夜明け前より瑠璃色な Another Short Story -if-


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・夜明け前より瑠璃色な Another Short Story -if- Episode 1.1「予兆」 side Tatsuya 「達哉さん、こんにちは」 「あれ、カレンさん。こんにちは、おでかけですか?」  駅前に雑貨を買い出しに来てた俺は私服姿のカレンさんに出会った。 「はい、ちょっとした買い物ですが、もう帰るところです」 「お疲れさまです」 「いえ・・・時に達哉さん。少しだけお時間ありますか?」  カレンさんからこういう申し出を受けるのは珍しい、というか初めて  じゃないだろうか?  俺の買い出しも終わっているし、バイトまで時間はある。 「大丈夫ですけど、何か?」 「立ち話も何ですから」  そう言って近くのオープンカフェへと案内された。  カウンターで二つのホットコーヒーを買ってから席に着く。 「どうぞ」 「あの、お金は」 「今日は私が呼び止めたのですから私が持ちます、お気になさらないでください」 「はぁ・・・ごちそうになります」 「いえ」  カレンさんはコーヒーカップを口元に運ぶ。  俺も習うように一口コーヒーを飲む。 「突然こんな事を聞くのは失礼なのですけど・・・」  いつもと違うカレンさんの雰囲気に俺は緊張する。 「さいきんのさやかは、どうでしょうか?」 「どう?」 「はい」  どう?と聞かれても、特に普通だと思う。  何かが変わった訳じゃ無いとは思うのだけど・・・ 「家では特に変わった様子は無いと思います。ただ・・・」  カレンさんは黙って俺の次の言葉を待つ。 「これは俺の私見ですけど、働き過ぎてると思います。」 「達哉さんはそう見えますか?」 「・・・はい、いつも笑っていますけど少し疲れてると思ってます」 「そうですか・・・」  納得するようなカレンさんを見て俺は嫌な予感がした。 「あの、カレンさん。姉さんに何かあったんですか?」 「これといって特に変わったことはありません。」  嫌な予感は俺の勘違いで終わったようだ。  安心して、俺は身体から力が抜けていくのを感じた。 「そう、変わったことは無いと思います。館長代理になってからの  多忙さは今も昔も変わってません」 「え?」  多忙さは今も昔も? 「達哉さん、館長代理とはいえ館長が地球にいない現状ではさやかが  博物館の最高責任者です。例え仕事がなかったとしてもその重圧は  考えられないほど重い物です」 「・・・」 「そして最近のさやかは、私から見て少し無理をしてるように見えます」 「姉さんが・・・無理をしている?」 「そのことを達哉さんに聞いてみたかったのですが・・・  どうやら家のことではなさそうですね。」  姉さんが無理をしている・・・  俺はその言葉の意味を理解したくなかった。 「達哉さん?」 「あ、はい。」 「達哉さん、さやかの事をお願いします。私では出来ない、家族と  しての達哉さんに出来ることを、お願いします」 「俺で出来ることなら何でもしますよ。安心してくださいとは言えない  ですけど・・・」 「いえ、その返事で私は安心できます。今日はお時間をとらせてしまい  申し訳ありませんでした」 「こちらこそ、何もおかまいもしなくて」 「くす、おかまいも何も呼び止めたのは私ですよ?」  変なこと言ってしまったようだ。 「それでは私はこれで失礼致します」 「ごちそうさまでした、カレンさん」 「いえ、お構いなく」  微笑みながらカレンさんは去っていった。  俺は帰り道、ずっと考えていた。  両親がいない俺達の生活を支えてくれている、姉さん。  その姉さんが無理をしなくてはいけない状況になっているのかもしれない。  どうして無理をしてるのかは俺が聞いても何も答えてくれないだろう。  もしかすると博物館の展示の問題で悩んでいるだけかもしれない。  家のことではなく仕事のことで無理をしているのなら・・・  俺はそれを止められない。  だって今の仕事は姉さんの夢を叶えるための一歩なのだから。  そして、俺は何が出来るんだろう?  学生である俺はバイトで働いても稼げるお金は社会人の姉さんから見れば  微々たる物だ。いや、お金で解決できる問題ではないのかもしれない。  それ以前に解決できる問題なのだろうか?  ・・・根本的な問題は何なのだろうか?  気がつくと家の前についていた。  俺は持っていた荷物を一度玄関におき、両手で自分の頬をはたいた。  パシッという音と鈍い痛みが頬を襲う。 「よし、今は気分を切り替えてっと」  結局は今できることしか出来ないのだ。  まずはバイトに行って仕事をこなさないと。  買ってきた雑貨をリビングにおいてから、俺はバイトに向かった。
・夜明け前より瑠璃色な Another Short Story -if- Episode 1.2「予兆 U」 side Sayaka 「・・・あら?」  お風呂も終わって自室で髪をドライヤーで乾かしてたとき、櫛が一つ  足りないことに気づいた。 「きっと脱衣所におきっぱなしかな」  別に今すぐ使う訳ではないけど、こういうことは気になってしまう。  ちょっと喉も乾いたことだし、麦茶も頂いていこうかしら。  私は部屋を出て1階に降りていった。  すでに家の中の電気が消されてる1階、もうみんな部屋に戻ってる時間。  そう思って私は脱衣所へ通じる扉を開けた。 「ん?」 「え?」  最初の声は達哉君。  その次の声は私、そう、脱衣所には達哉君がいた。  お風呂上がりなのか、短パンだけの格好でタオルで頭を拭いていた。 「姉さん、忘れ物?」  達哉君は気にすることも無く頭を拭きながら私に話しかけてくる。 「・・・」 「姉さん?」 「え? あの・・・達哉君がいるとは思わなかったら・・・ごめんなさい」  私はそれだけ言うと脱衣所のドアを閉めて自室へと駆け戻った。  自室へ戻った私はそのままベットに倒れ込む。  鼓動が速くなりドキドキしているのがわかる。 「達哉君・・・」  だめ、それ以上考えちゃだめ!  私の冷静な部分はそう思考を修正しようと躍起になっているけど、  他の私の部分はさっきの光景を思い出してしまう。 「達哉君、逞しくなってた・・・」  子供の頃はみんなでお風呂に入ったことはあった。  でも達哉君は高学年になった頃から恥ずかしがって一緒には入ってくれなく  なった。あのときはちょっと寂しかったな・・・  そのときは思春期の多感な年頃になるのだから、と私は自分に言い聞かせた。  一緒にすんでいる以上こういうハプニングは無い訳じゃない。  私のバスタオル姿を見られたこともあった。  そのときは晩ご飯抜き、って冗談で笑って言えたけど、今の私はそう  言えるのだろうか? 「・・・たぶん、言えない」  ただの姉弟の関係ならお姉さんとしての余裕があったと思う。  でも、いまの私はそれ以上の感情を持ってしまっている。 「姉さん、最近・・・その、どう?」 「どうって・・・わかりにくい質問ね」 「ごめん、姉さん」 「ううん、いいの。心配してくれてるんでしょう?、ありがとう。  でも、達哉君は知ってるでしょう? これでも私は丈夫なのよ?」 「知ってる、姉さんががんばりやさんだって事も。でも無理はしないで  欲しいんだ」 「大丈夫、無理なんてしてないから」  それは本当、私は好きでしている仕事だから無理だとは思っていない。 「俺、姉さんから見ればまだ子供だけど・・・俺に出来ることは何でも  するから、あったら何か言って欲しい」 「達哉君・・・」 「・・・」 「うん、わかったわ。頼めることがあったらちゃんと達哉君に頼む事にするわ」 「ありがとう、姉さん」 「ふふっ、お礼を言うのは私の方よ、達哉君ありがとう」  夕食後の会話を思い出してしまう。 「達哉君も大人になってきたんだなぁ・・・」  このときはそう思うだけですんだのだけど、達哉君の身体を見てしまった時  私は達哉君に「男」を感じてしまった。  「男」である達哉君が私のために何かしたいって言ってくれた。 「・・・私馬鹿だから勘違いしちゃうじゃない」  達哉君が私を家族として、姉として思ってくれてることしかわからない。  本当の気持ちはわからない、けど。  私は達哉君が好きで、愛している。  それが弟に向けての好きで愛してるのかはわからない。  いや、わかっちゃいけないのかもしれない。 「・・・達哉君、ずるいよ?」  私は本音をもらす。  子供の頃は可愛くて愛おしくて、大人になったら頼りがいのある男性に  育っちゃうなんて・・・ 「やっぱり達哉君はずるい」  コンコン  ドアをノックする音が聞こえる。 「姉さん、起きてる?」  私は一瞬にして鼓動が速くなった。  それを深呼吸して無理矢理に押さえ込む。 「起きてるわ、どうしたの?」  ドアの所までいってあけると、そこには着替えた達哉君がいた。 「これ、姉さんのだとおもって。さっき取りに来たのはこれじゃない?」  達哉君の手には見慣れた櫛があった。 「ありがとう、達哉君」 「・・・姉さん、さっきの話だけど」  私はまた鼓動が速くなる。 「俺のわがままだよね、何も出来ないのに何か言って欲しいだなんて」 「そうでもないわ、私は嬉しかったわ」 「・・・ありがとう、姉さん。」 「どういたしまして。もう夜も遅いから寝ましょうね」 「お休み、姉さん」 「お休みなさい、達哉君」  達哉君は部屋に戻っていった。  私は達哉君が持ってきてくれた櫛を両手で胸に抱える。 「達哉君・・・やっぱりずるい」  心が温かくなった。  今は、この暖かみを抱いて寝よう。明日になればちゃんとした  お姉ちゃんに戻れるから。  おやすみなさい、達哉君。
・夜明け前より瑠璃色な Another Short Story -if- Episode 1.3「予兆 V」 side Mai 「よし、これで終わりっと」  持っていたシャープペンシルを机の上に置いて両腕を頭の上に伸ばす。  今日の復習と宿題は無事終わった。  机の上にある置き時計を見ると結構遅い時間になっていた。 「明日の準備してから寝ようっと」  使っていた教科書やノートをまとめて明日使う物だけ鞄に入れる。  そして、私は窓を開けて雨戸を閉める。  これで外から私の部屋の明かりは見えなくなる。 「・・・」  部屋を見回す、もう何年もすんでいる私の部屋。 「今日は大丈夫・・・かな」  自信は無いけど寝ない訳にもいかない。  寝る前に私が出来ることといえば、今日は大丈夫と自分に言い聞かせる事と  部屋の明かりを消さないことだけだ。 「・・・おやすみなさい」  隣の部屋の壁に向かって挨拶をしてから私はベットの中にもぐる。  そして目を閉じる。  閉じた瞼の外から部屋の明かりを感じる。  その明かりが私を照らしてくれてるのなら・・・大丈夫。  今日は大丈夫・・・  いつしか私は眠りに落ちていった。  夢ってなんだろう? 「私、お兄ちゃんのお嫁さんになる!」  小さい頃の私の夢  そのときお兄ちゃんは何て言ってくれたのかは覚えてない・・・  夢ってなんだろう? 「麻衣、こんな所で何してるの?」 「菜月ちゃん、ちょっと夢について調べてみたの」 「新しい占い?」 「うん、そんな感じ」  ・・・学院の図書室での記憶。  脳が記憶を整理する際に知覚する体験と言う説があるって、このとき知った。  夢ってなんだろう・・・  ・・・  ・・・  暗い、真っ暗・・・またこの夢だ。 「これは夢・・・だからこれは違うのっ!」  夢だってわかってるのに、私は何も出来ない。  気がつくと周りにいろんな人がいる。  遠くにたくさん人がいる、その中には上手く思い出せない私の本当の両親もいる。  近くにはお兄ちゃんのお父さんとお母さんもいる。  一番近くにはお兄ちゃんとお姉ちゃんがいる。  気がつくと私とお兄ちゃんとの距離が少しずつ離れていく。  遠くの人はもう背中を向けて歩き出していく。 「あ・・・」  お父さんもお母さんもいつの間にか遠くに行ってしまった。  そしてお兄ちゃんもお姉ちゃんも・・・ 「まって! 私をおいていかないでっ!」  私は走って追いかけようとするけど、絶対に追いつかない。  そんな悪夢。  そう、これは夢だってわかっているのに、目が覚めれば家にはお兄ちゃんも  お姉ちゃんもいる。  だから早く夢から覚めて!  そう願っても、夢は終わるまで目が覚めることは許されない。  誰もいない暗闇に一人残されるそのときまで・・・ 「・・・え?」  いつもと・・・違う?  少し離れた所にお兄ちゃんとお姉ちゃんが立ち止まってこちらを見ている。 「・・・お兄ちゃん、お姉ちゃん?」  私は二人の元へ進もうとした、そのとき。 「あ・・・」  お兄ちゃんとお姉ちゃんが・・・口づけをした? 「あ・・・あぁ・・・」  二人はまるで恋人のようなキスをしていた。 「・・・何で? 何でお兄ちゃんとお姉ちゃんが?」  何で・・・あそこにいるのは私じゃないの? 「っ!!」 「はぁ・・・はぁ・・・」  私は気づくと夢の世界から抜け出していた。  荒い呼吸が整ってくると、周りを見渡す余裕が出てきた。  そこは明かりのついた私の部屋。  何も変わらない、いつもと同じ空間・・・ 「・・・うぅ」  涙が出てきた。声を上げて泣きそうになった。  私は枕に顔を埋めて声を殺した。 「お兄ちゃん・・・お姉ちゃん・・・私を置いていかないで・・・」  今のは夢の世界の話のはずなのに・・・  現実味をもって起きている私を襲う。 「そんなの嫌だよぉ・・・お兄ちゃん、助けて・・・」  お兄ちゃん助けて・・・  それが出来ない事だとわかっているのに・・・    今の私はただ胸の痛みに泣くことしか出来なかった。
・夜明け前より瑠璃色な Another Short Story -if- Episode 1.4「前兆」 side Tatsuya 「昨日は・・・焦りすぎたのかなぁ、やっぱり」  眠りが浅かったせいか、目覚ましがなる前に起きてしまった。  起き出しても良かったのだが、つい昨日のことを考えてしまう。  カレンさんから話を聞いて、姉さんが大変な仕事に就いてるって改めて  わかって。出来ることをしようって決めたのに何をして良いかわからなくて 「それで本人に尋ねるなんて、俺はまだ子供なんだな・・・」  はぁ、とため息をつく。 「それでも出来ることをしていくしかないんだよな」  そして出来ることを探していく、昨日そう決めたじゃないか。  俺は両手で自分の頬を叩く。  パシッっという音と衝撃に完全に目が覚めた。 「・・・よし、まずは顔を洗わないとな」  洗面所で顔を洗ってリビングに顔を出す。 「おはよう、麻衣」 「あ、お兄ちゃんおはよう、今日は早いんだね」  麻衣はキッチンで料理をしながら俺に返事をする。  ・・・あれ?  何か違和感を感じたけど・・・何がおかしいんだろう? 「お兄ちゃん、どうしたの?」 「いや・・・なんでもない」  麻衣が立ちつくしている俺に気づいたのか、こちらを振り向いてたずねてくる。 「お兄ちゃん、もうすぐ出来るからお姉ちゃん起こしてきてくれる?」 「あぁ、わかった」  ・・・きっと気のせいだな、何もおかしいところは無いし、別にデスマーチを  歌ってる訳でもない。 「俺の気のせいか」 「ん? 何か言った?」 「なんでもない、姉さん起こしてくる」 「うん、お願い〜」 「姉さん、朝だよ」  ドアをノックしながら姉さんを起こす。 「姉さん?」  ・・・  返事がない、今日は手強いようだ。 「さて、どうするか・・・」  起こさない訳にはいかないけど、部屋に入るわけにもいかない。 「こりゃ麻衣に頼むしかなさそうだな」  そう結論づけると俺は麻衣の助けを得ようとしたとき、目の前の扉が急に開いた。  そこにはいつも以上にぼーっとしてる姉さんがいた。 「姉さん、起きた?」 「・・・あ〜、たつやくんだ〜」 「・・・起きてないね、姉さん」  まだ寝ぼけてるようだ。とりあえずリビングに来てもらって特濃緑茶を飲んで  もらうしかないな。 「姉さん、したに降りれる?」 「た〜つ〜や〜くん!」 「え?」  俺はいきなり姉さんに抱きつかれた。 「た〜つ〜や〜くん、えへへ〜」 「ね、姉さん」  薄手のパジャマ越しに姉さんの体温が伝わってくる。  そして、柔らかいものも当たってくる。  俺は極力それが何かを考えないように努める・・・ 「ね、姉さん。寝ぼけてないで起きたなら着替えてリビングに来て」 「ん〜・・・」  抱きつくのを止めてくれた姉さんは何を思ったのかその場でパジャマの  ボタンをはずしはじめた。 「ね、姉さん!!」  俺はあわてて姉さんの腕をつかんで止めたがすでに上二つのボタンは  はずされており、そこから見える圧倒的な存在感に俺は押されていた。 「なぁに、達哉君」 「と、とりあえずお茶飲みに行こう!」 「デートのお誘い?」 「違うっ!」  ・・・今日の姉さんはいつも以上に手強かった。 「ふぅ、やっぱり朝はお茶よね〜」  麻衣がいれてくれた特濃緑茶を飲んで目が覚めた姉さん。 「お姉ちゃん、眠そうだったけど昨日の夜お仕事でもしてたの?」 「え?」  突然姉さんが固まる。 「えっと、違うの、ちょっと考え事してたら遅くなっちゃって・・・」 「ちゃんと寝ないとだめだよ、お姉ちゃん」 「・・・はい」  しゅん、とする姉さん。 「・・・」  今度は姉さんが麻衣を見ている。 「・・・何?」 「麻衣ちゃん、どうかしたの?」 「え?」  今度は麻衣の動きが止まった。 「どうかしたって、別に何もないよ?」 「ならいいんだけど・・・」  姉さんはその場でう〜んとうなっていた。  そして俺はというと、この会話を聞きながら・・・  さっきの姉さんの感覚を忘れようと一生懸命になっていた。  そして後になって思う、この時の会話の意味に気づけなかった事を・・・ 「麻衣ちゃん、後かたづけは私がやっておくから」 「お姉ちゃん、博物館は?」 「今日は遅めでいいの」 「そうだったの? それじゃぁ起こさない方が良かった?」 「そんなこと無いわ、ちゃんと朝ご飯一緒に食べたかったから」  俺の問いかけに優しく微笑みながらそう答える姉さん。  その笑顔を見ると鼓動が早くなる。  これは恋・・・というわけではなくさっきの柔らかい感覚を思い出して  しまうからだ。 「それじゃぁ後かたづけお願いね、お姉ちゃん。」 「はい、任されました」 「お兄ちゃん、行こう」 「ちょっと早いけど行くか」  もう少しくつろぐ時間はあるけど、たまには早く行くのも良いかもしれない。 「「行ってきます」」 「行ってらっしゃい、気をつけてね」 「あれ、達哉に麻衣じゃない。おはよう、今日は早いのね」 「おはよう、菜月ちゃん」 「おはよう、菜月こそ早いんじゃないか?」 「目が早く覚めちゃったから」  それから会話をしながら学院につく。 「それじゃぁお兄ちゃん、またね!」 「おう」  麻衣とは学年が違うから学院の敷地に入ったら別れてしまう。  俺と菜月は昇降口から中に入る。 「あのさ、達哉・・・気のせいかもしれないけど、麻衣に何かあった?」 「え?」 「なんていうか、うまく言えないんだけど・・・何か違うんだよね」 「菜月もそう思うのか?」 「私もって、達哉も?」 「あぁ、朝起きたとき上手く言えない違和感があった。それに姉さんも  そう思ったみたい」 「そうなんだ、麻衣だいじょうぶかな?」 「麻衣は大丈夫って言ってたけど、あとでもう一度聞いてみるよ」 「うん、お願い」 「あぁ、それと菜月」 「何?」 「ありがとうな」 「べ、別に達哉がお礼言うことじゃないじゃない」 「そうかもしれないけど、麻衣のこと心配してくれたんだからお礼言うのは  当然だよ、ありがとうな」 「私にとっても麻衣は妹だよ、わかってる?」 「そうだったな」  俺達は教室に入った。  授業を受けて、家に帰って、バイトして。  今日もそんな1日になる、そう思ってた。  しかし、俺達を襲う何かはもう目の前にまで迫っていた。  俺はその予兆を感じることは出来ず、気づいたときは前兆さえ超えて  動き始めていた。
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