フィーナ誕生日記念SS 瑠璃色の夜
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フィーナ誕生日記念SS
瑠璃色の夜


「ふう・・・」
 ホールの控え室に戻った私の口からでたのは言葉ではなく、
 ため息だった。
 今日は私の誕生日、王国上げての祝賀会が開かれた。
 午前中は王宮のテラスからお祝いに来てくれた国民への挨拶。
 休む間もなく、地球からお祝いに来てくれた高官達との会合。
 午後も何度かテラスへでての挨拶。
 夕方からパーティーが開かれた。でも、それはいつものパーティーと
 一緒。気が休まらない、姫という立場で常に見られるパーティー。
「少し前までこんな事気にならなかったのに・・・」
 今日行われた公務も、いつもとそう大差ない。
 姫という立場で見られる会食やパーティーもいつもと同じ。
 違うのは、月と地球の会合の後の会食ではなく、私のためのパーティーと
 言うことだけのはず。
「違い・・・じゃないわね」
「姫様、どうなされました?」
「いえ、なんでもないわ。ありがとう」
 近くに寄ってきたメイドの一人の気遣う言葉に感謝の言葉を伝えつつ、
 私はこの違いに気付いていた。
 違いではなく、違和感。
 当たり前の公務、当たり前の会合、当たり前の会食、当たり前のパーティー。
 姫として当たり前のことが、私にはちょっと不満になっていた。
 もちろん、姫の立場が不満というわけではない。
 ただ、ちょっと・・・
「達哉・・・」
 自然と口からでてくる、愛しい人の名前に気付かされる。
 そう、今足りなくて欲する者。ただ、達哉に祝って欲しかった。
「それは無理な事よね」
 月に居る私の所に達哉がそう簡単に来れるわけがない。
 地球に居る達哉の元に、私がそう簡単に行けるわけがない。
 お互いやるべき事を成す為に月と地球に別れて今を生きる二人。
 わかっている、わかっているのに・・・
「達哉・・・」
 口をついて出るのは、愛しい人の名前。

「姫様?」
「・・・ミア?」
「お疲れのご様子ですけど大丈夫ですか?」
「これくらいで疲れるわけないのはミアが一番知ってるでしょう?」
「はい、でもちょっとご不満の様子でしたから」
 ミアがくすって笑いながらそう言う。
「何も不満は無いわ、今日は私の為に皆お祝いしてくれたんですもの。」
「でも、一番お祝いして欲しい方からはまだですものね」
 咄嗟に浮かんでくる顔は達哉。頬が熱を持つのがわかる。
「姫様、準備が整いましたのでお部屋に参りましょう」

 部屋に帰る傍ら、私は気になったことをミアに訪ねた。
「ねぇ、ミア。パーティーの前になんであんな事を言ったの?」
 パーティーが始まる前にミアは私に
「会食でのお食事は軽くしておいてくださいね」と言われていた。
「そのままの意味ですけど?」
 ミアは笑顔のままそう答えた。
 どちらにしろ、パーティーでは挨拶回りをするだけで精一杯、落ち着いた
 食事など出来るわけがない。そう思うと少し空腹を感じる。
 今はだいたい9時過ぎ頃、あの時は今頃から夕食だったわね・・・
 そう思うと余計にお腹がすいてきた。
「ミア、寝る前に軽く食事をとっておきたいのだけど」
「ご安心を、姫様。準備は整っております」
「そう、ありがとう」
「きっと姫様ならそう言われると思ってましたので」
「さすがはミア、準備万端ね・・・」
「姫様?」
 突然歩みを止めてしまった私にミアが怪訝そうな顔で尋ねてくる。
「・・ううん、なんでもないわ」
 何かがおかしかった。
 パーティーの前に食事を控えるように言うミア。
 私の空腹を予兆していて食事の準備をしてたミア。
 何かが私の知らないところで動いている。
「ねぇ、ミア。何か隠し事・・・」
「姫様、お着きになりました!」
 私の言葉を遮るようにミアは私の部屋の前に立つ。
「それでは扉をあけますね」
 慌てるようなミアの素振りに私は確信した。
「ミア? 貴方、私に・・・」
 私の声は扉が開いた瞬間にとぎれた。

「フィーナっ! 誕生日おめでとう!!」
 そこには見慣れた、地球での私の家族の姿があった。


 私が何か言う前に、私の前の家族達はメッセージを伝え始める。
 そう、そこにあったのは大きなスクリーン。
 映っているのは地球でお世話になった家族のみんな。
 もちろん、達哉もいる。
「フィーナさん、誕生日おめでとう!」と、麻衣
「本当は私たち全員でお祝いに駆けつけたかったのだけど・・・」
 申し訳なさそうに話すさやか。
「やっぱり月には簡単にはいけなかったの」と、菜月。
「だから、変わりに豪華ディナーをお届けすることにしたのさ」と
 歯を光らせて仁さんが言う。
「そういうこった。つくった食材を届けるからそっちについたら
 ミアに作ってもらうといい。本当は作りたてを届けたいのだがな」
 料理の腕を振るいきれない事が残念そうな左門さん。

「すでに調理の方は終えてます、姫様」
「ミア、これを秘密にしてたのね?」
「も、申し訳ございません」
「ううん、いいのよ。折角左門さんがくださったお食事ですもの。
 いただきましょうか?」

「そういうわけで・・・」
スクリーンの中の左門さんが料理を手にもつ。
「タツ、姫様のテーブルまでお運びしろ」
「はい」
 そういえば、このビデオレターが始まってから達哉はじっとしていた。
「じゃぁ、後はよろしく!」
「しっかりね、お兄ちゃん!」
「ちゃんとテーブルまでお届けするのよ?」
「気をつけてね」
 みんなが達哉を送り出すような言葉を・・・送り出す?
「それじゃぁ・・・」
 スクリーンの中の達哉が私に近づいてくる。
 そして・・・

「フィーナ、誕生日おめでとう」
 左門さんの料理を持ってスクリーンの中から達哉があらわれた。

「・・・達哉?」
「なんだい、フィーナ?」
「達哉なの?」
「俺の顔、忘れたのかい?」
「そんなわけないっ! 一時たりとも忘れるわけない!!」
 近くの机にそっと料理の乗ったトレイを置く達哉。
「フィーナ・・・」
 私は自然と、達哉の胸の中に飛び込んでいた。
「達哉っ!」
「フィーナ」
 達哉はそっと抱きしめてくれた。


「あらあら、お熱いことで」
 突然横からのんびりとした声が聞こえてきた。
 私ははっとなって、達哉から離れる。
「クララっ、いつからそこに・・・」
「姫様、お久しぶりでございます」
「あ、えぇ、久しぶりね」
「私は最初から居ましたわ」
「来ているならそう言ってくれれば・・・」
「私のことは気になさらないで、続きをどうぞ」
「クララ」
「冗談ですわ」

「お母様と一緒に左門さんから送られてきた料理をもう一度
 調理してたんですよ、姫様」
「ミアだけでも充分なんですけどね、時間が無かったから
 お手伝いさせてもらったの。地球の料理の勉強にもなるし
 一石二鳥だったわ」
「そう、ありがとう。クララ、ミア」
「いえいえ、姫様の為ですから」
「それよりも達哉、いつ月に来たの?」
「実はついさっき、1時間くらい前かな? 学校終わってからすぐに
 飛んできたからさ」
「飛んできたって・・・」
「その通り、文字通り飛ばした」
「リース?」
 いつの間にかリースが料理が並んでいるテーブルの椅子に座っていた。
「美味しいご飯の為って、達哉に頼まれた」
「そう言うこと」
「軌道重力トランスポーターを使ったのね」
「今の地球の技術では、トランスポーターの使用状況を察知されない」
「往還船だと地球政府の許可も必要になりますからね」
 リースの説明にミアが捕捉する。
「達哉、あまり無茶はしないで・・・」
「ごめん、フィーナ。でもどうしても今日フィーナにあいたかったから」
「達哉・・・」
 その時扉をノックする音が聞こえた。
「っ!」
 私は息を呑んだ、達哉が軌道重力トランスポーターを使ってきたと
 言うことは密航になる。
 ミアや私だけならなんとかごまかせるが他の人だと誤魔化しきれない。
「あらあら、何方かしらね」
 クララは微笑みながら扉の方に向かっていく。
「クララ、ちょっとまって! 達哉! 隠れないと!!」
 クララを止めようと扉に向かう私の前で無情に扉は開かれた。
 開け放れた扉の向こうには、私の良く知っている人物が立っていた。
「お父様っ!」
 お父様は部屋の中を見回してこう聞いてきた。
「誕生パーティーの会場はここでよいのかな?」


「じゃぁ、全てみんな知ってたのね」
 机に全員が座って食事を初めてみなの話を聞いた私はほっとしていた。
 今回の達哉の渡航、お父様の許可を得ていたなんて・・・
「国王陛下、改めてお礼を言わせてください。今日の月への入国の・・・」
「達哉殿」
「は、はい」
「今の私はそこにおる、フィーナの父親だよ。国王陛下なんてものじゃない」
「お父様」
「今は、娘の誕生日を祝い、娘の婿殿と一緒に食事をするただの父親だよ」
 達哉が固まっている、私はきっと顔中真っ赤にしてると思う。
「あらあら、ライオネス様は娘をとられてしまうのに、寛容なのですわね」
「クララ、違うぞ? 娘をとられるのではなく、婿をとるのだよ」
「そうでしたわね」
 お父様とクララったら・・・

「リース、美味しいかい?」
「・・・普通」
「そっか、美味しいのか」
「あら、リース。口元にソースが付いてるわよ?」
「本当だ」
「・・・気にしない」
「そうはいかないでしょう? 拭いててあげるわ」
「リース、フィーナに拭いてもらうといいよ」
 達哉がそう言っている間に私はリースの口元を拭ってあげる。
「ん・・・」
「あらあら、ライオネス様。もうお孫さんがいるみたいですわね」
「む・・・」
「お母様っ!」
 孫って・・・達哉と私の子供・・・
 きっと達哉に似てる可愛い男の子かな?
「フィーナ様、ご予定あるのかしら?」
「クララ!」

 この時達哉は「フィーナに似て可愛い女の子」を想像したって言って
 「俺に似て、可愛い男の子はないだろう?」って笑ってました。


「そろそろお暇しましょうかしら」
「あら、クララ。もう帰るの? もっとゆっくりしていけばいいのに。」
「もうお時間も遅いですし、私にはまだ用事がありますからね」
「用事?」
 もうすぐ日付が変わろうとする時間に用事だなんて、何かしら?
「そうですよね、ライオネス様。少しお付き合いしましょうか?」
「そうだな・・・少し飲みたい気分だから頼む」
「はい、ではミア。食器を下げたらミアも下がりなさい」
「はい、お母様」
 ミアとクララが手早くテーブルの食器をカートにのせ始めた。
 もう、みんな帰る時間。達哉も今日はゲストルームに泊まるのだろう。
「タツヤ、明日迎えに来る」
「あぁ、リース。ありがとう。」
「うん」
「それでは姫様、お休みなさいませ」
「フィーナ、明日は休みと言えあまり夜更かしはするなよ?」
「あらあら、ライオネス様。無粋な事を仰ってはいけませんわよ?」
「む・・・だが・・・」
「はいはい、愚痴は後でお聞きしますわ。それでは姫様、ごきげんよう」
 私が何かを言うまもなく、みんな去って行ってしまった。
「達哉もゲストルームに・・・!」
 達哉の方を振り向こうとした私は後ろからそっと抱きしめられていた。
「達哉・・・」
「フィーナ・・・」



「あの時と同じね」
「あの時?」
「そう、最初に二人で夜明け前の空を見上げた、あの時と・・・」
 ベットの上で一糸まとわぬ姿の私は、達哉の胸に顔を埋めていた。
 そう、あの時初めて達哉と結ばれたあのベットの上と同じように。
 そして部屋から見える漆黒色の夜空の中に、あの時の空と同じ瑠璃色の
 綺麗な惑星が浮かんで見えた。
「同じじゃないと思うよ」
「・・・違うの?」
「あの時よりももっともっと、フィーナのことが好きになってる」
「・・・もぅ」
 私は顔を埋める、きっと真っ赤になってると思う。
 多分、達哉の顔も真っ赤になってる、これは確信。

「朝には帰ってしまうのね・・・」
「あぁ、カレンさんやリースに無理を頼んだからね、今回の渡航も
 正式には無かったことになっているみたいだから」
「残念だわ、明日のお休み二人でゆっくりと過ごしたかったのに・・・」
 せめて朝まで達哉と一緒の時間を過ごしたい、そう思うのにだんだんと
 瞼が下がってくる。
 ダメ、寝たら朝になってしまう。朝になれば達哉は帰ってしまう。
「フィーナ・・・朝までずっと一緒にいるから眠ろう」
「私、まだ達哉と話したいことが・・・」
 私の反論を封じるように優しい口づけ。そしてそのまま抱きしめてくれる。
「達哉・・・」
「お休み、フィーナ」
 達哉の甘いささやきに私は身と心を委ねながら、深い闇に落ちていった。


「・・・ん」
 暖かい鼓動の中、目覚めはとても快適に訪れた。
 寝ぼけた思考がこの鼓動をずっと感じていたいと欲する。
「ふふっ」
 達哉と一緒の幸せな夜を思い返すと自然に口元がほころぶ。
 やっぱり達哉と一緒だと安心して眠れるわね。
 これが地球だったら暖かい日差しで目覚めを迎えれるのに、と思いながら
 枕元の時計を見ると・・・
「えっ!!」
 私は慌てて達哉の腕をふりほどいてベットから降りた。
 この時間なら休みでも誰かが起こしに来る時間。それも相当過ぎている。
 こんな姿をミア以外のメイドに見られたら・・・
 慌ててドレスを着ようと思い、ふと机の上に便せんが置かれているのに
 気付いた。
 昨日の夜、クララとミアがかたづけた後には何もなかったはず・・・
 どうにも気になって便せんを手にとってメッセージを読んでみた。
「クララったら・・・」
 便せんには今日のメイドの当番は担当を変わってもらいミアになっていること。
 今日が公務がお休みということで、呼ばれるまで姫様の時間ということで
 誰も入室しないようになっていることが書れていた。
「ここまで用意周到なのも、ちょっと悔しいわね・・・」
 私のためというのも差し引いてもここまでつくられたシナリオ通りというのは
 気に入らない。
「・・・そうだわ」
 私はとある考えを思いつき、そして・・・
「2度寝も良いわね、今日はお休みですもの。
 「私が誰かを呼ぶまで部屋にはだれもこない」のですからね」

 こうして今日いっぱい、部屋に誰も呼ばずに達哉と一緒に過ごしました。
 達哉の帰りのスケジュールをめいっぱい押し込んで、ね。

 ねぇ、達哉。今度の達哉の誕生日には、私が達哉の元に行くわね。
 もちろん、今日のお礼ということで驚かせてあげる。
 楽しみにしててね、達哉。

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