夜明け前より瑠璃色な Another Short Story -if-


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・夜明け前より瑠璃色な Another Short Story -if- Episode 4.0「変わったもの」 another view カレン・クラヴィウス 「さやか、最近少し変わりましたね」 「そう? 私はそうは思わないけど・・・」 「そうですか、さやかは自覚が無いというわけですね」 「ん、もう、カレンったら意地悪な言い方ね」  そう言って笑うさやかの笑顔は以前よりまぶしく見える。  家族の麻衣さんが倒れた頃からどんどん思い詰めていくようだったさやかが  今は逆にのびのびとしているように見える。  それは、きっと抱えていた問題を克服したのだろう。  どういう問題があって、どういう答えが出たのかは私にはわからない。  そして私はその問題の解決に手を貸すことも出来なかった。  家族の問題に親友でしかない私は介入すべきではなかったからだ。  それと同時に私はさやかを信じていた。  きっとさやかなら大丈夫、と・・・ 「何、カレン。そんなににこにこして」 「・・・そんな顔してました?」 「えぇ、楽しそうな顔だったわよ?」  考えが表情に出るようでは私はまだまだ未熟・・・ですけど  親友の前ではそんな必要は無いかもしれない。 「ねぇ、カレン。今は忙しい?」 「特に急な用事とかはありませんが」 「なら、そのうちまた飲みに行きましょう。今なら美味しく飲めると思うの」 「さやかが酔いつぶれないと約束してくれるのならいつでも」 「もう、今日のカレンったら意地悪」 another view 鷹見沢菜月  ふと、私は達哉の姿を目で追っている自分に気づく。  最近の達哉が変わったから?  そう、最近の達哉は変わったと思う。  別に見た目が変わった訳じゃない、話し方とか癖とか、そういうのは  全く変わっていない。  ただ・・・達哉から感じる雰囲気というか、そう言う物が違う気がする。  バイト中もいつも背筋を伸ばして働いている達哉、前からそうだったけど  やっぱり何か変わったと思う。 「達哉、最近変わった?」 「ん? それどういう意味でだ?」 「それが私にも良くわからないのよ。ただ何かが変わった気がして・・・」 「そう言われてもな・・・菜月がわからないことが俺にわかるわけないだろう?」 「そうかもしれないけど・・・」 「別に俺は変わってないさ、朝霧達哉は朝霧達哉のままだよ」  そう言って笑う達哉の顔をみて、私はやっぱり達哉は変わったのだと思った。 「ねぇねぇ、菜月。最近の朝霧君達って変わったよね」 「翠もそう思う?」 「あったりまえじゃない、最近の朝霧君格好良くなったもん」  ・・・そうかもしれない、最近の達哉の変わり様を一言で言い表すと確かに  格好良くなったと思う。  外見が、じゃない。達哉の持つ雰囲気が変わったのだ。 「最近吹奏楽部でも話題になってるのですよ。麻衣のお兄ちゃんの事」 「そうなの?」 「そうそう、麻衣も変わったよ。なんていうか、可愛くなった?」  達哉のことばかり気にしてたけど、通学の時の麻衣は確かに以前より  明るくなったとは思ってたけど、可愛くなった?  ほとんど毎日会うから私にはそう思えなかったのだろうか?  そうだとすれば、達哉の変化も毎日会ってる私にはすぐにわからない  そう言う物だったのだろうか? 「それでね、他の子が麻衣に、お兄さんを紹介してくれって言うのよ。  もちろん麻衣は断ってるけどね」 「そりゃ、お兄ちゃんを紹介するっていうのは恥ずかしいと思うし」  思わず自分の場合を想像し・・・かけて止めた。  あれは紹介できるような兄じゃない。たまに真面目になるけどそれが  長続きしないのが欠点だと思う。  麻衣も同じような物なのだろうと私は思った、けど翠の言葉は私の  想像とは違っていた。 「それがね、麻衣はね、自分から自分の意志で会うように勧めたのよ。」 「え?」 「お兄ちゃんは回りくどい事が苦手だから、会うなら直接の方がいいよ、って」  もちろん下級生の子が上級生の先輩に直接会う機会なんてなかなか  ないから無理だろうけどね、と翠は続けて話してくれた。  ・・・なんだろう、何かがひっかかる。  この何かがつっかえたような感じは、一体なんだろう?  なんだかすっきりしない。  けど、それでもいいような気がする。達哉も麻衣も、最近までいろいろと  悩んでいたのだ。  その答えが出たから、二人とも以前の自分を取り戻したんだ。  きっとそうに違いない。  それでも何かが引っかかった、という感触は依然残ったままだった・・・
・夜明け前より瑠璃色な Another Short Story -if-               Episode 4.1「変わってしまったもの〜達哉〜」 「「「ごちそうさまでした」」」  3人で食べる夕食が終わる。  あの1件以来、ぎくしゃくした雰囲気はなくなり、姉さんはいつも微笑んで  麻衣はいつも笑顔でいる、変わらないあの日常が戻ってきた・・・  はずだった。少なくとも表面上では変わっていない。けど。 「それじゃぁ洗い物するか」 「お兄ちゃん、お願いね。私が拭くから」 「それじゃぁ私がしまう役ね」  3人で仲良くキッチンへ向かう。そして俺はお皿を洗い始める。  洗ったお皿から麻衣が水気をふき取って、そして姉さんがしまう。 「・・・」 「どうしたの? お兄ちゃん」 「いや、なんでもない」 「そう?」  俺と麻衣の身長差があるため、麻衣にお皿をわたすとき麻衣を見下ろすような  形になる。そうなると麻衣の部屋着の胸元の隙間にどうしても目が行ってしまう。 「達哉君、疲れてるの?」 「そんなことはないよ。」  姉さんの方を見ると、服の上からでもわかる大きな胸に目が行ってしまう。 「たださ、ちょっと気が抜けてるだけかもしれない」 「そう? それなら良いんだけど・・・」 「お兄ちゃん、何かあったらちゃんと相談してよね?」 「あぁ、わかった。」  洗い物が終わったので水道の水を止める。 「よし、ちょっとイタリアンズと散歩行って来るね」 「いってらっしゃーい!」 「気をつけてね、達哉君」  上着を着てイタリアンズのリードを持って、散歩に出かける。  少し足を延ばして物見が丘公園まで行くことにした。  夜の公園は人がほとんどいない、それでも一応確認してからリードをはなす。  そうして俺は芝生の上にごろんと横になる。  当たり前だがこの時期の公園の芝生は冷え込む、それでも俺の熱を持った  思考を冷やすにはちょうど良かった。 「何でこんなに意識しすぎているんだろう・・・」  問題が解決し元通り、いやそれ以上の絆で結ばれた俺達。  心の繋がりは以前よりしっかりとつながったと実感できる。  それだけ心に余裕が出来たからだろうか・・・  今までそんなに気にしてなかった「異性」を姉さんと麻衣から強烈に  感じるようになってしまった。  お風呂上がりのパジャマ姿の姉さんから香るシャンプーや石鹸の匂い、  そしてほのかに赤みがかっている姉さんの頬に。  部屋着の麻衣の胸元の隙間や、制服姿のスカートからのびるすらりと  した足に、麻衣から感じる甘いミルクのような匂いに。  自分で抑えきれないほどの異性を感じてしまっている。  その理由はもちろんわかっていた。  どんなきっかけではあるにしろ、俺は二人を抱いている。  唇の柔らかさ、その唇から発せられる甘い吐息。  胸の柔らかさ、そして・・・  あの夜だけのこととはいえ、俺の中にも二人が刻み込まれてしまった。  その快楽を俺は求めてしまっているのだ。 「・・・だめだ、俺はそれだけを求めているわけじゃない」  心がつながっただけでは俺は満足してないのか?  そんなはずはない、一時期離れていた心の絆を取り戻した夜の事を  思い出す。みんなで語り合ったあの夜の安らぎは忘れない。  だからこそ、俺のこんな欲求だけで、姉さんを、麻衣を見てはいけないんだ。  今で充分満足なんだ、なのに俺はこれ以上何を求める? 「・・・」  ・・・求めている物はわかっている、それは俺の記憶にあるあの快楽。  姉さんを悦ばせ、麻衣を何度も絶頂へ押し上げたあの記憶。  それを求めている。  食事の後の麻衣の言葉を思い出す。 「お兄ちゃん、何かあったらちゃんと相談してよね?」 「だからって、何て言えばいいんだよ・・・」  いきなり麻衣を抱きたい、姉さんを抱きたいだなんて言えない。 「・・・ふぅ」  身体の方は完全に冷え切ってしまったようだ。  尤も、頭の方はどうだかわからないが。 「とりあえず帰るか」  その場しのぎの解決策はないだろう。どうにかしないといつか俺は  姉さんや麻衣を襲ってしまう、それだけはさけないと。 「・・・」  何の解決策も浮かばないまま、おれは帰り道を歩き始めた。
・夜明け前より瑠璃色な Another Short Story -if-               Episode 4.2「変わってしまったもの〜さやか〜」 「お姉ちゃん、私課題あるからお風呂お先にどうぞ」 「えぇ、それじゃぁお先に入らせてもらうわね」  部屋に戻って着替えを持って脱衣所へ向かう。  脱衣所で着ている物を脱ぎ浴室へ入る。  普通の家庭用の浴室なのでそんなに広くはないけど、私は結構広く感じる。 「3人は難しいかしらね」  小さい頃みんなで一緒にはいった事を思い出す。  あのころの達哉君も麻衣ちゃんも可愛かったなぁ・・・  今は頼れる達哉君と可愛いだけじゃない麻衣ちゃんになってるけどね。  身体をあらってお湯につかる。 「ふぅ・・・気持ちいい」  自然と漏れる言葉は、ちょっと年寄りっぽいかな?  それでも1日の疲れをとるお風呂に入ってる時間は私のお気に入りだ。  目を閉じてゆっくりと疲れをとるようにお湯につかる。  普段は何も考えてない事が多いのだけど、今日は違った。 「達哉君」  私のはじめての人、達哉君。そのことを思うだけで頬が火照るのがわかる。  そしてあのときのことを思い出してしまう。  酔ったふりをして、実際に酔ってはいたけど、その勢いで告白して受け入れて  もらって、はじめての夜。  あのとき受けた衝撃は忘れられないだろう。  はじめて受け入れた時の衝撃と共に、すぐに受けた2度目の衝撃。 「ご、ごめん。姉さん・・・その、気持ちよすぎて・・・」 「いいの、達哉君・・・私の中が良かったんでしょう? 嬉しいわ」  その後優しく愛してくれた達哉君。  最初はお互いぎこちなかったけど、その日の明け方にはお互いで快楽を  呼びさます事ができるようになった。  でも・・・  あれから一度も抱いてもらっていない。 「私ってそんなに魅力無いのかしら・・・」  湯船から立ち上がって、浴室内にある鏡を見る。  小さな鏡では全身を映すことはできない。  仕方が無く自分の身体を見下ろしてみる。  まず目に付くのが大きな二つのふくらみ。そのふくらみに隠れて  下半身の方は良くは見えない。  自分でおなかのあたりをさすってみる。 「・・・太ってはいないよね」  さすってる内に変な気持ちになってきた・・・ 「この辺・・・かな」  達哉君を受け入れた最奥の当たりをおなかの上からさわってみる。 「・・・駄目駄目、そんなに求めちゃ駄目」  私はシャワーを頭からかぶる。  達哉君には達哉君の事情っていうのがあるのだから。  それに・・・ 「女の子から求めるのって恥ずかしいし、やっぱりはしたない女の子って  思われちゃうの嫌だし・・・」  それくらいで達哉君が私のことを嫌いになるとは思わない。  それは心がつながっているからこそ、断言できる。  だけどやっぱり・・・ 「心だけじゃなくて身体の繋がりも欲しいわ、達哉君」  私はもう一度湯船につかる。  達哉君と、もちろん麻衣ちゃんと今以上に心と身体のつながりを深める  良い方法はないかしら。  またお酒の力を借りようかしら?  でもそれだと麻衣ちゃんに飲ませないといけなくなっちゃうから駄目ね。 「いっそのこと達哉君が襲ってきてくれれば良いのに・・・」  そんなことをしないのがわかっているのだけど、そう思わずにはいられなかった。 「それともあの本に書いてあるような事をすれば襲ってくれるのかしら?」
・夜明け前より瑠璃色な Another Short Story -if-               Episode 4.3「変わってしまったもの〜麻衣〜」  お姉ちゃんに先にお風呂に入ってもらった私は部屋に戻って課題をはじめる。  ・・・はずだった、のに。 「――」  声にならない声をあげて、私の身体から力が抜けていく。  口にくわえていられなくなったハンドタオルが枕元に落ちる。 「はぁはぁ・・・」  呼吸が落ち着くまでしばらくかかった。  落ち着いてきてから、私は濡れてしまったショーツを脱ぐ。  代わりのショーツに履き替えようとして・・・止めた。  すぐにお風呂にはいるのだから、その後でもいいかな。  濡れたショーツはハンドタオルにくるんで置く、あとで洗濯機にいれないと。  そしてそのまま、ベットの上に仰向けになって寝る。 「・・・お兄ちゃん」  お兄ちゃんが好きだって自覚した頃から自分でしてしまうことがあった。  最初の頃はただ気持ちいいなって思うだけだったけど、しばらくして  高みに上がっていけるようになって。  そしてはじめて一人でいったときは、その直後に罪悪感が押し寄せてきて  泣いてしまった。  こんな気持ちになるくらいならもう止めようとも思った。  けど、止められなかった。  高みへ上がっていくあの感覚が忘れられなくて、いつかはお兄ちゃんと一緒に  いきたいと思い続けてしまったから。  そして何度も泣いた。  その夢が叶った。きっかけは偶然だったけど、私はお兄ちゃんの手によって  その高みへといくことが出来た。  ただ、問題があったのは・・・ 「あんなに何回もだなんて・・・」  自分でするときは1回だけだったのに、あのときお兄ちゃんの手によって  何度も何度もいってしまった。  1日であんなになったのは初めてだった、そして私がすごくエッチな女の子だって  事を知ってしまった。  その後いろいろとあって、今はお兄ちゃんとお姉ちゃんと以前のように、  以前以上に仲良く暮らしている。  お兄ちゃんとお姉ちゃんと心がつながっている充足感もある。  けど・・・ 「あれから一度も求めてくれない・・・」  お兄ちゃんはあれから一度も私を抱いてくれない。  ただ抱きしめるだけならあるのだけど、最後までしてくれない。 「私って子供っぽいからかなぁ・・・」  お姉ちゃんと比べると、大きくない胸に細くない腰。  同じ年頃の女の子だってもう少し胸が大きいのに・・・  胸は揉んでもらうと大きくなるって友達が言ってたけど 「お兄ちゃん、揉んでくれるかなぁ・・・」  頼めば揉んでくれるだろうか? 「だめだめだめ、そんな恥ずかしい事頼めないよぉ」 「麻衣ちゃん、お風呂あいたわよ」  扉の外からお姉ちゃんの声が聞こえた。 「ありがと、お姉ちゃん。」  私は洗濯物と着替えを持って階段を下りていった。  下まで降りたとき、玄関の扉があいた。  外から入ってくる風が私の部屋着の短いスカートを軽く揺らした。 「!」 「ただいま・・・」 「お、お兄ちゃん?」 「なんだ、いまから風呂か。上がったら教えてくれないか?」 「あ、うん・・・」  そう言うとお兄ちゃんは階段を上がっていった。 「・・・見られてない・・・よね?」  その答えはわからなかった。 another view 朝霧達哉  散歩から帰ってきたとき、麻衣が風呂に入る直前だった。  それは問題ない。  扉を開けたときに麻衣の短い部屋着のスカートが外の風で軽く翻って 「・・・」  お尻の丸みが見えた気がした。普段だったらパンツに守られているはずの  場所だったような気がする。 「・・・駄目だな、そんな幻影を見るようじゃ俺は本当にいつか襲いかねない」  それだけは駄目だ。  ・・・仕方がない、姉さんと麻衣に申し訳ない気もするが、襲うよりはマシだ。  俺は本棚の中に隠してある本を取りだそうとして・・・ 「・・・あれ?」  本の配置が俺の記憶と微妙に違う。  もしかして・・・見つかった?  その事実に血の気が引くのを感じた。  あれは友人からもらった物・・・と言い訳しても意味がない。  持っているのがばれた段階で終わりなのだ。  ・・・いや、見つかったかどうかはまだわからない。  きっと俺の記憶違いに違いない。だからといってこのままでは何れ見つかる。  俺は隠し場所を変える事に精一杯で幻のことを忘れることが出来たのは  不幸中の幸いだった・・・ another view end
・夜明け前より瑠璃色な Another Short Story -if-                     Episode 4.4「変わらないもの」 「ねぇ、達哉君。今日はみんなでお風呂入ろっか?」 「・・・はい?」  イタリアンズの散歩から帰ってきた俺を出迎えてくれた姉さんの最初の  言葉の意味が、俺はすぐに理解できなかった。 「昔みたいに頭洗ってあげるね、達哉君。」 「・・・えと?」  昔みたいに一緒にお風呂に入る?  誰と誰が?  俺と姉さんが? 「それじゃぁ背中は私が流してあげる」  姉さんが頭を洗ってくれて麻衣が背中を流してくれる? 「昔は良く背中の流しっこしたよね」  確かに幼い頃は一緒にお風呂に入った記憶もある。  姉さんと麻衣と・・・そのときの記憶は残念ながら鮮明に思い出せない。  覚えてるのは姉さんと麻衣と一緒にお風呂に入った記憶、という記録だろう。  思い出せないのは残念・・・いや、そうじゃなくて。 「ほら、達哉君。準備しないとお風呂入れないわよ?」 「お姉ちゃん、私たちも着替えてこようよ」 「・・・着替え?」 「もちろん、水着を着て入るのよ。」 「水着?」 「あー、お兄ちゃんもしかしてえっちなこと考えてた?」 「・・・」 「お兄ちゃん?」 「・・・えと、確認していい?」 「どうぞ、達哉君」 「俺はこの後水着を着て姉さんと麻衣と一緒にお風呂に入るって事?」 「その通り、良くできました♪」  確認する事でその異常性を俺はようやく認識した。 「って駄目駄目!」 「何で?」 「何でって・・・その、さ・・・俺は男で姉さんや麻衣は女の子の訳で」 「だから水着着るんだよ?」 「いや、その・・・」 「お兄ちゃん、私たちと一緒にお風呂入るの・・・嫌?」  麻衣の下からのぞき込むような視線のお願いは、俺は断る術をしらない。 「ま、まぁ・・・水着着てるのなら問題ないか」 「うん、ありがとうお兄ちゃん。お姉ちゃん、着替えに行こう!」 「それじゃぁ達哉君の方が速いと思うから先に入っててね」  そう言うと二人は自室へと向かっていった。 「・・・」  一体何がどうしたんだ? いや、それよりも今は一緒にお風呂に入るって  言うことの異常性をどうにかしないといけない。  姉さんと麻衣を抱いてから俺は2人の「異性」を必要以上に意識してしまい  それを抑えるのにかなり努力をしている。  そういう状態の俺が水着姿とはいえ、お風呂に一緒に入るということは。 「・・・やばいな」  それこそ二人を襲いかねない。  かといって今更断るわけにもいかないだろうし・・・ 「・・・とにかく何とか乗り切ることにするしかないな」  自室に戻り水着に着替えて・・・ってのもなんだか変な気分だな。  言われたとおり先に風呂場へ行く。  脱衣所にはまだ誰もいない。  俺はタオルと着替えを置いて一人先に浴室へと入った。  タオルで身体を洗い、お湯をかぶった後お湯につかる。  そのとき脱衣所に続くドアが開いた。 「達哉君、お待たせ〜」 「お待たせ、お兄ちゃん」 「・・・」  そう言って入ってきた二人を見るなり俺は絶句した。  二人が着てるのはカテリナ学院指定の水着、いわゆるスクール水着という物だ。  姉さんは学院時代の物を着ているのだろうか?  「私ね、学院時代に成長止まっちゃったの」  と、いつか話してくれたことを思い出した。  確かに姉さんは家に来た頃から身長とかはのびていないと思う。  ただ・・・  きつそうな胸の所を見ると、そこは学院時代から成長したという証拠だった。 「た、達哉君。そんなに胸ばかり見ないで・・・」 「あ、ごめん」 「・・・むぅ」  恥ずかしそうな顔をする姉さんに何故か不機嫌そうな麻衣。  俺は視線を逸らした。 「それじゃぁ、達哉君。頭洗ってあげるからいらっしゃい」  俺は姉さんに言われたとおり、洗い場の椅子に座る。  姉さんは俺の正面に膝建ちになると、シャンプーの液体を手に垂らす。  俺の正面に膝立ち・・・ちょうどきつそうな胸が俺の目の間にある。 「それじゃぁ目を瞑っててね」 「私は背中の方を流してあげるね、お兄ちゃん」  そう言うと麻衣は石鹸をつけたタオルで背中を洗い始めてくれた。  姉さんは正面から俺の髪を、麻衣は背後から俺の背中を。  ・・・気持ちいいんだけどここは天国か地獄か。  目を瞑ってただやり過ごすことだけを考える。  髪を洗い終わり、麻衣が後ろからシャワーを浴びせてくれる。  シャンプーと石鹸まみれになってた俺はそのシャワーですべての汚れが  落ちていく・・・このまま俺の煩悩も洗い流せないだろうか? 「・・・達哉君」 「お兄ちゃん・・・」 「な・・・に!?」  俺の背中に麻衣が抱きついてきた。  俺の顔は姉さんの胸の中に抱かれていた。 「ねぇ、達哉君。何をそんなに我慢してるの?」 「お兄ちゃん、私たちじゃ何も出来ないの?」  ・・・まただ。  また、俺は二人に心配をかけてしまったのだ。  なんでここまでされなければ俺はそのことに気づかなかったのだろう。  何で俺はこんなに子供のままなんだろう・・・ 「心配かけてごめん、姉さん、麻衣。でも・・・俺は大切な人を傷つけようと」  俺の言葉は続かなかった。姉さんが抱きしめる力を強くしたからだ。 「ねぇ、達哉君。私たちは達哉君にとって何なの?」 「大切で、好きで愛してる人」  俺は迷うことなくそう答えた。 「そうだよ、お兄ちゃん。私たちだって人なんだよ?」  わかってる、当たり前じゃないか。そう答えようとして、でも言葉に出来ない。  間違ってないはずなのに間違ってるような気がしたからだ。 「達哉君が大切にしてくれるのはわかるわ。大切だから傷つけたくないというのも  わかるの。でもね、私は物じゃないわ、人なのよ。」 「・・・」  物じゃない、人・・・当たり前の事なのに・・・  俺は守るべき人という枠組みを押しつけていたのか・・・ 「・・・わかったような気がする」 「お兄ちゃん、本当にわかった? だったら私が何を求めてるかわかる?」 「・・・えっと」 「達哉君、私たちは達哉君との身体の繋がりも欲しいの」  身体の繋がり・・・ってそれはもしかして・・・ 「お兄ちゃんと心がつながっただけじゃ満足できないの。  私・・・お兄ちゃんが欲しいの・・・」 「私もよ、心の繋がりだけじゃ嫌。身体の繋がりも欲しいの・・・達哉君」  そのとき俺は唐突に理解した。  俺だけが姉さんや麻衣に異性を感じていたわけじゃない。  きっと姉さんや麻衣も俺と同じように相手に異性を感じていたんだ。 「姉さん・・・麻衣・・・」  俺は姉さんと麻衣の包容から一度抜け出して、逆に二人を抱きしめる。 「ごめん、心配かけた。それから・・・その、頼みがあるんだ」 「なに? 達哉君」 「あのさ・・・姉さんと麻衣を抱きたい。俺も心の繋がりだけじゃ  嫌だ。身体の繋がりも欲しいから」 「うん、いいわよ。私も達哉君に抱かれたいから」 「私も・・・お兄ちゃんの好きなように抱いて欲しい・・・」  俺はそっと麻衣と唇を重ねて、そして姉さんとも重ねる。  3人同時に出来ないのがもどかしい。 「くしゅんっ!」  麻衣が可愛いくしゃみをした。 「麻衣ちゃん、だいじょうぶ?」 「大丈夫だよ、お姉ちゃん」  いくら暖かい風呂場とはいえ、ずっと浴室にいるだけだったので身体が  冷えてきたのだろう。 「姉さん、麻衣。まずは暖まろうか」 「そうね、その方がいいわね」 「うん、お兄ちゃん、一緒に入ろう!」 「それじゃぁ、もうこれは必要ないわね」  そう言うと姉さんは俺の目の前で水着を脱ぎだした。  麻衣も同じように水着を脱ぎ出す。 「ほら、お兄ちゃんも!」 「えっと・・・恥ずかしいですけど?」 「あら? 達哉君は女の子にだけ恥をかかせるつもりなのかしら?」 「・・・姉さん、ずるい?」 「女の子はずるい生き物よ、達哉君」 「お兄ちゃん、隙あり!」  いつの間にか背後に回っていた麻衣が俺の水着をおろそうとして・・・ 「あれ?」  失敗した。何故かというと・・・その、姉さんや麻衣の裸を見てしまった俺は 「・・・達哉君、元気ね」 「姉さん、そうまじまじと言われると恥ずかしいんですけど・・・」 「でも、お兄ちゃんは私たちをみてそうしてくれたんでしょう?  なんだか嬉しいな」 「・・・そういうものか?」 「そう言うものよ、達哉君」  狭い浴槽に3人そろって入っている。  俺が最初に入って、俺の胸に背中を預けるようにして姉さんが入って、  その姉さんの胸に背中を預けるようにして麻衣が入った。  俺は姉さんと麻衣を同時に抱きしめながら、お湯と姉さんのぬくもりに  触れていた。 「暖かいわ・・・達哉君と麻衣ちゃんとつながってるって実感できる」 「私も、お兄ちゃんとお姉ちゃんとつながってるんだなってわかるよ」 「俺もだ、これが心の繋がりなんだよな」  ただ一緒にお風呂に入ってるだけなのに、すごく心が温かい。  みんな同じ暖かさに満たされてると思うと、俺自身が満たされてくる。 「でも・・・達哉君は身体の繋がりも求めてるの良くわかるわよ?」  確かに、俺の腕の中に姉さんがいるわけで、きっとお尻の辺りに当たって  しまっているはずだから、ばればれである。  今までは我慢してきた俺だけど・・・ 「うん、俺は今姉さんや麻衣を求めてる。本当なら今すぐ一つになりたい」 「私はいつでもいいわよ、達哉君」 「私もだよ、お兄ちゃん」 「でも今はこの心がつながってる暖かさにもう少しつかっていたいんだ」 「・・・そうね、もう焦る必要も無いわね」 「うん、私ももうちょっと今のままがいいな」 「もう少しこうしていよう」  この後。  3人でのぼせてしまい、3人とも自室でダウン。  身体の繋がりはこの次の機会に、ということになってしまった。  俺も姉さんも麻衣もそのことを残念に思いながら、今日はこれでもいいかなと  みんなで笑って言いあった。 「でも、今度はちゃんと私を抱いてね、達哉君」 「私も一緒に抱いてね、お兄ちゃん♪」
・夜明け前より瑠璃色な Another Short Story -if-                     Episode 4.5「家族会議」 「ねぇ、達哉君、この後時間取れるかしら?」 「イタリアンズの散歩の後なら大丈夫だけど、何?」 「ちょっと大事な話があるの。麻衣ちゃんも良いわね?」 「うん」  左門での夕食が終わって家に帰ってすぐに姉さんに言われた大事な話。  一体なんだろう?  姉さんの真剣な顔が俺の不安を呼び起こす。  ・・・早めに散歩を切り上げて戻るか。  イタリアンズにはちょっと悪い気もするが、姉さんの真剣な顔の方が  大事だった。  散歩から帰ってきてから俺はすぐにリビングに向かう。  待っていた二人にただいまの挨拶をしながら、椅子に座る。 「お兄ちゃん、お疲れ」  そう言いながら麻衣はお茶を出してくれる。 「ありがとう」  熱いお茶を一口飲む。 「それじゃぁ家族会議を始めます」  姉さんの厳かな宣言に、俺も麻衣も緊張する。  朝霧の家での家族会議は、家族に関わる重要な事を決めるときに開かれる。  人とは違う家族の形をしている朝霧家では、家族の絆を誰よりも  大事にしている。それ故の家族会議なのだ。 「麻衣ちゃん」 「は、はいっ!」  緊張しすぎて声がうわずってる麻衣。  俺にもその緊張が伝わってきてしまったのか喉がからからになった。  俺はお茶を口に含む。 「達哉君に抱かれると気持ち良い?」 「っ・・・ごほっ!」  姉さんの質問に俺はお茶を吹き出しそうになって、むせた。 「お、お兄ちゃん大丈夫?」  慌てて俺の背中を撫でてくれる麻衣。 「あらあら・・・達哉君何を焦ってるのかしら?」  さっきまでの真剣な表情ではなく優しい表情になってる姉さん。 「そ、そりゃ何を聞くのかと思ったらそう言うことだったから・・・」 「あら、でも大事な事よ? そうよね、麻衣ちゃん」 「・・・うん、大事だよ。私はお兄ちゃんに抱かれると気持ちいいもん」 「私もそうよ、達哉君に抱いてもらえるとすごく幸せですもの」  二人の率直な感想に俺は気恥ずかしい・・・ 「だけどね、だからこそなの。麻衣ちゃんは自分の周期は知ってるわよね?」 「一応・・・かな? 正確じゃないけど、知ってるよ」 「周期?」  俺は意味が分からないので思わず聞き返してしまった。  ちょっと考えればわかることなのに聞き返してしまった事を後悔する事になる。 「えぇ、生理の周期よ。」  姉さんの口から出るその言葉に・・・いや、姉さんの口から出たからこそ  俺は驚いた。こんなに生々しい言葉が出るとは思ったことが無かったから。 「ねぇ、達哉君。私たちが求める身体の繋がり・・・それが意味することは  わかるわよね。」 「・・・あぁ」  性行為、セックス、それは本来子孫を残す為の種としての本能的な行為。 「今はまだ早いの。私も麻衣ちゃんも子供を産んで育てる、というような  時期じゃないの・・・もちろん、達哉君との子供は欲しいわ」  そういってうっとりとした顔になる姉さん。 「きっと達哉君に似て可愛い子供よね」 「・・・お姉ちゃん?」 「姉さん?」 「あ、ごめんなさい」  したをちろっと出して謝る姉さん。 「つまり、生理の周期をしっかり把握しないとそう言う危険もあるっていう事なの」  姉さんの話を聞いて今更ながら俺達の関係が危険であることに気づかされた。  俺達3人だけの関係なら、この家の中でだけですまさせる事もできるだろう。  だが、もし姉さんや麻衣が妊娠したとしたのなら、もう家の中だけでは  すまされない。家族は間違いなくバラバラになるだろう。  そして生まれてくる子供にもそのツケがのしかかることになる。 「私の罪は私がかぶればいいの、でも生まれてくる子供にまでその罪を  背負わせたくないの。」  そう言って微笑む姉さんの顔は悲しそうだった。 「だから、周期は知っておく必要もあるの。もちろん、達哉君もよ」 「・・え?」  俺も知っておく必要がある? 別に俺にはそういう周期はないけど・・・ 「ねぇ、達哉君。もし私が抱かれるのを嫌がったら達哉君は止めてくれる?」 「当たり前だよ、姉さん。俺は姉さんの嫌がる事なんてしないから」 「達哉君ならそう言ってくれると思ってたわ。優しいから・・・  それじゃぁ、逆の場合はどう?」 「逆?」 「危険な日に私が中で出してって言えばどうする?」 「それは・・・」 「私だって女ですもの、達哉君を受け入れる悦びはあるわ。でも、その快楽と  悦びに自分を忘れてしまうことだってあるもの。」  ・・・確かに、俺も姉さんと麻衣の周期を把握しておかないとこういうことが  起きるかもしれない訳か。 「正確に周期を計るのに3ヶ月くらいかかるから、それまでは充分注意すること。  いいわね?」 「はぁい」  麻衣が返事する。俺は黙って頷くだけにした。 「でもね・・・それまで全くないのは私は我慢できないわ」 「・・・そうだよね、3ヶ月も無しだなんて私も嫌だよ」 「俺も3ヶ月の間我慢できるかわからない・・・けど、二人のためなら我慢する」 「みんなで我慢すると身体にも心にも悪いわよね・・・というわけで」  姉さんは小さな箱を取り出し机の上に置いた。  俺は見たことのない箱だけど・・・ 「これはね、男性用避妊具なの。」  そう言いながら箱の中身を出す姉さん・・・って男性用避妊具って事は・・・ 「これだとね、外に漏れないから危険な日でも安全なの。  物事に100%はないけど、少なくとも100%危険って事はなくなるのよ」 「これがそうなんだぁ・・・」  麻衣は包みを一つ破いて中身を出してみている。  姉さんと麻衣が避妊具・・・コンドームをいじっている姿に俺は気恥ずかしくて  見ていられなくなった。  ・・・別に興奮してるわけじゃないぞ、と自分に言い聞かせる。 「ピルは処方されないと手に入らないから難しいのよね、だから危険だと思う時は  これで行きましょう」 「これなら我慢しなくてもいいね♪」  ・・・俺はコメントしづらいんですけど。 「でもこれってどうやってつけるの? お兄ちゃんが自分でつければいいの?」  いつの間にか使い方の話になっていた。 「説明書は読んだのだけど・・・やっぱり実戦よね♪」 「やっぱり試してみないと駄目だよね♪」 「・・・え?」  二人の好奇な目線が俺をとらえる。 「それじゃぁ実習にしましょう、達哉君も協力してね」 「よろしく、お兄ちゃん」  結局。  この後つけるつけられる、感触はどうのとかそう言うことになって・・・  ・・・まぁ、そう言うことになった。
・夜明け前より瑠璃色な Another Short Story -if-                     Episode 4.6「麻衣の悩み」  学園の帰り、部活動がお休みの今日はお兄ちゃんと菜月ちゃんと一緒の帰り道。  私はお兄ちゃんの横を歩いている。菜月ちゃんはお兄ちゃんの反対側。  これがいつもの私たちの位置。  本当はもっともっと近いところにいるのに、外ではそれが出来ない・・・ 「達哉、また何か悩んでるの?」 「・・・そうだな、人生って何だろうなって悩んでる」 「・・・達哉、熱ある?」 「一応真面目に答えたつもりなんだが、そう思うか?」 「ううん、わかってる。達哉はふざけてそう言うこと言わない事知ってるから」  菜月ちゃんもお兄ちゃんのこと良く知ってるんだ・・・  お隣同士のおつきあいは、私たちが満弦ヶ崎へ来たときからだからかなり長い。 「・・・」 「麻衣も悩み事?」 「・・・え?」 「なんだか真剣そうな顔してるよ? 麻衣も達哉と同じように人生のこととか  悩んでるの?」 「私は悩み事は無いよ、菜月ちゃん」  もちろん嘘。  ごめんね、菜月ちゃん。心の中で嘘をついたことを謝る。  私たち家族のことは菜月ちゃんにも相談出来ないから・・・ 「それじゃぁ達哉、また後でね」 「あぁ」 「さよなら、菜月ちゃん」  玄関先で別れて私たちは家に入った。 「麻衣、ちょっと時間あるか?」 「あるけど、なに?」 「俺の部屋でいいか?」 「うん、いいよ」  お兄ちゃんに誘われてお部屋に入る。  何だろう? 「麻衣、俺には相談できない悩みか?」 「え・・・」 「麻衣が最近悩んでることはわかってる。前はわかってやれなかったから  追いつめちゃったけど、もう失敗はしたくない。」 「お兄ちゃん・・・」  ちゃんと私のこと見てくれているんだ。  そう思うとすごく嬉しくて幸せになる。 「俺に相談出来ない悩みなら俺はどうしようもないけどな」  そう言って苦笑いするお兄ちゃん。  ずるいよ、お兄ちゃん。そう言われると私は頼りたくなっちゃうから。 「あのね、この前お姉ちゃんが言ってた事なんだけど」 「もしかして、罪の事か?」 「うん・・・」 「そうか・・・」  私が何を悩んでるかお兄ちゃんはすぐに察してくれた。  そしてたぶん、この悩みはお兄ちゃんと同じ悩みだと思う。 「私の罪は私がかぶればいいの、でも生まれてくる子供にまでその罪を  背負わせたくないの。」  お姉ちゃんがこの前話した罪は、きっと私たちとの関係のことだろう。  でも、それを罪というなら私たちはどうすればいいのだろう? 「俺は姉さんに罪なんて無いと思う。あるとすれば俺だろうな」 「お兄ちゃん! また自分を悪者にする。やめてよ!」  私はすぐに反論する。 「どうしていつもお兄ちゃんだけが悪者になろうとするの?  お兄ちゃんが悪いのなら私も一緒に悪くなる!」  私たちのことを思ってくれるのは痛いほどわかる。でも私たちのために  一人ですべて背負おうとするお兄ちゃんは嫌だった。 「お兄ちゃんだけ行かないで、私も同じ場所にいたいの・・・」  悲しくて涙がでそうだった。お兄ちゃんはいつも先に行こうとする。  私を置いて・・・ 「・・・そうだったな、ごめんな、麻衣」  そう優しく言うとお兄ちゃんは私を抱きしめてくれた。  そっと頭を撫でてくれる。 「俺は麻衣を置いていかないって約束したんだものな。でも、俺は本当に  悪者だぞ?」 「うん、私も悪い子だもん。だから大丈夫だよ。」  そう、私は悪い子。  こうして抱きしめて慰めてくれるお兄ちゃんに、私は安らぎ以上のものを  すぐに求めてしまうから。  私は顔を上げてそっと目を閉じる。  すぐにお兄ちゃんの唇が重なってくる。 「ん・・・」  それだけで私の身体は熱くなる。この先を期待してしまう。  私の中心が熱を持つのがわかる。もうショーツにシミが出来てしまってるのも  わかる・・・ 「お兄ちゃん・・・我慢できない・・・」 「麻衣、大丈夫なのか?」 「私は大丈夫、だから・・・して」  お兄ちゃんの心地よい重みを身体全体で受けながら、ベットに押し倒された。
・夜明け前より瑠璃色な Another Short Story -if-                     Episode 4.7「さやかの悩み」  遅い時間、私は普段歩いて帰る道をタクシーで帰っていた。  タクシーの中で私は電話の内容を思い返す。 「もしもし」 「あ、達哉君? さやかだけど、今日遅くなりそうなの。だからご飯は  先に食べちゃっててね」 「姉さん、遅いってどれくらい?」 「そうね・・・日付が変わる前には戻れるかな? だから戸締まりして  寝ちゃって良いわよ」 「いや、待ってるよ。姉さんに話したいことあるから」  達哉君が話したいこと・・・一体何なのだろう?  もしかして・・・ううん、きっと違うわ。  でも・・・  車を降りて家の前に立つ。  見慣れた我が家。一番落ち着く場所なのだけど、今日はなかなかその扉を  開けることが出来ない。  そのとき扉は内側から開いた。 「おかえり、姉さん」 「おかえりなさい、お姉ちゃん」 「ただいま」  達哉君だけじゃなくて麻衣ちゃんも起きて待っていてくれたことに驚いた。  そして麻衣ちゃんがいるということは、それだけ重要な話なのだろう。 「ごめんね、姉さん。疲れてるときに」 「ううん、だいじょうぶよ。」  リビングのソファに3人で向かい合って座る。  私は達哉君の正面に、麻衣ちゃんは達哉君の横に座っている。 「姉さん、回りくどい話は無しでいくね。」  達哉君の真剣な表情と麻衣ちゃんの緊張してる表情。  やっぱりそうなのね・・・  私の危惧した通りの質問が達哉君の口から発せられた。 「姉さん・・・姉さんの罪って何?」  私は大きく息を吐く。  この前の夜、ふと漏らしてしまった言葉が達哉君と麻衣ちゃんに  心配をかけさせてしまった。  最近幸せだったから気がゆるんでいたのかもしれない・・・ 「私の罪はね・・・」  覚悟を決めて私は私の置かした罪を告白する。  守るべき家族の絆をこわしてしまったこと。  そして今まで以上にいびつな形での家族の絆を作ってしまったこと。  私だけじゃなく達哉君や麻衣ちゃんにまで重い物を背負わせてしまった事。  その結果、当たり前の、普通の幸せを求めることを奪ったこと・・・ 「それが私の罪、償えないもの」 「俺はそう思ってない」 「私もそんなこと思ってないよ、今すっごく幸せだもん」 「ありがとう、二人とも」  そう言うと思ってた、二人とも優しいから・・・ 「でもこれは私の罪なの。だから二人は気にしないで。」 「・・・俺はまだ姉さんに守られていたんだな」 「お兄ちゃん・・・」  深刻そうな顔をする達哉君。 「達哉君、そんなに心配しなくて大丈夫よ。私がすべてを受けるから」  私には達哉君が必要、麻衣ちゃんが必要。  だけどそれ以上に達哉君と麻衣ちゃんの幸せを願っている。  だから、最後は私が・・・ 「さやか」 「・・・達哉君?」  突然私は名前で呼ばれた、私はその衝撃で頭の中が真っ白になる。  そしてすぐに暖かい気持ちになる。  愛する人が私の名前を呼んでくれた、ただそれだけの事なのにすごく  心が暖かい・・・ 「もう一度言う、俺には・・・さやかと麻衣が必要なんだ。どちらかが  欠けても駄目なんだ。だから俺はさやかのその罪ごとさやかを受け入れる。  もちろん麻衣も受け入れる。」 「達哉君・・・」 「お兄ちゃん・・・」 「だから・・・俺も受け入れてくれないか?」  私の答えは決まっている。 「もちろんよ」 「私もだよ、お兄ちゃん」 「俺達は元から普通の家族じゃなかったんだ。だから今の形も外から見れば  普通じゃないかもしれない。でもそれでいいじゃないか。  今あるこの形が俺達にとって普通なんだから」  そう・・・ね。  私は何を悩んでいたんだろう。確かに今のままでは将来に不安が無い  訳じゃない。でも、達哉君と麻衣ちゃんがいればどんな壁も乗り越えて  いける、そう思えた。 「よかったぁ・・・」 「麻衣ちゃん?」 「ごめんね、お姉ちゃん。気が抜けたら眠くなっちゃった・・・」  私が帰ってくるのが遅かったのもあるけど、麻衣ちゃんがどれだけ  緊張してたのかがわかった。 「麻衣、部屋まで連れて行くから」 「うん・・・え?」  そう言うと達哉君は麻衣ちゃんを抱き上げた。お姫様抱っこだ。 「お休みなさい、お姉ちゃん・・・」 「お休みなさい、麻衣ちゃん。ありがとうね」  麻衣ちゃんを抱えたまま達哉君は2階に上がっていった。 「ご苦労様、達哉君」 「麻衣、すぐに寝息を立ててたよ。よほど疲れてたんだろうな」 「そうね・・・心配かけちゃったわね」 「でも、もう大丈夫さ。麻衣には俺と姉さんがいるし、姉さんには  俺と麻衣がいる。そして俺には姉さんと麻衣がいるんだからさ」  達哉君が言ってることは今の私たちを表している。  そんなことよりも・・・ 「・・・ねぇ、達哉君。呼び方が戻ってるわよ?」 「え?」 「さ・や・か。ちゃんと名前で呼んで欲しいな」  さっき名前で呼ばれたとき、きゅんとした。  それだけのことなのに幸せになれた。 「えっと・・・その・・・さやか」 「達哉君」  やっぱり愛する男の子には名前で呼んでもらえる方がすごく嬉しい。 「・・・ごめん、さやか。俺、さやかを抱きたくなった」 「え?」  突然達哉君から求められた。 「今のさやかの顔、すごく綺麗でその・・・欲しくなった」  達哉君が私を求めてくれる、それはすごく嬉しいのだけど。 「達哉君、私はまだお風呂入ってないから・・・その・・・」 「・・・一緒に入ろう、さやか」  あぁ・・・だめ、名前で呼ばれるだけなのに逆らえない。 「・・・いいわ、一緒に入りましょう。でも・・・  お風呂まで抱いて連れて行って欲しいな。さっきの麻衣ちゃんみたいに」 「仰せのままに、お姫様」
・夜明け前より瑠璃色な Another Short Story -if-                     Episode 4.8「達哉の悩み」 「・・・」  ふと目覚めるといつもとは違う天井が目に入ってきた。 「・・・すぅすぅ」 「・・・ん」  左右で、俺に抱きつくような形で寝ている二人の寝息。  今日は姉さんの部屋で3人で寝ている。  ただ寝ている訳じゃない、ついさっきまで3人で抱き合っていた。  俺は目を閉じて、悩み事についてを考えはじめた。 「お兄ちゃんっ・・・私、もう・・・だめぇっ!」  麻衣は俺の上でびくっと震えるとそのまま俺の方へ倒れ込んできた。  体中から力が抜けてしまったのか、俺の上で荒い息をしている。  それなのに俺を包んでいる所だけは脈動して俺のを搾り取ろうとする  動きを続けていた。 「はぁはぁはぁ・・・」 「だいじょうぶか、麻衣」 「・・・ごめんね、お兄ちゃん。私だけいっちゃって」 「いいんだよ、麻衣が気持ちよくなれれば俺も気持ち良いから」 「・・・うん」 「麻衣ちゃんって敏感よね。いつもあんなに何度もいっちゃうなんて」 「うぅぅ・・・お姉ちゃん言わないでぇ・・・恥ずかしいよぉ」  俺の横で先に休んでいる姉さん。 「そうだな、麻衣はえっちだもんな」 「お兄ちゃん・・・ごめんなさい。こんなにえっちになっちゃって」 「謝ることはないだろう? 俺はどんな麻衣だって嫌いにならないさ。」 「うん」 「ねぇ、達哉君。とってもえっちなお姉さんは好き?」 「愛してる」 「・・・うん」  頬を赤らめて照れてる姉さんがすごく可愛い。 「あっ、お兄ちゃん、今大きくなった」  俺はまだ麻衣とつながったままだから俺の変化はすぐに知られてしまう。 「ん・・・続きしよ」  そう言って動き出そうとする麻衣。 「・・・あれ?」  全く動けないでいた。 「うぅ・・・身体に力が入らないよぉ」  どうやら麻衣は今日の限界に来たようだ。 「折角お兄ちゃんが求めてくれてるのに・・・」 「だからって麻衣の身体を壊すわけにもいかないだろう?」 「でも!」 「達哉君、麻衣ちゃん。良いこと思いついたわ」 「ん?」 「まずは達哉君と麻衣ちゃん一度離れてね、そうして・・・」  姉さんに言われたとおりに一度離れて麻衣を仰向けに寝かせる。  そして姉さんがその上にうつぶせで重なる。  姉さんの足は麻衣の足を開くように曲げて・・・つまり・・・ 「・・・」 「お姉ちゃん、この格好恥ずかしいよぉ・・・」 「これだと二人一緒に愛してもらえるし身体への負担は大きくないわよ」  二人の大事なところが縦に二つ重なっている。  どちらも濡れて光っている。 「ねぇ、達哉君。私たちの間にいれて」 「お兄ちゃん・・・」  俺は上になっている姉さんのお尻を両手でつかむ。 「行くよ」  そして俺は二人の隙間にねらいを定めて・・・ 「・・・」  余計なところまで思い出してしまって身体が熱くなってしまった。  俺の悩みは、そう。二人を抱く事だった。  抱くこと自体には悩みはない、もう吹っ切った。  俺は二人を求めてるし二人も俺を求めている、なら自然な行為だからだ。  悩みはその回数だった。 「ねぇ、達哉君。一つだけ責任とって欲しいの」 「お兄ちゃん・・・私ね、すっごくえっちな女の子になっちゃったの・・・」 「達哉君があんなに気持ちよくしてくれるんだもの・・・くせになっちゃったわ」 「もう一人じゃいやなの、お兄ちゃんがしてくれないとだめなの」 「だからね、これだけは達哉君にお願いするしかないのよ」 「えっちにした責任、とってね、お兄ちゃん♪」  と笑いながら話してた二人、冗談だと思ったけど本当だった。  俺の身体のことも考えてくれてるのか、毎日というわけじゃないけど以前と  比べてその回数が増えている。  女である二人は、体力を消耗するだけかもしれないが、俺は男。  出せる物に限界はある。だからって・・・ 「今日はレバーのお刺身を買ってきました♪、カキフライもあるよ」 「ウナギが安かったから蒲焼きにしてみたの。達哉君どうかな?」  そのうち何かの健康ドリンクも出てきそうな雰囲気だった。 「嫌な訳ないんだよな・・・」  悩んではいるけど、そのこと自体が嫌ではない。  それは悩みなのだろうか? 「・・・お兄ちゃん?」 「麻衣、起こしちゃったか?」 「・・・えへへ〜、お兄ちゃんだぁ」  そう言って俺の胸に頬をこすりつけてくる。 「ん・・・」 「姉さん?」 「た〜つ〜や〜くん♪」  麻衣と同じように胸に頬を当てて来た。  二人の幸せそうな顔。 「・・・そうだな」 「ん?」 「何?」  不思議そうに俺の顔を見る二人。 「なんでもないさ、幸せなだけだ」 「私もだよ、お兄ちゃん」 「私もよ、達哉君」  別に悩みなんて無いんだ、きっと。ただ今が幸せすぎるだけなのだ。  二人と笑って過ごせる事が幸せすぎて不安になっただけなんだ。  原因が分かれば大丈夫、俺はもう間違えない。 「それじゃぁ寝ようか」 「うん、お兄ちゃん。ん〜」  目を閉じて俺の顔に近づいてくる。  俺はそっと唇を合わせる。そして姉さんの顔を引き寄せて同じように  唇を合わせる。 「んん・・・」 「お休みなさい、お兄ちゃん、お姉ちゃん」 「お休みなさい、達哉君、麻衣ちゃん」 「あぁ、お休み。さやか、麻衣」  いつまでも幸せな笑顔でいられますように・・・  俺はそう願いながら眠りに落ちていった。
・夜明け前より瑠璃色な Another Short Story -if- Episode 4.9「言えない真実」 another view 鷹見沢菜月 「おはよう、菜月ちゃん」 「おはよう、麻衣、達哉も」 「おはよう」  いつもの通学路で私と達哉と麻衣は合流する。  一緒に行く約束をしているわけではないけど、一緒に行くのが当たり前に  なってしまっている。  いつもと変わらない光景だった・・・けど今は少し違う。  達哉と手をつないできた麻衣は、いまもずっと手をつないでいた。 「麻衣、ずっと手をつないでいくつもり?」 「何かおかしいかな?」  そう即答されると質問した私の方がおかしい気がしてくる。  達哉と麻衣は昔から仲の良い兄妹だから、今更手をつなぐくらいおかしく  ないのかもしれない。 「でもさ、そのまま学園まで行くと変な噂立っちゃうよ?」 「うーん・・・お兄ちゃんに迷惑かかっちゃうなら止めようかな」  麻衣は渋々っていう表情で手を離した。  そうして3人で学園へ向かう。  そこには昔と変わらない日常だった。 「それじゃぁね、お兄ちゃん、菜月ちゃん」 「気をつけてな」  麻衣が一足先に学園内に走って入っていく。 「・・・最近の麻衣ってあんなに甘えん坊なの?」 「そうか? 特に変わらないと思うぞ」 「達哉ってシスコン?」 「・・・ノーコメント。でも麻衣が望むならそうするかもな。」  返事をする達哉の顔は真剣だった。 「麻衣は大切な家族で、俺のたった一人の妹だからな」  そう言う達哉の顔を見てそれ以上何も言えなくなってしまった。  達哉と麻衣と、たぶんさやかさんの間には誰も入れない家族の絆がある、  そこには誰も入り込めないほどの絆だと、わかってしまったから。 「・・・」  その、家族の絆がわかったから私はどうするのだろう?  私はその絆の中に入れないという感情は一体何なのだろう?  私はその絆の中に入りたいのだろうか? 「菜月?」 「ひゃぁ!」 「おい、名前呼んだくらいでそんなに驚くなよ」 「ご、ごめん。達哉、何か用?」 「菜月、寝ぼけてるのか? そんなところで立ち止まったままだと遅刻するぞ?」 「え?」  私は立ち止まってしまっていたことに今更気づいた。 「ごめん、達哉。行こう」 「あぁ」  私たちは教室へ急いだ。 「ねぇ、朝霧君。噂が立ってるの知ってる?」  放課後、昇降口へ向かうとき、翠が加わってきた。 「噂?」 「そうそう、朝霧君と麻衣の噂」  聞き返した私にまってましたという顔をして翠は噂の内容を話してくれた。  その噂は達哉と麻衣の禁断の恋という内容だった。 「麻衣はすっごく可愛い妹だもんね、禁断の恋に走っちゃう気持ちも  わからなく無いよね〜」 「・・・遠山、一つお願いしていいか?」  今まで黙って聞いてた達哉が真剣な顔をして話に加わってくる。 「何?」 「俺はどう言われてもかまわない、だけど麻衣を悪く言うような噂は  止めてくれないか?」 「んー、そういわれても噂だからね〜」 「それじゃぁせめて遠山だけはそう言う噂を止めてくれないか?」 「んー、朝霧君がそこまで言うのなら私は何も言わないよ」 「ありがとうな、遠山」 「了解! でもそこまでして守りたいの?」 「当たり前だ、麻衣は大切な家族で、俺の大切な妹だからな」 「お兄ちゃん?」  私の後ろの方に麻衣がいつの間にか立っていた。 「麻衣?」 「お兄ちゃん、もう帰り? 商店街にお買い物行くんだけど一緒に  きてもらって良い?」 「あぁ、いいぞ。行くか」 「うん♪ 菜月ちゃん、遠山さん、またね」 「二人ともまた明日な」  そう言って去っていく二人は仲の良い家族で、兄妹で・・・でも。 「なんか恋人みたい・・・」 「菜月、なんか言った?」 「え? 何でもないよ。ただ麻衣がうらやましいかなって・・・」 「そうかも、あんなに思われてる妹っていないよね。うらやましいかも」  ・・・そう、思ってしまうとそうとしか見えなくなってしまった。  達哉と麻衣は兄妹ではなく、まるで恋人みたい・・・  そんなわけあるはずないのに、昔から仲の良い兄妹で、つらい事件を  二人で乗り越えてきたからこその絆なのだから。  だけど、いまの私にはそう思えなくなってしまった。  明確な理由なんか無い、ただの直感だけど・・・ 「まさか・・・ね」  私の言葉は誰の耳にも届かなかった。 another view end 「お兄ちゃん、今日の夜は何食べたい?」 「麻衣が作ってくれる物は何でも美味しいから悩むな」 「ん、もう、おだてても何も出ないよ?」 「おだててるわけじゃないさ、本当のことだし。」 「お兄ちゃんったら上手いんだから。でもどうしようかなぁ、何作ろうかな」  兄妹仲良く夜の食材の買い物。  麻衣の様子はいつもと同じように見える、いつもより元気があるくらいだ。  以前の俺なら別段気にすることではないけど、今日は違う。  俺は・・・ 「麻衣ちゃん、今日はお兄ちゃんと買い物かい?」 「うん、今日の夜ご飯決めてもらおうと思ったんだけどお兄ちゃんなんでも  良いっていうの」 「たっちゃん、男ならパシッと決めないと駄目だぞ?」 「・・・えっと」  麻衣に話しかけようとしたとき八百屋のおじさんに捕まってしまった。  まぁ、人前でする話しではないからかまわないのだけど。 「麻衣ちゃん、疲れによいっていうキノコなんてどうだい?」 「本当に疲れがとれるんですか?」 「滋養強壮に良いっていわれてる物だから大丈夫だよ」 「んー・・・それじゃぁ試してみようかな。最近お姉ちゃん疲れてるみたいだし」 「お買いあげありがとうございます! おまけしておくね」 「ありがと、おじさん。」  麻衣と八百屋のおじさんとのやりとりを聞いてた俺は、何か不安な単語が  会話の中にあったような気がした。 「お兄ちゃん、いいキノコ手に入ったから、今日は和風パスタにするね」 「・・・あぁ、楽しみにしてる」 「お兄ちゃん?」 「いや、何でもない」  不安は気のせいだろう、この不安は俺が麻衣に負い目を感じてるからだろう。  そう思うことにした。 「ただいまー、お兄ちゃん荷物ありがとうね。」  そう言って俺が持ってた買い物袋を持ってリビングへ向かう麻衣。  俺もその後に続いてリビングに入る。 「あのさ、麻衣・・・その、ごめんな」 「ん? なんでお兄ちゃんが謝るの?」 「さっきのことだけど、俺はほんとうの事を言えなかったから」 「本当のこと?」 「あぁ、菜月や遠山との話で俺は麻衣の事を大切な家族で妹って言ったんだ。  だけど、本当のことが言えなかった。」 「・・・それって」 「あぁ、麻衣は大切な女の子で、愛してるってこと」 another view 朝霧麻衣  わかってることだった。  私とお兄ちゃんと、お姉ちゃんとの関係は絶対秘密にしなくちゃいけないこと。  それでもお兄ちゃんに妹だって、言い切られる事はすごく悲しかった。  でも私は知っている。  そうとしか言えないお兄ちゃんの辛さも。だから問題ない。  今ちょっとだけ胸にちくっと刺さったような痛みを我慢すればいいだけだった。 「あぁ、麻衣は大切な女の子で、愛してるってこと」  お兄ちゃん・・・  ほんのちょっとした痛みにも気づいてくれて私が一番欲しい言葉をくれる。  私はお兄ちゃんの本当の気持ちのこもった言葉に、私も気持ちを込めて  返事する。 「私も愛してるよ、お兄ちゃん」  私の唇はお兄ちゃんによってふさがれた。 「んっ」 「俺バイト行かないといけないから、続きは後でな」 「・・・うん」
・夜明け前より瑠璃色な Another Short Story -if- Episode 4.10「幸せのカタチ」 「ごちそうさま、麻衣ちゃん」 「お姉ちゃん、今日のパスタどうだった?」 「ん〜、そうね。味付けは美味しかったわ。でもこのキノコ自体の味が  良くわからなかったわね」 「お姉ちゃんもそう思うってことは失敗だったかな」  俺も先ほど麻衣に同じように聞かれて、姉さんと同じような答えをしている。 「そう言う麻衣はどう思うんだ?」 「んと、味付けは良い出来だと思うよ。でもキノコの味がなんていうか  わからなかったかな」 「3人とも同じ感想ってことは原因はキノコだな」  学園の帰りに八百屋で買ったお薦めキノコ。  そのキノコには独特の風味があり、麻衣の味付けをおかしくしてしまった。  それが3人の出した結論だった。 「でも不味くはなかったってことはそれだけ麻衣の腕が良いって事だよな」 「そうなのかなぁ?」 「腕が悪ければ食材の味に引っぱられて、たぶんこれは食べれる物じゃなくなって  いたと思うよ」 「そうね、麻衣ちゃんの腕があってこそよね」 「お兄ちゃん、お姉ちゃん、誉めても何も出ないよ?」  そういいつつもまんざらじゃない顔をしている麻衣だった。  ソファに座ってお茶を飲んでるとき姉さんが向かいのソファに座った。 「達哉君、また何か考え込んじゃってるのかな?」 「え?」  姉さんの核心をつく言葉に俺は返事が出来なかった。  そしてすぐに返事が出来ないということが、姉さんの言っていることを  肯定していることになる。 「俺、そんなに難しい顔でもしてたかな?」 「ううん、普通だと思うわ。でも私は少し前のあのときの達哉君を見ているから」  姉さんと麻衣と関係を持った頃の俺の事だろう。 「あのときの達哉君は何も出来ないって思いこんで、でもどうにかしなくちゃって  そんな焦りがあったわ。あのときの私も同じようなものだったから気づかなかった  けど、今ならわかるわ。」 「そんなことは無い・・・と思うけど」  焦ってはいないと思う。ただ、昼間の一件がずっと頭の中に残ってるだけだ。  それはきっと・・・ 「罪悪感、なのかも」 「え?」  いつのまにか麻衣が姉さんの横に座っていた。 「罪悪感? お兄ちゃん何か悪いことしたの?」 「いや、そう言うんじゃないと思う。たださ・・・麻衣と姉さんの普通の幸せを  俺は奪ってしまったんじゃないかなって思ったんだ」  言葉にしながら、俺の今の悩みの問いかけがやっと出てきた。  何に悩んでいたのかもわからなかったが、これで答えを探すことが出来る。 「なんで? 私は今すっごい幸せだよ? 大好きなお兄ちゃんとお姉ちゃんと  一緒だもん」 「麻衣ちゃん、達哉君はね、普通の幸せの事を言ってるよ。」 「普通の?」 「将来結婚して子供を産んで、家庭を築く。普通の平凡な幸せよ」 「あ・・・」  今の俺達の関係は隠されている。  男一人に女が二人。普通のカップルの関係ではない。  それ故に世間にこのことがばれればどんな好奇な目で見られるか  わかったものじゃない。  家の中なら何も問題ないこの関係は、外に出たら姉さんは俺の従姉、  麻衣は俺の妹だ。それ以上のことは言うことが出来ない。 「今の連邦政府の法律では重婚は出来ないわ。もし未婚の母となったとき、  その子供に父親のことを話すことが出来ない。  達哉君はそのことを気にしているのよね。」 「・・・姉さんは俺のこと何でも知ってるんだな」 「私は達哉君のお姉ちゃんですもの」  そう微笑む姉さんの顔は姉というよりも母の顔だった。 「結婚して子供をっていう将来のことはまだ漠然とした不安でしかないんだ。  俺は、外では麻衣の兄、姉さんの従弟としてしか振る舞えない。  それがいやなんだ。俺は我慢できる、  でもそのときの二人の曇る顔を見たくないんだ」  どうしようもない俺の気持ち。  今の関係を続けていく以上避けられない問題だった。 「ねぇ、達哉君。私は今幸せよ。世間一般でいう普通の幸せじゃないのは  わかってる。でもね、普通じゃない、特別な幸せだと私は思うの」 「姉さん?」 「だって、大好きで愛してる達哉君と、大好きで愛してる麻衣ちゃんと、3人で  一緒にいられるのよ? これって普通以上じゃない」  確かに普通なら、こういう関係は成り立たない。  家庭が、環境がそれを拒絶する。 「私も幸せだよ、お兄ちゃんは外での私を妹としか見てくれないけど、  その痛みをちゃんとわかってくれてるもん。  そして痛みは帰ってきたらすぐ癒してくれるから私は大丈夫だよ!」 「麻衣ちゃんの言う通りよ、達哉君。それでもまだ不安?」 「・・・二人の曇る顔を見たくないなんて、俺のわがままなんだろうな」 「良いのよ、達哉君はそれで。」 「そうだよ、お兄ちゃん。私の顔はお兄ちゃんがいてくれればいつでも  すぐ晴れるよ」  ・・・あぁ、今回の悩みもまた俺の独りよがりだったんだな。 「俺は結局今回も姉さんと麻衣に助けられたんだな。支えになるって  言っておきながら支えられっぱなしだな」 「そんなことないよ、お兄ちゃんが支えてくれるから私も支えられるんだよ」 「そうね、3人で支え合うのが、私たちのカタチ。それで良いと思うわ」  そう言うと姉さんと麻衣は俺の両脇から抱きついてきた。 「達哉君、私はとっても幸せよ、だから安心して」 「お兄ちゃん、私も幸せだよ・・・」 「姉さん・・・麻衣・・・ありがとう」  俺も姉さんと麻衣の背中に腕を回して抱きしめた。  ここで物語が終わると美しい物語だったのだろう。 「・・・あ」 「・・・達哉君?」 「・・・」  姉さんと麻衣の甘い匂いに俺はすっかり反応していた。  おかしい、これくらいはいつものスキンシップの範囲内のはず。  なのに急にここまで反応するとは、いったい・・・ 「もしかしてお兄ちゃん、キノコの効果が出たとか?」 「・・・麻衣、あのキノコの効果って」 「滋養強壮」  ・・・そう言う意味でか? 「ふふっ、達哉君こんなに固くしちゃって。私たちを求めてこうなったのよね。  嬉しいわ」  そう言いながらズボンの上から撫でてくる姉さん。 「ね、姉さん・・・」 「あらあら、達哉君我慢出来ないのかしら? ならお姉ちゃんがしてあげるね」 「お姉ちゃんだけずるい、私もしてあげる」 「なら一緒にしてあげましょうか?」 「うん♪」  ・・・  キノコのせいがどうかはわからないけど、この夜俺も姉さんも麻衣も  いつも以上に激しく燃えて、朝方には文字通り精根尽き果ててしまった。 「今日の達哉君は激しかったわ」 「お兄ちゃん激しすぎだよぉ・・・でも気持ち良かったぁ」 「ねぇ、麻衣ちゃん。このキノコまた買っておかない?」 「・・・うん」  ・・・出来れば止めて欲しいと思った。
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