夜明け前より瑠璃色な Another Short Story -if-


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・夜明け前より瑠璃色な Another Short Story -if- Episode 3.0「そして」 side Natsuki 「おはよー、菜月、朝霧君。さっそくで悪いんだけど朝霧君、奥さん借りるね」 「おおお、おく、おくさん?」 「おはよう、遠山。朝から菜月をからかうのは止めてくれないか?」 「あ、そっか。今は奥さんじゃなくてメイドさんの時代だったっけ?  菜月も将来はご主人様って呼ぶ、とか?」 「こらっ、翠。そろそろ止めないと怒るわよ?」 「ごめんごめん、ちょっとした朝のコミュニケーションだってばぁ」  コミュニケーションの度にからかわれる方としてはたまったものではない。 「そーゆーわけで、菜月。ちょっとつきあって」 「あ、うん。いいよ。達哉、また後でね」 「あぁ、授業までには戻ってこいよ」  廊下に出て少し教室から離れた窓際で翠は足を止める。 「ごめんね、菜月。こうでもしないと朝霧君に怪しまれちゃうから」 「絶対そんなこと考えてないでしょ?」 「にゃはは、菜月にはわかっちゃうか」 「長いつきあいだものね。だから翠が何を相談したいかもなんとなく、ね」  そう言うと翠の顔が真剣になった。 「うん、朝霧君・・・というより麻衣の事なんだけどさ。あれから何かあった?」  もう半月くらい前になる、麻衣は学園で倒れた事があった。  あのときのことは達哉から「睡眠不足から来る疲労」という説明は受けていた。  私も麻衣に夜更かししないでちゃんと寝るように、って言ったっけ。 「見た目は以前の麻衣に戻ったと思う・・・見た目はだけどね」 「やっぱり菜月もそう感じてるんだ」 「・・・翠も?」 「うん、なんかこう、上手く言えないんだけどさ・・・  部活でどんなに楽しそうにフルートを吹いても音が違うんだよね。」 「演奏のことは良くわからないけど」  でも言いたいことはわかる気がする。 「今の麻衣は氷の上を歩いてる感じかな」  思いついて自分で言った言葉が核心をついているような気がする。 「氷の上?」 「うん、足下がいつ割れるかわからない氷の上をそっと歩いている感じ。」 「・・・そうかもしれない。菜月は何か心当たりはあるの?」 「わからないのよ」  ずっと隣に住んでいて、幼なじみで本当の姉妹のように一緒に過ごしてきた  麻衣が、良くわからない。 「達哉なら何か知ってるかもしれないけど」 「朝霧君のことだからきっと話してくれないよね、朝霧君って自分でため込んで  しまうタイプだもんね」 「そう、ね・・・」  翠の言うとおりだった。達哉はため込んでしまうタイプだから何かを知って  いてもきっと教えてくれないだろう。 「麻衣に直接聞ければいいんだけどなぁ・・・」 「・・・そうね、そうしてみようかしら」 「え? そんなこと出来るの?」 「麻衣は私の妹でもあるのよ」 「そっか、それじゃぁよろしくお願いしちゃおうかな」 「任されました!」 「それじゃぁ教室に戻ろ! 菜月の愛しの旦那様が待ってるからね」 「こら、翠っ!」  駆け足で教室に戻っていく翠を追いかけながら、麻衣とどうすれば話を  出来るかを私は考えはじめた。 side Karen  特別展示も無事終わり、博物館としては成功したと言えるだろう。  これもさやかをはじめとするスタッフ全員の努力があったからだ。  そのさやかの様子がおかしいと思い始めたのはあの事件からだった。  家族の麻衣さんが倒れた、その直後からさやかはふとした時に、悩んでいる  ような顔をしている。  おそらくは家族の問題だろう。それ故に私は何も出来ない。  親友が悩んでいるかもしれないのに何も出来なくて、私は本当にさやかの親友  なのだろうか?  私は何が出来るのか、考えてみた。  家族の問題故に口出しすることは出来ない、その問題は家族で解決せねば  意味がないからだ。  倒れた麻衣さんとはほとんど面識がないため麻衣さんに何が出来るかは除外する。 「そうなると、達哉さん・・・か」  だが、そちらはすでに話をしてある。一月以上前だが、街で偶然出会ったとき  さやかの話はしてあるから、今はどうこういう事は無いと思う。 「・・・結局私はさやかの愚痴を聞くことくらいしか出来ない」  それでも何もしないよりは良いだろう。  お互いの夜の時間があいたとき、久しぶりに飲みに行こう。  そのときさやかの話を聞いてあげて、少しでもさやかが楽になってくれれば・・・  このときの私は、まさかさやかを飲みに連れ出すことで、さやかの家族を  揺るがす事件につながるとは夢にも思ってなかった・・・ side Tatsuya  姉さんの力になりたい、姉さんの笑顔をずっとみていたい。  初めて姉さんがこの家に来たときのことを思い出す。  子供だった俺でもわかるくらい疲れた顔をしていた姉さんの笑顔をみたくて  俺はがんばったっけ。  それは今から思えば子供だからといって笑えるような、俺にとっては  恥ずかしい事ばかりだったけど。  それで姉さんが微笑んでくれたのが嬉しかった。  麻衣を守れるようになりたい、麻衣の泣き顔は二度と見たくない。  初めて麻衣が家に来たときは今でも覚えてる。  一瞬にして家族を失った痛みに麻衣は泣いていた。  涙を流していないのに泣き続けていた。  俺は麻衣を妹として家族として守ると誓った。  もう二度と、麻衣の泣き顔は見たくない、させたくないから。  俺の大事な物、家族。  姉さんが微笑んでいて、麻衣が笑ってくれて。  ずっとずっと続いていく物だと思ってた。  麻衣が倒れたときに、俺は気づいてしまった。  姉さんの力になることと、麻衣を守ること。  片方を達成しようとすると、もう片方は達成できないという矛盾に・・・  その答えが嫌で気づかないふりをしてしまった。  その気づかないふりが、姉さんの微笑みを奪い、麻衣に涙を与えてしまい  二人を追いつめていってしまった事に気づいた時は。  超えてはいけない境界を超えた後だった。
・夜明け前より瑠璃色な Another Short Story -if- Episode 3.1「達哉」 「静かだな」  誰もいない朝霧家の夜。  姉さんはカレンさんとの約束で飲みに行って遅くなるそうだ。  麻衣は菜月に誘われて、菜月の部屋へ泊まりに行っている。  いつものまかないの夕食の後、イタリアンズの散歩をして帰ってきたとき  俺は自宅に冷たさをを感じてしまった。  帰ってきた家に、玄関の外の明かり以外ついていなかったことに。 「ただいま」と言って返事の無い家に・・・  姉さんと麻衣がいない、あたりまえのたったそれだけのことで、なんで  俺はここまで動揺してしまうのだろうか。  部屋に戻る気がせず、俺はリビングのソファで一人すごしていた。  いつもぬくもりのあるリビングは、その残り香しか感じられない。 「お兄ちゃん、お茶いれよっか?」 「達哉君、夜更かししちゃだめよ?」  いるはずのない声が聞こえてくる気がする。  俺はキッチンの方を振り返る、もちろんそこには誰もいない。 「・・・少し疲れてるのかな」  俺にはここ最近悩んでいることがあった。  それは両立出来ない願いだった。  姉さんの力になって、笑顔でいて欲しい。  麻衣を守って、二度と泣かせたくない。  家族の笑顔を守りたい、それだけの願いなのに・・・  麻衣は倒れてから変わってしまった。  いや、変わってはいない。元に戻っただけだ。  昔引き取られた頃の、泣き虫の麻衣に。  姉さんから笑顔が消える時ができてしまった。  まるで昔のように、家に遊びに来ていて、自宅へ戻る直前の  姉さんのようだった。  麻衣のそばにいると姉さんのそばにいられない。  姉さんのそばにいると、麻衣のそばにいられない。  3人同時にいることは不可能。 「どうすればいいんだよ・・・」  誰かに頼れれば楽になれるだろうか?  いや、それはできない。麻衣と兄妹でない事がばれてしまうし  それよりも家族のことを他人には相談出来ない。  たとえおやっさん相手でも・・・だめだ。  こんな時父さんだったら・・・ 「・・・だめだ、親父になんて絶対頼れない」  正直言うと、俺は親父は許せない。  俺達を置いてどこかへ行って帰ってこない親父は絶対に許せない。  だけど・・・尊敬してる。  親父の決断が、麻衣や姉さんを救ったのは事実だからだ。  尊敬しているけど許せない、今度会ったら絶対文句を言ってやらないと  気が済まない・・・ 「・・・ふぅ。親父は死んだ事になってるんだよな。会えるわけないさ」  法的には親父は死んだことになってるが、墓は無い。  母さんが墓を建てることに反対したからだ。 「・・・」  考えがそれていることに今更ながら気づく。  今は親父や母さんの事を考えたいわけじゃない。  姉さんと麻衣の事を考えて・・・ 「・・・くそっ」  結局答えは出てこない。 「俺には家族を守る事が出来ないのだろうか・・・」  思わず口に出た自分の言葉に驚く。 「何言ってるんだ、俺は」  出来る出来ないではない、しなくてはいけない。  そう決心したはずなのに・・・ 「ふぅ、風呂に入って寝よう」  俺はだいぶ疲れているようだ。今日は何を考えてもきっと答えは出ないだろう。  自室に着替えを取りにいって脱衣所までいって、今更ながら浴槽にお湯を  ためていないことに気づく。 「何やってるんだろう、俺は」  スイッチを操作して浴室にお湯を入れる。  少しばかりの時間だが、リビングに戻って待っていることにしよう。  俺は着替えをかごに入れたままリビングへと戻る。  時計の針はもうすぐ日付が変わろうとする時間をさしている。 「姉さん遅いな・・・」  飲みに行くだけだから泊まってくることは無い・・・とは思う。  あまりに飲み過ぎてカレンさんの家に泊まり込んだことはあったから  確実とは言えないか。 「・・・静かだな」  誰もいない朝霧家の夜。 「・・・」  何もせず何も考えず、ただ時間だけが過ぎていく静かな夜。  数分後、アラームがなる。お風呂のお湯がたまった合図だった。 「よし、さっぱりして寝るか」  俺は脱衣所へ向かおうとしたそのとき、インターフォンの鳴る音がした。
・夜明け前より瑠璃色な Another Short Story -if- Episode 3.2「さやか」 「夜分遅く失礼します」 「ただいま〜」  玄関の扉を開けると、カレンさんが姉さんに肩を貸して入ってきた。 「すみません、止めたのですけど止め切れませんでした」 「いえ、カレンさんが止められないのなら誰も止められませんから  気にしないでください。」 「なによ〜、私だけが悪者なの〜?」 「はいはい、姉さんは靴を脱いで。カレンさん、ありがとうございます」 「いえ、結局私には何も出来ませんでしたから・・・」  何も出来なかった? どういう意味だろう。  姉さんをここまで送ってきてくれただけで充分だと思うけど。 「外に車を待たせてありますので私はこの辺で。  ・・・達哉さん、さやかをお願いします。」 「あ、はい。カレンさん、お気をつけて、それとありがとうございました」  俺は改めてお礼を言って頭を下げる。  頭を上げた俺は、優しく微笑むカレンさんの顔があった。 「・・・達哉さんに任せればさやかは大丈夫そうですね。それでは失礼します」  俺はカレンさんの微笑みと言葉の意味が分からず、ぼーっとしたまま  玄関の扉がしまるのを見送った。 「またね〜、カレン〜」 「姉さん、たてる?」 「しつれーね、私はだいじょーぶよ」  そう言って立ち上がろうとした姉さんはそのまま壁にもたれかかって  座り込んでしまった。 「まったく、飲むのは悪いことじゃないけど飲み過ぎは良くないよ?」 「・・・わかってる」 「姉さん、何か言った?」 「たつやく〜ん、おんぶ〜」 「・・・ふぅ」  俺は姉さんのつぶやきを聞き損ねたまま、姉さんを背負ってリビングに運んだ。  リビングのソファに姉さんをおろそうとしたのだけど姉さんは手を離して  くれなかった。 「姉さん、手を離してくれないとおろせないんだけど」 「い〜や♪」 「お茶用意してあげるから、降りてくれない?」 「どうしようかな〜」  ・・・酔ってる、いつも以上に姉さんは酔ってる。 「達哉君がどうしてもっていうなら、手を離してあげる」 「どうしてもお願いします」 「ぶー、達哉君のけち」  会話がつながらない、そのことに少し苛立ちはじめた。  そのとき思いもよらない力で俺はソファに倒れ込んだ。  気づくと俺は姉さんに後ろから抱きしめられてるような形でソファに座る  姉さんの上に座っていた。 「んふふ〜、た〜つ〜や〜くん♪」 「姉さん、ふざけるのはよしてくれ」 「私はふざけてなんか無いわよ?」 「姉さん、酔ってるんだから、ふざけるのはやめて」 「・・・」  姉さんが急に静かになった。 「姉さん?」 「・・・そうよ、酔ってるわ。それでいいじゃない」 「姉さん?」 「だから達哉君、私と・・・遊ばない?」 「遊ぶって?」 「そう、達哉君にとって一夜限りの遊びよ。私を抱いて」  抱いて・・・  姉さんの口から出た言葉に俺は真っ白になっていた。 「・・・だめだよ、姉さん」  俺はそっと姉さんの腕を振り払ってソファから立ち上がった。 「だめっ!」  姉さんは俺を正面から抱きしめてソファに押し倒した。  そのとき姉さんの唇と俺の唇は重なっていた。  驚いて目を見開いている俺は、目を閉じている姉さんの涙を見てしまった。 「姉さん・・・なんで泣いてるの」 「泣いてなんかいないわ」 「・・・姉さん、無茶なことしないで」 「無茶じゃないわよ! 私は達哉君に抱かれたいだけなのよ!」  俺は姉さんが酔っているから、だからこんなふざけたことをしているのだと  思いこもうとした。  でも、それが違う事だとは考えるまでもなくわかってしまった。  それでも・・・ 「姉さん・・・姉さんはちょっと酔いすぎてるんだよ。だから落ち着いて」 「落ち着いてなんて出来るわけないじゃない!」 「・・・姉さん?」  姉さんの目からあふれる涙が俺の顔をぬらす。 「酔わなくちゃ言い出せないじゃない! 私を抱いてだなんて・・・  私は、私は本気だから! 達哉君が好きなの。  だめだとわかっても愛してしまったの!」 「・・・」  俺は姉さんの告白に衝撃を受けていた。姉さんが俺のことを愛している? 「だめだから、私は姉でいなくちゃいけないのだから!!  なら、女の私の想いはどこに行けばいいの?」  「姉さん・・・」 「・・・だからね、達哉君。今夜だけ私を愛して抱いて。  今夜でこの想いを忘れるから」 「・・・」 「達哉君にとっては今夜はただの戯れなの。  私のわがままを聞いてくれただけだから・・・・それでいいから・・・」  姉さんの力になって、笑顔を見ていたい。  その姉さんが泣いている。  なら、俺は俺の出来ることをしなければ・・・  今の俺の出来ることは、姉さんの願いを叶えることだけ。  でも、それは姉さんを傷つけてしまうことになる。  それでも・・・姉さんの涙は見たくない。 「姉さん」 「っ!」  俺の落ち着いた声に姉さんがびくっと震える。 「ご、ごめんなさい、達哉君。困らせるようなことを言って・・・  私、酔ってるのよ」 「姉さん」 「んっ!」  俺はそのまま姉さんを抱きしめ、今度は俺から姉さんに口づけをする。 「たつや・・・くん?」 「俺は姉さんを抱きたい」 「達哉君・・・でも」 「俺は姉さんを愛してるかどうかは、今はわからない。でも・・・」  姉さんの目をまっすぐ見て言葉を続ける。 「姉さんの事大好きだから」 「達哉君・・・」  姉さんの目からまた涙があふれてきた。  それは悲しい涙ではないと思う。 「だから、俺は大好きな姉さんを俺の意志で抱く、エッチなことをしたいから抱く。  遊びなんかじゃなくて、抱きたいから抱く。姉さんが大好きだから・・・」 「・・・うん、私も達哉君が好きだから抱かれたい。  遊びじゃなくて真剣に抱かれたい」 「姉さん」 「達哉君・・・」  どちらとも無く唇をあわせた。  姉さんの部屋のベットで、二人で一つの毛布にくるまっていた。  姉さんは疲れてさっきまで眠っていたようだけど、ついさっき俺の腕の中で  目を覚ました。 「大丈夫? 姉さん」 「うん・・・大丈夫だと思う。まだ何か挟まってるような気がするけど・・・」 「・・・」  こればかりは俺にはどうしようもない。まぁ、俺が原因ではあるのだけど。 「その・・・姉さん」 「なに?」 「・・・ごめん」 「なんで謝るの?」 「だって、その・・・中で」 「大丈夫よ、今日は。それに、その方が達哉君に抱かれたって実感できるもの」  そういって微笑む姉さんの顔はすごく綺麗だった 「私ね、達哉君に抱かれたこと、ちょっと後悔してるかも」 「え?」  後悔してる? 「くすっ、達哉君勘違いしてる。ちゃんと私の話聞いてね」 「う、うん」 「私ね、琴子さんから頼まれたの。達哉君と麻衣ちゃんを頼むって。だから  私は二人の姉でいて保護者でいなくちゃいけなかったの。  だから、家族として二人を愛していたのだけど・・・  気づいちゃったの。私は女として達哉君を愛していたことに」 「・・・」 「だめなことだって自分に言い聞かせてきたのだけど、達哉君ったらここのところ  麻衣ちゃんばっかりかまってたでしょう? 私ね、嫉妬しちゃったの」  確かに麻衣が倒れてから麻衣のことばかりだったかもしれない。 「嫉妬するほど私の想いは膨れあがって、自分でもどうしようもなくなっちゃったの  それでね・・・決心したの」 「・・・何を?」 「達哉君に一度だけ愛してもらって、それを思い出にしようって」  姉さんは目を閉じて話を続ける。 「でね、後悔したのは私の甘さなの」 「甘さ?」 「そう、達哉君との一夜を思い出の1ページに書き留めようとしただけなの。  達哉君が真剣に向き合ってくれて、真剣に愛してくれたのがわかったときにね  ・・・私の体と心に達哉君が刻み込まれちゃったの」 「姉さん・・・」 「思い出にするどころか刻み込まれちゃったの。忘れられないくらいに・・・」 「姉さん!」  俺は姉さんを抱きしめた。 「ごめん、姉さん。俺は今でも姉さんを愛せたかどうかわからないんだ」 「いいの・・・んっ」  姉さんの言葉を唇でふさぐ。 「でも、姉さんが大好きなのは本当だから、それだけは嘘じゃないから」 「・・・うん、今はそれだけでもいいの。  ありがとう、達哉君。こんな私を好きでいてくれて」  姉さんは目を閉じる。  俺も目を閉じて、自然と唇同士が重なった・・・
・夜明け前より瑠璃色な Another Short Story -if- Episode 3.3「さやか U」 「・・・あれ?」  朝、目覚めるといつもとは違う天井が目に入ってきた。 「・・・すぅすぅ」  なにやら寝息が聞こえる、その方を見ると姉さんがいた。 「・・・夢じゃないんだな」  俺は裸のまま眠っていて、同じく裸のままだとおもう姉さんは俺の胸の所に  頭を乗せて眠っていた。  姉さんの長い髪が顔にかかっているのをみて、そっとどけてあげる。 「・・・」  昨日の夜あった出来事は夢でもなく現実なんだ。  その事実が俺に重くのしかかる。  姉さんを抱いたことだけが重い事実ではない。  姉さんをあそこまで追いつめてしまっていたという事の方が俺には衝撃で  そして重かった。結局は俺は姉さんの力にはなれてなかったからだ。 「ごめんね、姉さん。今まで気づいてあげれなくて」 「・・・いいのよ、達哉君」  無いと思った返事があってびっくりした。 「起きてたの?」 「えぇ、ついさっきだけどね」  姉さんは俺の顔を見ると、顔を真っ赤にして目線をそらした。 「姉さん?」 「・・・ごめんね、達哉君。私わがままいっちゃって。」 「べ、べつにそんなことは気にしてないから」 「ありがとう、達哉君」 「それよりもやっぱり俺がちゃんと謝らないといけない」 「どうして? 私がお願いして」 「いや、俺が抱きたくて抱いたんだ。だから・・・」  俺の言葉は姉さんの唇によって最後まで言えなくなった。 「達哉君、私の意志は無かったことにしちゃうの?」 「姉さんの、意志・・・」 「達哉君だけが悪者になろうとしてるのなんて駄目よ?  私も私の意志で、達哉君に抱いてもらったんだから。」 「・・・」 「それにね、私幸せよ・・・こんなに幸せなの初めて」 「姉さん・・・」 「よしっ。それじゃぁ朝ご飯の準備しなくちゃね」  そう言うと姉さんはベットから出ていこうとして突然動きが止まる。 「あの・・・達哉君。朝から元気・・・なのね」 「え? あ、その・・・」 「いいのよ、私を見てそうしてくれたんでしょう?」  朝の生理現象でもあるのだけど、確かに姉さんを見て、という方が  正解かもしれない。 「くすっ、昨日のがんばってくれたお礼、してあ・げ・る♪」 「達哉君、朝ご飯もうちょっと待ってね」  あの後姉さんをまた抱いてしまった後、順番でシャワーを浴びてからの朝食。  姉さんは上機嫌でご飯の支度をしていた。  テーブルをみると3人分の食器が並んでいた。 「麻衣、帰ってるの?」 「ううん、まだだけどそろそろ帰ってくると思うわ」  昨日から菜月の部屋へ泊まりに行ってる麻衣。  泊まりに行ってて良かった。  ・・・なんで良かったんだ? 姉さんとの関係を知られるから?  そのとき俺の脳裏に麻衣の泣き顔が浮かんできた。  なんで浮かんでくるんだ?  その答えはすぐに出てきた。  俺が姉さんと、だからか・・・  姉さんを抱いてしまったからといって、家族関係が変わるとは思えない。  そんなに麻衣は弱くない・・・とは今は思えなくなっていた。 「達哉君、怖い顔してるわ・・・、麻衣ちゃんの事?」 「・・・うん」  今更隠せるとは思えなかったので正直に頷いた。 「そうね・・・私は正直に話そうと思うの。達哉君に頼っちゃったこと。  だって、家族ですから」  家族だから・・・か。  確かにそうだ、家族同士での秘密は良くない・・・けど・・・  今の麻衣に話して大丈夫なのだろうか?  俺にはわからない・・・ 「ただいまー!」  そのとき玄関の方から麻衣の声が聞こえた。  そのまま声の主はリビングに入ってきた。 「あら、お帰りなさい。麻衣ちゃん」 「ただいま、お姉ちゃん・・・お姉ちゃん?」 「なに、麻衣ちゃん」 「・・・」  様子がおかしい。  俺は麻衣の方をみると、麻衣の顔は青ざめていた。 「・・・違う、よね・・・ううん、違わない・・・」 「麻衣?」  俺の呼びかけにびくっとする麻衣。  麻衣の顔は泣き出しそうな、そんな顔をしていた。 「どうした、麻衣。調子が悪いのか?」  俺が近づこうとすると麻衣が一歩後ずさる。 「いや・・・」 「え?」 「こんなの、いやっ!!」  そう叫ぶと麻衣はリビングから出ていった。 「麻衣ちゃん!!」  姉さんが呼び止める、けど麻衣はそのまま玄関から出ていったようだ。  一体何が・・・嫌なんだ? 「麻衣ちゃん、まって! 話を聞いて!」  姉さんはリビングに座り込んで叫んでいた。 「麻衣ちゃん!!」 「姉さん、落ち着いて!」 「だって、達哉君、麻衣ちゃんが、麻衣ちゃんか!!」 「姉さん!」  俺は姉さんの頬を両手で優しく挟んで俺は姉さんの正面に行く。 「達哉・・・くん?」 「ともかく落ち着いて、姉さん。」 「あ、ありがとう、達哉君。もう大丈夫」  姉さんの顔も青ざめてはいたけど、大丈夫そうだった。 「一体麻衣は何なんだ?」 「・・・」 「姉さん?」 「たぶん・・・麻衣ちゃんは私たちの関係に気づいたと思う」 「え?」  なんで気づくんだ? 麻衣はリビングに入ってきただけじゃないか。  俺は朝の挨拶すらしていないんだぞ? 「女の子はね、雰囲気に敏感なの。きっと私たちの雰囲気が変わったのに  気づいたんだと思う・・・」  それだけ言うと姉さんはうつむかせた。 「こんな・・・こんなはずじゃなかったのに・・・」  姉さんは震えていた。 「なんで・・・なんでこうなるの? 私はやっぱり悪いことをしたの?  好きな人に愛してもらうことが悪いことなの?  ねぇ、達哉君。お願い、教えて!」 「姉さん!」  俺は姉さんを正面から抱きしめる。 「姉さんは悪くないよ、だから落ち着いて。」 「でも、でもっ!」  俺は姉さんを落ち着かせるために、最後の手段に出た。 「姉さんっ!」  そしてそっと唇を重ねる。 「んっ・・」 「姉さん、落ち着いて。大丈夫だから落ち着いて」  そっと背中を撫でる。  そうしていると姉さんの震えは止まった。 「・・・達哉君」 「姉さん、ごめん。俺は麻衣を探しに行ってくる」 「・・・ふふっ、なんで謝るの?」 「姉さんを・・・今だけ置いていくから。」 「間違ってないわ、達哉君。私はもう大丈夫よ」 「・・・」 「達哉君、お姉ちゃんを信じなさい」 「あぁ、わかった。」  そう言うと俺は麻衣を探しに出ようとして、すぐにでも飛び出そうとした。 「達哉君、携帯は持っていって。何かあったらすぐ連絡してね」 「了解」  部屋に駆け足で戻ってハンガーに掛けてある上着を羽織る。  携帯をポケットにしまって玄関に向かう。  そこには姉さんが待っていた。 「姉さん、麻衣をつれて帰るから朝食の準備、3人分よろしくね」 「えぇ、気をつけてね。達哉君」 「行って来る」  俺は玄関の扉を開けて駆けだそうとして、止める。 「達哉君?」 「姉さん・・・俺じゃ頼りないかもしれないけどさ」  一呼吸おいてから伝える。 「姉さん、俺を信じて」  その言葉に驚いた姉さんは、笑顔で「うん」と答えてくれた。 another view 穂積さやか 「姉さん、俺を信じて」  達哉君の言葉は私の心の中に入ってきた。 「信じて・・・か」  達哉君なら、私はすべてを信じられると思う。  麻衣ちゃんを見つけて帰ってきてくれる。  その後のことも何も問題なく解決してくれる。  そう、お話の中の主役、ヒーローみたいに・・・  でも、現実は上手くは行かないだろう。  麻衣ちゃんは雰囲気で気づいてしまった。  特別な関係になってしまっていることを・・・  もし、私が今のまま逆の立場に立ったら、私は達哉君に何をして  しまうだろう?  昨夜みたいに、一度だけで良いから抱いて欲しいというだろうか? 「きっと麻衣ちゃんも・・・」  今の私は麻衣ちゃんの気持ちが良くわかる。  きっと麻衣ちゃんも達哉君への想いに苦しんでいたのだろう。  私と同じに・・・  だとすると、麻衣ちゃんはきっと達哉君に抱かれるのだろう。  そう思ったとき、胸の奥が痛んだ。  けど、それですんだ事に驚いた。  以前のように嫉妬していないし、暗い感情に支配されていない。 「達哉君がいない今でも、私は達哉君に助けてもらっているのね・・・」  ごめん、達哉君。  やっぱり私の想いは捨てれない。私は達哉君がいないと駄目みたい。  家族がそろっていないと駄目みたい、もちろん麻衣ちゃんもいないと駄目。  この後どうなるかわからない、もしかすると達哉君は麻衣ちゃんに  つきっきりになるかもしれない。そう思うと怖くなってくる。  けど、達哉君の言葉を思い出すと怖くなくなってきた。 「私、ずっと達哉君のこと信じてるからね」 another view end
・夜明け前より瑠璃色な Another Short Story -if- Episode 3.4「麻衣」  玄関の外に出たとき、思った以上に暗いことに気づく。  空を見上げると今にも雨が降ってきそうな雲に覆われていた。  麻衣、傘持っていったのだろうか?  冷静な部分がそう思う、その冷静な部分が今の俺にあることに驚いた。  驚くことで俺自身が冷静になっていく。  天気が悪く雨が降るかもしれない、麻衣を一刻も早く探してつれて帰らないと。  なら、麻衣はどこにいるんだ?  麻衣が行きそうな所・・・ 「っ!」  全然わからない。俺は麻衣のことを全く知らないことに気づいた。  俺と麻衣とが一緒に行ったことのある場所は思いつくが、麻衣だけが行く  場所なんて全然わからない。 「くそっ!」  俺は走り出した。どこへ行けばわからないのに走り出した。  そして気づいたとき俺は河原で立ちつくしていた。  そのときになって雨が降り出していることに気づいた。  俺の洋服も雨に濡れている。俺が気づかなかっただけで、相当前から  降り出していたのかもしれない。 「麻衣・・・」  俺はふらふらと歩き出す。 「麻衣・・・麻衣・・・」  どこにいるんだよ・・・麻衣。 「俺は何も出来ないのか? こんなにも無力なのか?」    突然視界が反転する。 「え?」  気づくと俺は河原のしたへ転がり落ちていた。  足を踏み外したのだろうか? 「つぅ!」  立ち上がろうとして、足首に鈍い痛みが走った。  ひねったのだろうか?  いつ? どこで?  ・・・そんなことはどうでもよかった。  その場で仰向けになって空を仰ぐ。  一面黒い雲に覆われて雨が落ちてきていた。 「俺を信じて・・・か」  姉さんを安心させるために言った言葉。  心がこもってない、力を持たないただの言葉。 「一体俺のどこを信じられるんだろうな・・・」  姉さんの力になりたくて、いずれは守れるようになりたくて。  そう思ってたのに今はなんだ?  姉さんを追いつめて、姉さんを傷つけて。  そして今は麻衣を追いつめて麻衣を傷つけて・・・ 「くそっ、まだだ!」  俺は立ち上がる。  足首に痛みがあるが、そんなものどうでもいい。  今は麻衣だ。  麻衣はきっと泣いている。だから、麻衣の所へ行かなくては。  思うように動かない足を引きずりながら俺は土手の上まで戻る。  そして歩き出す、どこへ向かうのかは決まってる。 「麻衣の所に・・・」  雨が強くなってきたようだが、かまわない。  今は麻衣の所に・・・ 「麻衣・・・」  視界がぐにゃりと歪んだ。頭の奥の方が痛む。  身体が言うことを聞かない。  そんなことは関係無い、俺は麻衣の所へ行くんだ。  一歩歩き出そうとして足が上がらなかった。  そして気づいたときには俺は再び土手から転げ落ちていた。 「っ!」  転げ落ちたのはさっきの場所よりそんなに離れていない橋の近く。 「お兄・・・ちゃん?」 「麻衣・・・か?」 「お兄ちゃん! どうしたの、そんなにぼろぼろでっ!」 「麻衣・・・そこにいるんだな」 「お兄ちゃん!」  麻衣が駆け寄ってくるのが見える。  俺はその場で起きあがる。不思議と体中に力が満たされる気がする。 「お兄ちゃん!!」  近づいてくる麻衣を俺は捕まえ、抱きしめた。 「お兄ちゃん?」 「麻衣・・・良かった、麻衣・・・」 「・・・」 「ごめんな、麻衣・・・麻衣を守るって言ったのに守れなくて・・・」 「ううん、そんなことない。私が、私が勝手に」 「麻衣・・・大丈夫だ。俺は麻衣を置いていかない」 「っ!」 「絶対に置いていかない・・・だから、俺を置いていかないでくれ・・・」 「お兄ちゃん・・・うっ・・・うぅ・・・」 「泣きたいなら泣けばいい、俺は泣きやむまでそばにいる。  だから、泣きやんだらまた笑ってくれないか?」 「うぁ・・」  泣き出した麻衣の背中をそっと撫でる。 「お兄ちゃん、ごめんなさい・・・ごめんなさい・・・うぅ」 「・・・」  泣きじゃくる麻衣を抱きしめて、そっと背中をなで続ける。  嗚咽する声が小さくなってくる。 「麻衣・・・もういいのか?」 「・・・うん。でもまたお兄ちゃんの胸を借りても、いい?」  俺の腕の中から見上げてくる麻衣の不安げな瞳。  ・・・俺の答えは考えるまでもない。 「あぁ、俺で良ければいつでも・・・」 「ありがとう、お兄ちゃん」  麻衣の顔には涙の後が残ってた。でもその笑顔はまぶしかった。 「・・・」 「お兄ちゃん?」 「・・・」 「お兄ちゃん? どうしたの? お兄ちゃん!!」  麻衣が心配そうな顔で俺を呼ぶ。  ・・・駄目だな、麻衣にそんな顔をさせちゃ駄目だ。  俺はだいじょうぶと伝えて笑おうとした。  けど、それは出来なかったようだ。 「お兄ちゃん! いやっ、いかないでっ!! お兄ちゃん!! いやぁぁぁぁ!」  ・・・また、麻衣を泣かしちゃったな。  そう、後悔しながら俺の意識は闇に消えていった。
・夜明け前より瑠璃色な Another Short Story -if- Episode 3.5「麻衣 U」 「・・・あれ?」  朝、目覚めると見慣れた天井が目に入ってきた。 「・・・すぅすぅ」  なにやら寝息が聞こえる、その方を見ると麻衣がいた。  麻衣は俺の手を握ったまま、俺の上に被さるようにして眠っていた。 「・・・っ!」  突然頭の奥が鈍くいたんだ。  その痛みが俺の記憶を鮮明にしていく。  突然飛び出した麻衣を追って、雨の中麻衣を探し出せた。  そこまでは何とか思い出すが、その後のことが何にも思い出せない。  てっきり朝かと思っていたが、朝にしては部屋が暗い。  一体どうなってるんだ?  事情を知っていると思う、麻衣に聞いて見ようと思ったのだが・・・ 「・・・」  うっすらと見える、涙の後が見えている麻衣。  そんな麻衣を起こしたくなかった、寝かせておいてあげたかった。  ガチャ。  扉の開く音と共に姉さんが部屋に入ってきた。 「達哉君・・・目が覚めたのね。良かった・・・」 「姉さん?」  扉の所で立ちどまっている姉さん。肩が震えてるように見える。 「・・・ごめん、姉さん」 「ううん、いいの。達哉君はちゃんと麻衣ちゃんを見つけてくれたんだもの」 「そのことなんだけど、俺覚えてないんだ。一体何があったのか」 another view 穂積さやか  達哉君が麻衣ちゃんを探しに行ってからどれくらい立ったのだろう?  信じて、という言葉を信じるのが揺らぎそうになる。  愛する人の言葉が信じられない訳は無い。ただ、私が弱いだけだ。 「達哉君・・・」  そのとき携帯の着信音がなった。  ディスプレイには達哉君からの着信を表示している。  私は通話ボタンを押す。  そこから聞こえてくるはずの声は、聞こえてこなかった。 「お姉ちゃん、お兄ちゃんが・・・お兄ちゃんが!!」 「麻衣ちゃん? どうしたの? 一体何があったの?」 「お兄ちゃんが・・・私、どうすればいいの? 何も出来ないの・・・  お姉ちゃん、助けて・・・」 「麻衣ちゃん、どこにいるの? 達哉君は?」 「河原にいるの・・・お姉ちゃん、助けて・・・」  私は通話をしながら雨の中河原へ急いだ。  河原につくと、土手の下で達哉君を抱きながら泣いている麻衣ちゃんを  見つけた。  そのときの達哉君を見て私は心臓が止まりそうになった。  さっきまであんなに元気にしていた達哉君がぼろぼろになっている。  一体何が・・・いえ、今はそんなことより達哉君を助けないと。 「麻衣ちゃん、達哉君を家まで運ぶわよ。手伝って」 「うん・・・」 another view end  俺は麻衣の頭を撫でながら話を聞いていた。 「その後にお医者様に来ていただいて診察してもらったの。」 「・・・ごめん、姉さん。迷惑かけたみたいで」 「達哉君、謝ってばかりね」 「そうかも・・・ごめん。・・・あっ」 「もう、達哉君ったら」  姉さんは微笑みながら立ち上がった。 「姉さん?」 「お夕食の用意するわね。  達哉君、食欲無いかもしれないけど食べないと駄目よ?」 「それは大丈夫だと思う・・・それと朝ご飯無駄にしてごめ・・・」  俺の言葉は姉さんの唇で止められた。 「ねぇ、達哉君は私を許してくれる?」 「え?」  意味が分からない。 「ううん、なんでもないわ。また後でね、達哉君」  そう言うと姉さんは部屋から出ていった。 「私を許してくれる?」  姉さんのその問いかけが耳に残っていた。 another view 朝霧麻衣 「お兄ちゃん? どうしたの? お兄ちゃん!!」  私を抱き留めてくれてるお兄ちゃんの力が抜けていく。  何故? どうして?  そしてそのままお兄ちゃんは私にもたれかかるようにして目を閉じてしまった。 「お兄ちゃん! いやっ、いかないでっ!! お兄ちゃん!! いやぁぁぁぁ!」  私を捕まえてくれるんでしょ?  どこにもいかないで、お兄ちゃん! 「いやぁぁぁぁ!」 「麻衣っ!」 「っ!」  暖かい・・・この暖かさはお兄ちゃんだ。  私はお兄ちゃんに抱かれてるんだ・・・。私はお兄ちゃんの背中に手を回す。 「お兄ちゃん・・・お兄ちゃん・・・」 「麻衣、大丈夫だから・・・泣かないで」 「・・・うん」 another view end  突然騒ぎ出した麻衣を俺は抱きしめていた。  麻衣の叫びを聞いて部屋に来た姉さんは俺が麻衣を抱きしめているのを見ると  微笑みながら階下に戻っていった。  俺は麻衣の背中を撫でながら、麻衣のことを考えていた。 「寂しい想いさせてたんだな・・・ごめんな、麻衣」 「・・・あ」 「麻衣?」 「え? えっ? お兄ちゃん?」 「そうだよ、麻衣。俺はここにいるよ」 「・・・お兄ちゃん・・・ぐすっ」  麻衣の目に大粒の涙が浮かんだ。 「ごめんなさい、ごめんなさいっ!」  麻衣は俺の胸に顔を埋めて泣き出した。 「私が飛び出したから、お兄ちゃんに怪我させちゃって・・・ごめんなさい」 「麻衣・・・」 「ごめんなさい・・・ごめんなさい・・・」 「麻衣、俺の言葉覚えてるか?」 「・・・」  俺は前に言った言葉をもう一度麻衣に言う。 「俺の胸で泣いてもいい、だけどその後笑顔を見せてくれって」 「・・・うん」  麻衣が落ち着くまでずっと麻衣を抱きしめていた。  夕食のお粥を食べてから、俺はベットに戻った。  雨に打たれて風邪をひいたようだったが、幸い今は落ち着いている。  問題は右足首のほうだった。こちらは捻挫で今も鈍い痛みがする。 「・・・ふぅ」  俺は何をしてるんだろうな・・・  天井を見ながらそう思った。  コンコン 「お兄ちゃん・・・入っても良い?」 「あぁ」 「・・・失礼します」  パジャマ姿の麻衣が部屋に入ってきた。 「お兄ちゃん、大丈夫?」 「あぁ、落ち着いてきてるから大丈夫だ」 「・・・」 「・・・麻衣?」 「お兄ちゃん、ごめんなさい」 「麻衣、俺はもとから怒ってなんかいないんだって、さっき何度も  説明しただろう?」 「それでもごめんなさい」 「・・・ふぅ、もうわかったからこのことは終わり。」  元々俺は麻衣を怒ってないから、謝られてもどうしようもない。  だからこのことは終わり、そう宣言した。 「用件はそれだけか?」 「・・・」  麻衣は何か言いたそうにずっと扉の前で立ったままでいる。 「麻衣?」 「あの・・・お兄ちゃん。私ね・・・私・・・」  俺は麻衣が話を続けるのを待った。  少しして、麻衣が何かを決心したような顔をして、俺をまっすぐに  見つめてきた。 「お兄ちゃん、私は待つのを止めようと思うの」 「待つのを?」 「うん、お兄ちゃんは私を置いていかないでくれる、どこまでも一緒に  連れて行ってくれるんだよね?」 「・・・あぁ」 「だから、待つのは止めたの。連れて行ってくれるのなら、その場所に  私から行こうって思ったの」 「・・・」 「だから・・・お兄ちゃん、私を抱いて欲しいの」 「麻衣?」 「・・・お兄ちゃんの中の、お姉ちゃんがいる場所と同じ場所に私も  行きたいの・・・」 「・・・」  やっぱりわかっていたのか・・・  麻衣はそのことが置いて行かれることと思って恐怖したのか。 「お兄ちゃんは今疲れてるよね?」  俺は無言で頷く。 「だから、私がお兄ちゃんを抱く。そうしてお姉ちゃんと同じ場所へ行く」  そう言うと麻衣はパジャマのボタンを上からはずしながら俺に近づいてくる。 「お兄ちゃんは寝てるだけでいいの、私が全部するから・・・」  そういって近づいてくる麻衣。  近くまで来た麻衣を見て、俺は気づいてしまった。  麻衣が震えてることに・・・ 「麻衣!」 「きゃっ!」  俺は麻衣を抱きしめた。 「麻衣、俺は最低の男だぞ?」 「そんなことない! 私にとってお兄ちゃん以上の人なんていない!」 「俺は姉さんを傷つけ、今度は麻衣も傷つけようとしてる!」 「お兄ちゃんがつけてくれる傷なら大歓迎だよ!」 「俺は・・・俺は・・・」 「お兄ちゃん、お願いだからお兄ちゃんだけ悪い人にならないで」  俺は麻衣の言葉に反論出来なかった。 「お兄ちゃんが悪い人なら私も一緒に悪い人になるから・・・」 「・・・麻衣」 「お兄ちゃん・・・」  自然と唇同士が重ね合う。 「麻衣、俺は俺の意志で麻衣を抱く。これだけは譲れない。」 「・・・うん、私はお兄ちゃんに抱かれる。私の意志で・・・」  そのまま二人でベットの上に倒れ込んだ。
・夜明け前より瑠璃色な Another Short Story -if- Episode 3.6「達哉 U」 another view 穂積さやか 「だいじょうぶだって」 「だーめっ、安静にしてないと治る怪我も治らないよ?」  朝食の準備をしてるとき、階段の方から達哉君と麻衣ちゃんの声が聞こえた。  すぐにドアが開いて二人が入ってくる。 「麻衣、だいじょうぶだから」 「まだちゃんと歩けないんだから私の言うことを聞く、わかった?」  足を捻挫してる達哉君に肩を貸している麻衣ちゃん。  仲の良い兄妹・・・には見えなかった。  どちらかというと寄り添う恋人に・・・  あぁ、そうだったんだ。  きっと昨日の朝の私がそうだったんだ。  達哉君に抱かれた翌朝の私はこんなにも変わっていたのだと、麻衣ちゃんを  見て気がついた。  昨日までの麻衣ちゃんは達哉君に恋する女の子だった。  でも今の麻衣ちゃんは、達哉君を愛する女。  好きな人に抱かれるって、こんなにも女の子を美しくするものだったのね。  そして、それは麻衣ちゃんも達哉君に抱かれた事を意味する。  私はそれに、安堵していた。  嫉妬とか、達哉君を取られるとか、そういう感情は全くない。  不思議なくらい、心は穏やかだった。  でも、すべてが穏やかだったわけではなかった。  朝食の時間、時折達哉君が物思いに耽ってしまう事があった。 「お兄ちゃん、どうしたの?」 「・・・あぁ、ちょっと寝ぼけてるみたいだ。」 「もう、ちゃんと起きて、お兄ちゃん。」 「ごめん、麻衣。大丈夫」  麻衣ちゃんが陽気にそう問いかける。  達哉君の答えが嘘だって事くらい麻衣ちゃんもわかっているだろう。  でも大丈夫といわれればどうしようもなかった。 「姉さん、麻衣。話がある。」  食後のお茶を煎れた直後に達哉君は真剣な表情でソファに座り、そう切り出した。 「麻衣、もうわかってると思うけど俺は一昨日の夜、姉さんを抱いた」 「・・・」  麻衣ちゃんはそれに気づいていたからこそ、あのとき混乱して逃げ出した。 「そして姉さん。気づいたと思うけど・・・昨日、俺は麻衣を抱いた」 「えぇ、わかってたわ」  私はその言葉に微笑む。その私を見て達哉君は少し驚いた顔をした。  私はそのまま、話を続けるよう促した。 「俺は、何もわからなくなったんだ」 「わからない?」  麻衣ちゃんがそれこそわからない、というふうに聞き返した。 「あぁ・・・  俺は姉さんや麻衣を守りたい、力になりたい、大切にしていきたいと思って  出来ることをしてきたつもりだったんだ。  でも気づいたとき、姉さんも麻衣も追いつめていた。  その時の弱い二人を傷つけてしまったんだ・・・、抱いてしまったんだ。」 「達哉君・・・」  私は悪い予感がした。このままだと達哉君は・・・ 「俺は間違った選択をしてしまったのだろうか、わからなくなったんだ」 「お兄ちゃんは間違ってない! 間違ったのならそれは私の方」 「麻衣、あの選択は、抱くという意志は俺の物だ。麻衣は間違っていないさ」  ・・・やっぱりそうだった。  私の時も、達哉君が達哉君の意志で私を抱いてくれた。  それは私の為を思って・・・あとで責任を一人で抱え込むための方便だったのだ。 「俺は姉さんを、麻衣を抱いたことは後悔していない。  だけど俺は何をしたかったんだろうって・・・」 「達哉君・・・」  私が・・・私が達哉君を追いつめている。私はとんでもなく重い物を達哉君に  押しつけてしまった・・・ 「お兄ちゃん・・・」 「俺は答えを必ず出す、考える。だから・・・少しだけ時間をくれないか?」 「達哉君が考えるのなら、私はその答えを待ってるわ、ずっと」 「私も・・・どんな答えでも私はだいじょうぶだから」 「ありがとう、姉さん。ありがとう、麻衣。」  久しぶりに達哉君の笑顔を見た。最近ずっとなかった達哉君の笑顔。 「それじゃ、部屋に戻る。しばらく一人で考えたいから」 another view 朝霧麻衣  お兄ちゃんは一人で部屋に戻っていった。  歩き方がぎこちないのは、まだ捻挫した足が痛いから。  私は肩を貸そうと思って、でもやめた。  お兄ちゃんは一人で考えたいといったから、部屋まで一緒に行く訳には  行かなかったから、リビングで見送った。  お兄ちゃんが出ていった扉をずっと見てたら、視界が歪んできた。 「・・・麻衣ちゃん」  横に座ってたお姉ちゃんが私を引き寄せる。  私の顔はお姉ちゃんの胸の所にあたった。 「今は泣いていいのよ、麻衣ちゃん。」  そう言うとお姉ちゃんは私をぎゅっと抱きしめてくれた。  そのとき私の額の所に落ちてくる物があった。  それを感じたとき、私の何かが崩れた。 「・・・うぅ」  いつものお姉ちゃんならこういうとききっと頭を優しく撫でてくれる。  でも、今は違う。  私をただ強く抱きしめるだけ。  私もお姉ちゃんの背中に手を回して強く抱きしめた。  お昼になってもお兄ちゃんは部屋から出てこなかった。  私はお昼のご飯を用意する気にはならなかった。  用意してもお兄ちゃんは来てくれないと思うし、二人だけで食べても  美味しくないと思ったから。 「私もそう思うわ。おなかがすいてないなら二人でダイエットしちゃおっか?」  そう微笑むお姉ちゃんを見て、私はすごいと思った。  こんな状況になっても笑えるって本当にすごいことなんだなって。 「ごめん・・・お姉ちゃん。私は笑えないよ・・・」 「それが普通よ、麻衣ちゃん。  私は麻衣ちゃんよりちょっとだけお姉さんだから。」  お姉ちゃん・・・  私のお姉ちゃん・・・美人で綺麗で立派ですごいお姉ちゃん。  ・・・私のお姉ちゃんでいてくれてるんだ。 「お姉ちゃん、ごめんなさいっ!」 「麻衣ちゃん、なんで謝るの?」 「私、自分のことしか考えてなかった! 今もお兄ちゃんをお姉ちゃんに  取られる事しか考えてない! 私・・・わたし・・・」 「麻衣ちゃん、私もそうよ」 「えっ?」 「私もね、達哉君と麻衣ちゃんが二人でどこかへ行って  しまうのではないかって思ってたわ。」 「そんなこと無い!」 「そう、そんなことは無いのに、そう考えちゃうの。私も弱いから」 「お姉ちゃん・・・」 「麻衣ちゃん、信じて待つってすごい苦しいと思うわ。  今は達哉君の答えを待ちましょう」 「・・・うん」 「達哉君が出した答えが正しいのならどんな答えであっても私は  受け入れるつもりでいるわ。でも・・・」 「でも?」 「間違ってたら私は反論するわ。怒るかもしれないわね。  麻衣ちゃんもそうするつもりでしょう?」 「うん・・・」  お兄ちゃんがどんな答えを出すかはわからないけど、それが  間違ってたら私だって反論すると思う。 「だから、麻衣ちゃん。今は待ちましょう。達哉君を信じて」 「・・・うん」
・夜明け前より瑠璃色な Another Short Story -if- Episode 3.7「大切なもの」 「お姉ちゃん、これからずっと一緒にいるの?」 「うん、そうよ。」 「わぁい、これからずっと一緒だっ!」  それははじめて姉さんが家族になった日の記憶・・・  優しくて綺麗なお姉ちゃん。  たまに遊び着に来てくれるお姉ちゃんが大好きで、そのとき姉さんの  家庭の事情なんて知らなかった。 「達哉、さやかお姉ちゃんが一緒にいてくれると嬉しい?」 「うん、嬉しいよ。僕お姉ちゃんのこと好きだから」 「私もお姉ちゃんが大好き!」  何もわからなかったけど、姉さんが大好きなのはわかってた。  麻衣もお姉ちゃんが出来ることが嬉しくて笑っていたっけ・・・ 「これからおまえの妹になる麻衣だ」 「麻衣ちゃん?」 「・・・」 「僕の名前は朝霧達哉、今日からお兄ちゃんになります!」 「おにい・・・ちゃん?」 「そうだよ、麻衣ちゃん」 「お兄ちゃん・・・」 「達哉、ちゃんはつけなくていいんだぞ? おまえの妹なんだから」 「うん、なら・・・麻衣」 「・・・お兄ちゃん」 「麻衣、もし達哉がいじめたら遠慮なくお父さんに報告するんだぞ?」 「お父さん、僕は麻衣をいじめないよ。」 「そうか? ならずっと仲良しでいられるか?」 「うん、麻衣とずっと一緒にいる!」  はじめて麻衣が妹になったときの記憶・・・  時折家族で遊びに来てくれた麻衣の両親が事故で亡くなってしまったことは  俺も悲しかった。ただ、それ以上にいつも元気に笑っていた麻衣の顔から  笑いが無くなったことがもっと悲しかった。  だから、お兄ちゃんになったことが嬉しくて、麻衣の笑顔が見れるように  努力したんだよな。  そうして麻衣は笑顔を取り戻せた・・・と今まで思ってしまった。 「・・・」  俺は姉さんに抱かれていた。  ただ、姉さんの胸の中に抱かれて、姉さんは俺の頭を撫でてくれた。  そうだ、これはあのときの・・・  家族を失った悲しみを、姉さんが癒してくれた。 「お兄ちゃん・・・お兄ちゃん!!」  俺は麻衣を抱きしめていた。そしてあのとき姉さんがしてくれたように  麻衣の頭を撫でてあげることしかできなかった。  母さんが病気で亡くなったとき、俺は麻衣を癒す事ができたのだろうか?  いや、出来なかったのだろう。俺はこのころも弱かったから・・・ 「大丈夫、麻衣。俺はどこにも行かないから・・・  だから、麻衣もどこにも行かないでくれ」 「うん。私はずっとお兄ちゃんのそばにいるから・・・」  麻衣を慰めるつもりでいて、俺は結局麻衣に慰められていた・・ 「・・・」  気づくと見慣れた天井が目に入ってきた。  どうやら考えつかれてベットで眠ってしまったようだ。 「・・・ふぅ」  俺は今見た夢を思い出していた。夢と言うより過去の記憶だった。  麻衣が妹になった。  姉さんが姉さんになった。  親父の失踪、母さんの病死。3人だけの家族。  力になってあげたい人がいて、守りたい人がいて・・・  でも一つを選ぶと残りが取りこぼれてしまう。  なら取らなければ良いだけだった、支えになれて守ってあげれれば  良かったはずなのに。  俺は二人との関係を持ってしまい、二人とも傷つけた。  傷つけてしまった・・・  それなのに、今の俺は二人とも失いたくない、二人とも取りこぼしたくない。  二人の力になりたい、二人を守ってあげたい。  そして俺にはそれだけの力がまだない。 「一体どうすればいいんだよ・・・俺は大切な物を失いたくないだけなのに・・・」  大切な物を失いたくないだけ・・・ 「・・・ふぅ、外の空気でも吸うか」  俺は窓を開けて外の空気を部屋の中にいれた。  冷たい風が俺の頬を撫でる、考えすぎで熱を持ってしまったように熱くなってた  頭も同時に冷やしてくれるようだった。 「達哉?」 「ん? 菜月か。」  俺の部屋の窓を開ける音で気づいたのか、隣の菜月の部屋の窓が開いた。 「・・・達哉、大丈夫?」 「何が?」 「・・・ふぅ、そう言うと思った。達哉、今の自分の顔を鏡で見てみたことある?」  俺の顔? 「なんだか疲れ切ってるわよ? 何をそんなに思い詰めてるの?」 「・・・」 「私じゃ力になれないの・・・かな?」 「そう言う訳じゃないさ・・・けど、俺が自分で答えを出さないといけないから」 「そう・・・わかった。達哉は頑固だからそう決めたのなら意地でも  そうするのよね」 「俺って頑固か?」 「・・・気づいてないの?」  呆れた顔をしている菜月。すみません、全然気づいてませんでした。 「でもお願い、無理はしないでね。」 「ありがとう、菜月・・・大切な勉強の時間に気を使わせて悪かったな」 「ううん、いいの。勉強も大切だけど、今の達哉との時間も大切だと思うから」 「・・・」 「達哉?」 「あ、いや・・その、本当にありがとうな、菜月」 「うん、どういたしまして」  窓を閉めて俺はベットの上に横になる。  さっきの菜月との会話が頭の中で何度もリピートされる。 「今の達哉との時間も大切だと思うから」  菜月のこの言葉がずっと俺の中に残っている。  菜月にとって受験に必要な勉強の時間は大切なはずだ。  その大切な時間を削ってでも、俺との時間も大切と言ってくれた。  俺にとって大切な物ってなんだろう?  姉さんも、麻衣も、家族も、そして菜月やおやっさん。  ・・・仁さんも。  何故かここで仁さんをいれておかないと後がややこしくなりそうな気がして  思わず苦笑いしてしまう。  そういえば、遠山もいれておかないとあとで酷いつっこみいれられそうだな。  そう思って笑ってしまう。 「・・・あれ?」  さっきまで自分の力の無さ、ふがいなさに嘆いてた俺が笑えてる。  それにも驚いたけど、もっと驚いた事実にたどり着いてしまった。 「そうか・・・そうなんだな」  俺はそのことを認めた。  認めてみるとすべての悩みが嘘のように消えて無くなった。  そう、答えがでたのだ。  その答えが正しいのかわからない、この答えがもしかすると姉さんや麻衣を  もっともっと傷つけてしまうのかもしれない・・・  でも、出てしまった俺の答えは、俺にとって正しい「思い」だ。  それなら、俺はこの答えを姉さんと麻衣に伝えないといけない。  その結果がどうなろうと、それは俺が受け入れなければならないものだから。 「わかってしまえば簡単なことだったんだな」  俺はうん、と背伸びをする。 「よし、行くか!」
・夜明け前より瑠璃色な Another Short Story -if- Episode 3.8「必要なもの」  自室にいたみんなにリビングに集まってもらった。  姉さんと麻衣の顔を見たとき、少しだけ疲れた感じを受けた。  ・・・あぁ、俺はまたこの二人を傷つけたのかもしれない。  でもその事実を受け入れて、俺は答えを出したつもりだ。  3人で向かい合ってリビングのソファに座る。  俺の正面に姉さんと麻衣。  正直言うと二人の顔を直視するのがすごくつらい。  だが、それは俺の弱さであり、今は受けねばいけない罪でもあるのだから。 「姉さん、麻衣。待たせてごめん。答え・・・かどうかはわからないけど  出たから報告するね」 「・・・」  二人の顔に緊張が走るのがわかる。きっと俺もそういう顔なんだろうな。 「初めて麻衣が家に来たときは、笑っていて可愛い女の子だった。それがあの  事故で笑顔を失った。俺は幼いながらも麻衣の笑顔が見たくて守りたくて。  ずっとそう思って今まで来た。」  麻衣も姉さんも驚いた顔をしている。それはそうだろう、本当の兄妹じゃ  無いということを話しているのだから。 「姉さんが家に遊びに来たとき俺は嬉しかった。優しくて美人のお姉ちゃんと  一緒に遊べて。そしてずっといてくれることになったとき、俺は本当に  喜んだよ。姉さんの事情もしらないままに。」  姉さんの家庭の事情は今でも詳しくは知らない、ただ家にいれなくなった  からここに来たという話は今は知っている。 「そして親父の失踪、母さんの病死。いろいろとあったよね・・・」  みんなにとっても思い出したくない2つの事件。 「でも、姉さんのおかげで今の俺達はいる。姉さんにはいくら感謝しても  し足りないくらい感謝してるん。その俺の思いは、いつか姉さんの手伝いを  したい、力になってあげたいって思うようになったんだ。」  二人とも口を挟まずに聞いてくれている。 「姉さんの力になりたい、麻衣を守りたい。ずっとそうできるようになろうって  がんばってきたつもりだった・・・でも、実際の俺はそうはなれなかった。」 「そんなことないよ! お兄ちゃんはいつも私を守ってくれてた!!  だから私は笑っていられたんだよ」  涙を流しながら麻衣は反論する。  ・・・また麻衣を泣かせちゃったな。 「麻衣ちゃん、今は達哉君の話を最後まで聞きましょう」  姉さんが麻衣を抱きしめる。 「ありがとう、姉さん。」  俺は素直にお礼を言う。 「姉さんの力になりたくて、麻衣を守りたくて、二人の為を思って・・・と  俺の出来ることをする、そう思って行動した結果。  俺は姉さんを抱いて、麻衣を抱いた。これは俺の弱さが招いた事だ」  麻衣が何かを言おうとした、けど姉さんが抱きしめる力を強くしたのだろう。  麻衣は何も言わなかった。  姉さんもそうして何かを言うのを止めたのかもしれない。 「俺が招いた事だから、俺が責任をとらないといけないって思った。  でも姉さんをとろうとすると麻衣がこぼれ落ちてしまう。  麻衣をとろうとすると姉さんがこぼれ落ちてしまう。  今の俺には二人同時に責任をとれるほど強くない・・・  ならどうすれば良いんだろうって、ずっと考えてたんだ」 「・・・」 「俺は何が大事で大切なのかを考えてた。そのとき、偶然菜月とあって。  菜月は大事な勉強の時間を割いて俺のことを気にかけてくれたんだ。  菜月にとって勉強の時間も大事だけど俺との時間も大事だって言ってくれた。  そして気がついたんだ」  二人に緊張が走るのがわかる、俺も答えを言う段階に来て緊張している。  俺は二人にばれないよう、深呼吸をする。 「俺にとって大事な物、大切な物。  その考え方自体が間違っていたんだっていう事に気づいたんだ。  今の俺に大事じゃない物なんて無い、大切じゃない物なんてないんだって。  力になってあげたい姉さん、守ってあげたい麻衣。俺にとって二人とも  大事で大切な人だったんだ。だって、どちらかが欠けても俺は成り立たないから」  麻衣は驚いた顔をして、姉さんは優しく微笑んでいる。 「姉さんの力になりたいって言っている俺は姉さんからその力をもらっていたんだ。  麻衣を守りたいっていう俺は麻衣に守られていたんだ。  ・・・そのことに気づいたよ」 「・・・お兄ちゃん」 「抱いたことは罪として俺はずっと背負っていく。  そしていつかは姉さんを守れるように、麻衣の力になれるようになる。  だからそれまで・・・俺の力になってて欲しい、俺を守って欲しい。  それが俺の出した答え。俺のただのわがままだった。」  ふぅ、と俺は息を吐き出してソファに深くもたれ目を閉じる。  半日以上考えて出した答えがこれだった。  要するに俺はまだ子供だっていうことだ。  後は二人の審判にゆだねるだけだ・・・でも、すっきりした。  自分の弱さを認めただけなのにすっきりとした。  これから俺は強くなれるだろうか? 「ねぇ、お兄ちゃん。聞いても・・・いい?」 「あぁ、何でも聞いてくれ。」  俺はそう言いながら目を開けて麻衣の顔を見る。  麻衣は何か信じられない、という顔をしているように見えた。 「お兄ちゃん・・・本当に私はお兄ちゃんにとって必要なの? 私は本当に  お兄ちゃんを守ってあげてるの? 私は守られてるだけじゃないの?」 「麻衣が笑っていてくれるから俺はその笑顔を守ろうって思えるんだ。  麻衣の笑顔が俺を思いを守ってくれてるんだ」 「お兄ちゃん・・・・お兄ちゃん!」  麻衣は俺の胸の中に飛び込んできた。 「お兄ちゃん、ありがとう・・・ありがとう・・・」 「麻衣、お礼を言うのは俺の方だよ、ありがとう」  そう言いながら俺は麻衣の頭をそっと撫でる。 「達哉君、答え出すの遅すぎるわよ? 私はずいぶん前にそう思ってたのだから  でも・・・良かった」  姉さんが笑いながら、目元に涙を浮かべながらそう言ってくれた。 「ごめん、姉さん。俺はまだ子供で、馬鹿だったんだよ」 「そうね・・・」  そう言うと姉さんは俺の横に座って、俺の肩に頭をもたれかけてくる。 「でも、わかってくれたから良しとするわ」 「・・・ありがとう、姉さん」  何日ぶりになるのだろう・・・  こうして3人が何事もなく暖かく過ごせる時が来たのは。  俺は今、本当の家族を手に入れたと思う。もちろん今までも本当の家族だったけど  もっともっと、血の繋がりがある家族以上の、家族になれた気がした。 「さてと、問題もすべて解決したことだし、今夜はお祝いしなくっちゃね!」 「さんせーい、夜ご飯豪華な物にしようよ!」 「お姉ちゃん奮発してウナギでもとりましょうか?」 「うん、私もそれが良いと思うよ」  ・・・麻衣が泣きやんで少しして、いきなり部屋の雰囲気が変わった。  姉さんも麻衣もすっきりとした感じがして、笑顔が今まで以上にまぶしかった。  これが俺の大切な人達なんだな・・・ 「達哉君、何浸ってるの?」 「そうだよお兄ちゃん」 「・・・あ、いや、その・・・緊張が解けたらなんだか妙に疲れてて」 「ふふっ、達哉君一世一代の告白ですものね」 「・・・え?」 「そうだよね、お兄ちゃんの告白、ずっと私は忘れないよ!」  ・・・  ・・・  ・・・ 「あ・・・」  俺のあげた声に姉さんと麻衣が呆れた顔をする。 「まさか達哉君、あそこまで言っておいて告白してることに気づいてなかったの?」 「お兄ちゃんらしいっていえば、お兄ちゃんらしいけど・・・ねぇ」  ・・・はい、気づいてませんでした。  確かに二人を守るから俺を守ってくれなんていうのは告白以外の何者でもない。  俺は思わず否定しそうになって・・・その必要がないことに気づく、というか  それはわかっていたことだった。  だから、今の俺は素直に言葉に出来る。 「姉さん、麻衣。好きだよ」  俺の言葉に二人とも顔が真っ赤になる。 「もう・・・このタイミングで言わなくてもいいのに」 「そうだよね・・・お兄ちゃん、こういうのはもっとムードがある時に」 「言いたかったから。今、伝えたかったから。好きだからさ。」 「・・・」 「・・・」  二人とも押し黙り顔をうつむかせる。 「・・・達哉君、私も好きよ、愛してるわ」 「お兄ちゃん、私もいっぱいいーっぱい大好き、そして愛してる」
・夜明け前より瑠璃色な Another Short Story -if-               Episode 3.9 Epilogue「夜明け前より瑠璃色な」  夜。  俺は毛布にくるまってベットに背を預けるように座っていた。  その横には同じように毛布にくるまって寝ている姉さんと麻衣。  あの後3人そろっての食事をして、今の今までずっと俺の部屋での  パジャマパーティー。  このとき俺は姉さんに麻衣との関係をちゃんと説明した。 「私たちはお互いを必要としている家族だから、血の繋がりなんて関係ないわ」  そうあっけらかんと言ってくれた。  それどころか兄妹の鎖に縛られて苦しんでいた麻衣の事を逆に心配して  くれたほどだった。麻衣は泣きながら謝って、姉さんは麻衣を抱きしめていた。  その光景を見て、俺達の本当の家族の形が出来たのを確信した。  その後麻衣が眠ってしまって、姉さんも眠り、俺も眠ったはずだった。  眠りが浅かったのか、俺はまだ夜明け前の時間に目が覚めていた。  今日はもう月曜日、朝起きれば学園にいって夕方からバイトがあるいつもの  生活にもどるのだろう。  だけど、明日の通学路は、学園は・・・世界はどう俺の目に映るのだろうか?  ふと、窓の外を見上げると瑠璃色の空に月が浮かんでいた。  俺達だけの家族の形は、月はずっと見ていたんだろな・・・ 「達哉君・・・起きてるの?」 「ん・・・お兄ちゃん?」 「悪い、起こしちゃった?」  俺の問いかけに二人の返事はなかった。  二人とも窓の外の方を見ているようだった。  俺もそれに習って外を見る。 「私、こんな空の色初めて見た」 「私も・・・」 「・・・」  俺は空を見るのを止めた。それよりも綺麗な物があるからだ。  瑠璃色の光に彩られた世界の中にいる、姉さんと麻衣。 「綺麗だな」 「えぇ・・・」 「うん、そうだね」  俺の言葉は、二人にとっては空の事だと思ったのだろう。  ・・・それでもいいか。  この夜明け前の瑠璃色の空も綺麗な事には変わらないのだから。  今はこの、瑠璃色の世界にいる幸せをかみしめていよう。  この関係は「普通」ではない、それ故に普通以上の問題がたくさん俺達の  道をふさぐことだろう。  でも、心配はしていない。  だって、俺には姉さんと麻衣がいてくれるのだから・・・  俺はこのときになって、はじめて姉さんと麻衣にこの言葉を贈る事ができた。 「さやか姉さん、麻衣・・・二人とも愛してる」 「私もよ、達哉君、麻衣ちゃんを愛してるわ」 「お兄ちゃん、お姉ちゃん。愛してる、ずっと一緒だよ!」
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