・・」  そこから見える水平線は、直線ではなかった。  ゆっくりとまるい線を引く海と空の境目。 「地球って、本当に丸いんですね」 「何を今更言ってるんだ?」 「もぅ、せっかく感動してるんだから水を差さないでください!」 「悪い悪い、とりあえず浴衣にでも着替えるか。俺は隣に行ってるな」  言うだけ言って浩樹さんは部屋の入り口付近にある扉から隣の部屋に  行ってしまった。 「・・・もぅ」 「浩樹さん、もうだいじょうぶですよ」 「・・・あぁ」  隣の部屋から出てきた浩樹さんは、なんだか顔が赤かった。 「・・・もしかして覗いてました?」 「それはない・・・ただ・・・」 「ただ?」 「・・・まぁ、後でわかることだからいいか」 「?」  私が問いただそうとしたとき、扉をたたく音が聞こえた。 「すごいですね」 「想像以上だな・・・」 「食べきれるかしら?」  部屋に運ばれたのは海の幸山の幸をふんだんに使った料理の数々。  お昼ご飯にしてはすごい量が並べられた。  机の中央には大きな魚の形作りがおかれている。 「よし、食べるか!」 「はいっ!」 「ここには温泉もあるんですよね。」  食事を持ってきた旅館の方が説明してくれた。  丸い地球を実感できるお風呂があるそうだ。 「はいってみましょうよ、浩樹さん。そのために着替えを持ってきたんでしょ?」 「・・・あぁ」 「浩樹さん?」 「えっとな・・・となりの部屋行ってみるか?」  突然何を言うのかわからないけど・・・ 「えぇ」  そういうと浩樹さんは私に入り口付近にある扉をさした。  私がその扉を開けてみると、そこは小さな部屋。  かごがおいてあって、そして横にある大きなガラス戸。  ガラス戸を開けると、そこは小さな露天風呂だった。  部屋の外側の壁一面が無い露天風呂。  外側に見える風景は、丸い水平線。 「つまりな、ここは内風呂付きの部屋なんだ」  後ろからついてきた浩樹さんがそう説明してくれる。 「素敵じゃないですか! こんなに良い景色のお風呂なんて・・・」 「・・・そうか、じゃぁ先入っていいぞ」 「・・・あ」  そうだった、私が入ると浩樹さんが入れない。  内風呂ってことは混浴になることに今更ながらに気づいた。 「・・・」 「・・・それじゃぁ、俺は部屋で待ってるから」 「・・・一緒でいいです」 「え?」 「せっかくの温泉ですもの、一緒に入りましょう」 「・・・でもな」 「浩樹さん! 私が良いっていうんですから良いのです!  それとも私と一緒は・・・いやなんですか?」 「嫌なわけないだろ」  即答してくれた。とても嬉しい。 「それじゃぁはいりましょう、あ・な・た」  竹内麻巳(ブタベスト様作)  バスタオルを巻いて湯船につかってる私。  同じように湯船につかっている浩樹さん。  並んでお湯につかって、並んで丸い水平線を見ている。 「・・・ねぇ、浩樹さん」 「ん?」 「もしかして、私が悩んでいるのわかっちゃった?」 「・・・まぁな」 「そっか、浩樹さんには隠し事できないね」  そう、私は悩んでいた。  撫子を卒業して星和芸大に入って、その環境のすごさに圧倒されていた。  卒業前の桜花展での銀賞、その経歴を持っただけの私には、周りの人の  技術の、感性のすごさに圧倒されていた。  絵を描こうにも、あのときの気持ちを失いそうになっていた。  だって、ここには浩樹さんはいないから・・・ 「何に悩んでいるかまではわからないけどな。  こういう景色を見てしまえば、悩んでなんかいられないだろう?」  そういって笑いかけてくれる浩樹さん。 「はい!」  元気よく返事をした私を嬉しそうに見つめている浩樹さん。  私はそのまま、浩樹さんの頬に口づけをする。 「ありがとう、浩樹さん」  帰ってきた私は、あの丸い水平線をモチーフに水彩で絵を描き上げた。  課題もコンクールも関係ない、私の感動を形に残したくて。  そして、この絵を描いて私の目標は確固としたものになった。  今回も、浩樹さんに絵を描く楽しさをまた教わった。  その楽しさをもっといろんな人に広めていきたい。  浩樹さんとずっといっしょに・・・ ---  書いてるうちに流れと結果が変わってしまった・・・  けど、書いたので公開してみる。  もうすこし温泉でいちゃいちゃさせたかったかも(^^;
8月9日 ・夜明け前より瑠璃色な sideshortstory 「ふぅ・・・」  部屋に戻った私はドレスを脱がないまま、ベットに倒れ込んだ。  手は自然と、枕元にある私の寝間着に向かう。  そこにあるのは丁寧にたたまれた白いYシャツ。  以前達哉から無理を言ってもらった達哉の、愛しい人のYシャツ。 「寝る前にちゃんと着替えないと」  ドレスと一緒に「月の王女フィーナ」も脱ぎ捨てる。  そしてYシャツを羽織ってただの「フィーナ」になる時間。  昔なら考えられなかった気持ちの変化。常に王女で無くては行けない  窮屈な時間からの解放。 「王女が窮屈って訳じゃないんだけど・・・達哉。」  達哉が教えてくれた、普通の少女としての時間。  今はどちらも大切な時間、どちらを失っても私が成り立たない。  ふと、窓の外を見上げる。  月は今、夜の周期に入っている。  見上げれば、蒼い星が常に月を照らしている。  私の愛しい人が住む、蒼い星地球。  会えない時間が多いけど、お互いやるべき事をするため、離れて過ごしている  けど・・・ 「私は毎晩達哉に包まれてるから、だいじょうぶ」  両腕で自分を抱きしめて・・・ 「あら?」  何かが違う気がした。  いつもと同じ格好、来ているのはショーツとYシャツだけ。  余計な物は着ていないし、湯浴みもしたから身体は清潔だし・・・  達哉のYシャツはミアが毎日軽く手もみ洗いをしてくれている。  私の寝ている間の汚れを落とすだけなら洗濯機を使う必要はないし、何より  私がそれを望まないから。  普通に洗ってしまうと、達哉のYシャツは達哉のYシャツではなくなってしまう。  それは、私が着る寝間着のYシャツになってしまうから。 「・・・あっ」  ここまで考えて気付いてしまった。 「達哉の匂いがしない・・・」  このYシャツを着て初めて寝たときは達哉のベットで、達哉がが横にいた。  月に持ち帰ってしばらくはそのことを思い出して暖かい気持ちで寝ることが  できた。  でも、あれからだいぶだってしまった。  だから、このYシャツは達哉が着ていたYシャツに・・・  完全に私の寝間着になってしまったのだ。  そのことに気付いてしまった。 「私って欲張りになっちゃったのかな」  達哉のYシャツだけでも充分なのに、消えてしまった達哉の匂いを求めている。 「・・・」  匂いを求めてる事実を知って頬が熱を持っていくのがわかる。  王女にあるまじきはしたない考え・・・ではあるけど、今は王女ではなく  少女。愛しい人を追い求めるのは恥ずかしい事ではない。 「・・・よし」  今度の地球での公務は半月ほど先の予定、準備期間は問題なし。 「明日ミアに相談してみましょう」 ---  公園で待ち合わせをして、そのままデートをしてきたその夜、  左門でいつものように食事をすませた。  そこにリースが当たり前のようにいるのもいつものこと。 「ねぇ、達哉。この後部屋に行ってもいい?」  帰り道、フィーナにそう訪ねられた、もちろん俺の答えは決まってる。 「あぁ、待ってる」  コンコン 「達哉、入ってもいい?」 「どうぞ」  フィーナを招き入れる・・・ 「なに? その大きな袋」  フィーナは大きな紙袋を持ってきていた。  昼間公園で会ったときは持ってなかったから、ミアに持ってきてもらったの  だろう。 「達哉にプレゼントがあるの」 「プレゼント? 誕生日でもないのに?」 「誕生日は関係ないの、私がプレゼントしたいから、プレゼントなの」  そういって紙袋から出したのは・・・ 「Yシャツ?」 「そう、Yシャツよ。この前達哉のYシャツもらっちゃったでしょ?  だから足りなくなったら悪いから・・・」  そう言うと紙袋の中から沢山の新品のYシャツをベットの上に並べる。 「こ、こんなに?」 「えぇ、1枚だけじゃ悪いかなっておもって」 「だからって・・・」  ざっとみて10枚くらいはある。  いくら学生だからっていっても、こんなにYシャツはいらないと思うが 「ありがとう、フィーナ。大事に使わせてもらうな」 「えぇ・・・」  頬を赤らめて照れてるフィーナ。 「それでね・・・達哉」 「なに?」 「あの・・・これだけYシャツがあれば、もう古いのいらない・・・よね?」  古いYシャツ・・・確かにすべて新しいのにすれば古いのは着る必要は  ないだろう。10着もあれば1週間洗濯しなくても持つくらいだ。 「確かに古いのは着なくてもいいけど、まだ着れるから捨てるにはもったいない  かな」 「そうよね、捨てるにはもったいないわ・・・」  フィーナがそわそわしている。 「だから・・・あのね、達哉・・・Yシャツもらっても、いい?」  顔を真っ赤にしてやっとの事でフィーナはお願いしてきた。 「・・・えっと」  何に使うのか? と訪ねようとした俺の脳裏に瞬時にあの時の光景が浮かぶ。  ブタベスト様作  半年前、公務の遅れで来れないと思ったあの日、夜に出会ったフィーナと  一晩を共にしたあの朝の光景。  素肌に俺のYシャツを着て、はだけた胸元や健康的な足と・・・ 「達哉のシャツは寝心地がいいわね、達哉につつまれてるみたい・・・」  フィーナのその姿を思い浮かべた俺はフィーナと同じくらい赤くなって  いたのかもしれない。やっとの思いで待っているフィーナに答える。 「あぁ・・・シャツくらいかまわない」 「あ・・・ありがとう、達哉っ!」  フィーナのその笑顔を見て俺はフィーナを抱きとめる。 「でも、今夜はYシャツはいらないと思うよ」 「え?」 「Yシャツじゃなくて、俺がずっとフィーナをつつんでいるから・・・」 「・・・うん」 ---  今回のキーワードは「裸Yシャツ」「匂い」です。  そして先日公開したお話は、実はこの話の間に入ります。  なんで中間の部分だけ先に書き上がったかというと、ひざまくらと  白い雲が先に出来たからです(^^;  そして!  公開前から何故か描き上がっていたブタベストさんの力作をお借りできました。  裸Yシャツフィーナ、再びです(*^^*)  破壊力抜群のフィーナの絵、ありがとうございましたm(_ _)m  こんな姿を見れる達哉君がうらやましすぎるです(w  ちなみにSS本編での達哉の言う半年前、それは実際に半年前に早坂が公開した  フィーナのSSの事です。  この頃ブタベストさんはフィーナの裸Yシャツ絵を描いてたり、やまぐうさんも  確かお話を書いてたりと、裸Yシャツブーム(wの時期でした。
8月7日 ・夜明け前より瑠璃色な sideshortstory 「・・・暑い」  俺は物見の丘公園のベンチに座ってフィーナを待っていた。  フィーナが久しぶりに公務で地球に降りてきたのが数日前。  だが多忙なスケジュールのため今日の午後になるまで家に来る所か  連絡も取れないくらいだった。  連絡が取れたのが昨日の夜、カレンさん経由での伝言は 「明日お昼に物見が丘公園で会いましょう」だった。 「フィーナ様の公務の終了時間がだいたい12時前になるかと思います。  その後会食のご用意があったのですが、フィーナ様がお疲れの様子なので  このスケジュールはキャンセル、午後は御休息にあてました。」 「大変なんですね、フィーナの様子は大丈夫なんですか?」 「ご安心を、大事をとっての休息は便宜上ですから。フィーナ様は  明日のお時間を楽しみにされてます。」 「そっか、それならいいんだけど・・・」 「達哉様?」 「いえ、なんでもないです。ただ、フィーナは頑張りすぎるからちょっと  気になっただけです。」 「良く見てらっしゃいますね。」 「これでも婚約者ですから。」  そうして俺は、11時頃から物見が丘公園の中のベンチに座って  フィーナを待っていた。  もしかしたら早くフィーナが来るかもしれない、そう思うと居ても立っても  いられなかったからだ。  少しでもフィーナに早く会いたい、抱きとめたい・・・ 「・・・暑い」  木陰のベンチに座ってはいるが、真夏の今日は気温も相当あがっている。  外にいるだけでじりじりと焼かれているような錯覚に陥る。  これだけ暑いと公園に来る人も少なく、ぱっと見回しても俺しかいない。  これならフィーナが来ればすぐわかるな。 「・・・」  青い空に白い入道雲、なんだか雲が美味しそうな綿飴に見えてきた。 「そういえば、昼飯まだだったな」  フィーナが来たらどこかで食事を・・・と思ったところで遠くからかけてくる  少女の姿が見えた。  長くて綺麗な髪が日の光を浴びてきらきらと輝いてる。  見慣れたワンピースとつばのひろい帽子をかぶり、おおきなバスケットを持って  かけてくる、それをベンチに座って待っている俺ではない。 「フィーナっ!」 「達哉っ!」  俺は愛しい人の元にかけだした。 「ごちそうさまでした」 「おそまつさまでした」 「でも、びっくりしたなぁ、まさかお弁当を用意してあったなんて」  そう、フィーナは忙しい公務の合間をぬって今日のお昼のお弁当を  用意してあった。 「サンドイッチしか作れなかったのが残念だったわ」 「そんなことないよ、フィーナのサンドイッチ美味しかった」 「ありがとう、達哉。でもこれで満足はダメよ?  私はまだまだ上を目指すんだから」 「あぁ、楽しみにしてるよ」 「えぇ・・・」  その時フィーナの上体がかすかに揺れた。 「フィーナ、少し疲れてるんじゃないか?」 「そんなこと無いわ、これくらいの公務大したこと無いわ」  そういうフィーナは確かに普段と変わらないように見える。  フィーナは疲れてるというより・・・  その時俺はあることに気付いた。 「フィーナ・・・もしかしてかなり早い時間から起きてないか?」  フィーナの公務は秒単位でスケジュールが組まれている。  その公務の合間にサンドイッチを作る時間があるだろうか?  その答えは・・・ 「・・・達哉に隠し事はできないわね。今日のお弁当をつくるのに  早起きしただけよ」 「まったく、フィーナは・・・」 「だって、達哉に食べて欲しかったんですもの」  俺の言葉を遮るように可愛く訴えるフィーナ。  だから、俺はがんばりすぎという言葉のつぎに伝える言葉を伝えた。 「あぁ、わかってる。ありがとう、フィーナ」  そして俺はフィーナを抱き寄せた。 「うん・・・」  そのままそっと唇を重ねる。 「お弁当のお礼しなくちゃな。何がいいかなぁ・・・」 「達哉、お願い事しても・・・いい?」  フィーナのお願い事は俺の想像以上の物だった。 「達哉・・・ひざまくらしてくれる?」 「暖かい・・・」  俺は木を背もたれに、足を投げ出すように座る。  そして俺の太股の上にフィーナの頭を軽くのせる。 「男の人が膝枕にあこがれる気持ち、わかった気がする・・・」 「男の膝枕なんていいものじゃないと思うけど・・・」 「そうでもないわ、達哉の枕は最高よ」  そう言うとフィーナは空を見上げた。 「綺麗な空・・・空が高く感じるわ。それに白い雲・・・  なんだか綿菓子みたい・・・」 「フィーナの考えることも俺と同じなんだな・・・あれ?  フィーナ?」 「・・・」  寝てしまったようだ。 「やっぱり疲れてるんじゃないか・・・あんまり無理して俺を  心配させないでくれよ?」  寝ているフィーナの返事はない。 「おやすみ、フィーナ」  俺はそっとフィーナの髪をなで続けた。 「ごめんなさい、達哉。寝てしまって・・足だいじょうぶ?」 「だいじょうぶだよ、それにフィーナの寝顔みれたから」 「達哉っ! 女の子の寝顔をのぞき見するなんて・・・  もう知らない!」  ぷいっとそっぽを向くフィーナ。  のぞき見って、俺のすぐ目の前で寝たのはフィーナなんですけど・・・ 「悪い悪い、お詫びに良いところつれてくから許してくれないか?」 「良いところ?」 「おまちどうさまでした」  そうしてつれてきたのは甘味所。  店員が持ってきたのはかき氷、器の下の方に赤い苺のシロップに、  氷の上には白いミルクがかかった氷イチゴミルク。 「綿菓子は簡単に用意できないからさ、かき氷の氷も白い雲にみえるだろ?」 「えぇ、これもあの空の雲のように見えるわ・・でも」 「でも?」 「達哉、なんで私が綿菓子の夢を見たこと知ってるの?」 「え? だってフィーナが綿菓子って言ってたから」  フィーナの顔が急に赤くなる。 「寝言じゃないから安心して、寝る前の話だから・・・」 「え、えぇ・・・」 「それよりも食べないと溶けちゃうよ?」 「あ・・・いただきます。」  フィーナはスプーンでぱくっと氷を口にほおばる。 「冷たくて甘くて美味しい・・・」  スプーンを口に入れたまま、うっとりとするフィーナ。 「今度はミアもつれてみんなできましょうね、達哉」 ---  今回のキーワードは「ひざまくら」。  フィーナがするのではなく、フィーナがされるのです(^^)  今回の朝霧家への帰郷の話は、実はまだ続きます(予定)  だからオチはまだないです。書き上がってもオチがあるかどうか  わかりませんが(^^; 書き上がったら掲載しますね。
7月19日 ・夜明け前より瑠璃色な sideshortstory -IF- 神舞姫たち  「麻衣?」  「ううん、ちがうよ。舞いだよ」  夕食の時の家族の会話、話題はカテリナ祭での話。  「舞いということは、雅楽かしら?」  「そうだよ」  「クラスの出し物か?」  「ううん、部活だよ」  「たしか麻衣ちゃんは吹奏楽部よね? なんで雅楽なの?」  俺もその点は疑問だ。  吹奏楽部の演奏ならやはり吹奏楽だろう。  「私もそこはわからないんだけど、遠山先輩が一押しして、決まったの」  「翠か・・・」  お祭り好きな翠なら、考えそう・・・か?  「それでもわからないな。和楽器にも笛はあるけどあれはフルートとは   違うだろう?」  「笛の担当の人は大変だよね、練習期間少ないし」  「麻衣もだろう?」  「お兄ちゃん、話し聞いてた? 私は舞い担当。これも遠山先輩の一押しなの」  そういえば、最初にそう言ってたっけ。  ・・・というか、なんで舞い?  「私、お休みとって絶対見に行くね」  「ありがとう、お姉ちゃん。お兄ちゃんも見に来てね」  「あ、あぁ・・・」  学園祭で麻衣が舞う事はわかったけど、何故か納得行かなかった。  学園祭までの短い期間、麻衣達吹奏楽部はなにやら極秘裏に練習をしていた。  食事の後かたづけ中、訪ねてみた。  「なんで秘密なんだ?」  「お兄ちゃん、舞いって神事なんだよ? 当日まで見ちゃいけないの」  「そういうもんか? 神事っていったってカテリナ祭だし・・・」  「それでもだめなの、わかった?」  「あ、あぁ・・・」  「そうそう、達哉君。私カテリナ祭の日仕事になっちゃったの。だから   私の分まで麻衣ちゃん達を見てきてね」  「仕事? 休みとれなかったんだ・・・」  「え、えぇ。麻衣ちゃん、ごめんね」  「ううん、いいの。お仕事がんばってね」  「ありがとう、麻衣ちゃん」  「それじゃぁ、私は部屋に戻るね。おやすみなさい」  「おやすみなさい、麻衣ちゃん」  「あぁ、おやすみ・・・」  麻衣は階段を上がっていった。  「なんだか最近すぐに部屋に戻っちゃうな・・・俺避けられてるのかな?」  カテリナ祭の練習が始まった頃から麻衣が俺を避けてる気がしてならない。  「だいじょうぶよ、達哉君。それじゃぁ私も部屋に戻るわね。」  左門でのバイトのクローズ作業中、菜月に相談した。  「ということがあったんだ。」  「そそそ、そうなんだ」  「・・・菜月?」  「あ、なんでもない」  「なんだか麻衣が俺を避けてるみたいな気がして・・・」  「避けてるというより、疲れてるんじゃない?」  「そうなのかなぁ?」  「麻衣って吹奏楽部のステージの主役でしょ? 練習大変だろうし   覚えることもいっぱいだろうし、それだけだよ、きっと。」  確かに、俺を避けて部屋に戻るのが早く感じたのは、単に早く  休んでるだけなのかもしれない。  「そうだな、俺の考えすぎだな」  「そうそう、心配性のお兄ちゃん」  「呼んだかい? マイシスター」  「呼んでないっ!」  「菜月の兄としては、すごく心配してるんだよ? だって菜月も・・ふぎゃっ」  仁さんは悲鳴と共にその場に倒れた。  何故か後頭部にしゃもじが刺さってる気がする・・・  「兄さん、余計なことしないで早く後かたづけするの、わかった?」  「・・・」  「そういえば、菜月もなんだか疲れてるみたいだな」  「え? そ、そう? そんなわけないわよ? ほらっ」  そういって腕を曲げて力瘤を作る動作をする。  もちろん、菜月の腕に何も変化は無い。  「ほんと、なんでもないからだいじょうぶ!」  「わかった、菜月がそう言うならだいじょうぶだろう。店片づけちゃうか」  「うん」    そしてカテリナ祭当日。  体育館に設置されたステージ、順番にいろんな出し物が演じられていく。  俺はパンフレットを確認して時間前に会場に入ることにした。  「まだ時間あるな・・・」  一人でベンチに座って時間をつぶす。  麻衣はステージがあるから朝から忙しいのはわかる。  何故か菜月も麻衣につきそうからって、一緒に朝早く出かけてしまった。  他のクラスメイトも捕まらず、一人寂しくカテリナ祭をすごしていた。  「フィーナがいれば、楽しいだろうなぁ・・・」  今はここにいない、俺の大事な人。将来を誓い合い、お互いなすべき事の為に  お互いの星に別れて住んでいる。  「・・いけない、フィーナも頑張ってるだ。俺が寂しがっちゃいけない」  それでも、あいたいときに会えないもどかしさはある。  電話も、つながる場所にはいない・・・  「・・ふぅ、そろそろかな?」  「達哉君」  「あれ? 姉さん。仕事じゃなかったの?」  「仕事よ、ほら」  そういって脇にどいた姉さんの後ろには・・・  「こんにちは、達也様」  「カレンさんに・・・リース?」  俺の呼びかけにこくっと頷くリース。  「なんでカレンさんとリースが?」  「私のお仕事はね、カレンとリースちゃんの案内なの」  「そうだったんだ」  「えぇ、それじゃぁ体育館へ行きましょう」  体育館に入ると、驚くほど人が集まっていた。  並べてあるパイプ椅子は埋まっており、立ち見が居るほどだ。  「すごいな・・・これじゃ舞台みれないかも」  「だいじょうぶよ、達也君。お姉ちゃんに任せておいて。」  そういって姉さんは体育館の端を歩いていき、客席最前部に俺達を連れて行く。  前の方にはロープが張ってあり、「招待席」と書かれているパイプ椅子がおいて  あった。この時間は吹奏楽部の招待者しか入れないようになっている。  姉さんはロープ脇の学生に何事か話しかけると、  「ほら、達也君。何ぼーっとしてるの? 行きましょう」  そういって俺達を招待者席の中に案内した。  「・・・姉さん。これはいったい?」  「蛇の道は蛇っていうでしょ?」  俺は何故か招待席の最前部の真ん中の椅子に座らされた。  右側にリース、左側に姉さん、その横にカレンさん。  この4席だけ「予約席」という張り紙がしてあった。  「なんかの仕掛けにはめられてる気がする・・・」  「やあね、達也君。これは麻衣ちゃんがとっておいてくれた席よ?」  「姉さん、その汗は?」  「汗なんてかいてないわよ?」  「さやか・・・」  乾いた笑いをするさやか姉さんと、それを見るカレンさん。  ・・・まぁ、いいか。良い席なのだからじっくりみさせてもらうとするか。  「まもなく吹奏楽部のステージが始まります」  場内アナウンスが流れると、静かに幕が上がっていった。  そこはある意味異常な光景が繰り広げられていた。  舞台左右の奥の方に、吹奏楽部のメンバーが鎮座していた。  みな、白と赤のコントラスト・・・そう、巫女さんが着るような服を着ていた。  その前には和楽器が置かれている。大鼓、小鼓、太鼓、笛。  笛を持つ生徒が、笛を吹き始める。  その笛の音は楽員で良く聞かれるフルートの音とは全く違った、和を感じさせる  音色だった。笛の音にあわせて鼓が叩かれる。  そして、舞台袖に麻衣が現れた。  舞台に出ているメンバーと同じ、巫女装束に身を包んでいる。  麻衣は扇を持っており、顔を隠すようにして舞台中央へしずしずと歩み出てくる。  突然演奏のテンポが変わった。  それにあわせるかのよいに麻衣は舞い始めた。  扇を空にかざして、膝をついて地にかざし・・・  優雅に扇を舞わせる。  楽曲にあわせて麻衣は舞っているはずだか、いつしか麻衣の舞いにあわせて  演奏されてるような錯覚を覚える。  時折、巫女服の衣擦れが客席の俺の所まで聞こえてくる。  そんな音が聞こえるほど静かに、そして激しく舞いが舞われていた。  麻衣は舞台中央で両膝を付き座る。  そこで扇を閉じ、目を閉じて一礼する。  それと同時に楽曲の演奏も終わった。  静けさに支配された体育館は、舞いが終わった後しばらくの間は静寂が  続いたが、気付いたように拍手がわき上がって、最後には大声援がでるほど  だった。俺も惜しみなく拍手を麻衣に送った。  「ありがとうございます、それでは引き続き見ていってくださいね」  麻衣はそう言うと舞台袖にさっていった。  引き続き?  楽曲を演奏するメンバーも麻衣と一緒に去っていったのだが、すぐに  別のメンバーが来た。  「続きって・・・麻衣が舞うだけじゃないのか?」  「達也君、静かに。始まるわ」  姉さんの言葉が終わる前に、笛の音色が聞こえてきた。  舞台袖から巫女装束を纏った麻衣が・・・  「な、菜月?」  そこには麻衣ではなく、槍をもった菜月がいた。  「あれは鉾ね・・・扇の舞いの次は鉾の舞いね」  カレンさんがそっとつぶやくのが聞こえた。  菜月は鉾を構えて、舞台中央に進み出た。  驚いたのはその歩み、麻衣のしずしずとした歩みではなく、まるで水の上を  走り抜けるようなとでもいうのか、統べるような足捌きだった。  中央で一度静止した菜月は鉾を構え直し、舞台を左右と走り抜ける。  麻衣の時とは違い、舞台の上を進む足音がしっかりと聞こえてくる。  それが演奏の合間に入り、まるで菜月が一緒に演奏してるかのような錯覚を  感じる。  舞台の端に行くとその場で身体を舞わせて鉾を振るう。  身体が全くぶれていない。  菜月・・・いつのまにここまで。  舞台中央に戻っては左に進み、戻っては右に進み、縦横無尽に舞台の中で  鉾と共に舞う菜月。その速度は少しずつ早く鋭くなっていく。  舞にあわせて楽曲もその速度をあげる。  それが頂点に達したとき、菜月は舞台奥から客席に向かって大きく跳び  たんっ!  舞台中央で客席の方へ鉾を振るいきった状態で全てが終わった。  菜月は一礼だけすると、そそくさと舞台袖に消えていった。  消えたと同時に会場からわれんばかりの拍手がわき上がった。  「まさか菜月が舞うとはな・・・教えてくれないなんて人が悪いな」  となりの姉さんは笑っている。  もしかしてこのことを姉さんは知っていたのかもしれない。  それを問おうかと思ったとき、俺の耳に鈴の音色が聞こえてきた。  シャン・・・シャン・・・  「鈴の・・・音?」  舞台に目を戻すと、鼓の後ろのメンバーがかわっていた。  シャン・・・シャン・・・  鈴の音はどんどん大きくなってきて、舞台袖から現れたのは・・・  「翠?」  手に鈴を持った翠が、巫女装束に身を包み鈴を鳴らしながら舞台中央に歩み進む。  翠が手首を返すたびに、涼やかな鈴の音色が聞こえてくる。  いつのまにか鼓と笛の音色も聞こえていた。  その場でくるりと一回転、鈴の音色が涼やかに鳴る。  それにあわせる鼓の音と笛の音。  シャン・・・シャン・・・  動きは麻衣や菜月と比べるとゆっくりなのに、それを感じさせない。  常にリズムをとって鳴っている鈴の音色がそう感じさせてるのだろうか?  舞いにあわせて鈴の音がなる、今までとは違う舞い。  あの翠が優雅に、そして何かに陶酔してるかのような目つきで舞っている。  その翠の目に引き込まれる・・・  気がついたとき、鈴の音色が止まっていた。  いつのまにか、舞いは終わっていた。  拍手のなか、照れた笑いをしながら翠は舞台袖に消えていった。  今度は鼓と笛の交代の人は出てこなかった。  さすがにこれで終わりのようだ。  「しっかし驚いたなぁ・・・まさか菜月や翠までとは・・」  タンッ!  舞台中央で誰かが舞台を踏みしめるような音が聞こえた。  そこには巫女装束に身をつつんだ・・・  「・・・フィーナ?」  フィーナは左手に刀を持っていた、まだ鞘から抜刀していない。  静かに、舞台中央に進み、その場で緩やかに舞い始める。  いつのまにか笛の音色が聞こえ始めてきた。笛の合間に鼓を叩く音も  聞こえてくる。銀色の髪も舞い、フィーナも舞う。  静かに緩やかに・・・ 俺はただ見とれるだけだった。  ただ、静かすぎた。  前の3人があれだけ派手に舞っていたのを見た直後だと、物足りないくらい。  会場がざわめきはじめるのを感じたが、俺はフィーナを見続けた。  フィーナが、これだけで終わるわけがないのを俺は知っているから。  と、突然。  床を踏み鳴らすと同時にフィーナの目のまで閃光が走った。  フィーナは瞬きするほどの瞬間に、鞘から刀を抜いていた。  今までより目を細めるフィーナ、まるで目の前に敵がいるかのように・・・  フィーナは刀を構えたまま、間合いをはかるような動きをした。  足の運びはほとんど見えないのだが、間違いなく動いていた。  間合いが詰まったのか、突然打ち込みが始まった。  刀が空気を切り裂く。  上段から下段への打ち下ろし、下段から上段への打ち上げ。  水平に払う刀の動きは閃光が走ってるようにしか見えなかった。  舞台袖に向かい、刀を打ち込む。  反対の袖に向かい同じように打ち込む。  その剣の舞いは優雅さと力強さと繊細さ、すべてが盛り込まれている。  舞台の四方で打ち込みが終わると、舞台中央に戻り  「いやぁっ!!」  フィーナの気合いと共に客席の方へ向かって刀を振り下ろした。  打ち込んだ状態のまま静止すると、今までの力強い動きではなく  力が抜けた、自然な動きでそっと刀は鞘の中に戻っていった。  音が全て消えた静寂の後、大きな拍手と大歓声で体育館は埋め尽くされた。  最後に舞いを舞った4人と参加した吹奏楽部全員でそろって礼をして、  ステージは終わった。  「フィーナ」  「達哉、どうだった? 私の舞いは」  「もちろんよかったよ・・・じゃなくて、なんでここに?」  「学園祭があるっていう話は聞いてたの。   学園長から招待をうけていて、お忍びで参加しようと思ったのだけど   舞いの話を聞いて、達哉を驚かせようと思って」  「そうそう、黙っているの大変だったんだからね」  「麻衣・・・最近そっけなかったのはそのせいだったのか」  「ごめんね、お兄ちゃん驚かせようとおもったから」  「私だって大変だったんだからね、兄さん口が軽いから」  「呼んだかい、マイシスター!」  「呼んでないっ!」  「フィーナ様、申し訳ございませんがお時間があまりありません」  「そうね」  「時間が無い? 1日ゆっくりできないのか?」  「えぇ、今日は公務の合間しか時間が無いの」  「そうか・・・一緒にカテリナ祭回れるかと思ったのに残念だな」  「達哉? 最後まで話はきかないとダメよ?   カレン、次の公務までの時間はあとどれくらい?」  「はい、カテリナ学園から出発ですので多少時間を早めにしないと   いけませんが・・・出発まであと2時間ほどです。」  「それでは2時間、休憩ということでいいわね?」  「はっ」  「そういう訳で、達哉、2時間しかないけど案内してくださいます?」  「もちろんだよ、時間がもったいないから行こうか! 最初は・・・」  「達哉、私はあれがいいわ」  「わた飴か・・・よし」  俺はフィーナの手をとって屋台へと向かう。  たった2時間だけど、フィーナとの大事な時間、1分1秒だって  無駄にしたくないから  「行くよ、フィーナ!」 ---  先日公開した巫女麻衣のお話の本来の形が、実はこれです。  あのお話を構成したとき、フィーナの出番と翠の台詞、どちらを優先  させるか考えて、翠の台詞を優先しました(^^;  ですので、今回翠の台詞は無い変わりに翠も舞っています。  扇の舞、鉾の舞、鈴の舞、剣の舞に関しては「巫女舞」を参考にしました。  早坂の知識不足が思いっきり出ているところです(T_T)  余談ですが・・・  舞っているときの菜月と翠は「たゆんたゆん」だったそうです(w
7月13日 ・夜明け前より瑠璃色な sideshortstory おまけ 「汗かいちゃったな」 「お兄ちゃん、激しいんだもん・・・」 「相手が麻衣だからな」 「それって私以外があるっていうこと?」 「そんな訳無い! 俺は麻衣以外とこんなことはしない」 「うん、わかってる」 麻衣は微笑みながらそう答えた。 その顔の所々に、俺の汚した物がついたまま・・・ 「さすがにこのままじゃまずいか」 「そうだね、べとべとだし・・・」 「よし、風呂に入るか。折角温泉に泊まってるんだからな」 タオルで見た目だけは綺麗にしてから、俺達は大浴場の方へ向かう。 「お兄ちゃん、温泉にも営業時間ってあるんだね」 「風呂屋じゃあるまいし・・・」 この旅館に温泉の営業時間はすでに終わっていた。 「まさか湯船に温泉がはいってないわけはないよな」 俺は入り口の扉に手をかける。 「お兄ちゃん、営業終わってるんだよ?」 「だいじょうぶだって」 俺はそっと扉を開ける。鍵はかかってないらしく簡単に開いた。 中にはいると蛍光灯は全て消えていて、非常灯の明かりだけの暗い脱衣所。 その奥の扉の向こう側からはお湯の流れる音が聞こえる。 「だいじょうぶ、お湯は入ってるから入れるよ」 「でも・・・」 「汗かいたし、ベトベトのままじゃ寝れないからな。  明かりつけなければ大丈夫だろう。」 「う・・・うん。」 観念したのか、麻衣は脱衣所に入ってくる。 「麻衣? こっちは男湯だぞ?」 「う・・・うん、でも女湯も真っ暗でしょ? 誰か来たら恐いし」 確かに暗い浴室に麻衣一人は心細いだろう。 「・・・」 「・・・」 「あ、あの・・・お兄ちゃん、あのね」 「一緒に入るか」 俺は麻衣の言葉を言い終える前に提案する。 麻衣に言わせるのではなく、俺の希望として。 洗い場で汗を流して湯船に二人でつかる。 大浴場の大きな窓の外には綺麗な星空が広がっている。 俺は麻衣と並んで一緒に見上げていた。 「綺麗だね」 「そうだな」 それっきり無言の時間。聞こえるのはお湯の流れる音と、窓の外で風が そよぐ音。虫の音。 感じるのは俺の肩に寄り添う愛しい恋人の鼓動。 「お兄ちゃんとお風呂一緒にはいるの久しぶり、だよね」 「そうだな・・・いつ頃から別になったんだっけ?」 「お兄ちゃんが高学年の頃じゃないかな。お姉ちゃんと一緒に入るのも  やめたんだよね」 俺が高学年の頃、姉さんは学院に通ってたっけ。 あの頃の俺には姉さんの大人になっていく身体に、恥ずかしさを感じて いたんだよな。 「お兄ちゃん、考えるのダメ」 「え?」 「今何を考えてるか私にはわかるの、だから考えないで。今は・・・  私と一緒に星空を見ようよ」 「・・・そうだな、今を楽しまないとな」 俺は過去を振り返るのを止めて、また星空を見上げる。 「お兄ちゃん・・・大好き」 「俺もだよ、麻衣」 二人申し合わせたように、唇が近づく。 触れ合うだけの優しいキス。 「そろそろ部屋に戻って寝ようか」 「うん、身体も暖まったしぐっすり寝れそう」 「よし、いくか」 「あ、まって。私が先に出るからちょっとだけ待っててね」 「あ、あぁ・・・」 別に構わないと思うのだが、着替えを見られるのは裸を見られるより 恥ずかしいそうだ。正直良く分からないが、麻衣の機嫌を損なう事は しないことにしてるので、大人しく一人で湯船につかって星空を見上げた。 部屋に戻ってから麻衣がほぅっと安心したように息をはきだす。 「良かったぁ、誰にも見つからなくて」 「一応、鍵はかけておいたからな」 「え?」 「鍵はあったんだよ、あの浴場。念のため内側から鍵をしておいた」 「・・・お兄ちゃん、何かするつもりだったの?」 「一応時間外だし、みつかるとまずいだろ? それに・・・」 「それに?」 「・・・邪魔されたくなかったからな」 「・・・」 「・・・」 無言の時間。きっと麻衣は顔を真っ赤にしてるんだろう。 俺の顔も真っ赤だと思う。 「寝ようか?」 「うん」 電気を消して布団に入る。 「私も・・・」 「私も・・・お兄ちゃんとの時間邪魔されたくなかったから。」 「麻衣」 「ありがとう、お兄ちゃん。おやすみなさい」
7月12日 ・夜明け前より瑠璃色な sideshortstory 「麻衣、こっちに」 「うん」 雨が降ってきたか、と思った直後にはどしゃぶりになっていた。 ハイキングコースに雨宿りできる建物はなく、大きな樹の陰に入る。 「雨宿り・・・にはならないか。」 これだけ大降りになると大きな樹の下でも雨はほとんど防げない。 ないよりはまし、という程度だ。 「山の天気は変わりやすいって言うけど、天気予報では何も言ってなかったよな?」 「・・・」 「麻衣?」 「あ、なに?」 「だいじょうぶか? 疲れたか?」 「ううん、なんでもない」 麻衣のやつ。もしかして・・・ その時前触れもなく、まぶしい光と大きな音と、 「きゃぁっ!」 麻衣の悲鳴が聞こえて、俺は麻衣に抱きつかれていた。 「お兄ちゃん、恐いよ」 「だいじょうぶだよ」 俺はそっと麻衣を抱きしめ、髪をなでながら麻衣が落ち着くまで待った。 その後も雷の音は聞こえたが、だんだん遠くなっていった。 気がつくと、雨は小降りになっていた。 「・・・お兄ちゃん?」 「どうした?」 「雨、あがりそうだね」 「あぁ」 「あの・・・そろそろ」 その時、俺はずっと麻衣を抱き留めていたことに今更ながら気がついた。 「あ・・・ごめん」 俺は慌てて両手をはなしたその時、俺の唇にやさしい感触がふれた。 「お兄ちゃん、ありがとう。とっても安心だったよ」 「・・・」 「もう、帰ろうか? お姉ちゃんも心配してると思うし」 「・・・」 「お兄ちゃん?」 「あ、あぁ・・・」 不意打ちは卑怯だと思うぞ? 麻衣。 「復旧は?」 「申し訳ありません、今日は無理かと・・・」 ぬかるんだ道をなんとか抜けてコース終点ある、駅に着いた俺達が最初に見たのは 運休のお知らせ、と書かれてた看板だった。 先ほどの雷雨で線路の一部に土砂がながれてしまったらしい。 酷い被害ではないらしいが、未だ天候が安定してないため二次災害の恐れがある為 今日の復旧は無理とのことだ。 「お兄ちゃん・・・」 麻衣は不安そうに俺のことを見ている。 「だいじょうぶだよ、麻衣。なんとかなるって」 とは言ったものの、電車が動いてなければ帰れない。 土砂崩れが起きた現場は、道路と併走してる区間なので道も今は封鎖されてる。 どう考えても今日は帰ることは出来そうにない。 その時俺は麻衣の異常に気付いた。 うつむいてる麻衣が小刻みに震えてる。 「麻衣、寒いのか?」 「だいじょうぶだよ」 夏とはいえ、雨に濡れた衣服は体温を奪い続ける。 このままだと麻衣は体調を崩してしまう。 「帰れないなら帰らなければ良いだけだ」 「え?」 俺は麻衣の返事を待たずに、駅の案内所で近場の宿を探し始める。 「どっちにしろ帰れないなら泊まるしかないだろう?」 「でも、お姉ちゃんには泊まるなんて言ってないし」 「すぐに電話するから大丈夫、それよりも今は宿の確保が先。  いつまでも濡れたままではいられないからな」 駅の近くにある温泉街、何件かは部屋の空きが無かった。 同じように帰れない人が宿泊してるらしいが、少し離れた温泉宿に 部屋を取ることができた。 宿までの移動中、姉さんには電話で事情を説明しておく。 土砂崩れのニュースは満弦ヶ崎でも報道されており、姉さんも心配していた。 電話が遅かった事に怒られたくらいだ。 電話の最後に姉さんは「麻衣ちゃんをお願いね」と頼まれた。 「当たり前だろう? 言われなくてもまかしておけって」 「うん、それじゃぁ達也君に任せた」 「麻衣、まずは温泉で暖まろう」 「うん」 宿についた俺達は部屋に備え付けのタオルと浴衣を持って大浴場に向かった。 残念ながら混浴ではないようだ。 脱衣所で服を脱いだとき、下着まで濡れてたことに今更ながら気付いた。 「これじゃぁ、乾くまで着れないな」 それよりも冷えた身体を暖めたかった俺はさほど気にせず温泉に入った。 ゆっくり温泉につかって部屋に戻ると、麻衣が先に戻っていた。 「早いな、麻衣」 「う・・うん」 「ちゃんと暖まったか?」 「それはだいじょうぶ・・・」 なんだか顔が少し赤みがかっている。 「顔が赤いけど、熱があるのか?」 俺は麻衣の熱をはかろうと近づこうとした。 「え、わわぁ」 麻衣は慌てたように壁際に後ずさった。 慌てたため少しはだけた浴衣から見える足が妙にまぶしく見えた。 俺は慌てて目線をそらして、話題を変えることにした。 「そ・・・そういえば夕飯はどうしようか」 急な宿泊の為俺達の夕飯は宿の方で用意できなかった。その分宿泊費が 安くなってるので問題はないのだが、やはりお腹がすいた。 「近くのコンビニで何か買ってくるしかない・・・よな」 「そう・・だね」 「それじゃぁ、俺がひとっ走り行って来る」 俺は浴衣のまま出かけようとしたとき、麻衣が 「何かはいていったほうがいいとおもうよ」 顔を真っ赤にして言った。 ・・・そういえば、浴衣の下は何も着てなかったっけ。 俺は慌てて濡れたジーンズをはいて、その上から浴衣を着直す。 「お兄ちゃん・・・あのね・・・」 「なんか買ってきて欲しいものあるか?」 「下着」 麻衣が小声で何かをしゃべった。 「ごめん、良く聞こえないから」 俺は麻衣の方に近づいて聞こうとしたとき、麻衣はまた俺から距離を置く。 「麻衣?」 「お兄ちゃん・・・その・・・私の・・・下着」 「あ・・・」 そうだった、俺の下着まで濡れてたように麻衣の下着も濡れてたのだろう。 そうなると、今の麻衣は浴衣の下には何も着ていない・・・ 俺は思わず麻衣の方を見てしまう。 その視線に麻衣はただ顔を赤くしてうつむくだけ・・・ って、いけないいけない。 「ご、ごめん。すぐ買ってくる!」 俺は慌てて部屋から飛び出した。 その後コンビニで女性用下着を買うという、非常に恥ずかしい経験をした。 別にやましい事はしてない! ・・・はずだが、店員さんの目線が痛かった気がした。 おにぎりやサンドイッチを食べて、麻衣とおしゃべりして。 そんな静かな夜が更けていった。 「そろそろ寝るか?」 「うん、そうだね。」 「歩き疲れたからな、ぐっすり眠れるな」 「そうだね・・・ふぁぁ」 麻衣はしゃべりながら大きなあくびをした。 「お休み、麻衣」 「お休み、お兄ちゃん」 電気を消して布団に入る、今日はいろいろあったけど悪くはなかった、かな。 そっと目を閉じて、心地よい眠りに身を任せ・・・ ・・・眠れない。 いつもと違うこの状況に身体が眠りを拒絶してるようだ。 「枕が変わると寝れない、って訳じゃないんだが・・・」 「お兄ちゃん?」 「麻衣? 起こしちゃったか? 悪い」 「ううん、私も眠れないの」 「そうか」 「うん・・・」 「・・・」 「・・・」 暗闇の中、無言になる二人。 「・・・お兄ちゃん、ごめんなさい」 「麻衣?」 「私があの時、寄り道しなければきっとお家に帰れたと思うの。  お姉ちゃんが美味しいご飯つくって待っててくれたのに・・・」 「・・・麻衣」 「お姉ちゃんにも悪いことしちゃった・・・」 「麻衣!」 俺は隣の布団で寝ている麻衣を強引に抱き寄せた。 「お兄ちゃん?」 「麻衣が悪いわけじゃない、寄り道なら俺だって行ったんだから同じだ」 「でも・・・んっ」 俺は麻衣が反論するよりも早く、麻衣の口をふさいだ。 「それに、あの温泉は良かったぞ? 麻衣の水着姿もみれたんだから」 「・・・お兄ちゃんのえっち」 「今更気付いたのか?」 「ううん、知ってた」 「なら問題ないだろう?」 「・・そうだね、私もお兄ちゃんとおなじくらいえっちだし」 「知ってる」 「もうっ、お兄ちゃんったら」 そう言って麻衣はそっと俺の唇に触れてくる 「姉さんには明日二人で謝ろうな」 「うん」 「これで安心して眠れるな」 「でも、ないんじゃない? お兄ちゃんの・・・当たってる」 「・・・それは、その・・・麻衣だからな」 「お兄ちゃんのえっち・・・でも、大好き」 翌日、復旧した列車にのって満弦ヶ崎まで無事帰り着いた。 家についたとき、姉さんは出迎えて俺達を抱き留めてくれた。 大丈夫とは伝えたけど、やっぱり心配だったようだ。 俺達二人で姉さんに謝って、それから昨日の夜に用意された姉さんの 料理を温め直してみんなで美味しくいただいた。 1日遅れの、麻衣の誕生日パーティーだった。 「お兄ちゃん、今回の宿泊費大変だったでしょ?」 「だいじょうぶ、こういうときのための貯金だからな」 「それでも悪いよ・・・そうだ、私も左門でバイトするね」 「え?」 「菜月ちゃんいなくて大変でしょ? 私もバイトすれば貯金できるし  それにね・・・」 「それに?」 「お兄ちゃんと一緒にいられる時間が増えるから!」 麻衣はまぶしい笑顔でそう答えた。
7月11日 ・D.C.II sideshortstory  「あ、おはよう弟くん」  「おはよう、音姉、由夢」  「!」  いつものように音姉と由夢に挨拶を・・・いつものように?  由夢の顔がなんか急に赤くなってる。  「由夢、顔が赤いけど熱でもあるのか?」  俺が様子を見ようと由夢に近づくと  「や・・・なななな、なんでもないです!」  近づいた距離の倍も離れてしまった。  「?」  「あ・・・えと、ごめんなさい、委員会があるから先にいくね」  そういうと由夢は走って去ってしまった。  「・・・」  「弟くん、由夢ちゃんとまた喧嘩したの?」  「またって・・・今回は何もしてないと思うんだけど」  「弟くんにとってなんでもなくても由夢ちゃんにとっては大変な   何かがあったのかもしれないよ?」  「そう言われても・・・」  「弟くんは男の子なんだから、もっと女の子を大事にしないとね?」  「あの・・・前部俺が悪いんですか?」  「弟君だもの」  「・・・」  「返事は?」  「・・・はい、善処します」  昼休みが始まってすぐ、俺は生徒会室に向かった。  今日は由夢がみんなの分のお弁当を作ってきてくれてる・・・はず。  「朝の様子だと期待できそうに無いけど・・約束だし」  致命的な腕前だった由夢も今では人並みに料理出来るようになってきた。  今では俺と音姉と、3人で交代でお弁当を作るようになるほどだ。  「失礼しまーす」  生徒会室の扉をノックしてから部屋に入る。  「いらっしゃい、弟くん」  「来るの遅いぞ! 弟くん」  部屋には音姉と、まゆき先輩が待っていた。  ご飯をまたされてるまゆき先輩は手ぐすね引いて待っているというのが  ぴったしだ。  「弟くん、何か今失礼なこと考えなかった?」  「・・・そ、そんなわけないですよ」  鋭い。  「それじゃぁお昼ご飯食べましょう」  「音姉、由夢は?」  「妹くんは用事があるんだっていってお弁当だけおいてったんだよ。   弟くん、何かしたの?」  「なんでまゆき先輩まで俺のせいにするんですか?」  「だって、弟くんだもの」  「・・・」  音姉もまゆき先輩も俺をなんだと思ってるんだろう?  「弟くんは前科があるからね」  まるで俺の考えを読んだようなまゆき先輩。  「お昼休み終わっちゃうから食べましょうか」  由夢の作ったお弁当は美味しかったが、由夢がいないせいか  今ひとつ美味しく感じなかった・・・  放課後、俺は校門の所で由夢を待つことにした。  教室まで押し掛けていくことも考えたが、それだと由夢の機嫌をさらに損ねる  可能性があるのでやめておいた。  「・・・遅い」  そういえば、以前由夢が校門の所で俺を待ってた事があったな。  あの時もこんな気持ちだったのだろうか?  ・・・  なんで俺はこんな事してるんだろうな?  昔の俺なら腹が立ってきてとっとと帰ってしまう所だが、今は違う。  寂しがり屋の妹のためではなく、寂しがり屋の彼女の為だから。  「・・・?」  ぽつ、ぽつと雨が降り始めてきた。  雨は急激に大降りとなり、俺の身体を容赦なくうち付ける。  どこかに雨宿りしないと、と思う反面ここでこの場所から動くと今日は由夢に  もう会えない気がする。  雨にうたれながらただひたすら由夢の事を待つ。  「兄さん! 何してるんですか!」  しばらくして俺が聞きたかった声が、やっと聞けた。  「よぉ、遅かったな」  「遅かったな、じゃないですよ。雨降ってるんですよ? 傘は?」  「持ってたらさしてる」  「こんなにずぶぬれになって・・・何してるんですか!」  「悪い、由夢を待ってただけだ」  「っ!」  俺の返事に泣きそうな顔になる由夢。  「なんで・・・」  「俺、もしかしたら気付いてない内に由夢に悪いことしたのかなって思ってさ   謝りたくて・・・」  「そんな、兄さんは何も悪いことなんてしてない! 悪いのは私の方・・・   ごめんなさい、兄さん」  そう言って俺の胸に顔を埋める由夢。  「濡れるぞ?」  「いいんです、兄さんと一緒なら」  「風邪ひくぞ?」  「いいんです、兄さんが看病してくれますから」  「俺が風邪ひいたら?」  「だいじょうぶ、兄さんは風邪なんてひかないですから」  ・・・なんか酷い言われような気がする。  「でも・・・その時は私が看病します」  「それで・・・何で俺をさけてたんだ?」  「・・・こうなることがわかってたからです」  こうなること、それは由夢と一緒に風呂に入ってることだ。  雨に濡れて帰ってきた俺達は風邪をひく前に身体を暖めるために風呂に  入ることにした。  由夢を先に、俺を先にとお互いを譲らない言い争いの後お互い同じタイミングで  くしゃみをしてしまい、照れながら一緒に、ということになったのだ。  「視たのか?」  視る、それは由夢の魔法使いとしての制御できない能力、夢視。  先の未来を「視てしまう」ことだ。  「うん、だから恥ずかしくて・・・」  俺はそんな由夢をみて思わず笑ってた。  「に、兄さん! 笑うなんて酷いです!」  「ごめんごめん、だって今更だからさ」  「今更でも恥ずかしいことは恥ずかしいんです。   兄さんはデリカシー無さ過ぎです!」  「悪い悪い・・・」  そう言って俺は後ろからそっと由夢を抱きしめる。  狭い浴槽、こうしていないと一緒に入れない。  「由夢、視たのはここまでか?」  「うん、でも・・・視なくてもこの先はわかるよ。だって・・・   お尻に当たってるんだもの」  「・・・身体暖まったか?」  「・・・うん」  「それじゃぁ、俺の部屋に・・・」  由夢はうつむいたまま、頷いた。  「あ、おはよう弟くん」  「おはよう、兄さん」  翌朝、いつものように二人と一緒になる。  「おはよう、音姉、由夢」  由夢の顔はちょっと赤いようだが、昨日のように逃げることはなかった。  「うん、弟くん、偉い!」  突然音姉が俺に抱きついてきた。  「ちゃんと由夢ちゃんに謝ったんだね。偉い偉い」  俺の頭を嬉しそうになでる音姉  「音姉、これじゃ歩けないって」  「いいのいいの」  このとき俺は背後から冷たい視線を感じて背筋が震えた。  「仲がよろしいんですのね。や、妹としてはお邪魔するのも悪いので   先に学校行きますね」  そう言って由夢は先に歩いて行ってしまった。  「・・・」  「・・・」  「お、弟くんは男の子なんだから、も、もっと女の子を大事にしないと・・・   ね?」  「音姉?」  大きな汗をかきながら音姉は顔を背ける。  「・・・」  「・・・」  「了解」  「うん、がんばってね! 弟くん」  ・・・理不尽。
7月10日 「静かだね、お兄ちゃん」 「そうだな」 「私たちの他には誰もいないみたい」 麻衣は温泉に浸かりながらそっと俺の肩に寄り添ってきた。 俺は麻衣の肩に手を回して抱き留める。 川のせせらぎの音と、風が木々を揺らす静かな音しか聞こえない秘湯。 その秘湯に俺達は来ていた。 8月3日、麻衣の誕生日。 いつからだったか、いや、それは忘れもしないあの時。 麻衣が俺の妹から恋人になった年から、麻衣の誕生日には二人きりで 出かけることになった。 学生である俺には先立つものがないため、ちょっとした遠出しか出来ないが 麻衣はこのお出かけを楽しみにしてくれた。 今年はほんのちょっとだけ遠くに、ハイキングにした。 静かな森林の中、風がそよぐ音しか聞こえないようなハイキングコース。 麻衣と二人で汗だくになりながらハイキングを楽しむ。 「お兄ちゃん、川の流れる音がするよ?」 麻衣がそう言うのと同時に俺は地図を取り出す。 「この近くに川が流れてるけど、コースからは外れるみたいだな」 「行けるかな?」 「道はあるからだいじょうぶみたい。」 「行こっ!お兄ちゃん」 そう言って俺の手をとって駆け出す。 ハイキングコースから脇道にそれてしばらく歩くと綺麗な川が目の前に現れた。 「わぁ・・・水が綺麗だよ、お兄ちゃん!」 「そのまま飲めそうだな」 俺はそっと川の水を両手ですくう。 「わわ、飲むの?」 「顔を洗うだけだよ」 そういってからおもいっきり顔に水をかける。 冷たい川の水が顔面を刺激する、生き返るようだ。 「私も!」 麻衣もまねをするように顔を洗った。 「つめたくて気持ちいい!」 「ねぇ、お兄ちゃん。あの立て札なんだろう?」 「立て札?」 麻衣が近辺を歩き回っていた、その先に何かあるらしい。 俺は麻衣の所までいってみると、さっきいた場所から死角になった場所、 少し川の上流に何か立て札らしき物が見えた。 「行ってみない?」 「そうだな」 その立て札には温泉の案内が書かれていた。 「温泉だって、入っていかない?」 「俺は構わないが・・・」 案内によると、もう少し上流に温泉がわき出てるそうだ。 地図で確認してみたが、載っていない。本当にあるのだろうか? 「まぁ、いってみるか」 「うんっ!」 河原沿いに上流に向かって歩いてく。 すぐに温泉らしき物が見えてきた。 「ここが温泉なんだ、すごいね!」 「あぁ・・・」 河原の横、というか河原だな。 川とはつながってはいないが、お湯がたまってる一角がある。 その自然に出来た岩の浴槽、というか岩を集めて作ったらしい浴槽。 その中から泡が出ている。源泉かけ流しっていう物だろう。 「ねぇ、暖かいよ?」 「どれどれ」 麻衣が手を入れてる所に俺も手を入れてみる。 確かに暖かいお湯だった。 「お兄ちゃん、折角だから入っていかない?」 「それは構わないが・・・ここ外だぞ?」 「だいじょうぶ、こんな事もあろうかと水着を持ってきました!」 そう言うと麻衣はリュックから水着を取り出した。 「準備いいな・・・」 「うん、本当は川があったときの為だったんだけどね」 麻衣は照れながらそう答えた。 「俺は水着持ってきてないぞ」 「お兄ちゃんは男の子だからタオルだけでだいじょうぶ、ね?」 麻衣に上目つかいで言われると俺は弱い。 「・・・そうだな。まぁ、なんとかなるだろう」 そういう訳で、秘湯と呼ばれるような温泉に二人っきりでつかっていた。   「ちょっとのぼせちゃったかなぁ」 そう言って立ち上がる麻衣。 水着に着替えて、まわりには俺以外の人がいないのだが何故かTシャツを 羽織っていた。 なんでTシャツ着てるのか? と訪ねたら 「もしも、お兄ちゃん以外の人がここにきたら、恥ずかしいから」 だそうだ。女心は俺には良く分からない。 俺はタオルを腰に巻いただけで入浴してるのだから、俺の方が よっぽど恥ずかしいのだが。 「そうだな、そろそろ戻るか。だいぶ寄り道しちゃってるからな」 「うん、それじゃぁお先にあがるね。それと、こっちを見ちゃだめだからね?」 「・・・あぁ」 俺達は温泉からあがり、お互い背を向けた状態で着替え始める。 麻衣は大きなバスタオルを身体に羽織って着替え、俺はそのまま身体をふいて 服に着替えた。 着替え終わった俺は空を見上げる、心なしか雲が多くなってきたように見える。 「おまたせー」 「あぁ、それじゃぁコースまで戻るか」 「うん!」
[ 元いたページへ ]